幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
後2話ほどで完結となります。
地底から続く大穴を抜けた魔理沙たちは、S・フィンガーズに連れられて人里へと足を運ぶ。もう陽は完全に沈んでいる上、季節は冬。人里の大通りを歩く人間はほとんどいない。人家の明かりも、キラークイーンと出会った夏頃よりも少ないのであった。
しばらく歩いて、4人が到着したのは上白沢慧音の家。戸をノックした後、S・フィンガーズから一人ずつ入っていく。彼の案内で通されたのは、かつて人里の住民がコダマネズミに殺された事件で使われた客間。真ん中に布団が敷かれ、うさ耳を生やした少女が寝込んでいた。その両脇には、思いもよらぬ客の来日に驚く慧音ともう一人。布団に入っている者と同じく、うさ耳の少女。彼女は永夜の異変の際に敵対した、鈴仙・優曇華院・イナバ。人里に薬を売りに来ていたとのこと。
慧音は4人の集合を確認すると、彼らを座布団に座らせて話を始めた。
「えーー……スティッキィ・フィンガーズから話を聞いていると思うが、魔理沙。ハイエロファント。甲冑の人」
「チャリオッツだ」
「あぁ、次からそう呼ばせてもらうよ……それで、話を続ける。もう聞いてると思うが、永遠亭が何者かに襲撃された。それが今日で、今寝てるのが、襲撃からなんとか生き延びて私に報告してくれた兎だ」
「彼女が逃げて来た直後に聞いた話では襲撃者は『妙な術』を使うらしく、姿は完全に人外だそうだ。人型ではあるそうだが。そして、ちょうど薬を売っていたこの鈴仙に、襲撃者の心当たりが無いか尋ねたんだが……」
「何も……分からないんです……」
S・フィンガーズが鈴仙の方を向いた後、神妙な面持ちで彼女は答える。鈴仙は以前に起きた永夜異変の際、永遠亭の刺客としてハイエロファントたちの前に立ちはだかってきたことがある。その特異の能力を駆使し、彼らを竹林で狂わせてきたのだが、あえなく配下の兎共々ハイエロファントに敗北してしまった。
彼女は浮かない顔をして、目の前で眠る傷付いた同胞を見つめている。かつての敵と同じ空間にいるという気まずさもあるのか、鈴仙はそれ以上何も言うことはなかった。
「俺は……今からでも永遠亭に行くべきだと思っている。まだ息のある者もいるかもしれない」
「気持ちは分かるけどよーー、スティッキィ・フィンガーズ。今はもう夜だぜ。危険な妖怪も
「だったら尚更だ。魔理沙。そいつらが弱った永遠亭へなだれ込んだらどうなる? それに、襲撃者の目的が分からない以上、悠長としていられない。次は人里かもしれない」
「…………」
S・フィンガーズが人里のワードを出すと魔理沙は黙った。たしかに、S・フィンガーズの言う通りだからだ。自分の両親もいる人里を、永遠亭を一日足らずで陥落させるほどのスタンドが襲ったらどうなるか。魔理沙はS・フィンガーズの提案に賛成する方向に決める。
ハイエロファントとチャリオッツ、及び慧音も、S・フィンガーズの意見に反対することはなかった。チャリオッツは違うが、永遠亭が異変の後、人里へどのような影響を及ぼしているのかをハイエロファントと慧音は知っていた。今日の鈴仙がまさにそれで、薬を売っているのだ。直ちに永遠亭の者を救助しなければ、人里にも悪影響が出てくる。『善は急げ』と言うように、その場にいる者たちは意向を固めた。
「でも、準備も必要だろ?」
「安心しな。魔理沙。俺はまだ、さっきの戦いで出たアドレナリンが消えちゃいねぇぜ……いや、それは冗談としてだが、これだけ戦力がありゃ例え相手が恐竜だとしても負けやしねぇよ」
「…………よし。では、鈴仙。お前に案内を頼む。慧音は人里に残って、その兎の介抱だ。何か異常があったら、このことは伝えていないがキラークイーンを頼りにしてくれ。力になるはずだ」
「分かった」
「……分かりました」
「で、僕とチャリオッツ、魔理沙と君で永遠亭へ生存者の救助に行くんだな?」
「あぁ。早速出発だ」
S・フィンガーズに促され、地底から戻った3人は出されたお茶を一気に飲み干す。そして、次なる激闘を覚悟した強い目つきで、5人は慧音の家を発つのだった。
鈴仙に案内され、竹林の中を突き進む4人。永遠亭の住人である鈴仙は、迷う人間が後を絶たないという竹林をグングン突き進む。頭の中に何の迷いも無いようで、さすが毎日のように人里と竹林を行き来しているだけのことはある、と魔理沙たちは感心するのだった。
特に戦闘も無く、月光に照らされる林を低空飛行する一行。魔理沙はおかしなことが起こっていることに気付く。彼女は出発前、「夜は妖怪が多く徘徊している」と言っていた。普通の動物ならば冬眠を始める時期だが、妖怪たちの中にはそうでないものと存在している。それに、幽霊の類ならば出現に四季は関係ない。だというのに、今夜ばかりは何も見つからなかったのだ。
「! ちょっと待て」
「どうした? スティッキィ・フィンガーズ。妖怪を見つけたのか!」
その場で止まったS・フィンガーズに、魔理沙が箒に乗ったまま近付く。彼は一本の竹の根元を覗き込んでおり、腕も突っ込んで何かをイジっているようだ。
角度と暗さでよく見えない魔理沙は、S・フィンガーズの背後を回り込んで彼の手元にあるものを視界に収めようとする。月光が良い具合で差し込み、ようやく彼が触っているものが鮮明になってきた。そのものとは…………
「な、何だそれはァーーーーッ!?
「……竹に…………刺さってるな」
彼が触っていたのは、熊と牛、両方の特徴が見られる大型の妖怪の死骸だった。それは人間でいうところの左胸に拳一つ分の穴を空けられ、毛に覆われた腹を竹で貫いていた。
死んでから数時間経っているようで、S・フィンガーズが前足を動かそうと触れてみても動くことはなかった。ブラシのように粗い手並みも露に濡れている。
ここで不思議だったのは、
奇妙な死骸を発見してから数分後、5人はようやく永遠亭に到着した。あの後も不可解な形の死骸は数体分発見されたが、今はそんな謎はどうだっていい。鈴仙を先頭に、永遠亭の門を開けて中に侵入する。
明かりは一切点いておらず、何の音も聴こえない。外と変わらない、いや、月光が入らない分外よりも暗かった。思わず、ハイエロファントはさっきまで行っていた地底を思い出す。夏の夜、宴会で騒いだ屋敷は不気味な空間に変貌していた。
「私、仲間を探してきます! みなさんは敵の方をお願いします!」
「! おい、待て。鈴仙! 一人で動くなッ」
「僕がついて行く。3人も気を付けて」
門から入り、鈴仙は外から繋がる庭の方へと駆け出した。ハイエロファントも言葉を残し、焦りで体が動いてしまっている鈴仙を追って長い廊下の闇へと姿を消した。
玄関で取り残された3人は不本意ながらも2人を見送ると、もう片方の廊下へと進み出す。以前来た時と構造が変わらなければ、永遠亭の最初の二つの廊下は最終的に奥にある庭へと行き着く。そこでハイエロファントたちと合流できればと考え、逆へ進むと決めたのだ。そして、その廊下には輝夜と永琳の部屋がそれぞれ存在している。まずは薬を作る永琳と、主である輝夜の安否を確認しなければ。
「この前は何かしらの術を使われて、永遠に続くような廊下を歩かされたな。今回はそんなことないみたいだが」
「だが、広いには広い。まだどこかに敵が隠れている可能性も捨てるな。あの兎の少女は、襲撃者が去るまでここにいたわけじゃあない」
S・フィンガーズの言葉に、魔理沙たちは無言で頷く。先の異変のように、今回も魔理沙の魔法で明かりを作り出して廊下を進む3人。廊下右手にはいくつか戸があり、開けてみれば一つ一つが部屋になっている。特別な物は何も置かれておらず、おそらく兎たちの寝室か何かだろうと見て回った。
しばらく歩き、生き残りや敵の痕跡を探すが、一向に見つからないものだ。廊下に光を当ててみると、足の指の指紋がべっとり付いているのが分かる。おそらく、襲撃者の情報が舞い込んで来た際、そこらにいた全員が慌てて飛び出して行ったのだろう。とすると、彼らはどこへ消えたのか。
謎が解決されぬまま、新たな謎が生まれていく。頭の中にモヤモヤとした気持ち悪さが出てきた頃、廊下の先から異音が聴こえてきた。
ズル……ズル……ズルリ ズルリ
「……な、何だ…………?」
「何かを引きずっているのか? 何だと思う? スティッキィ・フィンガーズ」
「何だろうな……魔理沙。明かりを音の方へ」
言われるまま、魔理沙は魔法を音のする方へと飛ばす。明かりで照らされたのは、そこそこ大きそうな布の塊のようなもの。それが
「近付いてみよう」
「おい!? スティッキィ・フィンガーズ、やめた方がいいって! 戻って来いよ!」
「無駄だ。私たちも行くぞ。魔理沙」
「こーゆー時だけクールなのは何なんだよ…………チャリオッツ……」
チャリオッツとS・フィンガーズがズンズン歩いて行く中、魔理沙はチャリオッツの後ろに隠れながら歩を進める。
近付いてみてようやく分かったことがある。その物体は確かに這って来ていた。その証拠に、物体の後ろの床には滑った後として血がベットリ付いているのだ。物体そのものにも、血液が固まって付着している。
何より、その物体の正体というのは、なんと人間だった。しかも少女で、彼女は蓬莱山輝夜。
「……明かりが見えたと思えば…………やっと助けが来たのね…………もう……ようやく死ねそう……よ……」
「お! お前はかぐや姫か!? 何でそんなケガを……まさか、襲撃者にやられたのか!?」
「まぁね」
おそらく自分の部屋から這って来たのだろう輝夜の体は、ひどいケガを負っていた。右肩から左胸にかけて、何かに裂かれたような
魔理沙や霊夢とは戦っていない彼女であるが、2人が同時に相手をし、苦戦を強いられた永琳をも超えるであろう実力者、蓬莱山輝夜。彼女をここまで負傷させるとは、襲撃者は並みのスタンドではないらしい。しかも、一思いに殺さずにあえて生かしたかのような傷。死んでいない彼女の生命力もおかしいが、襲撃者の目的も未だ見えない。
「動くな……俺のジッパーで傷をつなぎ合わせる。痛みは消えないが、血は止まる。さぁ、よく見せてくれ」
「……これくらいなら、
S・フィンガーズは屈んで身を降ろすと、その場に倒れ込んでいる輝夜の傷にジッパーを取り付ける。そして、背中側からつまみを引っ張り、そのまま胸の方へ。重い裂傷を塞いで見せた。
「本当に便利な能力だな……」
「かぐや姫。ここで何があったんだ? 永遠亭の兎の一人が人里へ応援を呼びに来た。襲撃者の正体は何だ?」
「……姿は見てない……シルエットだけよ。でも、能力なら…………分かる」
『!』
輝夜は姿を目にしてはいないと言う。しかし、彼女は負傷する直前、その襲撃者と戦闘を行ったと言うのだ。それは些細な理由で発展する弾幕勝負などではなく、正真正銘の殺しに通じる戦い。
彼女は思い出す。それは日没後一時間ほどのこと。S・フィンガーズたちに発見されるよりおよそ二時間前。彼女は日に三度目の食事を控えていた。その時を自室で過ごしており、既に昇り始めている巨大な月を部屋の縁側から眺めていた。
彼は突然やって来た。
『…………』
『……どちら様? 特に呼び出しも無かったようだけど……永琳のお客さん? でしたら、この部屋ではなく奥の部屋に彼女はいますよ』
輝夜は優しく教える。来訪者は黙り込んでおり、彼女が喋っている間は部屋の障子の前から動かない。輝夜も、何となく来訪者が
言葉が終わると、来訪者は障子の前から歩き出し、輝夜の背後へと迫って来る。それでも輝夜はまだ動かず、来訪者の動きをうかがっていた。黄金に輝く月を見ながら。
『……月には表と裏がある。太陽の光が当たって輝く方と、光が当たらず影に覆われた方。『影がある』って言うと、何か悪いイメージがあるけれど、実際そんなことは無いわ。どちらに
『………………』
『あなたは……まるで『月食』ね。光の無い、影だけの」
『何が言いたい? 私が孤独だと憐れんでいるのか? それとも、何を企んでいるのか理解したつもりか?』
『どっちもよ』
ビシュゥゥッ!
直後、輝夜の体は一瞬にして消え、彼女の背後にいた者へと鋭い手刀を繰り出した。
彼女の能力として、体感することもできないほど細かい時間を集めることができる。そして、その『時』の中を自由に動ける。何者にも勘付かれることもなく、その気になれば暗殺だって楽にできる能力で繰り出す攻撃だ。輝夜は手を振り下ろすまで、「確実に倒した」と信じて疑わなかった。振り下ろした時には、そんな考えがただの幻想であったと気付くのだが。
ドバァアアアァ〜〜ーーーーッ!
『!?』
『知ってるぞ……お前の能力。細かい『時』を集めて、その中で行動する能力だ。それがお前からしたら一時間や一日であっても、俺からすれば所詮
『な……何が………………』
これが襲撃者から付けられた傷。彼女の右肩から、鎖骨を折って肋骨を断ち、そして心臓近くまでで彼の手刀は止まる。体の小さい輝夜からすれば、それは致命傷。しかし、真価は別にあるものの、その特殊な体質によって命は保たれている。
崩れ落ちる輝夜が再起不能と分かった来訪者は、彼女に背を向けて部屋を後にしようとする。障子に手をかけた。
『ま……待…………』
『待たない。教えてもらった礼をしておきたいが、残念なことにお前は不死身。冥土の土産を渡してやれない。欲しいのなら部下、もしくは……八意永琳に頼むんだな。クク……ハハハハ…………』
「ということよ……私は完敗ってわけね」
「……感知できないスピードで動く輝夜より速い……!? まさか、その襲撃者ってのは……」
『………………』
話を聞いていた3人は、襲撃者の特徴について考える内に完全に黙り込んでしまった。「襲撃者の正体はスタンドである」と聞かされていた3人は、それぞれ心当たりのあるスタンドを思い浮かべていた。
魔理沙はハイエロファントから以前聞かされていた、DIOという男のスタンド『
チャリオッツはそのスタンドともう一つ、別のスタンドを思い浮かべていた。
S・フィンガーズは『世界』は知りはしないが、チャリオッツが考えているものと一致するスタンドを思い浮かべていた。
魔理沙も2人も、その正体を想像して冷や汗をかいているが、魔理沙は「咲夜がいる」という理由で楽観視している部分があった。いざとなれば、彼女を連れれば良いだろうと。
しかし、チャリオッツたちは違った。特にチャリオッツは、その場で放心してしまうほど絶望しかけていた。この場には
と、S・フィンガーズは何を思ったのか、いきなり廊下を走り出す。チャリオッツも追従し、廊下の奥へと疾走し出した。
「おい!? 2人ともどこに行くんだ!? 待ってろ、輝夜。箒に乗っけてくぜ」
「えぇ。ありがと」
輝夜を箒の後ろに乗せ、かなりのスピードで廊下を飛ぶ魔理沙。しかし、この廊下は以前と違ってそう長くない。すぐにチャリオッツとS・フィンガーズの姿が見えた。しかも、彼らは既に立ち止まっており、一つの部屋の前で呆然と立ち尽くしているのだった。
「おい、どうしたんだよ。いきなり走り出しやがって! その部屋に何かあるのか!?」
「お前は来るなッ! 魔理沙!」
「!?」
近付く魔理沙に、チャリオッツが怒鳴る。一瞬訳が分からず、チャリオッツに文句を言おうとする魔理沙だが、後ろに乗せられた輝夜がそれを制止。
落ち着いてみれば、その辺りには金属のようなツンとした独特の臭いが広がっていた。その臭いはチャリオッツたちの方へいくほど強くなっており、魔理沙は臭いの発生源が2人が見つめる部屋の中にあると結論づけた。が、彼女は部屋を覗く気にはならなかった。部屋の入り口には、中庭から差し込む月光で赤い何かが大量に飛び散っていたからだ。輝夜の先の話を思い出し、魔理沙は戦慄した。
「そう。襲撃者の正体は、おそらくスタンド。そして、その能力とはまさに『時を操る能力』! 目的は『蓬莱の薬』。飲めばたちまち不死の身となる禁忌の薬よ。永琳を拷問して、製造方法を無理矢理聞き出すか、作らせようとしたそうね」
「…………やつしか……あり得ない……こんなことをするやつはッ! あの男だけだッ!!」
S・フィンガーズの絶叫が永遠亭中に木霊した。彼とチャリオッツが考えていたスタンド、それはS・フィンガーズの本体が入っていたギャング組織のボス。彼の『無敵』のスタンドだった。
前回の煽りで、さも登場するような雰囲気を出しましたが、結局出ませんでした。期待していた方には……ごめんなさい。
恥ずかしい間違いを見つけたので、大規模修正を入れました。
襲撃者の正体、それは時を操る能力者!?
やつの目的は蓬莱の薬だと予想するが、果たしてそれだけなのだろうか?
永遠亭の残りの住人たちの安否は?
お楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
-
東方をよく知っている
-
ジョジョをよく知っている
-
東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない