幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
「一体……これは……何が起こったというんだッ!? 誰がこんなことをッ!」
「そ、そんな…………」
時を同じくして、永遠亭の庭に到着したハイエロファントと鈴仙は、そこに広がる凄惨な光景に唖然としていた。鈴仙は絶句してその場にへたり込み、ハイエロファントは矛先をどこへ向けるべきか分からずに絶叫する。
庭には大量の十字架が立てられていた。そこに血を流し、竹を削って作ったであろう杭を手の平に打ち込まれた兎たちが吊るされていた。その状態からして、彼らは確実に息を引き取っている。十字架の下にも、変わり果てた同胞たちの山が積まれていた。
「うぅぅ……あぁああ…………」
「ひど……すぎる…………
「そんな…………っ! 生き残りはいないの……? 私とあの子、たった2人だけ残して……ッ!?」
鈴仙の目から大粒の涙が溢れ、こぼれ落ちた。人前で涙を見せることに抵抗をもつ彼女であるが、今は彼女の中に存在する我慢というダムは決壊している。ハイエロファントも彼女の気持ちは痛いほど分かり、それ故にかける言葉が見つからなかった。
そのまま何をするべきか分からず、2人は荒れに荒れた庭で立ち往生し続けることになってしまった。ほんの少しの望みに賭け、捜索範囲を広げて仲間を探すか、諦めて彼らの遺体を処理するか。
ハイエロファントはどちらかを選ばなくてはならないことを理解していたが、どうにも鈴仙に声をかけづらい。尻目で彼女を見つめていると、ふと、ハイエロファントの足元に何かが当たった。
「…………!? き、君は……!?」
「見つけたど……! 見つけたど、みんなァーーッ!!」
「! ハ、ハーヴェスト?」
ハイエロファントに近付いて来た者、それは小さく虫のような特徴をもつスタンド『ハーヴェスト』だった。
一人やって来た彼は見たところどこも負傷していない。今までどこかに隠れていたのだろうか、とハイエロファントが思った時、彼は大きな声で「みんな」と叫んだ。
ハーヴェストは群体型スタンド。この小さな一体で完全なスタンドではなく、他にも大量の仲間たちが存在している。「みんな」、と言うことは彼の仲間が他に生きているということ!
「……れ、鈴仙……?」
「あっ…………てゐ……!」
「あれは……後ろにいるのは兎たちだ。まだ、生き残っていたのか! ハーヴェストも一緒だ!」
「鈴仙ッ!」
「てゐィーーッ!」
ハーヴェストが叫んだ後、近くの草むらがガサガサと揺れる。そこから姿を現したのは、鈴仙と同じく永遠亭の住人にして兎である因幡てゐ。
彼女は視界に鈴仙を収めると、歓喜の涙を流して鈴仙の方へと走る。鈴仙も緊張が弾け飛んだ衝撃で、さらに多くの涙を流して走ってきたてゐを抱きとめた。2人が抱き合って感動の再会をしている中、てゐが出て来た草むらから彼女の後を追って次々と兎たちが姿を現した。もちろん、ハーヴェストたちもいる。
「ハーヴェスト……君たち、生きてたのか。まさか、襲撃者が去るまでずっとどこかに隠れてたのか?」
「そうだど」 「怖かったどぉ〜〜」
「とんでもないやつだったど〜〜。うぇーーん」
「そうか…………いや、待て。そういえば、永遠亭にはもう一人いたはずだぞ……エニグマは!?」
「あいつなら……」 「あいつ、ひどいど!」
「一人だけすぐ隠れたんだどーーッ!」
「………………」
ハーヴェストたちが口々に言う。ハイエロファントは「やっぱりな」という表情を浮かべて周りに視線を移した。兎やハーヴェストたちは既に姿を見せたというのに、未だエニグマだけその姿が見えない。
と、ハイエロファントの目の前に一枚の折り畳まれた紙切れが降りてきた。風に舞うように、ヒラヒラと彼の正面に落ち、そして
「あぁーーッ、ハイエロファント。会いたかったよッ! 本当に殺されると思ったんだァ。でも、見ての通りだ。無傷でやつをやり過ごしたぞッ!」
「…………」
「エニグマァ〜〜」 「どこに行ってたんだど!」
「おらたち怖い思いしたんだぞッ!」
「フン。だったらお前たちだって逃げればよかっただろう? そうすれば怖い思いも、攻撃されて数を減らすことはなかったんだ。あのザコ兎たちみたいにな!」
「エニグマァ!!!」
「ヒッ」
ハーヴェストとのやりとりから察するに、どうやらエニグマは兎とハーヴェストたちを置いて先に逃亡したようである。エニグマが彼らのことをどう思っているかは知らないが、それでも同居人という間柄で多少なりとも関わりがあるはずだ。それで見捨てて逃げた上、一切悪びれもしない態度に、ハイエロファントが激昂する。
「貴様、一人で逃げたのかッ!? 自分一人だけ紙になって隠れていたのか!? なぜ兎たちを手伝わなかった!」
「だ、だって……聞いてくれ! 僕だって、自分の能力には自信があるさ。天下無敵だと調子に乗るぐらい! だが、あいつには絶対に勝てない……! 空条承太郎でさえも勝てるか分からないのにッ」
「……他の兎たちを紙にして、敵に見つからないようにすることもできたはずだ」
「……そ、それは…………」
「もういい…………失われた命は……戻って来ない。今は再襲撃の防止が重要だ。エニグマ、敵の能力は見たか?」
「空条承太郎でさえも勝てるか分からない」。そう聞いたハイエロファントは、事件の重大さを改めて感じる。この際、エニグマがなぜ承太郎のことを知っているのかはハイエロファントは気にならなかったが、仮に関係を教えたとして、ハイエロファントがエニグマのことを良い目で見ることにならないのは、火を見るよりも明らかであった。
エニグマはというと、ハイエロファントに尋ねられた問いに対し、異常なほどの汗を噴き出していた。思い出せば思い出すほど、理解から遠のいていく気がする現象。兎たちの攻撃は
ハイエロファントは再び問う。
「エニグマ。敵の能力は見たのか? どうなんだ」
「…………分から……ない……」
「何?」
「何が起こっていたのか、全然分からない…………
「近くにいる者を狂わせる……とか……?」
「そんなんじゃあない! 本当に分からないんだッ! 説明されたいのは僕の方だッ!」
エニグマもかなり気が滅入っているらしい。声を荒げてハイエロファントの肩を掴む。その後、「すまない……」と落ち着きを取り戻していたが、襲撃者はそれほどの相手だということだ。ハイエロファントは初対面の時からエニグマのことを
しかし、この庭にいると確信していなかったものの、ハイエロファントには気になることが他にもあった。それは永琳たちのことだ。かつて満月をバックに、霊夢や魔理沙、レミリアたちと激戦を繰り広げた猛者である永琳。まさか彼女も襲撃者の手で……?
ハイエロファントが踵を返し、永遠亭内へ戻ろうとしたその時。
「! 魔理沙。チャリオッツにスティッキィ・フィンガーズも。どうだった? 中の様子は」
『………………』
「……まさか…………」
振り向いた先に見えたのは、永遠亭内での探索を終えた魔理沙たち3人の姿。ハイエロファントが声をかけても反応はなく、3人とも何とも言えない顔で
そんな彼らの様子を見て、ハイエロファントは全てを感じ取った。「永琳と輝夜も敗北していたのだ」と。
「2人とも、中の部屋で休ませている。特に八意永琳がひどい状態だ」
「……どうなっていたんだ?」
「聞くな。ハイエロファント。
「………………」
チャリオッツに言われ、ハイエロファントは追求をやめた。基本、気になることがあったら調べたくなる性分であるが、この中で一番
彼が黙ったタイミングで、次は魔理沙がハイエロファントへ声をかける。
「ハイエロファント。私は……これから行く所がある。チャリオッツたちも来るつもりだ。お前は……来るか?」
「……どういう意味だ? 魔理沙」
「永琳が言ってたんだ。ここを襲ったスタンドの、次の目的地を」
「何……!?」
「「神の力を奪いに行く」と、確かにそう言ったらしい。永琳が敵から最後に聞いた言葉だそうだ」
「つまり、やつが今向かっているのは……『守矢神社』だ。私たちは今からでも行くつもりだが、このままだと絶対に例の襲撃者と鉢合わせることになる。激しい戦いになるかも…………ハイエロファント、お前はどうする?」
敵スタンドが次に向かう先は守矢神社。ハイエロファントは直接関わったことのない場所だ。どんな人がいて、何をしているのかすらも知らない。もっている情報だなんて、地底の異変に関係があるということだけだ。
しかし、ハイエロファントは応答に迷わなかった。魔理沙が行くというのなら、友人である彼女を守るために同行する。それ以上の理由など、必要無いのだ。
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場所は守矢神社に変わる。現在の時刻、現代日本と同じように表すとするならば午後10時30分を回っている頃。境内には乾燥した冷たい風が吹きつけ、辺りの落ち葉を空へと巻き上げている。
では、神社の中ではというと、地底の霊烏路空に力を与えた張本人である八坂神奈子と、彼女に仕える東風谷早苗がこたつの中に入って暖をとっていた。こたつの上には湯気が立ち昇るうどんが一杯置かれており、食べ頃になるまで神奈子が冷ましている。熱すぎず、汁を多少吸って伸びた麺が好みの神奈子独特の食べ方である。
「もぅ、神奈子さま。早く食べないと美味しくなくなっちゃいますよ。おうどんは熱々が一番美味しいのに」
「分かってないねぇ。そんなんじゃあ舌を火傷するだろう? ちょっと冷まして、しかも麺の量が増えるんだ。時間経ってた方がいいこと尽くしなんだよ」
それっぽく言う神奈子だが、その理論がまともではないことに気付いているのは早苗だけである。変なところで頑固なため、何を言っても聞かなさそうだと判断した早苗は「そーですか」と流し、こたつに下半身を突っ込んだまま丸くなる。
カビの異変の後、グリーン・ディに受けた傷の影響で表舞台にはあまり立っていない早苗。彼女は神奈子ともう一人の神である諏訪子に、「博麗霊夢と同じように異変解決に参加しろ」と言われていた。博麗神社と和解した守矢は、ならばと異変解決の能力で信者を獲得しようと目論んでいたのだ。しかし、悪いことではないため、これが霊夢たちに知れても特に何も無いであろう。諏訪子は冬の寒さに負け、どこかに行っているためこの場にはいない。2人は呑気にこたつの温かみを肌で感じているのだった。
「……異変解決に、妖怪退治ですか……」
「何だい? 不安なことでも?」
「その……この前私はスタンドの攻撃を受けてしまって……それから何もできなかったから……しっかりやれるかどうかが……」
「らしくもない。命が助かったから良かったじゃないか。私はあくまで信者のために
「神奈子さ……」
スタァーーーーン!
『!!』
神奈子が入れたフォローに早苗はちょっぴり感動する。「やっぱりついて来て良かった」と思ったその瞬間、部屋の障子が勢いよく開かれた。
あまりにも突然の出来事だったため、早苗も神奈子も心臓が飛び上がるほどの衝撃を受けて驚いてしまった。障子を開いた者、それは2人にとって予想外の客人である。
「あ、あんたは……たしか霧雨魔理沙……!?」
「…………よし、まだ大丈夫みたいだな。みんな入れ!」
「何ですか!? こんな時間に一体…………」
困惑する神奈子たちだが、魔理沙はそんなことに一切構うことなく後ろに続く者たち共々ドカドカと部屋に上がり込む。障子の外側は縁側になっており、すぐ外に出られるため、魔理沙が開けた障子の間から粉雪も冷たい風に乗って入ってきた。
最後に入室した者によって障子は閉められ、部屋の中に雪が積もることはなかったものの、部屋はすし詰め状態で快適とは言い難い状態となっている。神奈子と早苗、魔理沙の3人と4人のスタンドたちが同時に畳の上にいるのであった。
「ちょ……何だこの数はッ! 大体、お前たちは何しに来たんだ!? 今何時だと思ってる」
「お、神奈子サマ。それは夜食か?」
「……話を替えるなよ……」
「太るぜ」
「余計なお世話だ!」
魔理沙は神奈子の話を完全に受け流し、軽口を返す。神奈子も全く状況が分からない上でそんな態度を取られれば、少しばかりイラッとするものだ。彼女はとりあえず置いておき、他の者に目を配る。
2人は知らないスタンドだ。鋼の甲冑を見に
では、残りの2人は何であるか。彼女の知っているスタンドだ。神奈子は魔理沙がダメなら、と次はS・フィンガーズに同じ質問を振った。
「あんたは……スティッキィ・フィンガーズだったか。あんたも含めて、こいつら一体どうしたんだい? どこか切羽詰まってるようにも見えるが」
「…………そう遠くない内にここへとあるスタンドが来る。俺たちはそいつと戦いに……いや、始末するためにここへ来た。やつは並みの実力者じゃあないから、あんたたちの護衛も同時に行おうとな」
「……始末? 何かあったようだね。話を聞こう……と思ったが、その前にだ。何で彼はふてくされているんだ?」
「………………」
神奈子が差したのは、腕を組み、胡座をかいて不機嫌そうにしているキラークイーン。戦闘を好まない彼であるが、その実力はS・フィンガーズも認める確かなもの。魔理沙たちは永遠亭から守矢神社へ向かう前、一度人里に寄って彼を無理矢理連れて来たのだ。
S・フィンガーズとしてはキラークイーンの意思を尊重したい気持ちもあったが、戦える者は多い方が良いという考えも同時に存在していた。そのため、結局魔理沙たちによるキラークイーン拉致を止めることはなかったのだ。色々あって、キラークイーンの気分は最悪である。そろそろ、キラークイーンの標的として魔理沙がロックオンされるのも近いだろう。
(クソったれめ……どうして他人のために自らの命を削らなくてはならないんだ!? そんなことはお前たちのようなガキだけでやれッ……! お前だぞ、霧雨魔理沙)
「まぁ、いい。スティッキィ・フィンガーズ。やって来るのはスタンドだと聞いたが、一体何があって私たちを狙っているんだ?」
「永遠亭が襲撃されたんだ。住人の半分が殺され、薬師の八意永琳と蓬莱山輝夜もひどいケガを負った。永琳から聞いた話で、次は「神の力を奪いに行く」と言っていたらしい」
「ほう、それで次は守矢を襲うと……それはまた……」
「そういえばよ、スティッキィ・フィンガーズ。お前は襲撃者のスタンドに何か心当たりがあるみたいだよな。チャリオッツも。そいつの弱点、もしかして知ってるんじゃないのか!」
魔理沙が少し明るい声で2人に問いかける。「希望を見出した」とでも思っているのだろう。キラークイーンは彼女の声を聞いてさらに機嫌を悪くしていたが。
しかし、チャリオッツとS・フィンガーズの反応は思っていたものとは違っていた。希望を見つけたような魔理沙とは違い、どちらかというとキラークイーンのように、強張った顔になっていた。チャリオッツなど冷や汗も流している。間を置いて、重々しい気迫を伴ったS・フィンガーズが口を開いた。
「能力は……確かに知っている。だが……」
「やつの能力を突破するにあたって、俺たちはとある物を巡って争ったことがある。魔理沙にはもう言ったかもしれないが、それは刺された者を『スタンド使い』へと目醒めさせる『矢』だ。素質のあるスタンド使いが己の身を再びそれで貫けば、魂をも操り、乗り越え、さらなる力を呼び起こす…………『矢』を利用してあの『ディアボロ』を倒そうとしていた…………それが外の世界での話だ」
「だが、チャリオッツ。今はその『矢』がこの場に無いぞ。どうやって倒すんだ!?」
「あぁ。あの『矢』は希望だった……希望が無い今は……やつの能力を乗り越える術は無い。もう一度言うぜ。やつの能力は、まさしく『無敵』なんだ……!!」
「……チャリオッツとやら、敵のスタンドの能力とは?」
「…………この世の時間を消し飛ばす」
その言葉に、一同の中で驚愕する者と頭に疑問符を浮かべる者とが分かれた。前者は神奈子とハイエロファント、キラークイーン。後者は魔理沙と早苗である。
緊迫した空気であるが、魔理沙は首を
「えっと……時間を消し飛ばす、といってもイマイチ分からないんですが……具体的にどうなるんですか?」
「こればかりは体感した方が早いとしか言えないな……
「それと、やつは近い未来の動きも予知できる。チャリオッツが言ったように、やつの能力は『無敵』だが、俺は弱点があると信じている。これだけの戦力があれば、やつを倒すことも不可能ではないはずだ……」
S・フィンガーズは静かに言い放つ。静かだが、決して弱々しい声で発したわけではない。そこには確かな覚悟が存在し、揺らめく炎のように燃える熱い怒りがあった。
7人はしばらくその部屋で待機することになり、神奈子は冷めたうどんを食べ切って早苗にお茶を淹れるよう要求。それを了承した彼女は台所へ向かおうとするが、S・フィンガーズが「一人での行動は危険だ」と言い、同行して出て行った。
「それにしても……時を消す能力か。中々物騒な感じがするが、先日のグリーン・ディといい、ただの人間がそんな能力を身につけることができるとはな……」
「他にも協力なスタンドはいるぜ。太陽みたいだったり、子どもにしてきたり、時を止めたりな」
「地底にも影や闇に紛れて移動するスタンドがいたな。いやーー、あれは私がいて良かったな。ハイエロファント」
「……あぁ。しかし、地底で思い出したぞ。いきなりですが、神奈子さん。どうして地底の妖怪に『神の力』を与えたんです? 地底の妖怪があなたの手紙を持っていましたが……そして、この異変の元凶に力を貸したのもあなただと」
「…………やっぱり、さっき上がった火柱はあんたらの仕業か。別に、何も企んじゃあいないよ」
以前のカビ異変のこともあり、神奈子は魔理沙に何かしらの疑念を抱かれていると思ったのか、やましいことは無いと白状した。しかし、彼女にとって何も無くとも、河童のにとりはその内容を知りたがっている。彼女の不安を解消させるまでが受諾した依頼だ。魔理沙に続いて、ハイエロファントは食い下がって質問する。
「それじゃあ、どうして
「簡単な話さ。あの空って子が間欠泉だとかのエネルギーを管理してるって知ってから、彼女にちょいとばかしエネルギー生産を手伝ってもらおうと思ったんだよ。何に使うかって訊くだろうから先に答えるけど、それは河童の発明品だとかにね。彼らは腕が良いよ」
「なんだよ。結局、にとりの思い過ごしだったのか」
「いや、そうでもないぜ。魔理沙。あのお空ってやつ、手に入れた力を使って地上を地獄に変えるつもりだったらしいからな」
「……次はもう少し相手を選んだ方が良いかな……」
「次とか言うなよ。人騒がせな神様だぜ」
真剣な質問から発展した話題だが、参加している者たちが自分たちの手でそれをただの雑談へと変えてしまった。ハイエロファントは「やれやれ」と呆れ気味だが、これから戦いが行われる中、緊張し続けるのも今までの調子を崩す原因になるだろうと考え、彼らの談笑を眺めることを選択する。
一方、部屋の隅にいるキラークイーンは相変わらずだった。「くだらない」と感じ、一種の軽蔑さえ抱いている。これから戦闘が行われるというのに、ストレスが溜まることだというのに、目の前のこいつらはそんなことお構い無しにバカ騒ぎ。本体である吉良吉影の記憶を辿っても、ここまで理解に苦しむことはなかったと思う彼であった。
それから数分後、障子に早苗とS・フィンガーズの2人分の影が見えた。人数分のお茶を淹れて持って来たようだ。前に立つ早苗が障子に手を掛け、慣れた手つきでスムーズに障子を開いて入室した。と、思いきや……
「うわっ、たったっ……!?」
ガッチャァア〜〜ン
「おい、大丈夫か? 早苗」
「だ、大丈夫ですっ、神奈子さま。今何かにつまずいてしまって……」
流れるように部屋に入った早苗は、お茶を乗せたお盆を持ったまま近くに置いてあったチャリオッツのレイピアを踏んづけてしまったのだ。運良く柄の部分を踏んでいて良かった。幸い、早苗にケガは無さそうである。
しかし、湯呑みは盛大にひっくり返ってしまい、畳の上に温かいお茶がぶち撒けられる。緑に緑で、色がおかしくなったわけではないが、畳が痛むといけない。早苗はすぐに近くにあったタオルを掴んだ。
「チャリオッツ。危ないから、剣は壁に立て掛けておくんだ」
「あぁ。悪かったよ。すぐ手に取れるように、下に置いてたんだ……ほら、俺に貸してみな。俺が拭くよ」
「あ、すみません……どうぞ」
「変な所に置いてた俺が悪いのさ。任せてくれて構わな……い……ぜ…………?」
突如、チャリオッツの言葉が詰まる。早苗からタオルを受け取った瞬間のことだった。その様子を見ていた一同は、チャリオッツに一体何があったのかを理解することができなかった。
しかし、一名だけ、部屋の異変に気付いた者がいる。キラークイーンだ。彼の視線はお茶が溢れた畳の上にあった。まだお茶が畳に着地して、数十秒も経過していない。だというのに、既に液体の艶めきが畳から失われており、少し染み込んだ程度で他は綺麗に拭き取られたかのように、サッパリ無くなっているのだ。
もちろん、その光景は全員が目にしており、そして誰も、お茶を拭き取ってはいなかった。
「……早苗……お前、まだお茶をタオルで触っていなかったよな………………?」
「え……は、はい。それがどうしましたか?」
「……どうして、
『!?』
「……お茶が…………消えたぞ」
溢れたお茶はとっくに消えた。手渡されたタオルは濡れて、ほんのりと熱をもっていた。畳に転がった湯呑みたちは、一切誰も触っていないのにお盆の上に戻っていた。誰も何も見ていない。しかし、壁に掛けてある時計はしっかり針を動かして、時は進んでいた。
「こ、こ……の…………現象は…………ッ!! この……能力はァーーーーーーッ!!!」
「お前らッ! 全員、外へ出ろォッ! やつが来……」
ドォオ〜〜ーーーーン!
チャリオッツ、そしてS・フィンガーズが叫んだ直後、彼らの周りの景色が崩壊を始める。畳はひび割れ、障子は粉々になり、神社全体がバラバラに崩れ去っていく。
神社だけではない。山そのものが、山から見える幻想郷が。まるで、世界の終わり。どんどん崩落していく。だがこれは、実際に崩壊しているわけではない。それにごく一部だけ、地面が残っている箇所がある。それは守矢神社の縁側。残った足場には一つの影があり、
崩壊した神社からは、ハイエロファント、箒に乗った魔理沙、神奈子、チャリオッツ、早苗を抱き抱えたS・フィンガーズがゆっくり、コマ撮りアニメーションのように飛び出し、境内である広い空間へと降り立つ。そして静止した。
起こった現象、これがまさしく『時間の消去』。彼だけが意識できる世界であり、彼以外の何者も認識することができない唯一の世界。生まれながらにして、彼はその世界の『帝王』であった。何者も選ばれた『運命』から逃れることはできない。が、彼はそれを己の『能力』を以ってして変えられる。
輝夜に重傷を負わせ、永琳を拷問し、ハーヴェストや兎たちを徹底的に処刑した、彼の名は……
「キング・クリムゾン」
長かったですよね。私も、分けるべきかどうか悩みました。
ついに神社に現れたスタンド、キング・クリムゾン。
チャリオッツが言っていた『希望』はこの世界には存在しないが、果たして彼らはこの絶対無敵の『帝王』を倒せるのか……!?
次回、第三部最終話!
お楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない