幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
アニメを楽しみにしている方はご注意ください!
51.燃えよF・F
讃美しろ……!!
生まれたものが『天国』なのだ!!
返事もできない事態というわけだな?
手錠は何のためにある?
あたしは生きていた
最後にさよならが言えて良かった……徐倫
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K・クリムゾンが守矢神社を襲撃してからおよそ三週間。幻想郷は完全に冬を迎え、緑の多かった森や山はどこもかしこも真っ白い雪景色へと変わっていた。変わったのは景色だけでなく、人々の生活もまた、変わる季節に合わせたものになっている。雪がしんしんと降る中、神社や妖怪の山、人里では新年を迎える準備を行われていた。
「なぁ、スティッキィ・フィンガーズさん。ちょっと、そこの荷物をこっちへ動かしてくれないか。この歳になると力が出なくてよぉ〜〜」
「あぁ。任せてくれ」
「そっちが終わったら、こっちも手伝ってくれ!」
人里に住むスタンド、S・フィンガーズも年の末に向けた大掃除などを手伝っていた。彼の本体であるブローノ・ブチャラティは日本の年末年始の催しに関わることは初めてであるが、慧音や他の里の民に教えられ、今回そのスタンドが人里の一部として参加することができる。そんな新たな現象に、人里の人間たちは誇らしいような、喜ばしいような、そんな気持ちが前に出ていた。
しかし、彼自身はあまり乗り気ではないのであった。原因は先日の戦いにある。
先日のK・クリムゾンとの戦い、結果は惨敗。最後は八坂神奈子が幻想郷のどこかへ吹っ飛ばしたのだが、命を絶つことはできていない。後から山の天狗たちにK・クリムゾンの行方を追わせているらしいのだが、彼の
そして、警戒すべきなのはK・クリムゾンだけではない。
「いやぁ〜〜。スティッキィ・フィンガーズさんといい、キラークイーンさんといい、頼りになる方が多くて助かるよ」
「そうだよなァ。キラークイーンさんも、無愛想だけど人手が足りない作業とかに手を貸してくれるからな。最初に見た時の怖さっつーか、何つーか、サッパリ消えちまったよ」
「………………」
(キラークイーン……か…………)
『警告があるのさ。スティッキィ・フィンガーズ。キング・クリムゾンはもちろんのことだけれど、キラークイーンにも気を付けてほしい。特に、彼の『能力』について』
「……能力か…………八坂神奈子はなぜあんなことを言ったんだ……?」
K・クリムゾン襲撃から二日ほど、負傷したスタンドたちは守矢神社で傷の療養をしていた。全員大事には至らず、現在では元の生活に戻っている。その時、一番早く回復したS・フィンガーズは神奈子にあのような警告をされたのだ。S・フィンガーズには分からなかったが、神奈子の中ではキラークイーンには隠された『能力』があると確信しているらしく、その調査を彼に依頼した。
もしもキラークイーンが人里に、幻想郷に仇をなすというのなら、その時は…………
S・フィンガーズは覚悟を決めていた。彼は自分の身を置くことを許してくれた人里にのために戦っている。人里そのものや、里の住民たちを陥れようという考えがあるのなら、いくら共に戦った仲だとしても容赦することはできない。
しかし、本当にそんなつもりがキラークイーンにあるのか、という疑問は当然のことながら存在している。静かで平穏な暮らしを望む彼が、わざわざ自分の命を危険に晒すような真似をするとは到底思えなかった。敵が大量にできるのだから。そして、この話を慧音の耳に入れておくべきかどうか、S・フィンガーズは悩んでいた。
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「よし、こんなものか。スティッキィ・フィンガーズが来るのは6時頃だったな。今の内に何か用意しておこう」
人里の中心部近くにある家にて、他の里民たちと同じように慧音は年末年始に向けた諸々の準備を進めていた。朝から懸命に努めていたこともあり、作業は現在午後4時にてひと段落つく。時計を見ながら呟く慧音だが、今夜は互いを労うため、S・フィンガーズを家に招待している。彼が家に来る時間を確認しつつ、彼に振る舞う夕飯の準備に取り掛かろうとしていた。
「……そういえば、彼は何の食べ物が好きなんだ? ハイエロファントによると、スタンドは食事が無くとも生きてはいけると聞いたが…………まさか、この前振る舞った料理以外、口にしてないなんてことは……ないよな……」
そんな風に慧音はS・フィンガーズの食事事情を心配する。彼ならば実際に食事をしていないことが事実であっても、不思議なことに簡単に呑み込める。
慧音は今まで作業のために着ていた服を着替えると、居間に置いていた火鉢の火を消し、台所へと向かった。
しかし、やはり火が無いと家の中でも寒いものだ。厚着をしているが、手先には何も着けておらず、かじかんで赤くなっている。まずは温水で手を動かしやすくしてから、いよいよ料理を始めるのだった。
「できれば、彼や彼の本体があまり食べたことのない物を出してやりたいな。名前(ぶちゃらてぃ?)を聞く限り、おそらく紅魔館の住人たちと似た故郷をもっていると思うから…………納豆とか? レミリア嬢は好んでいるらしいし、出してみる価値はあるかも」
人里へたまに足を運ぶ咲夜から、レミリアが納豆を好んでいるという情報を得たことがある慧音。彼女自身も嫌いではないため、S・フィンガーズに出しても彼なら、
余談だが、本体のブチャラティはマメ類が苦手だ。彼のスタンドであるため、おそらくS・フィンガーズも……
「納豆もいいが、それよりも主菜だな。何がいい? 今は肉が無い。魚も……いや、近いから買い出せば良いか。だが、何を買おうな。冬だと……ウグイとか、マスも種類によってはあるだろうし。いや、ここは敢えて『鯉』だ。以前に教えてもらった料理を作ろう。名前が分からないが」
慧音は名前は知らないが、以前食べさせてもらった鯉料理を思い浮かべながら買い物鞄やら財布やらを準備する。その時に食べた料理がとても美味しく、鯉は魚なのにまるで動物肉のような噛み応えもあり、レシピも教えてもらうほど最近食べた物の中で最も気に入っていた。
鯉ならば、別に海鮮というわけではないが漁師の家に生まれたブチャラティの舌に合うかもしれない。それを慧音が知る由も無いのであるが。
買い物に出掛けるということで、せっかく棚から取った納豆の壺を元に戻して上着を手に取ると、台所から玄関までの廊下を上着を羽織りながら歩く。そんな時、ふと居間に目を向けてみた。
「……? 火鉢の火が……まだ点いている……? おかしいな。消したと思ったのに」
居間に上がってよく見てみるが、確かに消したはずの火が火鉢の上で揺れている。台所に行く前、火を点けるための炭さえどかしたはずなのに。
慧音はおかしな現象に不審がっていると、火鉢の近くで別の物に目を奪われる。それは……
「か、
5歳ぐらいの子どもであれば中に入れる大きさをした甕。蓋もされており、慧音がそれを押してみると、確かな質量がある。中には水が入っているのだ。しかし、彼女の腕力ではこれを動かすのは中々難しく、知らない内に動かしたとしても肉体の疲労からすぐに分かる。慧音は色々と不審がるが、S・フィンガーズが来るまでに時間が無い。慧音は再び火鉢の火を消し、炭も専用の入れ物にしまい込んで魚屋へと出掛けて行った。
ウジュ……ウジュ……ル……
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「ただいまーー。いや、それにしてもまさか、3本ももらえるなんて……安くしていただいてありがたいが、2人だけで食べ切れるだろうか……」
およそ15分後、慧音は籠いっぱいに鯉を突っ込んだまま帰宅する。外の雪は既に止んでいたが、日が沈みかけているということで寒さはまだまだ引くことはない。履いていった藁の長靴も泥水を吸ってグショグショだ。
まっすぐ台所へと向かい、中身の入った籠を流し台に置くと、再び玄関へ戻って長靴を回収。居間に置いてある火鉢で乾かそうと考えていた。こんなことになるのなら、始めから火鉢の火は点けた状態でも良かったな、と彼女は少し後悔しつつ、居間への障子を開ける。
「……ッ!? な、なぜ……だッ!?」
出発前に確実に消したはずの火鉢の火が、点いていた。
そして、目のいくことはそれだけではない。
「い、
異変は別の物にも起こっており、慧音の言う通り甕の位置も変わっていた。火鉢にもっと近付いており、まるで甕そのものが火鉢で温まっているようである。明らかに異常だ。出発前は片付けた気でいただけかもしれなかったが、今回は違う。慧音はこれまで数々のスタンドたちと関わってきたわけだが、それに伴って彼女の勘も中々鋭くなりつつあった。勘はやがて確信変わる。慧音だけが住んでいるはずのこの家に、慧音以外の者がいる。
天井の裏か? 押し入れの中か? それとも……
甕か…………?
「…………!」
(おかしいのは甕もだ……消した火を点けたことよりも、甕が火に近付いている方が不自然。まさか……この中に? 妖怪か? それともまさか、新手のスタンド?)
魚屋へ出掛ける前、甕を押して動かそうとした。そこで感じた質量。まさか、その中に何かがいるのでは?
人を襲うスタンドであったらどうしようか。それとも、幻想郷のシステムを理解していない妖怪であったらどうするか。S・フィンガーズは到着していないが、ここで戦えるのは自分だけ。様子を見るだけ見て、隙を突かれて逃げられるより、この場で即座に対応した方がいい。後から出るであろう被害は最小限に食い止められるかもしれない。
そんな考えに至ってから、慧音はすぐさま行動に移す。敵なのだとしたら自分だけで勝てるのか、という不安はもちろんあるが、それでも自分がやらねばならない。甕にしてある蓋に手が乗せられた。すると、次の瞬間……
ゾ ゾ ゾ ゾ ゾ ゾ
「!? こ、これはッ!? 黒い……水!?」
『お前……か。さっきから火を消してるのは…………こっちは凍えかけてるんだ…………火を消すんじゃあない』
「!? ぐぶッ……がぼぼぉ…………!?」
(ス、スタンド……!? いや、何か違う気がする……それよりもっ……息が…………)
蓋は慧音が持ち上げるのを待たず、自ら一人でに持ち上がった。甕の中から溢れ出てきたのは、流動する謎の黒い液体。水のようであるが、それにしても少し弾力を感じられる。また、甕の中から出て来たのは液体だけではなく、何者かの声も慧音へと投げかけられた。
しかし、謎の侵入者は慧音が返答する時間も与えず、未だ溢れ出てくる謎の液体で慧音の体を拘束。
「……ここ、お前の家か? 悪いが、わたしも死にそうなんだ。火はもらうぞ」
「…………!?」
「……何だ。お前もオレのことを『化け物』だと?」
ゆっくり、ゆっくりと甕から黒い塊が這い出てくる。慧音は体の半分ほどを液体で覆われてしまったが、目だけは外との関わりを遮断しないままにしてくれた。殺意は無いようであるが、慧音が
彼女の姿は溢れ出てきた液体と同じように、真っ黒でつやめきがあった。人間のように直立二足歩行をするようだが、その形状はどちらかというと人間ではなく、ロボット。極めつけに、頭の形は世間でのエイリアンのイメージが具現化したような、縦に長く細い不気味なフォルムであった。
「……ッ!」
「待て。そんなに暴れるな。わたしはお前を殺す気は無い。そこの火さえもらえればいいんだ。いや、もしかして……
「……?」
(す……姿……?)
目の前の生物から逃れようと必死に抵抗する慧音。半人半妖である彼女は普通の人間よりかはパワーがある。しかし、それでもこの黒い液体から離れることはできないでいた。
ジタバタする慧音を見ていた生物は、彼女が自分の姿に驚いているのだと解釈すると、慧音の拘束を少し緩める。それと同時に、細長い明らかに人外の頭部がグニョグニョと歪み始め、別の形を作り始めた。
変形が終わった後、慧音の前に現れた顔は先程とは打って変わり、人間に近いものとなった。体色こそ変わらないが、元の顔よりもこちらの方が親しみやすいのは確かである。
「これでどう? 手先とかはそんなに変わってないけど、これならちょっとは怖くない?」
「……お……お前は……一体…………?」
「あ、もしかして苦しかったのか! それは悪かったな。今外すよ」
慧音が投げかけた質問はとりあえずスルーしておき、途切れ途切れの言葉を出す彼女を見た生物は、口に突っ込んだ液体を外に出し、暴れるのをやめた慧音を解放した。
拘束は止めたが、雑に放って解いたために慧音の口から咳が何度も飛び出す。彼女を捕らえるために居間中に広げた液体たちは、ズルズルと音を立てて生物の元へと集まっていく。それら全ては
「な! 何なんだ、お前は! いつからここにいるッ!? 火を何に使うつもりだッ!」
「あぁ? お前、さっき外に行って来ただろォーー。こんな寒い時にあったかいものが一つも無かったら、冗談抜きで死んじまうからな。お前が火を消す度にもっかい点けてたんだよ。それと、昨日からいた」
「き、昨日から? 全然気付かなかった……」
「忍び込んだから、そりゃそーだろーな」
真っ黒い彼女は、慧音の許可を得ることなく勝手に座布団を引っ張り出してくると、火鉢の側にドサッと投げ捨てて座る。両手を火に近付けて暖を取っているところを見ると、今までかなり寒い思いをしていたことが分かった。
言ってくれれば素直に火を貸したのに、と思う慧音だが、まだまだ疑問は尽きない。そしてそれは慧音だけでなく、彼女も同じであった。
「……本当に何者なんだ……? スタンドか?」
「…………スタンド……あんた、もしやスタンド使い? いや、そんなことはないか……もしスタンドを使えるんだったら、あたしが拘束した時にとっくに使ってるだろーし」
「おい、質問してるのはこっちだぞ!」
「分かってるよ、落ち着きなって。あたしだって色々混乱してるんだ…………それで、あたしがスタンドかどうか、だっけ? あぁ。そうさ。半分正解」
「半分……だって?」
「あたしがこーやって体を動かせてるのは、スタンド能力のおかげってこと。それで、この体の正体はプランクトン。水の中に生きている微生物ね。これ全部」
「つまり、その黒い体はプランクトンとかいう生物の群れで、今喋っているお前がスタンド……ということか?」
「……喋れてることに関してはそう思ってくれていい。だが、あたしの意思は違う。いいか? この宇宙には最初から『知性』が存在してる。宇宙が誕生したビッグバンよりも前から『知性』は存在しており、そのパワーに導かれて生物は生命を得る。人間からしたら
「はぁ…………」
慧音には全くプランクトンをバカにするつもりは無かったのだが、目の前の彼女にとっては触れずにはいられない言い方だったようだ。よく分からないが、怒られたような気がする慧音は一応反省する。
それにしても、スタンドというのも全く飽きないものだ。高速で動くクワガタ虫もいれば、ジッパーを使うスタンド、プランクトンを操るスタンド、最早何でもありである。レミリアではないが、慧音もほんの少しだけ、自分にスタンドが発現したらどのような能力を得るのか気になりつつあるのだった。
内心、そんなことを考えたりしていると、プランクトンの彼女がこちらをじっと見ているのに気付いた。その視線は慧音の顔、ではなく、彼女の胴体。特に胸の部分にあった。
「あんた、オッパイでけぇな」
「!?」
「エルメェスのより大きいぞ。あ! お前、そん中に金隠し持ってるだろォーーッ。日本人はアメリカ人よりオッパイ小さいこと知ってるからな! 見せてみろ!」
「うわ! や、やめろ! 触るなぁ!!」
いきなり飛びかかる彼女に、慧音は再びパワー負けしてしまう。両腕で胸を隠すようにガードするが、プランクトンたちの腕力には勝てずにすぐに破られてしまった。それからは服の上から鷲掴みにされたり、色々ともみくちゃにされ、数分後には両者ともその場で仰向けになって倒れていた。プランクトンの彼女は活発に動いたおかげで、水が蒸発して少し体積が小さくなっている。慧音の方は、他人に胸部を初めて触られたことからの羞恥か、久しぶりに動いたために疲れたのか、顔が真っ赤に染まっていた。
「……ホンモノかよ。結構「珍しい」って言われない?」
「…………別に……」
「そう。なんか、悪かったよ……いきなり掴んじゃって」
「………………」
「そういえば、まだあたしの名前教えてなかったね。あんたの名前も知りたいな。火もくれたし、敵じゃなさそうだ。
「……上白沢慧音だ」
「ケイネ。慧音か。あたしの名前はフー・ファイターズ。F・Fって呼んで。仲間からはそう呼ばれてたんだ」
黒い液体が鎌首をもたげるようにうねると、近くに置いてある座布団にポタポタと水滴を垂らす。作られた文字は『F・F』。かつて、『天国』を目指した神父に立ち向かう女性と共に、あらゆる困難を乗り越えてきた者の名前だ。プランクトンという小さな存在でありながら、人間という巨大な友のために戦い、そして誇り高い精神をもっていた者。
散ったはずの『知性』が流れ着いた場所は
私はウェザーが好きです。もちろん、F・Fも。
命を落とした
彼女はこの場所で、次は誰のために戦うのか。
そして、S・フィンガーズがキラークイーンに抱く思いはどうなるのか?
お楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
-
東方をよく知っている
-
ジョジョをよく知っている
-
東方もジョジョもよく知っている
-
どちらもよく知らない