幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
展開を見失い、大変でした。
魔法の森のどこか。新鮮な朝日を浴び、日々成長を続けている木の群れの中で、一人の少女が爪を噛んでいた。忌々しそうに顔をしかめ、親指の先をかじりながらブツブツと文句を言っている。
黒髪の彼女は妖怪である。そして髪と同じく、真っ黒なワンピースを着ているその姿は、誰が見ても可憐な女の子だ。幻想郷には本当の人間と区別がつきにくい妖怪はたくさんいるが、彼女はそうではない部類に入る。先程と言っていることが違うが、彼女の妖怪としての特徴は背中に現れているのだ。
「…………ムラサのやつ……私を除け者にするつもりなの……!? フン。でもいいわ。あっちがその気なら、私にだって考えがある」
彼女の背中からは用途がよく分からない触手のようなものが生えている。右手側からは鎌のような形をした赤色のものが3本。左手側からは、青色をして矢印のようになっているものが3本。
彼女の名前は
「
右拳を握り、ぬえは天に吠える。
妖怪と人間は敵同士である。そして『ムラサ』なる者はぬえと同じく妖怪のようで、そのくせに人間の肩を持とうとしているらしい。自分の意思に反したその行いが気に食わないぬえは、ムラサを邪魔して「人間との繋がりをメチャクチャにしてやる」と奮起しているのだった。
左手に『釣り竿』を持って。
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魔法の森の入り口付近。ここに建つ魔法店は、いつものように賑わっている。たった3人だけで、だが。
「『空飛ぶ宝船!? 目にした者は幸運を手に入れられるかも!』……だってさ。これが今日の見出しだ」
「……あぁ〜〜ん? 何だって?」
「どれどれ……」
ロッキングチェアを揺らしていた魔理沙はさっきまで広げていた新聞をカウンターに出した。朝食の片付けをしていたハイエロファントと、店前での掃除を終えたチャリオッツが各々の作業を終わらせた後でそれに食い入るように読み始める。
K・クリムゾン襲撃から四週間近く経過し、スタンドたちも負ったケガのほとんどが修復したところである。戦うにも何の問題も無い。たとえ、今から異変が起ころうとしていたとしてもだ。
「ほぉ。宝船か…………金持ちになれるんだろ? そうだな……世界一の漫画家になれるな」
「いや、漫画家なら金よりも技量が必要だろう」
「それじゃあポルナレフランドだな。ディズニーワールドもビックリのテーマパークだ」
「何を言ってるんだ君は。いや、それよりもだな。チャリオッ……」
「いや〜〜、やっぱり宝って夢があるよな!」
3人はそれぞれ思ったことを口にした。チャリオッツはポルナレフが『
しかし、『空飛ぶ宝船』とは中々ファンタジーじみたものだ。ハイエロファントの本体、花京院は先日戦闘したハングドマンを始末する際、鏡の中の世界をファンタジーだと言って信用していなかった。だが、妖怪や妖精が蔓延る幻想郷の存在を知ってしまえば、同じ考えをもっていたハイエロファントも宝船の存在を認めざるを得ない。
そしてこうなった時、魔理沙がどんな行動を取るのか。2人は既に分かってきていた。彼女は箒と帽子を抱え始め、身支度を整える。
「早速行くのか? 宝船を探しに。だが、その前に訊いておきたいことがあ……」
「あぁ。お前らも準備するんだぞ。霊夢とか射命丸に先越されないようにな。こっちは3人もいるんだ!」
「いいね〜〜。宝は全部俺たちのものってわけだな! 急げよ、ハイエロファント!」
「………………」
魔理沙に合わせて、チャリオッツもバタバタと慌ただしく出発の準備を始める。掃除のために頭に巻いていた布を投げ捨て、箒も適当に放る。立て掛けていたレイピアを手に持つと、魔理沙と一緒にハイエロファントを急かした。
しかし、ハイエロファントが彼らに応じることはなかった。2人がどうしたのかと問うよりも早く、ドア近くを指差して、話を聞かない者どもにハイエロファントは声を荒げることとなる。
「おい、宝船もいいが、まだ目の前の問題が解決していないだろ。チャリオッツ、
「…………『それ』ってあの茶碗のことか? 店の前に落ちてただけだが…………」
「どうしたんだ? ハイエロファント。チャリオッツがさっき持って来たあの『黒い茶碗』がそんなに気になるのか? ただの茶碗だろ」
魔理沙とチャリオッツはハイエロファントの言葉に首を傾げる。視線の先にあるのは、彼らが言うように『黒い茶碗』。赤色と青色の帯が描かれた、綺麗な光沢を放つ茶碗である。売ればそこそこ良い値となりそうなほど美しい。正直、魔理沙は人里か知り合いの店で売ってやろうと考えていた。
だが、ハイエロファントの目には
「2人には……あれが『茶碗』に見えるのか?」
「え? うん。どうしたんだよ、ハイエロファント。目ぇ悪くなったのか? 永遠亭に行ってくるか?」
「余計なお世話だ」
「………………」
魔理沙は茶化しながらハイエロファントに尋ねる。しかし、いつもならそれに続くチャリオッツだが、この場で彼女のノリに乗ることはなかった。ハイエロファントの真剣さを、魔理沙よりも早く感じ取ったからだ。態度は昔と変わらないが、年数を経たために察しの速さは鍛えられていた。
ハイエロファントに見えている物。「赤色と青色をしている」という点においては同じだが、形状が違う。茶碗は光沢を放っているのだろうが、
「いいか。僕にはあれが…………UFOにしか見えない」
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時を同じくして人里。先日の狒々の襲撃から数日経ち、人々は新年を迎える準備の大詰めに取り掛かっていた。
八百屋や魚屋には朝から晩まで人が集まり、小道具などを欲する者は雑貨店に立ち寄る。そのため、大通りはいつもよりもさらに多くの人間で溢れかえっている。S・フィンガーズもまた、慧音に「君も一緒に年を越さないか」と提案され、大晦日をF・Fを含めた3人で過ごすための準備をしていた。
「新年か。日本の年越しは静かなものだと聞いたことがある。イタリアとは大違いだな……」
買い物袋を片手に下げ、S・フィンガーズは大通りを歩きながら呟いている。
彼の言葉から察することができるが、イタリアの新年は騒がしいものである。先にクリスマスがあるのだが、この日こそ日本の新年のように静かで荘厳なものなのに対し、新年は本当にお祭り騒ぎなのだ。酒に花火、豪華な料理に囲まれて年が明けるのを祝う。これがイタリアの年越しである。
「………………」
(外の世界は……幻想郷と季節はリンクしているのか? もししているならば…………ジョルノやミスタも
S・フィンガーズが持っている袋の中身は蕎麦やつゆの素、てんぷら粉といった、年越し蕎麦の材料だ。慧音に渡されたメモを頼りに買い物を終わらせ、彼は空を見上げながらかつての仲間たちのことを思い出す。
トリッシュは今度こそ幸せになったのか。ミスタは調子に乗って新年を酔い潰れて過ごさないだろうか。離脱した後のフーゴは上手くやっているだろうか。
そして、ジョルノは彼らをまとめられているのか。決して長くはない期間だったが、彼ならば心から信頼できる。
「…………あれは……?」
ふと、注意を頭の中から外に移すと、彼の視界に変わった物が映り込んできた。
空に浮かぶ大きな白い雲の隙間を、何やら黒い物が飛んでいる。決して小さくなく、巨大な物体だ。遠目から見ているため、その物体が何でできているのか完全に把握できないが、船の帆のような物が上部にくっ付いているのが見える。
「……巨大な船……か? あれは」
不思議な
船はしばらく漂うと、風に流れる雲に囲まれて姿を消してしまった。彼は他に目撃者がいないだろうか、と大通りを行き交う人々へ目を向けるが、全員気付いていない様子。かなり高い位置を飛んでいたため、自分だけ偶然見かけたのだろう。そんな不思議な気持ちで、S・フィンガーズは帰路につく。
「……人里に向かって来る気配は無かったな……」
(しかしあんな船、一体何のためにあるんだ? 買い物が終わったら魔理沙たちの元へ行こうか……)
敵意は感じられなかった。ただその場で、理由も無く航行しているだけに見えた。だが、存在しているということは、存在させる理由があるということである。あらゆる可能性を捨てきれない中で、S・フィンガーズは魔理沙たちの元へ出向き、空飛ぶ船の調査を依頼することを決めた。
そして、姿を消したと思われた船は船首の向く方向を変え、再び雲の中から青空の下へと巨体をのぞかせている。
船が飛んでいる高度3000mの真下にはまだ人里が広がっており、ちょうどそこにはおせちの材料を買っている慧音の姿があった。料理店だとかに注文するでも、料亭に予約を入れるでもなく、彼女手作りのおせちをスタンド2人に振る舞うのだ。
「えーと……これで伊達巻き、黒豆……あ、スティッキィ・フィンガーズはマメ類がダメなんだったか。いや、黒豆なら大丈夫か? 私も子どもの時は黒豆なら食べられたからな」
慧音も小さい時は苦手な野菜が多かった。しかし、煮た後に甘い味付けをした黒豆ならば彼女も美味しく食べることができ、やがて苦手なものの克服へと至る。S・フィンガーズも味を変えれば、箸をゆっくり動かすことはないだろうと考え、慧音は服屋へと向かい始める。最後は服だ。自分で着るためではなく、F・Fにあげるもの。いつまでも自分のお下がりを着せているわけにいかないため、彼女に彼女だけの服をプレゼントするつもりなのだ。
「F・Fは動きやすい服の方がいいのかな。女性らしい、ゆったりした服にして文句を言われるのも困る…………男性用を覗いてみようか」
服屋は近い。百歩も歩かない内に到着する。女性用と男性用の店は隣接しており、慧音は手前の女性用の店をスルーして男性用の方へと入店した。これには外で見ていた者、中にいた者問わず驚いた顔をしていた。入店直後、目を丸くした店員が慧音に声をかける。
「えぇ、慧音さん!? ここは男性用ですよ。女性用のお店は右隣です。間違えちゃってますよ」
「いや? 私はこっちに用があって来たんだ」
「だ、男性の服にご用……ですか?」
「知り合いにあげるんだ」
『し、知り合いにあげるゥーーーーッ!?』
店の中にいた客と店員たちは同時に声を上げる。その後は口々に自分たちの憶測を飛ばし合った。曰く「恋人ができたんじゃないか」、とか。曰く「もしや既に結婚を……?」、だとか。人里の中で慧音に想いを馳せる者は少ない。そのため、慧音の先程の言葉を聞いた彼らはおそらく、嫉妬の涙を流すに違いない。彼らの解釈は間違っているのだが。
結局慧音は袖と裾の短い紺色の服を一着買い、客たちとは特に会話を交わすことなく外へ出た。
「よし。これで大体買い物は終わりだ。それにしても、久々に家を離れたなーー。キラークイーンは里の中心部にいるわけじゃあないから、こっちで会えるかな」
そんなことを口に出しつつ、慧音は人里の中心地へと向かって歩き出す。そこそこな荷物だが、普通の人間より多少力持ちの彼女からすればどうということはない。まだ昼前であるが、早く帰って次の作業に取り掛かろう。進む足が速くなる。
と、次の瞬間。
フワフワ……フワ……
「!」
誰も気付いていない様子。大通りから脇へ伸びる路地に、赤色と青色に点滅しながら浮遊する謎の物体が入って行くのが見えた。幽霊の類だろうか、と慧音は考えるが、幽霊はあんなにカラフルには発光しない。
では何だ。未だ自分の見たことのない妖怪なのか? いや、妖怪にしては無機質過ぎる。だが、付喪神という捨てられて長い年月を過ごすと変化する妖怪もいる。
慧音の行動は早かった。よく分からない、謎の物体であるならば調査するまで。人里に仇なす存在かどうか、自分の目で見極めるのだ。彼女は物体を追って、同じ路地へと侵入した。
「!」
(目の前に……!)
フワフワ浮いていた物体は慧音を待っていたかのように、路地の入り口付近で止まっていた。近付いてみても逃げるような素振りを見せず、攻撃してきそうな様子も見られない。
慧音を前にして、赤色から青色へ。青色から赤色と、相変わらず目まぐるしく色を変えて光っている謎の物体。生物であるなら、慧音のことを認識していない可能性もある。
そこで慧音は、目の前の物体に対して腕を伸ばしてみることにした。両腕をゆっくり伸ばし、いずれ物体をホールドしてやろうと考えたのだ。大きさもちょうど良く、両腕に収まるぐらいのサイズだ。物体は慧音の腕が近付く中、逃げも隠れもしようとしない。何のアクションも起こさないことに少し不安を覚えるが、彼女の腕は物体に触れ、捕まえてしまう。
「さ、触っている感覚はある……ちゃんとここに存在する物体なんだ。これは。だが、こんな物見たこともないぞ。妖怪……なのか? 茶釜だとかに似てるが」
『
「う〜〜ん。硬いな。鉄? でも、金属類でできてるのは間違い無さそうだな」
慧音は物体をコンコンと叩いてみる。強くはないが、衝撃を加えても反応は見られず、ペカペカと光るだけだ。
後は手の中でクルクルと回してみたり、匂いを嗅いでみたりと物体の正体を掴もうとするも、何も分からない。
「……妖怪ではないかもしれないな。もしやスタンド?」
可能性はある。スタンドだというのなら、S・フィンガーズかF・Fの元へ持っていけばいい。害になりそうであるなら、その場で彼らに破壊してもらうだけだ。慧音はS・フィンガーズに物体を見てもらうことを決めた。
さらに荷物が増えることにため息を吐くが、ここでこの物体を捨てて行くわけにはいかない。まだ何も分かっていないのだから、少しの選択ミスで大惨事になるかも分からない。
慧音は袋の紐を腕に通し、物体を両腕で抱えると、路地の出口に向かってフラフラと歩き始めた。と、次の瞬間!
「!? お、重い……!?」
(バ、バカな…………持ち上げた時は何ともなかったのに、いきなりこの物体が重くなったぞ……!?)
いきなり腕がガクンと下がり、抱える物体を支えきれなくなったのだ。彼女が言う通り、持ち上げた直後は何ともなかった。それなのに、だ。
そして変わったのは重さだけではない。いきなり手が滑り始め、余計に物体を持っていられなくなってしまう。手汗のせいではない。手が乾燥し始めたのだ。冬はそもそも乾燥する時期であるが、ここまで急変することはない。偶然だとしても信じられない事態である。
「も、もう無理だ……!」
ドガン!
物体の重さに耐えかね、慧音は物体を放り投げて解放されようとした。するとどうだ。今まで感じていた重さは消え、謎の物体は地面に墜落する。その時の音も、重さに見合ったもののように聴こえた。
「い、いきなり何なんだ? 物体がいきなり重くなるなんて……やはりただの物じゃあなさそうだ」
地面に放置されている物体を見つめ、どうしてやろうかと思案する。だが、彼女はすぐに知ることになる。おかしくなったのは物体ではなく、自分の方であるのだと。
バキボキッ バキバキバキ……
「はうっ!?」
彼女の腰からいきなり、痛々しい音が鳴り響く。
「こ、腰が……いや、私の背骨が……!?」
バキバキと音を立て、慧音の背骨がうねりながら変形していく。明らかにただごとではない。物体の仕業か? 考えるが、そんな思考はすぐに頭から消えてしまう。
背骨が変形していく勢いに負け、慧音は徐々に立っているのも苦しくなってくる。やがて膝を突き、子どものようにその場で丸くなってしまう。彼女自身、自分に何が起こっているのか理解することができなかった。
しかし、慧音は己の指先を見て、この現象をようやく理解することとなる。
「!? わ、私の指が…………」
(どんどんシワシワになっていく!?)
体が老人のように変化しているのだ。自然に口から出た声もしゃがれており、まっすぐで綺麗な髪もバサバサに傷んできている。顔の皮膚が重力に負けてたるんでいくのも分かるし、爪の先も割れていく。豊満な胸も垂れ、胴体が地面に引っ張られていた。
人間を老化させる妖怪は存在はしているが、そんな妖怪の気配はどこにもない。ではやはり、あの物体が!
『悪いが、しばらくその状態でいてもらうぜ。今回の依頼は殺しじゃあねぇから安心しな。そこの、
路地から溢れる光が遮られ、人間の胴体が影になって慧音に被る。こいつだ。こいつが、人間を老化させているのだ。そう気付いた時には、慧音の意識はどこかへと飛ばされてしまっていた。
彼女が最後に見た景色は、金属でできた物体ではなく、代わりに浮遊する木の板が謎の腕に捕まる場面だった。
「展開……展開……」みたいな感じで歩き回るのは、某うろ覚えで振り返る物語にもありましたよね。
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない