幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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遅くなり申し訳ございません。
ワクチン打ったり、他にも色々とやることがあって中々筆を取られないでいました……


56.『偉大なる死』

「慧音が帰ってない?」

 

「あぁ。そうなんだよ。あたしに家で待ってて欲しいって言うから、わざわざ寒い中歩いて来たのにさァーー」

 

「どこへ行ったんだ?」

 

「あたしは知らないよ。「ちょっと出かけてくる」としか言わなかったぜ。食べ物の調達ってのは知ってるけど」

 

 既に年末年始に入りかけている今日の昼過ぎ。明日、明後日には新年を迎えるため、人里中が騒がしくなっている。S・フィンガーズもそんな時期に振り回される者の一人であるのだが、彼は慧音の招集をかけられて、先にF・Fが到着している慧音の家に足を運んでいた。

 障子を開け、廊下から居間でくつろぐF・Fに慧音の行方を訊くが、彼女は知らないと言う。F・Fはいつの日かのように、火鉢を勝手に燃やして暖を取っていた。

 

「いつ帰ってくるのかも聞いていないのか?」

 

「別にーー。何も言われてないぜ。あんたがここに来るまで暇だったんで、マッチ棒使ってゲームしてたんだ。これできる? 『12』にマッチ棒一本足して10より小さい数にするんだ。マイナスはなしね」

 

「……マッチを立たせて1.2だろう? それぐらい知ってる。俺も慧音に呼ばれて来たんだが……いないならしょうがない。フー・ファイターズ、(さが)しに行くぞ」

 

「え、またこの寒い中歩くのかよ!?」

 

「服と長靴はあるだろう。足袋(たび)も履いていけ」

 

「ちぇっ……あったまりながらゴロゴロするつもりだったのによォーー」

 

 S・フィンガーズはF・Fにそう促しながら、手に抱えていた上着を羽織り直す。彼が身につける物はこれで以上であるため、S・フィンガーズはそのまま玄関へ直行。F・Fも渋々といった感じで、そこら辺に脱ぎ捨ててある服を回収しながら火鉢を片付け始めた。

 時刻は午後2時を過ぎている。おせち作りのことをほんの少しだけ楽しみにしていた2人は、約束の時間には間に合うようにしたいと思っていた。本体共々食べたことのない、日本の伝統料理。この時期にしか食べられない、珍しいものだからだ。F・Fは慧音から拝借(窃盗)した足袋も履き、裾の長い上着を着るとS・フィンガーズと共に慧音の家を出る。慧音の足取りが分からない以上、適当に里内を歩き回るのは効率的ではない。まずは人々から慧音の目撃情報を集め、徐々に彼女の居場所へ近付いていこうではないか。

 S・フィンガーズたちはそう決めると、さっそく近くの店から立ち寄って慧音の情報を訊き始めるのだった。

 

 

____________________

 

 

 

「慧音さん? あぁ、服屋さんに向かって行きましたよ。男性用の方に入って行ったから驚いたけど」

 

「そうか。ありがとう」

 

 若い男から慧音が服屋に入って行ったという情報を聞き、礼を言うS・フィンガーズ。

 彼らは道行く人々から慧音の情報を着々と集め、数十分後には人里の中心部から外れた西部に足を運んでいた。里民たちの話によれば、慧音はここらで様々な店を訪れたことは間違い無いだろう。2人は道の先にある服屋を目指し、歩き始める。そしてなぜか、F・Fはニヤニヤと何か意味を含んでいそうな笑みを浮かべていた。

 

「男用の服ねぇ…………一体、誰に買うつもりだったんだろーな?」

 

「……お前にじゃあないか? 「日本の女用の服は動きづらい」って言ってたろう」

 

「あんたに対してしか言ってねぇよ。慧音は知らないはずだ。気付かないのか? もう一人いるだろ? 慧音が服をプレゼントしそうなやつ!」

 

「彼女の人間関係はよく知らねぇんだ」

 

 F・FはやけにS・フィンガーズに食ってかかるが、彼は特に気にしていない様子。F・Fの言う「プレゼントしそうなやつ」はどうやらS・フィンガーズのことのようだが、彼はそれに気付いているのかいないのか、慧音のことについてそれ以上追及することはなかった。

 F・Fの言葉を適当にあしらいながら男性用服屋へと入店すると、そこの店員にも他の里民にしたのと同じように質問する。

 

「悪いが、今日は買い物をしに来たわけじゃあないんだ。こっちに慧音が来たと聞いたんだが、それは本当か?」

 

「え、えぇ! 慧音さん来ましたよ。いきなり入店して来て、「男用の服をプレゼントしたいから」とあちらの商品をお買い上げになりました」

 

「ふーーん。あの紺色のやつか。上下セット一着ずつ」

 

 店員は壁際にある棚を指し示し、慧音が買った服を2人へ教える。F・Fが近付いて見てみれば、たしかにこれは男用。さぞ動きやすそうな代物だ。これを着ていれば、敵と相対した時に素早く戦えるはずだ。

 F・Fを横目に、S・フィンガーズは店員に慧音が次にどこへ向かったかを質問するが、店員は首を横に振って答えた。行き先を告げず、そそくさと立ち去って行ったようである。ここで足跡を辿る情報が途切れたのは残念だが、情報はまた外で得ればいい。店員に礼を言い、2人は再び大通りへと出て行った。

 2人が出て行く時、店員が「あぁ……もしやS・フィンガーズさんに……」と小さく呟いていたが、それが本人の耳に届くことはないのであった。

 

「慧音のやつ、マジにどこに行ったんだろうな。行き先ぐらい教えてくれたってよかったのにさ〜〜」

 

「だが約束の時間が近くなっても彼女は家に居なかった。今まで慧音と待ち合わせることは多かったが、彼女はいつも十数分前には待ち合わせ場所にいる。今回そうじゃなかったということは、慧音は今、家に戻れない状況にあるのかもしれない」

 

「……おいおいおい、慧音が何かの事件に巻き込まれたっていうのか? あいつは戦えるんだろ? 戦いの一つや二つ起これば誰か気付くはずだ」

 

「相手が妖怪ならばそうかもな。だがスタンドと戦っていた場合は? 慧音には俺からスタンドへの知識を入れているが、まだ戦闘経験自体は少なすぎる。どこかで襲撃され、敵のスタンド能力にハマっている可能性も入れるべきだ」

 

「……入れ違いになってるだけだと思うけどなぁ……」

 

 根拠は無いが、S・フィンガーズはそんな悪い予感がしていた。F・Fが言うように入れ違いになっているだけかもしれないが、里民は基本的に移動の際、大通りを使う。細く脇に伸びている小道を使うことはあまりなく、余程の用事がない限りは進むことはない。約束の時間が近付いていたというのに、それを過ぎるような買い物をするとは思えないし、上述のこともあるので慧音も帰る時には大通りを使うはずだ。それで見かけていないのだから、F・Fの可能性は低いだろう。

 服屋から少し進んで、「あっ」とF・Fが立ち止まる。

 

「そろそろ水が少なくなってきたんだ。結構歩いたから。スティッキィ・フィンガーズ、水持ってない?」

 

「いや、手元には無いな。俺が貰ってきてやるよ。お前よりかは顔が利くからな。ここで待っててくれ」

 

「分かった。ありがとな」

 

「気にするな。じいさん、少し頼みたいことがあるんだが……」

 

 S・フィンガーズはF・Fのために水を貰うため、道を挟んで壁にもたれかかる老人に声を掛ける。景観こそ変わらないが、ここ人里の西部では高齢の住人が多いようだ。通りの脇では70〜80歳ぐらいの男女が談笑しているのが多く見られる。

 彼女が元いたグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所(GDst刑務所)では老若男女問わず収監されていたため、人外であるF・Fとしては特に珍しい光景ではない。街並みも大した中心部と変わらないため、何か西部にしかないものを見納めようと目をチラチラと動かす。が、大通りにめぼしいものは見当たらない。ならばどうしようか、とF・Fは少し考えると、自分が背を向けていた方へ向き直り、今度は脇道の方へと視線を散らす。慧音が以前言っていたことだが、路地の方が通りに接している所よりも美味い店があるらしい。そんなものでも見つかればいいな、と思いつつF・Fは近くの路地を覗いた。

 

「……ん? あいつ、何か見たことあるよーな……」

 

 F・Fが覗いた路地には一人の女性がうつ伏せで倒れていた。しかもただの女性ではなく、特徴的な青い帽子を被って、真っ直ぐできれいな青色が入り混じる銀髪をしている。そして彼女の近くには、いくつもの買い物袋が散乱さており、その中には件の服屋で買われていった紺色の服も外に飛び出していた。間違い無い。彼女こそ慧音だ。

 

「あぁーーッ! け、慧音だこいつ! おい、大丈夫か!? どうしてぶっ倒れてんだ!?」

 

「うっ…………その……声は……F・Fか?」

 

「あ、あぁ、そうだぜ。待ってろ、今S・フィンガーズもいるんだ。あいつを呼んで来る!」

 

「……あ、F・F……」

(…………私の指……背中……何ともない? アレは夢だったのか……?)

 

 F・Fは慧音を助け起こし、安否を確認すると、彼女をその場に置いてS・フィンガーズを呼びに大通りへ戻って行ってしまった。目覚めたばかりで、まだ少し意識がハッキリしない慧音は散乱している荷物をおもむろに集め始める。その途中に自身の手や髪をすくって見てみたり、腰や頬に手を当てたりと落ち着かない様子であるが、今の彼女はいつもと何も変わらない状態であった。

 しばらくして、竹でできた水筒を片手にS・フィンガーズを連れたF・Fが慧音の元へと戻って来た。F・Fが水分補給する中、S・フィンガーズは慧音の体を見てケガの有無を確認。外傷はほとんど無く、S・フィンガーズは慧音に何があったのかを聴取する。

 

「慧音、ここで何があった? 誰かに襲われたのか」

 

「いや……それがハッキリと憶えてないんだ……私はここで金属類でできた釜のような物を拾って…………急に歳を取ったような……夢を見た……気がする」

 

「………………」

 

「えーー? 急に歳を取ったって? ハハッ、そりゃ最悪の夢だわ。エートロの記憶で見たけど、大体の女は歳を取りたくないもんね〜〜」

 

「……金属の釜か…………」

 

 F・Fが慧音の見た夢を笑う中、S・フィンガーズは「金属類でできた釜」というワードを気にかける。慧音は実際に歳を取ったわけではないようであるため、おそらく彼女を気絶させたのはその物品の方だろうと推測したのだ。

 

「慧音、今日は早く帰るぞ。あんたが見たと言う釜は俺が探してみよう。今日はゆっくり休むんだ」

 

「ありがとう……すまない。約束を守れなくて。私も不用意に行動するべきでなかった……」

 

「あんたのことだ。どうせ言っても突っ走ったろう」

 

「……」

 

 S・フィンガーズに言われた通りだと、自分でも思ってしまう。図星だ。ほんの少し恥ずかしくなる中、S・フィンガーズに手を握られて立ち上がる。荷物持ちは嫌々ながらもF・Fがやってくれるので問題は無かった。

 3人は路地から出ると、自分たちの家のある東へと向かい始めようとした。時刻はおそらく3時ぐらいか。太陽もずいぶんと西に傾いている。冬なので日が沈むのも早いのだ。

 と、そんな中、S・フィンガーズが帰ろうと足を踏み出すと、F・Fが立ち止まったままあるものを見つけた。西部の人々の方を指差して、何かを口走りかけている。

 

「お、おいスティッキィ・フィンガーズ……あれ、見てみろ」

 

「どうした、F・F。敵か?」

 

「敵じゃあねぇぜ。とにかく見てみろ! さっきまでここらはジジババ共が多かったけどよ〜〜、そいつらが揃いも揃ってぶっ倒れてることなんてあるかァ!?」

 

「何?」

 

 S・フィンガーズは振り返る。F・Fが指差していたのは、彼女が言っていたように通りの脇で倒れている老人たちの姿。皆がヨボヨボで、咳き込んでいたり、ガクガクと指先を震わせて苦しそうにしている。先程までは楽しく談笑していたというのに、全員がいきなり体調を悪化させていた。奇妙な現象が起こっている。

 そして、そんな現象が起こっていたのは西部の里民たちだけではない。S・フィンガーズが握る慧音の手の力が、徐々に弱まっているのだ。不審に思ったS・フィンガーズが彼女の方を振り向くと、驚きの光景が。

 

「スティッ……えーと……フィンガーズ……あんまり強く握らないでくれぇ。手が潰れてしまうよぉ」

 

「!? な、何だとォッ!?」

 

「うわぁああ!! な、なんッ……慧音がババアになってるゥゥーーーーッ!!」

 

「いきなり大声を上げるなよぉ……短い寿命がもっと縮んじゃうよぉ〜〜」

 

 慧音の顔は辺りにいる老人たちと同じように、深いシワが刻まれて頬が垂れていた。所々にはシミまでできているし、髪もバサつき始めており、まるで本当の老人のようだった。

 腰が曲がり、その場にへたり込む慧音から手を離してS・フィンガーズは周りを見回す。今気付いたことだが、自分たちが立つこの場所から妖怪の山を見ようととすると、白いモヤのようなもので視界が(かす)んでよく見えない。S・フィンガーズは辺りに充満するこの白いモヤが老化の現象だと結論づけると、慧音を介抱しているF・Fにこう言った。

 

「フー・ファイターズ、慧音の服を脱がせろ」

 

「ハァ!? おまっ……何言ってんだ! どーゆー趣味してんだッ!?」

 

「いいからやれ! 老化したのは体温が高いのが原因だ。俺たちよりも慧音は厚着をしているから、彼女はこんな寒い中でも老化したんだ。体温が高ければ高いほど、老化スピードは速くなる」

 

「お前、どうしてそんなこと知ってんだ……? これはスタンド能力なのか!」

 

「上着だけでも脱がせろ。()()()とは一度戦ってる」

 

「『こいつ』……!?」

 

 S・フィンガーズは大通りの先を見据えて言う。F・Fは彼の視線を追って、同じように西へと目を向けた。

 そこには異形の存在、人間のような胴体が腕だけで歩いてこっちへ向かって来ていた。本来下半身がくっ付いている場所からは機械などのプラグのような物が数本伸びており、遠目から見た限りでは手の指の本数も3本だけ。近付いてくるにつれ、その異常なスタイルもどんどん露わになっていく。

 

「ブチャラティのスタンド、スティッキィ・フィンガーズか。フィレンツェ行きの電車以来だな。お前(ブチャラティ)もどこかでおっ死んじまったってわけか?」

 

「ス、スタンド…………」

 

「…………」

 

 沈みゆく太陽を背に、3人の元へと歩んで来たのはスタンド『ザ・グレイトフル・デッド』。上述の特徴と機械のような関節に、体中に目玉があるヴィジョンをしている。能力は『生物を老化させる能力』。ガスをばら撒き、範囲内にいた者を老化させるのだ。

 S・フィンガーズもといブチャラティは、このスタンドの本体たちと戦ったことがあった。まだブチャラティがギャング組織を裏切っていなかった頃、ボスからの司令でボスの娘を護衛中、グレイトフル・デッドの本体であるプロシュート、そしてペッシが襲いかかって来た。彼らの目的はボスの娘を確保し、それを出汁にしてボスを脅すというもの。プロシュートたちが所属していた暗殺チームは安い賃金に不満を抱いていたため、謀反を起こそうとしていたのだ。

 しかし、以前戦ったのはボスの娘がプロシュートたちの目的だったから。ブチャラティたちに私怨があったわけではない。では今回、なぜグレイトフル・デッドはS・フィンガーズの前に再び現れたというのか。

 

「貴様、里の人間を老化させた理由は何だ? 今度は何を目的に俺たちを襲う」

 

「目的は何も、お前に関係することじゃあねぇ。依頼を……いや、取り引きを呑んだだけだ。ある物体を回収することで、()()()()()()()の目的を達成できる」

 

「何が狙いだ。何を集めてる」

 

「そいつは言えねぇな」

 

 

ドバッ ドバァッ

 

 

『!』

 

「……F・F弾だ。敵だってんなら容赦はいらねぇよな」

 

 S・フィンガーズとグレイトフル・デッドの間に緊迫した空気が流れる。そしてそれを引き裂くようにして、F・FはS・フィンガーズの背後からプランクトンの弾丸を撃ち出した。

 威力は並の拳銃以上であり、一撃入るだけで人間の頭をバラバラに吹っ飛ばすこともできる。それに確実に撃ち抜けなかったとしても、弾丸が肉体に侵入するだけで相手を殺したも同然である。そこからプランクトンたちが体液を得て増殖し、標的の体を内側から破壊するからだ。

 では、グレイトフル・デッドに向かった弾丸はどうなったのか。

 放たれた2発の弾丸を、彼は足代わりにもしている右腕で全て受けきった。その瞬間F・Fからは笑みがこぼれそうになるが、様子がおかしいと分かるのは早かった。弾丸を受けた箇所に穴が空いておらず、真っ黒なプランクトンの群れがグレイトフル・デッドの体を侵食していくような気配も無い。だが、その理由は明白だ。S・フィンガーズが語る。

 

「やつは対象に触れた方がより速く、敵を老化させることができる。お前のF・F弾がやつに効かなかったのはそのせいだ。お前のプランクトンはやつに触れて老化し、体内に侵入する前に老衰して死んだ」

 

「よく分かってるな。スティッキィ・フィンガーズ。さすがに一度戦った相手の手の内はお見通しか」

 

「…………」

 

 S・フィンガーズが応えることはなかった。羽織っている上着をその場に脱ぎ捨てると、彼はF・Fとグレイトフル・デッドの間に立ち塞がり、背後にいる2人へと告げた。

 

「俺が戦う。フー・ファイターズ、お前は慧音を連れて離れているんだ」

 

「あんた一人で大丈夫なのか? あたしもやるぜ!」

 

「お前では相性が悪い。体温を低下させて老化を防いだとしても、それではお前のプランクトンたちがもたない。かと言って服を着たままで戦えば、やつの能力でプランクトンたちが死んでいく。だが、俺であればやつに対抗することができる」

 

「……あ、あぁそう! 分かった分かったよ! あたしは下がってるから、早く終わらせるんだぞ」

 

「水も今のうちに飲んでおけ」

 

 S・フィンガーズに言われ、F・Fは片手に持っていた竹の水筒を空っぽにする。そして投げ捨てると、慧音を腕を肩に担いで小走りで退場して行った。

 取り残された2人は無言で向き合っている。寒さが肌を刺し、何とも言えない痛みを感じているが、敵から目を離して集中力を散漫にすることはない。グレイトフル・デッドは里民を老化させていたが、その理由が本人の口から語られることはないだろう。今の状況では。

 2人の本体はギャングの人間。彼らには彼らの『世界』があり、『やり方』がある。相手にどうしても喋らせたいことがあるのなら、取るべき行動は決まっている。

 

「………………」

 

「近付いて来るか。まぁ、そうするしかねぇだろうな。お前は。一度戦ったやつが相手となれば、互いの弱点が知れている。勝負は一瞬で着く」

 

「………………」

 

「俺たちの目的のためにも、俺はお前に負けるわけにはいかねぇ。依頼には無いことだが、()()()()()()いかせてもらうぜ」

 

 両者の距離はどんどん詰められていく。

 5m……4m……3…………

 そして、互いの拳が届く位置。

 

 

 初めに動いたのはグレイトフル・デッド。2本の腕だけで体を支えているが、それが片腕だけになろうとも何ら問題は無い。右腕を振り抜き、その鋭い爪を以てしてS・フィンガーズの内蔵を抉り出そうと腹部へと迫る。

 

 しかし、かなりのスピードの持ち主であるS・フィンガーズに簡単には通用しない。余裕をもって避けられ、グレイトフル・デッドの攻撃よりも速く、鋭い右拳を打ち出した。が、それが標的を捉えることはなかった。

 

 攻撃に使った腕をすぐさま戻し、今度は左手をガードに使おうとするグレイトフル・デッド。その行動を見た瞬間、S・フィンガーズは動きを止めたのだ。理由は明白。捕まることを避けるためである。いくらスタンドと言えど、グレイトフル・デッドに捕まってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()、機能が衰えてしまう。パワーやスピードを失えば、そのまま始末されかねないのだ。

 

 では、拳による攻撃を防がれたS・フィンガーズはどうするか。左脚で蹴りを入れるのだ。

 死角からの(すね)の殴打は(こた)えたようで、胸を蹴られたグレイトフル・デッドは苦しそうに咳を吐き出す。この一瞬、グレイトフル・デッドは怯み、体勢を崩してしまった。

 

 このチャンスを使わないわけがなく、S・フィンガーズはさらなる追撃を加えようと再び右拳による攻撃を行う。狙いは頭部。気絶させて能力を解除させるのが狙いである。が、グレイトフル・デッドも腐っても戦闘用として使われてきたスタンドだ。戦況を見ての判断能力には優れている。

 右腕一本を軸に、全身を時計回りに回転。S・フィンガーズの拳を(かわ)すと、次は彼に足払いを仕掛ける。転倒させ、確実に攻撃を与えられる隙を生み出す!

 

「終わりだぜ。スティッキィ・フィンガーズ!」

 

「それはどっちだろうな」

 

 S・フィンガーズは地面を蹴り、グレイトフル・デッドの足蹴りを素早く避ける。着地は手から。無防備な背後へと降り立つと、グレイトフル・デッドの後頭部目掛けて脚を振り下ろす。

 だが、この攻撃も読んでいる。またしても左腕をガードに使い、今度は肘打ちで足を弾き返した。

 

 今度体勢が崩れるのはS・フィンガーズの方だ。老化スピードを遅らせるため、本来のスピードではなくゆっくりと行われるこの戦いも、いよいよ決着の時が迫っていた。

 左腕は弾いた後、狙いを胸元へと定める。それを察知してS・フィンガーズは再び地面を押して空中に逃れるが、これはグレイトフル・デッドの罠である。

 避けるために地面を押したが、そのパワーは着地地点を変えられるほどの威力はなかったのだ。その場で空中に浮いただけ。空中ならば、逃げ場は無いのだ。S・フィンガーズを逃した左腕を地面に踏み込み、トドメの右腕が地面を這ってS・フィンガーズへと向かう!

 

「チェックメイトにはまったなッ! くらえ、ザ・グレイトフル・デッド!!」

 

「……!」

 

 ガスを噴出しながら向かってくる右手。しかし、S・フィンガーズは体を捻ったりして避けようとはしない。まともに受けるつもりなのだろうか。

 と、そう思われた瞬間、突如グレイトフル・デッドの視界が揺れた。一度上下に大きく動き、体勢も崩れる。足場も、消える。ただそこにあるのは、存在しているはずの地面に、ポッカリ空いた存在しない穴に落下する感覚。

 

「ぐぉおお!? な、何だこれはッ!?」

 

「能力の発動をほんの少しだけ遅らせた。俺もこっちでは修行を始めたんだ。ほんの一秒にも満たない時間だけなら、こうやってあらかじめ触れていればタイムラグを起こしてジッパーを発現させられる」

 

「バッ……バカな……ッ!」

 

「やはり、チェックメイトはお前の方だったな」

 

 

ドン! ドン! ドバッ!

 

 

 グレイトフル・デッドの体に拳が叩き込まれ、ジッパーの穴から地面へと打ち上げられる。すぐに起き上がろうとする彼だったが、既に触れられてしまっている。『タイムラグの能力発現』により、地面とグレイトフル・デッドの腕にジッパーが取り付けられて拘束されてしまった。

 

「さて、そろそろ喋ってもらおうか。依頼人はどこの誰で、お前の目的は何なのか。質問が拷問に変わらないうちに答えた方がいい。サッカーボールみてぇに、頭蹴飛ばされたくなかったらな」

 

 低く、冷たく言い放つ。この時の姿は未だ幻想郷の誰にも見せたことがない。ギャングの姿である。

 命のやり取りとは言うが、生きるか死ぬか、勝負に勝った者が全てを決める権利をもっている。彼らがいたのは理性に溢れ、それでいて野生のように荒々しい世界なのだ。

 S・フィンガーズの言葉を受け、グレイトフル・デッドは何を思う。敗北者は黙して死を待つだけか。殺しを行う者は死をも覚悟している人間でなくてはならないと言うが、彼はどうか。()()()()()()、誇りをもっているのか。彼は呟いた。

 

 

「もし……だ。もし、スティッキィ・フィンガーズ。本体を蘇らせることができて、再び同じ関係に戻れるのだとしたら、お前はどうする? 俺は……そのために戦った」

 

 

 

 

 

 




戦闘シーンですが、いつもと少し違うことに気付きましたでしょうか?
試験的にやってみたのですが、思いの外上手く描写できたかな、といった感じです(主観で)。それでも至らない部分、未熟な部分多いと思いますので、さらに精進していきたいと思います。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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