幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
たしかに私が好きで作ったわけですが、表現よりもキャラクターへの理解をさらに深めなくては成り立たないんですよね。良い機会だとも言えますし、ジョジョファンとしての未熟さも痛感しました。
とか言ってますが、正直出来はどうか……
「本体が蘇るとしたら、S・フィンガーズ。どうしても元々と同じ関係に戻りたいと、そう思わないか?」
グレイトフル・デッドは静かに言う。冬の夕方に吹き込む風はそこそこ強く、ビュゥビュゥとうるさく家屋にぶつかっている。それに関わってか、辺りの景色もかなり鮮明に戻っているのが分かった。グレイトフル・デッドは能力を解除したのだろう。
彼はこの場を話し合いの場に変えたのだ。これは決して命乞いというわけではなく、面と向かって行う話である。
「本体が蘇るだと……? 誰にそう言われた?」
「……食いついたな。
「話をすり替えるな。何の話をしてる!」
「落ち着いて聞け…………スティッキィ・フィンガーズ。俺たちスタンドには食欲だの性欲だのの生物の三大欲求は無い。だが、たった一つだけ。あらゆるスタンドに共通する『欲望』がある」
「………………」
「これは、言うなれば『回帰欲』。失った肉体と、分離しちまった魂を欲している。スタンド全員が持ってるもの! 本体の元へと戻ろうとする欲望だ。
グレイトフル・デッドは道の脇に向けて顎を動かす。S・フィンガーズが視線を移すと、そこには家屋の影を被ってたたずむ一つのかご。中に何があるのかは分からないが、赤や青色の光が漏れ出しているのを見た限りではただの物ではないらしい。S・フィンガーズは視線をグレイトフル・デッドへと戻す。
まだ気になることは山積みである。その『回帰欲』とやらがなぜ、グレイトフル・デッドの依頼人と関係があるのか。先程から「俺」ではなく「俺たち」と言っているが、それは他に誰がいるというのか。
「あのかごの中に入っている物を集めて、お前は何をするつもりだったんだ? 依頼人がいるというのなら、そいつにあの物体を渡し、報酬として本体を生き返らせると?」
「………………」
「……当たりか」
S・フィンガーズの質問に、グレイトフル・デッドは沈黙で答えを返す。図星であると確信したS・フィンガーズはさらに続けて質問した。
「あれを集めて、お前の依頼主は何をするつもりだったんだ? 空中に浮いていた巨大な船と何か関係があるのか」
「さぁな。俺たちはただ「集めろ」としか依頼されていない。空飛ぶ船も知らねぇな」
グレイトフル・デッドの反応は素っ気なかった。
グレイトフル・デッドはS・フィンガーズからの返事を待たずに言葉を続けた。
「で? さっきから無視されてる俺の気持ちにもなってほしいもんだな……こっちの質問にもそろそろ答えてもらおうか」
「……本体の復活のことか」
「俺にはそれしかない。
「………………」
グレイトフル・デッドは幻想郷で生きていく目的が無い。ハイエロファントやチャリオッツのように、新たな友人と共に戦いたいと思うわけでもない。S・フィンガーズやF・Fのように人里で戦う理由も無い。ギャングも存在しないため、かつての本体のように生きることもできない。
グレイトフル・デッドが言うように、スタンドは意志そのものである。目標や夢をもたずに生きる者は、特に何も起こるわけでない生涯の中で精神力は衰えていく。そうなれば、精神のエネルギーから生み出されたスタンドがどうかっていくのか……想像に難くない。彼は『本体を復活させたい』という目標により、ようやく存在を保っているのに過ぎないのかもしれない。冷酷な世界で一番最初に信じられたのが自分の力であるなら、それもまたスタンドに刻まれているのだろう。回帰欲となって。
では、S・フィンガーズはどうなのか? 彼はグレイトフル・デッドとは事情が違う。恩のため、
「…………あぁ。俺も……元のように……戻りたい」
「ほぅ……」
「お前の気持ちはよく分かる。たしかに、俺たちスタンドの中にはお前の言う『回帰欲』なるものがあるんだろう。言われてみれば、と今気付いた」
「……それじゃあ、もし俺たちが本体を復活させるその時になったら、お前はお前で俺たちにあやかるつもりか? 俺は別に構わねぇんだぜ。プロシュートはいつまでも引きずる男じゃあねぇ。任務は任務と割り切る男だ。私情に流されることはない」
「いいや。復活はさせない」
「何ッ……!?」
『スタンドは本体と
答えは『NO』。
その違いは精神のエネルギーと肉体の有無で分けているわけではない。自らの魂の分身とも言えるが、それは決して完全に対等な関係であるわけではない。スタンドは本体の精神により、その能力、ヴィジョン、強さが左右され、そして操作される。これは真逆では決して起こりうることはなく、故にスタンドは幻想郷において、本体を『帰るべき場所』だと認識。帰ることを欲望とするのだ。地位の無い主従関係と言ってもいいかもしれない。
S・フィンガーズがブチャラティの復活を望まないのは、その部分にこそあった。
「ブローノは激しい戦いの中で命を落とした。だがそれは、生き残った者たちに勝利を与えた。死は望む、望まれるものではないが、それが真実であり、受け入れるべきものだ。すでに決められた運命の中で切り開いた人生の意味は、きっと今生き残った者たちによってさらに先へ、進められていることだろう。しかし、俺がブローノを蘇らせることによって、
「………………」
「俺はブローノの復活は望まない。だが、お前が望むかどうか、それは好きにすればいい。俺はただブローノの覚悟と、彼が遺した意味を無下にしたくないだけだ。二度と人里に近付かないというのなら、このまま解放もしてやる」
「俺を逃すってのか? 甘いやつだな……」
「あの茶釜……いや、どちらかと言うと『UFO』か。集めたいなら勝手にしろ。その代わり、少しでも人里の人間を危険に晒すような真似をしたなら、その時は……分かるな」
「……てめぇ…………」
「ナメられている」。グレイトフル・デッドはそう思わずにはいられなかった。前回は電車の中、そしてトリッシュを守るという特殊な状況での戦闘だったのもあって苦戦したS・フィンガーズだが、何も無い平坦な舞台では圧倒的に彼が有利である。情けをかけているつもりか、とグレイトフル・デッドはS・フィンガーズを睨むが、彼はすぐに能力を解除。自由を与えた。
「……いつか後悔しても知らねぇぞ」
「………………」
「………………」
S・フィンガーズは何も言わず、自由を肩を回しながら感じるグレイトフル・デッドを見つめている。
本体の復活…………もしブチャラティが蘇ったなら、彼は幻想郷で何を思い、どんな行動を起こすのだろうか。やはり、S・フィンガーズのように唯一人間が住む場所である人里を守ろうとするのか。それとも外の世界へ帰り、ジョルノたちが作り変えた組織、祖国を見に行こうとするのか。心から気になるが、これは自分の欲だけで動いていいものではない。S・フィンガーズは気持ちを押し殺していた。
グレイトフル・デッドが籠を担いだのを見計らうと、S・フィンガーズは彼の背後に向けて言う。
「ちなみにだが、お前は復活の方法を知っているのか?」
「……何だと?」
「そのままの意味だ。同じく幻想郷に流れ着いた別のスタンドが言っていたことだが、死んだ者はその場所を管轄としている閻魔大王の元へと行くらしい。ならば、お前の本体は幻想郷の閻魔とは別の閻魔に裁かれているはずだ。地獄も別にあるらしい。そんな中で、お前はどうやって本体を蘇らせるつもりだ?」
「…………!」
グレイトフル・デッドはその場にてフリーズした。「よく考えていなかった」、「そんなことは初耳だ」というよりも「聞かされていたことと違う」という驚きを露わにしている。
S・フィンガーズがその話を聞いたのはハイエロファントから。以前戦ったアヌビス妖夢、彼女が逃走した後、慧音の家で介抱されながら交わした内容である。その話のメインは「スタンドは死んだ時、地獄にも冥界(転生を待つ場所)にも行けずに消滅する」ということだったが、死者がそれぞれの地獄へ向かうことをハイエロファントはこぼしていたのだ。
「…………待て…………話が……違うぞ…………」
「やはりか。お前は騙されているらしいな。死者を復活させるということ自体、きな臭いと思っていたが」
「だが、お前の話が違う可能性もある……!」
「俺がお前に嘘をついて何になる? それに対してお前の依頼主が嘘をついていたというのなら、お前たちの実力を借りて自分の目的を達成するため、ということで辻褄が合う。利用されてるんだろうな」
「〜〜〜〜ッ!!」
ブチャラティがどういう男か、グレイトフル・デッドは知っている。そして彼のスタンドであるなら、S・フィンガーズもその人となりを受け継いでいるのは確実である。ブチャラティなら、こういう場合嘘をつくだろうか? 戦いは終わり、もう互いに用が無い時に。
グレイトフル・デッドから怒りが湧き上がる。それは側から見ていたS・フィンガーズも分かるほどで、老化ガスとは違うオーラを放っていた。
「もう一度言う! お前の依頼主は誰だ? 場合によっては、俺はそいつを倒さなくてはならない。お前にとってもそいつは敵になりうるはずだ。名前を吐けッ!」
「ザ・グレイトフル・デッドォ!!」
「!!」
S・フィンガーズがグレイトフル・デッドに強く迫ると、次の瞬間彼は老化ガスをばら撒いた。不意をつかれたS・フィンガーズはガスをほんの少量浴びてじうが、後方へバク転しつつ距離を取った。触れてしまった左腕から力が抜ける。この衰えはさらに他の部位へと広がるだろう。その前に、なぜグレイトフル・デッドがこんな行動を取ったのか。それを明らかにしなくてはならない。
S・フィンガーズが霧のようなガスへ叫ぼうとすると、グレイトフル・デッドが先手を打つ。
『S・フィンガーズ。この件はお前の出る幕じゃあねぇ。せいぜいこの里で楽しくやってろ。決着をつけるのは俺たちだ。いつかのように首輪を付けられ、ゴミ同然に扱われるのだけは…………お前と同じだ。それだけはあっちゃならねぇ……ッ! 礼は……言っておくぜ……』
「……!」
ガスに浮かぶ影が消え、しばらくしてガスが完全に晴れる。グレイトフル・デッドがその場を離れたおかげで、能力も自動的に解除されたようだ。S・フィンガーズの左腕も力が戻る。
オレンジ色に輝く夕日は大通りを隅々まで照らしている。グレイトフル・デッドのガスが消えたことにより、人々の老化も止まり、体力も徐々に回復しつつある。射程距離から離れた慧音も、おそらく元に戻っているはずだ。気温も肌寒さを感じるのだから。
S・フィンガーズは戦いの終わりを確信すると、大通りの先へ沈む夕日を背に、その場から去ろうとする。と、彼の頭を一つの大きな影が覆った。鳥ではない。影はS・フィンガーズを飛び越えると、彼の背後に降り立つ。その正体は……
「お前は……東風谷早苗か」
「こんにちは。スティッキィ・フィンガーズさん。あ、でももうすぐ「こんばんは」ですかね?」
爽やかな緑髪をなびかせ、早苗はS・フィンガーズに挨拶する。体の向きこそ彼の方を向いているが、彼女の目線は同じ方向にはない。注意はその近くに置いてある『籠』にあるようだ。グレイトフル・デッドが運ぼうとしていた籠。彼は置いて行ってしまったようである。わざとに違いないが。
「えっと……もし差し支えなければ、こちらの籠を持って行きたいんですけど……」
「俺は構わないが、それは何に使う? 同じように
「……あーうー……あ〜〜っとぉ〜〜……」
「……そんなに口に出せないことなのか?」
「何というか、説明しづらいというか……別に悪いことに使おうというわけじゃあないんですけどねぇ〜〜?」
「……あぁ、そうか……」
「ならば持って行け」とS・フィンガーズは促した。彼女と会話を交えたのはキング・クリムゾン襲撃が最初であり、今度で二度目。彼からした早苗の印象は、まさに年相応といったもの。彼女の反応を見る限り、口に出すことはできなくとも悪いことに使わないというのは本当のようだ。ここまで飛んで来るまでにかいた汗を見てそう考える。舐めればもっと分かるのだが。
早苗はS・フィンガーズにお礼を言い、フラつきながらいっぱいになっている籠を背負って再び宙に浮く。彼女の支度ができたところで、S・フィンガーズも先程のようにその場を離れようとした。しかしそこで、早苗が呼び止める。
「あっ、待ってください。そういえば、神奈子さまから文を預かってるんです。S・フィンガーズさん宛てに」
「文…………手紙だと?」
(八坂神奈子から…………まさか、K・クリムゾンのことについてか? 何か情報が……)
早苗は両腕にぶら下げた袖から一通の手紙を取り出し、S・フィンガーズに渡す。正面にはデカデカと「スティッキィ・フィンガーズ殿」と書かれている。彼は知らないが、いつか地霊殿に送られた
そんなことに大したリアクションはせず、S・フィンガーズは中に入っていた紙を取り出して見た。書かれている内容は、彼が想像していた通りのものである。
『先日の戦いからはや三週間。もう傷は癒え、これまでと同じように人里で活躍していることであろう。用件というのは他でもなく、キング・クリムゾンのことについてだ。山の天狗たちに捜索を依頼したのは承知していると思うが、収穫は無し。行方不明者、死亡者が続出している。そこで数日前、いよいよ天狗の側から捜索を打ち切られてしまった。人手を減らすだけで、何も得られないからな。そこで、だ。私は君にあることを頼みたい。幻想郷に存在するスタンドたちを結集させ、悪の帝王を討ち滅ぼすのだ。我々守矢神社は全面協力する。全ては幻想郷のために』
ジョジョリオンを26巻まで一気読みしました。
うん……「面白い」。それしか言う言葉が見つからない。
これまでの部でも『愛』に触れていたことはありましたが、ジョジョリオンが一番『愛』が重要になっている物語でしたね。最終決戦は愛をもつ者と、愛をもたない者の戦いといったところでしょうか……
このお話の最終回、すでに構想ができあがっていたんですけど、また延びましたね。
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない