幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
ちょっと反省します。
時はS・フィンガーズとグレイトフル・デッドの戦いから8時間ほど前。場所は妖怪の山。朝日がまだ東の空へ傾いている頃に事件は起こった。
山の麓には川が流れており、山から滝によって流れ落ちてきた水が通っている。川の付近は河童たちのテリトリーとなっており、彼らのものづくりはここらで行われる。一つの巨大な作業場を共有して合同作業を行うか、自分だけの工房をもって作業するか。その形態は様々。かつて、地底の異変が起こった際博麗神社を訪れた河城にとりもまた、川の近くに構えた自身の工房でものづくりをしていた。
「ふゥーー……よし、これで完成、と。フフ、私の生涯の最高傑作になるであろう作品……『K.N-
工具を両手に、にとりは工房の入り口で満足した表情を浮かべて声を上げている。彼女の目の前には高さ3m以上にもなろうかという巨大な鉄の塊もとい、炊飯器のような形をしたロボットが鎮座していた。胴体が非常にデカく、頭は異様に小さい。その中心には熱を探知するレンズが付けられており、一つ目小僧のような単眼となっている。脚と腕も太く、手の平に関して言えば人一人を丸ごと掴めてしまいそうだ。
「このロボットは私の持つ『カード』によってしか動かない…………つまり、操作できるのは私だけ! 置いておくだけなら防犯にも使えるな。最近物騒な話を聞くし。何だっけぇ? キング・クリムゾン? 天狗どもが話してたけど、まぁ、私のロボットには敵わないね」
にとりはポケットから硬いカードを取り出し、眺めながら悦に浸る。彼女の口ぶりから、目の前のロボットに絶対的な自信があるようだ。戦争に至ったわけではないが、天狗たちを欺き、人手を消耗させながら追い詰めているキング・クリムゾンですら目ではない、と。
「さぁてと。3時から作業を始めて疲れたし、ちょいと一眠り……いや、早苗のやつが来るんだった。リラックスするのに散歩でもしようかね」
手に持っていたカードをロボット近くの机の引き出しに入れ、腕を屈伸させながら工房を出る。
外に出てみれば川のせせらぎが気持ち良く、鳥たちの鳴き声も耳に入って安らぎに変わる。外の世界では滅多に見られない自然そのものを、幻想郷なら簡単に感じることができる。そんなこと自体、にとりは全く知らないし知ろうとも思ってもいないのだけれど。
「……散歩と言っても、暑い作業場からちょっと出て涼むぐらいで、いつもと大して変わらない風景か…………ん〜〜ーー。暇」
後頭部に腕を組み、葉っぱを咥えて悠々と歩く。彼女が言うように、この辺りはいつも使う道。言い換えれば庭、ホームグラウンド。落ち着くといえば間違いは無いのだが、見るのも居るのも飽きた空間だ。にとりの中ではもっと刺激が欲しいという気持ちも否めない。
しかし、非日常はいつも突然訪れるもの。彼女の欲望に反応した神様が授けてくれたのか、はたまた運命的なものか。草むらの中に何やら光る物体を見つける。
「お、何か面白そうなもの発見〜〜。何だあれ? 赤く光ったり青く光ったりしてるけど」
にとりはピカピカとうるさく点滅する草むらに駆け寄り、葉をかき分けて光源の正体を探る。中から出てきたのは発光する茶釜……のようなもの。人里で慧音が見たものと同じ物体のようだ。慧音はそれを茶釜と形容していたが、にとりはというと、彼女はこれを知っていた。
「おぉ! これってもしやUFO!? 外から流れてきた本に書いてあったやつね。宇宙人が乗ってるとかいう。でも思ってたより小さいんだなーー」
にとりは何の警戒もすることなくUFOを抱える。舐めるように隅々まで見回したり、叩いてみたり、振ってみたり、まるでおもちゃを買ってもらった子どものように物体をイジり始めた。
外から流れてきた本というのは、実は神奈子たちが幻想郷へ神社をもって来る際にばら撒いたもの。河童たちに存在を認知させ、妖怪の技術レベルを上げようとした目的があったのだ。河童たちの中にはUFOを造ろうとしている者もいるらしいが、現時点では完成したという話は聞かない。にとりはその話を思い出して笑みを浮かべた。
「……そーだ。K.N-DXⅡもいいけど、今度はUFOを完全再現してやろうかな。もちろん人が乗れるようにして、活動域を一気に広げる! 天狗たちも驚いて鳩みたいな声出したりして……ウケッ、ウケッ、ウコケッウケコッ!」
真面目そうに仕事をしている天狗たち、彼らがUFOに目を丸くしている姿を思い浮かべてクセの強い笑いをこぼす。若干顔が引きつっており、声もうわずっているのが少々不気味である。
ともかく、にとりの気分は上々となっていた。相撲が好きな河童としての腕力にものを言わせ、彼女は自分の胸にUFOを抱える。そして羽の如き軽い足取りで、工房へと跳ねるようにして帰って行くのだった。
気分が上がりすぎてしまったせいか、近くに目撃者がいることに気付かずに…………
『…………見つけたぜ。あれが飛倉の破片か……』
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ドガァン!
「う〜〜ん。力づくでもダメかぁ」
にとりの工房にて、カナヅチを片手に持つにとりがうなり声を上げている。ガレージのようになっている建物なわけだが、彼女が先程作っていたK.N-DXⅡもここに置いてあったりと、それなりの広さをしている。
ロボットの真横で回転椅子に座り、にとりはUFOを弄くり回し続けているが、未だに何の成果も得られていない。どこか、機械ならばどこかに『つなぎ目』が存在しているはずだ。誰かに作られた存在であるはずなのだから。しかし
「フツーはネジか何かがあるはずなんだけどなーー。無いんならドライバーも使えないし、取り外せる部分も無いんだよね。バーナーで焼き切った方が良いかな。いや、でも失敗したら爆発するかも……?」
爆発はまずい。こんなところで起きてしまったら、せっかく作ったロボットもおしゃかになってしまう。バーナーは使えない。が、彼女のカナヅチを振るう腕は止まらなかった。再びUFOに振り下ろされ、金属同士がぶつかる嫌な音を周りに響かせる。それから数度叩くが、UFOはかなり頑丈でヘコミ一つも付くことはなかった。
ようやく観念したのか、にとりはカナヅチを元あった作業台の上に戻し、UFOも近くにあった木箱の中に入れる。上からかぶせて、まるで何かからその存在を隠すように。
「ふゥ〜〜ん……」
にとりはジロリと工房の入り口へ目をやる。朝というだけあって、他の河童たちは未だ布団の中のようだ。冬の布団の中は天国である。
しかし、彼女の工房には客が来ている。その気配をにとりは感じ取ったいた。誰なのかは分からないが、先程からずっと監視されているような気がしてならない。おかげでUFOイジりも
「誰かは知らないけど、私の作業場に一体何の用かな? 泥棒なのかね」
『………………』
「……返事無しか。ふふふ。相手が妖怪河童だと思って、いざ忍び込もうとしたら尻込みしちゃったとかぁ? 根性無いんだなぁ、君ィ」
『………………』
工房付近で影が揺らめいている。誰かはいる。そこに存在があることは分かるが、依然それが何者かなのかは分からない。にとりは姿を見てやろうと、相手の怒りを誘うように挑発を繰り返すが、効果は今ひとつのようだ。
(あいつ……私がUFOを拾うところを見たのかな。それを追って来たとか………………面倒だなぁ。ちょいと
にとりは左手を伸ばし、作業台の上に置いたカナヅチを手に取ろうとした。
小汚いエプロンを身に付けて、カナヅチをブンブン振るっていれば並の者だったら恐怖で逃げて行くだろうと考えてのことである。たとえ相手が恐怖せずとも、工房の持ち主が異常者だと分かれば(不本意だけども)、それでも退散間違い無し。と、テンションが上がっていたからか、浅はかな考えの下で行動を取る彼女だった。が…………
「…………?」
(……さ、作業台が……無い?)
彼女の左手は空を切る。自身の左手側にあったはずの作業台は、影も形も消えていたのだ。視線を移しても作業台もカナヅチも見当たらない。だが、おかしな点はこれだけではなかったのだ。
「!? え、看板の文字が…………!?」
『!意注に上頭』
文字が逆さま。いや、それ以前に看板のある位置が本来とは左右逆になっていた!
それに気が付いたにとりは、今度は右手側へと視線を移す。そこにあったのは消えたはずの作業台。そしてカナヅチである。景色が普段のものと逆転しているものになっているのだ。
「左右が逆転してるだろ?
「!?」
「お前がさっき拾ったもの、渡してもらおうか!」
工房に男の声が響く。にとりが声が発せられた入り口の方を見やると、そこには異形の者がいた。
いや、形だけならにとりと変わりはない。腕と脚が2本ずつ、しっかりとついている。だが色が違う。明らかに人間ではない。ゴーグルかサングラスのような目をして、真っ黒な服で身を包み、さらに暗い灰色の肌をしている。にとりは彼の姿を見た瞬間、すぐに分かった。こいつは妖怪ではない。こいつは、スタンドだ。
「さっき拾った? 何のことかさっぱりだな〜〜……」
「おいおい、つまらない嘘はつくんじゃあないぞ。お前がさっき言ったように、俺はお前が
「やーだね。断る!」
「ならば死ねッ!」
にとりはスタンドの要求を突っぱね、舌を出して挑発を続ける。それに乗ってかわざとか、スタンドは足を進めてにとりへと襲いかかった。にとりは無意味にこうしたのではなく、勝算があった上でこの行動を取っていた。それはスタンドへの知識。
河童は天狗たちとは同じ山の妖怪であり、ある程度のコミュニケーションを取っている。いつかの記者、射命丸によってばら撒かれたスタンドの情報は天狗たちの中だけでなく、河童たちにも広まっていたのだ。『スタンド能力は一つだけである』と。例外はいるようだが(K・クリムゾンのような)、基本スタンドは能力を一つもっている。目の前のこのスタンドが『鏡の中へと引きずり込む能力』ならば、それ以外のことは直接触れて行うしかない。攻撃すらも、やつは殴りや蹴りしかしないはずだ、にとりはそう考えていた。
河童は人間よりもパワーがある。スタンドたちの中にもパワーが強いやつはいる、と聞いたことがあるが、敵はどうにもそう思えない。あんなにヒョロいのだから、どうせ力は私の方が優れているのだと、にとりはある種の自尊心を抱いていた。近くにあるカナヅチで頭を殴ってやれば、すぐに倒れておしまい。そうなると…………
「へっ、間抜け! そんなヒョロい腕で私に勝てると思ってるのか! その悪趣味な顔面叩き割ってやるよッ!」
「…………」
スタンドはズンズン距離を詰めて来る。うすら笑いを浮かべて、妖怪への恐怖がまるで無いようだ。にとりはそれをいいことに、相手から見えないように体を作業台の方へ動かすと、自分の後ろでカナヅチへと手を伸ばす。やつが触れる位置まで来たら、こいつをあのツルツルの頭頂部にめり込ませてやる。そう意気込むにとり。
スタンドとの距離は5m……4m……と縮まっていく。数えずとも、ものの数秒で到達する。同時ににとりの指先もカナヅチの柄に触れる。ここからは早撃ち勝負だ。どちらが早いか、勝負の行方は。
「……さて、ここで拳が届く位置……」
「くらえッ…………!!」
「……フン」
互いの腕の射程内へスタンドが踏み入れた瞬間、にとりの右腕がブレる。背後にあるカナヅチを掴み、スタンドへ殴りかかった。と思った直後……
「……ッ!?」
(カナヅチが……動かない!?)
「間抜けはお前の方だな!」
ドバッ ドゴォ!
「あぶッ!?」
カナヅチを掴んだ腕は持ち上げられず、にとりはスタンドの拳を顔面に受けて壁に吹っ飛ぶ。腕が上がらなかったというより、カナヅチが、まるで接着剤で作業台にくっついていたかのような感覚だった。そして、おかしなことは他にも起こっている。にとりは壁に激突したわけだが、この工房の壁には色々と工具だったり、看板だったり、鏡が掛けられている。激突の衝撃で、落ちることはなくとも揺れるかズレるかはするはずだ。しかし、それもない。
赤く染まり、腫れた頬を撫でつつにとりは視線を上げ、未だ笑みを消さないスタンドを睨みつける。カナヅチが動かなかったのは、このスタンドの能力だと予想していたのだ。
「な……何をした……? カナヅチが作業台から離れなかった…………お前の能力か!」
「ククク。どうだろうな。俺がそうした、というより
「なに?」
「『鏡の中』は『死の世界』。引きずり込まれた『生きる存在』は、この『死の世界』の物体を動かすことはできない。どんなに軽かろうと、小さかろうと動かせない。生物であるかぎりな」
「……私の服とブーツは動いてるけど」
「そいつはエネルギーだ。鏡の中に入ってきたお前の精神に引っ張られてきた、あくまでヴィジョンにすぎない。裸の状態で送られたかったか?」
「ヘン! お気遣いどーも……」
反抗的な態度を崩さぬまま、にとりは壁を伝って立ち上がる。彼女の中ではすでに第2ラウンドが始まっていた。彼女の並々ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、スタンドは浮かべていた笑みを消し、顎を引いてにとりの顔を見る。その右手は徐々に開き出し、前へともたげられる。
「おい、何を……するつもりだ……!?」
「物を動かせないなら、私が素直に降参するとでも? 私たち妖怪には、ルールとして許された『技』があるんだ。それを見せてやる!」
「チッ、退避した方がいいか……!」
「『弾幕』から逃げれるかな。すでに射程内!」
スタンドは後ろは飛び退くが、工房から出るにはさらに一、ニ歩必要だ。その間に、にとりが構えた右手に何やら風が収束していく。それこそが彼女の言う『弾幕』だ。
幻想郷内で許された決闘法『スペルカードルール』。元々強い妖怪に対して力の無い人間でもある程度対抗できるよう、現博麗の巫女によって作られた。それに用いられる『弾幕』は、使用者の霊力や妖力によって生み出される。妖怪であるにとりならばもちろん、弾幕を生み出すのは他愛もないこと。
そしてスペルカード決闘では、まれに死人も出る。
「ぬぅぅ!? マズいか……ッ!」
「くらってくたばれ、『弾幕』をッ!!」
ボガァアァ〜〜ーーン!
「!?」
(なッ!? だ、弾幕が出なかった……!? そ、外の木が爆発するなんて……!?)
「……フ、ハハハハハ。ぬえが言ってた通りだな!」
「な、なに!?」
にとりから離れかけていたスタンドは、再び笑いを表に出した。ぬえが言っていた」というフレーズより、にとりはスタンドが弾幕の存在を知っていたことを理解する。が、気になることもある。『ぬえ』とやらが言っていたのは弾幕の存在についてなのだろうが、「言っていた通り」ということはそれ以外にも知らされていたことがある、ということ。にとりの弾幕は現れず、その代わりに川を挟んで工房の正面に立つ木が爆発するであろうと、このスタンドはなぜかあらかじめ予測できていたのだ。
「俺はとある妖怪から依頼を受けた……名前は言っちまったが、そいつの名前は封獣ぬえ。何でも、魔法の力が込められた『飛倉の破片』とやらが欲しいらしい。まぁ、それは置いといて……だ。どうしてお前の弾幕が俺に当たらず、
「「当たった」? 私の弾幕は出なかったんじゃあないのか。お、お前には見えていたのか!」
「あ〜〜……ダメだな。俺も勢いあまって口を滑らせちまった……話がややこしくなったな」
「質問に答えろ!」
「うるせェーなーーーー。さっき言っただろ。『鏡の中』は『死の世界』だ。お前らの使う弾幕は霊力だのから作られると聞いたが、それは俺たちスタンドのように魂に関係しているらしいな。それが答えだ。魂から生み出される弾幕は、俺が許可しないかぎりこの世界に来ることはない! よって、お前の攻撃は俺に当たることはない」
「な、何だとぉ〜〜…………」
弾幕とスタンドは全くの別物。しかし、その根源は同じ。かつてこのスタンドの本体、イルーゾォがブチャラティの部下であるパンナコッタ・フーゴと戦った際も同じ現象が起きていた。魂、精神のエネルギーより生み出されるスタンドは、たとえフーゴが鏡の中で発現させようとしても、外の世界でしか出てこれない。外と鏡の中で、完全に分離してしまうのだ。これが『マン・イン・ザ・ミラー』の能力。彼が許可しないかぎり、『生物』は鏡の中へは入ってこられない。
道具は使えない。弾幕も使えない。今いる場所は左右が逆さまの『鏡の中』。
だが、こんな絶望の淵へ立たされようとも、にとりの瞳から諦めの色は見えない。彼女はまだ戦うつもりだ。
「なんだぁ? その目は! おとなしく飛倉の破片を差し出しておけば、痛い目には合わないんだぜ」
M・I・ザ・ミラーはそう言うと、にとりへ再び近づき、近くの作業台へ手を伸ばす。「何をするつもりだ」と思った直後、台の上に置かれていたカナヅチを手に取り、それを思い切り彼女の頭へ。
ゴシャァン!
「ばぐぅッ!?」
「女だからって容赦すると思ったか? 悪いが、
「あ……ぅあ…………ぐ」
「早く喋った方が身のためだぜ。お前は俺に勝てない。鏡の中で物を動かせるのは俺だけだ。『生物』では俺だけ。いや、スタンドは生物とは言えねぇか……」
「!」
頭から血を流し、
ズキズキと痛む傷口をなんとか無視しながら、にとりは顔を上げる。浮かんでいたのは笑みである。
「何だ。その顔は。まだ抵抗する気か?」
「…………そうさ。お前、自分で弱点を晒すなんて……やっぱり間抜けだね……!」
「あぁ?」
「この世界で物を動かせるのはあんただけ。
「…………!」
M・I・ザ・ミラーは見透かされていた。
M・I・ザ・ミラーの背後、机や棚の上には様々な物が散らばっている。にとりが作る機械の設計図。ものさし。釘。えんぴつに消しゴム。そして、コップに入った飲みかけの水。
コップの中の水はM・I・ザ・ミラーが気付かない中で小さく暴れ出し、カタカタとコップを震わせていた。
マン・イン・ザ・ミラーは五部の暗殺チームの中では一番好きなスタンドです。ルックス、能力ともにとても良い!
でも五部全体で見たらキング・クリムゾンです。
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない