幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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暗殺チームの人気、すごいですね。
私はイルーゾォを推します。


59.温かくそして濡れている

「何を考えてるのか知らねぇが、この状況はひっくり返らねぇッ! さっさと破片の在処(ありか)を言え!」

 

「うぐぅ! ガハッ……!」

 

 壁に背をつけて倒れているにとりにM・I・ザ・ミラーの蹴りが入れられる。先程彼女へ吐き捨てたように、彼は容赦するつもりはない。抵抗しなければ、飛倉の破片を隠した場所を言えば、すぐにでも能力は解除しよう。だというのに、にとりはずっと黙ったまま。イラ立ちもどんどん募っていく。

 

「フン……! まぁ、いい。お前に口を割る意志が無いなら、俺は自力で探し出すだけだ」

 

「!」

 

「……あの木箱とか怪しいな」

 

「…………ッ!」

 

 しびれを切らしたM・I・ザ・ミラーはにとりを諦め、部屋の隅へ不自然に寄せられた木箱へ目をやる。勘のいいことに、その箱の中こそにとりがUFOを隠した場所だ。にとりは『飛倉の破片』が何であるかは知らないが、とにかくM・I・ザ・ミラーがそれを狙っていることは理解している。

 「初めに見つけたのは私だ」と、にとりは断固としてUFOを差し出すつもりはない。なんなら、こんなやつ(M・I・ザ・ミラー)に好き勝手殴られたあげく、物まで奪われるということを彼女のプライドが許せなかった。

 木箱へ手を伸ばしつつあるM・I・ザ・ミラーへ、にとりは勢いよく飛びかかる!

 

「こんのぉ〜〜……渡すもんかァ! 私のだぞ!」

 

「ぅぐゥ!? て、てめぇ…………!」

(こいつ……ガキみたいな姿してなんてパワーしてやがるんだ!? ぬえが「姿に惑わされるな」と言っていた意味が今……わ、分かったぜ……ッ!)

 

 にとりはM・I・ザ・ミラーが木箱に気を取られた隙を突き、彼の首元へ腕を絡ませる。そして飛び込んだ勢いを完全に殺さぬまま、反動をつけて腕を後ろへ強く引っ張った。体重はそこまで重くない彼女だが、相撲を取ることで有名な河童の怪力を以ってしてM・I・ザ・ミラーを抑えられているのだ。

 自分だけのフィールドで戦うM・I・ザ・ミラーだが、彼の力は()()()()()()力を発揮できる。スタンドパワーは微量ながら上昇するのだ。人間よりも少々強いだけだが、それでも子ども、しかも女に完封されるというのは彼の想像を大きく超えていた。

 

「ぐぉ……このッ……離さねぇか!」

 

「うぎぎ……ッ!」

 

ガシャアン! バギャッ!

 

「うハァッ……!」

 

 しがみつくにとりを剥がすため、M・I・ザ・ミラーは体を大きく揺らして工房の至る所へにとりをぶつける。机の角や壁、鉄でできたあらゆる物がにとりの背中に刺さり、苦しむ声が漏れて出ている。しかし、にとりは腕を離さない。UFOとプライドを守るため、そして、スタンドに()()()()()()()()()をバレないようにするため。

 

 

 

ジュル……ウジュルウジュル……

 

 

 

 暴れるM・I・ザ・ミラーにぶつかられた金属製のロッカーの引き出しがいくつか開く。その中へ、にとりが先程飲んでいた水がゆっくり侵入しつつあった。コップが倒された衝撃によって垂れていくのではなく、まるで水そのものが意思をもつかのように。そして、その引き出しにはネームプレートが表に貼られており、中にしまわれている物の名前を書いてある。水が入っていく引き出しにあるのは、『炭酸カルシウム』。

 

「いい加減……離さねぇかッ!」

 

「ハゥッ!」

 

 物にぶつけても一向に腕を離さないにとりに、ついに我慢できなくなったM・I・ザ・ミラーは己の肘を彼女の顔に叩きつけ、その勢いで壁へと吹っ飛ばす。壁に激突し、肺を出入りする空気がストップしてしまい、にとりの喉からは壊れたリコーダーのような乾いた音が発せられる。

 この時点で相当なダメージを負った彼女だが、現実はどれだけ可哀想であっても決して手加減しない。さらなる『厄災』が彼女を襲うのだ。

 

ブッシュオォォォォ!!

 

「うあぁぁッ!?」

(あ、熱ッ!! しまった…………パイプが壊れて、中の蒸気が……ッ!)

 

「おっと…………俺も危なかったな。それにぶつかってたら、俺も同じ目に遭ってたはずだぜ……」

 

「うッ……くぅぅ……」

 

「左腕のほとんどに火傷を負ったな……それもかなり重度の。その腕じゃあ、絶対俺に敵わない! 最後の忠告だ。諦めな。命までは取らないでおいてやる」

 

 にとりが激突した壁には太いパイプが走っている。M・I・ザ・ミラーが暴れた際にパイプが壊れ、入ってしまったヒビから真っ白い高熱の蒸気が噴いてにとりを襲ったのだ。

 M・I・ザ・ミラーが言うように、にとりは重症を負ってしまった。河童は水分が命。熱にはとことん弱い。この状況下で、殴り合いで勝つ道も無くなってしまった。

 大きなダメージによって動けないにとりを差し置いて、M・I・ザ・ミラーはいよいよ木箱を持ち上げる。中にあったのは、不思議なオーラを放つ木材であった。

 

「ククク……ハハハハ! ついに見つけたぞ! やはりこの箱の中に隠していたな。こいつを回収してぬえに渡せば、俺はイルーゾォを復活させることができるッ!」

 

「…………ッ!?」

(な、何だ!? ユ、UFOが……木の板に……)

 

「クククク。おかしな目をしてるなァ〜〜。まぁ、そうだろうな。()()()()()()()()()()()は知らないが、これがこいつの正体だ。ぬえがばら撒いた『種』により、本来の姿が隠されていたんだからな。まぁ、お望みの物はニセモノだったということだ。これで諦めがついただろう?」

 

 M・I・ザ・ミラーはそう言い、工房の出口へと向かう。彼の目的はたったの()()()()で、さんざん痛めつけたにとりは何の用も無かったのだ。にとりの中にはもはやUFOのことなど微塵も無い。あるのは、悠々と去ろうとしているこのスタンドに、今までの落とし前をつけてやるという燃えるような激情。

 にとりは商売敵や接するあらゆる者に不遜な態度を取り、プライドがとても高い一面をもつ。しかし、ある意味ではそれだけ自尊心が高く、自分という存在に誇りをもっているということ。彼女は負けたままではいられない。

 左腕に代わるように、M・I・ザ・ミラーが背を向けた瞬間、右手を左手側から右手側へ一直線に薙ぎ払う!

 

 

バシャアァッ!!

 

 

「! 何だッ!?」

 

「ハーーッ……ハーーッ……!」

 

「にとり……何を考えてる……? 弾幕か何かは知らないが、鏡の外の世界の()()操ったな。いや、これは…………水か!?」

 

 鏡の中の世界ではM・I・ザ・ミラー以外の者は何も動かすことはできない。鏡の中にいる者が作用させた運動エネルギーは完全に消えるが、スタンドや弾幕など、精神や魂のエネルギーから生み出されたものは消えることはなく、外の世界にて作用する。にとりはそれをした。

 彼女が動かしたのは水である。弾幕を使ったわけではない。これは彼女に元々備わる能力であり、河童という種族として身についたもの。弾幕同様、彼女の魂から生まれたエネルギーであるため、一度外の世界にエネルギーが出て、飲みかけの水に作用したのだ。

 では、この水。一体何のために動かされたのか? 水がかけられたのは、壁に寄せられていた金属の塊。つまり、()()()()()()()()()()

 

 

バチバチィッ バチッ!

 

 

「う、うぉおおぉお!? ひ、火花がッ……!」

 

「金属じゃあなくて、()()が木なら! 燃えるだろ」

 

 

ボッ  ゴォオオオォォ!!

 

 

「狙うのは形成逆転……! お前はタダじゃ帰さない。そいつも、私はいらないがお前が欲しいというのならば、燃やして炭にしてやるッ!」

 

「な、何やってんだァ!? てめェエエーーーーッ!!」

 

 水没した機械の関節部などがスパーク、大量の火花が飛び出した。それはM・I・ザ・ミラーへ雨のようにに降り注ぎ、彼が手に持つ飛倉の破片に火を起こしたのだ!

 

「く、くそォ!! 火を消さなくては…………! どこかに水は……!?」

 

「……表に川があるけど、どうかな。辿り着く前に完全に燃え尽きちゃうかも?」

 

「にとりィ……! 何か企んでやがると思ってはいた……やけにしぶといと! これが狙いかぁ? えぇ!」

 

「………………」

 

 M・I・ザ・ミラーの問いへ、にとりは沈黙を返す。

 破片に燃える火は彼を嘲笑うかのように揺れ、掴んでいるM・I・ザ・ミラーの手にも移ろうとしていた。

 彼は何としてでも火を消さんとするが、水などどこにも見当たらない。こうなってしまえば、もはや水でなくとも火が消せれば何でもよかった。砂や泥でもいい、何か他に無いのか?

 

「! こいつだ……いっそのことこれで構わないッ! た、炭酸カルシウム! ちょうど粉末状だ…………! こいつを浴びせて火を消してやる!」

 

「!」

 

 M・I・ザ・ミラーはロッカーの引き出しに書かれている炭酸カルシウムのプレートを見つけ、破片を持たない方の手でおもむろに粉を鷲掴みにする。そして床に破片を叩きつけるように落とすと、思い切り破片の炎へと炭酸カルシウムをぶっかけた。

 火は酸素があるからこそ燃える。そこでM・I・ザ・ミラーは、粉状になっている炭酸カルシウムを大量に浴びせ、外の酸素と接しないようにすれば自然と火は消えると考えたのだ。実際、炭酸カルシウムは化学式から分かるように、酸素と加熱(酸化)させれば二酸化炭素が発生する。これによって、直接している火の勢いも弱まるのだ。

 そして、実際に破片に燃えていた火の大きさもどんどん小さくなっていく。M・I・ザ・ミラーの考えは見事当たったのだった。

 

「ハ、ハハハハハッ! 残念だったなぁ、にとり! お前の作戦は見事に失敗したッ! 見てみろ。火がどんどん弱まっていくぜ。破片もオーラが消えてない……効力が衰えてない証拠だ!」

 

「………………」

 

「火が完全に消えたらすぐにここを出て行ってやるよ。そこに置いてあるロボット作りを、せいぜい頑張りな!」

 

 

バシャアァア〜〜ッ!

 

 

「……あ?」

 

 M・I・ザ・ミラーが調子を取り戻し、炭酸カルシウムを浴びせる手が止まない中、不思議な音が響いた。

 彼が手にし、炎に浴びせていたのは粉。渇ききった物質である。しかし、響いた音には明らかに水分が含まれており…………いや、まるで水分そのものであった。M・I・ザ・ミラーは自身の手と、床に飛び散った謎の液体を見て察する。これは水だ。手は炭酸カルシウムが微量ながら残っていたようで、若干白くなっているが、床を見るかぎりでは無色透明。(にお)いもない。「なぜいきなり水が?」と一瞬思うM・I・ザ・ミラーだったが、犯人は明白。先程も水が操られていたことより、これもにとりの仕業だ。

 

「に、にとりか…………お、お前……今度は一体何のつもりだッ……!?」

 

「炭酸カルシウム……使ってくれたことに感謝するよ…………私はそれを使ってもらえなきゃ、きっと()()()()()()。でも、もう勝ちだ。私のね」

 

「何だとォ……!?」

 

「炭酸カルシウムは加熱すると二酸化炭素が発生する…………炭酸はCとOが混ざってて、Cが空気中の酸素と化合するからだ。それで、残った方はどうなるかというと…………酸化カルシウムになる」

 

「…………」

 

「酸化カルシウム……一体どんな性質をもってると思うね? お前は分かるかな?」

 

 にとりの口ぶりからして、彼女はM・I・ザ・ミラーが炭酸カルシウムを消火に使うと予測し、後にできる酸化カルシウムの性質を使おうとしていたらしい。発明、実験、考察を日々繰り返しているにとりならではの戦法と言ってもいいだろう。

 問われているM・I・ザ・ミラーだが、にとりは自分の予測の上を行っていると感じ始めていた。その生まれつつある動揺により、彼の頭は酸化カルシウムの性質を考え出せないでいる。考える代わりに彼が取った行動は…………

 

「……!? こ、こいつは…………ッ!?」

 

 

グツグツ……ボコ ボコボコボコ

 

 

「カンニングだぞ……でも、分かったようだな」

 

「み、水が……沸騰していやがるッ…………!」

 

 M・I・ザ・ミラーが床にこぼれた水へ目を移すと、火の気が消えたはずの酸化カルシウムの山の上で水が沸騰していた。にとりは全て知っていたのだ。コップの中の水を半分に分け、一方を機械に浴びせて火花を散らせた。残る一方は炭酸カルシウムの入っている引き出しに忍ばせており、破片が燃えた時にM・I・ザ・ミラー、彼自身の手で水を浴せたのである。全て、彼女の計画通り。

 

「お、お前ッ、この沸騰した水で何をするつもりなんだ!? あぁ!?」

 

「…………そんなの分かってるくせに……私はさっきから水を操っていたんだよ。沸騰してる水は床にこぼれたままで、今は役立たずだ。でも、わざと沸騰させたんだから、それにも役割があるんだ。もう理解できるだろう?」

 

「…………ッ!」

 

 にとりは右手を前へ出し、指を下から上へ、素早く振り上げた。次の瞬間、M・I・ザ・ミラーが予想していた出来事が見事に起こる。

 沸騰した水はボコボコと音を立てながら、宙へと昇っていく。もちろん湯気も上げながらだ。そしてゆっくり、ゆっくりM・I・ザ・ミラーへと近付いていく。にとりはこの湯を彼に浴びせるつもりである。

 

「う、ぅおぉおおおぉおおおッ!!」

 

「もう遅いッ! 数百℃にも達するお湯をくらえッ!」

 

 M・I・ザ・ミラーは踵を返し、工房の出口へ走る。これ以上ないほどのパワーで床を蹴飛ばし、全力で脱出を試みるが、にとりが言うように何もかもが手遅れだった。

 

 

 

ジュゥワアァアァァ〜〜ーーーーッ!

 

 

 

「ぐぅあァアァァァーーーーッ!?」

 

「ヒャーー……すごい…………」

 

「ち、ちくしょうッ……! チクショウッ! うぐっ……クソォオオオッ!!」

 

 熱湯を被せられ、M・I・ザ・ミラーは苦しみのあまり、先程よりもさらに激しくのたうち回る。熱い湯を被った箇所は、まるでウイルス性の病気のようにブツブツと水脹れができ、にとりの左腕よりも酷い火傷を負ってしまっていた。

 工房のあらゆる物にぶつかり、M・I・ザ・ミラーの怪我がさらに悪化していく中、炭酸カルシウムが入っていたロッカーからある物が落ちてくる。それはにとりが大切にしていた物の一つである、ロボットの操作キーだった。にとりが遠目からそれを確認すると、暴れ回るM・I・ザ・ミラーに壊されぬよう、カードを体で隠すために動き出す。

 しかし…………

 

「! あっ…………」

 

「ハーーッ、ハーーッ……マヌケがッ……! わざわざ向かってくるとはな……! このカードが大切だってこと、みすみす俺に教えるとは」

 

 にとりがカードへ向かったことを、M・I・ザ・ミラーは見逃していなかった。のたうち回るフリをして、彼はにとりの次なる行動を予測、観察していたのだ。

 M・I・ザ・ミラーは向かって来たにとりの狙いがカードだと知ると、彼女が到達するよりも早くにカードを奪い取った。

 

「し、しまった……!」

 

「このカード……描かれているこのマークに見覚えがあるぞ…………これは、工房の入り口側に置いてあるロボットの胸元にあったのとそっくりだッ! つまりこれは、ロボットの操作キー! あれをこのカードで動かせるのか!」

 

「そ、それを返せッ!」

 

「誰が返す! お前にこれを渡しちまったら、あのロボットで俺を攻撃してくるかもしれない……その可能性は潰さないとな。もしくは、お前が死ぬか!?」

 

 にとりは奪われたカードを取り返そうとするが、軽くいなされて手が届かない。M・I・ザ・ミラーは確実にカードを破壊するつもりである。カードを破壊するか、にとりを殺すかによって逃走を成功させるために、彼は本気である。互いに手負であるが、まだ彼の方が分がある。

 

「決めたぜ。カードを破壊する! 良心的だろう? 破片を持ち出し、この場を離れたら能力も解除してやるッ!」

 

「く、くそ……やめろォ……!」

 

「真っ二つに叩き割っ……て…………ッ!?」

 

「!」

 

「こ、今度は何だァ〜〜〜〜!? いきなりカードが消えたぞッ!! どうなってやがるッ…………!」

 

 

『わぁ! これがにとりさんが言ってたロボットの操作キーですね! まさか宙に浮いてるだなんて、私、感動しちゃった! まさか反重力!?』

 

 

『!?』

 

 M・I・ザ・ミラーがカードを叩き割ろうとした瞬間、手に持っていたはずのカードが姿を消した。そしてそれに気付くと同時に、にとりのものとは違う、女の声が聴こえてきた。

 鏡の中にいるのはM・I・ザ・ミラーとにとりの2人だけである。よって、響いてきたこの声は鏡の世界の外にいる者が発したものだ。それに気付いたM・I・ザ・ミラーは壁に掛かっている楕円形の鏡に飛びつき、外の世界の様子を見る。そこで彼が見たのは、消えたカードを両手でつまみ、まじまじと見つめる緑髪の少女の姿。今日、にとりの工房へ来る予定であった東風谷早苗だ。

 彼女はにとりとM・I・ザ・ミラーの戦いに全く気付いておらず、鏡の中でカードを持っていたスタンドの存在も知らない。ただただ、今日にとりに見せられる予定だったロボットのカードを、目を輝かせながら見ているだけであった。

 

「さ、早苗…………!」

(そうだ……今日来る予定だったんだ。私が招いていたんだった……!)

 

「な、何だ……あのガキは? 何をするつもりなんだ?」

 

『う〜〜ん、どうしよーな〜〜! にとりさんの姿は見えないけど……でも、カードは持ってるしーー……動かし……ちゃおっかな〜〜ッ!!』

 

「何ィ!?」

 

 早苗は手に持つカードをロボットに近付け、と思ったら離し、再び近付け……とソワソワしながら、カードを挿入してロボットを起動しようか迷っている。これはM・I・ザ・ミラーとしてはなんとか防ぎたいところ。余計なことをされ、何かしら思わぬハプニングが起きてしまっては堪らない。破片を壊されたり、あるいは自身が命を落とすなど、絶対にあってはならない!

 M・I・ザ・ミラーと早苗は互いに認識し合わないまま、いよいよ決心した。

 

『あ〜〜〜〜ん、我慢できない! もう挿れちゃう♡』

 

「させるか……! マン・イン・ザ・ミラー こいつが鏡の中に入ることを許可す……」

 

 

ガシャァア〜〜ーーン!

 

 

「ぐえッ…………!」

 

「……つ、ついに倒した…………! スタンドを……!」

 

 M・I・ザ・ミラーの魔の手が鏡面から抜け出し、早苗に襲いかかろうとしたした次の瞬間、ロボットの太い腕が振り抜かれて彼の胴体を強打。轟音を立てながら壁に吹き飛ばし、恐ろしい鏡のスタンドを気絶させてしまった。

 彼が気を失ったことにより、能力も解除される。にとりはようやく左右が正しい世界に舞い戻った。いきなり現れ、しかもボロボロになっている彼女を目にした早苗は驚きの声を上げる。

 

「うわぁ! び、びっくりしたぁ……にとりさん!? どうしてそんなにボロボロなんです!?」

 

「……いろいろあったのさ。それにしても、さすが奇跡を起こす風祝といったところかな……」

 

「え? 何のことか分からないですけど……それほどでもぉ〜〜!」

 

「やれやれ…………」

 

 にとりがため息を吐く中、早苗は調子の良さそうに照れる。きっとロボットが動いたことを言っているのだろうと思う彼女だが、にとりが言っているのは()()()()()()()()こと。『奇跡を起こす程度の能力』は、彼女が知らぬ間にはたらいていたようだ。

 早苗がロボットに夢中になっている間、にとりは壁際で気絶するスタンドをどうしようかと思案していた。視線はロボットに移しつつ。

 

 

 

____________________

 

 

 

「うっ……ぐ…………」

 

「やぁ、お目覚めかい?」

 

「! お前…………にとりッ……!」

 

 気絶したM・I・ザ・ミラーは数十分後に目を覚ます。目の前にはにとりがおり、椅子に座って昼食のおにぎりを頬張っていた。頭には包帯を巻いている。騒がしい声も消えていることから、早苗も既に出て行ってしまったようである。

 声をかけられたM・I・ザ・ミラーはスタンドならではの自然治癒力により、負傷部位をほぼ治しているものの、なぜか体が動かないまま。それは、座るにとりよりもやけに視線が高いところと関係していた。

 

「ぬっ……! ロ、ロボットか!?」

 

「そう。拘束してみました。どうかな? 掴まれ具合は。キツいかな〜〜?」

 

「ぐぉおあッ!? て、てめぇッ……!」

 

「もうそこからは出らんないね〜〜」

 

 M・I・ザ・ミラーは例の巨大ロボの手に捕まっており、先程はにとりの声に反応するシステムによって強く締め付けられたのだ。苦しむ彼の声に混じって、ミシミシと体が軋む音も聴こえていた。

 にとりはその様子を見ながら呑気におにぎりをかじり、コップに入った水を飲み干す。余裕を見せる今のにとりの姿からして、M・I・ザ・ミラーがやって来た時から完全に立場が逆転していた。

 

「にとりィ……お前、何が目的だッ……!?」

 

「うん、そうだなぁ〜〜。私としてはUFOも無くなったし、特にやることもないんだけど…………散々痛めつけてくれたお礼をしたいなぁ、と思ってるよ」

 

「何だとッ……!」

 

「ロボットの出力を、君をサンドバッグにして確かめるとかぁ〜〜…………スタンドって意志そのものって聞いたことあるけど、それを保ったままサイボーグにするとか、かな? 胸が躍るよ! なぁ、そうだろう?」

 

「………………」

 

 彼女自身が言うように、とてもワクワクしている跳ねるような声でM・I・ザ・ミラーに語りかける。内心「イカれてやがる」と思いつつも、今の状態ではにとりに抗えない。下手なことを口走り、彼女の癪に触ってしまえば何をされるか分かったものではない。言葉をぐっと呑み込む。

 しかし、この状況を脱しなければならないのは変わらない。M・I・ザ・ミラーはある物を探して工房内をぐるりと見回す。

 

「ふゥん。脱出するために鏡を探してるのかい?」

 

「!」

 

「君の能力はさっき見たからね。近くに鏡が無いと使えないんだろう? 早苗を鏡の中に引きずり込む時に鏡を使っていたからすぐに分かった。ということで、壁に掛けてた鏡は全て外してみました。さぁ、どうする? あははははは!」

 

「あァーー……こいつはまいったな……」

 

 圧倒的有利な状況ににとりは高笑いを工房中に響かせる。職業柄なのか、やはり観察眼には優れているようで、M・I・ザ・ミラーの能力を一回で看破していることには本人も驚いている。しかし、知っていれば対策しやすいと言えばそうであるが。

 そんなM・I・ザ・ミラー、口では降参しているようなことを言っているが、態度は少し元に戻りつつある。それはにとりも気付いているようで、彼が返答してから間髪入れずに言葉を続ける。

 

「ん? そう言う割に結構余裕ありそうじゃあないか? まだ何か手があるの? ぜひ見せてほしいな。見せれるものならね!」

 

バキバキ バキィッ!

 

「ぅああぁあッ!!」

 

「ほらほら、手があるんだったら使った方がいいよ。潰されない内にさ」

 

「…………ハ、ハハハハハ……! お前、にとりよぉ。俺の能力を()()()()()()つもりか?」

 

「……何だって?」

 

 M・I・ザ・ミラーは不敵な笑みを浮かべる。にとりは彼が放った言葉の意味をすぐに察することはなかったが、次に取ったM・I・ザ・ミラーの行動により完璧に理解した。

 彼は頭に『?』を浮かべるにとりが返事をした後、チラリと自分を捕まえているロボットの頭部へ目を移す。ロボの顔面の中心には、熱を探知するレンズが付いている。鏡を隠されようとも、能力発動には()()()()()()()よい!

 

(しまったッ! まさかこいつ、本当の鏡じゃなくても能力を使えるのか! ロボのレンズを鏡代わりに……!)

「ッ! K.N-MAXⅡ、そいつを握り潰せェ!!」

 

「言葉を返すぜ……! もう遅いッ! マン・イン・ザ・ミラー レンズを通して、鏡の世界に入ることを許可するッ!」

 

 にとりはロボットに指示を送るが、それよりも早く、M・I・ザ・ミラーの能力が発動する。

 彼のヴィジョンは水晶か何かが砕け散るようにして霧散していき、消滅してしまう。鏡の中に逃げられた証拠だ。しかしこの時、にとりは少し考え、ある仮説を導き出した。まだM・I・ザ・ミラーを完全に逃してしまったわけではないと、彼女は考える。

 

(待てよ。鏡の中に入っても鏡の世界を自由にワープできるとか、そういうことができるわけじゃあない。出てくる場所は同じはず……それに、鏡の世界では生物でなければ存在している。ここでロボットを大暴れさせれば、鏡の中のあいつも倒せるか!?)

「よし、K.N-MAXⅡ! 敵はまだ近くにいるはずだ。徹底的に暴れて、鏡のスタンドを倒すんだッ!」

 

 にとりは目の前の鉄塊にそう叫ぶ。が、ロボットからは何の反応もない。もちろん彼女はそれを「故障か?」と勘違いするが、それもそのはず。鏡の中に入ったのは、M・I・ザ・ミラーではない。にとりの方なのだから。

 それ故に、ロボットも鏡の中の者には反応できない。にとりが鏡の中にいることに気付くのは、近くに散乱している道具につまづいてからのことだった。

 そんな河童のことを他所に、M・I・ザ・ミラーは何とかロボットの腕から脱出。工房内を再び漁り、飛倉の破片を手に入れると、にとりの工房から十分離れた場所で能力を解除する。破片を抱え、彼は本体の復活を楽しみに、依頼人であるぬえの元へと飛んで行った。

 得られぬ『幻影』を追って。

 

 




早苗の登場シーンですが、ほんのちょっぴりジョジョリオンの影響を受けてます。モデルにしたスタンド能力は……あれ強いですよね。厄災。

ラスボスの能力って、七部から時間関係ないって言われがちですけど、無理矢理解釈するとそうでもないんですよね。
停止、巻き戻し、消去、加速、複製?、未来改変?

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
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