幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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文くんにアメリカンクラッカーを使ってほしかった人生だった……

ストーンオーシャンのop映像、久しぶりに神風動画なんでしょうか?
それっぽい感じですよね。


62.封獣ぬえとビーチ・ボーイ

 人里や妖怪の山でスタンドと幻想郷の住民の戦いが起こった日から翌日。真っ白な雲の上を、一隻の巨大な帆船が飛行していた。ロケットエンジンなどというものは一切なく、魔法の力だけで浮いている。それ故に、この船から聴こえる音は帆がバタバタとはためく音だけ。地上にいる者の多くがこの船が空を航行していることに気付かない。

 これが噂の宝船。今朝の文々。新聞の一面を飾ったもの。その甲板にて、霧雨魔理沙は嘔吐していた。

 

「お、おい魔理沙、大丈夫か?」

 

「ヤ、ヤバい……空飛ぶ船なんて初めて乗ったけど、こんなに酔うなんて思ってなかったぜ……うぶっ」

 

「箒に乗ってる時はスゴい荒い運転すんのにね」

 

 空から下に見える雲に向けて魔理沙は胃の中に溜まっていたものを吐き出している。彼女の背中をさするのは紅白の巫女服を着た霊夢で、反対側の端にて魔理沙に心配の声を掛けたのはシルバー・チャリオッツだ。横にはハイエロファントもいる。彼らはとある理由によってこの船に集まっているのだ。

 しかし特段真面目な用事でもないため、4人はほぼピクニック気分。魔理沙が船酔いに苦しんでいる間、ハイエロファントとチャリオッツは思い出話に花を咲かせていた。

 

「思い出すな、チャリオッツ。DIOのいるエジプトへ行くまでの間に、一体どれだけの乗り物をメチャクチャにしてきたか…………」

 

「あれ全部ジョースターさんが関わってるんだよな。俺たちと会うまでにも飛行機一機墜落させたんだろ?」

 

「あれが人生3回目だそうだ」

 

「ヒエェ〜〜、とんでも人生だな」

 

 もしもジョセフが乗っていたらこの船も墜ちるのだろうか、と少々失礼なことを言いつつ2人は空の旅を楽しんでいた。魔理沙に連れられて色々なところを飛行したハイエロファントだが、さすがに身を外に出したままで雲よりも高く飛んだことはない。中々良い経験だ、と呑気に考える。チャリオッツも同様であった。

 吐瀉物を吐き終わった魔理沙が顔を真っ青にして甲板に背もたれをしていると、それを待っていたかのように船尾にある倉から3つの影が現れる。大中小という身長差で現れた彼女らだが、うち一人は服がボロボロになった状態。いかにも何かがあったような雰囲気を出すが、甲板の4人は何も気にしていない様子であった。

 

「ん、飛倉の破片はそろったのか? 寅丸」

 

「はい。もうそろそろ魔界へ向かうことができます。協力感謝します。ハイエロファントさん」

 

「あぁ。いや、礼を言われるよりも、こちらの方が謝るべきだ。魔理沙たちがいきなり勝負を仕掛けてすまない」

 

「いえいえそんな…………」

 

「何言ってんのよ。ハイエロファント。妖怪退治と異変解決のポリシーは『疑わしきは叩きのめす』よ!」

 

 黄色と黒色が入り混じる髪の毛をした女性、寅丸星(とらまるしょう)はハイエロファントに申し訳なさを表情に表してお礼を言う。ハイエロファントの返答に対して謝罪を返そうとするが、魔理沙を置いて手持ち無沙汰になった霊夢が割り込んできた。賑やかなものであるが、ここで先日起こった戦いについて説明しなければならない。

 霧雨魔法店から出発したハイエロファント一行は、宝船こと『聖輦船(せいれんせん)』に向かう途中で霊夢と早苗と合流する。5人は共に船に追いついたところで、この船の寅丸星などの乗組員たちと弾幕戦を繰り広げた。勝利は見事霊夢、ハイエロファントたちが手にし、この船を乗っ取る…………ことはせず、とある目的のために魔界へ向かう乗組員たちを手伝うことになった。言い出しっぺはもちろん、ハイエロファントだ。というのも、チャリオッツが早朝にUFO(飛倉の破片)を拾っていたため、渡すついでに協力を申し出たのである。チャリオッツや霊夢は面倒、報酬が無いなら帰る、と言っていたものの、星に最高のおせち料理を提供すると言われてホイホイついてきていた。

 今この場に早苗がいないのは、魔界に行くまでにあと少しのエネルギーを蓄えるため、破片を探しに行っているからである。破片もとい飛宝はネズミのような少女、ナズーリンが方向をある程度特定しているため、後は回収しに行くのみであった。

 そんなナズーリンだが、不服なことがあるのか、少し顔をしかめた状態で主人である星に向かって言うことがあった。

 

「ご主人、礼を言うのはいいが、その服の替えは無いのか? 一応客の前なのにずっとその格好なのは……」

 

「う、うぅん……どうして私のだけ無かったんでしょう? ナズーリンたちのはあったのに。ハイエロファントさん、知りませんか?」

 

「し、知るわけないだろう……どうして僕に訊くんだ」

 

「チャリオッツさん……?」

 

()ったわけねェーーだろッ! 自分で失くしたものを人のせいにするんじゃあねェ!」

 

 星はチャリオッツに叱られ、仕方なく、といった感じでナズーリンに替えの服を探ってもらおうとする。星は甲板に顔を見せた3人の中で一番()()()方であるが、さすがのチャリオッツも服を盗むだなんてことはしない。正直ハイエロファントはほんの少し彼のことを疑ってしまったが。「それほど万能じゃない」と言いつつも、ナズーリンは主人の服を探すところを見るに、同じやり取りをしたことがあるのだろうかとスタンド2人は考えるのだった。

 そもそも替えの服があるのかどうかも分からない星のことを置いておいて、ハイエロファントたちはもう一人の女性に注目する。真っ白い服を着て、頭には紺色の布を被っている。ハイエロファントは彼女が尼僧だと理解するが、その横に不可解な存在がいるのだ。注目の的は()()なのだ。

 

「えェーーと、一輪……だっけ? あんたの名前」

 

「えぇ。そうよ。雲居一輪(くもいいちりん)ね。何か質問? 剣士さま」

 

「いや……その……なんだ。な? ハイエロファント。お前も……気になってるよな……?」

 

(ぼ、僕に振るのか)

「……いや、まぁ…………つかぬことを伺うようだが……その……君の左側にいるのはスタンド……なのか?」

 

「スタンド……?」

 

 一輪は自分の左横に(たたず)む者と顔を合わせる。ハイエロファントたちが妖怪ではないことは先に知ったが、彼女の左にいる()は彼らと同じ存在であるわけではない。

 ()()()()()()()ものの、彼はスタンドではない。煙か雲のように白く、若干半透明である彼。その正体とは妖怪、入道の雲山(うんざん)だ。

 

『………………』

 

「雲山はちゃんとした妖怪よ。ちょっとシャイというか、寡黙なんだけど…………うん。「よろしく」だって。私も含めてよろしくね」

 

「あ、あぁ……よろしく……」

 

「なんというか……すみませんでした……」

 

 雲山の無言の圧力(彼は全く加えているつもりはない)に気押され、チャリオッツとハイエロファントはほんの少し萎縮気味だ。雲山は何と言っても目力が凄い。眉間に(しわ)も寄っているし、彼は雲であるが雷オヤジのあだ名が実に似合いそうである。

 ハイエロファントたちは一輪と、霊夢は星たちと会話していると、こんどは船首の方からもう一人少女が姿を現した。水平帽とセーラー服に身を包み、星輦船の操舵手兼持ち主である船幽霊、村沙水蜜(むらさみなみつ)柄杓(ひしゃく)を片手に、ハイエロファントの方へとやって来る。

 

「空の旅はいかがかな? ハイエロファントくん」

 

「あぁ、快適だ。村沙船長」

 

「あはは。そう言われると気分が乗るよ。ここらで一旦船を停めようと思ってね。その報告よ。緑髪の子が戻ってくるのをここで待って、飛宝を補完したらいよいよ魔界へ出発だ」

 

「分かった。魔理沙たちにも伝えておくよ」

 

「なぁ、村沙。ちょっと質問があんだけどよ」

 

「うん?」

 

 チャリオッツが手を挙げて村沙へ質問を投げかける。その内容は飛宝についてだ。チャリオッツたちが耳にした、村沙たちの目的というのは魔界に封印されたという魔法使いの復活。自分たちも地底に封印されていたらしいが、先日の地底の異変の影響で地上に出てきたとのこと。村沙たち星輦船の乗組員である妖怪たちはその魔法使いに恩があるようで、地底の異変に便乗して地上へと脱出、そしてこうして封印を解くために魔界へ向かおうというらしいのだ。

 

「この船が地底に封印されてたのは分かったが、じゃあどうしてそのエネルギーになる飛宝まで別々にぶっ飛ばされたんだ? 船全体がバラバラになったならまだしも、飛宝だけ別なんてな」

 

「たしかに。この船はどこも欠けている部分は無さそうだ」

 

「あぁ……そのことね。私もそのことについて説明しようと思ってたんだ」

 

「理由が分かったのか?」

 

「うん。まぁ、大方ね。ハイエロファントくんたちが飛宝のことをUFOって言ってたことで分かったわ。私たちには元々の姿で見えたけど、他の人にはそれとは全く別の姿に見える現象……一輪は分かるよね?」

 

「……ぬえのこと?」

 

「大正解! どーしてこんなことをしたのかは知らないけどね〜〜」

 

 一輪と村沙は2人だけで会話を進める。質問者であるチャリオッツは完全に置いてけぼりだ。ぬえという者がどうやら絡んでいるようだが、その正体は2人は知らない。ハイエロファントは村沙に説明を求めた。

 

「なぁ、僕たちにも分かるように説明してくれ。ぬえって誰のことなんだ?」

 

「ぬえは私たちと一緒に地底に封印されてた妖怪よ。正体不明の妖怪、(ぬえ)ね。彼女の能力によって、おそらく飛宝は本来の姿を隠されていたのよ。()()()()()()()()()()()に見える能力」

 

「に、認識能力を操れるのか? そのぬえは」

 

「まぁ、隠された物の正体を分かってれば大丈夫だけどね。手触りや匂い、音の認識も書き換えることができるから、正体を探れば探るほど本来の正体は隠される」

 

 ぬえの恐ろしい能力を村沙から聞いていると、船の外で一つの人影が揺れる。何者だ、とハイエロファントとチャリオッツが顔を上げると、風になびく緑色の髪が見えた。村沙は「ようやく来たね」と呟き、反対側の船の端にいる霊夢たちも「おそーい!」と声を上げる。ついに早苗が到着したのだ。大きな籠に飛倉の破片を大量に詰めて背負っている。

 甲板に降り立った早苗は一輪に籠を渡すと、雲山が軽々とそれを持ち上げ、船尾にある倉へと引き返して行った。

 

「遅くなりました。森の中に不自然に飛宝が集められていた場所があって、籠に入れるのに手間取っちゃって」

 

「いや、いいのさ。これでいよいよ魔界へ行けるわけだね。一輪が法力を高めてくれるから、その補填が完了したら出発しよう」

 

「なんだなんだ。いよいよ行くのか?」

 

「魔界なんて初めて行くわねーー」

 

 一輪が倉へ行くと同時に、魔理沙や霊夢、星たちも村沙の元へ集まり出す。封印されている魔法使いの解放には興味無さそうな魔理沙と霊夢だが、行ったことのない魔界へ出向くのには少しワクワクしているようだ。彼女らはそれが幻想郷の住民らしさだと言いそうだが、ハイエロファントたちは『魔界』という物騒な名前に不安さを覚えずにはいられない。

 

「ハイエロファント……なんかよぉーー、今になってちょっと怖くなってきたぜ……」

 

「あぁ……僕も同じだ。『魔』の字がついてるから、不穏な雰囲気しか感じない」

 

「そもそも今日は大晦日だぜ。もっとゆっくり過ごすべきだ…………」

 

 チャリオッツの呟きに、ハイエロファントも「そういえばそうだったな」とこぼす。何を今更、と言われればそれまでになってしまうが。

 しかし、魔法店に住む3人の中で一番しっかりしているハイエロファントですら、大晦日という一年の中で最も忘れることのない日を頭の中に入れていなかった。元々幻想郷に住んでいる者はそうでもないようだが、やはり外からやって来て、従来とは違う暮らしの中で生きるスタンドたちは忙しさに振り回されてしまうようである。

 そのように、各々がそれぞれ思ったことを口にしていると、今度は早苗とは別の人影が船外に見えた。まず最初に気付いたのは村沙である。

 

「……噂をすればって感じ? ハイエロファントくん、さっき話してた子が来たよ」

 

「!」

 

 村沙の言葉を聞き、甲板にいる者全員が同じ方向へ注目を移す。真っ青な空と真っ白い雲の間に、一人の少女が浮遊していた。

 黒い髪をサイドへ流し、黒いワンピースと赤い大きなリボンを胸元に着けている。そしてその背中には、赤色と青色の奇妙な形をした翼のような物体が生えていた。彼女こそが封獣ぬえ。幻想郷中へ飛び散った飛宝に自分の能力をかけ、村沙たちの飛宝集めを邪魔していた犯人だ。

 

「まさか飛宝が集まっちゃうなんてね…………私が回収に向かわせたスタンドたち、みんなしくじったのか」

 

「!」

(ぬえ……スタンドの存在を知っている? 回収に向かわせたと言ったが……)

 

「村沙、知らないとは言わせないわ。人間と妖怪が手を取り合って、平和を作り出すなんて許されることじゃない! 平等はあり得ないわ」

 

「……ふ〜〜ん。船幽霊、そんなこと考えてたの? それはちょっと博麗の巫女として放っておけないような気もするけど…………ねぇ?」

 

「あはは〜〜……巫女さん……それは私たちが解放したい聖が掲げているものであって、私たちが目指してるわけじゃあないんだよぉ〜〜〜〜…………」

 

「今村沙……しれっと聖のせいにしませんでした?」

 

「いや、賢明な判断だよ。ご主人。ここで博麗の巫女を敵に回したら、下手したら船を堕とされるかも……」

 

「あん? お前ら何ゴニョゴニョ喋ってんだ?」

 

 ハイエロファントはぬえの言葉に食いつき、霊夢は村沙に詰め寄る。早苗と魔理沙は色々と理解が追いつかず、チャリオッツは様子のおかしい星たちを気にかけるなど、ぬえの出現によって甲板は軽く混乱していた。

 そんな状況を気にすることなく、ぬえは言葉を続けた。

 

「飛宝はもう集まっちゃったからしょうがないけど、最後に立ち塞がるのはこの私よッ! この私自身の弾幕と、スタンド『ビーチ・ボーイ』によってね!」

 

「何ッ!? スタンドだと!」

 

 ハイエロファントが目の色を変えて叫ぶ。ぬえはまさか、自分だけのスタンドをもっている? いや、まさかなと思う彼だが、注意しておくに越したことはない。

 そして次の瞬間、ぬえの広げられた右手から、鉄か何かでできた棒のような物体が伸びる。一同は出てきたその物体の正体をすぐに理解することはなかったが、徐々に正体を明らかにしていった。『釣竿』である。人型スタンドではなく、本体が直接手で操作するタイプの釣竿スタンド!

 

「スタンドは溢れ出る精神のエネルギー! よって、標的がたとえ幽霊であろうとも攻撃することができる。くらえ、村沙ッ!」

 

「!」

 

「何かヤバいッ! 村沙、避けるんだッ!」

 

 ハイエロファントは叫ぶが、村沙の体は彼の命令通りに動くことはなかった。ぬえはビーチ・ボーイを両手で思い切り振り、その釣り糸を村沙の方へと高速で飛ばす。避けることはできなかった村沙だが、なんとか攻撃は防ごうと腕は動き出す。釣り針と反射で動き出した左手がぶつかる…………と思われた時、ビーチ・ボーイの能力がはたらき出す。

 

 

チャポッ!

 

 

「つ、釣り針が手の中にッ!?」

 

「ハ、ハイエロファント、ヤバいんじゃあないのかッ! あの能力は何なんだ!?」

 

「分からない魔理沙…………とにかく、あれを引っ張り出すぞッ! チャリオッツ!」

 

「言われなくてもだ!」

 

 予想外の結果に、皆はそれぞれ驚きの声を上げる。ただ、並々ならぬ予感に襲われたハイエロファントとチャリオッツは村沙へ駆け寄り、彼女の左手の中にぐんぐん潜り込む釣り針を引っ張り出そうとする。

 ハイエロファントは糸を掴んで引っ張り、チャリオッツは村沙の腕や肩を掴んでハイエロファントとは逆方向へ引っ張る。しかしそれでもビーチ・ボーイの釣り糸は進行を止めることはできず、村沙は顔を引きつらせるばかりだ。

 

「うぅッ! ひ、左腕をどんどん上ってくる……もう肩のところまで来たよ!」

 

「くそッ、釣り糸が細くて上手く掴めないッ……! どんどん糸が進んでいくぞ!」

 

「どいてろ、ハイエロファントッ! 俺が糸をぶった斬ってやるぜッ!」

 

「おや、本当にいいのかなぁ〜〜?」

 

「何ッ……!?」

 

 糸を切断しようとするチャリオッツだが、ぬえの言葉に水を差されてしまう。握っていたレイピアが中途半端なところで止まり、ハイエロファント共々ぬえに注目する。

 

「今その状態で『糸』を攻撃したら、釣り針が潜っている村沙に攻撃のダメージが行っちゃうよ。その武器で叩っ斬ったら、村沙は即死しちゃうかも」

 

「……ハッタリだ。ハイエロファント、俺は斬るぜ!」

 

「…………いや、待て。チャリオッツ」

 

「なんでだ!? 村沙が殺されちまうんだぞ。お前が飛宝集めを手伝うって言ったんだろッ!」

 

「………………」

(あぁ。言った…………UFOを持ってたついでだが。ぬえが言ってることが本当ならば、チャリオッツが釣り糸を攻撃しても村沙は死ぬ。しかし…………)

 

 ハイエロファントに瞳は無い。故に、外からはハイエロファントがどこを向いているのかはハッキリとは分からない。それを利用し、ハイエロファントはぬえがビーチ・ボーイを握っている方とは別の手に目をやっていた。体で隠しているつもりなんだろうが、その手には弾幕が込められている。おそらく、チャリオッツが自分の制止を振り切ってレイピアで糸を斬ろうとした瞬間、弾幕を当てようと考えているらしい。言い方を変えれば、ぬえは村沙にダメージが行く前に、チャリオッツを邪魔しようというのだ。しかし、隙ならば先程ハイエロファントとチャリオッツが糸を引っこ抜こうとしていた時十分見られたはずだ。そこを狙わなかったのはおそらく、スタンドの操作と弾幕攻撃を上手く両立させられないのかあるいは…………

 それに、ぬえはわざわざビーチ・ボーイの特性を今、口に出して話した。対策を取れと言っているようなものである。ハイエロファントはこの2つの事柄から、ある考えを導き出した。

 

「チャリオッツ……ぬえの狙いが分かったかもしれない」

 

「何だと……!? い、一体何なんだ? 手短に話せよ。村沙の心臓に釣り針が向かってる!」

 

「ぬえに村沙を殺すもつもりはない」

 

「何ッ……!?」

 

 ハイエロファントは小さい声で告げ、チャリオッツもまた小さめの声で驚きの声を上げる。彼らの会話の内容はぬえに届いてはいない。ぬえはビーチ・ボーイを振りかざしながら、ハイエロファントたちに脅し文句を吐く。

 

「おい! ゴチャゴチャ何を話してるのよ。村沙がどうなったもいいわけ!? このままだと釣り針は心臓に侵入して、ビリビリに破っちゃうんだよッ! 分かったなら、大人しく魔法使いの救出を断念するんだ」

 

「そ、それはやめなさい! ぬえ、あなたがしていることは間違ってるわ!」

 

「…………」

 

 「村沙を殺す」と言っているが、ハイエロファントたちが動揺を見せることはない。ぬえを止めようとする星も、ハイエロファントたちが何のアクションも起こさなくなったことに「不可解だ」と示す表情を見せている。ハイエロファントの仮説、たとえ嘘だったとしてもこの状況を切り抜けられる自信があるのだ。

 

「ぬえ、お前の目的はもう見抜いた。どうせ無駄なのに、こんなことするのか?」

 

「な、何だとぉ?」

 

「本当に殺すつもりがあるのなら、どうしてスタンドの弱点とも取られる能力をベラベラ喋る。他のスタンドとの交流で、スタンドバトルにおいて能力の詳細がバレることが致命的だと分かっていてもおかしくないんだがな」

 

「う、うるさい!」

 

「スタンドを使って戦おうとしても、お前はそのスタンドの本体よりもスタンドの性能を引き出すことは不可能だ。スタンドは才能だからな。お前じゃ僕たちには勝てない」

 

「うるさいうるさい! このッ…………みんなして私を除け者にするのかッ! 村沙はもういい! まずはメロンみたいなお前から死ねッ!!」

 

 ぬえがビーチ・ボーイをしならされると、村沙の体を通過した釣り針が、今度はハイエロファントへ襲いかかる。釣り針が外へ出てきた部位は村沙の胸の辺り。すでに心臓付近に針は到達していたのだ。それでも村沙の心臓を抉らなかったということは、やはりぬえに村沙を殺すつもりは無かったらしい。それに、ビーチ・ボーイが別の人物のスタンドだと指摘したが、それについてぬえは何の反論もしなかった。その点を踏まえると、ハイエロファントの予想は当たっていたのだろう。もっとも、ビーチ・ボーイが展開される瞬間のエネルギーの出処は、ぬえではないことがバレバレであったのだが。

 ハイエロファントに釣り針が向かうことで、周りにいた魔理沙や早苗は血相を変えるものの、当の本人は焦りを一切見せることはない。自分の最も近くに、信頼できる旧友がいる。

 

「……村沙から僕へ攻撃をしてくるのは予想外だったな。だが、チャリオッツッ!」

 

 

ガィイイィ〜〜ーーン!

 

 

「きゃあ!」

 

「煽りに煽りまくるなんてよ、ちょっと調子に乗りすぎなんじゃあねぇのぉ〜〜? ハイエロファント!」

 

「どうかな。だが、助かったよ」

 

 釣り針がハイエロファントに到達するよりも速く、チャリオッツはぬえが持つビーチ・ボーイをレイピアで弾いた。スピードが乗っていた針はハイエロファントの頬をギリギリに避けていき、ぬえの攻撃は失敗。チャリオッツの突然の攻撃により、ぬえはビーチ・ボーイと一緒に船外へと放り出されてしまった。

 チャリオッツは船のはぎつけを蹴り、外へ吹っ飛ばしたぬえを追う。ハイエロファントも同じように後を追おうとするが、彼は村沙を振り返って告げる。

 

「村沙、僕とチャリオッツはぬえを止める。他の皆と一緒に、先に魔界へ向かっててくれ」

 

「う、うん。分かったわ。船を動かしてくる!」

 

「ハイエロファント、3人の方が早いぞ! 私も行くぜ」

 

「いや、魔理沙。気持ちはありがたいが、僕とチャリオッツだけで充分だ。ぬえはスタンドも持っているしな。別に魔界に行きたくないというわけじゃあないから、安心してくれ」

 

「魔界に行きたくないんだな」

 

 魔理沙は呆れたような顔を浮かべるが、「死ぬなよ!」と冗談めかして言うと手を振ってハイエロファントを送り出す。彼もまた軽く手を振り、はぎつけを蹴飛ばして雲の真上でぬえと対峙するチャリオッツの横へと降り立った。

 上を見上げると、星輦船が船首の向く方向を変えて魔界へと動き出していた。ぬえは忌々しそうにハイエロファントたちを睨みつける。

 

「こ、このォ……赦さない……私の邪魔をするなんて!」

 

「邪魔してたのはどっちだ」

 

「うるさい! もう頭きたわッ! えぇ、そうよ! 村沙は最初から殺すつもりなんて無かったわよ! でも、あなたたち2人は別。今からこの私の弾幕で、生涯の引導を渡してやるわッ!」

 

「八つ当たりもいいとこだ。だが、ちょうどいいかもしれない。僕もチャリオッツも、キング・クリムゾンとの戦い以来あまり体を動かしてないからな。ナマりをほぐすために存分に戦わせてもらうッ!」

 

 

 




ようやく『星蓮船』って感じになってきました。
いよいよフィナーレですけど。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない

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