幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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私のぬえのイメージと、世間のぬえのイメージにかなりの差があるのではないか。そうとしか思えない近頃。


63.夕空に舞う『正体不明』

ビーチ・ボーイ!!」

 

「おっと!」

 

 振るわれる釣竿、ビーチ・ボーイの攻撃を次々と躱していくハイエロファントたち。鞭のように先端が最も速くなっている攻撃であるが、ぬえがビーチ・ボーイを完全に御し切れていないこともあって回避することは容易い。彼女は片手間に弾幕も放つものの、意識をビーチ・ボーイにも向けているがために威力の低いものとなっていた。

 

「なぁ、ハイエロファント。やっぱり一対一でやった方がいいんじゃあねぇの? ちょっと()()()()()っつーかよォ〜〜。いじめてるみたいで気分悪いぜ」」

 

「気持ちは分かる。さっき僕は「存分にやる」と言ったが…………肝心のぬえがあの調子じゃあな……」

 

「な、何よ。なんか文句あるの!?」

 

『………………』

 

 ぬえは「文句があるならハッキリ言え」と2人に叫ぶが、ハイエロファントたちは黙りこくってしまう。

 ハイエロファントが理解したぬえの目的とは、あくまで村沙たちの邪魔をすることだった。それは村沙が言っていた地底での話と、ぬえが先程口走っていた「除け者にするのか」というセリフで裏付けされている。ぬえが自分で口で話すことはないだろうが、おそらくぬえは村沙たちが復活させようとしている者とは面識が無く、彼らの活動から仲間外れにされてしまったことを根に持っているのだろう。それでその腹いせとして、村沙たちの集まる飛宝を能力で隠したのだ。最後に直々に乗り込んできたのは半分自棄になっていたからだろうか、とハイエロファントは予想する。

 だがそれはそれとして、この状況はどうにも気まずい。激戦を予感していたチャリオッツとハイエロファントだったが、プライドが高すぎるのか何なのか、ぬえはビーチ・ボーイを手放そうとせずにできもしないスタンドと弾幕の同時攻撃を試み続けていた。故に、ハイエロファントたちが攻撃しようとしても弱々しい反撃しかされないため、逆に2人の方が参っていたのだ。

 

「チャリオッツ、君が先に戦ってくれ。僕は……後でいい。疲れた」

 

「お前だけ抜けようとするんじゃあねェーーッ! 本当は全然疲れてないの知ってるんだからな!」

 

「じゃあ、どうするっていうんだ。このままいじめみたいなことを続けるのか?」

 

「いや……それは…………」

 

 ハイエロファントとチャリオッツは、いよいよぬえをそっちのけで話を始めてしまう。「お前はこういう時の役だろう」と押しつけるハイエロファントと、「お前がとことん戦うって言ったんだろ」と言い返すチャリオッツ、その姿は知らないうちにぬえをとことん怒らせてしまっていた。肩をワナワナと振るわせ、ずっと自分をナメた態度を取り続けているスタンドたちに、ぬえは我慢の限界に達していた。

 仮にも彼女は大妖怪。少女というちっぽけな姿と、どこか幼さが残る情緒からは想像されにくいが、彼女はすでにハイエロファントたちの数十倍は生きているのだ。長い年月を生きた大妖怪としてのプライドが、ぬえをさらにヒートアップさせる。

 

「ビーチ・ボーイ……あいつら、私たちのことナメきってる……! 絶対赦せないわ……! いいの? あなたも、『マンモーニ』って言われてるようなもんなのよッ!」

 

 

『……………………』

 

 

「…………」

(()()()()かしら……)

 

 ぬえは左手に持つビーチ・ボーイに強く言う。ビーチ・ボーイの怒りを誘うように、ビーチ・ボーイに眠る力を呼び醒ますように。この行為に何の意味があるのか、この場ではぬえにしか分からなかった。

 すると、ビーチ・ボーイの釣り糸がゆっくりともたげられる。ヘビが鎌首をもち上げるように、ゆっくりと。先にある釣り針は獲物に狙いを定めるように、未だ言い合いをするチャリオッツとハイエロファントを交互に見やる。目は無いというのに一人でに動き出して攻撃対象を選んでいた。いくら自らの手で操作しなくてはならないスタンドであっても、意志そのものであるのは人型スタンドたちとは何ら変わらない。ビーチ・ボーイは今ここに、明確な攻撃の意思をもったのだ。

 

「だから、チャリオッツ。こういうのは君の役目だろう。今回は「ここは俺がやるぜ」と言わないのか」

 

「俺はお前に自分の言ったことに責任をもてと言っとるんだよ! エジプトに上陸した時もだなァ〜〜……」

 

 

ヒュンッ ヒュン ヒュン……

 

 

「! ハイエロファントッ!!」

 

 

ギャァア〜〜ン!

 

 

「な、何だッ…………!?」

 

「ん! 惜しかった。もう少しだったのに」

 

「釣り針の攻撃…………!」

(ぬえは動かなかった……釣り糸だけが勝手に動いてハイエロファントの背後に回ったのか。ようやくスタンドの方も本気になったな……!)

 

 チャリオッツは叫んだかと思うと、素早くハイエロファントの背後に移動。ハイエロファントが背後に回った釣り針に気付くよりも早く、チャリオッツはビーチ・ボーイによる高速の攻撃をレイピアで弾いた。ぬえが操っていた時よりも格段に速くなっている攻撃は、防御に使われたレイピアを握る右手に痺れを残す。一本の釣竿から放たれたとは思えない攻撃だ。

 奇襲が防がれたと分かったぬえは、空いている己の右手を2人の方へとかざし、掌に妖力を込める。青色に輝く光球、弾幕攻撃の予備動作。

 

(何か考え事を…………狙いは剣士の方に)

「くらえ!」

 

「……! エメラルドスプラッシュ!!」

 

 

ドバァアア〜〜ン!

 

 

(気のせいか? 弾幕の威力が上がったぞ)

「チャリオッツ……さっきと動きが全然違う! ぬえがビーチ・ボーイに何かしたのか?」

 

「さぁな……だが、これでどっちが戦うか決めなくてよくなったぜ。このまま二対一で……いや、二対二か」

 

 ビーチ・ボーイがようやく()()()()()()()動き始めたと言ったところか。ぬえがスタンドだと言ったぐらいで、今まではずっとぬえに操られていたままだったものが、ここにきてようやく自ら攻撃し始めた。流れるスタンドエネルギーも徐々に強くなってきている。「ここからが本気だ」と言わんばかりに、ぬえも口角をつり上げた。

 ビーチ・ボーイの釣り針は一旦ぬえの近くまで戻ると、糸をさらにリールから放出。その長いリーチを見せつけるように、無作為に糸を空中に放置する。ぬえたちが第二ラウンド開始の準備ができたことを表すと、ハイエロファントたちの方も顔を見合わせて頷いた。

 

「ハイエロファント、ぬえは任せたぜ」

 

「君にはビーチ・ボーイを頼む」

 

「さぁ、時間はかかったけどここからようやく本番の勝負よ。この大妖怪、ぬえに逆らったことをとことん後悔させてやるッ!」

 

『………………』

 

 

ギュウウゥン!

 

 

「おっと! この釣竿いきなりだな。ゴングにはちょうどいいがッ!」

 

 ビーチ・ボーイの先制攻撃から、再び戦いの幕が開かれる。釣り糸に波を立たせて()()()()を作り、横波の運動をエンジン代わりに釣り針がチャリオッツへ突っ込んだ。しかし、ハイエロファントへの奇襲攻撃に対応できた彼が、最初から見える位置からの攻撃で遅れを取ることはない。すぐさまレイピアを持ち上げ、小さな釣り針に刃を器用に当てて弾き飛ばした。

 チャリオッツが言うようにビーチ・ボーイの攻撃を皮切りに、ハイエロファントとぬえも弾幕戦を開始した。先制を奪ったのはぬえだが、既に両掌から緑色の液体をドバドバ流し出していたハイエロファントはすぐにエメラルドスプラッシュで応戦する。ぬえは矛と盾の機能を全て弾幕に任せ、ハイエロファントはエメラルドスプラッシュを撃ちつつ体を紐状に解き、ぬえの弾幕群を回避。そのままチャリオッツから離れるように、一対一の戦いにもつれあっていった。

 

「結局一対一になったな…………だが、これが一番相性が良いか。遠距離同士とそうでもない同士でよ。ハイエロファントじゃ、お前の相手は難しいかもな」

 

『………………』

 

「さぁーーて、どう料理してやろうか? この釣竿」  

 

 ビーチ・ボーイは怯むことなくチャリオッツに向かって釣り針を振るう。先程と同じように、釣り糸の先端にある釣り針のスピードはかなりの速く、そして予測不能な動きをする。予め針の動きを読むよりも、動体視力に頼って弾いた方が簡単だ。そしてそれが可能なのが、負傷してもなおポルナレフに鍛えられたチャリオッツなのである。

 

「フンッ!」

 

『………………』

 

 

ドギャッ ガィン! カァアア〜〜ーーン!

 

 

 ビーチ・ボーイが上手いこと糸が絡まないように釣り針を振り回してくる様はまさに乱舞。チャリオッツも負けじとレイピアを振るい、小さく歪曲した針を自分の体に寄せつけない。魔法店では見られないが、剣を扱う時にだけこの精密な動きができるのだ。

 そうして攻撃を続けるチャリオッツ。彼にはある狙いがあった。

 

「………………」

(このスタンドが釣竿である限り、ずっとついて回る弱点! こんなに長く伸ばして(たる)ませた今なら、この鬱陶しい動きの原因である『糸』を切断できるはずだ)

 

 釣りをしたことがなくとも、釣竿に糸がなくては何もできないことは誰にでも分かる。ビーチ・ボーイが釣竿である以上、その糸を切断されては一切の攻撃はできなくなるのだ。そしてそれを守るのは糸によって操られる釣り針だけであり、肝心の釣り糸はだらしなく伸びきってそこら中に漂っている。

 ほんの一瞬だけでいい。釣り糸に接近し、レイピアで断ち切る。それさえできれば勝利なのだ。

 チャリオッツは考える。ビーチ・ボーイは的確に首筋や頭、胸を優先して狙ってくる。殺意が存在するのだ。人間の弱点である心臓や頸動脈、脳なんてものは一般人でも知っているが、いざそこを突いて殺せとなると躊躇(ためら)われるのが普通である。いくら今は人外とはいえ、それらを率先して破壊しようとするところ、このスタンドの本体はおそらく以前に人を殺めたことのある人物、あるいは殺めかけた経験のある者だと推測できる。チャリオッツはそれを逆手に取ることを思いついた。

 

「頭と首…………防御したらどこを攻撃する?」

 

『…………』

 

 

グゥオオォォン!

 

 

 当然、と言わんばかりにビーチ・ボーイはチャリオッツの胸へ、人間ならば心臓のある左胸へと突進を仕掛ける。チャリオッツは外から見えぬ口を「ニヤリ」と動かすと、胸に釣り針が到達するのを待ちわびる。無抵抗のまま、胸に釣り針が入り込むのを。そして…………

 

 

チャポッ…………

 

 

「よしッ……アーマーテイクオフ!」

 

 ボン! と音を立て、チャリオッツの全身を覆っていた装甲が弾け飛ぶ。

 ビーチ・ボーイはチャリオッツの狙いにまんまとハマったのだ。弾け飛んだ装甲に潜らせたまま、釣り針は装甲ごとチャリオッツから引き剥がされてしまう。釣り針が未だ装甲の中に潜っている今がチャンスである。チャリオッツはこれを待っていた。

 

「お前の攻撃よりも今の俺の方が速いッ! その釣り糸をぶった斬ってやるッ!」

 

『…………!』

 

 ビーチ・ボーイは危機を感じたのか、釣り糸をうねらせて釣り針を装甲から引き抜こうと試みる。しかし、それよりもチャリオッツの方が一歩速い。一瞬で(たる)んだ釣り糸の後ろへ回り込むと、レイピアを力の限り振り下ろす!

 

 

バギャアァ!

 

 

「! 何ッ!? き、傷付いたのは装甲の方…………ぬえの言っていたことは本当だったのか! いやそれよりも、釣り糸が斬れなかっただとッ!?」

 

『…………』

 

 ビーチ・ボーイの糸はチャリオッツのレイピアを確かに受けた。しかし、糸が切断されることはなく、切断のエネルギーはそのまま釣り針が潜るチャリオッツの装甲の方へ。そして装甲は破壊された。

 ビーチ・ボーイの能力は壁や床、その他物体を通過してターゲットだけをつり上げることだけではない。今この瞬間に起こった出来事こそ、ビーチ・ボーイの真の能力なのである。先述の能力はあくまでおまけ。釣り糸が受けたエネルギーを、先端に釣り針から放出することこそが隠された恐ろしい能力なのだ。

 糸を切断できなかったことに呆気に取られたチャリオッツは、ビーチ・ボーイの釣り針が接近してくることへの反応が遅れてしまう。まずい。今は装甲を(まと)っていない。もう()()()()にできる物が無い。チャリオッツはレイピアで防ぐしかなかった。

 

 

ギュルウゥッ!

 

 

「うおっ! レイピアの刃に……巻きつきやがった!」

 

『………………』

 

 

ギリッ……ギリ ギリ ギリ

 

 

「…………!」

(まずい……思っていたよりもパワーが強いッ…………! このままビーチ・ボーイに引っ張られたら、ぬえの弾幕攻撃をくらっちまう! あの野郎、チラチラこっち見てやがるからな)

 

 チャリオッツはビーチ・ボーイの釣り糸が巻きつき、強く引っ張られるレイピアを両手で掴んで手放すまいと抵抗する。しかし、このままではぬえの方へと引き寄せられ、彼女の弾幕の餌食となってしまうだろう。ハイエロファントと撃ち合う彼女だが、チャリオッツとビーチ・ボーイの戦いも横目で観察しているのだ。アーマーの無い今、弾幕をたった一撃でもその身に受けるのはまずい。

 かと言ってレイピアを手から離してしまえば、チャリオッツは丸腰となる。ビーチ・ボーイのさらなる攻撃を迎え撃つ手が無くなってしまうのだ。では、チャリオッツはどうする? 考える余裕もないこの状況下で。

 

「ぬぐうッ! ひ、引きが強いッ……!!」

 

『………………』

 

「く、くそッ…………!」

 

 レイピアを手放してしまうよりかは、まだ()()()の方がいい。己の自慢スピードにものを言わせる作戦。成功する確証は無い。一か八か、チャリオッツは攻勢に出る決心をした。

 

「そんなに…………この剣が欲しいならよォ〜〜! おめぇにやるよッ!」 

 

『…………!』

 

 

ドン!

 

 

「承太郎やハイエロファントにも秘密の、チャリオッツ(この俺)の奥の手だぜ」

 

 チャリオッツのレイピア、その剣針はまるで弓で放たれた矢のように、ビーチ・ボーイ目掛けて高速で飛んでいく。ビーチ・ボーイはこの予想だにしなかった攻撃に度肝を抜かれたのか、思わず巻きつけていた糸の拘束を解いてしまう。その行動によって剣針は本来のスピードを十分に活かすことができ、何の邪魔もされることなく竿へ向かうことができた。

 ビーチ・ボーイが焦ったのはすぐに分かり、長く引き出された釣り糸が凄まじい勢いでリールに巻き戻される。が、防御手段として使われる釣り針の帰還、それが叶うことはなかった。

 

 

ドギャアァッ!

 

 

「!! ビーチ・ボーイッ!?」

 

「……! チャリオッツ、やったのか!」

 

「あぁ。お見舞いしてやったぜ。竿にヒビが入った。これでもうさっきより自由には動けねぇだろうよ」

 

 ビーチ・ボーイの身に、細い縦向きのヒビがビシビシと広がっていく。しかしまだ闘志が消えていないのか、ビーチ・ボーイは釣り針を空中に残したままチャリオッツへ狙いを定めようとしていた。ビーチ・ボーイは()()に気付いてか、それともがむしゃらになっているのか。戦いはすでに終わっているというのに。チャリオッツはもはやぬえにも触れる位置まで距離を詰め、飛ばした剣針を元に戻した状態でビーチ・ボーイに獲物をかざしていた。

 

「なっ、いつの間にこれだけの距離にッ…………!?」

 

「俺も同時に相手にするか? それもいいが、この釣竿はもう使えなくなるぜ。釣り針を引っ込めないってんなら、バラバラに破壊してやる」

 

『…………!!』

 

 「バラバラにする」。この言葉に反応してビーチ・ボーイは一人でにリールを回し、釣り針を納める。そのスピードはチャリオッツが剣針を飛ばした時と同じぐらいの速さ。予想外の出来事に、チャリオッツも思わず目を丸くした。

 

「な、何だ? 思ってたより物分かりがいいな…………トラウマでもあるのか?」

 

「ちょ……ちょっとビーチ・ボーイッ! そんな風に引っ込むなんて無いでしょ! もう一回出てきなさいよッ!」

 

「終わったのか。チャリオッツ」

 

「あぁ。まぁな。残るはぬえだけだぜ」

 

 ハイエロファントがチャリオッツの隣へ降下してくると、2人はぬえへと目をやる。彼女はビーチ・ボーイが自ずと攻撃を加えるようになる前と同じように、またワナワナと肩を震わせ始めていた。ぬえからすれば、この状況は屈辱以外の何でもない。ようやくまともに戦えるようになったと思えば、肝心のパートナーはちょっと傷をつけられて脅されるだけで萎縮してしまい、戦闘不能に。逆転したと思った立場はそのままもう一度180度回転してしまった。

 しかし、ビーチ・ボーイがチャリオッツの脅しをホイホイ聞いてしまったのにも理由がある。それはビーチ・ボーイの本体であるペッシの死因にあった。彼はザ・グレイトフル・デッドの本体、プロシュートとコンビを組んでブチャラティたちに戦いを挑んでいる。その際プロシュートにより、殺し屋としてのプロ意識を開花させた。プロシュートが説いたのはすなわち、一種の『誇り』であり、『覚悟』である。だがペッシの場合は回り回って、ブチャラティにゲス野郎と言われるだけの場所にまで堕ちてしまった。彼が最期に見せたのは『覚悟』や『誇り』でも何でもなく、ただの悪あがきに過ぎなかった。ブチャラティが下した鉄槌により、ペッシはバラバラに分解、死亡する。その過去があったからだ。

 

「さァ、どうする? ぬえ。お前がまだやりたいってんなら俺たちも続けてもいいが、お前は圧倒的に不利だと思うぜ。その釣竿は完全に戦闘を諦めたみてぇーだしな」

 

「少しヒビが入ったぐらいで情けないな。僕なんて両脚が吹っ飛んだこともあったのに」

 

『…………ッ!!』

 

「まじ? そりゃあ初耳だな!」

 

 ビーチ・ボーイはぬえの手の中でガタガタと震えている。おそらくこれはチャリオッツの脅しによる恐怖だけでなく、ハイエロファントの言葉に対する怒りも混じっているのだろう。

 プロシュートの覚悟を見せられ、殺し屋として目醒めたペッシの意志。それは確かにビーチ・ボーイに存在する。だが、ブチャラティに倒され、チャリオッツに形成逆転を許してしまった現在。ビーチ・ボーイはほぼ元々のペッシと同じ状態へ逆戻りしていた。言い返そうにも、二つの意味で言い返せなくなっていた。

 ハイエロファントとチャリオッツの余裕たっぷりな会話を聞き、いよいよぬえの我慢も限界となる。歯を食いしばり、彼女は叫んだ。

 

「…………そんな……そんなナメた口を聞いてるんじゃあないぞッ! 私はかつて人間共に恐れられた、大妖怪ぬえさまだッ! お前たちみたいな馬の骨なんかに、負けるわけないんだァーーッ!!」

 

「!」

 

「ハイエロファントッ……何かマズいッ!」

 

 

ビカァアアアッ!!

 

 

「こ、この光はッ……!? 何かパワーがあるッ……」

 

「ぬえが発してやがるのか! 眩しいッ!」

 

 ぬえの体が強烈な光に覆われ、やがて彼女のシルエットすらも消えていく。近くにいたハイエロファントとチャリオッツは赤や青、緑と目まぐるしく色を変える発光に目をやられ、退却が遅れてしまった。光に巻き込まれ、二人の影も呑み込まれてしまった。

 十数秒して、光はようやく弱まっていく。ハイエロファントは接着剤か何かを塗られたかのような瞼の重さを感じつつ、何とか目を開けて周りの様子を確認しようとする。自分のすぐ隣にはチャリオッツ。彼も光に苦しんでいたが、自分と同様になんとか目を開けようと頑張っている。とにかく、おかしなことが起きていることはなさそう…………なことはなかった。

 

「なっ……チャ、チャリオッツ!? なぜ君が2人に!?」

 

『あ? 俺が2人? ハイエロファントよォ〜〜、まだ目が治ってないんだよ。目こすってみろ』

 

「いや、ち、違うぞ! 絶対に違うッ! 君は2人いるんだ! 自分の…………お、()()()左右を見てみろ!」

 

『……左右?』

 

 チャリオッツは右へ顔を向ける。チャリオッツは左へ顔を向ける。すると、目の前には自分であるはずのシルバー・チャリオッツが驚いた顔を浮かべて浮かんでいるではないか。ハイエロファントが言うように、2人のチャリオッツは確かに存在していた。

 

「な、何ィッ!? マジに俺が2人…………お、お前ッ! 俺の真似してんじゃねぇ、ぬえ!!」

 

「ハァ? 何言ってやがる。俺が本物だ! ハイエロファント、騙されるなよ」

 

「なんだとぉ〜〜っ!? 偽物のくせに混乱させること言いやがってッ…………!」

 

「……うむ。全然分からん」

 

「そんなこと言ってんなァ! ハイエロファント! 俺だ。俺が本物だッ!」

 

「やかましいぜッ! 俺が本物だ。ハイエロファント、分かってるだろーなッ!」

 

 2人のチャリオッツは、ハイエロファントがよく知る彼らしく振る舞っている。喋り方、身ぶり、それだけではどちらが偽物だと判断することは不可能に近かった。それもそのはず。ここでのハイエロファントのミスは「チャリオッツが2人いる」と口に出してしまったこと。ぬえの能力は『見る者が見たと思った通りに物が見える』ものであり、ハイエロファントの発言によって余計に混乱を呼んでしまった。

 2人が混乱している間、2人のうちどちらかのチャリオッツは心の中でほくそ笑む。ビーチ・ボーイが使えなくとも、こうやって姿を隠せば奇襲は成功するはずと読んでいた。

 

(フフフ……私をナメてるからそうなるんだ…………お前たちは自分で思ってる以上にピンチに陥っているんだ。絶対に後悔させてやる……いや、後悔する時間さえも与えないッ! 私の弾幕で、お前たちは終わりだ!)

 

 ぬえは右手に妖力を込め始め、その掌から光が放たれる。しかし、ハイエロファントとチャリオッツがそれに気付くことはない。ハイエロファントもチャリオッツも、どちらかの偽物のことを『チャリオッツに扮したぬえ』と認識している以上、ぬえとしての攻撃手段がハイエロファントたちに見えることはないのだ。

 ぬえが言ったように、この状況はまさしくピンチである。ぬえは自分の優勢を確信している。では、この中で少なくともチャリオッツより聡明なハイエロファントはどうなのか。彼は全く焦っていなかった。

 

「ふ〜〜〜〜む…………どっちだろうなぁ〜〜〜〜」

 

 

 

 

 

 




星蓮船編もかなりスタンドが出てきました。第四部はおそらく第三部よりも長くなってしまうかも?
私も書くのが楽しみです。

to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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