幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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星蓮船ってプレイしたはいいんですが、全然記憶に残ってない……


64.異変終結

「ハイエロファント、俺が本物だぞッ!」

 

「何言ってやがる。お前がぬえだろーがッ!」

 

 2人のチャリオッツは互いに顔を近付けて言い合っている。2歩ほど引いた位置でハイエロファントがその光景を見ているが、彼はずっと顎に手を当てて考えているような姿勢のまま。全く動かない。自分が本物であると主張する2人はヒートアップするばかりだ。

 

「ハイエロファントッ! 何とか言えッ!」

 

「…………」

 

 唸ったり黙ったり、うつむいたまま全くチャリオッツの偽物探しを行わないハイエロファントに、本人たちも痺れを切らし始める。

 しかしここで一人のチャリオッツに怒鳴られたことにより、ハイエロファントはようやく顎から指を離し、外からは見えない口を開いた。

 

「ふむ……ぬえ、君の能力は完璧だな。すでにどちらかが本物ではない、と頭で分かっていても君の姿が見えるようになるわけではない。具体的にどちらが、というレベルで認識しなければ本当の姿は見えないんだな。本物と全く差が無いとは恐れ入った」

 

『………………』

 

「だが、実はもうどちらが偽物なのかは分かっているんだ。君たち2人とも、自分の脚を見てみろ」

 

「どれどれ…………ん! こ、これはッ……!?」

 

「な……なんだとッ…………!!」

 

 ハイエロファントに促され、チャリオッツたちは同時に自分の足元へ視線を落とした。そこに見えた光景とは。彼らのうちハイエロファントから見て左側にいるチャリオッツの脚に、ハイエロファントの触脚が巻きついていたのだ。左のチャリオッツは「全然気付かなかった……」と漏らし、右のチャリオッツは目を見開いたままワナワナと震えている。彼のその反応を見たハイエロファントは得意になって解説を始めた。

 

「ぬえが発光したタイミングで、僕は自分の触脚を伸ばして本物のチャリオッツの脚に巻きつけておいた。明らかに弾幕を使うような様子ではなかったし、すでに村沙から能力について聞いていたから用心していたんだ。つまり、本物はこっちのチャリオッツ。右のお前が、偽物だッ!!」

 

 

バキィイ!

 

 

「ぶへェ!」

 

「さすがだぜ、ハイエロファント! 俺はお前を信じてたからなぁ〜〜っ」

 

恋人(ラバーズ)とジョースターさんの体内で戦った時のことをヒントにしたんだ。あの時は僕の偽物が出てきたが。大量に出てこない分、まだぬえとの方がやりやすい」

 

 見事ぬえの正体を暴いたハイエロファントは偽物のチャリオッツの顔面に拳をぶつける。パワー自体が人並みの彼なので、殴られただけでは鼻がジーンと痛む程度。しかし、彼女の能力が解けるのには十分だった。

 殴られて怯んだチャリオッツの(ヴィジョン)は、モザイクやモヤのようなものがかかり始め、徐々にぬえの姿へと変わっていく。完全に姿を現した彼女の顔には全く余裕が見られない。ただ、目の前のどうしようもない現実に対して一種の怒りを覚えているようだった。

 

「こ……のッ…………どうして……どうして私の邪魔をするんだ! 妖怪が人間と平和を結ぶだなんて、許されるわけがないのに。この大妖怪ぬえさまを、みんなコケにしてェ〜〜〜〜ッ!」

 

「自分の都合によって他人を苦しめるのは紛れもない悪だ。村沙とお前がどんな関係だったのか詳しくは知らないが、お前はただ自分が気に入らないという理由だけ聖輦船を襲い、そして僕らを倒そうと攻撃してきた。戦う理由はそれで十分だ」

 

「お前たちは……村沙たちの何なんだ……」

 

「昨日知り合っただけの知り合い。それ以上でも以下でもない。ただ、僕がこうしてお前に言うのは警告の意味もある。幻想郷にはお前のようなやつを赦さない者が多い。さっきの船にも2人ほど乗っていたし、人里にもいる。彼らに退治されたくなかったら、行いを改めるんだな」

 

 いくら村沙を殺す気が無かったとはいえ、それでもハイエロファントたちなど他の者を巻き込んだのは事実。場合にもよるが、第三者が問題に介入するのはまた別の問題を呼んでしまうという意味で避けるべきである。したがって、彼女のためにも巻き込まれる者のためにも、ぬえをここで諭しておく必要があったのだ。

 ハイエロファントの言葉に何も返そうとしないものの、ぬえはまだ不服そうな表情を浮かべている。言っていることは理解できたが、納得できない。いや、したくないと言いたげな顔である。事実、彼女の右手にはクシャクシャになったスペルカードが握られていた。

 

「まだやるのか?」

 

「…………ッ!」

 

「……チャリオッツ、今度こそぬえを再起不能にしよう。言葉で分からないのなら、そうするしかない」

 

「あぁ。大胆だと思うが、異論無しだぜ。どうせぬえも決着がつくまで止まらないだろうしな」

 

 戦いはついに最終ラウンドへ突入する。ぬえはカードをゆっくり持ち上げ、自分の顔と同じ高さまで掲げる。チャリオッツは彼女から少し離れて剣を構え、ハイエロファントは両手を重ね合わせた。じわじわと掌から緑色の液体が溢れ出る。戦いのゴングは双方の猛り声!

 

 

「エメラルドスプラッシュ!!」

 

 

「スペルカードッ! 鵺符.弾幕キメラッ!!」

 

 

 ぬえの近くに次々と光の柱が発生。狙いはハイエロファントとチャリオッツに定められている。チャリオッツは攻撃をハイエロファントに任せ、飛んでくる弾幕を迎撃しようとレイピアを振りかぶった。

 だが、弾幕の発生よりも速く、ハイエロファントはマグナムを引き抜いていた。重ねた両手を前へ突き出し、緑色の結晶弾が顔を覗かせていたのだ。

 しかし、勝負は思わぬ方向へと向かうことになる。

 

 

ガァシィイッ!

 

 

「うぐゥッ!?」

 

『!? な、何だ!?』

 

「は、はな…………これは……この腕……」

 

「い、いきなり腕が何も無い空間から現れたぞッ! ハイエロファント、こいつはッ……!?」

 

「スタンドか…………!?」

 

 エメラルドスプラッシュが宙へ放たれようとしたその時。ハイエロファントとチャリオッツの間、そのすぐ前方からいきなり機械的な腕が出現。その3本指は勢いよくぬえの首を鷲掴みにしたのだ。

 ハイエロファントとチャリオッツはこの現象に混乱し、エメラルドスプラッシュの発射も取りやめにされる。ぬえも思い切り怯んでしまい、スペルカードによる弾幕も消失してしまった。一体この腕は何なのか? 正体はすぐに分かった。

 

ザ・グレイトフル・デッド……『直』は素早いんだぜ」

 

(!? ち、力が抜けてく…………)

「お! お前何やってるんだ…………!? グレイトフル・デッドッ…………!!」

 

「見ての通りだぜぇ〜〜〜〜。ぬえ。こうやって攻撃していること以外に何か思いつくのか? それで…………お前らが封獣ぬえ(こいつ)と戦ってたのか。悪いが、こいつは俺たちが()()()()

 

「何ッ……!?」

 

 腕の正体はザ・グレイトフル・デッド。腕同様、彼の顔と胴体の一部も空間に突如として現れ、ぬえの首を掴んだ状態へ引っ張っている。彼女を引っ張ってどこへ行くつもりなのか? ハイエロファントたちは全く想像がつかない。そのままぬえはグレイトフル・デッドに引っ張られ、彼女の体の半分が謎の空間に呑み込まれる。水晶か鏡を割ったかのようにぬえの体が崩壊していくのだ。彼女の顔もこれ以上ないまで引きつり、腕をなんとか振り払おうとするものの老化能力で腕力は衰えていくばかり。抵抗は無意味であった。

 

「う、うわぁあああ…………! な、何をするのよッ! 私に歯向かうなんて……数百年早いわ! こっちが依頼した仕事を失敗したくせにィ! 裏切り者ッ!」

 

「てめぇ…………自分が何しでかしたか分かってんのか? 仮にも()()()()()()()んだぜ。無事でいられるわけがねぇよなぁ? え? マン・イン・ザ・ミラー!」

 

『あぁ……まぁ、そうだな。とっとと終わらせよーぜ。グレイトフル・デッド、ビーチ・ボーイはもう()()()()()()()。後はリトル・フィートとどうにかしてろ』

 

 グレイトフル・デッドがさらに強くぬえを引っ張ると、彼女は「ヒィイイ!!」と悲鳴を上げながら水晶のように砕け、消えてしまった。

 因果応報。ハイエロファントに諭されたぬえだったが、その時点で何もかも手遅れだったとしか言いようがない。本気で本体の復活を考えていた彼らを騙し利用したことこそ、彼女の結末を決定した一番の要因だったのだ。

 ぬえが引っ張られて行ったと同時に、グレイトフル・デッドにマン・イン・ザ・ミラーと呼ばれた者が、右手に鏡の破片らしき物を持った状態でハイエロファントたちの前に姿を現す。ぬえやグレイトフル・デッドと同じく彼も何も無い空間から出現し、ハイエロファントとチャリオッツにサンタクロースが背中に担いでいるような大きな袋を差し出した。

 

「あぁーー。すげー疲れたぜ……これ担いでここまで飛んできたんだからな……」

 

「ま、全く状況が飲み込めない……君は味方なのか? ぬえはどうした。まさか死んだのか?」

 

「結論から言うと、ぬえは死んでいない。『死の世界』には行ったがな……俺の能力さ。味方かどうかっていうのはお前らの判断に任せるぜ。俺はただ、集めた飛倉の破片をお前らに渡すために来たんだからな。敵意は無い」

 

「おいおい、つーことはその袋の中身全部飛宝なのか!?」

 

「あぁ。そうだ。だが、この中のやつとお前らが回収したやつを合わせても、ぬえから聞いた限りじゃあまだ元々の数ではないらしいけどな。本当は直接船の連中に渡したかったが…………多分、帰りの分のエネルギーが足りなくなるんじゃあねぇかと思うぜ」

 

「なに?」

 

 M・I・ザ・ミラーが言うには、魔界に行くのには飛宝のエネルギーがかなり必要となるらしい。聖輦船は長く地底に封印されていたため、飛宝自体はあってもエネルギー自体はそれなりに失われているという。全ての飛宝を使用してようやく魔界と幻想郷を行き来できるらしいのだが、現在集められ、そしてエネルギーを利用している全体の数は半分ほど。行くだけでエネルギーは切れてしまうのだ。

 それを聞いたハイエロファントとチャリオッツは思わず焦り始める。もはや魔界に行きたくない気持ちも消えてしまっていた。

 魔界から戻って来られるエネルギーが無かったら、魔理沙たちはどうやってこちらへ戻って来るのか? まさか戻れないのでは? そんな不安が彼らを襲った。

 

「ヤバいだろ? ほら、こいつを持って行きな。俺らもせっかく集めたんだがな。ぬえが騙していたと分かってから処分に困ってんだ」

 

「あ、あぁ。ありがたくもらうよ。だが、どうやって船に追いつく? 今の甲冑を脱いだチャリオッツでも追いつけるか分からないだろう!?」

 

「それなら安心しな。飛宝にはある特性がある。2人とも袋を掴んでな」

 

 M・I・ザ・ミラーに言われ、ハイエロファントとチャリオッツは人間の胴体より大きい袋に掴まる。M・I・ザ・ミラーはハイエロファントに船が向かった方角を訊くと、袋を挟んで太陽が沈みつつある西側へ移動した。船が向かったのは東側である。ハイエロファントよりも先に、チャリオッツは何やら嫌なことを想像してしまったようで、おそるおそるM・I・ザ・ミラーに飛宝の特性について質問する。

 

「な、なぁおい。飛宝の特性ってよぉーー。一体どんなやつなんだ……?」

 

「宇宙空間ってよォ、移動する物を邪魔する物が何も無いんだよ。空気も普段感じることはないが、移動するのに邪魔になっている物の一つだ。だが、何も無い宇宙空間だと移動する物体のスピードが落ちない。等速直線運動ってやつだな。そしてそれが飛宝の特性だ。飛行する上で、どんな邪魔な物の影響も受けない。だから常に一定のスピード、一定の高度を保っている。かつ原理は分からないが、飛宝同士もエネルギーによって引き合う」

 

 全く知らなかった事実だ。たしかにフワフワ浮いていた不思議な存在だとは思っていたが、魔法とは別の産物のように思える。飛宝同士でしか反応の無い引力でも存在しているのだろうか? 事実を今この場で知ることはできなかった。

 そんな飛宝の説明を受けていたチャリオッツだが、彼の鋼の肉体にどんどん汗の粒が浮いて出てくる。今日は大晦日、真冬であるためこの汗の原因は暑さではない。これは等速直線運動という単語を聞き、まさかと想像してしまったチャリオッツの冷や汗なのだ。

 

「こ、これは俺の予想だがよ、ハイエロファント。今の話聞いてたよな? ものすごい嫌な予感がしてきたぜ!」

 

「僕も……予想してしまった……な、なぁ、手柔らかに頼むよ。本当に…………」

 

「知るか。空の旅を楽しめよ!」

 

 

ドガァアッ!

 

 

『うぉおおおあぁあああァァーーーーッ!!?』

 

 

ズギュゥウウウ〜〜ーーン!

 

 

 M・I・ザ・ミラーは袋から距離を取り、全力のタックルをお見舞いした。彼に吹っ飛ばされた袋は、ハイエロファントとチャリオッツを連れたまま東の空の彼方へ吹っ飛んでいく。思っていたよりもスピードが出たため、内心ハイエロファントたちの安否が心配になるも、右手に持ったままの鏡の存在を思い出してすぐに頭から抹消する。彼らはこれから、ぬえへ()()を払ってもらわねばならないのだ。自分たちを騙し、不当に利用しようとしたことへのツケを。

 チラリと鏡の中を覗くと、すっかり白髪にされてしまったぬえがグレイトフル・デッドとリトル・フィートにタコ殴りにされていた。

 

 

___________________

 

 

 

 魔界とはどのような所なのか? そもそもその存在を知っている者はあまり多くない。魔界とは無限に広がる空間。幻想郷にいる個体よりも強力な妖怪が、幻想郷よりも多く存在している世界である。魔界には常に瘴気が満ちており、普通の人間が長く滞在してしまうと体を壊し、いずれ死に至る。だがこれこそが妖怪たちに好かれる原因である。瘴気は妖怪たちと瘴気の負の側面への耐性をもつ人間のエネルギーを高め、さらなる力を与えるのだ。

 そんな妖怪の楽園とも言える魔界の一角に、結界を張られた場所がある。そこが『法界』である。ここには瘴気が無く、ここだけに留まるのであれば普通の人間でも生きていくことができる。この中に、寅丸星たちが復活させたがっていた聖白蓮が封印されているのだ。

 

 

 場所は法界。ドス黒い瘴気に満ちた世界の中にポツンと一つだけ、光を放つドーム状の空間。そこに一隻の巨大な船が停まっていた。船の周りには大小さまざまなクレーターができており、それらを生んだ原因である爆発の名残と言える煙が立ち昇っている。先程までここで激しい戦いがあったのだ。

 さらにそれを裏付けるように、巨大船『聖輦船』の甲板にて船ばたに寄りかかって息を切らしている少女たちがいる。紅白の服の博麗霊夢、金髪魔法使いの霧雨魔理沙、緑髪の風祝東風谷早苗、そしてもう一人。紫色で、その先が黄色がかっている長い髪をもち、黒と白のこれまた長い裾のあるドレスを着た者。彼女こそ、法界に封印されていた聖白蓮その人なのだ。

 実際、この4人が法界内で激しい弾幕戦を行った。始めは聖を救出してハッピーエンドかと思ったのだが、あることが原因で戦いが起こってしまったのである。

 

「ハーッ……ハーッ……ふぅ……それで、どう? 少しは考えを変える気になったかしら……?」

 

「いいえ…………断固として、改めるつもりはありません。『妖怪と人間の平等』、私はただそれを目指す!」

 

「本気で言ってるのかよ。妖怪と人間を平等にしたって、力が強い妖怪側が余計有利になるだけだ! 平等はすなわち、『終わり』にしかならねぇよ」

 

「私はなにも、全ての妖怪を人間と同じ目線にしようなどとは考えていないわ。強力な妖怪は最初からその必要が無いんですもの。力の弱い妖怪をわざわざ退治されるようなリスクを孕んだ行為から遠ざけるため、彼らを導く」

 

 弾幕戦が終わったと思いきや、今度は口論が始まる。先の戦いの勝負は決着がついたとは言えず、ここまで来てしまったらもはや意地の張り合いだ。先程から言っているように、聖の目的とは人間と妖怪が平等に暮らせる世界を実現させること。だが、それは簡単な話ではない。聖はそれを分かっているが、反論する霊夢たちは全く違う部分を指摘している。

 聖は人間側はともかくとして、強い妖怪と弱い妖怪の区別をつけようとしているのだ。彼女が救おうとしているのは、あくまでも蹂躙されるだけの非力な妖怪。妖怪という立場であるだけで虐げられる存在を憐れんでいるのだ。

 しかし、いつの時代でもルールや規則が崩壊するのは、たった一つの例外が生まれた直後。最初から例外があるなど、もはや崩壊は決定づけられているようなものである。ましてや妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治する幻想郷の仕組みに反する思想なのだから。

 

「妖怪も神も皆同じッ! 敬われるべき存在。緑髪のあなたは神に仕えているのでしょう? あなたにはそれが理解できると思っていたのに……まるで正反対とは」

 

「我が健全なる神は妖怪退治を支持しています! 妖怪と神は違うからこそ、区別されてるんですよ!」

 

「何にせよ、あなたの思想に反対する『人間』は多いわ。聖白蓮。ただでさえ脅かされている側なのに、その上妖怪の自由を許容する考えは流行らない」

 

「………………」

 

 怒りに満ちた、それでいて悲壮感のある表情。悠久の時を経て復活した彼女は、現代人の思想とはまるで別のものをもっている。いや、別であったのは何も今だけではない。彼女が封印された大昔から、彼女の思想は流行らなかった。人間は非力である。それでいて強欲。常に被害者ヅラをする。故に、力を得て妖怪の側に立っていた彼女に共感する者はいなかった。異端者は恐れられるのだ。たとえどこかの誰かの救済者であったとしても、人々はそれを『愚か』と呼ぶ。

 

 

 

 どこかの世界の誰かが言った言葉である。

 

 

『安定した平和』とはッ!

 

平等なる者同士の固い『握手』よりも、絶対的有利に立つ者が治める事で成り立つのが

 

この『人の世の現実』!!

 

 

 人は神ではない。故に、正しさを定められても、正しさを見つけることは不可能である。

 

 

「今も昔も…………誰も何も変わっていないのね」

 

「あなたが元々変わってるだけよ。()()自体が悪いとは思っちゃいないわ」

 

「……なんとも自分勝手で、強欲で、愚かなことでしょうか…………ならば、私も腹を決めます。力とは自らの意志を貫き通すための矛! 決着は……弾幕で。いざ、南無三!」

 

「望むところ……!」

 

 聖は船の甲板にクレーターができるほどの力を込めて蹴り、再び決戦の舞台である空中へと飛び出した。外見はそれなりにボロボロだったのにも関わらず、まだまだ体力は有り余っているようだ。霊夢もそれに呆れつつ、聖の提案にYESと答えて空へ飛び立った。

 

「あぁ〜〜、くそ! 結構疲れた! 早苗、お前まだ戦うか!?」

 

「私もう無理です〜〜〜〜。魔理沙さん頑張って!」

 

「あぁ、ハイハイ! オヤスミ!」

 

 早苗は体力切れで甲板に大の字になって寝転び、魔理沙は半分ヤケクソになって空へ向かった。

 霊夢と聖の弾幕戦は、法界から外に見える魔界の暗黒をも色鮮やかな染め上げる。霊夢としても久しぶりの本気の戦い。地底で空と戦った時、霊力だけならばそれ以上無いまでに引き出した。しかし今回は違う。溢れ出る霊力の量では前回と同じであるが、今回は霊夢自身の意志もぶつけている。博麗の巫女という立場ではなく、博麗霊夢としての意志が原動力となって戦いに挑んでいるのだ。そしてそれは聖も同じ。お互い、今まで生きてきた中で()()()()()()()()()

 

 

ドガァアア〜〜〜〜ン!

 

 

「うわぁ! び、びっくりした…………! い、今何か飛んできた!?」

 

 仰向けになった状態で空中の激戦を見ていた早苗。彼女の足が向いている方に、何かが墜落してきた。弾幕ではない。ずっと見ていたため、流れ弾でないのは分かっている。

 早苗は疲れ切った首をなんとかもち上げ、甲板に何が落ちてきたのか確認しようとした。埃を巻き上げ、その場にくたばっていたのは緑色のメロンのような者と、西洋の甲冑を身に纏ったような者。2人の側には巨大な袋が甲板の板にめり込んでいる。情報量の多い場面であるが、早苗はこの2人が誰であるか、しっかり理解していた。

 

「あ、ハイエロファントさん! ようやく魔界へ来たんですね! チャリオッツさんも」

 

「……うっ…………痛い……その声、早苗か? 弾幕戦が行われているのが見えたが、君は混ざっていないのか」

 

「その……さっきも戦ったんですよね。体力切れちゃって……あはは」

 

「なるほど……それじゃあ、今空で戦ってるのは魔理沙と霊夢か…………」

 

「いや、それにしてもどんなカッコウで話してんだオメーは」

 

 ハイエロファントは飛宝の詰まった袋を引きずり、船ばたに背もたれをしながら空へ目をやる。チャリオッツも早苗の姿勢にツッコミを入れつつ、ハイエロファントと同じように座った。

 

「……綺麗だな。僕が幻想郷にやって来てかなり経つが、この戦いが一番綺麗だ…………」

 

「そうですか? あの聖白蓮って人、妖怪と人間の平等を目指してるらしいですよ。幻想郷でそんなことしたら、色々まずいに決まってます!」

 

「そんなこと俺たちに言われてもな……そもそも幻想郷に詳しくねぇしよォーー。平等っていいもんじゃあないのか?」

 

「人間が虐げられてる中でそんなことしたら、余計妖怪の勢いが強くなってしまうだけですよ。あの人は倒さないと……」

 

「霊夢や魔理沙は怒っていたか?」

 

「え? えっと…………語気は強かったですけど……」

 

「ならいいんだ。その聖白蓮も、きっと悪い人じゃあないんだろうな。2人は心のどこかで彼女の言い分を理解しているはずだ。だが、自分の思想にあるものとは違う。その中で生まれる苦悩だとかを、今こうやって弾幕戦で解消している。弾幕戦はそのためにあるんだからな」

 

 ハイエロファントは魔理沙と霊夢の『正義』がどれほどのものなのかを知っている。どちらも弱き人間の側に立ち、横暴に振る舞う妖怪たちを赦さない。だからこそ、妖怪の側に立って自分たちと同じように動く聖とぶつかっているのだろうと考える。

 悪には悪の救世主が必要である。しかし、世界中の人間の視点からすれば、人は悪にも正義にもなる。霊夢たちと聖の違いはそれである。ハイエロファントは両者のどちらが正しいとは言えない。正しいのは何か、と問われても上手く答えられるか分からない。だが、どちらかが一方的に虐げられるよりも、守ってくれる者がいた方が良いに決まっていると、ただそう思うのであった。

 

「お、あれってスペルカードか?」

 

「おそらくそうだろうな…………決着がついたぞ」

 

 激しい攻防の末、勝利を手にしたのは霊夢と魔理沙。ボロボロになり、地面へ墜落する聖を回収するべく、船の後方で待っていた乗組員たちが船外へと飛び出して行く。霊夢たちが聖の思想について詳しくどう思ったのかはハイエロファントの知るところではないが、聖の元へ寄って行く妖怪たちの姿を見るに、少なくとも彼女の正義は村沙や星たちを救っていたのは確かなのである。

 

 

 

 

 




難しい話でした。
上手くまとめられたかは個人的にかなり微妙ですが、これにて星蓮船編は終了。いよいよ第4部の本筋に触れていきます。
誤字などを見つけましたら、報告してくださると幸いです。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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