幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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65.『世界』の目醒め

 幻想郷の中心には人里がある。そして、それを囲むようにして数々の妖怪たちが自然の中に蠢いている。これは法皇の緑(ハイエロファントグリーン)や博麗霊夢たちが魔界に赴いたのと同時刻の話。

 

 

 時は新年を迎える大晦日の深夜。妖怪や妖精が跋扈(ばっこ)する森の中に獣道と間違われるような、申し訳程度の道が開かれている。どこか特定の場所へ行くために通る道というより、それらの道を子とするならばどこへでも繋がる親の道と言えるもの。そんな大きめの道に、本来流れていない『血の川』が流れていた。

 存在しないが、その上流にこそ()()がある。地下から湧き出ているのではなく、そこに山積みにされた獣や妖怪の死体から滲み出ているのだ。

 

『フルルゥ……ギャヒッ……!』

 

 

ブチッ……ブチブチィ!

 

 

 四足歩行の狼型妖怪は影に隠れている何者かに向けて威嚇する。その直後、断末魔とも言えない弱々しい声を上げたかと思うと、妖怪の頭部の一部がちぎれ、中から赤黒い血液と脳漿をぶち撒けて死亡してしまった。

 死後硬直で一部の筋肉がピクピクと痙攣する中、妖怪の頭部では「クチャクチャ」と何かを咀嚼する音が聴こえてくる。近くには何もいないというのに、だ。あるのは地面に刻まれた人間の足跡だけだというのに。

 

『そこにいたのか? いつまで()()()()つもりだ。招集がかかっているというのに……』

 

「…………クチャ……クチャ……」

 

 咀嚼音が響く中、草や枝を踏む音とともに一つの影が現れる。2本の腕と2本の脚、そして一つの頭をもつことからこの者は人間……というわけではなく、人型をしたスタンド。ガラクタを集めて作ったような人間大の彼は、倒れている狼型妖怪の死骸に向けて言葉を投げかける。咀嚼音はやがて小さくなり、土を踏む音が少し聴こえると、スタンドは再び元来た方へ体を向けて歩き始めた。彼らの『主』のいる所へ。

 幻想郷に初めてスタンドが流れ着いたのは今から7ヶ月ほど前のこと。ハイエロファントやS・フィンガーズのように誰かを守る正義のスタンドもいれば、灰の塔(タワーオブグレー)やグリーン・ディのように自分の快楽のために人殺しを行うスタンドもいた。彼らはまるで正反対だが、どのスタンドにもあることが共通している。それは、生前の本体の意志を継いでいるということ。それは生きる糧であり、自分の存在そのものであり、また切り離すことのできない運命の鎖。故に()()()、自分たちの愛してやまない本体と同じ道を辿ろうとするのだ。

 

 

『人間のスバらしさとは…………『天国』へ向かおうとすることだ。犬や猫といった動物にその概念は無く、人間だけがもつ『美徳』。そして、我々はそんな人間の魂から生まれた存在…………『天国』へ向かう意志をもっている』

 

 

 ドンと置かれた巨岩の上に立ち、その下で片膝を突いた状態でいる者たちへ説法を聞かせる者がいた。まるで王冠のような装飾を身につけた彼の右手には2枚、銀色に輝く何かの『ディスク』が指に挟まっている。『天国』と『人間』の素晴らしさを謳う彼だが、おそらくその本体は熱心な宗教人か聖職者だったのだろう。月光に照らされて浮かび上がるその白い体は、言葉で言い表せないような一種の神聖さを醸し出している。その瞳に光は灯っていないのだが。

 

「…………」

 

『……ん? どうした……そんな上目遣いになって。何か私に言いたいことでもあるのか?』

 

「………………」

 

 岩の前に揃った者のうち、一人が何かメッセージを伝えたいかのように上目遣いになって上の者を見つめる。機械的で、感情がこもっているのかどうかすら分からないその瞳だが、後に上の者にしっかりメッセージが伝わった。

 

『あぁ…………そういえば、お前の本体は人間ではなかったな。だが、それでも別に構いはしない。お前は()()、確固たる忠誠心を抱いている。それでいいのだ…………』

 

「クルルルル…………!」

 

「ねェ、ボクは!? ボクも天国に連れてってくれるんでしょ? ボクは子供に大人気なキャラクターだからね! それぐらいしてくれるでしょ?」

 

『うるさいぞ()()()()! 俺はお前ではなく、()()()()()に言っているんだ! その気になればいつだって()()()()ことができるんだぞ』

 

 『ピノキオ』と呼ばれた鼻の長い木製人形は、球体関節をカクカクと動かして飛び跳ねる。無邪気な子供のように、上に立つ者に対してほぼ対等な口の利き方であるにも関わらず、そのことについて決して咎められることはない。それは彼の内に宿った能力が原因。人形ピノキオの方ではなく、()()()()()()()()()に彼は敬意を払っていた。ピノキオはあくまで、能力を使うための道具でしかない。

 怒鳴られた後でも、ピノキオは態度を変えることはなかった。しかし、上に立っていた者はピノキオを怒鳴ったのと同じ調子で言葉を続ける。

 

『いいか! お前たちは()()を『天国』へ押し上げるために存在しているッ! 失敗は絶対に赦されないのだ。幻想郷に散らばり、『天国』へ向かうために必要なものを全て、我々のために捧げろ。それが、お前たちが天より賜りし使命なのだッ!』

 

 「承知した」と言わんばかりに力強く、下に並ぶ者たちは黙って頷く。そしてピノキオを残して全員が宙に浮いたかと思うと、各々別々の方角を目指して飛び立って行った。彼らを動かすのは何なのか。()()への『忠義』? それもあるだろう。だが、飛び立った者たちの中にはもう一つ、『恐怖』も存在していた。

 部下であるスタンドたちが離散していく様子を見ていた『ディスク』のスタンド。その背後にもう一つ、飛んで行ったスタンドたちを目で追っていた者がいた。同じく月光に照らされ、その黄金色の体躯はピノキオの目に(あらわ)になる。

 

『……もう休まなくていいのか? 体力は戻ったのか』

 

『……あぁ。幻想郷(この地)は良い。『停止時間』は延びた……日光の下にも出られるようになった。皮肉なものだな。自らの枷になっていたものがまさか、『本体』だとは』

 

『…………』

 

 黄金色の者は夜空に浮かぶ満月を見て、もはや声の届く位置にいないスタンドたちに向けて声を発した。

 

 

『行け。我が刺客たちよ。『天国の時』はいよいよだ』

 

 

____________________

 

 

 

「ッ!?」

 

 人里のとある民家。最近飼い始めた化け猫たちのため、奮発して鯉を買い与えていたキラークイーンは東の方角へ体を向けた。家の中におり、周りには化け猫たちしかいないというのに、何か別の気配を感じたのだ。それは冬に吹くからっ風のようで、悪寒を感じさせるもの。普段はクールな彼も動揺を隠せず、ほんの一瞬電気信号のように感じた気配を想像の中で吟味し続けていた。

 

「い、今のは…………」

(に、似ていた…………やつと……キング・クリムゾンととてもよく似たやつがいるッ! それも2人!)

 

 かつて守矢神社にて相対したスタンド、K・クリムゾン。彼は自分とキラークイーンを「とてもよく似ている」と言っていた。キラークイーン本人としては微塵もそんなことを思ってはいないが、少なくとも今、幻想郷のどこかに降り立ったのであろうスタンドエネルギーは、この不吉な予感はK・クリムゾンの時のものと酷似していた。それだけは事実である。

 

 

 

 そして、気配を感じ取っていたのはキラークイーンだけではない。

 幻想郷のどこか。森の奥深くでこれまた別の妖怪の死骸が山積みにされている。積まれている妖怪たちは全て胸に穴が空けられているか、喉元を掻っ切られているかという痛々しい状態。その頂にて、一つの真紅の影が瓶に入った日本酒をラッパ飲みしており、ささやかな新年の祝いを挙げていた。

 瓶を口から離し、どこか遠くを見る。彼、キング・クリムゾンもまた、この先起こる()()を予感していたのだった。

 

「何か……来たな」

 

 




to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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