幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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空高くスカイ・ハイ!


67.地の底までスカイ・ハイ

 幻想郷、その地上のとある森の中にて。黄金色の大柄なスタンドは北西の方角へ首を向け、風に乗ってきたかのように感じる気配を察知していた。

 懐かしいような、憎らしいような、気分が落ち着くような、まるで自分自身のような、何とも不思議な感覚。そして、この感覚は前にも味わったことがある。新年のエジプト、カイロにて運命の戦いを繰り広げた相手もまさに、このような気配を感じさせる者であった。だが、()()()()()()

 

「……この感じ、何の関係もない他人では決してない。『ジョースターの血統』…………いや、もしや我が本体の血族……なのか…………?」

 

 スタンドは空中へ手を伸ばす。手を開いたまま、しばらくその状態で静止し続ける。十数秒ほどした後、開いた手を閉じて自分の目の前まで拳をもってくると、再び手を開いて()()()()()()に注目した。それは銀色のナメクジのような、見たことのない新生物。

 

 

____________________

 

 

 地霊殿を出てから十数分。エンプレスに散々痛めつけられ、フラフラと重い足取りで旧都へ向かうさとり。かつて地底の異変が起こった際、ハイエロファントと魔理沙が通ってきた灯籠が並んでいる道を行く彼女だが、その背中にはもう一つ人影が見えていた。それがエンプレス。人体に寄生する、人面疽のスタンドである。

 彼女はとあるスタンドたちに地底へ送り込まれた。彼らが欲するものを手に入れるために。かつて自身の本体が仕えていたように、同じ主をもっている。しかし、エンプレスが彼に仕え続ける理由など特には無い。彼女の本体ネーナと、その主の関係は終わっているはずなのだ。だがエンプレスは()()仕え続ける。人の出会いも重力。因縁が断たれることはないのだ。

 

『ウフフ。地底もまあまあ良いところじゃないのさ。もっとジメジメして臭いところかと思ってたけど、涼しくて過ごしやすいわ〜〜』

 

「…………」

 

 エンプレスはさとりの背中で肩を回しながら、旅行気分で旧都への到着を待ちわびる。さとりの読心の能力により、エンプレスが探しているものが旧都にあると判明したため今こうして向かっているわけなのだ。が、エンプレスが探しているもの、それは具体的にエンプレス本人にも、そしてさとりにも分からなかった。エンプレスは自身の主に地底に向かうよう言われたが故に地霊殿を訪れ、さとりはそれが先程まで気になっていた『14の言葉』に関するものと考え、向かっている。もっとも、さとりは素直にエンプレスに親切をしようなどとは思っていないのだが。

 

(このスタンド……私の体と完全に一体化している。そもそもどうやって私に取り憑いたのかは分からないけど、私の体から離れることは、きっとできない。旧都に向かって、勇儀さんにこいつを破壊してもらう……!)

 

『旧都ってどんなところなのかしらねェーー。少なくとも、ジョースターと戦ったバラナシよりも綺麗なところがいいわ。バラナシはバラナシで良かったけどねッ!』

 

「…………」

 

『ヘイッ、さとり! このアタシに対して、何か反応をよこしなッ! 子どもを無視するのは虐待だよッ!』

 

「あぐぅッ……!」

 

 エンプレスは後ろからさとりの髪を引っ張り上げる。馬に乗る騎手が綱を引くのにも似たそのサマは、子どもが親へ暴力を振るう立派なドメスティックバイオレンス。ネグレクトを指摘しているエンプレスだが、状況的には完全に彼女の方が悪である。それにそもそも、さとりはバラナシが何なのかを知らない。

 

『まぁ、いいわ。あんたではあたしを倒せない。弾幕を撃とうとも、それを撃ち出す掌を腕ごとへし折ってやればいい。空中からいきなり出現させるなら、このサードアイを身代わりにするからね』

 

「くッ…………!」

 

『そう言えば、少し気になったことがあるんだったわーー。どうしてさとり、あんたはあたしの探しものが旧都にあると分かったんだい?』

 

「!」

 

『あたしは旧都の存在を知らなかった…………探しているものがどこにあるかも、当然知らなかった。でもあんたは、あたしの心を読んですぐに「それは旧都にある」と言ったわ。どうもきな臭いわね〜〜』

 

 考えてみれば当然の反応である。さとりが能力によってエンプレスの心の中を理解したとしても、彼女自身でも理解しきれていないものをなぜさとりは突き止めることができたのか。

 エンプレスは考える。さとりは自分(エンプレス)が主人から賜った『生まれたもの』の言葉の意味を理解しているのではないか。我が主が『天国』へ行くために必要としているものの正体を、使いに出された自分よりも先にさとりは知ったのではないか、と。

 しかしそうなると、新たな疑問も生まれてくる。『天国』、具体的にどんなものかはエンプレスの知るところではないものの、さとりが「生まれたもの」を知っているのなら『天国』のことについてもある程度理解しているかもしれない。わざわざ手放すだろうか? 主が血眼になって目指す『天国』にどれだけの価値があるのかは分からないが、確実に言えるのは決して低くないということ。それを手放すだろうか? もしやさとりは、この自分に嘘を教えているのでは? 今向かっている旧都には実は『生まれたもの』など存在せず、自分を除去する方法を探っているのでは?

 エンプレスは事実を置いてけぼりにし、自分に都合の良いように解釈していく。早とちり、妄想の暴走は良い結果を生まないものだ。

 

 

バキャァアッ!

 

 

「がはァッ!?」

 

『ヘイ、このクソガキッ! まさかこのあたしを、まんまと騙してるんじゃあないだろうねェッ! えぇ!? 怪しくなってきた! 本当に旧都に『生まれたもの』はあるのかい!?』

 

 

ドガッ バキッ ボゴォ!

 

 

「うッ……あぁ…………!」

 

 エンプレスは自分の勝手だけでさとりを殴打する。大の大人でも抗えないほどのパワーで殴られ続け、流石のさとりもその場で膝を突き、やがてうずくまってしまった。頭、顔、腰、体のあらゆる場所にアザができていき、その痛みがさとりの体力をさらに奪っていく。

 

「ッ…………!!」

(まッ……まずい…………! 旧都へ行く体力も……もう……無くなって…………いく……)

 

『フヘヘヘェーーーーッ! 別に片腕ぐらい無くたって旧都にゃ行けるだろォーーッ!? 折られるのが嫌だったら、あたしに本当のことを言うかい!? そらァ!』

 

「う、うぁああぁあああ!!」

 

 エンプレスは後ろからさとりの右腕を掴み、後方へ無理矢理折り曲げようとする。必死に抵抗するさとりだが、その努力は虚しく。既に時間とともに強力になっていくエンプレスのパワーに勝つことはできなくなっていたのだ。木の枝と見違うほど綺麗で細い腕は、たった今醜く歪んだ肉の塊のスタンドに破壊されんとしていた。限界は訪れる…………

 

 

ヒュン!

 

 

「!」

 

『! な、何!?』

 

 エンプレスの腕は突如動きを止める。さとりの腕を掴んでいた、彼女の両腕の間を何かが通ったのだ。具体的に何だったのか、それはエンプレスの目には映っていなかった。とにかく、非常に素早い何かが腕の間をすり抜けて行った。

 そして、おかしなことはそれだけではない。エンプレスの両手から力が抜け、彼女が意図しないうちにさとりの右腕を手放してしまっている。全く不思議な現象である。

 エンプレスはふと、ほんの無意識のうちに地底の天井を見上げる。戦いの経験か、それともただの直感か。自分の頭上に、彼女は敵と思しき者がいると感じたわけでもなく、ただただ何の意図もなく宙を見上げた。

 

 

 

____________________

 

 

 

グワシィイッ!

 

 

「やった! 取ったよ。お燐、スナマル!」

 

 スナマルことザ・フールが地霊殿の中に残留していた謎の匂いを嗅いでから数分後、制御棒を外したお空がエントランスで何かを捕まえた。小さな子どもが池でカエルを捕まえたように、彼女は両手でその生物を包み込んで自分の友人たちがやって来るのを待つ。と言ってもほんの数秒の話。お空の声を聞き、地霊殿中に散らばっていたザ・フールとお燐はすぐに彼女の元へ到着した。

 

「捕まえたんだね、お空!」

 

「うん。よーし、それじゃあ、せーので開けるよ!」

 

『待ちな。お空。お前とお燐にしか分からないことだが、そいつ妖怪なのか?』

 

「え? いや……妖力は感じないし…………妖怪じゃあない……よね?」

 

「うん。とにかく速く動く……虫? なのかな。お空はどう見えたの?」

 

「いや、それがサッパリ…………」

 

『ハァ、もういいぜ。早く手を開けな』

 

 お空はゆっくり手を開ける。隙間から徐々に光が差し込み、彼女が捕まえたものの正体が明らかとなった。

 ()()は銀色の物体。とても生物には見えない存在だった。細くペン程度の長さをしており、2枚4対の羽かヒレのようなものが脇から生えている。目や鼻、口のような部位は見当たらず、両方の先端に小さな点のようなものが数個あるだけ。そしてこの奇妙な存在は妖怪でも、スタンドでもないのだ。虫か? 魚か? エイリアンか? 3人の誰もそれの正体を理解することはできなかった。

 

『な、何だぁ……? こいつ、本当に生き物なのか?』

 

「でも、妖力は全然感じないよ。妖怪じゃあないし、空飛ぶナメクジモンスター!?」

 

「あっ、動いたよ!」

 

 銀色の棒状の生物はお空の手の中でピクピクとうねり始める。すると、体の側面にある4枚の羽がそれぞれ同一の方向へゆっくり回転し始め、どんどん加速し出した。

 この奇妙な光景に対し、一同は何の言葉も発することなくただ呆然と見つめるだけ。しばらくして謎の生物はフワリとお空の手から浮き上がると、一瞬にして3人の前から姿を消してしまった。どの方向へ向かったか、それすらも分からないスピードで移動する。この生物について分かったことはそれだけである。

 

『…………クソ、まんまと逃がしちまった……結局何も分からなかったじゃあねーか』

 

「誰のせいでもないよ、スナマル。それより、今まであのナメクジみたいなのに気を取られてたけど、早くさとりさまを助けに行かないと」

 

『あぁ、分かってるぜ。俺はこれから急いで行くが…………おい、空? どーしたんだ? そんなマヌケ面しやがって』

 

「え? お空?」

 

 ザ・フールはお燐に背を向けて地霊殿を発とうとしたところ、お空の様子がおかしいことに気付いてそう指摘した。彼の言葉を聞き、どうしたのかとお燐もお空の方を振り返る。お空は顔を両手で押さえながら体のどこかに不調を感じているようで、手と手の間から見える彼女の表情、特に(まぶた)と歯を食いしばって少し苦しげにしていた。

 

「お、お空! どうしたの? どこか痛いの?」

 

「ち……違うよ、お燐…………さっきのナメクジみたいなやつを逃してからなんだ…………ま、瞼が重くなって……瞼がストーンて落ちてくるよォーー!」

 

『ハァ……?』

 

 お空に起こった現象はそれだけではない。(しわ)ができるぐらいキツく閉じられた瞼の間からは、ツゥと血が流れてきたのだ。お燐はお空に現れた異常を重く見て、ザ・フールを急いでさとりの元へ向かわせる。その間にお燐はお空を別室に待機させ、謎の生物の調査を行うのだった。

 謎の生物の正体のヒント、それはさとりの部屋にあった。情報が載っていたのはとある記事。幻想郷のものではなく、外の世界の記事である。それにはこう書かれていた。

 その生物が最初に確認されたのはメキシコ、ゴロンド・リナスという砂漠にできた洞窟の上空。スカイダイビングをしていた若者たちによって撮影された写真に、それは写っていた。若者たちの間を飛び回る謎の存在。それは虫なのか、魚なのか、爬虫類なのか。それは餌は何を食べているのか。それについての全ては謎。

 その生物の名前は『ロッズ』。

 

 

 

____________________

 

 

 

『い、一体何だッ……!? こいつらはァーーーーッ!』

 

 灯籠の道にて、エンプレスの叫びが木霊する。謎の物体が自分の腕の間をすり抜けて行った後、彼女はふと上空を見上げて今に至る。

 さとりと彼女に取り憑いているエンプレス、その頭上には数十という謎の棒状の物体が滞空していた。飛行するのに羽をばたつかせるような音は無く、静かに水に浮かばせた流木の如くフワフワと空を流れているだけ。エンプレスはさとりの髪を再び掴み、あの生物について問いただした。

 

『ヘイ、さとりッ! あいつらは何だ!? お前のペットか!? 妖怪なのかッ!』

 

「うッ…………」

 

『く、くそッ……!』

(しまった……! 喋れなくなってしまうぐらい痛めつけすぎたッ…………やつらの正体は一体…………!?)

 

 さとりはその場にうずくまっており、完全に満身創痍。エンプレスはその場を離れることすらできなくなってしまった。上空にいる生物『ロッズ』たちがエンプレスの敵ならば、あの目で追うのがやっとなスピードで襲いかかってくることになる。自分のパワーとスピードに自信のあるエンプレスでも、あのスピード、この数を相手にするのは非常に困難だ。

 エンプレスがどうしようかといよいよ焦り始めると、宙に浮かんでいたロッズが一匹、姿を消した。

 

 

ヒュオォォオォン!

 

 

『うわ!』

(つ、ついに襲ってきた!!)

 

 消えたロッズはエンプレスの脇を高速で通り過ぎた。そして何事も無かったかのように先程までいた場所に戻り、先程と同じように滞空する。

 エンプレスはてっきり、自分に向かって何か攻撃を仕掛けてくるものかと思っていた。しかし、実際はただ通り過ぎただけ。ますますロッズのことが分からなくなってくる。エンプレスが頭を抱えているこの間に、さらにロッズは動き出す。

 

 

ヒュン ヒュン ヒュオッ!

 

 

『ヒッ……! こン……の…………あたしをナメてんのかァ!? あちょォオアアアァッ!!』

 

 

ドッヒャァァ〜〜〜〜ッ!

 

 

 今度は多数のロッズが飛んできた。それに対しエンプレスは応戦の決意を固め、繰り出される剛拳のラッシュをロッズたちへお見舞いする。が、ロッズたちは速いだけでなく精密な動きもできるよう。エンプレスの拳をすんでのところで回避し、彼女の脇付近を通過。そして再び元の場所へ。

 何が何だか全く分からない。しかし、どうやらロッズたちはエンプレスの敵である線が強くなってきた。顔らしきものがどこにあるのかは全然分からないが、群れでエンプレスを取り囲んでいるなど、とにかく彼らはエンプレスの様子を窺っているような素振りを見せている。エンプレスの憤りもマックスに近付いてきていた。

 

『お前たちィ! 一体何なんだ!? 何が目的なんだい!? このあたしをおちょくりに来たってだけなのかいッ!!』

 

 エンプレスは拳を振り上げて怒りをあらわにする。だが、どれだけ彼女が怒鳴り散らしてもロッズには何も響いていないようだ。怒号に怯むことも、威嚇するような動きもないのだから。見た目通り生物かどうかも分からない、本当の無機物のようである。

 拳を振り上げたエンプレスだが、彼女はそのタイミングでとある異変に気付く。

 

『…………!? な、何だ……? あたしの……手……こんなに大きかったか……!?』

 

 エンプレスは振り上げた右拳を見てそう呟いた。たしかに、エンプレスは肉体を自分の意思でそれなりに自由に変形させることができる。が、今回放ったラッシュでは拳を肥大化させた覚えはない。

 右手を眼前に挙げたまま、エンプレスは己の左手も持ち上げる。異変は、確かに起こっていた。彼女の手は左右非対称のサイズになっていたのだ。右手は左手の2倍近くにまで巨大化していた。

 

『こッ…………これは……や、やつらがやったのかッ……!? でも一体どうやって……まさか毒か!? どのタイミングであたしに打ち込んだ!?』

 

「………………」

 

『ク、クソォ〜〜〜〜…………! おい、お前たちッ! この古明地さとりがどうなってもいいのか!? この地底の主だ! こいつが死んで困るからあたしを襲ったんだろッ! こいつの命は今あたしが握っている。どうにかされたくなかったら、とっととどこかに散りやがれッ!!』

 

 何もかも不明なまま、エンプレスはついに考えることを放棄する。錯乱した状態でさとりの首根っこを掴み、肥大化した右手で手刀を作ると、滞空し続けるロッズたちに脅しをかける。ロッズたちは相変わらず何の反応も返さないのだが。

 そんな中、さとりはエンプレスに揺さぶられた衝撃で一時的に目を覚ました。彼女はボヤけた視界に見える景色と、エンプレスの言葉によってなんとなく周りの状況を呑み込む。執筆をするのにあらゆる本や記事の内容を頭に叩き込んださとりは、ロッズのことについても一応は知っていた。まさか本当に実在するとは、と驚きつつもエンプレスに気付かれないよう、彼女はサードアイを空へ向けてロッズたちの思考を読み取った。

 ロッズたちはさとりがまだ意識を保っていることを知ってか知らずか、エンプレスの脅しに一切耳を貸すことなく、今度は滞空している全匹で、エンプレスに襲いかかった。

 

 

「………………」

(なるほど……未確認飛行生物ロッズ…………彼ら……の……餌は…………そういう……ことだったのね……)

 

 

『うあああッ! こ、殺してやるゥゥ! お前たちが動いたせいなんだからなァアアアッ!』

 

 さとりの首をグイッと引き寄せ、エンプレスは手刀を振り上げる。ロッズたちは既にエンプレスの近くに到達しているが、さとりの断頭を止めるでもなくただ高速飛行するだけ。

 一瞬にしてブレたエンプレスの手刀は、さとりの首へ一直線に向かう。阻むものは何も無く、さとりの首は地面に真っ逆さま…………

 

 

ボロォッ!!

 

 

『……ッ!!』

 

 さとりの首が落ちることはなかった。代わりに落ちたものがあったのだ。それは、肥大化したエンプレスの右手。

 

『何が…………起こっ……て…………』

 

「エン……プレス…………」

 

『ハッ! さ、さとり……お前、意識を取り戻していたのかッ…………!』

 

「あの……生物の名前…………『ロッズ』…………餌……は…………」

 

『餌……!? は、早く言えッ…………!』

 

「体温よ…………ロッズは、生物の体温が餌。彼らには口が無く……故に何かを食べる必要が無い…………近くにいる他の生物の体温を奪い、彼らは生きている……」

 

 さとりが読心したものはそれだ。彼女が言うように、ロッズの餌は他生物の体温である。彼らはそれを奪って生きている。ロッズは何の意味もなくエンプレスの脇を通り過ぎていたのではないのだ。さとりに寄生している、腫瘍と化したエンプレスからのみ体温を奪っていた。エンプレスの右腕が落ちたのはそれが原因である。切り落とされたわけでも、ねじ切れたわけでもない。体温を奪われ続け、エンプレスの右手は内側からどんどん腐敗。腐れ落ちたのだ。

 お空の瞼の異変についても同様である。しかし、あれはあくまでお空へ対する防衛反応であったため、瞼を腐らせるほどには至っていない。それでも血管を後に支障が出ない程度にダメにしたのだが。

 さとりはエンプレスにロッズの情報を伝え、再び項垂れる。体温を奪う生物。そんなものを相手に、どう戦えばいいのか。しかも相手は自分以上のスピードで移動してくるのだ。がむしゃらにラッシュか? 赦しを乞うか? エンプレスに残された道はもはや2つに一つ。そして、ロッズの()()は終わらない。

 

 

ドッヒャァアアアァッ

 

 

『うわぁああああぁあああ!! やめろォおおおぉ!!』

 

 

ギャン ギャン ギャン ギャン

 

 

『うげッ』

 

 

 エンプレスに纏わりつくように、全てのロッズが彼女へ向かう。旋回を繰り返しながら、エンプレスから発せられる熱を堪能するロッズたち。彼らが食事をしている内に、エンプレスの瞼は出血して開かなくなり、綺麗に生えそろった歯は抜け落ちていき、喉元が爆発したかのように急速に膨れ上がっていく。体全体が徐々に紫色に変色しながら、ロッズたちの食事もようやく終わりへ近付いていくのだった。

 

『げぶフゥゥゥ〜〜〜〜〜〜』

 

 

ボゴン ボロッ ボシュゥゥ〜〜〜〜ッ

 

 

 ロッズたちが離れる頃には、エンプレスの肉体は完全に朽ち果ててしまっていた。ロッズが飛行時に発生させる風はわずかなものだが、腐りきったエンプレスの肉体をボロボロに崩すには十分。エンプレスは消滅した。

 寄生していた者がいなくなってようやく自由を手に入れたさとりであるが、動く体力は尽きている。ロッズたちが出現してから一歩もその場を動いておらず、地霊殿へ帰ることもきっとできない。敵スタンドは消えたが、さとりは薄れていく意識の中で自分もまた同じように消えていくことを覚悟する。ロッズから体温を奪われたわけではないが、瞼は徐々に閉じていく。氷のように岩の低温が、体の芯に向かって登ってくるのを感じていると、ふと一つの影がさとりの頭を覆った。閉じていく瞼を何とか開け、その者の正体を確認する。そこにいたのは。

 

「やっほーー。お姉ちゃん、ハッピーニューイヤーだね」

 

「……こいし…………?」

 

「そうだよ。お姉ちゃん怪我してるから、私が地霊殿まで運んであげる。感謝したまえよ〜〜」

 

 古明地こいし。さとりの実妹である。淡い緑髪で、黒くへりの広い帽子を被った少女はさとりを抱き起こし、肩を貸しながらゆっくり地霊殿へ歩き出す。いつもはフラフラしている彼女だが、さとりの危機を感じたのかタイミング良く参上してくれた。

 無表情というわけではないが、どこか遠くを見ているかのような、何を考えているのかイマイチよく分からない顔でふざける彼女。さとりはそんなこいしの右腕に何かがくっ付いているのが見えた気がしたが、わざとなのか何なのか、こいしはそれを体で隠してしまう。

 

「お姉ちゃんは、『スタンド』についてどう思うの?」

 

「え…………?」

 

「良く思ってるのか、悪く思ってるのか。私はね〜〜、良く思ってるよ。暇を忘れさせてくれるしね。友だちって感じなのかな。ペットとは違う」

 

「…………」

 

「スナマルのことを地霊殿に置いてるし、別に悪いと思ってるわけじゃあないでしょ?」

 

「まぁ…………そう……ね……」

 

 こいしに何の意図があるのか、さとりには全く分からない。

 こいしはさとりと同じく、以前は心を読む能力を所持していた。しかし、人々の心を読んでいく内に、自身に備わる能力が周りを怖がらせていることに気付いてわざとサードアイを閉じてしまった。それに伴い、こいしは心も閉じてしまった。さとりは心を閉じたこいしを読心することはできない。こいしが何を思っているのか。これは本ではなく現実。能力に頼り切っていたさとりには、とても難しいことだった。

 

「あ、見て。地霊殿からスナマルが来るよ」

 

「……!」

 

「ねぇ、お姉ちゃん。怪我の処置をしたら、またパーティーやろうね。今度はお姉ちゃんも入れてさ」

 

「……そうね。私も混ざるわ」

 

 

 

 友だちの友だちは皆友だち。

 スタンド名、『スカイ・ハイ』。能力はロッズを操ること。こいしと友だち(一方的にそう思われているだけかもしれない)になったスカイ・ハイだが、その能力に従属するロッズたちは果たして『皆友だち』と言えるのか?

 

 

 

 

 




息子たちに関して言えば、ウンガロ以外はみんな好きです。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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