幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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今期、いわゆる冬休みシーズンというものですが、私は日々用事に追われております。一月もスケジュールがギッシリということで、これから今回のようにお話が短めになっていくことでしょう。
ボリュームダウンとなってしまいますが、その分演出や読者の方をあっと驚かせるようなギミックにはこだわっていきたいと思いますので、これからも引き続き読んでくださると嬉しいです。


68.闇の中から甦りし者

必要なものは場所である

 

 

北緯28度24分 西経80度36分へ行き……

 

 

次の『新月』の時を待て……

 

それが『天国の時』であろう……

 

 

_________________

 

 

 場所は永遠亭。エンプレスが地霊殿に来襲してから十数時間経過した頃、薬師の八意永琳は調合室で作業に(ふけ)っていた。昨日に宴会をしたきり、永遠亭の住人たちは各々のやるべきことをするためにすぐに散り散りになってしまったのだが、それは彼女も同様である。理由は一つ。先日の襲撃事件のことについて。

 あの事件の後からずっと、彼女らはこんな調子が続いている。兎やハーヴェストたちもそうであるが、特に永琳は蓬莱人の性質を知っているK・クリムゾンに文字通りの半殺しにされた。その時の痛みは体だけでなく心にもしっかりと刻まれていたのだ。

 

「……………………」

 

 人里へ出掛けることもある彼女だが、あの場では何とか気丈に振る舞っている。しかし負った傷が完全に癒えたわけではない。あの凄惨な光景、耐え難い苦痛は今でもたまに夢に見る。

 永琳は『月の頭脳』とまで呼ばれた、世界中を探しても並ぶ者が見つかるか分からないほどの賢者。もちろん、彼女が護衛すべき蓬莱山輝夜以上の実力も身につけている。それでも、永琳はK・クリムゾンに敗北した。そもそも正面から堂々と戦ったわけでもないが、万全な対策をされていた上、完璧な奇襲を防ぐのは月の頭脳と呼ばれる彼女であっても難しいこと。蓬莱の薬に関する情報はなんとか死守したが、それに見合わないぐらいの代償を払ってしまうことになった。

 中でボコボコと泡を立てる調合器具を見つめながら、彼女は放心している。

 

「………………」

(姫は…………皆に比べるといつも通りに戻った。今日も藤原妹紅と殺し合いに出掛けていたし…………)

 

 主が無事なのは守る者としては嬉しいことだ。輝夜の場合はあくまで戦闘不能にさせられただけで永琳ほどのダメージを負ったわけでもないが、それでも彼女は襲撃後一週間近くはずっと自分に付きっきりになってくれた。恩を受けたままでいるのは、主従に関係なくまずいこと。それは分かっている。だがそれ以前に、あまり立ち直る気にもならないのであった。

 

「…………蓬莱の薬はたしかに禁忌。今思えば……他にもやりようはあったわ。まさかこんなことで後悔するなんて…………分かってたはずなのに」

 

 後に悔いると書いて『後悔』。先に立つことは絶対にない。どこかに慢心があったのだろう、自分たちが負けるはずがないと。たしかに、彼女たちならば正攻法で打ち負かされることはほとんどないかもしれない。

 だが、全てを兼ね備えた完璧な生物など本当に存在しない。頭脳、筋力、他生物の特徴や能力、波紋の呼吸。あらゆるものを手にし、弱点であった太陽すらも克服したあの男でも、『運命』を手にすることは叶わなかった。

 故に敗北は存在する。それは自分たちにもあり、また、かのK・クリムゾンにもある。

 

 

ヒタ ヒタ ペタ……

 

 

「!」

 

 机に向かって頬杖をついていると、突如廊下から何者かが裸足で歩いてくる音が聴こえてきた。部屋を出て廊下の右手側からだ。今は正月であるため、よっぽどの緊急事態でない限りは薬の供給は行っていない。そう考えると、その者は客というわけではないはずだ。では、永遠亭に住む兎の内の誰かだろうか。寒い時期ということで以前に皆に足袋を配ったため、足袋を持っていながら昼過ぎに裸足で歩き回っていることも考えづらい。

 ではまさか……? 

 永琳の意に反し、頭の中で最悪の想像がされる。

 まさか、また? 再びか? やつが来たというのか?

 

「………………」

(い、いや…………たしかキング・クリムゾンの足は靴と似た形になっていた……人間の裸足のように、ペタペタなんて音はしないはず……)

 

 腰掛けていた椅子から降り、それを盾にするようにして来訪者の接近を待ちわびる。

 K・クリムゾンの襲撃に備え、永琳は最近新たなスペルカードと薬の開発を行った。K・クリムゾンと戦う上で、彼女以上に対策を練った者は幻想郷にはいない。

 しかし、どう考えても今永遠亭内に侵入している者はK・クリムゾンではない。彼ではない別の誰かが、K・クリムゾンと同じように蓬莱の薬を求めてやって来た。存在するのはその可能性だけである。

 

「正体は…………妖怪……いや、スタンド……!」

 

 永遠亭の存在は竹林に潜む幽霊や妖怪たちに知れ渡っている。故に、わざわざ自分の敵わない強敵たちがいる永遠亭に自分から足を踏み入れることはない。ということは、永遠亭がどのような場所であるか知ってから知らずか、この場所に()()()訪れていることになる。

 少々早とちりが過ぎる気もするが、今の永琳は過去一番に身の周りの事象に警戒している。常に最悪の状況に備えなくては気が済まない。幻想郷に来て、甘ったれた生活を送りすぎていたのだ。『楽園』という名をもつ場所でも、幻想郷は死と血が飛び交う地であるということ。永琳はK・クリムゾン襲撃事件にて、ようやくそれを思い出した。

 

「…………!」

(か、影が…………無い……?)

 

 ペタペタと床を歩く音はどんどん近付いてくる。そして、音の大きさがピークに達すると同時に、聴こえ始めてから数十秒後に音は止まった。地点は永琳のいる部屋の真前。この部屋の入り口は障子で仕切られており、部屋の前に立つ者がいるならばその影が必ず障子に映るようにできている。

 だが、たった今永琳が心の中で思ったように、入り口の障子に影は映っていなかった。

 

(バカな…………スタンドは本体の精神から生み出されるものとは聞いていた……幽霊とは違うと。でも、影もできないなんてことは無いはず。エニグマだって、ハーヴェストだって影はあったのだから)

 

 永琳は永遠亭に住むスタンドのことを思い出す。外見は完全に人外だが、形は一応人型であるエニグマ。小さく、昆虫を思わせるようなフォルムをした群体型スタンドのハーヴェスト。彼らには確かに影は存在している。それは日常の中で何度も目撃していたため、覆しようのない事実としていいだろう。

 だが、障子を挟んで向こう側にいる侵入者は影をもっていない。近付いて来た者が永遠亭の住人であるという線は確実に消えたものの、敵の正体はますます分からなくなってしまった。影をもたないというのなら、正体は幽霊か。あるいは透明人間か。もしくは、透明であることが能力のスタンドか。

 

 

カタッ…………

 

 

「……ッ!」

(障子に……手を掛けたッ……! 入ってくる……)

 

 かすかに障子が軋む音が聴こえ、立て付けが悪いわけでもないが、中々スライドさせにくい障子をガタガタと揺らしながら右方向へズラし始める。影は相変わらず存在せず、まるでポルターガイストといった霊障に見舞われているような気分だ。

 障子と障子の隙間は徐々に大きくなり、部屋に光の線が差し込む。線は何の障害の影響も受けることなく部屋に差し込んでくることを考えると、やはり侵入者は透明であるらしい。もののコンマ数秒で侵入者は調合室に足を踏み入れてくる中、永琳が取った行動とは…………

 

 

バグォオオオン!

 

 

 文字通りの爆音が永遠亭中に響き渡り、部屋に差し込む光は柔らかなものから鋭い閃光に変わる。永琳の右掌は半分ほど開かれた障子の方を向いていた。

 そう。永琳は弾幕を放ったのだ。先手必勝、相手が部屋に入って仕掛けてくるよりも早く、相手が部屋の外にいる間に仕留めようとした。そして、手応えはあった。障害の間から漏れてくる爆煙が晴れていくと、向こう側の壁に焦げ跡と穴ができあがっているのが分かる。廊下の床も同様である。結局侵入者の正体が何だったのかはよく分からないが、ひとまず弾幕で永遠亭内から外へ吹っ飛ばすことには成功した。永琳はしゃがんだ状態から立ち上がり、障子から部屋の外へ出ようとする。消滅していくスタンドの残骸を見るために。まだ生きているならトドメを刺しに。

 

 

『お前…………ヒドいやつだな。弾幕で自分の部下をブッ飛ばすなんてな……』

 

 

「ハッ!?」

 

 部屋に突如響く男の声。永琳はいきなりの出来事に驚き、同時に警戒し、前に進めていた足を瞬時に後退させる。ベタン! と壁に背中を貼りつけると、部屋中を見渡して声の主を探ろうとした。だが、声の発生源と思しき者、物品はどこにも無い。仕留めたと思っていた侵入者は、取り逃してしまっていたのだ。

 永琳はどこにいるのか分からない侵入者に向けて、首を左右に振りつつ声を投げる。

 

「あ、あなたは……ッ!? この特異な現象、まさかスタンドッ!?」

 

『あぁ……そうさ。察しの通り、俺はスタンドだ。よく分かったな? 普通のやつは幽霊か透明人間のどっちかだと思うと想像してたが………………やっぱりあれか? ()()()()()()()頭から離れないかァ?』

 

「……あの襲撃事件のことを知っているッ…………! そして、「自分の部下」ですって……? 一体どういうこと? 狙いはキング・クリムゾンと同じく蓬莱の薬!?」

 

『落ち着けよ……一つずつ答えてやる。八意永琳』

 

 永琳はK・クリムゾン襲撃の件について、この部屋のどこかにいるスタンドが知っていることに非常に固執している。理由は簡潔。あの出来事は二度と繰り返したくない。それに尽きるからだ。どれだけ彼女がどれだけ永い年月を生きていようとも、恐怖というものは払拭することはできない。ましてや賢いというのなら、()()()()である。

 どこかの世界の男は言った。生きるということは恐怖を克服することだと。世界の頂点に立つ者は、ほんのちっぽけな恐怖をももたぬと。もし永琳に恐怖が存在しないなら、きっとこの場所にはいないだろう。

 スタンドは目に見えて動揺し続けている永琳に向かって、一つ一つ順番に質問に答え始める。それは、()()()()()者の余裕であろうか。

 

『まず襲撃事件のことについてだが、あれは有名なんじゃあないのか? 新聞に載ってるのを見ただけだから何とも言えないがな』

 

「………………」

(新聞……鴉天狗が出しているもののことね…………)

 

『蓬莱の薬については…………もう()()()()()()

 

「! 間に合ってる…………? もしかして、どこかに作った人間がいるというの? あの薬を!」

 

『そーゆー意味じゃあねぇんだよ。話を聞け。()()()話を訊く必要は無いって意味だ。俺たちに命令を下してる、いわゆる上司ってヤツにそんな能力をもったスタンドがいる。どれだけ隠そうとも、記憶は読まれちまうのさ……』

 

「何ですってッ……!?」

 

『俺がここに来た理由……それは『場所』を確保するためだッ! 『ホワイトスネイク』からは西経がどーの、北緯がどーのと話をされたが、とにかく必要なのは『重力』らしいな。そしてその重力があるのが、どうやらこの場所だとヤツは言ってる!』

 

「ホワイトスネイク……それがあなたのボスの名前……」

(必要なものが……重力………………?)

 

 敵スタンドはずいぶん口が軽いらしい。自分の目的、自分の主の名前をその場でバラすとは。『重力』、『ホワイトスネイク』。永琳は一度聞いた重要な言葉は中々忘れない。この情報はいずれ、異変解決を行う魔理沙や霊夢に渡るだろう。

 それにしても、スタンドが欲するものが『重力』だとは驚いたものである。永琳も想像していなかった。確かに地球上の重力というものはどこも全て均一というわけではない。場所によっては強かったり、あるいは弱かったりする。しかし、その差も本当に微かなものである。永遠亭にはたらく重力に、ホワイトスネイクとやらは一体何の用があるというのか。

 だが忘れてはいけない。まだこのスタンドは、気になるワードを一つ残している。それは、「自分の部下をブッ飛ばす」である。

 

「まだ……聞いていないことがあるわ。あなたは私が弾幕を撃った後、「自分の部下に弾幕を当てるなんて」と言った。一体それはどういう意味!?」

 

『…………どういう意味と言われてもな。そのままなんだが。お前は自分の部下を……いや、()()()かァ? 弾幕で吹っ飛ばしたんだぜ〜〜。跡形も無くな』

 

「だから、それがどういう意味だとッ…………!!」

 

 

ベタッ ベタ ベタ!

 

 

『来たか…………』

 

「!」

 

 

ドドドドドドドドド

 

 

「何…………この……足音はッ…………!?」

 

 永琳の言葉を遮るように、廊下の奥から地鳴りのような轟音が響いてくる。それは大きな振動を伴っており、まるで大勢の人間が一方向に向かってやって来るようだ。()()()()()()()()()()()。そして、この現象をスタンドは知っていたかのように話す。間違い無い。これは、このスタンドが能力によって引き起こしたもの!

 

『ホワイトスネイクの命令を受けているヤツは俺以外にも何人かいる。だがその中で、()()()()俺がこの場所に送られた。襲撃事件……兎が大量に死んだんだってなァ〜〜』

 

「貴様ッ! 一体何の能力をォォーーーーーーッ!!」

 

 

ドバオッ ボババァア〜〜ン!

 

 

 永琳は部屋中に弾幕を撃ち出し、周りの壁を跡形も無く破壊する。永琳が今食らっているのは『侮辱』だ。月の賢者たる者を無知なる者として利用するという侮辱、そしてその()()()()()()()という侮辱。スタンドの言っていたことは、永琳の頭の中で全てつながった。こんなことをさせられて、頭にこないやつはいない。怒りの弾幕群をスタンドにお見舞いしてやった。

 だが、今度は手応えが一切無かった。

 

 

『残念。俺は、天井だ』

 

 

 

バグシャァアアアッ

 

 

 

 男の声が聴こえたその瞬間、永琳の頭部、その左半分が宙へとちぎれ飛んだ。

 

 

 スタンド名、『リンプ・ビズキット』。能力は動物の死体や剥製から、透明なゾンビを生み出すこと。スタンドビジョンはもたないが、幻想郷に流れ着いた彼は自分自身の能力によってゾンビとなった本体、スポーツ・マックスの体を借りている。あくまで形だけ、だが。

 

 

 




常秀ならきっと「グロ注意、グロ注意だ!」と言うかも。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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