幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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私が一番好きな東方の曲は『フラワリングナイト』です。
花映塚が私にとって2作目の東方作品だったというのはお話ししたと思いますが、いいですよね。あの曲。テンション上がります。


74.全ての『罪』を清める時 

ザ・グレイトフル・デッド

 

 グレイトフル・デッドの体からガスが溢れ出す。下半身の無い胴体を地面に引きずりながら、亡霊たちがぶら下がる左腕を力みながら、彼はゲティスバーグの亡霊たちの群れに右腕を突っ込んでマン・イン・ザ・ミラーを引っ張り出そうとしていた。が、しかし、やはり亡霊の壁は分厚く簡単に助け出すことはできない。

 故に彼は能力を発動した。生物を老化させるガスにより、亡霊たちのパワーを落とすというのだ。いくら亡霊と言えども、彼らは本当に、文字通り()()()()()のだ。それはシビル・ウォーの復活で説明がつく。であるならば、グレイトフル・デッドの能力で老化する。

 

「マン・イン・ザ・ミラー……大丈夫か……?」

 

「うぐ……ぁ…………」

 

「手足がちぎれて…………相当重傷だが……よし、まだ生きてるな」

 

 群れの中から出されたマン・イン・ザ・ミラー。彼は左腕以外の四肢は全て亡霊たちに引きちぎられていた。とにかく、グレイトフル・デッドはそんな状態にある彼がまだ生きていることに安堵すると、次はシビル・ウォーの方へ向き直る。やつを倒さなくては、この『ゲティスバーグの悪夢』は終わらない。

 

「亡霊どもは…………ひとまずこれで動きを封じた。後はてめぇだ」

 

『…………私を倒すとか言ったか? どうやってだ。亡霊たちの動きを封じた、その老化ガスでか?」

 

「どーだろうな……」

(亡霊たちの見た目から判断したのか。目の向けどころはまぁ良い野郎だな…………()()()()())

 

 グレイトフル・デッドは近くに落ちている金色のトロフィーに手を掛ける。彼が知るところではないが、これはジョニィ・ジョースターが過去に捨てた物だ。レースでディエゴ・ブランドーに負け、2着だった時に手に入れたトロフィーである。その先端に付いている馬の装飾を矢尻に見立てれば、このトロフィーを投げた時、きっと標的に深々と突き刺さるだろう。

 グレイトフル・デッドは考えない。行動に移すまでの時間はコンマ数秒であった。始めから、そうやって使うつもりだったのだから。

 

「オラァッ!!」

 

「! トロフィーを槍のように…………しかし」

 

 

ボン!

 

 

「私にはこの回避能力があるということを忘れたか?」

 

 自身に向かって投げられたトロフィーを、体をチャリオッツの装甲のようにバラバラに分解して回避するシビル・ウォー。四方八方に弾け飛んだ彼の体は、地面のあちこちに落下する。

 今までも何度か使ってきた能力であるため、シビル・ウォーが言うようにグレイトフル・デッドは忘れていたということはない。逆に、グレイトフル・デッドはこれを利用しようと考えていたのだ。シビル・ウォーの一部は彼の近くに落下してきた。これこそ狙っていたチャンスなのである。

 

 

ガシッ!

 

 

『!』

 

「掴んだぜ。シビル・ウォー」

 

 グレイトフル・デッドはシビル・ウォーの一部を右腕で押さえ付け、そう口にする。左手には刃が欠けたナイフが握られていた。このまま突き刺して攻撃しようというらしい。

 バラバラになっているためシビル・ウォーの表情は分からないが、少なくともグレイトフル・デッドが押さえている部品は彼の手から逃れようともがいている。そうこうしていると、弾け飛んだはずの他の部品が集まり出し、シビル・ウォーは顔の一部が足りないビジョンを構築し出した。元に戻るスピードが今回あまり速くなかったのは老化ガスの影響であろう。シビル・ウォーは焦りと怒気を含んだ声でグレイトフル・デッドに言う。

 

『おい、貴様……その手は何だ? 私は殺せないと分かっているはずだが? ()()()()()は無駄だというのにやるつもりなのか。その手を離せ!』

 

「ここに飛んできたんでこーして押さえたんだが…………まぁ、体のこんな一部分をナイフでいくら突っつこうがてめーは死なねぇだろうよ」

 

 

ガス! ガスッ

 

 

『うぐぉおお!?』

 

「あの回避能力。弾け飛んだその一瞬だけは体の部品がどこへ飛んでいくのか、正確に操作することはできねぇらしいな。あくまでも緊急回避だと」

 

 グレイトフル・デッドがナイフで部品を攻撃すると、シビル・ウォーは頭部の欠けた部分を押さえて悶え苦しんだ。シビル・ウォーには瞳も口も存在しないが、歯を食いしばっているように顔面下部が歪んでおり、立場が逆転したことに怒りを覚えていることがすぐに分かる。先程までの威勢はどこかへ消え去ってしまっていた。

 

『ぐぅぅ…………亡霊どもッ! その生意気なクソスタンドを殺せェェーーーーッ!』

 

「フンッ!」

 

 

ガギャアアッ!

 

 

『うがァアアアアア』

 

 シビル・ウォーの怒声により、マン・イン・ザ・ミラーに向かっていたゲティスバーグの亡霊たちはグレイトフル・デッドに向かって歩き始める。マン・イン・ザ・ミラーがなす術無く四肢をちぎられた軍団であるが、彼にとってはそんなことは今は関係ない。まだ足りんとばかりにグレイトフル・デッドが一層強くシビル・ウォーの部品を傷つけると、彼は大きな叫び声を上げ、後ろへのけぞってしまった。

 今が好機と見たグレイトフル・デッドはナイフを捨てると、向かって来る亡霊の一体を掴み、それをシビル・ウォーへと思い切り投げつけた。

 

『うげェ!』

 

「痛い目見たくなかったらよォ〜〜〜〜。能力を解除したらどうだ? そうすりゃこの部品も解放してやる。ギブアンドテイクだぜ」

 

 グレイトフル・デッドが亡霊たちを投げ飛ばし、攻撃してくるのに再びバラバラになって回避するのもいいだろう。しかし、部品の一つは捕まっている。殺せないと分かっているグレイトフル・デッドは、痛みによってシビル・ウォーの能力を無理矢理解除しようというのだ。この状況で、シビル・ウォーは能力を解除する以外に拷問から逃れる術は無い。だが、解除したところで無事に帰されるわけもない。彼はこの暗殺チームを十二分に怒らせてしまったのだから。

 やれることと言えば、過去の亡霊たちに早くスタンドたちを殺せと命令するぐらいだ。そんな彼らも老化してパワーが落ち、グレイトフル・デッドに放たれる肉の投降弾にされてしまっているが。

 グレイトフル・デッドはさらに亡霊を投げつける。

 

『ぐがァッ』

 

「おいおいどうした? さっきまで随分調子に乗ってたがよーー、いざ『自分が』となるととことん弱いじゃあねぇか。ええ? おい」

 

『…………!!』

 

「まぁ、そんな細っこい体じゃ、飛んでくる人間を受け止めるのも難しいかもなァ」

 

『ナ、ナメるなよ…………お前ごとき、すぐにでも始末できるんだからなッ……!』

 

「ほう。そうか。それじゃあ、やってみせてくれよ…………なッ!!」

 

 シビル・ウォーは飛んでくる亡霊たちをなんとか避けようとするも、グレイトフル・デッドの能力の効果は顕著に見え、ほとんど避けきれずに被弾してしまう。その度に亡霊の下敷きになり、力づくで退けたと思ったら次の亡霊が。

 彼はグレイトフル・デッドの挑発を受け、今度は回避ではなく防御の姿勢を見せる。飛んでくる亡霊を両腕で不器用に叩き落としたり、受け流すなど、素人同然の動きではあるものの能力を発動し続けてグレイトフル・デッドの寿命を縮めているのも事実。グレイトフル・デッドの体力が切れるか、あるいはシビル・ウォーがしくじるのが先か。それはすぐに分かることだ。シビル・ウォーは自分が追い詰めていると思い込み、その視線はグレイトフル・デッドにのみ向られていた。

 

『どうだ!? 少し意識を変えればここまで変わるものなのだ! このままお前がどうやって亡霊どもに殺されるのか、しっかり見届けてやるからな。自分がどれほどカスなのか、思い知りながら地獄に落ちろォーーーーッ!!』

 

 

ボギャアアッ!

 

 

『えっ』

 

「……………………」

 

 出どころの分からない音がした。いや、どこから響いてきたかは分かる。シビル・ウォーのすぐそばだ。だが、何がそんな音を出したのか。彼は一瞬だけ分からなかった。一瞬だけ。

 

「やりやがったな。()()()()()()()()()。マン・イン・ザ・ミラーを、お前が殺したんだ。その手でな」

 

「うっ…………が……」

 

 

ビギッ バキバキ ボギ…………

 

 

『な、な……何だとぉ〜〜〜〜!?』

 

 たった一つのことに集中し過ぎると、周りがよく見えなくなると言われる。それは感情もそうであり、あまりに激情してしまうとどんなによく見えるものも見えづらくなってしまう。シビル・ウォーに起こったのはそれだ。散々挑発されてプライドを傷付けられ、彼は自分に投げられたものをよく見ていなかった。

 グレイトフル・デッドが言うように、マン・イン・ザ・ミラーである。四肢がちぎれ、無くなった満身創痍の彼はシビル・ウォーに投げられたのだ。そして両腕で薙ぎ払われ、トドメを刺された。

 シビル・ウォーの思考は焦りによって構築と崩壊を繰り返す。自分はグレイトフル・デッドの能力で老化していたはずだ。人の体を簡単に破壊するパワーなど持ち合わせてもいない。老化しているのはマン・イン・ザ・ミラーも同じだが、ここまで脆さに違いが出ることなどあるのか、と。彼はそう考える。

 

「俺の能力は、()()()早いんだぜ」

 

『ま、まさか……投げるために掴んでいたその時に! 仲間をさらに老化させて体を弱くしていたのかッ! こうして俺にガードさせて、わざと殺させるためにッ!!』

 

「罪はてめーがおっかぶるんだ。そして、マン・イン・ザ・ミラーは蘇るッ!」

 

「うっ……こ、こいつは…………!」

 

『う、うわあああああああああああッ!!』

 

 シビル・ウォーが殺したマン・イン・ザ・ミラーはボロボロと朽ちていく。そして、グレイトフル・デッドの隣で五体満足となって復活した。全ての罪を清め、もはや襲ってくる亡霊も存在しない。この中で一番自由な身となったのだ。

 それに対しシビル・ウォー。背後に気配を感じてゆっくりと振り向いてみれば、そこには自身、ジョニィ、マン・イン・ザ・ミラーの3人が捨てた亡霊たちが迫って来ていた。地獄絵図。それ以外の何でもない。彼は再び、重い業を背負った罪人へ逆戻りしたのだった。

 

『くっ……うぅぅ……い、一度退却だッ…………!』

 

「逃げると、そうすると思ったぜ。マン・イン・ザ・ミラー! あのクソ野郎は絶対に逃すなッ!」

 

「あ、あぁ! 任せな!」

 

 グレイトフル・デッドは未だ自分の罪を清められていない。残った自分の亡霊たちを相手しなくては。晴れて自由となったマン・イン・ザ・ミラーにトドメを託し、迫る亡霊をなぎ倒す。

 シビル・ウォー。彼は卑怯は強さではないと、公正さこそスタンド戦において重要だと言っていた。しかし実際は、自身の真の目的を口に出さず能力にハメ込み、あまつさえ苦しむスタンドたちを見て楽しんでいた。いざ自分が戦わねばならなくなると、逃げようとするばかりで後は全て亡霊たちに任せきりだった。能力上そうするしかなかったのだろう。しかし、相手を騙し、正々堂々というものを口に出すだけ出して己はそうしなかったという事実は、彼が紛うことなきゲス野郎だということは変わらないのだ。

 逃げ出すシビル・ウォーと、それを追うマン・イン・ザ・ミラー。バラバラに分解するのが先か、あるいは鏡の中に閉じ込めるのが先になってしまうのか。

 

 

コンッ!

 

 

『! な、何だ?』

 

 走るシビル・ウォーの頭に、突如空から何かが降ってきた。サイズが小さかっただけに痛くはなかったが、どうやら硬い物のようである。物体は真上に昇った太陽の逆光でシルエットとなり、よく見えない。物体の正体、それは解き明かされるよりも早くに、答え合わせがされてしまうのであった。

 

 

グシャァアアン!

 

 

『ぐえッ』

 

「! な、何だこいつは!? シビル・ウォーが……(いかり)に潰されたッ!?」

 

 降ってきた物体を視界に収めようと、シビル・ウォーが顔を上げたその瞬間。巨大な錨が彼の真上に出現し、そのままシビル・ウォーを押し潰してしまった。下敷きにされたシビル・ウォーは完全に原型が崩れてしまい、シューッと音を立てて消滅を始める。しかし、まだ命蓮寺の敷地内にいるというのにシビル・ウォーの復活の兆しは見られない。今度こそ、シビル・ウォーを殺せたということである。

 マン・イン・ザ・ミラーが空を見ると、そこには2つの人影が浮かんでいた。一つはセーラー服に身を包んだ少女のもの。そしてもう一つは見知ったスタンドのものである。

 

「リ、リトル・フィート!」

 

「よぉ、マン・イン・ザ・ミラー。グレイトフル・デッド共々無事みてぇーだな。ちょっと安心したぜ」

 

「なーに言ってるんだか。ちょっとどころじゃないでしょ? さっき台所で見つけた時はあんなに「俺は仲間の元へ水を持って行かないと」って焦ってたくせに〜〜」

 

「う、うるせーぞ、村沙! 口挟んでんじゃあねェ!」

 

 村沙水蜜とリトル・フィートだ。2人はゆっくり降下し、マン・イン・ザ・ミラーの前に立つ。村沙はチラリと辺りを見回すと、気絶している白蓮と響子を助け起こしに向かった。リトル・フィートたちもボロボロになって耐えていたグレイトフル・デッドを介抱しに行く。

 マン・イン・ザ・ミラーがリトル・フィートに聞いた限りでは、村沙はグレイトフル・デッドと同様に人里への布教をバックれていたようである。最初は近くの川にサボりに行っていたようだが、白蓮と響子の妖力が異様に変化したのを感知し、この寺へ戻って来たとのこと。白蓮たちを探して台所を覗いてみると、すぐ近くでリトル・フィートが「水……水……」と口に出しながら死にかけていたため、自身の能力で水を与えて『清め』てくれたらしい。

 その後はシビル・ウォーの弱点として、『空間』の外から倒せば問題ないと考えて空に移動。グレイトフル・デッドの近くを離れ、逃走し始めたタイミングを見計らって小さくした村沙の錨を落としたのだった。

 

「何はともあれ、3人とも無事で良かったぜ。響子の奢りでよーー、何食う?」

 

「……リトル・フィート、俺はパスだ。疲れた」

 

「あん? おいおい……じゃあ、マン・イン・ザ・ミラー。お前はどっか行きてぇところあるか?」

 

「俺もパスだ。最悪な形だったが…………俺はもう()()()()()だぜ」

 

「あぁ……そうかよ」

 

「……………………」

 

 彼らは元々、自分の本体ともう一度会いたいという一心で封獣ぬえに手を貸していた時期があった。それは結局ウソであったと判明し、終わってしまった過去であるが、彼らの気持ちが変わったかと言われればそうではない。昨日まで会いたい気持ちはずっと存在していた。

 マン・イン・ザ・ミラーが言うように、最悪の形ではあったが彼らは今日再び(まみ)えることができたのだ。取るに足らないキッカケで始まった戦いであったが、()()()()()()()()()()()良かった。覚悟をもち、誇りを取り戻すための戦い、そこにこそ価値がある。肉体を失い、魂がカケラだけになろうとも、彼らは気高き暗殺者なのだと、証明するための戦いだったのだから。

 

 

 

 

 




ようやく終わりました。
ひょっとすると、今までで一番長い戦いかもしれないですね。4話使ったので…………

次回、最後の刺客が待ち受ける。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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