幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

78 / 101
投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
ちょっと恋人と一悶着あって落ち込んでいました…………
最近何かと不運続きで参ってしまう……


75.凍てつく太陽神

必要なものは『極罪を犯した36名以上の魂』である

 

 

罪人の魂には強い(パワー)があるからである

 

 

____________________

 

 

 命蓮寺でシビル・ウォーが撃破されるのとほぼ同時刻。ここ、人里でもある者たちによって戦いが繰り広げられた。それは、この幻想郷にスタンドが流れ着き出してから史上最も短い戦い。戦いの当事者はキラークイーンである。戦闘は彼が住む人里西部にて起こったのだった。

 人里西部にはいわゆる留置所、牢獄のような施設がある。いくら外の世界と比べて人口が少ない幻想郷と言えど、人里は広く、また色々な人間が住んでいる。穏やかに生きる人間もいれば、罪を犯しながら生きる者だっている。西部に位置するこの牢屋は、先述の後者のような人間たちを捕まえておくためのものであるのだ。

 

 

キョオオ〜〜〜〜ン!

 

 

「うぅ……ああぁ…………」

 

「うわぁあ〜〜ん! パパーー! ママーー!」

 

 そしてその牢屋は今日、巨大な氷山へと変貌していた。

 今は冬だ。地面に霜が降りるし、水溜まりは凍る。雪も降るし、吐息だって白くなる、そんな季節だ。だが、日本は一つの建物が丸々凍結されてしまう気候では断じてない。そんなことは妖怪や妖精の力を使わねば実現することが不可能である。

 つまり、この現象は自然由来のものではなく、別の者が意図して引き起こした事態なのだ。氷の彫刻と化した牢屋と隣接する家々にも氷の魔の手が伸びており、逃げ遅れたのであろう住民たちの幾人かも体を凍らされて身動きが取れない状態にある。その中のさらに数人には、その体にまるで矢のように氷柱(つらら)が何本も刺さっていた。

 犯人の名前は『ホルス神』。アヌビス神と同じく、エジプト9栄神の一角。牢屋の前で構え、近付く者を誰であろうとも排除する。まさに地獄の門番である。

 

「グガガガ…………」

 

 ホルス神は機械か、あるいは鳥類のミイラのような首を曲げる。視線の先には10歳にも満たないような一人の少年が。側には下半身が凍りつき、肩や腹に氷柱を貫かれた大人の男もいる。どうやら少年の父親であろう。もはや虫の息となっている男に(すが)りつき、泣き声を上げている。

 ホルス神は体に生えた幾本もの腕から氷柱を生み出す。標的は必ず仕留めるのだ。邪魔になるのであれば老人だろうが子供だろうが、男も女も関係無く殺す。この無慈悲こそが、彼の忠誠心の証である。

 

 

シャコン シャコン! ビシビシッ

 

 

「…………」

 

「うぅ……ヒ、ヒィィーーッ!」

 

「か、一真(かずま)……逃げなさい…………お父さんとお母さんはもうダメだ……お前だけでも生きるんだ……」

 

「嫌だよぉ! 一緒に逃げようよ、お父さん!」

 

「バカなことを言っているんじゃあない! 早くしろ…………攻撃が……く、来るッ!」

 

 父親の近くには体中に氷柱が突き刺さって絶命している女性もいる。彼女こそが少年、一真の母親だ。ホルス神の攻撃から一真を庇って死んだのだ。

 父親も、現在の負傷状況を考えて自分も長くはないと悟っている。だが、まだ五体満足である一真だけであれば逃がせるだろう。そう考える。しかし、一真はまだ少年だ。親離れも済んでいない。ボロボロになった親を置いて逃げるなど、とても難しい話である。ホルス神はそんな少年の都合など弁えることはないのだが。

 

「ガガガガッ! ガガガッ」

 

 

ドン! ドン! ドバッ ドウッ

 

 

「う、うわああああぁあああ!!」

 

「撃ってきたッ…………! か、一真ァーーーーッ!」

 

 

ドゴォオ〜〜〜〜ン!

 

 

「…………!」

 

「あ、あれ…………外した……?」

 

 ホルス神が発射した4本の氷柱のミサイルは、2人目掛けて突撃…………したかと思われたが、その着弾地点は彼らの背後にある家屋であった。親子はホルス神が攻撃を外してしまったのかと思うが、そんなことはない。ホルス神は、自分の標的に攻撃を見事ヒットさせた。土埃の中から、バキバキと瓦礫をどかす音が聴こえる。シルエットも徐々に浮かび上がってきた。

 

「うぐっ…………バ、バレていたのかッ……!」

 

「ああッ! あ、あなたは…………もしや、キラークイーンさんではないか!?」

 

「!」

 

 崩れ始める木造家屋から転がり出てきたのは、なんとキラークイーン。彼は中に居たのではなく、建物の陰にいた。出掛けてからその帰宅途中、家を出た頃には無かった氷山が突如として現れていたため、彼は一連の出来事を陰から観察していたのだ。

 キラークイーンはバレていないと思っていたが、ホルス神にはバレていたようである。ホルス神の本体はハヤブサである。エジプトでは狩猟にも使われ、その脅威的な視力は『ウジャト』と呼ばれて重宝された。ホルス神にもあるのだ。数km先にいる虫をも見つける、栄光と幸福の狩人の目が。

 

「キ、キラークイーンさん! あなたの噂や活躍の方はかねがね聞いております! どうか、どうか私どもの息子を守ってもらえないでしょうか!?」

 

「なにっ…………!?」

 

「お、お父さん!」

 

「あなたは今まで、様々な敵を討ち破ってきたと存じております。数ヶ月前のカビの事件の犯人、その前では人喰いネズミを。果敢にも、敵に操られていた妖夢さんとも一戦交えたのだとか! どうかお願いです! あの敵も倒していただけないでしょうか!」

 

「ッ…………!」

 

 その願いを聞いたからといって、何か見返りがあるわけではない。元気に喋っているがこの男、脇腹に氷柱が刺さっているのだ。きっと今、残された力をキラークイーンに対する願いごとに消費しているのだろうと、キラークイーンは心の中で思う。

 願い下げだ。ホルス神の姿からして、自分だけなら走って逃げることができるだろう。氷で自分の体を支えているので、そもそも動くことすらできないと思われる。だが、やつは遠距離攻撃を可能とする。父親の言う通りにしたところで、子供の方は父親も連れて行くと言い出すはずだ。そんな風にもたついていれば、全員まとめて氷柱に串刺しにされる。かと言って、戦うつもりも無かった。誰かのために命を懸けるなど、キラークイーンからしてみれば理解できない滑稽極まる行動。そしてこの男の、自分の都合だけを喋る様子も気に食わない。

 

「一真、お前は、早く逃げるんだ。キラークイーンさんのお邪魔になってはいけない。家へ帰るんだ」

 

「!」

 

「お、お父さん……? 置いてなんか行けないよ!」

 

「お父さんはもう少ししたら行くからな。安心するんだ。キラークイーンさんがいれば大丈夫さ」

 

「……………………」

 

「さぁ、行くんだ!」

 

「う、うん! 絶対戻って来て!」

 

 一真はキラークイーンと父親に背を向け、ホルス神のいる方向とは逆向きに通りを走って行った。

 取り残されたキラークイーンはその場でずっと静止している。父親は先程まで大きな声で話していたため、今は体力の消耗が原因で肩で息をしている。父親からの願いを託されたキラークイーンであるが、彼の鋭い、向けられただけで小動物を殺してしまいそうな目は、父親の方へと向けられていた。

 

「感動的な別れだな…………親子の絆というものかね」

 

「フフ。ええ。あなたがいらっしゃらなければ、我々は希望を捨てていた。本当に良かったです…………このケガですが、まだなんとか()()()()ですよ。それでも動けないので、あの敵は任せましたよ」

 

「………………」

 

「敵を倒したら、今度は私を診療所へ連れて行ってください。もしくは、ここで応急処置を…………」

 

 

ガシィィ!

 

 

「うぅ!?」

 

「君…………私を一体何だと思っているんだ?」

 

 キラークイーンは父親の襟を掴み上げ、強い威圧感を与える。思わず怯んだ男は、キラークイーンの勢いに負けて目と目を合わせることができない。

 「ふざけるな」、とキラークイーンは目で訴える。この男はおそらく、いや間違いなく、キラークイーンのことを英雄か何かだと思っている。そうやって吹き込んだやつがいるのだろうが、それ以前に、この男は自分たちの都合だけを押し付ける人間だ。

 キラークイーンがそれを言えた立場ではないが、この男と全く違う部分が一つある。力をもっているかどうか。自分のものではない力に頼り、自分の都合を優先する。それを悪いことだろうとも思わずに。

 

「自分の勝手な都合をベラベラと……自分や自分の妻をこんな目に合わせたやつに一矢報いたい、とでも言うつもりなのか? 私をけしかけて」

 

「ヒ、ヒィィ! な、何を……!」

 

「私はスティッキィ・フィンガーズとは違う。あんなやつと一緒にしないでほしいものだ。あの敵スタンドを倒したいというのなら、()()()()()どうにかしろ。だがまぁ、私の帰路でもあるから、殺すのは私だがね」

 

 

バキバキ……ビギッ バキッ!

 

 

「うわああ!?」

 

「そこにいるのが君の妻だな? とっくに死んでるが……まぁ、構わんだろう。君の理想に付き合えるんだからな…………」

 

「わ、私たちで一体何をする気なんですかァァーー!? 私と妻を連れてどうしようと!?」

 

 キラークイーンは氷の中から父親を引っ張り出し、死んでいる母親も服を引っ張って持ち上げる。右手に父親を、左手に大量に氷柱が突き刺さっている母親を持ち、キラークイーンはホルス神を見やった。

 ホルス神が今までのやり取りの中で一切攻撃してこなかったのは、キラークイーンがこの場から逃げる可能性を感じ取っていたからだ。ホルス神には分かっていた。しかし、キラークイーンは結局反対の選択肢を選んだ。であるならば、牢屋の罪人たちを捕まえるよう命令された以上、牢屋に近付く者、自分の邪魔をする者は徹底的に排除しなくてはならない。忠誠を誓った主君のため。

 ホルス神は臨戦態勢へと移行する。合計6本の手にスタンドパワーを込め、再び氷柱群を生成する。狙いはキラークイーン。人間2人は何のために掴まれているのか、それはホルス神には関係無い。殺して終わらせるまでだ。

 

「キョオオ〜〜〜〜ン!!」

 

「来るか……」

 

「キラークイーンさん! 何をォーーーーッ!?」

 

 キラークイーンは今にも氷柱を発射せんとしているホルス神目掛けて、地面を渾身の力で蹴飛ばし走り出す。ホルス神はそれを認識すると、いよいよ氷柱のミサイルを撃ち出した。

 迫る氷柱群。キラークイーンとの距離はどんどん縮まる。しかもホーミング性能まであるらしい。全弾、キラークイーンの頭部、(存在するかは分からないが)心臓部に向かって突進して来る。だが、焦ることなど無い。今のキラークイーンには『盾』があるのだから。

 

「うわぁあああアアァァァーーーーッ!!!」

 

 

ドォウッ バゴン バゴン! ドガァン!

 

 

「ぶがッ」

 

 氷柱が当たる直前、キラークイーンは手に持っていた2人を前方に構え、その肉壁を以ってして攻撃を防いだ。しかし、氷柱の攻撃は木造家屋を破壊するほどの威力をもっている。一次の攻撃を防いだ時点で母親と父親、2人の体はバラバラに吹っ飛び、キラークイーンは丸腰になってしまった。赤い血溜まりとなって地面に落ちた肉片は小さすぎてもはや使いものにならない。

 

「だが、次の攻撃のための生成(リロード)の時間はあるだろう?」

 

 キラークイーンは何も思わない。悪いとも、悲しいとも思わない。自分に関わらなければ、助けなど求めなければ()()はならなかった。呪うならば自分に力が無かったことだ。それが彼の持論である。

 キラークイーンの推測通り、ホルス神の氷柱弾は生成に数秒の時間を要する。短い腕の先の手の中に氷柱を生み出すか、あるいは空中に顕現させるか。破壊力は凄まじいが、唯一の隙というように存在するこの時間、この一瞬こそが間が勝負の鍵である。この間にホルス神との距離を縮め、一撃叩き込まなければ。そうすれば、やつを爆弾に変え、スイッチを押すだけでいい。一度でも手で触れれば、キラークイーンの勝ちである。

 しかし…………

 

 

ビギビギ……ビシッ ビシッ

 

 

「! こ、これは……………」

 

「グガガガガッ、ガガガッ!」

 

「私の足が氷に…………氷柱と一緒に氷に地面を這わせたのかッ! 私の足の動きを止めるために!」

 

 キラークイーンの動きは止まる。彼の足には氷が纏わりついており、それはホルス神の足元付近から伸びて来ている。まるで長野県の諏訪湖で見られる『御神渡(おみわた)り』のようだ。唯一の違いと言えば、神々しさのカケラも無く、逆にキラークイーンの命すらも凍りつかせ、奪い去ってしまいそうなほどの危なさがひしひしと伝わってくるぐらいか。

 だが、キラークイーンは近接パワー型スタンドだ。その例に漏れず、格闘が不得意なだけでクレイジー・ダイヤモンドやスタープラチナに次ぐほどのパワーならもっている。この程度の拘束、すぐに解いてみせよう。()()キラークイーンならば尚更、無理矢理振り解くことができるのだから。

 

「この程度の氷で、私の動きを止められると思ったのかね? 無駄なことだが…………私はこれまでの幻想郷での戦いの中で様々なことを学んだ。今からそれを、少しだけ体験させてあげよう」

 

「…………!」

 

「フン!」

 

 

バガァアアン!

 

 

「!!」

 

「スタンドは、感情の変化や精神の状態によってスタンドパワーが上昇する。これに気付いている者は他にもいるだろうが、これを()()()()()()()()()()しているのは、おそらく私だけだろうさ」

 

 キラークイーンの足を止めている氷は砕け、その細々とした破片は辺りへ撒き散らされる。脚のパワーだけで、氷による拘束を解いたのだ。ホルス神もこれには目を見張る。本体、ペット・ショップが生前に戦った相手(イギー)でも、この拘束から逃れるために前足を一本犠牲にしている。氷柱弾でさえも叩き割られた覚えはほとんど無い。それをこのスタンドは、パワーだけで破り去った。ホルス神は確信する。キラークイーンは間違い無く将来、自分の主の邪魔になる存在となると。

 そう考えるや否や、今度は嘴を大きく開け、口の中から先程とはひと回り大きな氷柱弾を生成し始める。それだけに留まらず、全ての腕からも氷柱が出来上がっていく。この至近距離、全て防ぎ切れるのか?

 

 

「しばッ!」

 

 

ドメシャアア!

 

 

「グガガァァッ!」

 

「多分だが、貴様、もしかして本体は人間ではないんじゃあないか? 知性はあるにはあるが、人間のそれとはどうも違う。興味深いが、私は家に帰るために貴様を狩らねばならないのだよ。私は平穏を望んでいる。邪魔者は始末して……ね」

 

 キラークイーンの拳がホルス神の右頬を叩き、その無機質な表面にヒビを入れる。口の中の氷柱はその衝撃によって粉々に砕けてしまった。ホルス神は怯み、幾本かの武器の一つを失ったのだ。

 今のキラークイーンのスタンドパワーは著しく上昇している。源となっているのは、先程の少年の父親に対する感情。それもあるだろう。しかし、キラークイーンは精神状態によって強さが変化するというスタンドの性質を、既にコントロールし始めていると言った。人間は感情を意のままに操ることはできない。怒りを生み出すにも原因が必要である。悲しみも、嬉しさもだ。

 だが、『意志』は違う。人間の精神力をさらに引き上げる要因としての『意志』。キラークイーンはホルス神に対して抱いている。必ず殺す。明確なる『殺意』をだ。

 

 

ガシッ ガシィ!

 

 

 間髪入れず、キラークイーンはホルス神の下顎と上顎を鷲掴み、ギシギシと軋ませながら口を無理矢理開かせる。嘴が掴みやすいのをいいことに、嘴を掴んだ状態で、(ふくろう)がやるように首を背後の方向へ180°近く捻らせ始めた。

 

「捕まえたぞ…………この首をそのまま、反対方向にへし折ってくれる!」

 

「ガ……ガ……ガガ…………!」

 

「フンッ!」

 

 

ボギャアアアッ!

 

 

「ギャーーーース!!」

 

「よし……いいぞ。いい破壊力(パワー)だ」

 

 ホルス神の首の力はキラークイーンの腕力に耐えきれず、遂に首が本来向くことのない背後方向へ曲げられてしまった。そのダメージはかなり大きく、手の中に出現させていた氷柱が生成途中でほとんど消滅してしまうほど。

 キラークイーンは自分自身に宿った、強化されたスタンドパワーを試して頷く。納得のいく結果を出せたようである。ホルス神は殺すつもりでキラークイーンの相手をしているが、今のキラークイーンはこれまでの彼とは違う。さらに速く、さらに力強く、さらに反応速度が上がっている。キラークイーンからすればこの戦い、もはやただの実験のようなものになっていた。

 だが、ホルス神の意志は未だ滅んでなどいない。氷柱は()()()()消えただけ。まだ一本だけ、手の中に残っている。照準はキラークイーンの顔面に合わせ、彼の意識がまだ彼自身のスタンドパワーにある今の内に…………発射!

 

 

ドォオオ〜〜ーーン!

 

 

「ニギギィ……!」

 

 硬く、本来動くことのないホルス神の嘴が歪む。嘴の端がつり上がったところを見るに、これは笑みだ。

 氷柱弾は確実にキラークイーンの顔面に着弾した。それは先程放たれた音が、現在進行形で後方へ吹っ飛んでいる彼の体が証明している。絶対に当たった。外したことなどまず有り得ない。さぁ、氷柱弾の威力に負けて吹っ飛ばされた体を地面に落とし、早く穴の空いた顔面を見せてみろ。ホルス神はキラークイーンの死に顔を拝みたくてしょうがない。楽しみで、楽しみで、楽しみで…………いよいよキラークイーンの顔がこちらへ露わになる。どうだ、風穴は空いているか……?

 

「バカな。お前の攻撃は当たらないぞ。全て、()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

「見ろ。顔面スレスレのところで……キャッチしてやった。奇しくも私の顔にヒットすることはなかったな」

 

「……………ッ!!」

 

 キラークイーンには傷一つ付いていなかった。顔面に直撃する瞬間、それよりも早く手で氷柱を掴み、受け止めていたのだ。しかもただ掴んでいるだけでなく、彼が握っている部分の氷には指の跡として凸凹さえもできている。相当な力で握り締めた証だ。

 キラークイーンは氷柱を握るパワーをさらに強め、粉砕して見せる。ホルス神に見せつけるのだ。お前では私に勝てない、と。そして、もう充分に分かった。自分がこれまで確信し、身につけようとしてきたことが完全に自分のものになっていくのがよく分かる。スタンドパワーのコントロールを、キラークイーンはこの時を以って大成したのだ。

 

「礼を言わせてもらおうか。名も知らないスタンド。君はよく役に立ったよ。私の『トレーニング』にね」

 

「……!」

 

 

ズバァアア〜〜ン!

 

 

「せっかく強力な能力をもっていたんだ。もう少し、君自身の機動力があればもっと厄介だったと思うよ。つくづくそう思う…………さようなら」

 

 キラークイーンはホルス神目掛けて延髄切りを放ち、その首を切断する。攻撃を防がれ、呆然としていたホルス神は、延髄切りのあまりのスピードに対応することができなかった。それはまるで、ギロチン処刑のような厳粛さすら感じられた。この時をもち、ホルス神は幻想郷での命を失ったのである。

 地面に転がった頭部と、氷に支えられながら残された胴体部は煙を上げながら消滅を開始する。氷山も、今まで隠れていた太陽からの日光を浴び、ゆっくり、ゆっくりと解け始めるのだった。

 

 

______________________

 

 

 

「お父さん……まだ来ないのかなぁ」

 

 一真は一人、家の中にいた。キラークイーンや自分の父親から別れておよそ20分。父親の言いつけ通り、彼はどこにも寄り道をせず、道草も食わず、家まで一直線に帰った。「必ず帰る」と父親は少年と約束したのだから、少年は家に居なくてはならないのだ。自分こそ、父親が帰って来る場所だからだ。

 ただでさえ寒いというのに、ホルス神の影響を受けて一真はすっかり凍えてしまっていた。彼は心の底から欲している。自分の冷めきってしまった体を温めるものを。温かい、家族とのひと時を。母親はきっともう戻っては来ない。では、父親だ。何としてでも帰ってきてほしい。一真は祈り続ける。

 

 

トントン!

 

 

「! お父さん……?」

 

 突如、家の戸が誰かにノックされた。今日家から出発する際、両親は来客があることを言っていなかった。ということは、このノックの主は知り合いの人間ではない。友だちでもないだろう。きっと大きな声で自分の名前を呼び出すはずだ。

 ならば…………もしかして…………

 

「お、お父さん!」

 

 一真は急いで立ち上がり、戸の方へと駆け出す。きっとそうだ。そうに違いない。ノックの主が自分の父親だと断定できるものは何一つ無いが、一真が戸の前に立っているのは父親だと信じて疑わなかった。それはおそらく、彼自身が誰よりも父親であることを望み、父親に希望を見出していたからであろう。

 戸が開かないように固定するための板を外し、一真は取手に手を掛ける。そして、戸を勢いよくスライドさせた。

 

 

「やぁ。ここが君たちの家かね。もう空き家になるが」

 

 

 

カチッ

 

 

 

 音は無かった。光も、煙も、出ることはなかった。

 一真の体は一瞬にして灰となり、冬の北風が吹きつけた箇所からボロボロと崩れ去っていく。()()()()()灰は風と一体となり、幻想郷のどこかへと飛ばされる。

 危険因子は一人たりとも生かしてはおけない。自分が助けるはずだった一真の父親。彼が死んだとなれば、生き残った一真が何を皆に言いふらすか分かったものではない。もしかしたら、「キラークイーンが父親を殺した」と言う可能性だってある。だから殺した。女も子どもも関係無く、愛しき本体吉良吉影は杜王町であらゆる者を葬ってきた。躊躇など、あるはずもない。

 死んだ人間は地獄か、あるいは冥界へ行く。キラークイーンとしては、一真の殺害には「死んだ父親と母親に会わせてやった」という理由づけも存在していた。だがキラークイーンは知らない。自分が手を下した人間は、その魂すらも一片残らず爆破、消え去ってしまうということを。

 

 

____________________

 

 

 同時刻。幻想郷のどこかの森の中。歯をギリギリと噛み締め、表情筋全体を強ばらせたホワイトスネイクの姿があった。

 彼は猛烈に焦っているのだ。自分が幻想郷各地に放った刺客たちが、全員撃破されてしまったためである。スタンドに、幻想郷の住民に。敵が数多く存在していることは予想はしていた。だが、想像以上であった。刺客たちが何の成果も上げられなかったのは予想だにしていなかった。

 ホワイトスネイクの手には童話、桃太郎の絵本があった。桃から生まれた桃太郎が、悪さをする鬼たちを倒すために鬼ヶ島に乗り込む話。おそらく、日本で最も有名な昔話だろう。そんな桃太郎の絵本を、目の前でニヤニヤしているピノキオに見せつけながらホワイトスネイクは彼に言う。

 

「ピノキオ、いよいよお前に命令を与える」

 

「おお! ついに僕の出番なんだね! 楽しみだな〜〜。僕は何をするんだい? もしかして、人里の子どもたちを笑顔にするとか!」

 

「…………17……19……23」

 

 ピノキオが喋り始めると、ホワイトスネイクは言葉を出しかけた口を紡いだ。代わりとして、彼は唐突に素数を数え始める。素数は自分と1でしか割り切れない孤独な数字であり、どうやらそれらを数えることは彼にとってパワーとなるようである。つまり、今はピノキオの話に付き合っていられるほど、時間と心の余裕が無いのだ。ピノキオの言葉が止まると同時に、ホワイトスネイクはつぐんだ口を再び開く。

 

「いいか、ピノキオ。これから我々は地底へと向かう。『生まれたもの』を直々に回収しに行くのだ。お前の役割は、その間に幻想郷の敵勢力を消し去ることだ」

 

「ええーー! 消し去るだって!? 純粋無垢な子どもたちまで!?」

 

「お前に宿る『能力』であれば可能だ…………そのスタンド能力の本体は未だ生きているが、己の人生と運命に絶望するあまり、スタンドパワーと精神力が著しく弱まってしまった。その一部が、お前に引き継がれている」

 

「うんうん。それを、僕が使えばいいんだね」

 

「その通りだ。たとえ一部だけであっても、その能力は幻想郷全域にはたらきかけるにちがいない。お前が発現させるのだ。ボヘミアン・ラプソディーを!」

 

 

 




キラークイーンの強化回でもありましたね。
続、悪夢が始まる。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。