幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
みなさん予約はしましたでしょうか?
もちろん、私はしました。楽しみだな〜
「何だ!? 一体何が起こっているんだ!?」
人里の真ん中で声を荒げる女性がいる。半人半妖の上白沢彗音だ。今、彼女の目に映っているものは人里のいつもの日常ではない。非日常、いや事件、いや阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
あっちでは頭に尖った突起のある少年の姿のロボットが飛んでいる。こっちでは赤と青のスーツを着て、手から蜘蛛の糸を伸ばしてスイングしている者がいる。向こうには麦わら帽子を被った青年が手足を伸び縮みさせ、体がバラバラになるピエロのような男と戦っている。その余波で、そこかしこで爆発が起こっていた。
秋頃に甚大な被害を及ぼしたカビの異変どころではない。どれだけ混乱しているかで比べるならば、今この時に起こっていることの方が圧倒的に上であった。
「うわあああ!!」「ヒィィーーッ!」
「た、助けてェーーッ!」「ギャァァアッ」
口々に悲鳴を上げ、逃げ惑う人々。そんな彼らを後ろから追いかけるのは、真っ白く四角い鎧のような物を着込んだ兵隊たちだった。手には槍や剣を持ち、武装している。また、彼らの身に着ける長方形の真ん中には個人によって違うものの、黒色か赤色のハート、スペード、ダイヤ、クローバーといったトランプのスートが刻まれていた。
「行けェ! 我が兵士たちよ! このハートの女王の力を、愚かなる平民どもに見せてつけてやるのさ!」
『おおおおぉぉ!!』
トランプの兵士を指揮するのは、これまた真っ赤なハートがそこかしこに散りばめられたドレスを着た、太った一人の女性だ。彼女は自身で言ったように、『不思議の国のアリス』に登場するハートの女王である。小さな子どもが蟻にちょっかいをかけるのを楽しむように、女王は逃げ惑う人里の民たちを追い回し、恐れられることを楽しんでいるのだ。
そんな兵隊たちの前に、この状況を黙って見ていられなかった者が立ち塞がる。彗音だ。
「お前たちやめろッ! 何の理由があって人里を襲うのだ! 一体どこから現れた!?」
「むッ!? な、何だ、この生意気な小娘は! このハートの女王の前に立ち塞がるとは無礼な!」
「無礼で結構! 里を脅かすお前たちに何を言われようとも、私は微塵も意に介さない。やめないというのなら、力づくで止めてやる」
「ハーハッハッ! 愚かな。おい、兵士たち! この娘を
『は! 女王陛下の仰せのままに!』
兵士たちは一斉に叫ぶと、彗音の元へまるで津波のように押し寄せて来た。剣や槍が突撃して来る。このまま避けねば串刺しになる。だが彗音は避けようとはしない。このまま、正面から迎え撃つつもりである。そう。弾幕を以ってして。
両掌が光り輝き、眩しい球を作り出す。彗音はその2球を、迫る兵士たちへと投げ込んだ。
「フン!」
バグオォン! ドガァアン!
「うわぁああッ!」「ぐおぉ!」
「うあああぁぁ!」
「な、何だ!? あの光は!」
「じ、女王さま……まさかあの女、魔女なのでは!?」
「な、何ィィ?」
「どうした。終わりか、トランプども!」
兵士たちをバッタバッタと弾幕群で薙ぎ払う彗音。たとえ武器を手に持とうが、彼らは所詮人の域を出ないただの兵士であるよう。腕力も妖力も段違いである彗音には敵わなかったわけだ。
しかし、ある兵士の言葉により、女王の勢いは逆にヒートアップすることになる。妖怪の概念の無いハートの女王たちにとって、奇怪な術を使う彗音は魔女と同じ存在だ。魔女はいけない。ハートの女王は自身のドレスと遜色つかぬぐらい顔を真っ赤にし、兵士たちへ叫んだ。
「お前たち、あの女の正体は魔女だ! 魔女は生かしておけぬ! もう容赦などいらない。殺せェ! 火あぶりだ。串刺しだ。車裂きだ。魔女狩りを執行せよッ!」
『は! 女王陛下の仰せのままに!』
「くッ! まだ来るか。私とお前たちの実力の差は分かりきっているというのに!」
トランプ兵たちは女王の言葉によって勢いづき、再び彗音へと突進を仕掛ける。依然として彗音の方も避けようとはせず、手の中に弾幕を生成し始めた。
それらをトランプの群れの中に放つと、彼らはあっちこっちへと吹っ飛んでいく。そのまま再起不能となれば良かったが、軽傷の者は手放してしまった武器をまた手に取り、彗音へ2度目の攻撃を仕掛けるのだった。いい加減鬱陶しく思う彗音だが、埒があかないのも問題だ。懐から、一枚のカードを引き抜く。人里のど真ん中で使うのは気が引けるものの、事態が事態だ。早くトランプ兵たちを片づけ、異変の解決を目指さなくては。
と、次の瞬間……
ドン ドン ドォン!
「うぎゃあアアァッ!」
『じょ、女王陛下!?』
「!」
(何だ……!? 女王が後ろから何かに攻撃されたぞ)
彗音がスペルカードを使おうとしたその瞬間、3回の破裂音とともにハートの女王の体が宙空を舞った。後ろから何かに突き上げられたような姿勢から、女王は背後から何者かに攻撃されたことが分かる。女王を攻撃した犯人の正体は、彗音がよく知る者の一人だった。
「よぉ、彗音。ずいぶんアグレッシブな連中にモテてんじゃあねーか! あたしも混ぜてくれよ」
「エ、F・F!」
「な、何だ、あの黒いものは!? 生き物なのか!?」
「きっと魔女の手下に違いない。殺せェーーッ!」
「チッ……人のことバケモノ扱いしやがってよォ〜〜。それで向かって来るとは、覚悟はできてんだろーな。おい!」
現れたのはF・Fだった。未だ肌寒い冬ということで、上着を羽織っての参上だ。ハートの女王を背後から『F・F弾』で撃ち抜き、彗音と兵隊を挟み込むような形となる。
いくら元宿主のエートロの顔をコピーした姿をしていても、体色は元々と同じ黒色。トランプ兵たちは一瞬怯んだが、女王を攻撃されたことにより『報復』として士気を高め、F・Fに襲いかかる。
だが、F・FはF・Fで人外だ。半分人間である彗音と違い、人間との共通点の方が少ない。彼女は拳銃を撃つような体勢をとり、向かって来るトランプ兵たちに人差し指の銃口を定める。狙いは頭部だ。一撃で仕留めてくれよう。引くトリガーなど必要ない。ただ、F・Fが「撃つ」と思ったのなら、体を構築するプランクトンたちが勝手に撃ち出すからだ。
放たれた『F・F弾』はトランプ兵たちの頭を狙い通り粉砕し、一撃で殺していく。10人近く殺したところで、残った数人が逃走を始めかけたが、それは彗音が許さなかった。逃げた先で再び破壊活動をされては堪らない。借りはあるので、しっかり弾幕で返してやったのだった。
「よし。トランプの兵たちは片づいたな。ありがとう、F・F。助かった」
「あぁ…………いや、それよりもだ彗音。お前、子ども見てないか!?」
「なに? 子ども……だと? いや…………そういえば今日は一度も見てないが……」
「そうか……彗音も見てないか…………ありがとよ。それじゃあ、あたしはもう行かせてもらうぜ。子どもを探さないといけないからな」
「待て、F・F! 何が起こったんだ? いや、そもそもこの人里に現れた連中は何なんだ!?」
「……あたしにもよく分からない。だが、スティッキィ・フィンガーズが言うには、おそらくスタンド攻撃だ。子どもについてだが、話に聞いた限りだと人里中の子どもがいきなりいなくなったらしい。目撃者はいたんだが、笛を吹く男にみんなついて行ったとか言ってたぜ」
人里中の子どもたちは笛を吹く、顔の彫りが深い男に連れ去られたと言う。F・FはS・フィンガーズと人里の大人たちにその男の捜索を頼まれていたのだ。S・フィンガーズからは、最悪殺しても構わないとも言われていた。真実は不明だが、F・Fはその時のS・フィンガーズの態度からして、人里に何が起こっているのか大方の予想がついていたように見えた。
2人は知らないことだが、子どもたちを連れ去ったのは童話『ハーメルンの笛吹き男』より、ハーメルンに訪れた笛吹きの男である。この話のシナリオだが、ハーメルンという地に訪れた笛吹き男が金と引き換えに、町中に大量発生したネズミを町の外へ連れ出す、というものだ。だが、ネズミを連れ出した男に金が支払われることはなく、その報復として笛吹き男が町中の子どもを町の外へ連れ出して失踪するというエンディングを迎える。
人里のどこかで、この笛吹き男が人里の人間にネズミ退治を申し出、そして
「スタンド攻撃……ということは、スティッキィ・フィンガーズは敵のスタンドエネルギーを感じ取ったということか?」
「それは分からねぇけどよ〜〜、スタンドが原因じゃないとこんなこと説明がつかないぞ」
「それもそうだ……」
「彗音。子どもはあたしに任せて、あんたは暴れ回ってるやつをどうにかしてくれ! S・フィンガーズも同じようにしてっからよォ!」
F・Fはそう言い残すと、彗音を通り過ぎて通りの奥へと走って行ってしまった。
F・Fを見送った彗音は人里を
彼女も彼女でF・Fに言われたように、人里の民の救助に向かうため、いよいよ足を踏み出す。
「キェエエエエッ!! 鬼だ! 鬼を見つけたぞ!」
「!? な、何だ!?」
「おいおい雉さんよ、まさかこの手柄を独り占めするわけねーよな〜〜? ケケケケケケ」
「ハッハッハッ…………ところでこの鬼、誰が倒す? 雉か猿公、それともオイラか? あるいは『桃太郎』さんに伝えて斬首してもらうかぁーー?」
「犬、猿、雉…………この3匹……まさか…………!!」
彗音の前に突如として現れた、世にも奇妙な喋る動物たち。彼らは彗音を囲うようにして動き、獲物を取る狩猟者の目で彼女を睨んでいる。犬、猿、雉という3匹の組み合わせと彼らが口走った『桃太郎』という言葉から、彗音はあることを推察した。まさかこの現象、作られた空想の物語を現実にするというスタンド能力なのでは?
いや、それよりもだ。3匹は彗音に向けて「鬼だ」と言った。それが一体何のことなのか、彗音にはさっぱり分からない。今は満月ではなく、彗音が見せる
「ん……!? な、何だ…………?」
(く、口の中に違和感が……私の、歯が…………!?)
「キィキィ……犬と猿や、やっぱりこいつ鬼だぞ」
「ケケケ。違いない。口から見えるその立派な牙! 頭から生えているツノ! 絶対間違いないね」
「!!」
(そんな……バ、バカな……! 確かにあるッ……! この頭にある突起の感触……まるで本当に鬼のツノじゃあないか! それに歯だって変形し出している……!?)
彗音は自分の額辺りを手で触って確かめる。バサバサと滞空している雉が言うように、そこには一本の硬い突起、すなわちツノが確かに存在していた。同時に口内の歯も舌でなぞって確認してみるが、そのどれもが犬歯のように鋭く尖っている。彗音の体は今この時、徐々に『桃太郎』の鬼へと変貌し出しているのだ。
そんな彼女へ近付いてくる、一つの人影。彗音はそのシルエットを見るなり、すぐに確信する。少年のような小さめの体躯、腰にぶら下げた袋、背中に差した日本一の旗。伝説の、桃太郎その人であった。
「犬、猿、雉よ! よく鬼を追い詰めたな。後はこの桃太郎に任せるんだ!」
「ま、待ってくれ! 私は鬼ではないんだ! 本当だ! 体がいきなりこうやって変化し始めて……」
「無駄だよぉ。お姉さんさぁ、
「!?」
「ケケ、良いじゃあねぇか。俺たちのことが好きだったんなら、好きなキャラクターに殺されるのも文句は無いだろう? 早く桃太郎さんに倒されてしまうんだよ。それが『桃太郎』のストーリーだ」
「さぁ、悪い鬼よ。覚悟しろ!」
桃太郎は剣を構え、ジリジリと彗音に詰め寄る。全ては作られたストーリーに則って進んでいく。全ては描かれたシナリオ通りに進んでいくのだ。
これが『ボヘミアン・ラプソディー』だ。世の中の絵画のキャラクターを現実のものとし、そのキャラクターを知っている、あるいは好きだった者の魂と肉体を分離させる。切り離された両者は分離してしまったことにどちらも気付くことはなく、魂はそのキャラクターが活躍する物語のストーリーに引きずり込まれてしまうのだ。この能力に射程距離の制限は無い。
今はそうでもないが、彗音は『桃太郎』が好きだった。彼女は後天的に半妖になった身。まだ人間で子どもだった頃、もはや思い出にも残っていない時期、寝る前に母親に読み聞かせてもらう『桃太郎』が好きだったのだ。
彗音の肉体と魂は既に分離しきっていた。彼女はそれに気付いていない。肉体は既に、魂の彼女から離れてどこかへ向かって行ってしまった。そして残された魂は『桃太郎』のストーリーに引っ張られ、主人公たる桃太郎に退治されんとしている。鬼として。
「致し方ないかッ……!」
「おお! 何かする気だ。この鬼!」
「手が光ってるぞ!」
体格も徐々にガッシリし始め、どんどん鬼へ近付いていく彗音。だが、彼女はこの時点であることを思いついていた。いや、思いついていたというよりも、自分の考えがどうか本当であってほしいと願っていると訂正する。ストーリーに引っ張るキャラクターがいるのなら、そのキャラクターを破壊してしまえば、この現象は落ち着くはずだと願っているのだ。
彗音は手の内に弾幕を生成する。子分たちが動く気配は今は無いため、彼女は優先して狙うべきは桃太郎だとしていた。
しかし、子分たちは彗音が主人に向かって攻撃すると予感している。だというのに、先程も述べたようにいつでも攻撃できるような構えも取っていない。ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるだけだ。
「お前たちをこのままにしておくことはできない…………消えてもらう! くらえェ!」
バグオォン! ボガァアン!
「あ、当たった……!」
「あちゃ〜〜、桃太郎さんやられたな」
「攻撃されちゃったねぇ〜〜」
「…………」
(手応えはあった……防がれてもいない。だが、何だ? この違和感は…………子分たちも全然騒いでいないぞ。主がやられたというのに……)
彗音が投げつけた弾幕は確実に桃太郎に当たった。それは彼女以外に、3匹の子分たちも観測している。だというのに、彼らは未だ笑みを崩すことはない。直撃して、絶対無事でいられるわけがないのだ。
弾幕攻撃による爆煙が晴れていく。中からは背の低いシルエットが見えてくる。桃太郎だ。無傷で、両足でしっかりと直立している。何のダメージも負ってはいなかった。
「な、何だって…………」
「ケケケケケケケケ!」
「キィキィ」
「ハハハハハ! 当たり前だよ、お姉さん。『桃太郎』のストーリーは知っているだろう!? 鬼は桃太郎に負けるのさ! 鬼は
「犬、猿、雉よ。鬼を囲むんだ。悪い鬼は逃せないよ。鬼を倒して、取り戻したお宝をお爺さんやお婆さんの元へ持って帰ろうじゃあないか」
「う、うう…………!」
桃太郎に命じられた3匹は、先程よりもさらに口を歪ませる。人間の笑みどころではない。彼らは鬼という化け物を退治するために集った連中だが、今の3匹の方がよほどバケモノと呼ぶに相応しいぐらいだ。
彗音には『逃げる』という選択肢しか残されてはいない。抵抗しようとも、彼女の存在の半分は既に『桃太郎』の鬼となっている。ストーリーに引っ張られ、それに相反する行動は取ることができない。絶対にだ。『桃太郎』のストーリーこそ、上白沢彗音がこれから辿る運命そのものとなってしまったのだから。
「さぁ、やれィ!」
「うわあぁあああああ!!」
かけられた桃太郎の号令により、子分3匹は彗音に一斉に飛びかかる。
彼らは空想の産物であり、本来の動物とはかけ離れた存在だ。『桃太郎』の雉は現実の雉ではないし、猿は現実の猿と違い、犬も現実の犬とは似ても似つかない。
雉はその鋭い嘴を、猿はその大きな手を、犬は刺々しい牙を、彗音に向けて放ったのだ。絶対に防げない、中断させられない攻撃である。彗音の運命はストーリー通りに……
「スティッキィ・フィンガーーーーズ!!」
ドバッ ドバァ ドバァ〜〜ッ!
『うぎゃああァァ〜〜〜〜ッ!!』
「な、何だ!? 犬! 猿! 雉!」
「あ、ああ……お前……は…………」
「大丈夫か。彗音。背が高くなったな」
飛びかかって来た桃太郎の子分たちは、突如現れた何者かによって全身をバラバラに吹っ飛ばされてしまった。その断面の縁には金色のギザギザとした突起が並んでおり、何かの装飾のようになっている。だが、これは装飾などではない。見た目以上に、使い道にも利点があるという存在している。これはジッパーだ。
地面にも付いている。しかしこちらは葉型に開かれ、虚空へと続いていそうな穴を覗かせていた。
「た……助かった…………」
「彗音。その姿になっているということは、おそらくあんたも既に魂と肉体が分離しているらしい。早く肉体を探すんだ。さもないと、実在化した別のファンタジー・ヒーローに殺されるぞ」
「ファ、ファンタジー・ヒーロー……!? スティッキィ・フィンガーズ、何か知ってるのか!?」
「俺の考えだ。この現象を知っているわけではないが、間違いなくスタンド攻撃! 絵本なんかのイラストからキャラクターを抜き取り、現実のものとする能力だ。そして…………」
「ヒッ」
スティッキィ・フィンガーズは拳を握り締め、一人残された桃太郎に近付いていく。子分たちを一瞬で倒されてしまった桃太郎は、スティッキィ・フィンガーズの実力に呆然としており、この場を離れるのが遅れてしまっていたのだ。
だが、呆然としている理由は実力だけではない。なぜ、スティッキィ・フィンガーズは自分のことを
「うわぁ! ぼ、僕に近付くなぁ! お前は鬼とは違うのか!? だったら、お前は一体何なんだ!?」
「側に立って現れるというところから、そのビジョンを名づけて『スタンド』。スタンドは本体の精神、魂のエネルギーから生み出されるものだ。俺は
「ウヒィィィ!」
「彗音は『現実』に返してもらうぞ」
バカァアアアッ
「うぎゃっ」
S・フィンガーズは素早く桃太郎に手を出すと、そのまま無数のジッパーを彼の体に取り付け、バラバラに分解。桃太郎を絶命させてしまった。
いくら彗音を殺そうとしたとて、桃太郎は日本の英雄的存在でもある。だがそんなことは今は言っていられない。死んだ桃太郎はボロボロと形を崩し、いずれ完全に消滅してしまった。それを確認すると、S・フィンガーズは彗音の方へ向き直る。彼女は既に大男のような体躯から、元の可愛らしい女性の体に戻っていた。
安堵した彗音がS・フィンガーズへお礼を言おうとした直後、それを遮るようにして彼は通りの奥を指差した。先程の会話の続きである。
「彗音。体が元に戻ったのなら、早く自分の肉体を回収しに行くんだ。そして里の人間を連れて、どこか遠くの場所へ早く離れろ」
「スティッキィ・フィンガーズ、一体これは何が起こってるんだ!? お前は何か知っているようだった。何か情報があるのなら私にも教えてほしい」
「……さっきも言ったが、俺はこの現象を知っているわけじゃあない。他の里の人間を救助する中で俺が勝手に考えただけだ。大体は当たっているとは思うがな。このスタンド能力は絵画のキャラクターを現実にし、現実の人間をそのストーリーへ引きずり込む。放っておけば人里が……いや、幻想郷全体が崩壊しかねない」
「げ、幻想郷全体……!? スタンド本体の居場所の見当はついているのか!?」
「少なくとも、この人里にはいない。依然として俺、F・F、キラークイーン以外のエネルギーは感じられないからな。それに…………東の空を見てみろ」
S.・フィンガーズに言われ、彗音は東の方角へ振り向く。その遥か遠くの空に、巨大な帆船が浮かんでいるではないか。それこそ豆粒のように見えはするが、距離を考えればどれだけの巨船か想像できる。これが表すのは、スタンド攻撃は人里の中だけに影響を及ぼしているわけではないということだ。能力射程がこれほど長い以上、敵が幻想郷のどこにいるのか全く予想ができない。最悪の状況である。
「あ、あんな物が…………」
「とにかく彗音、あんたは一刻も早く肉体を回収しろ。また他のキャラクターに襲われない内にだ!」
「待ってくれS・フィンガーズ! お前たちだけに任せておくわけにいかない。私も戦うぞ!」
「バカなこと言ってんじゃあねぇぞッ! 自分では無理だと分からないのなら、いいぜ。好きにしろ。だがな、そのお前だけ満足する行動のせいで、救えたはずの人間は死ぬ。それでも戦いたいというのならそうすればいい。俺はあんたをバラバラにしてでも止めるがな」
「ッ…………!」
「あんたは肉体を回収し、キャラクターたちとの遭遇を避けながら人里の外へ逃げろ。ファンタジー・ヒーローに勝てずとも、そこらの妖怪よりかはあんたは強いだろう。里の中は俺とF・Fに任せておくんだ」
「………………」
彗音はすっかり黙り込む。S・フィンガーズの言う通りである。今、この事件の内は自分がどう動いたとして彼らの足手まといにしかならない。ならば、彼の言う通り逃げるのが一番かもしれない。人里を、その民を放ってはおけないという心は変わらないのだから。
意を決した彗音は、苦い表情を浮かべながらもゆっくりと首を縦に振る。S・フィンガーズもそれを見て頷く。これでいいのだ。少しでも救えるというのなら、これで。
だが、『ボヘミアン・ラプソディー』の猛威は衰えはしない。空想のキャラクターを現実にする能力。人間の想像力は豊かだ。故に、どんな脅威もフィクションとして思い描くことができる。『ボヘミアン・ラプソディー』はそれにつけ込むのだ。
突如、人里を地震のような謎の振動が襲う。雷のような轟音が響く。S・フィンガーズが何事かと北の空を見上げてみれば、
「行け、彗音ッ! 走るんだ!」
「あ、ああ!」
彗音は走り出す。S・フィンガーズは太陽を覆い隠すような龍に向け、構えを取る。火を吐くか? 嵐を呼ぶか? 絵の中から出てきたというのなら、この龍にもストーリーがあるはずだ。もしかしたら、あの龍を倒すストーリーも存在しているかもしれない。だとしても、人里を庇って戦えるのか?
「……勝機はいくらだ? たとえ勝てずとも、この人里からやつを引き離すことはできるか? 彗音に任せろと言ったばかりだが、やつを放置することはできない。人里から引き離し、俺が相手をする」
S・フィンガーズは地面を蹴り、龍へと向かった。魔理沙はきっと来ないだろう。霊夢もきっと来ないだろう。来たところで、やつのストーリーに引っ張られて戦闘不能になる可能性も高い。ならば自分がやるしかない。先程言ったように、勝てなくてもいいのだ。龍による被害さえ出さなければ、それで良いのだ。ジッパーは龍の鱗を破るのか?
滅茶苦茶な世界になってきましたね。
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない