幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
しかし、今回のお話のボリュームは保証します!
人里の上空に龍が顕現した頃、妖怪の山にてその様子を観測している者がいた。岩の上に座り、実に楽しそうに笑みを浮かべているのはピノキオである。『ボヘミアン・ラプソディー』を発動してから、彼はずっと妖怪の山の中腹にて身を隠している。横に護衛を連れてだ。
「あーあー、みんなに希望を与えるキャラクターたちが、逆に絶望を与えるなんてなぁ。このスタンド能力の本体の人、かなり人生に絶望してたみたいだね」
独り言か、あるいは横に立っている護衛に向けて言っているのか、それは分からない。ピノキオ本人ですら何の意図があって口走ったかもよく分かっていなかった。
『ボヘミアン・ラプソディー』の本体はウンガロという男。かつてジョースター家とぶつかったDIOの息子の一人である。ピノキオが言うように人生に絶望を感じており、どん底そのものとも言うべき人生から逃避するため、彼は麻薬に溺れていた。そんな中で発現したのが、この脅威的なスタンド能力である。自分をこんな目に遭わせた社会に復讐をするため、今度は自分が希望に満ち溢れる番だと言わんばかりに外の世界でファンタジー・ヒーローたちを実在化して暴れさせたのだ。
「一応護衛をつけておけって言われたけど、ここまで辿り着く人はさすがにいないよねぇ。あんたもそう思わない? 妖精騎士さん」
「………………」
ピノキオはチラリと隣を見て言う。そこには錆びついた鎧を身に纏う巨漢の者が立っていた。
彼は『エルフィン・ナイト』に登場する妖精騎士だ。とある女性に召喚され、恋人になるよう迫られるも既に妻子のいる彼はその頼みを断るという話。彼もまた『ボヘミアン・ラプソディー』の能力によって実在化したキャラクターである。
騎士であるため、その背中には武器が仕舞われている。大剣だ。血なのか錆びなのかは分からないが、刃の所々に赤茶色の何かがこびり付いていた。
「『汝は若い女だ。汝がこれをできたなら、私は汝と結ばれよう』」
「!」
「…………!」
「『私にシャツを作るのだ。ハサミを全く使わずに、針で布を縫うことなく、裾無きシャツを作るのだ。
突如、2人の背後から
唄に混ざり、足音も立ち始めた。バキバキと草木を踏み、枝を折り、掻き分けてくる。ピノキオは振り向いた。この距離であるなら、既に『ボヘミアン・ラプソディー』の影響を受けているはずである。だが、向かって来る者は何の問題も無さそうだ。
ということは…………
「も、もしかしてホワイトスネイクと同じスタンド……」
「………………」
「あぁ。その通りだ…………お前だな? 幻想郷中に架空のキャラクターたちを実在化し、暴れさせているのは……
「ひ、ひィィ……助けてぇ……ピノキオォ〜〜ッ」
「あ、あれ……3匹の子ぶたの末っ子……!? スタンドに捕まってるッ!?」
草木を踏み締めて現れたのは一人のスタンド。
彼の左手には豚の顔をした人型の生物が捕まっていた。ピノキオ曰く、それは『3匹の子ぶた』のキャラクター、レンガの家を作った末っ子の子ぶたらしい。かなりの力で掴まれているからか、子ぶたは顔を青くしてガタガタと震えている。
さて、こうしてスタンドがピノキオの元へやって来たわけだが、やはりと言ったところか彼の目的はピノキオであるらしい。彼を仕留めに来たようだ。スタンドが纏っている『殺気』がそう告げている。
だが、それを黙って受け入れられるピノキオではない。ホワイトスネイクに与えられた使命は守らねばならないからだ。そのための護衛、そのための妖精騎士である。このスタンドに命乞いし、ホワイトスネイクを裏切れば今度は彼に消される。
「…………!」
「む……」
ドガァアア〜〜ン!
妖精騎士は高速で敵へ斬りかかり、ピノキオとのやり取りに横やりを入れる。不意をついた攻撃であったものの、スタンドには反応はされてしまった。
しかし、土埃を巻き上げた重々しい一撃には手応えがあり、
真っ二つになって刃に刺さっていた。
「うわあァァァ!!」
「ピ、ピノキオ……助け……」
子ぶたが言い終わるよりも早く、妖精騎士は大剣を子ぶたから引っこ抜く。いや、サイズ差からして子ぶたを
妖精騎士は子ぶたの消滅を一切気に留めることなく、己の背後を振り返る。ピノキオも同じようにそちらへ目を向ける。そこにはスタンドが逃れていた。妖精騎士の斬撃を避け、一瞬にして彼の背後数メートルの位置まで移動していたのだ。
「「いつ移動した?」と言いたそうだな。なに、恥じることはないぞ…………認識できないのも無理はない。
「…………」
「キング・クリムゾン。時間は消し去り、飛び越えた」
ピノキオの元に現れたのは彼であった。幻想郷の中で、ファンタジー・ヒーローの異変にいち早く気付いた者の一人である彼は、以前に感じ取った強力なスタンドエネルギーを追ってくることでここに辿り着いたのだ。
目的はピノキオであり、同時にピノキオではないもの。K・クリムゾンはあくまで、以前感じたキラークイーンにも似たスタンドエネルギーの持ち主を追って来た。何かアクションを起こしたのだろうと勘ぐり、来てみれば、ここにいたのは喋る人形ピノキオ。
しかし、面倒なことはK・クリムゾンだって避けたいものだ。彼の目的は力をつけること。つける力が無くなったら、困るのは自分だ。そのために彼はピノキオをつけ狙う。
「どうした。その一撃だけで終わりか?
「…………」
「うぅ〜〜…………ヤ、ヤバい。ヤバいかも……」
「安心しろ。いくら妖精騎士が邪魔をしようと、お前を消すことに変わりはない。恐怖を感じていることが苦痛なら、俺が今すぐ終わらせてやる……」
「ヒィ! き、騎士さん、後は頼んだよ! 僕はホワイトスネイクに少しでも
ピノキオはおぼつきながらも、森の奥へと走って行く。K・クリムゾンはそれを追おうとしたが、そうはさせんと言いたげに妖精騎士が前に立ちはだかった。
K・クリムゾンはニヤリと笑う。
「パワーだけの能無しが……いいだろう。相手してやる」
「…………!」
K・クリムゾンの言葉に怒ったのか、そう言われた直後に妖精騎士は地面を蹴り飛ばす。右手に掴んだ大剣を振りかざし、K・クリムゾンへ突撃した。
だが、先制攻撃を受けんとしていても、K・クリムゾンはその不敵な笑みを崩さない。妖精騎士の大剣が、自分の脳天に振り下ろされる直前となっても。
気付いた時には大剣の鋒は土の上に着いていた。敵を真っ二つにしたか? いや、手応えは一切無かった。妖精騎士は未だ理解していない。K・クリムゾンの能力について。たった今、時間が消え去ったことを理解していないのだ。
「時間を吹っ飛ばした。くらえッ!」
「…………!」
ドギャァアアッ!
「ッ……!」
「……思ったより硬いな。一撃で腕をもらうことはできないか」
能力で時間を消し去り妖精騎士の背後に回ったK・クリムゾンは、高くから振り下ろした手刀を騎士の右肩にヒットさせる。しかし、彼自身が言うように、K・クリムゾンは妖精騎士の右腕をもろとも切断するつもりであったが、硬い鎧にそれを阻まれてしまった。肩当てがひしゃげただけだ。
外見に大した損害が見受けられずとも、妖精騎士にはダメージは通ったらしい。痛みを堪えるような短い息が一瞬吐かれると、騎士はK・クリムゾンから飛び退いて距離を取る。
互いに睨み合いながら、K・クリムゾンは腕を組み、妖精騎士は右手に持っていた大剣を左手に持ち替えた。2人とも、相手の厄介さは理解している。だからこそ、一度の攻撃につき一度の合間を作る。常にベストの状態で相手を
「………………!!」
「フッ……今度は拳か」
妖精騎士は右手をかざし、K・クリムゾンを殴りつけようと走り出す。
「それもいいだろう」と、K・クリムゾンも同じように妖精騎士へと向かって行く。彼も
両者の拳は振り抜かれ、互いの体からの距離のほぼ中点にて激突する。轟音と風を解き放ち、周りの木々の葉を激しく揺らした。だが、これだけのパワーのぶつかり合いには彼らの体も耐え切れなかったようで、妖精騎士のこては潰れ、K・クリムゾンの拳にはヒビが入った。
「フン!」
グシャアアン!
「!!」
「……まずは右の拳を……潰した。俺の右手もタダじゃ済まなかったがな…………」
K・クリムゾンは妖精騎士の弱った右手を狙い、空いていた左拳でさらに追撃を加えたのだ。おかげで騎士の右手は完全にぐちゃぐちゃにひしゃげてしまい、素人目から見ても粉砕骨折をしていることが分かる。
鎧の隙間から血が噴き出すのを傍観する妖精騎士だが、彼はきっと唖然としているだけだろう。
そうでなければ、さらに攻撃を仕掛けんとするK・クリムゾンを、止めようとしているはずなのだから。蹴りを浴びせようと、体を捻り始めている彼を。
ドゴォオッ!
K・クリムゾンは妖精騎士の顔面を蹴り上げた。
不意打ちのつもりではなかったが、妖精騎士は一切のガードも取らずに蹴りをもろに受けてしまい、大きくのけぞってしまう。兜と胸のプレートの間に見える鎧下着、これがK・クリムゾンの次の狙いだ。
「フハハハ。鎧の隙間なら硬くもないだろう。首ががら空きになったな!」
K・クリムゾンは左手を手刀とし、妖精騎士の首筋へと伸ばす。いくらファンタジー・ヒーローで、かつ妖精であっても、首を切り落とせば絶命するだろう。血が流れているのだから、頭が無くなってしまえば体の動きは奪えるはずだ。そう考える。
だが、彼の手刀が妖精騎士に届くことはなかった。鎧下着をずぶりと貫通する直前、森の中のどこかより銃弾の発砲音が木霊したのだ。
K・クリムゾンはそれを耳にした瞬間、反射的に時間を飛ばした。
「…………!」
(弾丸……これはマスケットのか?)
K・クリムゾンだけが認識する、時を消し飛ばした世界。妖精騎士はゆっくりと動き、蹴られて崩してしまった体勢を整えている。
それと同時に、K・クリムゾンの体を通過した物があった。銃の弾丸である。この弾丸というのはマスケットと呼ばれる長銃に使われた、かなり古い時代の代物だ。
幻想郷は忘れ去られた物が流れ着くという性質がある。古い銃であるマスケットならそうして流されてきた可能性もあるが、もしそうであるなら、これを撃ってきた者は幻想郷の住人ということになる。元々これを使うようなファンタジー・ヒーローが撃っていたなら話は別であるが。
「……誰が撃ったのかは知らないが、この『キング・クリムゾン』の能力の前では無意味な行為だったな。妖精騎士を始末した後で、狙撃手も地獄に送ってやる」
K・クリムゾンは自分(が最後に観測された位置)から距離を取った妖精騎士の背後に回る。
右肩の鎧がひしゃげた後、騎士は大剣を左手に持ち替えた。ならば、左肩も同じようにしてやればもはや大剣をまともに振るうことはできないはずだ。抵抗のできないようにした後で、首を掻っ切ってやるとK・クリムゾンは計画する。
K・クリムゾンは再び片腕をもたげた。
「時は再び刻み始めるッ!」
ドッパァ〜〜〜〜ン!
「ぐあああッ!! な……何ィィ!?」
「………………」
「バ、バカな……弾丸が軌道を変えて……俺の腹へ……撃ち込まれただとッ……!?」
K・クリムゾンの能力が解除された直後、回避したはずのマスケットの弾丸は空中で跳ねるようにして軌道を変え、妖精騎士の背後に移動していたK・クリムゾンの脇腹へと着弾した。威力は中々のもので、右脇腹に野球ボール並の大きさの穴が空いてしまっている。
血が噴き出す傷口を、妖精騎士に振り下ろさんとしていた左手で何とか塞ごうとする。初めは右手を加えようとしていたのだが、ダメだ。入っているヒビの間から血が漏れ出てくる。
そして、この機を妖精騎士は
「!! キング・クリムゾンッ!」
ドォ〜〜〜〜ン!
「あ、危なかった……!」
寸前のところで時を消し飛ばし、大剣はK・クリムゾンの胴体を横一文字に通過していった。それを見届けると、K・クリムゾンは傷口を押さえながら妖精騎士の横を通り、彼から距離を置く。通り過ぎる瞬間には
(何だ? 今のは! 弾丸がいきなり向きを変えるとは…………まさかスタンド能力か? いや、違う…………今この山に感じられるエネルギーは俺と、あのピノキオの分だけだ……敵のスタンド攻撃ではない……)
時の消し飛んだ世界で、K・クリムゾンは思案する。
スタンドではない。と、するならば幻想郷の住人、あるいは別のファンタジー・ヒーローであろう。前者であるなら、それは天狗の組織の者である可能性が高い。K・クリムゾン征伐の任務を与えられていたからだ。
しかし同時に、天狗はこの『妖怪の山』の侵入者は誰であろうとも許さない。山を牛耳っている側であり、人間もスタンドも、その侵入を許可されている者はそれなりに少ないのだ。であれば、なぜ妖精騎士を攻撃しない?
それともう一つ。仮に「K・クリムゾンを優先して討伐せよ」と命を受けていたとしても、なぜどちらがK・クリムゾンなのか分かっていたのか?
自分の姿を見た者は、かつて守矢神社にて相対した6人以外は誰も生き残っていない。肝心な八坂神奈子や東風谷早苗も、あの月夜でまともに全身像を見ていない。
ならば…………
「ファンタジー・ヒーローか……」
結論が出た。ピノキオが差し向けたのか、もしくは元々いた2人目のボディガードか。どちらでもいいが、とにかく敵であることに変わりない。必ず見つけ出し、息の根を止めることを決める。
そして、そろそろ時間だ。能力の限界。消し飛んだ時間は、これより元に戻る。
「…………ッ!」
「………………」
(弾丸が放たれた方向は分かっている…………問題は、あの弾丸の完全な回避の方法だ。時を消し飛ばしただけでは、弾丸は時が戻った後に軌道を変えてくる。こちらから打ち落としせるか?)
K・クリムゾンが払った血液が視界を覆い、妖精騎士は数秒混乱した状態となる。それを眺めつつ、K・クリムゾンは次なる攻撃に備え、聴覚に集中力を割いていた。
妖精騎士は構わない。パワーだけの頑丈な剣士と言った具合だ。一番の強敵は謎の狙撃手。狙った獲物は外すことなく、確実に弾を直撃させてくる。このキャラクターのシナリオさえ理解すれば、おそらく避けることもできるだろう。
だが、全ては謎に満ちたままだ。正体を探るためにも、2発目は誘うべきである。無論、このまま妖精騎士を仕留めに行けば、問答無用で弾は飛んでくるだろうが。
パァアアアン!
「!」
(来たッ! この発砲音だ。あの弾丸が来る!)
K・クリムゾンは顔をこわばらせる。
時を消し飛ばすための準備として、彼はスタンドエネルギーを全身に満たし始めた。まずは弾丸の回避だ。妖精騎士も血を拭い、大剣を掲げてこちらへ突進を仕掛けようとしているが、今はとにかく弾丸だ。
マスケットの丸い弾丸がキラリと光って見えた。騎士の脇を抜け、K・クリムゾンに向かってくる。時は来た。時間を消し飛ばす。
「キング・クリムゾンッ! 全ての時間は消し飛ぶッ!」
彼を取り巻く環境、光景は跡形もなく崩れ去っていく。
まるで宇宙のように暗い世界で取り残されたものはこの世界の支配者たるK・クリムゾンと、消し飛んだ時を認識することのない哀れなる妖精騎士。そして、恐るべき弾丸。
K・クリムゾンは妖精騎士を回避し、彼から距離を取る。これから行うのは弾丸を叩き落とす試みだ。そのためには、騎士の邪魔が入らぬように少々離れておく必要があった。
頃合いである。時は刻み出す。
ギュオオオン!
「やはり曲がったな」
時が消し飛んだことで一瞬標的を見失う弾丸であったものの、案の定すぐさま方向を変え、元の位置から移動したK・クリムゾンへと突進する。
拳を握って待ち構えるK・クリムゾン。弾丸の狙いは先程と同じく胴体部分と見た。直撃まであとコンマ数秒、数えるまでもない……
バチィィッ!
K・クリムゾンは拳で弾丸を弾くことに成功する。
だが、安堵するには早かった。弾かれた弾丸は再びUターンし、弧を描くようにしてK・クリムゾンの方へ再び向かってきたのだ。
「何だとォ!?」
K・クリムゾンは咄嗟に右手で弾丸をガードした。しかし、拳ではなく掌底でだ。既にヒビの入っていた右手は弾丸が当たった衝撃によってボロボロと崩れ始め、ついには血を噴き出すとともに砕け散ってしまった。
悠長なことを思っていられる場面ではないが、幻想郷に流れ着いてから考えれば久しぶりの重傷に感じる。K・クリムゾンは時間を消し飛ばし、この幻想郷でも自分にとって不都合なものを消し去り続けてきたからだ。
レクイエムに敗北した時、リゾットに追い詰められた時。あれ以来の重傷である。
しかし、同時にそのことはK・クリムゾンにある思いを蘇らせるきっかけとなった。あのどちらも、相対した敵を絶対に生かして帰すものか、という殺意に駆られていた。今回もそうである。
絶対に生かして帰すものか。この『魔弾の射手』を。
「うぐっ…………わ、分かったぞ…………この狙撃手の正体が……カール・マリア・フォン・ウェーバーの……『魔弾の射手』だな」
『魔弾の射手』。K・クリムゾンが先程述べた通り、カール・マリア・フォン・ウェーバーという人物が書いたドイツのオペラである。
そのあらすじとは、狙った獲物を確実に命中するという魔弾を使い、ある男が別の男に復讐を行うというもの。しかし、作られた魔弾7発の最後の一発は魔弾作りの助けとなった悪魔の望んだ通りの場所へ撃ち込まれるルールがあり、復讐を行った男に命中するという結末を迎える。
しかし、K・クリムゾンはスタンドの性質故か、ファンタジー・ヒーローの能力に巻き込まれていない。つまり、現在K・クリムゾンは『魔弾の射手』のストーリーに引っ張られて攻撃されているわけではないということだ。
「……俺を撃ったのは……マックスかカスパールということか…………カスパールなら撃つのは3発。マックスなら4発だが……最後の一発は俺に当たるか……?」
復讐を行った男はカスパール。魔弾を鋳造し、7発のうち4発をマックスに使わせ、マックス自身の手で彼の花嫁を撃ち抜かせようという計画していたのだ。
だが、その計画は失敗に終わる。もしK・クリムゾンを撃ったのがカスパールならば、おそらく3発目を撃った後に完全に死ぬだろう。そういうエンディングだ。
ではマックスならば? 悪魔がマックスの味方となっていたら? ピノキオの主から「ピノキオに近付く者は全て殺せ」というような命を受けていたなら、最後の4発目もK・クリムゾンに向かって来るということになる。
防いでも確実にダメージを与えてくる弾丸を、最低一発を耐えなければならない。だが、その一発でK・クリムゾンは満身創痍になるのは決定しているようなもの。今の時点ですらかなり手負いなのだ。射手がマックスであった場合、K・クリムゾンの命はない。
「………………」
「……妖精騎士…………」
2発目の狙撃を受けてから3発目が放たれるまでには時間がある。それまでに、目の前のこの頑丈な騎士もどうにかしなくてはならない。
妖精騎士は大剣で土を軽く払い、腰を低く落とす。K・クリムゾンには分かっていた。これは飛びかかる前の動作である。一気にこちらへ接近し、大剣を横薙ぎにするつもりなのだろう。最も、K・クリムゾンは素直にそんな攻撃を受けようとは微塵も思ってはいない。殺すのはこちらなのだから。
それに、魔弾はK・クリムゾンに当たるまで止まらない。妖精騎士を盾代わりに使うことはできない。早くに妖精騎士にトドメを刺し、魔弾の射手を殺しに行く。これが方針だ。
「…………!!」
「来たか……」
妖精騎士は地面を蹴飛ばし、一瞬にしてK・クリムゾンとの距離を詰める。それと同時に、K・クリムゾンも近くに生えている細い低木を掴んだ。
K・クリムゾンまでの距離はもはや大剣の射程内と被っている。だというのに、K・クリムゾンは動こうとはしない。低木を握りしめたまま、真っ直ぐ騎士を見つめている。それならそれで構わないと言わんばかりに、妖精騎士は周りの太い木々もろとも真っ二つにせんと大剣を横に振るった。
____________________
「外れだ。残念だったな」
「ッ…………!」
K・クリムゾンの声は騎士の背後から聴こえた。
それを認識した妖精騎士は、振り返りざまにもう一太刀浴びせるため身を
なぜだ? 答えはすぐに判明する。
ブシャァ〜〜〜〜ッ
「!!」
騎士の首から爆発するように血が噴き出る。当然だ。彼の首には、先程K・クリムゾンが掴んでいた低木が突き刺さっていたのだから。
K・クリムゾンは肩で息をしながら解説した。
「俺の能力は…………時間とともに
「………………」
K・クリムゾンは妖精騎士の大剣が当たる前に時を消し飛ばしていた。掴んでいた低木はその時に折り、まだ時が戻らない間に妖精騎士の首と重なり合わせ、能力を解除することによって硬い鎧をものともせずに騎士の首を貫いたのだ。
魔弾さえ無ければ、K・クリムゾンはもう少し妖精騎士と遊ぶつもりであった。だが状況は状況。妖精騎士は片付け、自分をここまで追い詰めた魔弾の射手を仕留めなくては。
低木と傷口の間からの失血が止まらない妖精騎士は、そのまま地面に膝を突き、腕を突き、土の上に伏せてしまう。そしてそのまま、ゆっくりと絶命していった。
「ハァーッ……ハァーッ…………くそっ……!!」
しかし、おかしなことに妖精騎士にトドメを刺した側であるK・クリムゾンも、ダメージを負って無事ではない様子であった。彼の息はどんどん上がってきている。
それもそのはず。K・クリムゾンの胸の真ん中には、件のマスケットの弾丸による破壊痕が見られる。時が消し飛んだ最中に発砲され、解除と同時に撃ち込まれてしまったのだ。
「ぐッ……やつを……殺す……殺さなくては……! こんな所で倒れているわけにいかんのだ……」
フラつきながら、木々に手を当てながら弾丸が放たれた方へと歩みを進める。
何はともあれ、これで3発目である。射手が誰なのかは未だ不明だが、もしカスパールであれば、最早K・クリムゾンに弾丸が当たることはない。問題はマックスである場合だ。彼の近くに悪魔がいたなら、それこそK・クリムゾンの敗北は決定してしまう。
皮肉なことだ。K・クリムゾンの本体は『悪魔』の名を持つ者。名は体を表すと言うが、まさしくそれを体現した悪魔のような男だった。そんな彼のスタンドであるK・クリムゾンが、最後の最後に悪魔に殺されるなど。
パァアア〜〜ン!
「ハッ!」
遠くから発砲音が響いた。あの銃だ。例のマスケット。
あの弾丸が来る。有象無象の区別無く、全てを撃ち抜き殺すあの弾丸が。死神そのものが変化したような真球の弾丸が。
「し、射手は……マックスだったのかッ……! クソォォーーーーッ!!」
K・クリムゾンの絶叫が森中に響き渡った。弾丸を放つ音などかき消し、地獄の底から吐き出されたかのような、怨嗟に満ちた叫びだった。
弾丸は未だ見えない。しかし、必ずやって来る。狙った獲物は確実に仕留める弾丸は絶対に現れる。全ては、悪魔ザミエルの望み通りとなるのだ。それがストーリーだ。
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「そろそろ……終わったかな」
パキパキと落ち葉や枝を踏み割りながら、戦いの跡地を訪れる者がいる。小さな影の正体はピノキオだ。彼は数十分前に響いたK・クリムゾンの叫び声を聞き、戦いの行方を知るために声が発せられたであろう地点に戻ってきた。
辺りを見渡すと、木々に血液が飛び散り固まった痕だったり、樹木が粉砕された跡である切り株ができているのが分かる。かなり激しい戦闘が行われたことが窺い知れた。
ピノキオは切り株に座ると、K・クリムゾンがやって来る前と同じようにして人里を見下ろす。
未だ戦火が上がっている。龍もまだいる。人里の、実に三分の二ほどが消滅していた。邪魔者、および幻想郷の有力者のいる地点の破壊活動は順調に進んでいる。
「うわぁ……ひどいや。ホワイトスネイクもひどいこと考えるなぁ。さっきのスタンドも、妖精騎士さんを倒しちゃったみたいだし、2人ともひどいもんだよ。子どもの味方ができないよ」
「なんだ。戻ってきたのか」
「!!」
独り言を呟いたピノキオに反応をする者がいる。
ゆっくり振り向くと、そこにいたのは例のスタンド、キング・クリムゾンだった。真っ赤に染まった左手には、脳天に小さな穴が、心臓のある場所に比較的大きな穴が空いている男の死体が掴まれている。服装から見て中世ヨーロッパの狩人と考えられる。
K・クリムゾンはピノキオが悲鳴を上げるよりも早く、男の死体を投げ捨てて彼の頭部を掴み上げた。
「う、うわぁあああッ! ひどいことはやめて! 僕は世界中の子どもたちのスターなんだ。僕を傷つけてしまったらみんなが泣いちゃうよ!」
「それがどうした。お前が何者であろうと俺には何の関係も無い。ちなみに、お前も十分
「うぎゃッ」
グシャアアアン!
K・クリムゾンはピノキオの頭を握り潰し、ついに粉砕してしまった。風に吹かれ、ピノキオ
ピノキオはK・クリムゾンは死んだものと思っていた。何せ、相手は妖精騎士と魔弾の射手、マックスであったのだから。マックスは4発目まで撃ったはずである。確かに、ストーリーの中ではマックスの弾丸はカスパールに直撃する。しかし、K・クリムゾンはストーリーの中に引っ張られていないため、4発目までも標的に当たるとホワイトスネイクに言われていた。
だが実際は違った。標的を外したということは、望み通りに弾丸の行先を決めた悪魔がいるということだ。悪魔はいた。それが誰か、ということだ。
K・クリムゾン。実在化したマックスにとっての悪魔ザミエルは、彼となった。『悪魔』の名を持つ本体、ディアボロ。彼の運命を背負ったK・クリムゾンは既に、幻想郷が辿る運命の中で悪魔と呼ばれるに相応しい存在となっていた。能力ではなく、運命の中で。
「
子どもたちに希望を与えてきた人形。その残骸の雨の中で、K・クリムゾンの歌声は木霊していた。
『エルフィン・ナイト』の歌詞は独自訳、
最後の『魔弾の射手』は私の空耳みたいな感じですが、ガイドラインの判定ギリギリですかね……
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
-
東方をよく知っている
-
ジョジョをよく知っている
-
東方もジョジョもよく知っている
-
どちらもよく知らない