幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
いよいよ彼の登場です。
『ボヘミアン・ラプソディー』による最悪の異変が幕を閉じ、一夜明けたこの日。紅魔館では、ファンタジー・ヒーローが大暴れしたことによる被害の、その復興作業が行われていた。
特に図書館の具合がひどく、『鏡の国のアリス』から出てきたジャバウォックというバケモノに、蔵してある本という本を焼き払われてしまった。
管理者たるパチュリーはその時、『不思議の国のアリス』のストーリーに引き込まれており、フランドールとともに巨大化したり小さくなったりとで忙しく、ジャバウォックを止めるのに手こずってしまったのだ。
「妖精メイドは復活するからいいとして……ホフゴブリンの被害も中々……改めて生存者確認をする必要があるかしら」
エントランスに早歩きで訪れたのは、メイド長の十六夜咲夜だ。手に持つ書類には紅魔館そのものと、従者たちの被害状況を整理した情報が載っている。
それをペラペラとめくりながら、ブツブツ呟きながら紅魔館中を歩き回っていた。
「!」
ふと、咲夜は足を止めた。エントランスの真正面、館の正面扉が開けられているのが見えたからだ。人が一人通れそうなぐらいの扉の間から、日光が溢れ出ている。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットは吸血鬼だ。日光は苦手なものの一つであり、従者たちには昼間は日光が館内に差し込まないようにする気配りが必要とされる。
誰が最後に出入りしたのかは知らないが、後で厳重に注意しておかねば。
咲夜はため息を吐くと、書類を脇に挟んで扉の方へ近付いた。
「……太陽は綺麗だこと。昨日は散々な日だったのに」
「全くそうだな。『ボヘミアン・ラプソディー』の被害がここまで及んでいたとは」
「!!」
突如、背後から男の声が聴こえてきた。
妖しく、艶めかしい、色気のある声。だが同時に、咲夜に並々ならぬ威圧感を与える。
勢いよく振り返れば、扉と対極の位置にある階段の前に何者かのシルエットがあった。脚から腰、腰から肩、そして腕の筋肉がかなり発達した、まさに筋骨隆々といった影。一目見ただけで、強者だと思わせる凄みがある。
「あなた……一体何者ッ!? まさか、スタンド!?」
「ご名答。
スタンドは艶のある声で、咲夜に話しかけ続ける。彼女の直感は、目の前の者に対してすぐに危険信号を出していた。こいつは、強い敵だと。
だが、まるで蛇にスルスルと首に巻きつかれたかのように、咲夜の体の自由は無の彼方へと奪い去られていく。距離を取らなければならないのに、レミリアに報告しなくてはならないのに、助けを呼ばなくてはならないのに、体はそうしようとしない。無理矢理注目させられているように、視線も外せない。
尚もスタンドは、不敵に笑って咲夜にコンタクトを取ろうとした。
「どうした? 言葉を発せないのかね? 私は威圧しているのではないよ。ただ尋ねているだけだ…………私に力を貸しておくれ。君の力を……」
「あ……う、うぅ……」
「レミリア・スカーレットに仕える美しい従僕よ…………代わりに、この私に仕えてみないか?」
スタンドはただ尋ねていると口にしているが、違う。彼が行っているのは、間違いなく誘惑と言うのだ。それを故意でしているのか、あるいは本気で尋ねるつもりで
しかし、そんな彼女にもハッキリ言えることが一つだけある。それは、このスタンドの誘いに対して「NO」と拒絶する言葉だ。
ギュオオオン!
「ム!」
咲夜は高速で腕を振り抜き、隠し持っていたナイフの一本をスタンドへ向けて投げつけた。しかし、奇しくも寸前で回避されてしまう。
だが隙を突いてこの場を飛び退き、距離を取ることには成功した。
スタンドは背後に回った咲夜へ振り返り、笑みを崩さず彼女を真っ直ぐ見据える。彼の様子は「避けてやったぞ」と言いたげなようにも思えた。
「私は高貴たる紅魔館の主、レミリア・スカーレットに従するメイド、十六夜咲夜。あなたのような下賤な者に付き従うことはないわ! さぁ、この銀のナイフの錆になるがいい!」
「銀のナイフ…………吸血鬼退治の道具か。もう数日前だったら、効いたかもしれ……」
「時よ、止まれッ!」
ドォオ〜〜ーーン!
スタンドが言い終わるよりも先に、咲夜は能力を発動する。時は止まった。今この時は、宙を舞う塵も、スタンドも、全て等しく静止するのだ。
ひとまず安心を得られたため、咲夜は深呼吸をする。
だからこそ、このスタンドは打ち滅ぼさねばならない。
「あなたが何者なのか。よく分からないままだけど、とにかくお嬢さまに会わせるわけにいかないわ。ここで
咲夜はスタンドの周りを飛び回り、逆放射線状にナイフを配置していく。
時が止まっている間にこの表現はおかしいが、数分にも渡ってナイフを置いていった結果、やがて人が隙間を通れないほどのナイフ群の檻ができあがった。
スタンドは動かない。動けるわけがないし、動こうとするわけもない。もはや、これで始末は完了した。咲夜はそう確信する。
「時は動き出す!」
能力解除。もう数瞬の内に、ナイフの群れがスタンドを襲うだろう。
だが、咲夜の目には時が動き出すよりも早く、スタンドが口角をつり上げる様子が見えていた。
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「咲夜? どこにいるの? さっきから呼んでるのに、聴こえてないのーー?」
エントランスの階段を降りてくる者がいた。咲夜よりも頭一つ分以上背が低く、背中にコウモリのような羽が生えたシルエット。幻想郷にいる者なら誰でも知っている、レミリア・スカーレットその人だ。
彼女自身が言うように、先程から咲夜はレミリアに呼び出しを受けている。普段なら時を止め、ほぼ言い終わると同時に参上するはずだが、今日はなぜかそうはいかない。
レミリアも咲夜が忙しいことは分かっているが、それでも紅茶を飲みたいという欲求も大切だ。そして、そんな主の要求に応えるのが従者であると互いに認識している。忙しいから、と気を遣うことはない。
「どこに行ったのかしら。他のメイドたちは図書館に行ったって言うから、わざわざ館の反対側まで来たのに。咲夜ぁ〜〜?」
名を呼び続けるレミリア。すると、彼女は階段の脇に何かが置かれているのを目にする。いや、置かれているというより、無造作に放置されているだけのようだ。
「何でこんな物が?」と思いながら、レミリアはため息を吐く。後でゴミを放置していたことを咲夜に叱ろうと決め、彼女は階段脇にあるものに近付いた。
だが、距離を詰めたことによって、そこにあったものの正体はすぐに判明する。ゴミなんかではない。それはゴミのように捨て置かれた、咲夜本人であった。
「なっ……咲夜!? どうしたのッ!? 一体誰に……」
レミリアは急いで咲夜を助け起こす。しかし咲夜は既に気を失っており、上体を起こされても再び力なく倒れ伏せようとするばかりだ。
咲夜に目立った外傷は無いものの、鼻や口からは血が垂れている。おそらく、体の中で損傷した箇所があるのだろう。チラリと咲夜の背後を見てみれば、壁にクレーターができている。その中にちょうど咲夜が収まりそうなほどの大きさのだ。きっと何か強い力で吹き飛ばされたに違いない、とレミリアは確信する。
「……この館に侵入した誰かがいるようね。弾幕を張った形跡も無いし、相手は幻想郷に入ってきたばかりの妖怪か、あるいはスタンドといったところ。待ってて。今パチュリーのところに…………」
レミリアは咲夜の肩を担ぐと、パチュリーのいる図書館へ向かおうとする。
だがその瞬間。ゆっくりと歩きながら階段の前を通り過ぎるその瞬間、レミリアは階段の上に何者かが立っているのを横目に収めた。
紫外線を完全に遮断する、特性のステンドグラスから漏れてくる赤い光を背後から浴びて、その者はレミリアを見下ろしていた。
「侵入者ッ……!」
「やぁ、はじめまして。レミリア・スカーレット。私は君に会いたかった」
一般の男性と比べても、さらに太く逞しい肉体をもつその者は、間違いなく紅魔館の住人ではない。レミリアは考えるまでもなく、口から声を漏らした。
明らかな怒気と敵意を表し始める吸血鬼レミリアだが、目の前のスタンドはそんな彼女に一切臆することなく言葉を続ける。
「時を止めるとは、そのメイド。中々
「……!」
「私と、共に来る気はないか?」
スタンドはレミリアへ手を伸ばし、彼女を勧誘する。
自分の力を認める存在ではあろうが、それでも咲夜を痛めつけた者だ。レミリアが心変わりすることはない。だが、どうしてか。レミリア自身もこのスタンドに、ほんの少しだけ興味が出てきた。否、引きずり出された、と言った方が感覚には合っている。
それもあり、レミリアは黙ってスタンドの語りに耳を貸す。
「人間は、恐怖や不安を克服するために生きている。家族や友人を欲しがるのもそうだし、金のために職に就こうとするのも、愛と平和のために戦おうとするのもそうだ。根底には、不安や恐怖から逃れたいという意思がある」
「………………」
「では、吸血鬼はどうか? 我々は人間ではない。やつらを超越した存在だ。そして地底の鬼よりも能があり、山の天狗よりも優れている。君を見て確信した。我々なら、幻想郷を支配することができる。そう思わないか?」
「ふゥん…………それで、私に協力してほしいの?」
「クックックッ…………かつて紅霧の異変を引き起こし、幻想郷中を手中に収めようとした君と我々が手を組めば、何者をも超えた支配者になれる。紅霧の異変で叶えられなかった君の野望も叶うだろう。どうだね? ひとつ、私と友だちにならないか?」
スタンドはレミリアを本気で誘っている。逆光で表情は分かりづらいものの、それでも彼の視線は真っ直ぐレミリアへ向けられているのは感じられる。
レミリアはどう思っているのか。スタンドは彼女と自分を合わせて「我々」と言った。それは吸血鬼とスタンドという人外だから、という意味ではない。レミリアはそれを確かに読み取っていた。
レミリアは知っている。スタンドには本体がいる。この「我々」というのは、このスタンドの本体が吸血鬼だったからこその表現だと、彼女はそう断定した。
同じ吸血鬼という共通点。それは互いの認識に行き届いた。スタンドは待ち続ける。レミリアが、どんな判断を下すのか。
「フフ……おバカね。なるわけないでしょ。バーーカ」
「………………」
「主張はよく分かったわ。でも、私と一緒にとなると、私のことをよく知ってもらわないとね。私が紅霧を起こしたのは幻想郷を支配するためじゃあない。堕落してると思って、ちょっと刺激を与えるためにやったのよ。私の
「……決裂か。なるほど。で?
「咲夜をこんなんにしたのも赦せないから、あなたとは組まない。かつ、その落とし前のために、あなたを倒してみせよう。幻想郷を支配するとなると、博麗の巫女や八雲紫が黙ってないけど、その前に私が潰す」
「フン」
スタンドは鼻を鳴らし、階段を降り始める。
レミリアは咲夜を離れた位置に寝かせ、正面扉の手前に再び戻る。
似た者同士の戦い。レミリアはそれを否定するだろうが、少なくともスタンドはそんなシンパシーを感じていたからこそ、レミリアを自分たちに誘ったのだ。
だが、断られても何も感じていない。同じようなことは過去にいくらかあった。ポルナレフ、花京院、アヴドゥル…………他にもいるかもしれない。そしてそんな連中は、こぞって
「ならば、死ぬしかないな。レミリアッ!」
「あなたがもう一度死ぬのよ。今度はコンティニューも無しでね!」
レミリアは一枚のカードを放り投げると、両手を力強く重ね合わせる。手の中にある物を引き伸ばすかのように、腕を大きく動かして手を離すと、左右の手に紅色の巨大な弾幕が出現した。
「神槍.グングニル!」
大きくのけ反り、その反動を上手く利用して2つの巨大な弾幕をスタンドへ投げつけた。球状の弾幕は高速で飛ばされ、見かけはどんどん長くなり、まるで槍のように変化する。
攻撃は始まった。だが、スタンドは避けようともしない。かと言って、腕を重ねてガードしようともしない。ただ腕を腹の前で交差させ、身を屈めるだけだ。
レミリアは確信した。当たった、と。
「『
ドォオ〜〜ーーン!
これが『世界』だ。咲夜と同じ、時を止め、その世界に入り込むという能力。
ザ・ワールドは弾幕の横を通り過ぎ、レミリアの方へと歩いていく。投げつけた時の、腕を前へ放ったポーズのままのレミリアの背後へ回ると、彼は拳を握った。
「これが……『
ドッゴォアァーーーーッ!
ザ・ワールドの拳はレミリアの腹を貫いた。小ぶりなために、彼女の胴体の半分以上を貫いた拳が占めている。心臓から腸の辺りにかけて、確実に破壊された。
それでもこの時の止まった世界では、レミリアは悲鳴を上げることはない。痛みを感じることもなく、また、死ぬこともない。全ての因果は止められているのだから。
ザ・ワールドは悠然と扉へ向かい、そして開ける。太陽がまだ東の空を昇りかけている屋外へ足を踏み出すと、扉を閉め始めた。
「22秒経過。時は動き出す」
バタン! と扉が閉まると同時に、とてつもない轟音が紅魔館の付近中に響き渡った。グングニルが館の壁を貫き、破壊した音である。
その様子はと言うと、紅魔館の中心から紅色の光が飛び出し、まるで火山が噴火したかのような黒煙が湧き上がるというもの。誰がどう見ても、明らかな異常事態であった。
攻撃されたレミリアは、命に別状は無かった。しかし、ダメージが大きかったのは確かであり、大量の血をエントランスにばら撒いて気絶してしまっている。また、ステンドグラスを自身の弾幕で破壊してしまったため、直射日光が館内に注ぎ込むという事態も起こっていた。それ故に、レミリアの半身は既に灰と化していた。
「ここまで派手にやったのだ。もう気付いているだろう。来い。博麗の巫女よ……」
ザ・ワールドは紅魔館の時計塔の頂点に立ち、幻想郷の調停者を待ちわびるのだった。
レミリアを想像すると、横からHELLSINGのアーカードが出てくるんですよね。あの幼女形態の。
不具合というか、縦書きで読んだ時に
ルビがあると機能しないのかな?
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
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東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない