幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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原作未読、アニメを追っている方に向けて。
ネタバレ注意です!


85.人里北部白兵戦

 ザ・ワールドの蹴りが魔理沙に放たれたのとほぼ同時刻。人里の北部にて、上白沢慧音が住人の名簿を片手に行方不明者の捜索を行なっていた。

 昨日の大異変で、生命の安否が不明な者は過去に類を見ないほど多く存在する。S・フィンガーズは守矢神社に用があって人里を離れているが、人里のもう一人の守護者、F・Fは慧音と同じように行方不明者捜しに乗り出した。今慧音が一人でいるのは、二手に分かれているからである。

 

「…………ひどい。この辺りの建物はほとんど倒壊している……一体誰があの異変を……」

 

 悲しさと悔しさ、怒りの入り混じる感情は彼女の心から溢れ出し、表情にも現れる。

 彼女が知りたいと思っていることは行方の分からない里民の安全、そして異変の首謀者だ。今現在、後者の答えに迫っているのは幻想郷の中でもほんの一握りの者。しかも、そのほとんどは既に首謀者たちの手によって戦闘不能にされている。

 「見つけたら即、自分の手で」と敵討ちを考える慧音だが、彼女だけでは敵わない。それを彼女が知ることもない。

 

「ああっ、先生! 慧音先生ぇーーっ!」

 

「!」

 

 慧音が歩を進めていると、突如背後から子どもの声が聴こえてきた。しかも、自分の名前を呼んでいる声だ。自分のことを知る者である。

 慧音が振り向くと、彼女の方へ駆けてくる少年が一人見えた。安堵しているようで、同時に疲労を感じさせる表情を浮かべてこちらへ走ってくる。

 少年は息を切らしながら慧音の元へ来ると、涙ぐみ、しゃくり上げながら彼女に抱きついた。

 

「うわぁあああ! さびしかったよぉーー!」

 

「大丈夫か!? 昨日からずっと一人だったのか? お父さんは? お母さんは?」

 

「ぐすっ……いない……いなくなっちゃった……」

 

「そうか…………見たところ、体にケガは無いようだな。痛みはどうだ? あるか?」

 

 少年は涙を腕で拭いつつ、慧音の質問に頷いて答える。

 彼の名前は岩山凛太郎。8歳。慧音の持つ名簿にしっかり載っている名前だ。名簿に名前があるということは、彼を捜している者が避難所にいるということ。凛太郎が「いなくなった」と答えた親は、おそらくそこにいるのだろう。

 とにかく、一人目の行方不明者の保護は完了。慧音は安堵のため息を漏らし、凛太郎を安心させる言葉をかけると、手を引いて安全な場所へ向かい始めた。

 

「ねぇ、先生。スタンドのお兄さんたち、今はどこにいるの?」

 

「お兄さんたち? スティッキィ・フィンガーズやキラークイーンのことか? キラークイーンは分からないが、スティッキィ・フィンガーズなら守矢神社に行ってる。どうかしたのか?」

 

「ううん。昨日、スティッキィ・フィンガーズさんが化け物を倒して、僕のことを助けてくれたんだ。だから、そのお礼が言いたくて」

 

 S・フィンガーズは昨日、確かにここ北部の上空に現れた巨大な龍と戦っていた。結果は異変そのものが終わるまで着かなかったものの、凛太郎によるとその間に多くの命を救って回っていたらしい。凛太郎もその一人で、ぜひ自分で直接会って礼を言いたいとのことだ。

 真面目でできた子どもだ、と思いながらも慧音は周りへ気を配り、建物の倒壊や他の行方不明者を捜そうとする。数分したところで、再び凛太郎が口を開いた。

 

「ねぇ、先生。先生はスティッキィ・フィンガーズさんの能力って、知ってる?」

 

「ん? なんでそんなことを?」

 

「気になったんだよ。僕、あの時はずっと逃げてたからスティッキィ・フィンガーズさんのこと、あまり見えてなかったんだ。それで、すごくカッコよかったから……」

 

「えぇと……たしか『ジッパーを使う能力』だったか? そうやって言ってたような気がするが……」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

「……?」

 

 戦う人物がカッコいいと思うのは、きっとこれぐらいの年齢の男子にはよくあることなのだろう。寺子屋でも流れ着いた外の世界の絵本に影響されて、その真似をして遊ぶ子どもは多くいる。凛太郎もその一人なのかと思ったが、しかし子どもらしい興味で訊いたようには思えない。

 曖昧な答えだったというのに、深く追及するでもなくすぐに話を切ってしまった。風変わりな子なだけだろうか、と慧音は思う。

 

「ねぇ、先生。先生って、たしか幻想郷の歴史をまとめてるんだよね? 合ってる?」

 

「……合ってるも何も、私のことを知っているならそのことも一緒に教えていると思うんだが……もしや、凛太郎。君は寺子屋にいなかったか……?」

 

「ひどいなぁ、先生。教え子のこと全部覚えているわけじゃあないんだ?」

 

「……いや、覚えているとも。君は確かに()()。知らないはずはないんだ」

 

「………………」

 

 凛太郎の足が止まった。数歩先に出た慧音が振り返ると、彼はじっと慧音を見つめ返す。向けられた目はまっすぐ慧音を見ているが、しかし何か含みのあるものへ変貌していた。何か、おかしい。

 慧音は不気味なものを感じずにはいられなかった。姿形は凛太郎だというのに、言動は慧音の知っている彼とは違う。よく泣く子ではあったが、今の彼のように慧音に嫌味を言うような少年ではない。

 とにかく何かがおかしい。()()()()

 

「……先生」

 

「ッ!」

 

「色々教えてくれてありがとね」

 

「な、何を言ってる……? どういう意味だ!」

 

「用済みだよ」

 

 

ドガン!

 

 

「がッ……!?」

 

『用済みだ。上白沢慧音。『記憶』のディスクだけ貰っていくぞ』

 

 凛太郎の言葉の後、慧音の頭に衝撃が走る。そしてその後にやって来るのは、何かがゆっくり抜け出ていく不思議な感覚。

 だが不思議なことはそれだけではない。凛太郎の姿がモザイクがかかったように変わると、そこから白色の肌をもった謎の人物……もとい存在が現れた。この異形、間違いなく人間ではない。妖怪のようにも見えない。慧音は薄れゆく意識が消えるまでに結論に至った。こいつはスタンドだ。

 そして完全に倒れ伏すまで、彼女の目に映った。スタンドの後方にある建物の陰に、血が流れる少年の腕が見えていた。アレは、きっと本物の凛太郎。

 

「……動かなくなったか。上白沢慧音。幻想郷の歴史の編纂者。お前の『記憶』が欲しかった」

 

 スタンド、ホワイトスネイクに攻撃された彼女の側頭部からは一枚のディスクがはみ出ており、これこそ彼の言う『記憶』のディスクである。

 S・フィンガーズを見事撒いたホワイトスネイクは、一人大通りを歩く凛太郎に目をつけて殺害。絶命する前に記憶を奪い、幻覚能力を使って凛太郎と騙って慧音に近付いたのだ。

 

「ついさっき、世界(ザ・ワールド)と戦っていたスタンドたちのエネルギーが一気に弱まった…………彼は勝ったのだろう。私の目的は、宇宙を一巡させる『時の加速』を邪魔した者を調べること。楽園の巫女、博麗霊夢。賢者、八雲紫。その他の者を把握することだ。そのためにお前のディスクが必要なのだ……」

 

 幻想郷は外の世界で起こった宇宙の一巡に巻き込まれていなかった。それは過去に起こった『花の異変』にて、四季映姫がハイエロファントに教えている。時の加速は幻想郷屈指の強者たちによって阻止され、今に至るのだ。

 ホワイトスネイクは慧音のもつ歴史、『記憶』のディスクを奪おうと手を伸ばす。すると、彼はあることに気がついた。

 

「……? これは?」

 

 倒れている慧音の背中に、縦一文字に走る何かが着いている。  

 元々21世紀に生きていたホワイトスネイクはそれが何なのか、一瞬その存在に疑問を抱いたものの、すぐに理解した。これは、ジッパーだ。なぜ彼女の背中に? 服のデザインなどからしても明らかに不自然だというのに……

 「たしか『ジッパーを使う能力』だったか?」

 先程の慧音の言葉が頭の中に浮上してくる。

 そんなまさか、もう追いついてきたのか!?

 

 

ドギュゥゥ〜〜〜〜ン!

 

 

「ぐおッ! ス、スティッキィ・フィンガーズ……!」

 

 ジッパーがガバッと開くと、それとほぼ同時にS・フィンガーズの拳が出現。ホワイトスネイクの頬を掠め、空中へ打ち上げられた。

 ホワイトスネイクが慧音から飛び退いて距離を取ると、彼女の背中から這い出て来る。ジッパーを使うというのはこういうことだった。

 あらゆる場所にジッパーを取り付け、開閉し、中に隠れたり通過したりする。ホワイトスネイクに追いついたS・フィンガーズは地下へ潜り、慧音の肉体を通してホワイトスネイクに攻撃を仕掛けたのだ。

 

「……お前の狙いは慧音か。まだ関連性を見出せていないが、このタイミング……おそらく昨日の異変もお前が関わっていたとしてもおかしくあるまい」

 

「もはや隠す必要はないだろう。その通り。昨日のアレ(異変)は『ボヘミアン・ラプソディー』というスタンド能力が引き起こした。スティッキィ・フィンガーズ……貴様も我々の邪魔をするか?」

 

「ああ。罪は償ってもらうぜ」

 

 先手はS・フィンガーズが取る。地面を蹴り、素早くホワイトスネイクとの距離を縮めると、スタンドパワーが込められたアッパーが彼の顎を狙った。

 だが、間一髪のところでホワイトスネイクは攻撃を回避。後ろへ身を引くと強烈な前蹴りを繰り出し、S・フィンガーズの頭を粉砕せんとする。

 

「無駄だ。俺の能力の前じゃな……」

 

 

ガパァアアッ!

 

 

「! 何ッ!?」

 

 S・フィンガーズは自分の頭部にジッパーを取り付け、頭を縦に半分に割いた。ジッパーにより痛みも出血もなく、頭が半分に分かれたことによってホワイトスネイクの足は標的を見失い、そのまま虚空を切ってしまう。

 そして、その隙をS・フィンガーズは逃さない。

 

「フンッ!」

 

 

バキィイイッ!

 

 

「ガフゥッ!?」

 

「さあ、いくぜ……覚悟を決めろ」

 

 頭を元に戻すと、外したアッパーを再度当て、ホワイトスネイクを打ち上げる。

 宙に持ち上がった彼に狙いを定め、S・フィンガーズはラッシュを打ち込んだ。

 

 

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ」

 

 

ドゴ ボゴ ボゴ ドゴ バゴ ドゴ ボゴ バゴ ドゴ ドゴ バゴ ボゴ

 

 

「ぐぅおぉおおオオッ!!」

 

 ホワイトスネイクはかろうじて左腕でガードを取り、胴体や顔面への拳の直撃を免れるが、S・フィンガーズの能力は触れたものに影響を与える。ガードと言えどそれを腕で行うなど以ての外だ。

 案の定、S・フィンガーズの拳がヒットした場所にはジッパーが走り、開かれ、そこから血が噴き出す。それが何発も高速で打ち込まれるのだから、ホワイトスネイクもタダでは済まない。もう数秒でバラバラにされるだろう。

 しかし……

 

「ぐぅウウ! お前に……命令するッ!」

 

「!」

 

 ホワイトスネイクは左腕のガードを解かないまま、右手で隠し持っていた空のディスクをS・フィンガーズの頭に投げ入れた。

 

「『能力を解除し、5秒間静止しろ』!」

 

 ホワイトスネイクがそう叫ぶと、S・フィンガーズのラッシュがピタリと止まる。

 それだけに留まらず、ホワイトスネイクの体中に取り付けられたジッパーも全て消え去ってしまった。彼の命令通りに。

 S・フィンガーズはホワイトスネイクの言葉通り、本当にその場で静止してしまう。タイムリミットは5秒。短いには短いが、ホワイトスネイクがその隙に何もしないわけがない。そう考えれば、5秒は長すぎる。

 

「ぐッ……し、しまった」

 

 

「ウオシャアアアア!」

 

 

ドババババババッ!

 

 

「ぐハァッ!」

 

 ホワイトスネイクのラッシュを無防備な状態に叩き込まれ、潰された水風船の如くS・フィンガーズは血を吐き出す。拳が体中に突き刺さり、痛みがあちこちを巡る。

 体の自由が利くようになると、S・フィンガーズはよろめきながらも地面を蹴り、ホワイトスネイクから距離を取った。

 実に互いに厄介な能力である。

 一方は触れられるだけで血が噴き出し、一方は動きを封じる技をもつ。S・フィンガーズもホワイトスネイクも、注意深く相手を観察し続けた。

 どこか、どこかにないか? 決定的な隙が。重大な弱点が。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「31……37…………41……43」

 

 2人の距離は10mもない。

 睨み合い、その場をゆっくりぐるぐる回っているだけ。隙を探り、隙を潰し、相手を牽制し、相手を威圧する。完全に拮抗状態だ。別の者が割って入らなければ、この状況は破れない。

 しかし、その時は唐突にやって来た。

 

 

ガァーーン! ガァーーン! ガァーーン!

 

 

「うぐゥッ!? な、何だッ!?」

 

「! F・F!」

 

「よぉ、スティッキィ・フィンガーズ。そいつの相手、あたしにもやらせてくれよ。死ぬ前からの知り合いなんだ。思い入れもある…………ブッ殺してぇぐらいのな!」

 

 ホワイトスネイクの背後から3発の銃声が聴こえると、それと同時にホワイトスネイクの肩から血が噴き出す。現れたのはF・Fだ。

 彼女は口を笑わせた状態で2人へ近付いていく。しかし、その目は明らかに笑ってはいない。ホワイトスネイクとは面識があるようだが、2人に一体どんな因縁があるのかS・フィンガーズは全く知らなかった。

 

「フー・ファイターズ……! 貴様もここに!」

 

「久しぶりだな、ホワイトスネイク……()()()に来たぜ。てめーもこっちに来たってことはよォーー、徐倫たちはやったんだな。ザマーねぇーぜ」

 

「フッ……クククク……」

 

「何だ? 何が可笑しいんだ?」

 

「いや、私をやったのは徐倫じゃあない。小僧(エンポリオ)の方だ。徐倫なら私が殺してやったぞ。バラバラに切り裂いて、な……」

 

「!?」

 

 F・Fとホワイトスネイクは完全にS・フィンガーズそっちのけで会話を進める。

 2人の因縁は決して浅いものではない。F・Fはかつてホワイトスネイクの本体こと、プッチ神父によって知性をもたらされた。

 しかし、F・Fは徐倫との戦闘後に彼を裏切り、奪われてしまった承太郎のディスクを取り戻すために2人は敵対することとなる。F・Fはプッチ神父に直接殺されたわけではないが、その死因とは深い繋がりがあるのだ。

 F・Fは死後、幻想郷に流れ着いた。それからは心の中でずっとずっと徐倫たちの勝利を願っていた。ホワイトスネイクがここへ来て、殺したのはエンポリオ。勝利はしたのだろう。だが、徐倫は…………

 

「ッ…………! ふざけたこと言いやがって! あたしが動揺すると思ったかァーーーー!? あたしはあたしの運命に決着をつけるために、お前を殺すんだぜッ! あたしの『思い出』のために!」

 

「たかだかプランクトン風情が……この私に向かって! ナメた口を聞いてんじゃあないぞッ!」

 

「! F・F! やつが行くぞ!」

 

 ホワイトスネイクは地面を蹴飛ばし、F・Fの元へ駆け出す。それに反応したS・フィンガーズはF・Fへ向けて声を投げるとともに、自分の腕を能力で伸ばしてホワイトスネイクを攻撃した。

 が、いくら肩を負傷しているとはいえ、元々のスペックがかなり高いホワイトスネイクはS・フィンガーズの拳を難無く回避。

 F・Fは腰を落として構えを取り、ホワイトスネイクもそのまま拳を握り、標的を殴りつけようと振りかぶる。そして、同時に打ち出した!

 

「ヌッ!?」

(こいつ、フェイントをッ……!)

 

「ウリヤアアッ!」

 

 相手に先にヒットしたのはホワイトスネイクの拳。だがF・Fはそれを誘発しており、腕で速やかに受け流してホワイトスネイクのバランスを崩した。

 その隙を逃さず、F・Fはすかさず延髄斬りを放つ。

 

「遅いぞ!」

 

「チッ!」

 

 反応速度はホワイトスネイクの方が上だ。

 F・Fの脚を腕で受け止めると、もう片方の手でラッシュを繰り出す。F・Fは体を宙に浮かせた状態でもなんとかガードを取り、ラッシュのダメージを最小限に減らした。そしてそのパワーを利用し、F・Fは体勢を立て直すためにホワイトスネイクから距離を取る。

 そして再び間合いを詰め、拳と蹴りの入り混じる素早い攻防が繰り広げられた。

 戦いはわずかながらホワイトスネイクの方に分がある。思えば、()()()()()。本体、プッチ神父からかなり離れた位置まで移動していたホワイトスネイクだが、それでもパワーはF・Fを遥かに上回り、圧倒していた。

 この場ですぐに始末することは難しいだろう。F・Fたった一人だけならば。

 

 

ドゴォオオッ!

 

 

「ぐああっ!?」

 

「後ろにも警戒することだな。お前の相手は2人いるんだぜ。F・Fと俺の2人だ」

 

 気付かれぬよう、後ろから忍び寄っていたS・フィンガーズはホワイトスネイクの側頭部を蹴り飛ばし、彼を家屋へと吹っ飛ばす。

 北部はもはや廃屋だらけ。破壊され、家として機能しないもの。主が死に、誰にも必要とされなくなったもの。様々である。だからこそ、これらのものは()存分に利用できるのだ。

 ホワイトスネイクが突っ込んだ家屋は土埃を上げて半壊する。それに便乗するかのように、F・Fはホワイトスネイクの浮上を待つことなく屋内へ侵入、そして追撃せんとする。

 

 

ドッバアア〜〜ッ!

 

 

「うわ! な、何だ!?」

 

 土埃の中から、埃とはまた別の粒がF・Fに向けて投げつけられる。しかしそれは煙のように宙に舞うことはなく、音を立ててすぐに床にバラバラと墜落してしまった。

 視界が悪くてよく見えないが、とにかく白く細かな粒が大量にぶちまけられている。これは一体何なのか。答えはすぐに判明する。

 異変はF・Fの体に起きた。

 

「!? ウ、ウソだろ? 体が崩れていく!? どーなってんだ、こりゃあ!」

 

「どうかしたのかF・F! 煙で中がよく見えない! 状況を報告するんだ!」

 

「スティッキィ・フィンガーズ……! 待てよ……これ、まさか塩か……!? 岩塩だ。水分が吸われてるぞ!」

 

 煙幕の中でホワイトスネイクが投げつけたのは、なんと塩。プランクトンが集まって形作っているF・Fからして、水分を奪い去る塩は天敵中の天敵だ。

 著しい弱体化を招き始め、F・Fの体の末端はどんどん(しぼ)んでいく。そして乾燥し、ひび割れ出した。ホワイトスネイクはこれを狙っていたのだ。

 S・フィンガーズの声に応えるよりも、F・Fはどこかに潜むホワイトスネイクの影を探すことを優先する。まだ絶対近くにいるはずだ。やつが敵を中途半端に生かしておくとは考えられない。追い詰められていれば別だが、この煙に囲まれた舞台。チャンスを掴んでいるのはホワイトスネイクの方なのだから。

 

「くそっ…………どこだ? やつはどこに!?」

 

 F・Fはあちこちへ首を回し、ホワイトスネイクの接近に警戒し続ける。そんな彼女の背後で、黒い影がユラリと動くのだった。

 

 

____________________

 

 

「F・F! 大丈夫か!」

 

 S・フィンガーズが煙を払いつつ、F・Fがいた地点へ足を踏み入れる。

 だが、そこにF・Fの姿は無かった。どこかへ移動したのか? 近くで音もしない。煙もやがて薄くなり、周りの瓦礫の様子も鮮明になる。

 改めて破壊された家屋を見渡すと、なんと部屋の奥の壁にもたれかかるF・Fが。陰になっていた場所にいたために気付きづらかったらしい。

 

「F・F、そのケガ…………やつは逃げたのか?」

 

「……ああ……逃げたかどうかは……分からない……だが、体が塩を吸っちまってよォーー。体半分が崩れてきた……このままじゃヤバい。S・フィンガーズ、外に運んでくれないか?」

 

「ああ。掴まれ」

 

 F・Fの下半身は完全に砕け、消えてしまっている。これでは自力で立つことは不可能だ。

 S・フィンガーズは彼女に肩を貸し、立ち上がると、瓦礫を避けながら大通りへと出る。姿を隠したホワイトスネイクからの奇襲に備えるため、見晴らしの良い場所に身を置く必要があるからだ。

 F・Fを通りで降ろすと、S・フィンガーズは彼女に竹製の水筒を渡す。

 

「それを飲んで回復するんだ。俺はやつを探す。必ず近くにいるはずだ。ホワイトスネイクの狙いは慧音。()()()()を逃すとは思えないからな」

 

「ああ。分かったよ」

 

 F・Fは蓋を外し、水筒の水を一気飲みする。

 S・フィンガーズはF・Fとの共闘に備え、水筒を持参していた。体をプランクトンで構成し、常に水が必要な彼女であるが、そんな大切な水をよく失ってしまう。先日の異変でも、F・FはF・Fで水筒を持ち出してはいたものの戦闘の際に水筒が壊れてしまい、危なくなった時もあった。それがきっかけである。

 S・フィンガーズはホワイトスネイクが姿を消した家屋へ再び向かおうとする。スタンドエネルギーの反応は周りに一つも無い。F・Fは水を失い、活動の限界まで来てしまったため、エネルギーが小さくなっているのだ。

 

(ホワイトスネイク……一体どこへ消えた……? 何の目的で慧音を狙う……)

 

「…………ガーズ……」

 

「!」

 

 家屋からギシギシと木材が軋む音が聴こえると、それと同時に小さな声が発せられてきた。だが分かることと言えば、それが小さな声だということぐらいで、木の音に混じっているがために何を言っているのか、詳しくは分からなかった。

 S・フィンガーズは耳を澄まし、もう一歩だけ家屋に近付く。すると、分かった。何を言っているのか。声の主が誰なのか。

 

「……フィンガーズ…………スティッキィ・フィンガーズ……! う、後ろだ…………」

 

「エ、F・Fか……!? どうしてそこにいるッ!? 俺は確かに通りへ連れ出したはずだ!」

 

「そいつが……そいつがホワイトスネイクだァーーーーッ!」

 

 声の主、本物のF・Fは家屋から体を引きずり、その姿を見せる。S・フィンガーズが先程大通りへ連れ出したF・Fよりも損傷が激しく、下半身も、残った胴体の右半身さえも消えて無くなっていた。

 S・フィンガーズが連れ出したF・Fは、弱っていたからエネルギーを感じなかったのではない。隠していただけだったのだ。

 敵は背後にいる。それを認識して振り返るS・フィンガーズだが、もはや手遅れ。

 

 

ドガン!

 

 

「がッ……!」

 

「捕らえたぞ。スティッキィ・フィンガーズ……」

 

「ホワイトスネイクッ……てめぇ……!!」

 

 背後から既に近付いていたホワイトスネイクに先手を取られ、S・フィンガーズの頭にホワイトスネイクの手が挿入される。

 手刀によって貫通したのとはまた違う。彼の能力だ。頭部に手を直接入れ、『記憶』や『視覚』といったディスクを取り出す。S・フィンガーズは今まさに、ホワイトスネイクにそれらを奪われかねない状態なのだ。

 そんな危険な状態であるからか、S・フィンガーズは項垂れ、まるで廃人にでもなったように動かなくなってしまった。記憶を奪われてはそれを取り戻すまでS・フィンガーズは再起不能となる。ここでそんなことになれば、いよいよホワイトスネイクに、命まで奪われてしまう。

 

「さて……どうしようか。記憶を奪って戦闘不能にしてもいいが、こいつのには興味がないしな。そういえば、この幻想郷に流れ着いたスタンドたちは()()()()()()()()()()()()()? それを試してみるのもいいかもな……」

 

「や、やめろ! ホワイトスネイク! その手を離しやがれェーーーーッ!!」

 

 

ドォン! ドォン! ドォオン!

 

 

「……それをやると思ったぞ。黙って見ているだけでよかったのにな……」

 

 F・Fはひび割れ、砕けかけている左腕を無理矢理動かし、プランクトンの弾丸をホワイトスネイクに向けて撃ち放った。

 だが、それは誘われた攻撃である。F・F弾が放たれた瞬間、ニヒルな笑みを浮かべたホワイトスネイクはS・フィンガーズの体を揺さぶり、自身の前へ移動させる。

 それを見たF・Fはホワイトスネイクが何をするつもりなのか、すぐに理解する。最悪のことを、想像してしまった。

 S・フィンガーズの顔面、そして頭部に、F・F弾が撃ち込まれてしまった。

 

「う、うあああっ……! スティッキィ・フィンガーズ!」

 

 思わず声を漏らすF・Fだが、S・フィンガーズは彼女の声に反応を返さない。開けられた3つの穴から血を噴き出し、彼は硬い土の上に倒れ伏してしまった。

 仲間に攻撃を当ててしまい、かつ命に届きうるほどの威力で頭部に叩き込んでしまったことは、F・Fの頭の中を駆け回り、思考を真っ白に塗り替えていく。倒れて動かなくなったS・フィンガーズから目を離さないまま放心してしまい、F・Fの戦意は一度完全に失せてしまった。

 卑怯であろうか? ホワイトスネイクはF・Fのそんな様子を一切歯牙にかけず、彼女に襲いかかる。

 

「フー・ファイターズ、お前は所詮プランクトンだ。どこまでいってもチッポケな生物に過ぎない! どれだけ抗おうと、どれだけ工夫しようと! お前にあるのは地に這いつくばり、薄氷のように消えていく終わりだ。我が大いなる目的の前で、己の貧弱さを思い知れェ!!」

 

「ハッ!」

 

 ホワイトスネイクの拳がF・Fの頭を粉砕する直前、彼女は意識をホワイトスネイクに戻す。

 しかし、だからと言って、F・Fはもうどうすることもできない。視界に映るのは、握り締められたホワイトスネイクの拳だけである。

 

 

ドグシャアアアッ!

 

 

「ウリャアアアアアッ」

 

 

ズババババァン!

 

 

 ホワイトスネイクの拳はF・Fの頭を確かに捉え、破壊した。

 頭が無くなり、下半身も消え、残された胴体はホワイトスネイクの手刀のラッシュによってバラバラに分断され、周りにその残骸が飛び散る。

 攻撃はそれだけに留まらず、既に動かなくなり消滅が始まりつつある残骸を執拗に踏みつけ、ホワイトスネイクはF・Fへのトドメを完全に刺してしまうのだった。

 邪魔者は消し去った。この地(幻想郷)で初めて相対したスタンドも、アメリカの刑務所から因縁のあるスタンドも。後はもう、慧音の記憶を奪い去り、世界(ザ・ワールド)の元へ戻るだけだ。

 

「フー・ファイターズは死んだ。スティッキィ・ファイターズとやらも。この人里でやることは、上白沢慧音のディスクを奪うことのみ。ただそれだけだ。もはや()()だ。だというのに…………お前も邪魔をするつもりか?」

 

 ホワイトスネイクの言葉は虚空へ放たれる。彼の視界には、倒れ伏す慧音とS・フィンガーズ以外の者はいない。誰もいない。

 しかし、ホワイトスネイクに言葉を投げかけられた者は確かに存在する。エネルギーを放って、ホワイトスネイクの背後にいた。それは彼が想像していた者ではなく、F・Fも、S・フィンガーズですらも想像していなかった。彼が来るとは。

 

「何者だ……貴様」

 

「通りすがりの、平穏に暮らしたいだけのスタンドさ」

 

 キラークイーンである。

 

 




F・Fとホワイトスネイクの殴り合いは省かせてしまいましたが、まぁまぁの激しさの戦いでした(そういう設定で……)

to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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