幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
プラス、オリジナル要素がマシマシです。
今は夏日。月で例えるなら、8月の前半〜中間辺りである。森に住む妖精たちも、人里で営む人間たちも揃って日陰を求めて生を送る。しかし、こんな状況下で幻想郷に不思議な出来事が起こっていた。
「ああ〜……何ということでしょう! 今は夏だというのに、こんな所にスイセンが! あそこにはウメまで開花して! ……これは異変に違いありません……急いで霊夢さんへ報告しなくては!」
鴉天狗の射命丸文。幻想郷で「文々。新聞」という独自の新聞を発行し、主に人里で親しまれている。そんな彼女は"夏に別の季節の花が咲く"という変わった現象に直面していた。幻想郷各地を飛び回ったが、どこでもこの現象が起きており、「これは異変である」と確信した彼女。
起こった異変を解決するのは巫女の仕事。博麗神社の霊夢に異変解決をしてもらえれば新たな新聞のネタとなる。それにより、上機嫌に神社のある方角へ飛び立っていった。
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「いや〜しかし珍しいよなぁ。こんな時期に桜が咲くなんて」
「本当よね〜」
「……いや、珍しいどころか異常じゃあないか……?」
博麗神社では、遊びにやって来た魔理沙とハイエロファント、そして博麗霊夢が茶をすすっていた。幻想郷の元々の住人である2人は呑気に今の風景を楽しみ、ハイエロファントは「異常事態では」と事態を重めに見ている。
「大丈夫だって〜、ハイエロファント。今の季節に合わない花が咲いたからって私たちに何も悪い影響なんて無いじゃねーか。それに、春を取られたり霧に覆われたりして花もフラストレーションが溜まってたんだよ」
「そんなはずないだろう……」
だが、「たしかに」とハイエロファントは思う。花が大量に咲いたからといって悪いことを企むやつなんて、そういない……かもしれない。自身の知るスタンド使いにもそんなやつはいないはずだ。
せんべい籠を側に置き、霊夢は縁側で寝転びながら醤油味の円いせんべいをバリッとかじり始めた。
「こら。行儀悪いぞ」
「……案外スタンドの仕業かもしれないわね〜」
「なはは。花を咲かせるスタンドなんていんのかよぉ〜?」
(明らかに話をズラされたな……)
「……まあ、ないことはないと思うよ。心が穏やかな人だとかはそういうスタンドを発現させるかもしれない。夢を操ったり、金属に化けたり、銃や太陽のスタンドもいたのだから、生命を与えるスタンド……いるかもしれないな」
「ほへぇ〜〜」
せんべいを咥えながら覇気のこもっていない声で返事をする。自分で話を振っておきながら興味なさそうにする辺り、魔理沙と同じぐらい自由だな、とハイエロファントは呆れ返る。だが、「2人が大丈夫だと言うなら」とハイエロファントも諦め、神社を囲む春気に身を
原因は突風だ。この者が起こした………
「どうもーっ。「清く正しい射命丸」です! お揃いですねぇ〜、御三方。ハイエロファントさんは幻想郷に慣れましたか? 魔理沙さんはハイエロファントさんと上手くやってますか〜? 霊夢さんは独りで寂しくないですか〜?」
挑発的に挨拶をしてくる黒い翼をもつ女性。以前ハイエロファントが新聞の取材を受けた、鴉天狗の射命丸文だ。黒い翼を羽ばたかせながら境内に降り立つ。彼女の弾むような口ぶりとランランと輝くその瞳は「絶対に良いことがあったな」と周りに思わせてくれるものだった。
「やかましいやつが来ちゃったわ……」
「よー。射命丸。何か用か?」
「フフフ……気になります?」
「やめときなさいよ、魔理沙。どーせ"ろくでもないこと"よ」
霊夢は射命丸の来訪にうんざりしている
「皆さんの目に映って見える通り……これらの桜は本来春に咲くものですが、今は夏! だというのに、ウメやスイセン、桜と、四季折々の花々がなぜか咲いているんです! これは異変に違いありませんよ! さあ、霊夢さん、魔理沙さん。いざ、異変解決へ!」
「どうぞ!」と手で彼女らの前方を示すが、2人は特に立ち上がることも、何のリアクションもしなかった。魔理沙はニコニコの射命丸を見つめ続け、霊夢は上体を起こしてせんべい籠の中を物色する。ハイエロファントはあまり意に介していない。無言の時間が過ぎ、射命丸は気まずい空気が流れ始めるギリギリで「ちょっと!」と声を上げる。
「これは異変ですよ! 絶対に!」
「いや〜、別に悪いこと無いんだから良いじゃないの」
「そんなに気になるのか? この花たちのこと」
「気になりますよ! 去年や以前だってこんなことなかったんですからね! たまたま「あ、ちょっと咲くのが早いな〜」って感じで思うことはありましたけども、今回ばかりは納得できません!」
異変の調査、解決に乗り気でない2人を手帳とペンを片手に説得する。それでも動じない霊夢たちに、射命丸は「そうだ」と怪しい笑みを浮かべた。
「……もし、あの博霊の巫女が独断で「花の異変は悪い影響がないもの」と見なして、実は害がありました! なーんてことになったら……霊夢さん困りません?」
「……何が言いたいのよ」
「「博麗の巫女!ついに仕事を放棄!」」
「だーーっ! 分かったわよ!」
何と射命丸、霊夢が異変解決に向かわないことを記事にするぞ、と脅したのだ。霊夢の怠慢で何か影響があったなら、博麗神社の参拝客の減少や霊夢自身が信用されなくなってしまう。さすがにそれはまずいと感じ、霊夢は頭の大きなリボンを結び直して出発の準備をし始めた。
「フフフ……さすがは博霊の巫女!行動が早いですねぇ〜」
「うるさいわ! 行けばいいんでしょ? 行けば! ……全くもう……」
「頑張れな〜」
忙しい霊夢を尻目に、魔理沙が能天気にエールを送る。ここまで特に動かなかったハイエロファントグリーンだが、霊夢が神社を出て行こうとした瞬間に立ち上がり、境内を飛び出そうとする2人に「すまないが」と声を掛けた。
「僕も一緒に行っていいかい?」
彼の言葉に霊夢は「え?」と眉を上げる。魔理沙は特に反応せず、射命丸は「何と!」と嬉々とした表情をハイエロファントに向けた。射命丸が真っ先に口を開く。
「もしかして、ハイエロファントさんも異変解決をやってみたいんですか?」
「いいや。単なる社会見学ってやつさ。
「おう! 行っとけ行っとけ!」
「まあ、異変解決の手助けもするってんなら歓迎よ」
霊夢と射命丸は快く承諾し、魔理沙も笑って送り出す。ハイエロファントは霊夢と違って特に準備することもなく、飛行する2人を追って神社を出発して行った。魔理沙は神社で留守番(昼寝)をするようで、再集合場所は博霊神社となった。
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飛び立った3名は霊夢のスピードに合わせて空を征く。彼らは幻想郷で最も高い山「妖怪の山」のある方角とは逆方向へ突き進んでいる。ハイエロファントは即興の思いつきでついて来てしまったため、彼女らが何を目指しているのか、よく分かっていない。
「なあ、僕らは一体どこへ向かって飛んでいるんだ?」
「さあ? ねぇ、文。どこに向かってるのよ」
並んで飛ぶ2人を少し離れたカメラが写すと、白い光が飛び出して彼らの目を焼く。思わず目を閉じた霊夢とハイエロファントに「それはですね…」と前置きをしてから問いに答えた。
「"太陽の畑"ですよ。霊夢さんは行ったことぐらいあるんじゃあないかなー?」
「あー……あそこね。」
霊夢は「太陽の畑」に関して何かを思い出したような様子だが、あまりスッキリしていなさそうに口角が片方だけつり上がっている。
「花の異変……だからって?」
「ええ! 何か知っているかも!」
「ちょっと待ってくれ。話について行けないぞ」
ハイエロファントが「待った」をかける。話の流れで「花に関係する何か」を目指していることは分かったが、肝心なことが全く分からない。「あーそうだった」と射命丸は口を開いた。
「この異変の元凶に覚えがあるのか?」
「ええ。実は今目指している"太陽の畑"というのは、広大な
「そいつなら何か知ってるかもしれないってことよ」
「なるほどな……戦闘になる可能性は?」
「大いにありますね……かなり変わっているので……」
大丈夫か?ハイエロファントはそう思う。
彼は最近連続して戦いを繰り広げている。生前も打倒DIOを目指したエジプトへの旅の中で幾度も戦いをくぐり抜けてきたが、再びその試練を味わっているようだ。対スタンドならば経験と策略にものを言わせて存分に戦うことができる。しかし、彼は幻想郷の住人との弾幕戦は未だ経験がないため、個人的に狙われてしまったときの対処は難しいのだ。ハイエロファントはそれを危惧していた。
会話を交わしながら十数分飛行し続けると、遂に真っ黄色に輝く大地が見えてきた。あれが"太陽の畑"。3人は向日葵畑の上空へ来ると、徐々に降下して件の妖怪の姿を探し始めた。が、背中に羽の生えた小さいシルエットしか見当たらない。今は満開の花を目当てにした妖精ばかりいるようだ。目的の者らしい影は見えない。
「う〜ん。いませんねぇ。いつもならいるんですが」
「どーすんのよ。他に
「彼女は様々な花を巡る妖怪……いるとなると森か、人里でのんびりしているかでしょうねぇ」
「それじゃあ、手分けでもするかい?人里と魔法の森へ行くチームを決めるんだ」
「それがいい」と、ハイエロファントの提案に2人は頷く。3人の中で目的の人物について一番よく知らないのはハイエロファントだ。それに幻想郷に入ってからまだ2週間程度しか経過しておらず1人で捜索させるには少し危険なため、ハイエロファントは2人のうち1人と決まった。
「それじゃあ、私と文のどっちがどっちに行くかだけど……」
「では、私がハイエロファントさんと共に人里へ行きましょう」
「え? あんたがぁ?」
霊夢がとても意外そうな声を上げた。彼女は自分が人里へ行くつもりで満々だったのだ。
「何であんたが人里に行くのよ。妖怪じゃないの」
「
「? ……何を言ってるのかわからないけど……まあ、いいわ。アリスでも誘って探すとしようかしらね」
霊夢はフワッと浮き上がると、元来た方角へと飛んでいった。それを見送ると、射命丸はハイエロファントに左手を差し出す。
「どうぞ、握ってください。ひとっ飛びしますから」
「え……あ、ああ……ッ!?」
言われた通りに手を握ると、その瞬間視界が大きくブレた。射命丸が一瞬で飛び立ったのだ。体中に強く圧力がかかって、身をよじることすら叶わない。魔理沙の箒よりもスピードが出ているのでは?と頭に浮かぶが、そんな思考ですら宙へ置いていくかのような速さだ。
「う うわああぁぁーーーーッ!!?」
「舌! 噛まないようにしてくださいねっ。あるかどうかわからないですけど!」
ハイエロファントの耳にその言葉が届くことはなかった。彼は人里に到着するまでの間、体を潰されるかのような圧倒的スピードに何とか耐え続けようとした。
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「よ、ようやく着いた……」
「ようやくって……2分もかかりました?」
人里の入り口近くに2人は着陸する。射命丸は例のスピードに慣れているため涼しい顔をしているが、ハイエロファントはかなりグロッキーな様子だ。ジョセフが操縦する飛行機とは違うヒヤヒヤ感があった。
「ううっ……顔半分が内部でふっ飛んで、脳ミソが1/3ぐらい顔の肉とシェイクされたような感じだ……」
「何をバカなことを〜〜……はいっ、行きましょうか。」
射命丸は手をついて座り込んでいるハイエロファントの脇を抱えて起こし上げると、2人を怪しそうに見つめる見張りの人間に「こんにちは〜」と、軽く挨拶をして人里に入っていった。
人里は以前顔を隠して来た時のように活気が盛んだった。道に面した屋台には「団子」「和菓子」など、旗が掲げられて売りに出されている。道ゆく人々は皆、元気に明るく過ごしているが、彼ら2人がすぐそばを通ると話は違ってくる。射命丸は一切気にしていない様子だが、周りからの視線は"畏怖"に染まっていた。
「射命丸……君は何とも思わないのか?」
「……別に嫌われてるわけじゃあないですよ。
「何だって?」
ハイエロファントの質問に射命丸は小声で返す。ハイエロファントが聞き返した後に続く言葉は、さらに小さくなって彼の耳に入っていった。
「妖怪を恐れること。それが人間の仕事なんです」
「……どういうことだ?」
「この幻想郷はバランスがよく取れています。妖怪は人間からの「恐怖」が無ければ存在できません。人を食う妖怪はいますが、彼らが退治されるのは、畏怖する人間を消してしまう可能性があるから。だから巫女が退治する……
「……そういうことだったのか……その……妖怪を恐怖するのが仕事、というのは人間たちは知っているのか?」
「いいえ。もし、そんなことが知れ渡ろうものなら、とっくに反乱紛いのことが起きてますよ」
「……間違ってるとは思わないが、まるで箱庭じゃあないか。一体誰なんだ?ここの主は?」
「箱庭だなんてぇ。楽園ですよ。ここは。秩序を守るためには
「八雲紫……?」
「「賢者」とも呼ばれています。彼女も妖怪ですよ」
「妖怪だから、妖怪のための世界を……ってことなのか?分からなくもないが……」
「まあ、実際我々は助かってますし。「幻想郷の闇を覗いてしまったー」だなんて思わない方がいいですよ。互いに必要以上の干渉が無ければ、大したことじゃあありませんしねっ……おじさ〜ん!団子もらっていいですか?2本お願いします」
「あ、ああ……はいよ。みたらし2本。」
「…………」
屋台に駆け寄って「お〜おいしそ〜」と2本のみたらし団子を購入した射命丸にハイエロファントは再び声を掛ける。
「僕は妖怪じゃあない。怖がられたままでいるのはさすがに嫌なんだ」
「ええ。ですから、今回はあなたへの
「!」
「ねえ、おじさん? この方、怖いですか?」
「え……いや……その……」
会話をわずかながら聞いてしまっていた団子屋の店主は、つい答えに困ってしまう。射命丸は店のカウンターに手をつくと、ズイッと店主に近寄った。
「おじさん。この方は妖怪じゃあないんですよ。以前に彼があなた方に何かしましたか?この前の私の記事、読みましたか?彼は"スタンド"という存在で、舌切り蟲の事件だって解決している。むしろ、皆さんの味方なんですよ。」
「…………」
店主は黙り込む。恐怖に申し訳なさが混ざったような瞳をハイエロファントに向け、「すまない」といったような感じで浅く頭を下げた。しかし態度からは深い反省が見られる。それを見た射命丸は、自分たちの背後にいる人々に顔を向けると、彼ら全員が目を逸らしていた。
「……大丈夫ですよ。ハイエロファントさん。時間を掛けながら、ゆっくり馴染んでいけばいいんです」
「ああ。そうだね」
ハイエロファントには、今の射命丸が非常に心強かった。普段の若干へりくだり気味の態度からはあまり想像できない堂々とした、威厳すら漂っている。これが、幻想郷内でかなり力を持った部類である、天狗か。
「あっ、そーだ。おじさん。今日、この辺りで
「……彼女か……今日は見てないね。いつもの花屋にでも行ってるんじゃあないかい?」
「花屋?」
「ええ。今我々がいるこの大通りをずーーっと真っ直ぐ行けば右手側にあります。行ってみましょうか。ありがとうございます。おじさん」
「ああ。緑色の君、その……悪かったね」
「いえ、僕も誤解が解けたようで何よりです。
そう言ってハイエロファントは射命丸と共に人里の奥へと進んでいった。
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人里の花屋。
「ねえ、ちょっと。店主さん? そこの朱色のダリアの配置なんだけど……どういうつもりなのかしら?」
ズイッと威圧を含んだ声と共に穏やかそうな中年男性ににじり寄る。
「……どっ、どういうつもりって……何か悪かったので……?」
怯える男の質問を聞き、女性は懐中時計をパカッと開く。時刻を確認すると、店主の顔へ向き直ることなく言葉を続ける。
「今、午後2時34分。太陽が沈み始めているわ。こんな位置に花を置いていたら、午後4時には影が伸びて日が当たらなくなるじゃない。日光は花にとってこれ以上ないまでに大切なものなのよ。花屋なのに、そんなことにも注意を払えないのかしら?」
「そ、それはぁ……」
「動かすのよ。今すぐ!」
「は、はいィィ!」
怒気を込めて放った言葉で店主が大慌てで花を動かし出した。若干道に飛び出してしまっているが、新たに台を置き、元の位置よりも南側にダリアを配置した。
「こ、これでよろしいですかッ!?」
「ん〜〜。良し…………良かったわねぇ。よく日の当たる場所に出してもらえて」
女性は位置を変えられた花に近づいてしゃがむと、親しき友人か、小さい息子か娘に接するように話しかけた。先程店主に見せた威圧の込められた表情とは打って変わり、温かみのある和やかな笑顔だ。ダリアの方も、決して物言わぬ植物のはずが彼女の声に呼応するようにして太陽光を反射して眩しく輝いている。
「あ〜。いましたねっ。彼女が目的の人物ですよ」
「あの人がか……」
緑髪の女性が花を愛でている中、そこに近づく2つの影。射命丸とハイエロファントは女性へ歩いていく。射命丸は「ようやく会えた」といった感じで少し笑みを
「こんにちは〜。幽香さん。今日もお綺麗ですねぇ」
「……あなたたちは……新聞の鴉天狗に……あー。思い出した。たしか"すたんど"とかいう…」
「ハイエロファントグリーンです。」
「そう。そんな名前だった気がするわ……それで、何かご用? 冷やかしに来ただけなら返り討ちにでもするけど?」
「物騒なことを……」とハイエロファントは彼女の言葉に反応した。幽香の腕に掛かっている日傘は彼女自身の闘気を表しているのか、不思議なリズムでユラユラと揺れている。
「風見幽香さん。単刀直入にお聞きしますが……今夏、起こっているこの花の異変! 犯人はあなた……でよろしいのでしょうか?」
「………………」
沈黙の時が流れる。射命丸もハイエロファントもちょっぴりドキドキしている。2人共、
「いいえ。私は関係ないわ」
花の異変の犯人は幽香ではなかった……?
明かされる花々の秘密。異変への鍵を握るのは?
次話、ついに第1部《Drifted Stardust》完結!
次回もお楽しみに!
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
-
東方をよく知っている
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ジョジョをよく知っている
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東方もジョジョもよく知っている
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どちらもよく知らない