幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》 作:右利き
「う……ん…………」
倒れていた慧音は意識を取り戻す。力の入らない腕をなんとか動かして、体を起こした。周りを見てみれば、いくつかの建物が倒壊し、地面は複数箇所抉られ、激しい戦いの跡が彼女の目に入る。
「そ、そうだ……私はたしか、何者かに気絶させられて…………それで……」
そう呟くと、近くに誰かが倒れているのを見つける。
青と白のカラーリング、S・フィンガーズだ。
彼の胴体には穴が空いており、そこからおびただしい量の血液が流れ出ていた。
「ス、スティッキィ・フィンガーズ!」
慧音は急いでS・フィンガーズの元へ駆け寄り、彼の体を揺さぶって起こそうとする。凄まじい負傷であるが、まだ消滅が始まっていないということは、彼はただ気絶しているだけ。助かる見込みはある。
だが、そこでふと、慧音は何者かに見つめられているような感覚を覚えた。「敵か?」と警戒しながら辺りへ目をやると、
「キラー……クイーン……お前も来ていたのか。いや、待て。お前のその傷……!」
「……起きて早々、忙しいものだな……慧音。良かったじゃあないか。スティッキィ・フィンガーズが無事で……今は見当たらないが、
キラークイーンだ。体が半壊し、壁に力無くもたれかかっている。それに心なしか、彼の体から砂か灰のようなものが飛散しているようにも見えた。
慧音はS・フィンガーズも気にしつつ、キラークイーンの方へ歩み寄る。嫌な予感がした。S・フィンガーズも心配だが、それ以上にキラークイーンの方が、今この場から消え去ってしまいそうな、そんな予感がしたのだ。
そんな慧音を、キラークイーンは瞬き一つせずに見つめ続ける。
「キラークイーン……そ、その負傷は……どうして治らないんだ? スタンドは回復するんだろう? ハイエロファントは両脚が吹っ飛んでも、五体満足となった……!」
「……既に察しているだろう。私は……もう消える。私に残されていた最後の能力『バイツァ・ダスト』は、本当に本当の切り札になってしまった……」
「冗談だろうッ……!?」
「ディスクを奪われた時からだ。傷が治らないのは。能力を2つ失った私は完全な私ではないからか、あるいはディスクを奪うという能力に我々スタンドの再生を阻害する性質があったのか……それは分からないが、とにかく私はもう……終わる…………」
キラークイーンが呟く度、ひび割れた彼の体から灰が飛び、宙へと溶けて消える。言葉終わると、それと同時に左脚が完全に砕けて崩壊した。
諦めたのか受け入れたのか、静かに語るキラークイーン。しかし、反対に慧音は、敵を追い払おうとする猛犬のように吠える。
「諦めるな、キラークイーン! スタンドは精神の、心のエネルギーからできているんだろう!? お前が諦めなければ、まだ生きられるはずだ! 奪われたディスクは私が取り戻す。お前はここで耐えるんだ」
「無駄さ。消滅は既に始まっているんだ。君がディスクを取りに行く間に、私の体は完全に崩壊する。もう遅い」
「そんな……」
慧音の顔はさらに曇る。何か手があるはずだと思っても、何よりキラークイーン本人が打つ手などもはや無い、と否定する。
だが、慧音は確かに聞き取った。キラークイーンは既に回復を諦めているが、彼の声は震えていたということを。
「……泣いているのか? キラークイーン……」
「…………」
「怖いんだろう? 死ぬのが」
「…………」
キラークイーンは慧音から視線を外し、通りの反対側の家屋へ目を移す。
泣いているわけではない。涙は一滴も流れていないし、瞳は少しも潤んでいない。ただ、怖いというのはその通りだった。
二度目の死。こんなにも呆気なく訪れるものだとは、微塵も予想していなかった。しかも今度は、完全に消滅する。幻想郷か、あるいは地獄のように辿り着く場所は無いのだ。自分の意思、能力、姿。全て消えて果てる。
怖くないわけがない。だからこその、彼の生への執着だった。
「もう……何も感じない。痛みも、冬の寒さもな…………正直に言わせてもらおう。慧音、君の言う通り……死ぬのは怖い。だが、怖いのは痛みが原因じゃあないんだ……」
「…………」
「私の能力…………どうして爆弾の能力だと思う? 目立つのは嫌だ。しかし、負け続けるのも見下されるのもごめんだ。その一見矛盾した意志の狭間で、この能力は生まれた。証拠は全て跡形も無く消し去り、目立たないようにするには派手過ぎる。吉影はきっと、見てほしかったんだろう……自分の存在を…………」
吉良吉影が目立ちたくなかったのは、目立つという行為は思わぬアクシデントを呼び寄せるからだ。自身の欲求の発散たる殺人が人目につけば、自分の生活が
一方で、トラブルが起きないのであれば、おそらく彼は目立つことを気にしないだろう。いや、それには少し語弊がある。『バイツァ・ダスト』を身につけた時、彼は憚ることなく早人に概要を教えてしまった。『バイツァ・ダスト』の能力は、自身の情報が漏らされて初めて発動する。
なぜ。自身の所業を知られたくないのなら、どうして漏らされる以前に発動できないのか?
きっと、そういうことなのだろう。
キラークイーンは……『バイツァ・ダスト』は、矛盾の中で生まれた能力だ。
「生きることは極めて困難だった……ましてや、トラブルの無い生活を送るのは……
「なんだって?」
キラークイーンは無理矢理体を起こし、慧音を見る。
彼女の背後には倒れたS・フィンガーズを介抱する、水を得て完全な姿を取り戻したF・Fも見える。彼女もキラークイーンと、慧音をじっと見つめていた。
「私の本体の名前は吉良吉影。生前、48人の手の綺麗な女性を殺害した。始末したその他の邪魔者を含めればもっと…………そして、私はこの人里でも殺人を犯している。半年に満たないこの期間で、17人の女性を爆殺した……」
「な、なんだとッ…………!?」
「全員、吹っ飛んでいったよ。私はスタンドなので、死んだ連中がどうなるかもよく観察できた……絶叫しながら、魂すらも崩れていったさ…………」
静かに、しかしとても楽しそうにキラークイーンは語る。
そんな彼の言葉は、この場の雰囲気を完全に壊すのに十分だった。十分すぎたと言えよう。慧音の、キラークイーンに対する感情は完全に逆転したのだから。
だが、慧音はその心の内を明かすことはなかった。心の中に閉ざし、彼女はゆっくり口を開く。
「そうか」
「……思っていた反応と違って、驚いたよ……君なら激昂するかと思ったんだがな」
「怒ってはいるさ。どうしようもないほど。だが、この場でお前を攻撃しても何も変わらない。断罪することも、お前に罪を償わせることもできないからな……」
「…………成長したものだな。スティッキィ・フィンガーズの影響か? 会ってばかりの頃は、感情的過ぎて苦手だった……」
キラークイーンはそう言いかけ、慧音の右手に目を落とす。拳を握っていた。長めの爪が手の平に食い込んで、少量の血が流れている。
感情的なのは、どうやらあまり変わっていないらしい。表に出しづらくなっただけのようだ。
慧音はキラークイーンを許しはしない。永遠に、彼を悪人と言い続けるだろう。罪の無い者を、自分のために殺し続けた殺人鬼だと。
だが、変わらない真実というものもある。慧音は知っている。キラークイーンが、数回に渡ってこの人里を救ったことを。『自分のために』の延長線上だとしても、守られた命も確かに存在している。
キラークイーンの体は尚も崩壊を続け、下半身はもう消えてしまった。残るは胴体、右腕、顔の右半分だけ。ものの数秒でキラークイーンは消滅する。それまでに、慧音は何としてでも伝えたいことがあった。
「キラークイーン」
「…………何かね」
「ありがとう。守ってくれて」
「………………」
「今度は、良い人間になるんだぞ。お前なら、お前たちならきっとなるはずだ。誰かの命や心を救える、そんな正義の人間に」
キラークイーンは何も答えなかった。
慧音が言い終わると同時に、彼の胴体に亀裂が走り、砕け散った。その破片は全て塵になり、空を舞う。風に吹かれ、はるか遠くの空の果てへ消えていく。
星になるだろうか。キラークイーンのいた場所には、しゃぼん玉が浮かんでいた。表面には星型の模様のある、不思議なしゃぼん玉が一つ。浮かんで、弾けた。
ホワイトスネイク、消滅。
キラークイーン、消滅。
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「ククク。賢者はあくまで、傍観を貫くようだな」
「あ、ああ……!」
時を同じくして、霧の湖付近の上空にて。
ハイエロファントたちを地上に叩きつけ、魔理沙一人を残した
状況は絶望的。チャリオッツも、マジシャンズレッドも、あの霊夢でさえもやられた。自分一人で、目の前の敵に一体何ができようか。自分が身を置いているこの時空に、問い詰められているようであった。
「では、そろそろ終わらせるか。我が運命に現れた宿敵たちに、
「なっ、や、やめろォッ!」
「だがその前に……搾り取ってやるッ! 貴様の命を!」
「!!」
刹那、
ハイエロファントたちにトドメを刺しに行くと思い、ミニ八卦路を取り出していた魔理沙だったが、この突然の出来事に反応するのは難しかった。一瞬出遅れてしまった。
繰り出すのは拳か? あるいは脚か? 迎撃するか? それとも避けるか?
魔理沙の頭は最後の最後まで迷い続ける。
出るのは、脚だった。そして、その結論が出た時には
「ッ…………!!」
魔理沙は目を閉じた。目を閉じるという行為は、人間の取る一種の防衛反応。だが、この場においてのそれは命取り以外の何者でもない。今にも、魔理沙の命は刈り取られるだろう。
だが、魔理沙が目を閉じてから数秒が経過する。人間は死ぬ間際になって時間を遅く感じるという話があるが、それではない。実際に、蹴りが魔理沙に当たらなかったのだ。それを理解したのは、魔理沙が目前に迫った
「えッ!? な、何だって!?」
「な…………なにィィィーーーーッ!?」
ドボドボ ドボ
振り抜かれた
なぜそんなことが起こったのか。魔理沙だけでなく、
謎の現象に、その場で硬直する2人。先に動き出したのは魔理沙の方であった。彼女が先に理解したのだ。何が起こったのか。これをやった者は、
『感じているか? お前の
「ぬぅ!?」
「嘘だろ…………何でお前がここにいるんだよ……!」
『久しぶりだな。魔法使い。次に出逢ったら殺すつもりだったが、今お前にはこれっぽっちの興味も無い。死にたくなければ、潔くここから身を引くことだな』
「キ、キング・クリムゾン……!」
2人の前に姿を現したのは、なんとあのK・クリムゾンであった。
彼の右手には切断された
K・クリムゾンは
すると、次の瞬間に
「ホワイトスネイク……まさか、君が倒されるとはな…………その力が、私を『天国』に導くのに最も重要だった……」
「残念だったな。お前の友は既に敗れ、お前の夢ももうじき破れる。なぜなら、お前は私が殺すからだ。手を下すのは私でなくてはいけない…………
完全に蚊帳の外に放り出された魔理沙は、どうしてK・クリムゾンが
だが、実際は違う。表面上には決して出ない、深い関わりがある。
K・クリムゾンは確かに感じ取っていた。この目の前のスタンドは、自身を打ち破った『あの男』の血族のものだと。スタンドは、同じ黄金。だがそれ以上に、溢れ出る魂のエネルギーが酷似している。
己が絶頂に舞い戻るには、何としてでも乗り越えなくてはいけない。そんな気がしてならない。そうしなくてはいけないと、K・クリムゾンは感じ取っていた。
「フン……さっきの連中よりはできるようだな……」
「次は心臓だ。かつて見たあの予知のように、
「…………私に一体何を見ているのかは知らないが、そう簡単に上手くいくと思わないことだ……」
それと同時に、K・クリムゾンもまた、
「ほう……向かってくるのか…………逃げずにこの
「脅威ではあるが、
2人の距離はもはや一mほど。拳が届く位置である。
魔理沙は唾を飲む。これから、一体どうなってしまうのか? どちらが勝つというのか。紅魔館を、永遠亭を、たった一人で制圧した支配者たち。どちらが勝っても、残るのは絶望だけだ。
数秒の睨み合いの後、2人の拳は魔理沙の視界から一瞬にして消え去った。
ザ・ワールドとK・クリムゾン。最後に勝つのはどちらなのか。
次回、いよいよ第四部最終話。
to be continued⇒
あくまで参考までに、ということで。
-
東方をよく知っている
-
ジョジョをよく知っている
-
東方もジョジョもよく知っている
-
どちらもよく知らない