幽波紋の奇妙な幻想 《Drifted Destiny》   作:右利き

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 前部までのあらすじ
 幻想郷に襲来し、甚大な被害を生んだ世界(ザ・ワールド)とホワイトスネイク、およびその刺客たち。 
 戦いは終わったものの、彼らが遺した傷痕はあまりにも大きかった。崩れゆくスタンドと人里の人間の信頼関係。人里が分裂する可能性はゼロではない。
 そして、再び姿を隠したキング・クリムゾンも、不安要素の一つであった。


5.幻想潮流
90.音を奏でる者


オレはもう村には戻らない…………

 

旅へ出る

 

 

『黄金長方形の軌跡』で回転せよ!

 

 

『LESSON4』…………

 

敬意を払え

 

 

幸せになってほしい……

 

オレの祈りは…………それだけだ

 

 

____________________

 

 

 世界(ザ・ワールド)が敗れ、幻想郷が一時の落ち着きを取り戻してからおよそ2週間が経過した。

 ボロボロになった人里では復興作業が未だ続いており、多くの住人たちは里の中でも比較的被害の小さかった西部にて、仮設住宅での生活を余儀なくされている。

 その他幻想郷の名のある地域、紅魔館や命蓮寺、妖怪の山でも同様の作業が行われていた。

 彼のスタンドたちが現れ、猛威を振るった数日間は、幻想郷の住人たちの心にスタンドの恐ろしさを、そして各地に恐怖の爪痕を刻みつけるのに十分過ぎた。

 事実、力の無い人里の人間たち、その一部が自分たちに味方しているスタンドたちに対し「もし暴れ出したら」などという有りもしない妄想を(うそぶ)き始めている。

 だが、それはしょうがないことであろう。『妖怪』と『人間』の関係はひどく分かりやすく、そして揺らぎづらかった。妖怪は強く、人間は弱い。変わらない捕食者と被食者の2種。そこにそのどちらでもない『スタンド』が介入してきてしまえば、一方的だった関係は崩れ、混乱が起こる。今現在、まさにその状態なのである。

 しかし、それはあくまで人間の目に見える世界の話。人外たちからすれば、「ん? 新参者か」と、ただその程度のことでしかないのだ。

 

 

「そしたら、あの金ピカのヤツの前にいきなりたくさんのナイフを現れたのよ!」

 

「へー! それでそれで!?」

 

「今度は赤いアミアミの方が瞬間移動して、たっくさんのナイフを避けた! そして気付いたら……金ピカは逆に、自分のナイフを喰らって血を噴いてたわ!」

 

 時計の針が午後3時を回った頃のこと。

 霧の湖のほとりにて、数人の妖精たちがやや拙い説明で語られる世界(ザ・ワールド)とキング・クリムゾンの戦いの話に、興味津々に耳を傾けていた。

 話し手はというと……水色髪の氷精、チルノである。

 

「あいつら、いきなり現れたり消えたりしてたんだけどね。あたいが思うに、あいつらはそう! 『瞬間移動する程度』の能力をもってるわ! このあたいの目を以ってして()()()()()()から妥当ね!」

 

「いいな〜、私も見たかった!」

 

「さっすがチルノちゃん! 最強の妖精はやっぱり違うね!」

 

 語彙力が無いわけではないのだが、容貌通りというか種族通りというか、彼女らは内容に関しては幼い子どもたちがするような会話を楽しんでいた。

 ずいぶん呑気であるが、このように、スタンドたちがどれだけ暴れようとも妖精たちにはほとんど関係ないのだ。妖精は完全に死ぬことは余程無いのだが、その他妖怪は常に死臭漂う血塗れの世界に生きている。いつ死ぬか分からない世界に。そのため、どんなスタンドが現れようと、異変が起ころうと、そんなものは日常の一部の延長線に過ぎない。人間に比べれば、刺激的ではあるのだが。

 

「よし、決めた! あたいもスタンドと戦うわ! どっかに逃げた赤いアミアミのスタンドをぶちのめして、あたいの力を幻想郷中に知らしめてやるのよ!」

 

「おおーーっ!」

 

「きっと危ないよぉ、チルノちゃん」

 

「大丈夫だよ。だってチルノちゃんだよ?」

 

「そのとぉーり! このあたいこそ真の幻想郷の強者。天下無敵の氷の妖精。最強で、パーフェクトのチルノさま。負けることなぞ、億が一にも無いわ!」

 

 大きな鼻息を吐き、取り巻き達の拍手を浴びながらチルノはふんぞりかえる。

 「天下無敵の〜」というのは適切な表現ではないが、チルノは妖精たちの中では最強角であるのは間違い無い。彼女の氷結能力は目を見張るものであり、妖精の域に収まらず、そこらの妖怪よりも圧倒的に強いのは確かである。

 ただ、戦闘においてその能力にかなり依存しているという弱点があり、()()()()で攻めるのはかえって危機を誘発するだろう。負けることはないと言っているものの、もし本当にK・クリムゾンと戦うのであればそこを突かれないようにすべきなのは言うまでもない。

 

「……あれ? ねぇねぇ、あれ何だろう」

 

「どれどれ?」

 

 一人の妖精が湖の岸を指差して言うと、チルノを含め、他の妖精たちはその方角へ目を向ける。距離が離れている上、霧でよく見えないが、何かが動いているのが見えた。

 影は湖に腕か何かを突っ込み、小さく揺れている。一同が黙って耳をすますと、どうやら何かを洗っているらしいことが分かった。

 大きさも自分たちより少し大きいぐらい。妖精たちは、影の主が人間だと確信する。

 

「珍しいね。こんなとこに人間が来るなんて」

 

「おどかしちゃおうよ。イタズラ仕掛けてさ!」

 

「賛成! よぉーし、みんな。このチルノさまに続けぃ!」

 

 影の主にバレぬよう、チルノの掛け声にやや抑えめに「おおー!」と拳を掲げると、妖精たちは湖と挟み討ちにするため森の中へと迂回して行った。

 

 

____________________

 

 

「見て、やっぱり人間だよ」

 

「でも、見たことない変な服着てるよ? 頭の後ろから羽みたいなのも生えてるし……」

 

 謎の影の背後まで回ってきた妖精たちは、木の陰に隠れて彼の者の様子を(うかが)っていた。

 妖精の一人が言ったように、その者は彼女らが見たことのない珍妙な服を身に纏っていた。和服ではない。幅が広く裾の長い()()()()()()()()。明らかにこの霧の湖周辺には相応しくない。

 極めつけは後頭部から伸びている鳥の羽のようなもの。実際に後頭部から生えているというより、飾りとして身につけているように見える。

 ジャボジャボと水の音を立てているため、その者が何かを洗っているという推測は間違っていないだろう。しかし、分かるのはそれだけだった。

 

「誰が最初に出てく?」

 

「私3番目〜〜」

 

「じゃああたいが()()()()()()()()()

 

 仕掛け人第一号としてチルノが立候補する。他の取り巻き達はそのことに特に何を言うでもなく、了承の頷きを「うんうん」と繰り返した。

 チルノが最初に出て行ってしまえば、相手が凍って即終了。そして後の出番が無くなると思われるが、取り巻き達は別に気にしていないだろう。寺子屋に通ってもいないため、「先手を切る」という言葉が間違ってると思えないぐらいの学力しかない。仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。

 

「チルノちゃん、がんばって!」

 

「うん!」

(よぉ〜〜し! 張り切っちゃうもんね!)

 

 イタズラ相手に聴こえないように小さい声でやり取りを交わすと、チルノはいよいよ木の陰から身を出した。『氷結』の力を手の中に込め、風を切る音すら出ないよう数センチだけ宙に浮き、ゆっくり、ゆっくりと近付いて行く。

 

 

「……何か用か?」

 

 

『!!』

 

 気配は完全に消していた。そのはずだった。

 まだチルノが近付き始めてから10秒程度しか経過していない。だというのに、妖精たちに背を向ける者は確かに彼女らに向けて声を掛けてきた。

 チルノたちが妖精だということや、今まさにイタズラを仕掛けようとしていることはバレているのか。それは分からない。だが、その声には警戒の色は無く、落ち着いたものであった。

 ()はチルノの方へ振り返らず、尚も何かを水で洗い続けている。

 

(バ、バレちゃった!? ど……どうしよう。こっちも声掛けた方がいいのか……? それとも知らんぷりした方がいい……?)

 

「……さっきから全部聴こえてる。耳はいい方だからな……()()()

 

「えっ!? あ、あたいの名前をっ……! もしかして、今からあたいがやろうとしてること、全部バレてんの!?」

 

 彼は振り返らず、チルノたちの会話は全て丸聞こえだったことを明らかにした。その証拠として、チルノの名前を呼んだのだ。

 全部筒抜けだったことに驚き、後ろに控えている妖精たちもザワつき始める。撤退すべきか否か。取り巻き達は今にも逃げ出してしまいそうであった。

 だが、チルノは違う。目の前の男が只者でないことは確かであるが、消していた気配を感じ取れる程度ではチルノは止まらない。一度イタズラをすると決めたなら、必ず仕掛けて終わるのだ。

 

「そんなに俺にかまってほしいのか? お前たちからは俺は暇そうに見えるかもしれないが、生憎そうでもない。イタズラを仕掛けるのなら他を当たれ」

 

「ふん! あたいはあなたにイタズラしたいからわざわざ来てやったのよ! 最強のあたいの力、思い知るがいいわ!」

 

 チルノのやる気は後ろの妖精達のを遥かに上回っており、何としてでもイタズラを遂行せんとしている。

 いくら自分たちより強いとは言え、取り巻き達もチルノ一人を置いて撤退することはできない。彼女と彼の者のやり取りを黙って見ているしかないのだ。

 チルノは妖力を手の中に込め始める。

 氷結の能力を使い、目の前の男をカチンコチンに凍らせてやる。非常にシンプルで命まで奪いかねない行為だが、チルノの中にはそれを自制する心はもはや残ってはいなかった。

 

「体の芯まで凍っちゃえぇーーーーっ!!」

 

「……!」

 

 

ゴォォオオオッ!

 

 

 チルノが妖力を解放すると、彼女の周りから突如猛烈な吹雪が発生。規模は小さいが威力は絶大であり、その吹雪が触れた周囲の木々をたちまち氷が覆っていく。

 彼の者はチルノの吹雪を避けようともせず、おそらく無防備な状態で受けてしまった。

 吹雪に呑み込まれる一瞬、チルノたちの方へ振り向いたような気もしたが、真っ白な雪と風の壁に視界を遮られていたためにハッキリとは分からない。

 完全にやってやったと確信したチルノはひどく上機嫌であった。

 

「はーはっはっは! どうだ、あたいのパワーは! あたいこそが最強の妖精よ」

 

 吹雪が解除されると、チルノの目の前に氷でできた大きな壁が露わになる。周りにも雪が積もり、植物はショーケースに入れられたように氷に閉じ込められていた。

 魑魅魍魎蔓延る幻想郷の冬でも、どこを探してもこの光景には巡り会えないだろう。チルノの能力が自然現象を凌駕することを知らしめるには十分すぎる成果だ。

 自分たちの気配は察知されてしまったものの、見事(やりすぎな)イタズラをやってのけたチルノに対して、後ろにいた妖精たちは次第に拍手を送り始める。彼の者は完全に動きを封じられたと確信して。

 

「大口を叩けるほどはある。確かに、強力な能力だ……」

 

『え!?』

 

 妖精たちの勝利ムード(イタズラをしただけだが)は、たちまち消え失せることとなった。凍らせて身動きが取れないはずの、あの男の声が聴こえてきたのだ。

 声を掛けられると同時にビクッと体を震わせ、チルノは氷の壁の方へ振り返る。

 すると、壁から流れる冷気の中で黒いシルエットが揺れるのが見えた。そしてシルエットから一本、腕が伸びてきて氷の壁に掌を当てる。

 妖精たちはその光景を目にし、あることに気がついた。

 あの者は人間ではない、と。

 伸ばされた腕は人間のものではなく、鉄か何かでできた人形のように無機質だった。それが顕著に表れていたのは、上腕から肘にかけての部位。まるで球体関節人形そのもの。

 だが、真に極めつけるのは、冷気のカーテンから完全に露出したその姿である。

 

「間一髪……ギリギリで防いでやった。動く手が水の中で立てる『音』でな……」

 

「ええ!? に、人間じゃあ……ない!?」

 

『うわああぁぁーーーーッ! 妖怪だァーー!』

 

 チルノの取り巻き達は悲鳴を上げ、チルノを置いて一目散に森の中へと逃げていってしまった。

 彼女らに「妖怪だ」と言わしめた彼の者の真の姿とは、まさに人間を逸脱したもの。胸の辺りにいくつかの花の飾りがあり、後頭部には後ろから見えていた羽飾りがある。四肢に関しては先程述べたように、人形のような球体関節で動かせるようになっているよう。

 そして、その顔面は干からびたミイラのようであった。

 全く生物には見えない。かと言って、命無き物品に命が宿る付喪神(つくもがみ)、いや妖怪ですらない。そもそもこの者からは妖力など微塵も感じられなかったので、妖精たちは人間だと勘違いしたのだ。

 その場に一人取り残されたチルノだけが、その事実に気がついた。

 

「あ、あんた! 妖怪でも人間でもない!」

 

「……妖怪というものが、さっきまで私に襲いかかってきた生物のことだというのなら、そういうことになるな」

 

 アメリカの砂漠に住むインディアンのようなその者は、いつの間にか刃渡り30cmほどの短刀を手に持っていた。先程まで湖のほとりで洗っていたのは、どうやらこれのようである。

 というのも、彼がそう言ったように、彼は幻想郷にやって来てからというもの摩訶不思議な獣たちに命を狙われ続けてきた。

 その理由としては、やはり餌。とても美味しそうには見えない彼だが、腹を空かせた妖怪たちからすれば見た目の問題など二の次三の次である。

 だが、知性を持ち合わせていない低級の妖怪たちは、()()()を理解できていなかった。

 彼が持っている短刀はそこいらで拾ったもので、これを使って襲って来た妖怪たちを殺すのに使っていた。そして今の今まで、湖で妖怪たちの返り血を洗い落としていたのだった。

 

「もしかしてあんた……スタンドか? そんな妖怪みたいな姿して妖力が無いなんて考えられないわ。人間でもないなら、そうとしか思えない!」

 

「名は『イン・ア・サイレント・ウェイ』。スタンド能力への知識があるのか? 見たところ、お前はスタンドでもスタンド使いでもなさそうだが……珍しいものだな」

 

 「スタンド使いでもない」。

 スタンド、サイレント・ウェイがそう思った理由とは、彼が目にしたチルノの姿にある。特殊な能力をもち、ただの人間にはない特殊な羽のような器官をもつその姿に。

 そして、そんなものがさらに何匹かいた。スタンド能力を発現させた人間ではないのは確か。チルノたちは()()()()()()なのだろう、サイレント・ウェイはそう考えたのだ。

 

「だが、ちょうどいい。俺はお前に用ができた。ようやく喋れるやつに会えたからな。お前にいくつか質問したいことがある」

 

「質問? スタンドのあんたがあたいに何を訊きたいのさ」

 

「俺は気付いたらこの森にいた。ジョニィ・ジョースターに敗れ、死んだと思ったらだ。本体もいなくなっている。ここはどこだ? 俺だけがここに来た、その理由も知りたい」

 

 サイレント・ウェイの本体、サンドマン(本当の名前は音を奏でる者(サウンドマン))は1890年にアメリカで開かれた大陸横断レース、スティール・ボール・ランレースの参加者である。

 基本的に馬に乗って参加する者が多い中、彼は鍛え上げられた己の脚だけで大陸横断を目指していた。

 そんな中、このレースの裏では()()()()の争奪戦が行われており、サンドマンも『白人に奪われた自民族の土地を金で奪い返す』という目的のため、争奪戦へと身を投じる。

 ディエゴ・ブランドーやヴァレンタイン大統領と手を組むも、ミシシッピー川でのジョニィ・ジョースターとの戦いに彼は敗れてしまう。そして、命を落とした彼のスタンド、イン・ア・サイレント・ウェイが幻想郷に流れ着いたのだ。

 とどのつまり、死亡してしまい何者の記憶にも残らなかったために幻想入りしたということ。

 だが、チルノも幻想郷の仕組み全てを知っているわけではない。サイレント・ウェイの事情もだ。チルノでは、サイレント・ウェイから受けた質問の答えを出すことができなかった。

 

「ここは『幻想郷』だけど……あんたが来た理由なんて知らないよ! 外の世界の連中に忘れられたとか、()()()()()()()()あり得るかもね。あたいも詳しくは知らないよ」

 

「……『呼ばれる』? 誰にだ」

 

「だから知らないってば! どーせ『賢者』って言われる大妖怪とかじゃあないかしら? もしかして元の世界に帰りたいの?」

 

「帰れるのか?」

 

 サイレント・ウェイの声に微かに希望が宿る。

 本体はいないが、もし元の世界に帰れるのならそれに越したことはない。サンドマンは元々、土地と仲間のためにレースに参加した身だ。

 死んでから幻想郷で目を覚ますまでの体感時間はほんの数時間。元の世界、場所に戻れたなら、またレースに復帰できるだろう。いや、無理矢理にでもそうするつもりだ。それがサンドマンから()()()()()だから。

 湧き出てきた希望を胸に、サイレント・ウェイはチルノに元の世界に帰る方法を問うた。

 

「どうすれば元の世界に帰れる? なるべく早い方がいい。急いでいるんだ」

 

「えーっとねぇ……博麗神社ってとこに行って、霊夢ってやつに会えば帰れるらしいぞ。神社は()()()! ここを真っ直ぐ進めば着くわ」

 

「そうか……助かる。大した礼ができなくてすまないな」

 

「え? へ、へへーー。いいってことよ! あたいは『さいきょー』だから、器も大きいのよ!」

 

 サイレント・ウェイの礼を聞き、ひどく上機嫌になったチルノ。『さいきょー』という自負の下、誰かに頼られたり持ち上げられたりすることはやはり好きなのだ。いくら強い妖精でも、そういった子どものような部分は他と変わりない。

 サイレント・ウェイは短く礼を言うと、チルノが指差した北西の方向へと走り出した。

 砂漠のインディアンたるサンドマンが用いた、馬と同等のスピードで走れる独特の走行フォーム。地面に着いた脚にかかる負担を大地へ逃し、本来疲労となるエネルギーも加速に使う。

 時速30キロメートルをゆうに超える走りで、サイレント・ウェイは結界の管理者の住まう博麗神社を目指すのだった。

 

「ああっ! そういやあいつ、スタンドだったじゃん! 勝負するんだったァーーッ!」

 

 

____________________

 

 

「この先か……」

 

 出発してからおよそ10分。チルノに言われたままに進み、サイレント・ウェイは山と言うには少し小さい高地の石階段を登っていた。 聞いた話によれば、この上にこそ博麗神社がある。

 道中、また何匹かの妖怪が襲いかかって来たものの、いちいち相手をする余裕が無かったために彼は走りで張り切っていた。

 インディアンは大地の恵みに感謝する。厳しい自然の中で生活する彼らこそ、真に自然の恩恵を受けられる。彼の走法も、その中で培ったものである。

 だが、現在サイレント・ウェイは石階段を走ってはいない。というのも、この高地に近付いたところで、急に妖怪たちが襲って来なくなったのだ。

 あまりにも不自然に感じたサイレント・ウェイは、警戒しながら普通の歩行スピードで歩を進めている。『霊夢』とやら、一体どういう人物なのか。表情に出ることはないが、彼が徐々に緊張し始めているのは確かだった。

 

「む……頂上か」

 

 赤い鳥居が目先に現れ、長く続いた階段も終わり。

 ようやく階段を登り切ったサイレント・ウェイは、境内に足を踏み入れる。境内の石畳も、これまでの石階段と同じように特に変な部分は感じられないものだった。

 サイレント・ウェイの視界の最奥には、彼と彼の本体が今まで見たことのない木造建築が建っている。きっとこれが博麗神社だろう、と彼は推測した。

 そして神社の手前では、赤い服とリボンを身につけた少女が箒で落ち葉を掃いているのが見える。

 そして、サイレント・ウェイが彼女を視界に収めるのとほぼ同じタイミングで、少女は箒を使う手を止めて振り返った。

 

「うん? 誰? 参拝客……のようには見えないけど」

 

「……『霊夢』という者を探している。お前のことか?」

 

「初対面なのにお前呼ばわりなんて、失礼なやつ。ええ、そーよ。私が霊夢。博麗霊夢よ。はじめまして、スタンドさん」

 

「……!」

 

 サイレント・ウェイは驚いた。チルノだけでなく、まさか博麗霊夢もスタンドへの知識があるとは。

 表情に出ていたのだろうか。霊夢はサイレント・ウェイが黙ってしまうと、「ああ、驚いてる驚いてる」と彼の心境を当て、嫌な感じに笑った。

 

「ここ最近増えてるからねーー。スタンド。この前もデカい問題起こして、ひどい目に遭ったのよ。これ、その時のケガね」

 

 そう言い、霊夢は布で吊った右腕をサイレント・ウェイへ見せる。

 どうやら骨折しているらしい。吊っている布に包まれている腕は包帯でぐるぐる巻きになっていた。

 これは先日の世界(ザ・ワールド)戦での負傷である。

 『夢想転生』によって彼を追い詰めたものの、時間切れを起こして形成が逆転。フルパワーの蹴りをモロにもらい、地面に激突してしまった。腕の骨折は蹴りを受ける際、ガードに使っていたのだ。

 その時のことを思い出し、「やれやれ」と笑いながら振り返る霊夢だが、サイレント・ウェイにとっては正直どうでもよいこと。

 霊夢が見せてきた腕にほんの一、二秒だけ注目した後、彼はいよいよ本題を切り出した。

 

「博麗霊夢。お前に頼みたいことがある。ここに来るまでに出会ったチルノというやつに教えてもらったことだ。俺を元の世界に帰してほしい」

 

「チルノに? まあ、でも……そう。そんなことだろうと思った」

 

「できるなら、今すぐにでも帰してほしい。俺にはやり遺したことがある」

 

「ふーーん。でも、私にはどうもできないわ。あなたは外の世界へは戻せない」

 

「そのケガのせいか?」

 

「いいえ。ただ、あなたは帰せないのよ」

 

 不測の事態だった。

 チルノからは確かに、霊夢であれば外の世界へ帰してくれると言っていた。サイレント・ウェイはそれを信じて、ここまでやって来たのだ。

 「帰せない」など、一体どうしてだというのか。

 帰す能力が無いという言い方ではない。スタンドであるサイレント・ウェイに限った話をしているような、そんな口ぶりだった。

 

「私が元の世界へ帰せるのは、あくまで迷い込んだ人間だけ。幻想郷に、()()()()()()()()()招かれた者は帰せない。分かる?」

 

「分からない。納得できるだけの説明がほしい。なぜ帰せない?」

 

「私にもスタンドの知り合いがいるのよ。そいつらこぞって、みんな死んでやって来た。外の世界に居場所が無いから、だから幻想郷は彼らをここへ呼んだ。そして、()()()()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

「図星」

 

 サイレント・ウェイは本体の死によって幻想郷へ来た。霊夢が言った通りだ。そして、霊夢が言っていることも何となくだが、サイレント・ウェイは理解してきていた。

 何らかの偶然でこの地に侵入してしまった者は、霊夢は外へ戻すと言う。だが、そうでなくては帰すわけにはいかないらしい。

 霊夢は願いを叶える流れ星のような存在ではない。あくまでも、この隔絶された小さな世界の法則を守る調停者。予定外の者は弾き出し、予定通りに行くように調整を行う。それが仕事だ。

 霊夢曰く幻想郷に招かれたというサイレント・ウェイを弾き出すのは、幻想郷のルールに反するということ。彼は死ぬまで、幻想郷からは出られないと彼女は告げた。

 

「ま、スタンドは死んだら完全に消えちゃうらしいからね。本当の意味で、ここが終着点なのよ」

 

「……そうか。覚悟は、していた」

 

「そうなの? ダメ元で来たの?」

 

「後悔はしていない。砂漠の砂一粒ほども…………だが、もし叶うなら帰ってみたかった。本体の、姉の元に。皆の元に。それは嘘ではない、本当の心だ……」

 

「…………」

 

 サンドマンは故郷のため、スティール・ボール・ランレースという旅に出た。

 彼はもう、村へは戻らないつもりでいた。だが、サイレント・ウェイはできることなら帰りたいと思ってもいた。故郷へ一人残した、姉がいるから。

 旅人には帰る場所が必要だ。ベッドの上で死ねるだなんて思っていない。旅に出たなら帰る場所が……それが心のよすがになる。旅に出た自分を後押しする、帰る場所に。

 サンドマンは、だからこそ戦えた。

 

「ねえ、あんた。名前は?」

 

「イン・ア・サイレント・ウェイ」

 

「長いわね」

 

「サイレント・ウェイでいい」

 

「もう夕方になる。サイレント・ウェイ、うちに泊めてあげるわ。おっと、タダじゃあないわよ。色々手伝いとかしてもらうから。一緒に暮らすんだもの。当然よね」

 

 霊夢はそう言うと、身を翻して神社の中へと入っていった。サイレント・ウェイも、特に何も言うことなく彼女に着いていく。

 負傷した時から、いや、前々から手伝いをさせられるスタンドがほしいとは思っていた。だが、これは霊夢なりの気の遣い方である。

 悪いやつではなさそうだ。そんな勘だけが頼りだったと言えばその通りだが、ハイエロファントやチャリオッツ、彼らと出会って柔らかくなったのも間違いではないだろう。

 スタンドと人間、あるいは妖怪との絆は綻んでいくだけではない。未だ確かに、出来つつあるのだ。




 キリがいいので、ここでスタンドについて改めて説明を。

幻想入りしたスタンドの性質(ルール)
・スタンドは本体が死亡した際、その魂の一欠片を核として幻想入りし、生成されるスタンドエネルギーによって姿を保っている(例外あり)。
・本体が存在しないため、ビジョンとしての射程距離、持続時間は無制限である。
・スタンドは内蔵する魂が小さいため、あまりに大きなダメージを受けると魂が壊れてしまう。それによってスタンドエネルギーが生成できなくなると、スタンドは消滅する。地獄や冥界には行けない。
・スタンドエネルギーのうち、能力を使用する際や身体能力を上げる際に消費するものをスタンドパワーと言い、こちらは尽きても命に別状は無い。
・生物でも、厳密には亡霊でもないため、3大欲求は基本的には存在しない。しかし、食べ物の味は感じるし、眠ることもできる。本体が本体なら異性に興味をもつこともある。
・スタンドは意志の存在。生きる意思があるのなら、大きな負傷も数日で完治する。


to be continued⇒

あくまで参考までに、ということで。

  • 東方をよく知っている
  • ジョジョをよく知っている
  • 東方もジョジョもよく知っている
  • どちらもよく知らない
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