あれは確かむせかえるほど臭いのする焼き肉屋の帰りだった。友人たち4人と来ていて、帰り道が同じだった1人の友といっしょにコンビニに入った。
給料日で持ち合わせもあったのでそいつにカフェオレをおごり、私もはまっていた紅茶ラテを買おうとしていた。
他に何か欲しいのはあるか、と聞くと特にないと返ってくるので小学生のころの記憶を思い出しアイスはいらないのか?と聞くと背中を小突かれた。彼女は幼いころ、アイスで色々と派手なことをしてそれっきりアイスを食べなくなった。謝りつつ視線をふと、アイスが入ってる冷凍ボックスのほうに視線を寄せると『みぞれ』というパッケージが赤いアイスが目に入った。
その存在感に意表を突かれたような、思考がフリーズする。私も氷菓子にはそれほどいい思い出がなかった。彼女と同じ時くらいに私は祖父を亡くしている。その時、その『みぞれ』というそれが妙に記憶に残っている。
すい臓がんで祖父が床に伏しているとき、見舞いに母と弟と私で病院に向かった。行きに、祖父になにか買っていけば喜ぶのではないかと私が提案し、コンビニで彼が好んでいた赤いそれを買ってもらった。
幼い私は祖父がどのような状況にあるか分かっていなかった。だからこんな提案もできたのだろう。母も私と弟を気遣ってか、あまり話さなかった。
母も、人を気遣えるほど余裕がなかったはずなのに。
祖父の病室に行くと、横たわっている姿がまず目に入った。次に、どこからか管が繋がっており、透明の頑丈そうな袋に小便が溜まっているのが見えた。
祖父に話しかけても、返事はなかった。ただ横たわり、意識があるのか手を握ると、握り返してくれた。
それが私には到底、生きていると思えなかった。医者に怒られて尚カップラーメンを食し、酒を飲んだ彼とは思えなかったのだ。
母が祖父に話しかけ、口元に耳を寄せてから、このみぞれは食べて良い、と言ってきた。私は手がそれに手が伸びなかった。しかし、母の目を見て、それを食した。
そこで初めて、私が知っている祖父はもういないのだと理解した。そのみぞれを食らい、涙が出そうだったのを必死に抑えていた。母が泣いてないなら私も泣いていいはずがないと思ったのだ。
弟にも食べさせた。まだ幼かった弟も幼いなりに何かを理解したのか黙々と食べていた。
そこからはあまり覚えていない。祖父と握手を交わしあって、その病室を後にした記憶があるのでそこからは普通に帰ったのだろう。
それをじっと見つめていた私に気づいたのか、もう一度背中を小突いてきた。それで思考が戻ってきたのかようやく冷静になれた。彼女がカゴにそのみぞれを入れ、急かすようにレジに押し出した。
レジを済ませ、コンビニを出る。コンビニ前の駐車場の隅でその友人にさっきのことを話した。
私がぽろぽろと話を進め、彼女はみぞれを食べながら時折うなずくように声を上げる。シャリシャリと氷を食む音があの時のことを呼び起こしているように聞こえた。
おおよそ話し切ったところで、彼女が掬われたみぞれがあるスプーンを私の口に入れてきた。口の中で溶けた赤いそれはあの時の味そのままで、スプーンを口に入れたまま彼女は言った。
「忘れたくないならとっとけ」
そのままスプーンをみぞれと共に渡してくる。じゃあね、と一言いって彼女は一人帰路を走っていった。彼女があまりこういった話が得意ではないのになぜ話してしまったのか、後悔に苛まれながら渡されたみぞれを覗く。
ドロドロに溶けた赤いそれは、まさに今の私だった。
彼が死して尚、私は涙を流せていない。
TwitterとDiscordのとある鯖で上げたのを供養しに来ました