EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

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第二章 似た者同士
知ってしまった未来


懐かしいアニメの主題歌が聞こえる。

アニメ・セーラームーンのムーンライトの曲だ。

 

(葛城さんも、何を着信曲にしてんだか……)

 

日向は、携帯に耳を当てながら、苦笑した。

セーラームーンの主人公・月野ウサギとエヴァの葛城ミサト……声優が同じだからって、もう少し歳を考えるべきだろう。

 

曲が終わり、また初めから再生される。これで5ループ目だが、ミサトはまだ出ない。

 

(やっぱり、まだ寝てんのかねえ……?)

 

日向は、自室の時計を見やった。時計の針は七時を指していたが、今日は日曜日だ。ズボラなミサトなら、午後まで寝ていてもおかしくはない。

 

(しゃーない、後で掛けなおすか……)

 

と、急に曲が途切れた。

 

『はい、もしもし……』

 

「あ、葛城さんですか……って違うか?」

 

『はい……シンジです』

 

まだ意識がハッキリとしていない、寝起きの声。

 

「ああ、シンジ君か。日向だけど……ごめん、寝てた?そっちに葛城さんいるかな」

 

ミサトのことを(たず)ねながら、日向は少し眉を寄せた。

 

(なんで、葛城さんの携帯にシンジ君が出てるんだ?)

 

『ミサトさん……日向さんとかいう人から電話です……』

 

(おいおい、シンジ君。まだボクの名前覚えてないのかよ……?)

 

シンジの呼びかけに、直ぐに「はいよ」とミサトの声が聞こえた。

 

『は~い……なに、眼鏡君……』

 

こちらも寝起きの声……って、ええ!?

 

「って、ちょっと……二人とも寝起きの声って……」

 

『あによ……眼鏡……』

 

「いや、まさか……一緒に寝てたんじゃないですよね……?」

 

驚いた様子の日向の言葉に、受話器の向こうはしばし沈黙した。

 

『そういえば、シンちゃん……なんで、あたしたち、一緒の布団で寝てんのかしら?』

 

やはり一緒に寝ていたらしい!

 

『それは……昨日、酔って帰って来たミサトさんが、部屋を間違えて飛び込んできたんじゃないですか……』

 

『そうなの?』

『そうですよ。ボクが逃げようとしても、ボクの腕をつかんだまま寝ちゃって……』

 

再びわずかな沈黙を挟んでから、受話器を少し遠ざけたのか、ミサトの小さな声がポツリと聞こえた。

 

『シンちゃん、もしかして私たち……やっちゃった?』

『やってません!』

 

(おいおい……)

 

『じゃあ、私が泥酔してる内に、エッチなことしちゃった?』

『してません!』

 

『いや、思春期の男の子なんだからあ……おっぱいくらい触ったんでしょ?』

『さ、触ってません!』

 

「もしもし、葛城さん~!」

 

『あ、日向君』

 

日向の(とが)めるような呼びかけに、ミサトがやっと受話器を取りなおした。

 

「葛城さん。なにやってんですか……」

 

『ごめんなさい。昨日、酔って帰ったら……私が抵抗できないのをいい事に、シンちゃんが「僕を子供だとバカにし過ぎですよ」とかなんとか言って、私を無理やりベットに……』

『ちょっと、なに言ってるんですか!』

『いや、ベットに寝かせてくれたんでしょ~?』

『そ、それはそうですけど……』

 

日向は溜め息を吐いた。

 

「いいですね。そっちは朝っぱらから楽しそうで……」

 

『で、何の用?』

 

「昨日、うちの近所のブックオフで、葛城さんが欲しがってた例のCD見つけたんですよ。昨日、慌てて電話したんですけど繋がらなくて……良かったら買っておきましょうか?」

 

『マジで?うん、じゃあお願いするわ……』

 

「はい、じゃあ、明日職場でお渡ししますね」

 

日向は携帯を切ると、眉間にシワを寄せて舌打ちした。

CDをネタに、葛城さんとユックリと話したかったのだが……あちらはまだ脳味噌が目覚め切っていないらしい。

それに事情はどうあれ、同じベットに……未成年とはいえ、他の男が隣にいる中で話すのは、余り愉快なものではなかった。

 

「まあ、あの葛城さんとシンジ君だから、余計な心配はいらないだろうけどさ……」

 

日向は、もう一度嘆息(たんそく)すと、自室のベットに仰向(あおむ)けに夜転んだ。

携帯を放り出し、つぶやく。

 

「シンジ君……いいなキミは」

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

昼間近くになってから、日向はブックオフにやってきていた。

 

(CDは買ったし……あと、ボクも何か面白そうな漫画でも探そうかな……)

 

日向は店内をうろつくと、中古DVDのコーナーで歩を止めた。

 

「お、エヴァのDVDは一通りそれってるな……さすが地元」

 

腰をかがめ、DVDを眺めていた日向の眼鏡のレンズに、ふと、学生服姿のシンジがエヴァに搭乗しているパッケージが映った。

 

(劇場版「Air / まごころを君に」か……)

 

日向は、旧劇場版のDVDを手に取ると、マジマジとパッケージを見詰めた。

脳裏に、赤木リツコの言葉がよみがえる。

 

『日向君、劇場版は見ないほうがいいらしいわよ。かなり(うつ)になるか、混乱するかのどっちからしいから……』

 

以前、青葉、マヤの三人で新劇場版の話で盛り上がっていた時、途中から口を(はさ)んできた副司令の言葉も思い出す。

 

『あっちの世界はあっち、こっちの世界はこっちと、ちゃんと割り切れているなら結構だが……見るなら「序」と「破」くらいに留めておいた方が良いかも知れんぞ。旧劇場版のような結末になったら最悪だから……ん、ああ、そうか……キミらの間では旧劇場版の方はタブーだったな。……こっちの世界(SS)の者で、みたのは私とゲンドウくらいか』

 

(これ……みんな見るのはずっと()けてるんだよな……)

 

眼鏡を掛けなおし、パッケージの解説を読み上げるが、やはり詳しい内容は分からない。

 

(ボクと葛城さん、どうなっちゃうのかな……気になるなあ……)

 

しばしパッケージを見詰めていた日向は、辺りをキョロキョロとうかがうと、さり気なくDVDを小脇に挟んだ。

そして、決意した様子で、レジに足を向けたのだった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「はあ、疲れた……」

休日だというのに、ネルフの自分のデスクで仕事をこなしていたリツコは、軽く伸びをした。

肩をほぐそうと、首を少し回す。

 

「あら、誰かいるのかしら?」

 

首を後ろに回した所で、リツコは誰かが入り口にたたずんでいる事に気づいた。

視線をディスプレイに戻し、時間を確認するが、既に夕刻だ。

 

「今日、当直だったかしら?」

 

いぶかしむリツコをよそに、日向は、入り口で突っ立ったまま、沈うつな表情で黙っている。

 

「どうしたの日向君?ずいぶんと、深刻そうな顔をして……」

 

リツコの呼びかけに、日向は黙って近付いてきた。そして、一枚のDVDを差し出した。

今朝、ブックオフで購入した旧劇場版・エヴァンゲリオンだ。

 

リツコは眉根を寄せた。

 

「あら、見ちゃったの……。()した方がいいって……」

「そうじゃないんです!」

突然、日向は怒鳴った。

 

「結末が憂鬱(ゆううつ)になるとか混乱するとか……そんなのはどうだっていいんです!原作の結末なんて、ボクたちには関係ありませんから……」

 

日向は深々と溜め息をつくと、カブリを振った。

 

「とにかく見てください!」

 

DVDを突きつけられたリツコは、しばしためらったが、

 

「しかたないわね……」

 

強引に差し出してくる日向の態度に押し負けるようにDVDを受け取った。そして、自身のPCに挿入する。

 

「初めから見なくてもいいんです……重要なのは」

 

ディスプレイに動画が表示されると、日向は、身を乗り出してマウスをつかんだ。そして、動画の特定の時間にポインターを合わせクリックする。

 

『同情はしないわよ。自分が傷つくのがいやだったら何もせず、ここで死になさい!』

 

画面に、エレベーターのドアにシンジを押し付けて怒鳴るミサトの姿が映し出された。

どういう状況なのかは分からないが、どうやらミサトは負傷しているようだった。気力を失い、涙をこぼすシンジに、ミサトは何事か説教している。

 

『他人だから何だって言うのよ!アンタここで何もしなかったら、あたし許さないからね!一生許さないからね!』

 

日向は動画を一時停止させると、しばし躊躇(ためら)ってから

 

「こっからです……赤木さん、よおく、見ててください……」

 

と再生ボタンをクリックした。

再び動き出した画面の中で、ミサトが、ペンダントをシンジに手渡した。そして……

 

「ここです!」

 

日向が叫んだ。

ひそめていたリツコの細い眉が、大きく見開かれる。

 

「これって……」

 

画面に映ったそれは、30近い大人の女が未成年と唇を交わす瞬間だった。

 

『大人のキスよ。帰ってきたら続きをしましょう』

 

見間違いではない事は、ミサト自身が画面の向こうから宣告してくれていた。

 

「ミサト……あなた……」

 

リツコは思わず絶句した。

 

「キスだけなら、まだギリセーフかも知れません。でも……」

 

いいながら、日向はカブリを振った。

 

「『帰ったら続きをしましょう』ってなんですか?……続きって、あれの事ですよね!?ダメでしょ、未成年相手に!」

 

「ちょっと、貸しなさい」

 

リツコは、日向の手からマウスを取り戻すと、巻き戻し、同じ場面を繰り返し再生させた。見間違いの可能性を信じたかったが、何度見ても何度聞いても、児童福祉法違反に触れかねないミサトの言動は変わらなかった。

 

リツコは、動画を停止させると、(ひたい)(おさ)えてうつむいた。そして、絞り出すようにうめいた。

 

「でも、これはあくまで原作の話であって……」

 

「こっちの話が、原作通りに進まないという保障はありますか?」

 

「……進むという保障もないでしょう?」

 

「もし、このSSの作者がオネショタ好きだったら?」

 

「……」

 

日向は真剣な面持ちで、リツコに詰め寄った。

「そもそも、このSSのタイトルだって『マヤとシンジの愛の劇場』だなんて……もろオネショタじゃありませんか!」

 

「でも、ミサトとの愛の劇場じゃないでしょ」

 

「作者が書いている内に、路線を踏み外す可能性だってありえます!」

 

日向の指摘は正しかった。第一章目の最後も、書いている内に、なんでか、あんな内容になってしまったのだから。

 

「そんな人に、葛城さんと未成年の同居生活を書かせ続けていいんですか!」

 

「……」

 

しばしの沈黙後、リツコはPCからDVDを取り出して、日向に返した。

 

「日向君、これはアナタが責任持って保管しておきなさい。くれぐれも、他の人には見せては……今、見た事を言ってもダメよ」

「どうするつもりなんですか?」

「いいから、今日の所は帰りなさい。私の方で善処するわ」

「はい……お願いします!」

 

休日出勤してまで事務処理をこなしていたリツコだったが、日向が帰った後、仕事の続きをする気にはなれなかった。

事務処理などよりも、もっと大きな事案が発生してしまったのだ。

リツコは、ディスプレイの前で、キーを打つべき両拳を握りしめたまま、真剣な眼差しで考え込み続けた。

 

(一章目の結末で、もうシンジ君とミサトがキスしちゃってんのよね……ミサトの冗談かと思ったけど……原作の方もこれじゃあ……)

 

リツコは意を決したように、口に出してつぶやいた。

 

「問題が起きる前に……タイトル詐欺と言われる前に……シンジ君とミサトは引き離しておく必要があるわね……」

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