EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

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眼鏡と長髪の直談判(2)

「待って下さい……」

「まだ、何か用があるのかね、日向君?」

 

日向と青葉は思い詰めた表情で、懐に手を入れた。そして、互いに一枚の封筒を取り出した。封筒には『退職届』と書かれていた。

 

「以前、ネルフに不法侵入した件……既に時効のはずですよね?」

「この手だけは使いたくなかったんすけど……」

 

冬月は片眉を上げて、二人の退職届を受け取った。

「ネルフを辞めるという事は、ガイナックスを辞めるという事だが……それでもいいのかね?」

「覚悟は出来てます!」

二人の声が揃った。

 

嘆息する冬月。

「そうか……そこまで決意してたのかね……」

目を閉じ、うめくようにつぶやく。

「もっと企画がハッキリしてから言うつもりだったんだが……これでは、今、言ったほうが良いかも知れんな」

「何の話ですか?」

 

「日向君、そして青葉君……。実をいうとだね、今度の新作アニメで、君たちを主人公に抜擢しようという企画が進んどるんだよ」

「マジっすか?」

「だまされるな青葉!」

 

青葉は反応したが、すかさず日向が小声でたしなめた。

 

「副司令……いえ、冬月さん!もう、ボクたちには関係のない話です!勝手にやって下さい」

「そうっすよ。オレたちは明日からはコンビ組んで、本格的に漫画家としてデビューするんですから。大場つぐみ と 小畑健のコンビを越える為に!」

 

冬月は何度もうなずいた。

「分かった。元気でやってくれたまえ」

 

そして、携帯を取り出し、どこかに連絡を入れる。

「ああ、監督ですか……はい、冬月です。この間の新劇場版『エヴァ』ではお世話になりました」

 

どうやら相手は、庵野秀明監督らしい。

「この間の、こっちで眼鏡が似合う青年と、長髪が似合う青年……用意できると言ってましたが、残念ながら……」

 

日向は「馬鹿馬鹿しい……猿芝居だよ」と顔をしかめて青葉にささやいた。

(庵野秀明監督は、今はガイナックスじゃなくて、カラーの取締役やってるはずじゃないか……)

 

だが、その(いぶか)しげな日向の眼差しは、次の瞬間には驚愕の眼差しに変わっていた。

 

「はい、では、例の『セカンド・ナディア』の件は、無かったとい事で……」

「ちょっと待ってください!」

思わず、二人は同時に叫んでいた。

 

「い、今、何ていいました……?」

「なんだね日向君、もう君には関係のない事だ」

「いや、でも、今……『セカンド・ナディア』っていいましたよね!?」

「そんなこと言ったかね?」

「言いました!」

また、二人の声が重なった。

 

冬月は、少し困った表情を見せると、

「まあ、仕方がない。教えて上げよう」

他聞をはばかるようにして、小声で説明し始めた。

 

「実をいうとだね……ガイナックス社とカラー社の共同で、ナディアの続編を作ろうって企画が進んどるんだよ」

 

「本当ですか!?」

「マジっすか!?」

 

「本当だとも。で、主人公の大人版ジャンとその親友役を務める人を探していてね。ジャン役に眼鏡が似合う青年を、新キャラの親友役に長髪が似合う青年をと言うんで、それならうちの職員に良いのがいますと監督に言ってたんだが……」

 

冬月はカブリを振って、溜め息を付いた。

 

「だが、君たちが辞めてしまうのであれば仕方がない……代わりを探さんと」

 

急に青葉が姿勢を正した。

「あの、副司令!日向の奴は、一身上の都合で辞めるとか言ってますが、自分はもちろん、辞める気なんてさらさら」

「卑怯だぞ青葉!あ、副司令……ボ、ボクも辞めるなんてそんな。あ、退職届返してもらえます?」

 

「でも、君たちはエヴァにノーギャラで出るのが不満だったのでは?」

 

「そ、そんなあ、冗談に決まってるじゃないですか。なあ、青葉?」

「そうっすよ。エヴァへの出演は、修行みたいなもんですから。こっちの方が授業料払いたいくらいっすよ」

 

「そうかねそうかね、では、退職届は返すとしよう」

二人は、その場で退職届を破り捨てた。

 

「と、ところで……そっちの方の出演料は?」

「ふむ、全世界に配給するんでな、一千万は固いはずだ」

「せ、声優は誰になるんすか?」

「今回は予算があるんでな。たしか、ハリウッドスターのニコラス・ケイジとハリソン・ホードだったかな?」

 

「オレ(ボク)、一生付いていきます!」

二人は冬月と固く握手したのだった。

 

冬月が立ち去って行くと、二人は堪え切れず、その場でガッツポーズを決めた。

 

「やったな!日向!」

「もう、最高だ!」

 

二人が感動に震えている時、突然、背後からドサリと荷物を落とす音が聞こえた。

振り返ると、一人の女性職員が立ち尽くしていた。まだ出勤したばかりだったと見え、私服姿だ。落としたのは、彼女のハンドバックだったらしい。

 

「や、やあ、マヤちゃんお早う」

 

青葉の挨拶に応えず、マヤは

「今の話……本当ですか?」

奮える声で尋ねてきた。

 

「今の話って?」

ズレた眼鏡を直しながら、日向は問い返した。どうやらマヤに聞かれてしまったらしい。

 

「お二人が同人サークルをやっているって話です……」

しかも、一番知られたくない所から聞かれていたらしい。

 

「いや、それはその……」

小声で、青葉に何とか説明しろとささやくが、青葉も困った様子でカブリを振った。

 

「そんな、日向さんと青葉さんが……同人作家で……『エヴァ・レボリューション』っていうサークルまで持ってて……」

 

マヤは信じられないという顔で日向に駆け寄ると、その手を取り、うつむいた。

 

「そんな、ネルフの職員なのに……、そんな……お二人が……」

マヤの肩がワナワナと震え出した。

 

「マヤちゃん……?」

マヤの肩が震える度に、床にポタポタと(しずく)がこぼれ落ちる。

 

(マヤちゃん……泣いてる?)

 

世界を守る使命を帯びたネルフの職員が、副業で同人作家を、しかもBLを描いていた事がよほどショックだったのだろう。

日向と青葉は申し訳なさそうに顔を見合わせた。

 

「マヤちゃんごめんよ。たしかに副業でそんな事してちゃ、ネルフの職員として失格だよね……」

「まあ、どっちかっつーと、同人の方が本職なんだけどね」

余計な事をいう青葉。

 

「ひ……日向さん……あ、青葉さん……。お二人が……『エヴァ・レボリューション』っていうサークルの作家だって……本当なんですか……」

日向は悲しげにうなずいた。

 

「ごめんよ、今まで隠してて……」

「マヤちゃん、説明するよ……さあ、顔を上げて」

青葉がハンカチを取り出した。

 

そのハンカチを受け取り、マヤは涙をぬぐうと、顔を上げた。

マヤの白い頬に、大粒の涙が伝った(あと)がハッキリと残っていた。彼女の小さな唇は、よほどのショックだったのか小刻みに震えている。

そして、その頬は満面の笑みを浮かべ、うるんだ瞳はキラキラと輝き、なぜか感動に打ち震えていた……?

 

「ま、まさか、こんな所で『先生』にあえるなんて……!!」

 

マヤは、二人の手を握りしめた。

 

「わたし、大ファンです!」

「はあ?」

 

一瞬、日向と青葉は耳を疑った。

マヤは、明後日の方を向きながら、信じられないとばかりにつぶやく。

 

「そんな……お二人が、あの『エヴァ・レボリューション』の作者だっただなんて!」

顔を赤らめ、頬に手を当てる。

「やだわ、私、こんな格好してきちゃって……でも、そんな、まさか……」

 

「あのー、マヤちゃん……ボクたちのこと知ってるの?」

 

マヤは激しくうなずいた。

 

「はい、『サークル ブルー&サン』の時から知ってます。その頃から大ファンです!」

「マジで!?」

 

何たる偶然だろうか!?かなりコアな同人サークルだったというのに、そのファンが同じ職場にいようとは!

 

「あっ、そういえばファンメール見てくれてます?」

「ファンメール?」

青葉と日向は顔を見合わせた。

「いや、マヤちゃんのメールは見た事ないけど?」

「ああ、ごめんなさい。ハンドルネームばっかで、本名は名乗って無かったですね、青葉さん」

 

マヤは恥ずかしそうに、ハンドルネームを名乗った。

「……『萌えウサ』です」

 

「げっ……」

「……あれ、マヤちゃんだったの?」

「はい、日向さん。忙しくって、いつも一日100通くらいしか送れなくて、すみません」

「いやいや、もう十分だけど!」

 

興奮するマヤは、思い出したように、慌てて落としたバックを拾った。そして、中から同人誌……まさに『エヴァ・レボリューション』の新刊を取り出すと、

「サ、サインをお願いします!」

二人に差し出した。

呆気に取られながらも、二人は取り合えずサインを書き込んだ。

まさか、あの危ないファンが、目の前の可愛い少女だったとは、誰が想像できただろうか。

 

「あ、じゃあ……。この前のコミケの即売会の時、ブースで『ナディア』と『ジャン』のコスプレしてたお二人……あれって日向さんと青葉さんだったんですね?」

「あ、ああ……そうだよ。ボクがジャンで、青葉がナディアやってたんだよ。気づかなかった?」

「はい。いい歳したオッサン二人が、痛いコスプレしてるって印象の方が強かったものですから……」

興奮のあまり、つい本音を口走ってしまう。

 

「え、それじゃ……マヤちゃんもコミケに来てたの?」

「はい、青葉さん。ジャン姿の日向さんから、新刊買いましたよ」

「ええ!?ボク、マヤちゃんの姿なんか見なかったけどな?」

「そ……それは……」

 

急にマヤは言葉を(にご)した。聞き取れない声で「わたしも普通の格好じゃなかったから……」とつぶやく。

 

「あ、でも、マヤちゃんのソックリさんならいたよな、日向」

「ああ、いたいた。ソウルキャリバーのアイヴィーの露出しまくりのキワドイ格好した子……マヤちゃんと良く似てたよな」

「そうそう、署名してもらったら、名前まで一緒だったんだよな」

「あははは、顔と名前が一緒なのに、ネルフのマヤちゃんとは随分違うって……」

 

そこまで言って二人は顔を見合わせた。

「って、あれ本人だったのかよ!!」

マヤは顔を真っ赤にして、小さくなっていた。

 

「は、ははは……お互い色んな趣味を持ってるもんだな、青葉」

「あ、ああ……マヤちゃんにも意外な一面があったんだな、日向」

「あ、ははは……お二人も、まさか大先生だったなんて……」

 

三人は乾いた笑い声を上げると、しばし沈黙して、顔を寄せ合った。

互いに人差し指を立て、暗黙の了解を交わす。

 

「マヤちゃん。今回の事は互いに忘れるって事で……」

 

小声で念を押す青葉に、マヤはニッコリと微笑んだ。

「その代わり、次回の新刊では、青葉さんと新ショタの絡みをお願いしますね(^^」

 

 

特務機関『ネルフ』……「優れた能力」と「強い個性」を持つ人材によって、今日も人類の平和は守られているのであった。

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