……一週間後。
「み、みんな……元気してた?」
有休明けのミサトは、一時間ほど遅刻してオペレーター室に顔を出した。
リツコが振り返る。
「あら、お母さんは無事に出産したの?」
「へ、そんな事いってたっけ?」
ミサトは引きつった笑顔を振りまきながら、
「副司令……一週間済みませんでした。これ、司令と召し上がって下さい」
ヘコヘコしながら、副司令に菓子折りを渡した。
「ふむ、遅刻だが、まあこれに
副司令も司令も、普段通りの様子だった。
オペレーター室の雰囲気も、一週間前と変わっていない。ミサトは首を
「あの~リツコ……」
「なによ」
「私がいない間、何か変わった事なかった……?」
「別に何もないわよ?」
「え、そうなの……?」
ミサトは、オペレーター室の各モニターを見渡したが、なぜか、『マギ』は正常に稼働していた。
(なんで、何ともないの?……もしかして、あたし酔ってた?)
しかし、定期検査の時に飲んでいたのも、『カスパー』にぶっかけたのも、ただのコーヒーだったはずだ。
ミサトは、ポンと手を打った。
(じゃあ、やっぱり、『マギ』も、ブラウン管テレビも似たようなものだったんだ)
あの処置で良かったんだと安堵したミサトは、
「いやぁ、あたしの取り越し苦労だったみたいね……てっきり『カスパー』を壊しちゃったのかと……」
うっかり口走ってしまった。途端に、リツコの顔色が変わった。
「今、なんて言った?」
「……いや、その……」
「壊したって言ったわよね?」
リツコに詰問され、ミサトは、ボソボソと真相を話した。
「コーヒーぶっかけて壊したって……!?じゃあ、やっぱりあなたが犯人だったのね!」
急に怒り出したリツコに、ミサトはたじろいだが、背後にいた もう一人の人物も、その発言を聞き逃さなかった。
「今の話は本当かね!?」
白髪の
「……はい」
「あれが何百億したと思っとるんだ!それで一週間もバックレとった訳か……」
三白眼で詰め寄った所で、しかし、冬月は眉を寄せた。
「……?『カスパー』が一週間前に壊れとるんなら、なぜ、ネルフのシステムは正常に動いとるんだ!?」
確かに、『マギ』は何の問題もなく稼働していた。これは『カスパー』が動ている証拠ではないか。
「どういう事かね、赤木博士?」
今度は、リツコの方がたじろぐ番だった。
「そ、それは……」
リツコが言葉に詰まった時、突然、警報が鳴りだした。
『シグマユニットAフロアに汚染警報発令!』
リツコは話をそらす為に、慌ててマヤを振り返った。
「マヤ、なにごと!?」
「はい、シグマユニットAフロアで、何だかよく分からないものが増殖してるみたいです。しかも爆発的スピードで!」
冬月に詰め寄られて困っていたミサトも、どさくさに紛れて自分の持ち場に戻る。
「きっと使徒ね。間違いないわ!」
ミサトの言葉に青葉が応じた。
「いえ、タンパク壁の劣化で……」
「うっさいわね!使徒って言ったら使徒なの!」
リツコを振り返る。
「リツコ、さっさとパターン青っていいなさいよ!」
「パターン青、使徒……あら、本当に第十一使徒・イロウルだわ」
「え、マジで?」
※ ※ ※ ※ ※ ※
シグマユニットAフロアを侵食していた何だか良く分からないものは、本当に使徒だった。急速に増殖を初め、次々にフロアを汚染し始めた。
職員たちは、ミサトとリツコの指示のもと、使徒の封じ込めに掛かったが、進化を続けるイロウルは、彼女らの作戦をことごとく突破し、その侵攻を阻む事はできなかった。
どんどん汚染区域が拡大して行く。
新たな警報が鳴った。
「こんどは何!?」
「サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!」
青葉がミサトに報告する。
「こんな時に!くそっ!Cモードで対応!」
直ぐに日向が対応する。
青葉と日向、そして複数のオペレーターたちが、ハッキングを防ごうとしたが、ことごとく突破された。
職員たちが騒然とする中、唯一、マヤだけは冷静にイロウルとクラッカーの行動を観察していた。そして、
(これって……)
ある事に気づく。
「先輩!これ、見て下さい」
マヤは、リツコのディスプレイに、イロウルの画像を表示させた。
「このイロウルの光学模様!」
「電子回路そのものね……まさか!」
「おそらく、ハッキングしているのは、イロウルです!」
マヤの推測は正しかった。
電子回路にまで進化したイロウルは、物理的な浸食を止め、電子情報となって保安部のメインバンクに侵入したのだ。
「先輩、使徒の目的は、『マギ』を乗っ取る事だと思われます!」
リツコよりも先に、ミサトの方が過剰に反応した。
「なんですって!じゃ、じゃあ……」
わなわなと震える。
「『カスパー』をぶっ壊したのも使徒だったのね!?」
「いや、お前だろうが!」
どさくさに紛れて、使徒に責任転換しようとするミサト。その頭を副司令がはたいた。
「『メルキオール』、使徒にリプログラムされました!」
『マギ』を構成するスーパーコンピューターの一つが乗っ取られた事を、マヤが報告した。
見れば、メインモニターに映し出された三台のスーパーコンピューターの疑似グラフィックの一つが真っ赤に染まっていた。
赤い色は、使徒の浸食範囲を表していた。
「ダメです。人間技では対応しきれません」
乗っ取られた『メルキオール』が自律自爆を提訴した。しかし、他の『バルタザール』と『カスパー?』が否決する。三台のスーパーコンピューターによる合議制を取る『マギ』は、一台のコンピューターの訴えは、残り二台のコンピューターの多数決によって決定されるのだ。
メインモニターでは、赤く浸食された部分がさらに広がり、今度はもう一台のスーパーコンピューターの疑似グラフィックを同じ色に染め始めた。
「今度は、『バルタザール』にハッキングしてやがる」
青葉が舌打ちした。
「くそぉ、早い」
対応しきれずに日向が悲痛な声を上げた。
「ダメだわ。人間技じゃ……あ、ダメ、『バルタザール』が乗っ取られました!」
マヤの顔色が蒼白になった。
「先輩ダメです。このままじゃ、『カスパー』が乗っ取られるのも時間の問題です」
「……」
「先輩、三台とも乗っ取られて、本部の自爆コマンドを実行されたら、もう私たちはおしまいです!」
「……」
マヤは涙目を浮かべていたが……リツコは深々と嘆息した。
「マヤ……」
「先輩、何か対処法を!」
リツコは、もう一度嘆息すると
「『カスパー』が、壊れてる事はもうバレてるから……」
明後日の方を向いて、ポツリとつぶやくようにいう。
「もう、そういうのはいいから……」
リツコは、遂に許可を出す。
「本気出してもいいわよ」
「え……?」
蒼白だったはずのマヤの顔色が元に戻った。
「『人間技』じゃ対処無理なら……あなたの『
「……いいんですか?」
リツコは黙ってうなずいた。
「それじゃあ……」
次の瞬間、オペレーター室の全ての職員たちが、神の降臨を目撃した。
信じられない速度で、巻き返しが始まったのだ。
メインモニターに映っていた赤い色が、どんどん消失して行き、瞬く間に『バルタザール』が正常に戻った。
思わず、喝采が起きる。
「え、何?どういう事?」
「これがマヤの本当の実力なのよ」
驚くミサトに、リツコは説明した。
マヤの正体が、世界的クラッカー『ブラッディ・エンジェル』である事や、ペンタゴンを初め、世界中の組織に軽々と侵入していた事まで。
過去に、『マギ』にウィルスを仕掛けた話は、ぼやかしたが。
「そういえば、『カスパー』が壊れているのに、システムが動ているのは、どういう訳なのかね?」
副司令が、思い出したように口をはさんだ。
「はい……一週間前に、確かにカスパーは、そこの無能なアホに壊されていました。で、仕方がないので」
マヤの方を視線で示す。
「マヤが代わりに、『カスパー』のシステムを手動で動かしてくれてたんです」
「そんなバカな!」
「赤木博士……なぜ、報告しなかった?」
ずっと沈黙を保っていた司令が、司令席から初めて声を発した。
「それが……マヤの演算速度の方が『マギ』を超えていたので……」
リツコは、困った顔で本音をこぼした。
「これ言っちゃうと、マヤ一人いれば十分って事で……母が作った『マギ』が単なる粗大ごみになってしまいますので……」
メインモニターでは、急速な逆転劇が起きていたが、『メルキオール』が50%ほど正常になった所で、急に反撃の勢いが止まってしまった。
「ああ、いくら何でもマヤちゃん一人じゃ限界だ!日向、俺たちも手伝うぞ!」
だが、青葉の言葉に日向はかぶりを振った。
「いや、大丈夫だよ」
「どうして、現に回復速度が……」
日向は黙って、マヤの手元を指し示した。
「マヤちゃん、まだ左手しか使ってないから……」
マヤは、左手一つで高速でキーを打ちながら、右手には携帯電話を持っていた。
「あ、シンジ君。もう学校から帰ったの?え、お料理しておくって?
いやだ。非番の日なのに働いちゃうの~。
え、私の仕事?大丈夫大丈夫、あと5分で終わるから。
美味しいクリームコロッケのお店見つけたから、お土産に持って帰るわね」
マヤは、少年と
キーの上に、右手をも添える。
「さあ、本気だすわよ!」
再び歓声が上がった。
ずっと成り行きを見守っていた司令は、初めて席から立ち上がった。
「今回の功績……伊吹二尉を三階級は昇進させねばならんな」
「では、この無能な娘の方は三階級降格という事で」
「げ、副司令、それはないっしょ!」
「『カスパー』の修繕費、数百億払えるかね?」
「……降格でいいです」
リツコも付け足す。
「新劇場版Qでは、この女がシンジ君に余計な事を言ったから、サードインパクトが起きたらしいので……今の内に、作戦本部から外しておいてもいいのでは?」
「何言いだしてんのよ、リツコ!?」
「他に、相応しい役職はあるかね?」
「ちょうど、D棟のトイレ掃除係が不足しているそうです」
「なるほど。では、ミサト君は降格の上、役職は便所係に……」
「え、え?ちょ、ちょっち待ってよ!」
二人が取り合ってくれない事が分かると、
「ええと、ええと……」
大活躍中のマヤを視界に認め、慌てて駆け寄った。
「マ、マヤちゃん……そんなに仕事頑張り過ぎなくてもいいんじゃないかしら……」
「……」
「ほら、ちょっち休憩したら。三時間くらい?」
「……」
「マ、マヤちゃん?」
無視し続けていたマヤは、ようやくミサトの方に視線を向けた。
「は?……”マヤちゃん”?」
マヤは、眉根を寄せた。
「葛城”准尉”。それが”上官”に対していう台詞かしら?」
「へ……」
「”伊吹さん”だろ?葛城」
既に、マヤの中では立場が逆転していた。
「もしくは、上官殿と呼びなさい。明日から、便所掃除よろしくな」
ミサトは青ざめた。
(ええ!?ちょ、ちょっち待ってよ!このままヒロインの座どころか……あたしヒロインよね?……地位も立場も失っちゃうワケ!?)
ミサトはあたふたと、リツコの元に駆け戻った。
「どうしたのミサト。D棟のトイレなら……」
「リ、リツコ……要するに使徒は、今、メルキオールの中にいる訳よね!」
「そうだけど」
リツコの返事を聞くやいなや、ミサトは、今度はスーパーコンピューター『マギ』に駆け寄った。そして、勝手に床下に鎮座していた『マギ』をオペレーター室に浮上させる。
「ちょっと、何やってんのよ、ミサト!」
「おりゃあああああ!」
ミサトは、『メルキオール』と書かれたフレーム目掛けて、気合もろとも蹴りを入れた。一撃でフレームが歪むと、ミサトは隙間に手を突っ込み、力任せにカバーを引っぺがした。
『メルキオール』がむき出しの状態になる。
「ミサト!遂に狂いだしたの!?」
「ミサト君、何を暴れとるんだ!」
「決まってんでしょ!この中に侵入してる使徒をぶん殴るのよ!」
「そんな事、出来る訳ないでしょ!相手は電子情報化してるのよ!」
「アホか、お前は!」
リツコも副司令も仰天したが、ミサトは構わなかった。
「そんなの、やってみなきゃ!」
拳を振り上げる。
「わっかんないわよ!!」
ミサトの鉄拳が電子機器の一つに振り下ろされた。バキっという音と一緒に火花が上がる。
「何やってんですか、ミ……」
日向が抗議の声を上げようとした時、メインモニターの赤色が一瞬で消滅した。
「え……?」
使徒をずっとモニタリングしていた青葉が、マイクに顔を寄せた。
「使徒……消滅しました」
「はあ?」
リツコは、直ぐにマヤを見返した。
「マヤ、あなたがやったのよね!?」
だが、マヤはプルプルと首を横に振った。
「まだ途中です……」
全職員の視線が、一斉にミサトに集まった。
皆が沈黙し、オペレーター室が静まり返る。誰もが
その
拍手を打ったのは、碇司令だった。
無表情のままミサトを見下ろして告げる。
「見事だ、葛城一尉。電子情報と化した使徒を”素手”で仕留めるとは……」
「んなアホなあ!!!!」
オペレーター室に、職員たちの仰天の声が響いたのだった。
素手のパンチで電子情報を倒す。おそらく、人類史上、初の快挙だった。
「へへ~ん、私の手に掛かれば、こんなもんよ」
ミサトは自慢げに胸を張りながら、心の中で母に感謝した。
(お母さんありがとう。叩けば治る……お母さんの教えのお陰で、私の地位は……ついでに人類の危機は救われました……)
声に出して感謝する。
「ありがとう、お母さん!」
※ ※ ※ ※ ※ ※
かくして、ネルフの『マギ』を乗っ取ろうとした使徒イロウルは、マヤの神業と、それをも上回るミサトの奇跡の技によって、退治されたのであった。
粗大ごみになりかけた『マギ』は、リツコの嘆願により、マヤが非番の日のみ稼働を続ける事が決定し、『カスパー』の修復も行われた。
功労者である葛城ミサトは、降格と司令部追放を免れ……ただし、『カスパー』の弁償代を一生給料から天引きされる事となり、ついでに、やっぱりD棟の便所掃除係を兼任させられたのであった……。
はい、またタイトル詐欺ですね。
今度こそ、マヤとシンジが、いちゃつける話を考えておきます。(´・ω・`)
ちなみに、lineスタンプが全く売れず、苦悩している今日この頃でございます。
気が向いたら、誰か買ってね。(・ω・`)
≪グレートペンギン≫
https://line.me/S/sticker/14242307
≪何がでるかなヒヨコ≫
https://line.me/S/sticker/14059895