EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

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□ 前書き □

2月にうつ病が悪化して寝込んで以来、執筆できる状態では無くなっていたのですが、
「お気に入り」に登録される方が増えてきた為、頑張って書き上げました。

前編・中編・後編で、数時間置きに順次投稿致します。

グダグダな内容でございますが(´・ω・`)






第三章 マヤとシンジの日常
グダグダな日々 前編


「プ…ライミング……ですか?」

 

人類を脅かす使徒の調査・研究・殲滅を担う特務機関ネルフ。

その中枢たる司令所は、使徒が出現せず、パイロットのテストもない日は、暇である。

 

(職員に仕事を振り分けようにも、そのストックも切らしてた所だし)

 

ほとんど(ひま)つぶしのデータチェックを行いながら、リツコはフロアの一角を一瞥(いちべつ)した。

 

(良い先生がいてくれて、ありがたいわ)

 

見れば、その一角に小さな人だかりができていた。

伊吹マヤのデスクを囲むようにして、他のオペレーターたちが集まっている。

眼鏡と長髪の二人は、自分のデスクで何か熱心に別の仕事をしていたが。

 

「そう、あなたのタイプミスの多さは、プライミング記憶力が原因ね」

 

さきほど聞き返したのは、マヤたちより一段下のデスクに務めている女性職員だった。

タブレットを片手に、マヤのデスクに寄り掛かるような姿勢を取っていたが、かたわらのプリンターが動き出した事に驚き、少し身を離した。

 

マヤは、プリントアウトした書類を広げると、赤いペンを手に取り、手早くマーカーを走らせる。

 

「はい、これが打ち間違いの箇所ね」

 

女性職員は、渋い顔をした。

 

「その書類、青葉さんにOKもらったんですけど……やだ、本当に打ち間違えてる……」

「全体の0.3%……かなり多いわね」

 

マヤは、長髪にも見えるように、書類をぴらぴらと(かか)げてみせた。

 

「でも、この通り、青葉さんの捺印(なついん)付きで、通ちゃってま~す」

 

自分の名前を出された長髪は、一瞬振り返ったが「マジ?」と一言言っただけで、気にする様子もなく、また手元の作業を続けた。眼鏡と長髪の二人は、紙に何か一生懸命描き込んでいるようだが、何をしているのだろうか?

 

「青葉さんも気付かなかったのは、まさにプライミング記憶のせいね」

 

マヤは説明しながらキーを操作した。

 

「プライミング記憶は、過去の経験を(もと)に「不明瞭な部分」を補ってくれるの。誤字・脱字がある文章でも読めちゃうのは、そのお陰ね」

 

女性職員が抱かえるタブレットに、着信を知らせるランプが点滅した。

 

「特に、あなたはプライミング記憶が強い方だから……どんなに頑張っても、書類からタイプミスを無くすことはできないわ」

 

「ええ、そうなんですか……」

 

女性職員は、肩を落としたが、

 

「でも、だいじょ~ぶ!とっておきのツールをあなたのタブレットに入れておいたから」

 

マヤはウィンクすると、自身のディスプレイに映るアイコンを指し示した。

ハートマークの中に、猫のような目玉が描かれている。

 

「名付けて『マヤちゃん、愛(eye)ラブ・フェリア』……。これさえ起動させておけば、数十ヶ国語の文章、あらゆるプログラミング言語、さらには親ファイルから子ファイルにリンクする為の任意文字列に至るまで、全てチェックできるわ。

誤字脱字があれば、アイコンが警告と訂正。打ち終わった後は、打ち間違いの多い文字列やパターンを学習し、矯正訓練もしてくれるわよ」

 

女性職員は、自分のタブレットを確認した。

確かに、『マヤちゃん愛ラブ・フェリア』という痛い名前のアプリを受信していた。

 

「あ、ありがとうございます!マヤさん!」

 

「どういたしまして~。はい、お次はどなた~?」

 

少女を囲っていた職員たちが、我先にと手を上げた。

 

 

 

「へ~え~~~マヤちゃん、大・人・気ねぇ~」

 

リツコの隣で、その様子を眺めていた女性が、嫌味を込めた口調でつぶやいた。

白いエプロンを羽織(はお)り、頭には白い頭巾。典型的な掃除婦の出で立ちで、かたわらにバケツを置き、手にはモップを握っている。

 

「しかも、この前まで『ちゃん』付で呼んでた子たちまで『マヤさん』って……。今のプラ何とかの子も、マヤちゃんより年上よねえ?」

 

掃除婦は、リツコの耳に口を寄せてささやく。

「リツコ……うかうかしていると、あんたまで『さん』付で呼ぶ羽目(はめ)になるわよ」

 

親友に名を呼ばれたリツコは、キーを打つ手を止めた。彼女を一瞥(いちべつ)し、冷たく言い放つ。

 

「そんな格好で、ここに来ないでくれるかしら、掃除のおばさん」

 

「あら、ヤダわ……私がおばさんなら、年上のあんたは大おば様かしら?」

 

リツコは、デスクを叩いた。

 

「つまんない事言ってないで、早く着替えてきなさい!」

 

前回、D棟の便所掃除係を命じられたミサトは、単なる冗談だと思っていたのだが、出勤するなり冬月にモップとバケツを渡され、本当に便所掃除をやらされたのである。

ご丁寧な事に、D棟のトイレの壁のボードには、掃除係として葛城ミサトの名札まであった。

 

「掃除婦の仕事が終わったら、作戦本部長の仕事を!」

「いや、あたし、着替えたら帰るから……」

「は?早退?またお母さんが出産するの?」

 

ミサトは深々と嘆息すると、リツコに顔を寄せた。午前中、慣れない仕事をしたせいで、たいぶん疲れた顔をしている。

 

「使徒が出ず、シンジ君も非番……」

 

ミサトは、リツコのデスクに叩きつけるように手を付き、さらに顔を寄せた。

リツコの方はのけぞる。

 

「そして、マヤちゃんがアドバイザーをやってくれるなら……あたしなんてする事ないっしょ!」

「作戦本部長なんだから……定時までいなさいよ」

「今は、掃除のお姉さんです……」

「使徒が出たら、どうするの?」

「そんときゃ、スポーツカーぶっ飛ばして出勤します」

「副司令、またアホがこんな事いってますけど……」

 

さきほどから日向と青葉の後ろに立って腕組みしていた冬月は、かぶりを向けた。

 

「ええんじゃないか。また何かぶっ壊されるよりは増しだろう」

「……」

「ほら、副司令もああ言ってるじゃない」

 

ミサトは不敵に笑うと、バケツをつかんだ。

「んじゃ、また明日~」

 

そのまま本当に帰ろうとした所で、ミサトは急に動きを止めた。胸ポケットの辺りが振動している。

 

「あん、くすぐったいわね。なに、誰から?」

 

胸ポケットから携帯を出した。メールが届いたらしい。

 

「……え?」

 

送信主の名前を見ると、ミサトは、いぶかしげに眉を寄せた。マヤの方を一度振り返ってから、メールの内容を確認する。

 

『ミサトさん、離席できないので、メールでごめんさい。

午後からお時間ありますか?

相談したい事があります』

 

送り主は、今、職員たちのアドバイザーをやっている最中(さなか)のマヤからだった。離席できない為、こっそりメールを送ってきたのだ。

 

(マヤちゃんが、あたしに相談したい事?)

 

ミサトはもう一度マヤの方を振り返ると、ほくそ笑んだ。

 

(あらら、何だかんだ言っても、まだまだあたしに頼らなきゃダメなのね~)

 

「ミサト、なに携帯見ながらニヤついてるの、気持ち悪いわよ」

 

リツコを無視して、ミサトは含み笑いをしながら返信を送ると、携帯をポケットにしまった。

 

「まったく、しょうがないわねえ~。リツコ、やっぱ、あたし定時までいるわ」

「当然よ」

 

更衣の為、ミサトがニヤつきながら司令所を出て行く中、青葉と日向の後ろに立っていた冬月は、二人の手元を覗き込んで眉を寄せた。

眼を三角にして、二人の頭をはたく。

 

「お前ら、なんで仕事中に同人描いとるんだ!」

 

シン・エヴァンゲリオン劇場版:||の上映に合わせて、サークル『エヴァ・レボリューション』も、新刊の完成を急がねばならなかった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

全長6キロ、高さ0.9キロの巨大な(うつ)ろ……ジオフロント。

その広大な地下空間には、ネルフ本部施設を中心に、森林、丘陵、地底湖が広がり、さらにその間を()うようにして、様々な施設が増設されていた。

 

二輪、四輪車の操縦訓練を兼ねたサーキット。

サウナや入浴所を備えたアミューズメント施設。

地底湖から引いた水を利用した田園や釣り堀。

日本庭園や西洋庭園の洋式を持つ憩いの場。

税金の無駄遣いだと怒られそうだが、人類の明日を(にな)う職員たちの心身のケアの為には、必要な投資だ。

 

「いや~、マヤちゃんが車に興味持つなんて意外ね~」

 

サーキットの車庫で、ミサトは、テスト用車両の助手席に座っていた。ハンドルを握っているのは、マヤだ。

 

「ふ~ん、一応、ミッションの免許は持ってるのね」

 

マヤの免許証をかざし、しげしげと(なが)める。「AT車に限る」の文字が入っていないのは意外だった。

 

「あら、こんなウインクした顔写真でもOKなんだ。私も、次の更新の時に決め顔しようかしらね」

 

免許証の写真から、隣の実物の方に視線を向ける。

 

「で、急にスポーツカーが欲しいって、どういう風の吹き回しよ」

 

ミサトの言葉に、マヤは照れ笑いを浮かべながら答えた。

 

「実は、この前、日向さんたちとシン・エヴァを見てきたんです。私が冒頭から大活躍するんですけど……いつもの可憐な私と違って、劇場版の私って、スッゴク恰好いいんです!」

 

マヤは両手を組むと、キラキラと目を輝かせた。

 

「ええ!?14年後の私って、こんなに素敵なのって、もうビックリしちゃって!」

「ちょっと、ちょっと、ネタバレは無しにしてよ」

 

「ああ、大丈夫ですよ。ミサトさんはちゃんと死にますから。それで、今からでも、劇場版の自分に近付きたくて……なにから始めたらいいだろうと思ったら、やっぱりTV版一話で颯爽(さっそう)と登場したミサトさん見たく、スポーツカーくらい乗り回せた方がいいと思って……」

「なるほど、それで私に車選んで欲しいって相談……って、あんた今、さりげなくトンデモナイこと口にしなかった!?」

 

「気のせいです。それよりミサトさん、こんなテスト車じゃなくてスポーツカーを」

「わーてるわよ。でも、ペーパードライバーにいきなりハードな奴はキツイっしょ。まずは、腕前のほど見せてちょうだい」

 

「はい。じゃあ、まずはエンジンのボタンを……」

「残念、プッシュ式じゃないわよ。キーを回して」

 

不慣れな手つきでキーを回す。エンジンが始動した。

 

「その次は、ええと……この一番左のを踏んで」

「ブレーキも一緒に踏まなきゃダメよ……そう、そしてギアを一速に」

 

「この棒を……」

「棒じゃなくてギアね。サイドブレーキ外す」

 

「ええと……それから」

「半クラッチにして、軽くアクセルを……あ!」

 

案の定、半クラッチにできず、車が急発進した。

 

「まあいいわ……マヤちゃん、次にギアを二速に、ってそれ三速!アクセルも踏み過ぎよ」

 

サーキットの中を不自然な動きで、テスト車が加速して行く。

 

「すいませんミサトさん、運転の仕方はyoutubeで勉強したつもりだったんですけど……」

 

「いや、教習所で習ってるんでしょ?免許取った日も、まだ去年じゃない」

 

ハンドルを握りながら、マヤは笑った。

 

「それ、昨日PCで自作したんです。さすがに、無免許じゃ車買えないと思って」

「は!?」

 

ミサトは、マヤの免許証を見直した。

斜め横の決め顔で、ウィンクまでした顔写真……良く考えたら、そんな写真が通るはずがない。webで拾った免許証をそのままコピーしたらしく、良く見たらど真ん中に『見本』の文字まで入っていた。

 

「ちょ、ちょっとマヤちゃん……あんた教習は受けたんでしょ?」

「はい、今、初めて受けてる所です」

「はい!?」

 

マヤは適当にギアを動かした。運の悪いことに、適当に踏んだクラッチとタイミングが合い、エンストにならず、5速に入った。

 

さらに車は加速し、サーキットのカーブを曲がらずに直進して行く。

 

「マヤちゃん、フェンスにぶつかるわよ!ブレーキ、ブレーキ!って何でハンドル離してるの!?」

 

ミサトが慌てる中、マヤはハンドルから離し、代わりに膝にノートパソコンを広げていた。

 

「マヤちゃん、ぶつかるわよ!」

「大丈夫です。あの壁のスプライトの配列変えますから」

「はいいいい!?」

 

 

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