綾波の出番が少なすぎる為、書いてみました。(´・ω・`)
「乾杯~」
声とグラスが打ち合う音が揃った。
シンジ、リツコ、マヤの三人が
スパイスの効いた良い香りがテーブルから立ち上る。
今夜はカレーだ。
「手作りね。どっちが作ったの?」
マヤとシンジが揃って手を上げた。
「ボクは、野菜の皮むきと味付けをしました」
「私は、包丁でお肉と野菜を」
リツコは笑った。
「あら、仲がいいのね」
シンジがマヤのマンションに越してから、ちょうど
「そりゃもちろん、仲良しさんですけど……」
マヤは少し不満げに頬を膨らませる。
「年上のお姉さんと暮してるんだから、もうちょっと、緊張してくれても良さげなんですけどね~」
マヤの言葉に、シンジは照れ笑いを浮かべた。
「ボクは、ミサトさんで、もう慣れちゃってますから」
本当は、ガサツなミサトと違い、女の子らしいマヤと過ごすことに、まだ気恥ずかしさがあった。だが、シンジは、それを
「ミサトと暮したお陰で、女子に対する幻想なんて吹っ飛んだんじゃない?」
「それは……まあ……」
ミサトと暮していた時は、一週間も経たない内に、彼女の下着を洗う事にすら慣れてしまっていた。正直、オッサンと暮しているような気分だった。
「そういえば、転居するのに手続き大変でしたね。IDカードを書き換えるだけで一か月も掛かるなんて」
「あなたが、偽造で済ませてたからでしょ。まったく……この前は免許証まで偽造してたらしいじゃないの」
そういうと、リツコはグラスをおき、ショートバッグからIDカードを取り出した。今日は、これを届けに来たところで晩餐にあずかったのだ。
「はい、シンジ君。大切なものだから、無くしちゃダメよ」
「ありがとうございます」
シンジが受け取ると、リツコは急に顔をしかめた。
「あ、しまった……」
「どうしたんですか先輩?」
リツコは、鞄からもう一枚IDカードを取り出していた。
「レイのカードも更新してたのよ。渡すの忘れてたわ」
リツコはそういうと、
「シンジ君、明日、ネルフに出勤よね。悪いけど途中でレイの所に寄ってもらえないかしら?」
レイのカードもシンジに渡した。
「え……ボ、ボクが、綾波”さん”の家にですか?」
リツコとマヤは顔を見合わせた。
「シンジ君ってば、レイのこと『さん』付で呼んでるの?」
マヤの言葉に、シンジは動揺する。
「あ、その……綾波さんとはまだ親しくないから……」
再び二人は顔を見合わせると、クスリと笑った。
「年上のお姉さんは平気なのに、同い年の子は苦手なのかしら?」
「うわ、シンジ君。年上キラーの素質あるんじゃない?」
二人にからかわれても、シンジは笑えなかった。
「マ、マヤさんも……一緒に」
「あら、マヤに頼ってちゃダメよシンジ君。レイと仲良くなれる良い機会じゃない」
「もう先輩。シンジ君に浮気すすめちゃダメですよ」
女たちは笑いあっていたが、シンジは引きつった
綾波の家に行け……シンジに取って、冬眠中の熊の
※ ※ ※ ※ ※
翌朝、レイの部屋の前に、シンジの姿があった。
一度、深呼吸してから、シンジはインターホンを押した。そして、おずおずとマイクに声を掛ける。
「あ、あの、綾波さん……碇です。リツコさんのお使いに……」
少し沈黙する。インターホンから返答はなかった。
「あ、お留守ですか」
(良かった留守なんだ)
早々に留守だと決めつけたシンジは、そのまま
『居るわよ。入って』
が、その背にレイの声を聞き、立ち止まった。
「あ、はい……」
おそるおそる扉を開ける。
「ご、ごめんください……」
玄関にはダイレクトメールが無造作に散らかっていた。それを踏まないように気を付けながら、部屋に上がる。
(ここが熊の巣……)
レイの部屋は、ミサトともマヤとも全然違っていた。
ミサトの部屋がゴミ屋敷なら、マヤの部屋は少しミニマリストに近かったが、レイの部屋はそれ以上に殺風景だった。
ベットに、少しばかりの調度品。そして、部屋の隅には、ウェイトトレーニングの道具一式が並んでいた。
「綾波さん……っ痛」
足元のダンベルに
「……綾波のかな」
シンジは何げなく、それをつかんでみた。そして、持ち上げようとする。
「うわ、重っ……何キロあるんだ?」
シンジの腕力では持ち上がらなかった。何キロなのか確かめようと屈んだ時、バスルームの扉が開く音がした。
シンジが振り返ると、レイがお風呂から上がってきたところだった。一枚のタオルを肩に掛けているだけで、何も身にまとっていない。
突然、さらけ出されたレイの裸体にシンジは慌てた。
「い、いやあのっ!」
「なに、勝手に触っているの!?」
シンジの動揺を他所に、レイはダンベルを触っている事を咎めると、ズカズカとシンジに詰め寄った。
「素人が触ったら危ないわよ!」
「いや、ボクはIDカードを」
「僕は、別にっ、うわあっ、ったった、わあぁっ!」
引っ掛かった拍子に足を滑らせ、前から詰め寄ってきたレイの方に倒れ込む。
殺風景な部屋に、フローリングの床を打つ大きな音が鳴り、ダンベルが転がる低音が後に続いた。
思わず閉じていた目を開けた時、シンジは自分が裸のレイの上に
……殺される……!
次の瞬間、シンジは
「い、痛てて……」
顔をまともに打ってしまった。今度は滑った訳じゃない。
シンジは倒れたまま、おそるおそる自分の足元を見た。自分の足首を、レイの手がガッチリとつかんでいた。
「碇君……なに、ナチュラルに逃げようとしているのかしら?」
レイは、ユックリと立ち上がった。
「あ、綾波さん。わざとじゃないんです」
「正座しなさい」
「ボクはリツコさんのお使い……」
「正座!」
「はい」
レイが着替えるまで、シンジは冷たい床に正座して待ち続けた。
着替え終わったレイが、その前に仁王立ちになって、シンジを見下ろす。
「女の子の裸を見た上に、押し倒して、
「そ、そんなつもりは……」
「うつむいてないで、顔上げなさい!」
「は、はい……」
シンジはカブリを上げたが、直ぐに慌てて視線をそらした。
「え、綾波さん……なんで?」
「なに?」
「な、なんで下着しか付けてないんですか……」
着替えたと思ったはずのレイは、肌着しか付けていなかった。しかも、なぜか就寝用のキャミソールだ。
「あら、裸の方が良かったのかしら?」
「いえ、そういう訳じゃ……」
シンジは、視線をそらしたまま、話題を変えようとした。
「そ、そういえば、怪我の方はもういいんですか……」
「怪我なんかしてないわよ?」
「え、でも、この前まで包帯とか……」
そういえば、手のギブスが無くなっていた。
「あれは小道具よ」
「でも、初めて会った時は、立てないくらいだったじゃないですか?」
「台本に書いてあったから、そうしただけよ」
「……」
「そんな事より、どう落とし前付けてくれるのかしら?」
「……」
レイは、タンスの上にあった自分の携帯を
「今から、リツコさんたちに報告していい?」
「そ、それは困ります」
「じゃあ、どうするの?」
気まずい空気の中で、レイの威圧感が、頭上からヒシヒシと迫る。
(いっそ殴られていいから……)
シンジは、意を決すると立ち上がった。そして、殴られるのを覚悟で、
「じゃあ、お詫びにボクも脱ぎます」
「ふざけないで!」
レイのビンタが飛んだ……が。
「……?」
その手は、シンジの頬の手前でピタリと止まっていた。
「……て、私が怒ってブツと思った?」
レイは、怒気を押し殺してポーカーフェイスを保つと、
「殴られて、丸く収まると思った?」
シンジの思惑を見透かしてしまっていた。
もちろん、そんな悪ふざけをして殴られた所で、丸く収まるものではない。だが、コミュ力の無いシンジが不器用なりに考えた事だった。
「ごめんなさい、綾波さん」
頭を下げるシンジに、綾波は肩をすくめた。
「でも、確かに不公平ね」とつぶやき、続ける。
「いいわ、脱ぎなさい」
「へ……こ、これは冗談のつもり……」
「いいから脱ぎなさい!」
予想外の言葉にシンジは後ずさった。それを追うようにレイは迫る。
「あ、綾波さん、落ち着いて……」
「落ち着いてるから脱ぎなさい」
背中が壁にぶつかる。壁際まで追い詰められてしまった。
レイは手を伸ばすと、身構えるシンジの両腕をつかんだ。
「あ、綾波さん、不味いよ。ヒロインがそんな……」
「不味い?」
レイは
「ひぃぃぃ!」
シンジは悲鳴を上げた。
(な、
「別に、不味くはないわよ?」
そういうと、レイはポーカーフェイスを崩し、妖艶な笑みを浮かべた。
「碇君、初めてあった時の事、覚えてるかしら?」
初めてあった時……それはシンジが初めてネルフに足を踏み入れ、エヴァに乗る事を強要されたあの時だ。
「碇君、私の事を心配して、碇司令に抗議してくれてたわよね」
シンジの腕を握るレイの手に力がこもる。
「細い
固まるシンジの耳に唇を近づけて、ささやく。
「あの時、私、ゾクゾクしたの。碇君の細い身体を無茶苦茶に抱きしめ返したいって思ったわ……」
レイが身体を密着させてきた。
「あの時以来、シンジ君と一緒にいると子宮の奥がポカポカするの……碇君にもポカポカして欲しい」
シンジの全身に電気のような悪寒が走った。必死になってレイの手から逃れようとする。
「無駄よ。ベンチプレス80キロいける私の拘束から、非力な碇君が逃れられるはずがないわ」
レイの太ももが、シンジの足に絡む……と、どこからか携帯の着信音が聞こえた。
床に落ちたシンジの鞄からだ。
「出たら殺すわよ」
二人は密着したまま、着信音が鳴り止むまで沈黙した。
音が鳴り止み、レイの手がシンジのズボンに伸びようとした時、今度は、タンスの上に置かれていたレイの携帯が鳴りだした。
レイは舌打ちすると、逃げないように左手でシンジを抱え込んだまま、右手を携帯に伸ばした。
シンジに「声出したら殺すわよ」と釘を刺してから、『応答』の文字をタップする。
「はい、レイです」
『あ、私よ、リツコ。シンジ君はそこにいる?』
「さっき帰りました」
『IDもらった?』
「はい」
『ごめんなさい。そのID古い方だったのよ。今から新しいの届けに行くから』
「いえ、ネルフに着いてからで結構です」
『ちょうど、近くまで来てるのよ。ついでよ』
「あと、どれくらいで着きますか?」
『10分くらいかしら?』
「……分かりました」
携帯を切ると、レイはシンジを解放した。
「残念だったわね碇君」
(た、助かった……)
シンジは、ぐったりと壁に寄り掛かった。
「でも、碇君、忘れちゃダメよ。今日の事は全部あなたが悪いのよ。私の裸を見て、私を押し倒して、胸まで触って」
「わ、分かってます……」
「でも、いいわ。お
「お相子って?」
レイは、バツが悪そうに頭をかいた。
「碇君が、初めて使徒と戦った時、ショックを受けて病室で寝てたわよね」
目が覚めた時に見た、あの白い見知らぬ天井だ。
「あの時、私はお見舞いに行ったの……でも、碇君は目を覚まさなかった……だから」
レイは沈黙をはさんでから、続ける。
「寝てる碇君の横で、酷いことをしちゃったわ」
「ど、どんな事……?」
「あなたが旧劇場版の冒頭でやったのと同じ事よ」
そこまでいうと、レイは嘆息し、自分の髪をかきあげた。
「最低ね、私って……」
レイは、床に落ちていた鞄を拾うと、
そして、玄関まで連れて行き、扉を開けてやる。
「行きなさい」
シンジは靴を
出て行こうとするシンジに、レイは告げる。
「でも、碇君、憶えておきなさい。今後二人きりになる事があったら……」
最後の言葉を耳元でささやく。
「今日の続きを望んでるんだって、私は判断するから」
気が付いた時、シンジはレイのマンションから駆け出していた。
どれくらい無我夢中で走り続けただろうか?
遂に息を切らし、レイのマンションが見えない所まで来ると、シンジは、歩道のポールに寄り掛かった。
胸の動悸が激しかった。小休止し、息を整えても、その動悸は収まらなかった。
前回、遅刻したら殺すとレイに脅された。
今回は、二人きりになったら犯すと宣言された。
今後、武闘派で肉食系の綾波に、シンジは狙われ続ける事になるのだ。
『マヤとシンジの愛の劇場』……なのに、マヤとの関係はさほど進展せず、その前に貞操を失いかねなかった……一体、どこまでタイトル詐欺は続くのだろうか……?
シンジは息を整えると、苦し気につぶやいた。
「綾波さん、不潔です……」