EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

29 / 31
■ 前書き ■

綾波の出番が少なすぎる為、書いてみました。(´・ω・`)


綾波さん不潔です(15禁)

「乾杯~」

 

声とグラスが打ち合う音が揃った。

シンジ、リツコ、マヤの三人が晩餐(ばんさん)を囲っていた。

スパイスの効いた良い香りがテーブルから立ち上る。

今夜はカレーだ。

 

「手作りね。どっちが作ったの?」

 

マヤとシンジが揃って手を上げた。

 

「ボクは、野菜の皮むきと味付けをしました」

「私は、包丁でお肉と野菜を」

 

リツコは笑った。

 

「あら、仲がいいのね」

 

シンジがマヤのマンションに越してから、ちょうど一月(ひとつき)が経とうとしていた。その短い間に、二人は予想以上に打ち解けているようだった。

 

「そりゃもちろん、仲良しさんですけど……」

 

マヤは少し不満げに頬を膨らませる。

 

「年上のお姉さんと暮してるんだから、もうちょっと、緊張してくれても良さげなんですけどね~」

 

マヤの言葉に、シンジは照れ笑いを浮かべた。

 

「ボクは、ミサトさんで、もう慣れちゃってますから」

 

本当は、ガサツなミサトと違い、女の子らしいマヤと過ごすことに、まだ気恥ずかしさがあった。だが、シンジは、それを(おもて)に出すことはなく、平気な振りをしていた。

 

 

「ミサトと暮したお陰で、女子に対する幻想なんて吹っ飛んだんじゃない?」

「それは……まあ……」

 

ミサトと暮していた時は、一週間も経たない内に、彼女の下着を洗う事にすら慣れてしまっていた。正直、オッサンと暮しているような気分だった。

 

「そういえば、転居するのに手続き大変でしたね。IDカードを書き換えるだけで一か月も掛かるなんて」

 

「あなたが、偽造で済ませてたからでしょ。まったく……この前は免許証まで偽造してたらしいじゃないの」

 

そういうと、リツコはグラスをおき、ショートバッグからIDカードを取り出した。今日は、これを届けに来たところで晩餐にあずかったのだ。

 

「はい、シンジ君。大切なものだから、無くしちゃダメよ」

「ありがとうございます」

 

シンジが受け取ると、リツコは急に顔をしかめた。

 

「あ、しまった……」

「どうしたんですか先輩?」

 

リツコは、鞄からもう一枚IDカードを取り出していた。

 

「レイのカードも更新してたのよ。渡すの忘れてたわ」

 

リツコはそういうと、

 

「シンジ君、明日、ネルフに出勤よね。悪いけど途中でレイの所に寄ってもらえないかしら?」

 

レイのカードもシンジに渡した。

 

「え……ボ、ボクが、綾波”さん”の家にですか?」

 

リツコとマヤは顔を見合わせた。

 

「シンジ君ってば、レイのこと『さん』付で呼んでるの?」

 

マヤの言葉に、シンジは動揺する。

 

「あ、その……綾波さんとはまだ親しくないから……」

 

再び二人は顔を見合わせると、クスリと笑った。

 

「年上のお姉さんは平気なのに、同い年の子は苦手なのかしら?」

「うわ、シンジ君。年上キラーの素質あるんじゃない?」

 

二人にからかわれても、シンジは笑えなかった。

 

「マ、マヤさんも……一緒に」

 

「あら、マヤに頼ってちゃダメよシンジ君。レイと仲良くなれる良い機会じゃない」

 

「もう先輩。シンジ君に浮気すすめちゃダメですよ」

 

女たちは笑いあっていたが、シンジは引きつった()みを受けべる事しかできなかった。レイのIDカードを持った手が小刻みに震えている。

 

綾波の家に行け……シンジに取って、冬眠中の熊の洞穴(ほらあな)に入って来いと言われたような気分だった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 

翌朝、レイの部屋の前に、シンジの姿があった。

一度、深呼吸してから、シンジはインターホンを押した。そして、おずおずとマイクに声を掛ける。

 

「あ、あの、綾波さん……碇です。リツコさんのお使いに……」

 

少し沈黙する。インターホンから返答はなかった。

 

「あ、お留守ですか」

 

(良かった留守なんだ)

 

早々に留守だと決めつけたシンジは、そのまま(きびす)を返そうとした。

 

『居るわよ。入って』

 

が、その背にレイの声を聞き、立ち止まった。

 

「あ、はい……」

 

 

おそるおそる扉を開ける。

 

「ご、ごめんください……」

 

玄関にはダイレクトメールが無造作に散らかっていた。それを踏まないように気を付けながら、部屋に上がる。

 

(ここが熊の巣……)

 

レイの部屋は、ミサトともマヤとも全然違っていた。

ミサトの部屋がゴミ屋敷なら、マヤの部屋は少しミニマリストに近かったが、レイの部屋はそれ以上に殺風景だった。

ベットに、少しばかりの調度品。そして、部屋の隅には、ウェイトトレーニングの道具一式が並んでいた。

 

「綾波さん……っ痛」

 

足元のダンベルに爪先(つまさき)を打ってしまった。

 

「……綾波のかな」

 

シンジは何げなく、それをつかんでみた。そして、持ち上げようとする。

 

「うわ、重っ……何キロあるんだ?」

 

シンジの腕力では持ち上がらなかった。何キロなのか確かめようと屈んだ時、バスルームの扉が開く音がした。

 

シンジが振り返ると、レイがお風呂から上がってきたところだった。一枚のタオルを肩に掛けているだけで、何も身にまとっていない。

 

突然、さらけ出されたレイの裸体にシンジは慌てた。

 

「い、いやあのっ!」

「なに、勝手に触っているの!?」

 

シンジの動揺を他所に、レイはダンベルを触っている事を咎めると、ズカズカとシンジに詰め寄った。

 

「素人が触ったら危ないわよ!」

「いや、ボクはIDカードを」

 

咄嗟(とっさ)に立ち上がり、鞄の中からIDカードを取り出そうとする。慌てていたせいで、鞄の帯が壁のダンベル掛けに引っ掛かってしまう。

 

「僕は、別にっ、うわあっ、ったった、わあぁっ!」

 

引っ掛かった拍子に足を滑らせ、前から詰め寄ってきたレイの方に倒れ込む。

殺風景な部屋に、フローリングの床を打つ大きな音が鳴り、ダンベルが転がる低音が後に続いた。

 

思わず閉じていた目を開けた時、シンジは自分が裸のレイの上に(おお)いかぶさっている事に気づいた。さらに、左手に柔らかい感触を覚え、真っ青になる。

 

……殺される……!

 

不可抗力(ふかこうりょく)とはいえ、綾波の裸を見、綾波を押し倒し、胸を触ってしまった。

次の瞬間、シンジは脱兎(だっと)のごとく、玄関に向かって飛び出していた。そして、そのまま駆け出……せず、盛大に転倒した。

 

「い、痛てて……」

 

顔をまともに打ってしまった。今度は滑った訳じゃない。

シンジは倒れたまま、おそるおそる自分の足元を見た。自分の足首を、レイの手がガッチリとつかんでいた。

 

「碇君……なに、ナチュラルに逃げようとしているのかしら?」

 

レイは、ユックリと立ち上がった。

 

「あ、綾波さん。わざとじゃないんです」

「正座しなさい」

「ボクはリツコさんのお使い……」

「正座!」

「はい」

 

レイが着替えるまで、シンジは冷たい床に正座して待ち続けた。

着替え終わったレイが、その前に仁王立ちになって、シンジを見下ろす。

 

「女の子の裸を見た上に、押し倒して、卑猥(ひわい)な事までして逃げる……ふざけているのかしら?」

「そ、そんなつもりは……」

 

「うつむいてないで、顔上げなさい!」

「は、はい……」

 

シンジはカブリを上げたが、直ぐに慌てて視線をそらした。

 

「え、綾波さん……なんで?」

「なに?」

「な、なんで下着しか付けてないんですか……」

 

着替えたと思ったはずのレイは、肌着しか付けていなかった。しかも、なぜか就寝用のキャミソールだ。

 

「あら、裸の方が良かったのかしら?」

「いえ、そういう訳じゃ……」

 

シンジは、視線をそらしたまま、話題を変えようとした。

「そ、そういえば、怪我の方はもういいんですか……」

「怪我なんかしてないわよ?」

「え、でも、この前まで包帯とか……」

 

そういえば、手のギブスが無くなっていた。

 

「あれは小道具よ」

「でも、初めて会った時は、立てないくらいだったじゃないですか?」

「台本に書いてあったから、そうしただけよ」

「……」

 

「そんな事より、どう落とし前付けてくれるのかしら?」

「……」

 

レイは、タンスの上にあった自分の携帯を一瞥(いちべつ)した。

「今から、リツコさんたちに報告していい?」

「そ、それは困ります」

「じゃあ、どうするの?」

 

気まずい空気の中で、レイの威圧感が、頭上からヒシヒシと迫る。

 

(いっそ殴られていいから……)

 

シンジは、意を決すると立ち上がった。そして、殴られるのを覚悟で、

 

「じゃあ、お詫びにボクも脱ぎます」

「ふざけないで!」

 

レイのビンタが飛んだ……が。

 

「……?」

 

その手は、シンジの頬の手前でピタリと止まっていた。

 

「……て、私が怒ってブツと思った?」

レイは、怒気を押し殺してポーカーフェイスを保つと、

「殴られて、丸く収まると思った?」

シンジの思惑を見透かしてしまっていた。

 

もちろん、そんな悪ふざけをして殴られた所で、丸く収まるものではない。だが、コミュ力の無いシンジが不器用なりに考えた事だった。

 

「ごめんなさい、綾波さん」

 

頭を下げるシンジに、綾波は肩をすくめた。

「でも、確かに不公平ね」とつぶやき、続ける。

「いいわ、脱ぎなさい」

「へ……こ、これは冗談のつもり……」

「いいから脱ぎなさい!」

 

予想外の言葉にシンジは後ずさった。それを追うようにレイは迫る。

 

「あ、綾波さん、落ち着いて……」

「落ち着いてるから脱ぎなさい」

 

背中が壁にぶつかる。壁際まで追い詰められてしまった。

レイは手を伸ばすと、身構えるシンジの両腕をつかんだ。

 

「あ、綾波さん、不味いよ。ヒロインがそんな……」

「不味い?」

 

レイは怪訝(けげん)に眉を寄せると、シンジの首筋に顔を近付けた。そして

 

「ひぃぃぃ!」

 

シンジは悲鳴を上げた。

 

(な、()められた!?首と頬を!?)

 

「別に、不味くはないわよ?」

 

そういうと、レイはポーカーフェイスを崩し、妖艶な笑みを浮かべた。

 

「碇君、初めてあった時の事、覚えてるかしら?」

 

初めてあった時……それはシンジが初めてネルフに足を踏み入れ、エヴァに乗る事を強要されたあの時だ。

 

「碇君、私の事を心配して、碇司令に抗議してくれてたわよね」

 

シンジの腕を握るレイの手に力がこもる。

 

「細い華奢(きゃしゃ)な身体で、私を必死で支えながらね」

 

固まるシンジの耳に唇を近づけて、ささやく。

 

「あの時、私、ゾクゾクしたの。碇君の細い身体を無茶苦茶に抱きしめ返したいって思ったわ……」

 

レイが身体を密着させてきた。

 

「あの時以来、シンジ君と一緒にいると子宮の奥がポカポカするの……碇君にもポカポカして欲しい」

 

シンジの全身に電気のような悪寒が走った。必死になってレイの手から逃れようとする。

 

「無駄よ。ベンチプレス80キロいける私の拘束から、非力な碇君が逃れられるはずがないわ」

 

レイの太ももが、シンジの足に絡む……と、どこからか携帯の着信音が聞こえた。

床に落ちたシンジの鞄からだ。

 

「出たら殺すわよ」

 

二人は密着したまま、着信音が鳴り止むまで沈黙した。

音が鳴り止み、レイの手がシンジのズボンに伸びようとした時、今度は、タンスの上に置かれていたレイの携帯が鳴りだした。

 

レイは舌打ちすると、逃げないように左手でシンジを抱え込んだまま、右手を携帯に伸ばした。

シンジに「声出したら殺すわよ」と釘を刺してから、『応答』の文字をタップする。

 

「はい、レイです」

『あ、私よ、リツコ。シンジ君はそこにいる?』

「さっき帰りました」

『IDもらった?』

「はい」

 

『ごめんなさい。そのID古い方だったのよ。今から新しいの届けに行くから』

「いえ、ネルフに着いてからで結構です」

『ちょうど、近くまで来てるのよ。ついでよ』

「あと、どれくらいで着きますか?」

『10分くらいかしら?』

「……分かりました」

 

携帯を切ると、レイはシンジを解放した。

 

「残念だったわね碇君」

 

(た、助かった……)

 

シンジは、ぐったりと壁に寄り掛かった。

 

「でも、碇君、忘れちゃダメよ。今日の事は全部あなたが悪いのよ。私の裸を見て、私を押し倒して、胸まで触って」

「わ、分かってます……」

 

「でも、いいわ。お相子(あいこ)だから許して上げる」

「お相子って?」

 

レイは、バツが悪そうに頭をかいた。

 

「碇君が、初めて使徒と戦った時、ショックを受けて病室で寝てたわよね」

目が覚めた時に見た、あの白い見知らぬ天井だ。

 

「あの時、私はお見舞いに行ったの……でも、碇君は目を覚まさなかった……だから」

 

レイは沈黙をはさんでから、続ける。

 

「寝てる碇君の横で、酷いことをしちゃったわ」

「ど、どんな事……?」

「あなたが旧劇場版の冒頭でやったのと同じ事よ」

 

そこまでいうと、レイは嘆息し、自分の髪をかきあげた。

 

「最低ね、私って……」

 

レイは、床に落ちていた鞄を拾うと、唖然(あぜん)とするシンジに渡した。

そして、玄関まで連れて行き、扉を開けてやる。

 

「行きなさい」

 

シンジは靴を()くと、放心した様子で何度もうなずいた。

出て行こうとするシンジに、レイは告げる。

 

「でも、碇君、憶えておきなさい。今後二人きりになる事があったら……」

 

最後の言葉を耳元でささやく。

 

「今日の続きを望んでるんだって、私は判断するから」

 

 

 

気が付いた時、シンジはレイのマンションから駆け出していた。

どれくらい無我夢中で走り続けただろうか?

遂に息を切らし、レイのマンションが見えない所まで来ると、シンジは、歩道のポールに寄り掛かった。

胸の動悸が激しかった。小休止し、息を整えても、その動悸は収まらなかった。

 

前回、遅刻したら殺すとレイに脅された。

今回は、二人きりになったら犯すと宣言された。

今後、武闘派で肉食系の綾波に、シンジは狙われ続ける事になるのだ。

 

『マヤとシンジの愛の劇場』……なのに、マヤとの関係はさほど進展せず、その前に貞操を失いかねなかった……一体、どこまでタイトル詐欺は続くのだろうか……?

 

シンジは息を整えると、苦し気につぶやいた。

 

「綾波さん、不潔です……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。