EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

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使徒、襲来

「あら、もうこんな時間ね……じゃあ、シンジ君の事があるから」

 

ミサトは、リツコから受け取ったファイルを鞄にしまうと、ネルフの職員から少年の保護者へと変わろうとした。

が、それはジオフロントに鳴り響く、けたたましい警戒音によって延長させられてしまう。

第一種警戒体制を示すサイレンの()だ。

 

「何事!?」

 

作戦局課長して、ネルフ作戦本部長・ミサトは、リツコを押し退けるとPCのキーを打ち、応答を求めた。

画面に日向が映し出される。

 

「南南西の方角より、甲殻型の巨大生物接近の報あり……パターン青!使徒です!」

 

画面に、別ウィンドウが開き、マヤが映る。

 

「既に、ファースト及びサードチルドレンに召集命令が出されました!作戦本部長も、至急、司令室へ!」

 

「分かったわ!」

 

ミサトはうなずくと、再度時刻を確認する。

 

「今なら自宅にいるはずね」

 

そして、携帯電話を取り出すと、短縮ダイアルを押した。

 

「……シンジ君、来て!」

 

 

 

サイレンの音が、第一種“警戒体制”から“戦闘体制”を告げる音に変わった。

 

 

「はい……分かりました。直ぐに行きます」

 

マンションのリビングで、シンジは上官の指示を受けていた。学校から帰宅したばかりの為、まだ学生服のままだった。

 

『マンションの前に、黒服の人が待機しているはずだから!その人の車に乗って!』

 

「分かってます。さっき本部からも電話がありましたから……」

 

シンジは、かたわらの電話機に目をやった。

さきほど固定電話で召集命令を受けた所だった。その受話器を下ろした時に、鞄の中にしまっていた携帯が鳴り出したのだ。

 

「はい、着き次第、エヴァに乗ります……」

 

シンジは携帯を切ると、じっと、その画面を見詰めた。

十字キーの右を押し、着信歴を確認する。

着信歴には、携帯番号がたった一件だけ表示されていた。

シンジに携帯をくれた保護者……ミサトの番号だ。

それ以前の着信記録はなかった。

 

シンジは溜め息をついた。

 

シンジがエヴァのパイロットである事は、既に学校中に知れ渡っていた。

ネルフ本部が拠点を置く都市だけあって、学校には、それに関わる人たちの子供が多く通っていた。親から聞きかじったのか、同級生の間には、少し前から、パイロットが14歳である事と、新しいパイロットが選出された事が噂として流れていた。

そんな時に、転校生が現れたのだ。シンジが疑われるのは自然な事だった。そして、シンジには、別に隠す理由はなかった。

携帯のアドレス帳には、そんなシンジへの好奇心から言い寄ってきたクラスメイトの番号が、数十件か登録されている。

 

正直に答えた時、シンジは、クラスメイトに囲まれ、色々と質問を浴びせられた。

 

『どうして、パイロットに選ばれたの?』

……知らない。

 

『この前の爆発事故って、本当は使徒の仕業なんだろ?使徒って何なんだよ』

……知らない。

 

でも、好奇の目で見られ質問を浴びせられても、何も答える事ができなかった。

本当に何も知らないのだから……なぜ、自分がここにいるのかすらも。

興味をもたれても、それに応える事ができない少年。

エヴァのパイロットという以外に、何の特徴も取り得も無い少年。

彼らの好奇の目が冷ややかなものに変わるのに、それほど日時を要しなかった。

数日の内に登録された数十件のクラスメイトの番号。でも、一度も携帯の着信音が鳴った事はなかった。

 

鞄の中から呼び鈴が聞こえた時、シンジは少しだけ嬉しくなった。

使徒が迫り、その危機感から、クラスメイトの誰かが掛けてきたのかと思った。

でも、携帯を耳元にあてがった時に聞こえたのは、クラスメイトの声ではなく、年上の女性の声だった。

そして、その言葉は、シンジの身の上を心配する言葉でも、シンジを(はげ)ます言葉でもなく、作戦本部長から与えられる指示だった。

 

ボンヤリと携帯画面を見詰める。

何度目かの戦闘配置を告げるサイレンが、辺りに轟いた。

 

「行かなきゃ……」

 

シンジはつぶやくと、携帯電話をズボンのポケットにしまおうとする。だが、寸前で止まり、少し躊躇(ちゅうちょ)してから鞄の中に戻してしまった。

持ち歩かなくたってボクには必要ないんだ、とでも言いたげに……。

 

「進路クリアー、オールグリーン!エヴァンゲリオン零号機発進準備完了!発進します!」

 

ネルフの作戦本部司令室に、オペレーターのマヤの声が響く。

数秒後、司令室のメインモニターに、地上に発進された零号機の姿が映し出された。

 

「こちら零号機。地上に出ました……目標を確認」

 

零号機パイロット、綾波レイの声。

前回の使徒との戦闘で重症を負った彼女は、まだ完治していない身だ。だが、彼女の声には、少しの不安も感じられなかった。わずかな緊張感だけをにじませ、冷徹に任務を遂行しようとしている。

 

「いいレイ?あなたは無理をしないで。まだ病み上がりなんだから」

 

リツコが、ヘッドマイク越しにレイに言葉をかけた。

 

「零号機パイロット・綾波レイ。今回は、零号機と初号機の二体で撃退します。あなたの使命は、初号機が到着するまでの時間稼ぎ及び陽動。そして、使徒の特性を見極める事」

 

作戦本部長の(リン)とした声が響く。さきほど、親友相手に下卑(げび)た話をしていた女性とは思えぬ凛々(りり)しさだ。

 

ミサトは、自分のデスクに着かず、メインモニターがよく見える司令室の中央で、威厳を正して立っていた。その後ろの一段高いステージに設けられた席には、総司令・碇ゲンドウが沈黙を保ったまま鎮座(ちんざ)している。

 

今まで幾度も繰り返してこられた使徒迎撃シュミレーション。総司令のはずのゲンドウは常に言葉少なく、大方(おおかた)の指示を本部長に委ねていた。

そして、この本番に至っても、彼の態度は変わらなかった。

 

若き本部長の指示が続く。

 

「使徒が零号機を捕捉次第、BブロックからDブロックに後退。途中の対空迎撃施設を利用しながら距離を保って防戦に(てっ)し、決して決戦には挑まないように」

 

前回の初の使徒襲来では、零号機では対処できず、レイは戦闘不能に陥ってしまった。彼女に代わって、父親……総司令に呼び出されていたシンジが初号機へと乗り込み、何とか使徒を撃退した。だが、それはパイロットが気を失い、初号機が暴走した上での勝利だった。

この二つの事実は、今のパイロットの実力では、一対一の戦闘で使徒を撃退できるレベルに達していない事を意味していた。

 

確実に使徒を仕留める為にも、作戦本部長・葛城ミサトは二機による連携攻撃を計画していた。

 

「了解……」

 

短い返事を返し、レイは慎重に使徒へと向かった。

海中から突如(とつじょ)現れ、第三新東京に上陸した第四使徒・シャムシエル。

深海魚のようなグロテクスさと、愛らしいイルカを合わせたような容貌(ようぼう)を持つそれは、まるで、深海の暗闇でヒッソリと生息していた未知の生物が、地上に迷い出たかのようだった。

はたして、この海底からの来客は、どんな能力を秘めているのか?

 

「しかし、おかしなものね……」

 

メインモニターを眺めながらミサトはつぶやいた。

 

「使徒が最後に現れてから15年……その間、こっちが使徒に備えて要塞都市を築いている時は、何の音沙汰もなかったのに……ゼーレがエヴァのパイロットを三人選定した年に、続けて二体も使徒が出現するなんて……」

 

ミサトは、かたわらの親友を一瞥(いちべつ)する。

 

「まるでゼーレは、使徒が出現する時期を知ってたみたいじゃない」

「知ってたんじゃなくて、予測したんでしょ」

 

ヘッドマイクをオフにし、リツコは親友にささやく。

 

「予測したって……」

「それがゼーレの仕事じゃない」

 

ミサトは少し不服そうな表情を見せると、視線をメインモニターに戻した。

 

零号機出撃前から稼動し始めていた対空迎撃システムが、火を()きながら轟音(ごうおん)を響かせている。各所の自動砲塔が、ミサイルポッドタワーが、無人戦車群が、砲撃を繰り返している。だが、モニター越しに視認しても、使徒にはなんらダメージを与えていない事が見て取れた。精々、足止め程度の役割しかはたせていない。

 

硝煙(しょうえん)が立ち込める中、悠々(ゆうゆう)と前進を続けていた使徒が、急に二本の触手を伸ばした。そのまま(むち)のようにうならせ、対空砲を搭載した塔やタワーを次々と破壊してゆく。

いや、破壊というよりも、コンクリートと特殊合金で作られた迎撃兵器を触手の一振りで切断していた。

真っ二つに両断された戦車が炎上し、切り倒されたタワーの切断口から火花が上がり、爆音に空気が震える。

 

「ただの税金の無駄遣いだな」

 

背後の段上から、冬月・副指令のささやきが聞こえた。彼もまた、作戦指示を本部長に(ゆだ)ね、その手腕(しゅわん)を見守っている。

 

ミサトは唇を()むと、ポケットに手を入れ、携帯を取り出した。

携帯は、ずっとシンジの番号に掛けっぱなしの状態になっていた。

 

「変ね、どうして出ないのかしら?」

 

既にシンジを呼び出してから40分が経過している。ネルフの諜報部が用意した車に乗り込み、非常用ルートを通っていれば、とっくにジオフロントに到着していて良いはずだ。

だが、本部にサードチルドレンが到着したという報告はまだ届いていなかった。

 

「車内電話からキャッチホン?」

 

携帯の画面を見つめ、キャッチホンに気づいたミサトは、慌てて応答する。

 

「はい……え、シンジ君!?」

 

シンジからだった。

 

『すみません、ミサトさん!車が横転してダメなんです!近くに流れ弾が落ちちゃって』

 

「大丈夫なの!?」

 

『ボクも、運転手の人も無傷です。でも、気を失ってて……ボクじゃ、運転できないし……』

 

ミサトがシンジと交信している事に気づき、職員たちがミサトに注目した。

 

「今、どこにいるの!?」

 

『ええと……近くの電柱に、Dブロック・299って書いてます』

 

「Dブロック・299ね。今、救護班を向かわせるわ!」

 

いいながらミサトは顔をしかめた。

今から救護班を向かわせていたのでは、遅すぎる。救護班に出動要請を出し、Dブロックに向かわせ、シンジをジオフロントにまで連れてこさせるには、どう考えても往復で一時間以上は要する。

そこまでレイ一人で時間稼ぎができるとは思えない。しかも、既に零号機は使徒の攻撃を防戦しながら、Cブロックに後退し始めた所だ。

 

「レイ聞こえる?Dブロックじゃなくて、Eブロックに向かって後退して。後、60分……いえ、後40分、決戦を()け続けれるかしら?」

 

「やってみます」

 

レイの落ち着いた声が返ってきた時、ミサトに振り返っていたオペレーターの少女が一人、

 

「あの、今、Dブロック・299って言われました?」

 

驚いたようすで発言した。伊吹マヤだ。

 

「そこでシンジ君が立ち往生してるんですか?」

「そうよ」

「そこなら、非常用の通路があります!正規の通路じゃありませんが、私が以前、Dブロックの周辺データを調べた時に発見したんです」

 

後輩の言葉に、リツコが思い出した。

 

「そういえばマヤ。Dブロック・299って、あなたのマンションがある所よね」

「はい、地元ですから地理も私が詳しいです!」

「じゃあ、伊吹二尉。あなたにナビをお願いするわ」

 

ミサトはうなずくと、シンジに告げた。

 

「シンジ君。救援が来るから、運転手の人はそのままにして。あなたは車から出て携帯を出して。こっちからナビするから……え、どうしたの?」

 

『その……慌ててたんで、携帯を忘れちゃって……』

 

「バカ!」

 

ミサトが苛立(いらだ)った声を上げる。

 

「こういう時の為に、携帯を持たせたんでしょうが!」

 

言ってしまってから、ミサトは唇を噛んだ。任務の為だけに携帯を持たせた訳じゃない。だが、『こういう時の為に持たせた』と思わず言ってしまったのだ。

 

「……とにかく、そこで救護班を」

「葛城本部長!」

 

ミサトの言葉を遮ったのは、マヤだった。

 

「通路はあるんです!こっちからも行けるんです!第三・予備ゲートの13番中継地点から、Dブロック299へ行ける通路があるんです!」

「13番中継地点って、あんな所から!?」

 

マヤはうなずく。

 

「特別なルートがあるんです!ここから行くには少し時間が掛かりますが、そのルートを使えば、13番中継地点まで一分も掛からないはずなんです!」

「あなたは、そのルートを知っているのね?」

「まだ使った事はありませんが、知っています!」

 

ミサトは、マヤの目を見詰めた。そして、マヤの真剣な眼差しを受け止めると、

 

「伊吹二尉……行って!」

 

意を決し、彼女に希望を託す。

 

「はい!」

マヤは立ち上がった。

 

ミサトは、駆け出して行ったマヤの背中を見詰めながら、シンジに、迎えの者が来るから近くの公園まで移動するようにと指示した。

返事と共に、車内電話の通信が切られる。ミサトは、しばらく使う必要がなくなった携帯を閉じ、ポケットにしまった。

シンジが携帯を忘れた以上、以降の交信は無理だ。後は、マヤを信じて任せるしかない。

 

「赤木博士……」

 

メインモニターに映し出される戦況を見詰めながら、ミサトはつぶやいた。

 

「なにかしら?作戦本部長」

「さっき、私が口にしたゼーレの話……聞かなかった事にしてもらえるかしら?」

「いいけど、どうして?」

「この間、日向君にエヴァのDVD借りて見ちゃったから、ゼーレや人類補完委員会の事は百も承知してるんだけど……」

 

ミサトは、肩をすくめて見せる。

 

「良く考えたら、アニメ本編では、私はまだこの時点では、ゼーレの事を知らない設定になっているのよね」

「あら、私もウッカリしてたわ……良く気付いたわね」

「ええ、親切な人が掲示板で教えてくれたの」

(作者注※これを某所で書いていた当時、そう指摘してくれた方がいました)

 

「なるほど。まあ、作者もSS書く前に一回エヴァを見ただけだから、仕方ないわね」

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