EVA マヤとシンジの愛の劇場   作:風都水都

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決着

「パイロット、脳波、反応を示しました!シンジ君、大丈夫!?」

 

マヤの報告が響く。直ぐに、シンジから応答の声が届いた。

 

「すいません、一瞬、気を失ってました。もう大丈夫です」

 

シンジの声を聞くと、ミサトは安堵の溜め息を漏らした。どうやら、リツコらは考えすぎだったようだ。

司令の言葉が気に掛かったが、今は詮索(せんさく)している場合ではなかった。

 

「シンジ君、もう時間が無いわ!早く使徒にトドメを!」

 

「はい!」

 

シンジは返事をするものの、慌てて、

 

「あ、そうじゃなくて……大変です!避難し遅れた人がいるんです!」

 

言い直した。

 

「なんですって?」

 

「丘の、鳥居が立っている近くです!」

 

素早く青葉がキーを打った。自分のPCのモニターに丘に、設置されたカメラの画像を全て表示し、直ぐに該当者を見つける。

モニターに、二人の少年の姿が映し出された。

 

「作戦本部長!」

 

青葉は顔色を変えて、上司に振り返った。

 

「ヤバイっすよ!前回みたいにコアが大爆発すれば、完璧巻き込まれます!」

「近くにシェルターはないの!?」

「一番近い所でも、麓に下りて300メートル。避難を待ってたら、先にエヴァが停止します」

日向が応える。

 

ミサトはマヤに視線を送ったが、マヤはクビを振った。この辺りに近道はないらしい。

 

「仕方ないわ。シンジ君、何とか民間人の位置まで移動して!一度、エントリープラグを解放して、中に民間人を回収するわ」

ミサトの言葉に、オペレーターたちは驚いた。

「それって、コクピットの中に入れちゃうって事ですか?」

確認するマヤ。

 

「エヴァの中以外に、安全な場所があるかしら?」

「でも、そんな事をしたら、ノイズが交じってエヴァが上手く操縦できなくなってしまいます!」

「エヴァの体内電源が切れるまで、3分弱です。今、ここでコアを破壊するなら十分ですが、民間人を回収してたら時間が……」

マヤに続き、日向もミサトの命令に異議を唱える。しかし、

 

「じゃあ、民間人を見捨てろっていうの!?」

ミサトの一喝(いっかつ)に黙ってしまった。

 

「司令!一時撤退し、作戦を練り直します!よろしいですね」

ミサトは、司令に許可を求めた。

「再出動して、使徒を倒せる自信は?」

 

司令の問い掛けに、ミサトは胸を張ってみせる。

「あります!」

「ならば好きにしろ」

「待て!」

 

司令は許可しても、副司令は承知しなかった。

 

「作戦本部長!既に莫大な損害が出とるんだ!今、ここで使徒を仕留めねば、さらに被害が広がる可能性だってある。いや、下手をすればジオフロントに侵入され、大勢の犠牲者が出るかも知れん!」

 

厳しい視線をミサトに向ける。

 

「君は、この第三新東京全体の運命と二人の民間人、どちらが大切かね!?」

 

副司令の視線に、ミサトも真剣な眼差しを返した。そして、問う。

 

「副司令……もし、目の前の河で、愛する人と赤の他人が溺れているのを見たら、あなたはどちらから先に助けますか?」

「当然、愛する者からだ」

 

「では、赤の他人が川岸の直ぐ近くで溺れている場合は?そして、愛する人にはまだ溺れないだけの体力が残っている場合は?」

 

ミサトの言葉に、副司令は少し考え込んでから応える。

 

「その時は、先に川岸に近い方から救助するかも知れんな」

 

副司令の回答に、ミサトはうなずいた。

 

「私も同じです。私も、真っ先に救助できる方から助けます」

 

作戦本部長・葛城ミサトは、モニターに向き直ると、オペレーターたちに宣告した。

 

「目の前にいる民間人の救助を優先します。青葉二尉、使徒の注意をそらす為の弾幕を。伊吹二尉、エントリープラグ解放の用意を」

 

 

エヴァ初号機が、使徒の体から離れた。直ぐに自動砲塔が使徒を攻撃し始め、使徒が起き上がるまでの時間を稼ぐ。

シンジは、エヴァをケンスケとトウジの近くまで移動させた。直ぐに、エントリープラグが放出される。

 

『そこの二人、乗りなさい!早く!』

 

エヴァを介した無線を通して、ミサトは二人に乗り込むように告げた。

エントリープラグから下ろされた縄梯子(なわばしご)のようなものに、二人は慌ててつかまる。

 

「ケンスケ、アホんだら!お前が使徒撮影したとかいうから、こないな目にあうんや!」

「お前だって、反対しなかっただろ!」

 

二人の少年は言い争いながらよじ登ると、ハッチが開かれたエントリープラグの中に入った。ドボンという音が二つ鳴り、直ぐにハッチが閉じる。

溶液の中に落ちた二人は慌てだした。

 

「ガボ……ガ……なんやこれ……水……?」

「息が、息ができ……」

 

LCLを飲み込み、呼吸を確保する。

 

「え?おお?」

「あれ、息できちゃうね?」

二人は驚き顔を見合わせた。

 

「神経系統に異常発生!」

司令室で、マヤが告げる。

「エヴァ活動限界まで、後一分」

日向がカウントを始めた。

 

 

二人の少年は、直ぐに操縦席のシンジに気付いた。

 

「あ、転校生や……」

「よ、よう碇……元気?」

「鈴原トウジと相田ケンスケだよな?」

シンジは振り返りもせずに、二人の名前を確認する。

 

「お、おう……名前、覚えててくれたんやな、転校生」

トウジの方は、覚えていなかった。

 

「そりゃ、あんな事したんだもん、嫌でも覚えちゃうさ」

隣からケンスケがささやく。

 

「あれが、使徒だよ。ボクは、あんなのと戦わされてるんだ」

モニターに、弾幕を受けながら立ち上がってこちらに迫る使徒の姿が見えた。

「お、おお。そ、それは大変やな……」

 

 

「シンジ君、二人の回収は終わったわね。撤退しなさい。3時の方向に回収ゲートを開いたわ。山の東側に回って」

 

ミサトから無線が届く。だが、シンジは応答しない。

 

「あ、あの……撤退しろって言われてるみたいだよ、碇君?」

ケンスケがおそるおそる声を掛けるが、シンジは、振り返りもせずに意外な事を言い出した。

 

「今、撤退したら……被害が広がって、また妹さんや誰かが怪我するかも知れないよな?」

ケンスケとトウジは顔を見合わせた。

「あ、ああ……まだあの時のこと根に持っとるんか?」

 

困った様子でトウジは頭をかくと、申し訳なさそうに手を合わせる。

「いや、あの時はスマンかった!使徒が、こんな恐ろしいもんやとは知らん……」

「ここで決着付けるから!!」

突然、シンジは絶叫するように叫んだ。

 

「シンジ君、何してるの!?撤退しなさい!」

 

エヴァ初号機はナイフを構えた。

 

「だから……もう、ボクを殴るなよな……」

 

右のハンドルを押し、エヴァを突撃させる。

 

「撤退しろっつってんでしょうがーーー!!!」

「うおぉおおおおおおおーーーー!!!」

 

 

「16時38分、第一種警戒体制発令……。16時55分、F地区より順次、第二種戦闘準備発令……。17時01分、自動砲塔、ミサイルポッドタワー、対空砲始動……」

 

既にどっぷりと日が暮れ落ちた新東京。自動砲塔やミサイルポッドタワーは地下に収納され、街は元の都市の光景に戻っていた。あちらこちらに、痛々しい傷跡を残しながらも。

 

「18時01分、エヴァンゲリオン初号機、民間人をエントリープラグ内に確保……。同時刻、初号機・碇シンジパイロット、本部の命令を無視し、使徒に突撃……」

 

耳障りなサイレンの音も、本部長の怒声も消え、静寂を取り戻したネルフの司令室には、対使徒迎撃戦の報告書を読み上げるマヤの声だけが響いていた。

既に青葉と日向は、終わったとばかりに気を抜き、椅子にだらしなくもたれかかっている。その姿をミサトに(にら)まれ、慌てて背筋を正す。

 

「18時03分……12秒、目標、完全に沈黙。その1秒後、エヴァンゲリオン初号機、内部電源の枯渇により活動を停止……以上です」

 

どこからか溜め息が漏れた。

マヤは慌てて付け足した。

 

「なお、使徒が沈黙したのは、碇シンジ氏が使徒の核をプログ・ナイフの一撃で貫いたお陰です。今回は、核が爆発する事も無く、原型を留めたまま回収できそうです」

 

さらに、マヤは作り笑顔を見せながら

「民間人も救出できたし、使徒も倒したし、核も回収できるし……お、大手柄ですよね……?」

とシンジをホローしたが、誰も感心した様子を見せなかった。

 

副司令・冬月は深いため息を付くと、白髪をかき上げた。

 

「さて、“良くやった”と褒めてやるべきか……それとも、命令無視と危険なギャンブルをやった事を叱るべきかな?」

 

冬月はミサトに視線を送ったが、ミサトはそれをかわすと

 

「では、事後処理は後ほど。対使徒作戦本部はこれにて解散します」

落ち着いた声音で解散を宣言した。

 

だが、壁の時計にチラリと視線を送り、時計の針が7時に近付いている事に気づくと、

「いえ……切りがいいので、解散は7時で。それまでは皆さん、気を抜かないように……では、これにて各々の作業に戻って下さい」

何を思ったのか、解散を7時に変更した。

 

 

「今日も残業ね……」

司令と副司令が奥に消えると、リツコが煙草に火を点けた。

「まあ、いいデータが取れそうだから、別にいいけど」

 

リツコが、溜め息と共に煙を吐き出した時、ミサトがツカツカと近づいてきた。

「リツコ。私は、パイロットのケアもあるので、7時で帰らせてもらうわよ」

悪びれた様子も無く、リツコに告げる。

それに対し、不満も見せずに「ええ」と肩をすくめて了解するリツコ。

「アナタには、初号機のパイロットへの指導も残ってるものね」

 

下段のフロアのデスクで、マヤが立ち上がった。

「私、ちょっとシンジ君の様子みてきます」

 

 

エントリープラグに乗せられた二人の民間人は、シンジが神経回路を解除している内に、救護班によってどこかに連れられて行った。

LCLが放出された後、ようやくエヴァから解放されたシンジは、疲れた様子でゲートから出てきた。

 

「……!」

 

ゲートから出た途端、何か小さな塊が飛んでくる事に気づき、慌ててキャッチする。が、手から滑り落ちてしまう。

床に落ちたのは、一粒の飴玉だった。

 

「ガキは、大人しく家で飴でもしゃぶってりゃいいんだよ」

 

飴を投げ付けたのは、あのイタリア人らしき整備士だった。腕組みしながら、忌々(いまいま)しげにシンジを(にら)んでいる。

 

「エヴァの装甲の80%が破損だ。そりゃ、自動砲塔の弾幕が終わらねえ内に突っ込みゃ、そうなっちまうわな?電力がほとんど残ってねえ状態で、無茶な操縦したもんだから体内電源もオーバーヒートしてやがる」

 

イタリア人?のミハイルは歩み寄ると、シンジの頭の上から怒鳴りつけた。

 

「オレッチが、整備したエヴァを無茶な使い方しやがって!バカ野郎!」

 

長身の白人に怒鳴られ、シンジは思わず首をすくめた。だが、怯えながらも、彼の方もぽつりと言い返す。

 

「ボクだって、好きで戦ってる訳じゃないんだ……」

 

ミハイルは大袈裟な動作で耳に手をかざしてみせた。

 

「ああ?聞こえねえーよ!」

 

「いい加減にしとけよ、ミハイル!」

 

長身の白人男を止めてくれたのは、別の整備士の男だった。こちらも同じく白人だが、身長はそれほど高くなく、代わりに恰幅(かっぷく)が良かった。

彼はミハイルを一喝すると、二人の間に割って入った。

 

「なんだよハンゾル!オレっちは、14にもなって、まだオシメも取れねえクソ餓鬼を教育してやってる所なんだよ!」

「お前、子供相手にムキになってんじゃねえよ!」

 

ハンゾルと呼ばれた小太りの男は、シンジの肩に腕を回すと、(かば)うようにしてミハイルの前から引き離した。

そして、小声でささやく。

 

「すまねえな、エヴァのパイロットさん。あいつ……オレの相棒でミハイルってんだけど……」

 

チラリと、一度、相棒の方を確認する。

「このSSを公開した12年前(2008年)当時は、アニメ『ふしぎの海のナディア』からゲスト出演したサンソンって設定だったんだけどさ……それが今回の公開で、普通の外人の整備士って設定に変えられちまったもんだから、機嫌が悪いんだよ……」

 

途端に、ミハイルの怒声が飛んだ。

「余計な事、言ってんじゃねえよ!ハンゾル!」

 

ハンゾルは「まあ、悪い奴じゃないんだよ」と付け足すと、シンジを手早く逃がしてやった。シンジは、軽く一礼してから、駆け出して行った。

 

シンジの姿が消えた途端、ハンゾルのケツに激痛が走った。

「痛って!後ろから蹴る事はないだろ、ミハイル!」

 

ハンゾルが振り返ると、ミハイルはすかさず襟首(えりくび)をつかんできた。そして、(ふところ)から台本帳を取り出す。

 

「おい、てめー!何だよ今の説明!」

 

 

ミハイルは台本を開くと、自分のプロフィール欄を指し示した。

 

「オレッチの設定は、元戦略自衛隊出身の敏腕パイロットだろうが!んで、ネルフに志願したものの、エヴァへの搭乗資格がなかったもんだから、実力も無しにパイロットになれた餓鬼に嫉妬してるって話になってるはずだろうが!」

自分のサングラスを摘み上げる。

 

「それをオメー。余計なメタ発言しやがって……なんで、勝手にアドリブで設定変更してんだよ!」

 

だが、ハンゾルは台本を取り上げると、こちらも怒った様子で自分のプロフィール欄を指差してみせた。彼のプロフィール欄には、ただ、“ミハイルの相棒。戦略自衛隊出身の整備士”とだけ書かれていた。

 

 

「オレが、戦自出身の只の整備士って事になってんのに、何でお前だけそんな格好いい設定なんだよ!オレは納得いってねえんだよ!」

 

「なんだと、この野郎!」

 

「なんだよ!」

 

しばらくの間、格納庫に二人の殴りあう音が響いた。

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