都合の良い世界   作:茶ダックス

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狂乱の先輩

犬吠埼風は思春期だ。

 

中学三年生であり、保健体育の授業もそれなりに受けて男子と女子の営みについても知識として理解している。変に純粋ぶって『私、純粋だから分かんなぁ〜い』とウザくて小聡明い反応をするつもりもない。

 

つまり、子供の作り方や恋人同士の所謂 "夜の営み" を知らないほど純粋無垢で無知では無いのだ。深くは知らずとも一般常識程度になら把握している。

 

だが、自分―――自分達にはまだまだ早い話だとも思っていた。初体験は早くても高校生になってから。それは自分だけじゃなくて周りも当然のように考えていると、無意識のうちに考えていたのだ。

 

―――そんな少女の耳に入った少年少女の声。

 

『夏凛と激しくヤってた』

 

『なによ、春樹から誘ってきたんじゃない!手馴れてるくせに素人のフリして!!』

 

『その割には激しく攻めてきたクセに』

 

後輩の男女が出会ってから数日で交わった事実を驚くべきか、それとも悪戯好きな少年が意外にも肉食系だったと認識するべきか。

 

様々な思考が頭を駆け巡るが、電話越しに聞こえる後輩2人の言い合いがナニを指すのかも瞬時に理解してしまった。 "勘違い" という最初に思考すべき可能性を空の彼方へ無意識に捨て去り、咄嗟に出た言葉が―――

 

 

「.........は?...えっ.........ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

己の語る『女子力』を微塵も感じさせない動揺と困惑を込めた叫びだった。

 

「「「っ!?」」」

 

近くに居た友奈、東郷、樹は風の奇声にも聞こえる叫びに肩をビクリとさせて風に向く。向いた先には顔を赤く染め、明らかに動揺している部長の姿。先程の女子力無き叫びとは一転、その姿は普段以上に『女子』だったと後に彼女の妹は語った。

 

「お、お姉ちゃん...?」

 

「そんな...女子力の塊なアタシよりも先に春樹が...?リア充になった...?ふ、ふふふ...アタシがあの変人に負けた...?友奈とか東郷ならまだしも...春樹に負けたの...?あ、あははははは...有り得ない。いや...確かに春樹は家事ができるし、仕事も早いし、人並み以上に人を気遣うことも出来るけど......あれ?アタシって春樹以下のスペック?...女子力は同等...勇者部ではアタシよりも仕事してるし、空気を読まないってよく言われてる......ふふふふ、マジで...?あ、あはは...鬱だ...」

 

「友奈さん!東郷先輩!お姉ちゃんが遂に壊れました!!ひぃっ、変なことをブツブツと呟きながら笑ってる!?」

 

樹は生まれて初めて姉に恐怖の感情を覚えた。視点があっておらず、不気味とも言える笑みを浮かべる肉親。それは自分の知る姉では無かった。

 

怯える妹を無視し、姉は己の世界に入り込む―――

 

「そうだ、リア充は撲滅しないと...手始めに春樹と夏凜から磔で下から燃やそう。これがアタシの生まれてきた理由だったんだ...ははは、まずは柱を調達しないと...」

 

「あわわわ!風先輩が春樹くんと夏凜ちゃんを燃やそうとしてる!?ど、どうすれば...!」

 

「友奈ちゃん!風先輩を止めて!その間に冴宮くんに連絡するから!!」

 

友奈が風を羽交い締めにしている間に、東郷は風の足元に落ちている携帯を樹に拾ってもらう。まだ通話中の画面なので、そのまま携帯を耳にかざす。

 

『もしも〜し...風先輩?夏凜、風先輩の声が聞こえなくなったんだけど』

 

『なら切ってもいいんじゃない?用事があるなら再度電話するでしょ』

 

此方の状況も知らずに、呑気な2人の会話が聞こえてきた。ほんのりと怒りを覚えつつ、電話越しの2人に対して言葉を発した。

 

「冴宮くん、夏凜ちゃん」

 

『あれ、東郷か?』

 

「...風先輩に何言ったの?こっちは阿鼻叫喚とか地獄絵図っていう言葉がぴったりな有様なんだけど...!」

 

『『はぁ?』』

 

電話越しに聞こえてきた声は意味不明を表していた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

風からの怒りを込めた電話に応じた春樹と夏凜。荒ぶる先輩に何をしていたかを包み隠さずに説明すると、奇声と共に端末を落としたような音が聞こえてきた。

 

「風先輩?おーい、風先パ〜イ」

 

遂に気でも狂ったのだろうか、奇声の後から音沙汰無しだ。耳を澄ませばブツブツと怨念に似た何かを込めた声が聞こえるが、普段の風とは声質が似ても似つかないので気の所為だろう。

 

「もしも〜し...風先輩?夏凜、風先輩の声が聞こえなくなったんだけど」

 

「なら切ってもいいんじゃない?用事があるなら再度電話するでしょ」

 

夏凜は時間の無駄と言わんばかりに切り捨てる。少々冷たくも思うが、合理的でもある。Time is money だ。画面をタップして通話終了をしようとしたら―――

 

『冴宮くん、夏凜ちゃん』

 

「あれ、東郷か?」

 

何故か風では無く、東郷の声が聞こえた。勿論聞き間違いでは無く、東郷本人だ。ほんの少し早口であり、心做しか焦燥感を感じる。

 

『...風先輩に何言ったの?こっちは阿鼻叫喚とか地獄絵図っていう言葉がぴったりな有様なんだけど...!』

 

『『はぁ?』』

 

言葉の意味が理解出来なかった。思い返してみても変なことは言ってないハズだ。それは夏凜も同様だったらしく、首を傾げた。

 

―――東郷から詳しく聞いた。

 

つまり、風先輩がリア充及び俺と夏凜を磔にして燃やそうとしているらしい。全く理解出来ていないのは自分だけだろうかと不安になったが、隣の完成型勇者も同じだった。

 

「...取り敢えず夏凜の家に集合な。あと...危険だから風先輩は抑え続けてて。何ならその辺の木材にでも縛り付けて運んでも良いんだぞ?」

 

横から『はぁ!?なんで私の家!?』とツンデレが騒いでいるが、前世からツンデレは常時騒いでいるのが普通だと聞いていた気がしなくも無いので無視する。どうせ家の前で粘ったら入れてくれるだろうし。

 

『それは流石に人前で出来ないから...地域の人達から勇者部がヤバい集団だと勘違いされちゃうよ』

 

「あー、確かにそれは駄目だな。勇者部に居るヤバい人は風先輩だけだし」

 

「...どの口が言うのよ」

 

すかさず夏凜のツッコミが入る。悪意無しで先輩を貶す春樹は、悪質だが悪意は無いという矛盾を抱えて夏凜の家に向かう。尚、家主は未だに認めていない模様。

 

―――だが、 "アレ" をするには勇者部が全員集まらなければいけない。その場所として春樹が選んだのが、夏凜の家だった。

 

 

 

 

鍵を開け、ドアが開く。ド○︎︎クエのパーティーのように夏凜に続いて玄関を潜る春樹。

 

「お邪魔しまーす」

 

挨拶も忘れない我が勤勉さ。某大罪司教も満面の笑みに狂気を添えて褒め喜ぶに違いない。そんな自画自賛を胸に、先へ進もうとすると―――

 

「勝手に入るな!私はまだ許可も承諾を得もしてないわよ!!」

 

物理的立ち位置に於けるパーティーリーダーが怒り心頭と言わんばかりに振り返り、声を荒らげる。

 

「いやいや、玄関まで来といて帰るのは "変" だろ。勇者部で1番の常識人と名高い俺が『変な行動』をする訳にはいかないんだよ。ほら、完成型勇者の器を見せてくれよ」

 

「私に完成型勇者って言ったら何しても良いと思ってるんじゃ無いでしょうね?あんたの強さは認めたけど、無礼なの部分は軽蔑に値するわ」

 

「大袈裟だなぁ...無礼って思うから否認感が生まれるんだよ。無礼じゃなくて、接しやすいって考えてみろよ。心が少しだけ安らかにならないか?」

 

「ならないわよ!!」

 

文句タラタラや夏凜の背を無理矢理押して部屋に入る。リビングには物が少なく、まさに必要最低限の物資しか無かった。

 

女子力の欠片も感じられない殺風景な部屋を見渡し、丁度目に止まったソファーにダイブする。意外と硬い材質がお堅い夏凜の性格を表しているように感じられた。

 

「ちょっ!なんで遠慮無しに寛いでるのよ!?」

 

「まぁまぁ、俺と夏凜の仲じゃないか。夏凜のモノは俺のモノ。俺のモノも俺のモノ。其れが俺達の在り方だろ?」

 

「違うわよ!!」

 

とあるイジメっ子の名言を引用してみたが、何故か機嫌を損ねてしまったらしい。

 

冗談が通じない夏凜に敢えて冗談を言って怒らせる。人はその行為を『揶揄い』と称すのだ。イジメとは違い、相手が本気で嫌がる行為の一歩手前まで踏み出す大胆さと慎重さを兼ね備えた高度且つ恐ろしい人々の遊戯。

 

春樹はそんな『揶揄い』を楽しいと感じていた。

 

 

―――ピンポーン

 

 

夏凜の家に着いてから何分経っただろうか。雑談に花を咲かせていたら、玄関チャイムが鳴った。立ち上がろうとする夏凜を手で制し、代わりに春樹が立つ。

 

「多分友奈達だな。俺が出るよ」

 

「...そう、任せるわ」

 

短く返事をした後に気が付く。あれ、なんか状況に流されていないか?と。散々春樹に誤魔化されたり、閑話休題の連発で有耶無耶にされていたが、元々自分は彼らが自分の家に来ることを拒否していたハズだ。

 

「...追い出さないと」

 

玄関に歩いて行った春樹を追いかける。自分は馴れ合いのために勇者となったのでは無いし、拒絶しなければいけない。三好夏凜としてでは無く、選ばれし完成型勇者として。

 

(ただ一言、出ていけって言うだけなのに...)

 

一歩一歩が重い。いつの間にか、この短期間で勇者部に毒されていたらしい。友奈の優しさを受けた。冷たくしても、常に手を差し伸べるてくれていた。誇り高い自分が春樹を―――足でまといだと思っていた彼を共に戦う同士だと認めてた。

 

(―――だから、辛い...?分からない...全然分からない...!)

 

そんな疑問に疑問を重ね、重い足を前に出す。だが、本当の意味では後退しているのかもしれない。そんな考えが頭を過り、首を振って否定する。

 

夕暮れで薄暗くなった廊下に電気もつけずに歩いていると―――

 

〘パン!パンパン!〙

 

「うひゃぁ!?」

 

突然の爆音に、つい変な声を出してしまう。爆発したのか、それともピストルで撃たれたか。様々な可能性が頭を駆け巡るが、頭に何かが落ちてくる。

 

「...紙テープ...?」

 

火薬の匂いと共に届いたのは紙テープ。夏凜にとって、現状況を把握するには情報が少なすぎた。そんな彼女の前に勇者部が集まり、言葉を発する。

 

 

「「「「「ハッピーバースデー!!」」」」」

 

 

「...............えっ?」

 

頭が追いつかなかった。

 

数秒を要した後、夏凜はやっと気が付いた。先程の爆発音は間違いなくクラッカーだ。そして、今日が自分の誕生日だったということにも気が付く。お祝いなんてした経験が無く、自分でも忘れていた誕生日。

 

「夏凜ちゃん、おめでとう!」

 

「ふふっ、友奈ちゃんが入部届けに書いてあったのを見つけたのよ?」

 

満面の笑みで祝う友奈。思えば、勇者部の中で1番先に笑いかけてくれたのも彼女だった。

 

「ほらほら、何時までも玄関に居たら近所迷惑でしょ。さっさと中に入りなさい!...後で春樹と夏凜からは話を聞くから」

 

「お、お姉ちゃん...顔怖いよ?」

 

「夏凜...風先輩が俺と夏凜を見ながら、憎しみを込めた表情で歯軋りしてるんだけど...えっ、俺たち殺されるの?そう言えば電話で磔にするって聞いたような...」

 

憎しみを込めた目線を自分たちに送る風。相変わらず賑やかで騒々しい奴らだ。心の中で悪態をつきながらも、言葉が出てこない。

 

「ほら、主役から一言ないのか?」

 

春樹がニヤニヤと笑う。先程までの自分なら何か言葉を返せたが、いまは咄嗟の言葉すら出てこなかった。数秒かけて心臓を鎮め、声を発する。

 

 

「分かんないわよ......誕生会なんてやったことないから...!」

 

 

何故か視界がボヤけて、頬には熱い液体が流れてくる。

 

―――そうか...私は嬉しいんだ...

 

その後、皆でリビングに移動して誕生日パーティが開かれた。ケーキやお菓子、ジュースも買ってきたらしい。普段はそれらを買う習慣のない夏凜は遠慮しながらも食べた。

 

「...おめでとう、夏凜」

 

 

 

 

 

勇者部は散々騒いだ挙句、ゴミを散らかしたまま帰った。夏凜は両手にゴミ袋を持って、ブツブツと文句を言いながらゴミ捨てをしていた。

 

(くだらない。笑顔とか、喜びとか...勇者としての自覚が足りない。こんなんでバーテックスと戦うとか、甘っちょろい......でも、いつか―――)

 

勇者として気を抜くつもりは無いが―――憎きバーテックス共を全滅させたら、自分も『完成型勇者』ではない『勇者部』として彼らの隣で笑ってる。

 

そんな未来に強く憧れ、魅せられ、惹かれた。

 

力が無くても――完璧で優秀な兄には及ばなくても、ほんの少しの出来事で大袈裟に喜怒哀楽を自然に表せる彼らの一員となりたい。

 

だから、まずは人類の敵を滅ぼす。自分のためだし、勇者部のメンバーを守ってやろう。他の勇者よりも1歩先に居る自分が、自分に無いものを得るために。

 

 

―――其れが『完成型勇者』の望む未来となった。

 

 

 




次回、勘違いについて―――
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