都合の良い世界 作:茶ダックス
女子力ゴリラ「さーて、サボり魔2人の言い訳を聞こうじゃないか。ほらほら、サボってなにしてたのよ。さっさと吐きなさい」
春樹「夏凛と激しくヤってた」
にぼっしー「なによ、春樹から誘ってきたんじゃない!手馴れてるくせに素人のフリして!!」
春樹「その割には激しく攻めてきたクセに」
女子力ゴリラ「.........は?...えっ.........ええぇぇぇぇぇぇ!?」
加速する勘違い、空回る思春期の部長、淫れる思考―――
「さて、詳しく聞こうじゃないか」
その言葉を発したのは、腕を組んで『ここは通さん!』と言わんばかりに立ち塞がる犬吠埼風先輩だった。何故か顔をほんのりと紅に染めて、春樹と夏凜、風しか居ない部室のドアの前に仁王立つ。端的に言えば邪魔だ。
時刻は昼時。怖い先輩に拉致られた少年と少女。ここは何処のヤンキー漫画の世界だ?と思考する春樹の横で夏凜が反抗の声を上げた。
「いきなり何のつもりよ。私と春樹だけを呼び出すってことは勇者部関係じゃ無いんでしょ」
「...ま、まさか...!?キャー!風先輩に襲われるぅぅー!」
「気色悪い声を上げるな!アタシの女子力が損なわれたらどうしてくれるのよ!!」
「俺の叫びに『いて○くはどう』みたいな効果は無いですけど。...そもそも、風先輩の女子力ってバフ効果だったんですね」
本人曰く、うどんを食べれば女子力が身に付くらしい。つまり、うどんは女子力上昇アイテムだったのだ。学会で発表したい衝動には一切駆られなかったのが残念で仕方が無い。
「それで、俺達に何の用ですか?夏凜は兎も角、俺の指名料は少々高いですよ?う○い棒のたこ焼き味を5本は要求しますからね」
「ツケにしてちょうだい。生憎とアタシの財布にはうどん代しか無いのよ」
「...早く話を進めなさいよ。昼休みだって長くは無いの。時間を無駄に取るなら教室に帰るわ」
「相変わらずせっかちね〜。アタシみたいな常に落ち着きを持って余裕ある行動を取れるレディーになりなさい。そうね...まずはうどんから始めましょ」
先輩の女子力理論という名の戯言を無視し、本来の要件へ入るように促す。世話のやける先輩だな、と自分の行動を見て見ぬふりした春樹はやれやれと呆れた。
三度目の正直、次に話題が逸れたら帰ろうと心に決めた夏凜だが、やっと本題に突入した。
「勇者部は...恋愛禁止では無いわ」
「...はい?」
「あんた達がどういう関係でも、アタシには文句を言う権利なんて無いのよ。部長としても、犬吠埼風としても。ましてや勇者としてもね」
「夏凜さんや...このゴリラ先輩は何を言っているんだ?」
「むしろ私が聞きたいわよ。春樹の方が付き合い長いんだし、何とかしなさいよ」
「1年ちょいは経つけど...変人の思考は常人には理解できないんだよ。何故なら、人には理解できないから変人と称されるんだ。バカと天才は紙一重だけど、キチガイは例外で論外なんです」
部長に向けて真正面から変人やキチガイ、ゴリラと言葉の暴力ストレートを叩き込む春樹。これには流石の完成型勇者も引いた。
いつもならぶちギレ待った無しで地獄の鬼ごっこコースなのだが、今日の風は違った。満面の笑みが般若の面に見えなくも無いが、まだセーフラインだった。
「...話を戻すわ」
「なっ...!耐えただと!?あの理不尽にキレまくる暴君暴力上等リンチ歓喜な風先輩が!?あ...有り得ない!!」
風は春樹を無視する。この場では突っかかるだけ無駄だと悟ったのだろうか。
「付き合うのは構わないわ。目の前でイチャイチャするのも寛大な女子力をフル活用して許す。でも...淫れるのはダメよ!」
「...春樹、この馬鹿は何を言ってるの?」
「三好さん家の夏凜さんや。あの愚か者を馬鹿と称すのは本当に馬鹿な皆様に失礼だ」
「それもそうね」
遂には先輩を見下す後輩男女。2人の中では風は所謂馬鹿以下の存在になった。既に尊敬など欠片も残ってはおらず、代わりに芽生えたのは可哀想な人を見る目だった。
般若の面がお怒りな閻魔様に進化するが、まだ爆発はしてない。話を進めるために、風はストレスを誤魔化しながら言葉を紡ぐ。
「口出しできない立場だけど、敢えて口出しするわ!中学2年生でアレを...性行為するのは早すぎる!中学生は接吻までよ!!」
「アンタは俺と夏凜を何だと思ってんだよ。頭沸いたか?」
「せ、接吻とか...馬鹿じゃ無いの!!///」
片方の後輩は年上に対する敬語を殴り捨てた。もう片方の後輩は想像の何百倍もピュアな反応。これには散々馬鹿と言われ続けた風でも違和感を感じた。
混乱する風は2人に確認の意味を込めて問い掛ける。
「...えっと...春樹と夏凜はお付き合いをしているのでは?」
「「は?」」
「えっ...付き合ってないのにヤったの?」
「風先輩、さすがにキレますよ?今までは頭が可哀想な先輩を気遣って多少の戯言は許容してきました。...でも、それは流石に無いですよ...」
春樹は生まれて初めて軽蔑の対象を見つけた。怒りを通り越して呆れの感情が生まれたのもこれが初めてだった。春樹は『もう一度樹にメリケンサックを渡そうか?』と本気で考え始めた。
「えっ、ちょっ!夏凜!どういうこと!?」
「話し掛けないでください、犬吠埼さん」
「夏凜がこれまでに無いくらい他人行儀なんだけど!?アンタは敬語とか使う性格じゃないでしよ!本気で見捨てられたの!?」
この後、2人の態様が普段通りに戻るまでは暫くの時間を要した。信頼関係は作り上げるには時間が掛かるが、崩れるのは一瞬だと学んだ風だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
―――春樹は疑問に思う。
何故、どの学校にも『日直』が存在するのかと。中学生の身でありながら毎時間黒板を消したり、教師の雑用を担う役割。この重労働をサボると叱られる。
部室でダラけるだけの放課後が『日直』の日には居残りで仕事を押し付けられる理不尽。教師がやれと声を大にして言いたいが、生憎とそんな勇気は持ち合わせてないし、人々は其れを勇気では無く無謀と呼ぶのだ。
(端的に換言すれば、日直めんどい)
だが、始まりあるものには終わりもセットで付いてくる。黒板を消し、日誌を書いて提出する。これで暫くは面倒臭い役割が回ってこない。
ほんのりと達成感を浸りながら部室に向かう。今日は遅れると言ってあるので急ぐ必要は無い。なので、ゆっくりと自販機寄り道しながら向かった。
「どもすー、春樹入ります」
相変わらずの挨拶で部室に入る。もう慣れたのか、ツッコミや怒声は飛んでこなかった。見渡すと、勇者部員は部室の黒板の前に集まって何かを話し合っていた。
「ん、なにしてんの?」
「あ、冴宮くん。日直お疲れ様」
「春樹くん!丁度いいところに来たね!」
労働を労ってくれるのは東郷だけだった。そんな東郷とは違い、友奈は早速仕事を押し付けようとでもしているのだろうか?そんな疑問を抱えながら話を聞く。
「もうすぐね、樹ちゃんのクラスで歌のテストがあるんだって」
「へー、よかったな。樹の得意分野じゃないか」
「うぅ〜...そんなんですけど...」
「そうなんだけど...樹ってば人前で歌うと緊張して歌えないのよ。........あれ、何で春樹が樹の歌の上手さを知ってるのよ?」
風の頭に疑問が浮かぶ。人前では歌えないのが妹の短所だ。それ故に家族の自分以外は知らないであろう事実なのだ。
「ん、たまに2人でカラオケに言ってるからですよ」
「えっ...は、はぁぁぁぁ!?」
部室に風の声が響く。後ろで腕組みして傍観を決め込む夏凜ですらビクッと肩を震わせた。心臓に悪いから叫ばないで欲しいものだ。
「ちょっ!アタシそのこと知らないんだけど!?」
「樹...話してなかったのか?」
「えへへ、言う必要は無いかなって思いまして。そもそも、春樹さんも言ってなかったんですか?」
「樹が言ってると思ってたんだよ」
妹と後輩の距離が思ったよりも近かったらしい。たまに樹が出掛けることはあるが、風は友達と遊んでると思っていた。友人関係に口出しするのは過保護過ぎるかと思っていたのだ。
「俺の前では歌えてるんだけどなぁ」
「...アタシの...姉の前でも歌ってくれないのに...!」
「おい樹、風先輩の顔が怖いんだけど。何とかしてくれ」
「春樹さん、学校の自販機に新しいりんごジュースが追加させたんですけど...」
「奢るから、この後すぐに奢るから風先輩を止めてください。早くしないと勇者部員が6人から5人に減るぞ?唯一の男子部員を失うぞ?」
生意気な後輩は先輩に奢らせるらしい。脅しと表現しても過言ではない行動、その少女は姉とは別の意味で厄介だった。
財布から110円が消えるのを代償として風が止まった。
―――結局、勇者部全員でカラオケに行くことになった。人前で歌えないなら、せめて5人の前では歌えるようにする。シンプルイズベストな作戦だった。
「〜〜♪よし、どうよ!」
「お姉ちゃん上手!」
カラオケの採点画面には92点と表示させる。勇者部全員でカラオケに来たのだが、風の歌が意外と上手かった。実は音痴なオチが欲しかった春樹はガッカリだ。
「ねぇねぇ、夏凜ちゃん。この歌知ってる?」
「ん...まあ、一応知ってるけど...」
「じゃあ一緒に歌おう!」
「え、ちょっ!なんで私が!私は馴れ合いのために来たんじゃ無いわよ!!」
普段の夏凜なら断るだろう。本人はカラオケに着いてきただけでも十分だと思っていたのだ。勿論今回も断ろうとしたが―――
「そうだよね〜、アタシの後じゃあね〜?ご・め・ん・ね〜!」
風は画面には映る92の文字をチラチラと見ながら煽った。友奈や春樹であれは構いもしない煽りだが、生憎と完成型勇者のプライドは無駄に高い。煽られて引き下がる夏凜では無かったのだ。
「友奈、マイクを寄越しなさい」
「へ?」
「早く!!」
「は、はいぃぃ!!」
友奈と夏凜は歌った。それはもう、ノリノリのテンションMAXで歌い上げた。夏凜は数日前とは良い意味で変わってきてるのかもしれない。煽り耐性はゼロに等しいが。
再び画面に映るのは先程も見た92点の表示。
「夏凜ちゃん上手だね!」
「ふん!このくらい当然よ!!」
「ほら、春樹も歌いなさい。普段から私を馬鹿にしてばかりだし、差ってやつを見せてやるわ!音痴なオチを期待してるわよ?」
「...まあ、金を払ってるんだし歌わないと損だな。風先輩には負けると思いますけど...勇者部唯一の男子部員として、歌わせてもらいます」
春樹がほんの少しだけニヤリと笑ったことを、風は知らない。樹は苦笑いして姉と先輩のやり取りを見ていた。春樹と定期的にカラオケに来る樹のだけが知っている事実、それは―――
「あれ、風先輩って何点でしたっけ〜?」
「なっ...95点!?なんでよ!」
「なんでって言われましても...樹とカラオケに来てるから、多少は上手くもなりますよ。それで...これが俺と風先輩の差なんですね〜!」
「ぐぬぬ〜!」
悔しがる風を更に煽る春樹。夏凜同様に風も煽り耐性がゼロに等しかった。
その後、樹の順番がきたのだが―――
「思ったよりも...」
「やっぱり硬いわね」
「うぅ〜、誰かに見られてると緊張しちゃって...」
お世辞にも上手いとは言えなかった。普段ならば春樹以上の点数を出す事もあるのだが、これは予想以上に重症だった。
落ち込む樹を全員で慰める。親しい人しか居ない状況でも歌えないのは流石にマズイ。と言っても問題は緊張だけなので、その克服が今後の課題になるだろう。
その後は東郷の歌を夏凜以外全員で敬礼しながら聞いたり、春樹が他のメンバーを負かしたり等で時間が過ぎていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆
〔UDON因子〕
・春樹は転生してからというもの、体が変にうどんを求めるようになった。今となっては1日に5杯は欲する体と成り果てたのだ。香川県民の肉体にはUDON因子が組み込まれているのか、それとも単に冴宮春樹という人間がうどん好きなだけなのか。本人は前者の説を推しているらしい。
一応タグに『UDON因子』とあるので、オマケで説明しました。