都合の良い世界   作:茶ダックス

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今回でレオ・スタークラスターとの戦いは終わりです!



勝利を求めて

目の前で巨大な火球が轟音を響かせて爆発した。その爆発に、何度も共に戦い、平和を謳歌してきた仲間が巻き込まれた。―――その事実が勇者部の心に重くのしかかる。

 

「は...春樹さんが...」

 

「うそ...でしょ...」

 

「と、東郷さん...春樹くんが...!」

 

樹や風、友奈から悲痛の声が漏れる。無理もないだろう。勇者であれど所詮は中学生の身であり、精神が熟してるとは言い難い。

 

「あんた達!封印に集中しなさい!!せっかく春樹が作ったチャンスを無駄にする気なの!?」

 

「夏凜ちゃんの言う通りよ。冴宮くんは心配だけど...『満開』の状態なら死んだりしないわ!」

 

実際に『満開』をしている東郷には分かる。あの状態では普通の勇者の比では無いほど防御力が高まる。単純に精霊バリアが神樹様の力で強化されたのもあるが、『満開』の勇者服は見た目以上に身を守ってくれるのだ。

 

「そ、そうよ!春樹のためにも...封印の儀を続け―――」

 

 

「熱っ!!全身火傷したらどうしてくれるんだ!ピッチピチの中学生ボディーが傷ものになるわ!!......自分で言っててキモいって思ったけど!」

 

 

「「......えっ?」」

 

風の言葉を遮って聞こえたのは、満身創痍とは言い難いほど、ほぼ無傷な春樹の声だ。思わず樹と友奈の口から驚嘆の声が出た。

 

「...アンタ...どんだけ丈夫なのよ。鉄でも食べてるの?」

 

「んなわけ無いだろ。サプリメントの過剰摂取でアホになったのか?鉄を食べて硬くなるって考えはアホの考えそのものだぞ?...まあ、単純に黒刀が防御向きだっただけだっての」

 

春樹は爆発の瞬間、両手に篭手として纏っていた黒刀を自分が入るサイズの球体に変化させ、二重にして自分を守ったのだ。『満開』したことによって黒刀の変形速度も上がったので、ギリギリ間に合ったのだ。

 

よって、爆発によるダメージはほぼ無い。敢えて言うならば、熱は防げなかったので軽く蒸された程度だ。もっとも、『満開』をして勇者には耐熱性も備わっているらしいが。

 

―――突如、春樹の体が光に包まれる。

 

「『満開』の時間切れか...もう少し続いて欲しかったんだけどな」

 

「でも、あとはバーテックスの御魂を破壊するだけです!」

 

神々しがった服装は通常の勇者服に戻り、先程までの万能感も感じない。あの爆発も『満開』の制限時間ギリギリだったのだろう。途中で時間切れだったら...と考えるとゾッとする。

 

兎も角、樹の言う通りで後は封印の儀で御魂を出してから破壊するだけ。余っ程の異変が無い限りは東郷と樹の『満開』状態でケリがつくだろう。出来ればして欲しく無かったのが本音だが。

 

「はよ封印しようぜ」

 

「まったく...誰のせいで」

 

「お姉ちゃん、その話は後でね。...私も春樹さんとは後でたっぷりとお話したいから」

 

「東郷...後輩から禍々しいオーラが出てるんだけど?もしかしなくても俺のせい?......身に覚えが無いって言ったら嘘になるけどさ」

 

「ふふっ♪私からも、終わった後に大事なお話があるわ。逃げたら......分かってるわよね?」

 

「あ、俺コレ知ってる。傍から聞いたら告白の呼び出しに聞こえるけど、実際は呼び出された側の命に関わるやつだ。こんな時は...完成型勇者さまー!」

 

「私に頼るな!完成型勇者って言ったら私が何でもすると思わないでよね!...こんな時のための友奈でしょ」

 

「あ、あはは...こうなった東郷さんは私には止められないかな?春樹くん、ドンマイ!」

 

「うわー、腹立つくらいいい笑顔だ。俺じゃなかったらドロップキックを食らわせてるね。軽々と避けられるのは目に見えてるけど」

 

「あんた達ねぇ...巫山戯てないで封印するわよ!春樹が無事で嬉しいのは分かるけど、ぜんぶ終わってからよ!!」

 

―――勝てる。

 

既に勇者部は確信していた。バーテックスは受けた傷の再生中で動けない。あとは封印の儀で御魂を出現させて、それを破壊するだけ。バーテックスの数だけ経験してきた事だ。

 

 

だったのだが―――

 

 

「なっ!?うそ...っ!」

 

「ま、マジで...?」

 

間違いなく、これまでのバーテックス同様に御魂が出てきた。御魂と言っても、各バーテックスによって多種多様な能力がある。乙女座のように固い御魂も、蟹座のように攻撃を紙一重によける性質がある御魂も、総じてバーテックスの心臓と称せる御魂だ。

 

なので、信じ難いことに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

見上げれば見上げるほど果てしない大きさに絶句する。

 

「...東郷さん、私をアレの近くまで運んで!」

 

「友奈ちゃん...分かったわ!」

 

東郷の『満開』は浮遊能力を持つ移動台座が出現する。宇宙まで届いている御魂に近づくには、東郷の協力が不可欠だ。

 

そして、どんなに規格外であっても御魂である限りは、破壊するだけ。勇者に許された唯一の勝利条件であり、一筋の希望だ。

 

「東郷、俺も乗せて行ってくれない?」

 

「...出来れば、冴宮くんには休んで欲しいわ。満開で体力を消耗してるし、両腕の火傷も軽くはないんでしょう?」

 

「そ、そうだよ!春樹くんは休んでて!」

 

「嫌だね。勇者部唯一の男子部員として、これは譲れない。...てかさ、東郷が一緒なら無理しようとしても出来ないだろ。怒ってる東郷って般若みたいで怖いし」

 

勇者部一同が納得した。勇者部で1番怒りやすいのは風なのだが、憤怒して1番恐ろしいのは間違いなく東郷だろう。これは勇者部による満場一致の意見だった。

 

「...まあ、東郷がいるなら安心...なの?」

 

「微妙なところね。コイツ、いざとなったら私達の意見なんか聞かないだろうし。東郷がちゃんと手網を握れるかどうかね」

 

「三好家の夏凜さんや、俺は暴れ馬じゃないんだぞ?おいコラ、樹も笑うんじゃない。お前の偉大な先輩が馬鹿にされてるんだけど」

 

「えっ...偉大...?」

 

「樹に心底何言ってるのか分からないって顔されてるじゃない。偉大さの欠けらも無いわね」

 

きっと偉大すぎて逆に偉大という言葉が当てはまらないのだろう。春樹は軽く傷ついた心を薄っぺらい現実逃避で包んだ。

 

雑談を決め込むのも悪くはないが、生憎と封印の儀には制限時間がある。

 

数回言葉を交わした後、東郷タクシー御魂行きに乗車することになったのは友奈と春樹の2人だった。勇者部員6人のうち3人が御魂破壊に赴き、残りは現在は行動不能な合体バーテックスの見張り兼封印の維持。

 

目的が単純な御魂の破壊組と、バーテックス見張り兼封印の維持組に別れた。

 

 

 

 

 

「......」

 

御魂へと向かう最中、3人とも言葉を発しなかった。恐怖や不安、使命感が全員の心を渦巻く。自分達の失敗は風や樹、夏凜の死を意味する。

 

―――本当に破壊できるのか?

 

―――制限時間に間に合わないのでは?

 

―――下で待つ3人の期待に応えれるのか?

 

想像したくもない嫌な未来が頭に浮かぶ。否定したくても、現段階だと有り得てしまう最悪の結果。怖くて仕方の無い未来を防ぐために前を向いて戦う。

 

だから、手を繋いだ。

 

誰が提案したわけでもなく、3人は自然に手を繋いだ。不安を押し殺して震える手、皆のために気丈に振る舞う手、仲間を信じて強く握る手。

 

もう下は向かない。そう決意するに足るほど、それぞれの手は温かかった。

 

―――視界の奥に小さな何かが映る。

 

「なっ...!御魂が攻撃!?」

 

「何でもありかよ!?」

 

自身を崩し、その欠片を撃ち出して攻撃しているのだろう。宇宙規模に大きい分、御魂の攻撃が尽きるのを待つのは得策とは言えない。

 

「―――なら、迎撃するわ!地上には落とさない!!」

 

アサガオの形をした砲台から一斉に砲撃する。一つ一つの攻撃が複数の御魂の欠片を巻き込んで爆発するが、御魂の攻撃は一向に止まない。

 

「東郷さん!」

 

「大丈夫...!友奈ちゃん、冴宮くん...見てて!!」

 

「...分かった。ここは東郷に任せる」

 

前進しながら御魂をひとつ残らず撃ち抜き、複数の砲台を別々に動かして地上に向かう攻撃も撃ち漏らしてない。

 

10数秒の撃ち合いの後、やっと御魂の攻撃が止んだ。目の前には巨大な壁を思わせる御魂。

 

「凄い東郷さん!ここまで来たよ!!」

 

友奈の賞賛。普段の東郷なら満面の笑みで受けそうだが、現状ではそんな余裕はありそうにない。

 

「東郷、大丈夫か?」

 

「...ごめん、ちょっと疲れちゃったみたい」

 

東郷の狙撃は正確な分、尋常じゃないほどの集中力を要する。複数の砲台で別々に狙撃をしていたのだ。常人にはまず無理だろう。

 

疲労で座り込む東郷。彼女は2人に " 見てて " と言い、本当に撃ち漏らしなく御魂の攻撃を防いだ。そんな親友を見て友奈と春樹は―――

 

「―――東郷さん、次は私の番だよ!」

 

「いいや、()()()()()

 

繋いだ手を離し、移動台座の上を駆ける。御魂に向かって飛び―――

 

「「満開!!」」

 

美しくも儚い光が2人を包み、宇宙にヤマザクラとストックが咲き乱れる。

 

友奈は背に日輪を思わせるリングを背負い、その左右には巨大なアームが発現する。春樹の『満開』が黒刀の増加と操作性の向上ならば、友奈は単純な打撃力の増大だろう。

 

「友奈、準備はいいか?」

 

「うん!私は...みんなを守って、勇者になるんだ!!」

 

「んじゃ、勝って帰らないとな!」

 

「うん!!」

 

恐らく、生半可な攻撃は意味をなさない。黒刀でチマチマ削っていたら一生かけても終わらないだろう。春樹の『満開』には友奈ほどのパワーはなく、東郷のような殲滅力もない。

 

唯一あるのは多種多様な攻撃手段の黒刀と、それを触れずに操る能力のみ。

 

(...あっ!...アレって出来るのか?...いや、やるんだ!やるしかない!!)

 

両手に篭手を纏い、その上に表面に螺旋状の堀を入れた円錐を付ける。

 

「...春樹くん、それって...」

 

「ドリルだけど?出来るかなぁって思ったら出来た。...回転も問題無いし、丈夫さは元々の黒刀が保証済み。意外と上手くいくもんだな!」

 

春樹の両手には漫画やアニメでよく見るドリルが付いていた。黒刀から作ったからか、色は黒い。

 

―――準備は整った。

 

「「はぁぁぁぁ!!」」

 

友奈は御魂を殴って砕き、春樹はドリルで削る。途中までは順調に進んでいた。だが―――

 

「か、硬い!!」

 

「こっちもだ!」

 

殴ると金属音がする。まるで最初のバーテックス思わせるほどの硬さだ。ドリルが進まなくなり、先の部分で火花を立てる。

 

(足りない...)

 

『満開』の飛行能力による推進力だけだと足りない。

 

(足りない...なら、足せば良い!!)

 

黒刀の特徴は形と材質の変化だ。スポンジ状にもなれば、ダイヤモンドのように硬くもできる。残りの黒刀を背中に付け、硬くて軽い素材に―――()()()()()()()

 

「行っけぇぇぇぇ!!」

 

「春樹くん!...よし、私も!!」

 

黒い翼を携えて、何度だって立ち上がる仲間。友奈はその少年に憧れた。自分の理想の勇者は、仲間を守る。傷付いても立ち上がる。それが春樹だった。

 

「私も!止まってる場合じゃない!!あぁぁぁぁ!!」

 

例え拳が砕けようとも、御魂を破壊する。徐々に再生して友奈を飲み込もうとする御魂を、再生した部分から更に砕く。

 

―――亀裂は広がる。

 

殴って削って、壊して砕く。腕と肩にのしかかる疲労を発破にして、さらに強く、更に速く――― 一撃一撃に力の限りを込める。

 

「―――これで」

 

「「最後だぁぁぁぁ!!」」

 

御魂からピシリと致命的な音がした。直後、友奈と春樹が攻撃してた部分から砂となる。

 

「...勝った...!」

 

「お疲れ様、友奈」

 

友奈の『満開』が光と共に散り、普通の勇者の格好に戻った。春樹は友奈を抱えて東郷の元に戻る。

 

いつの間にか東郷も普通の勇者の格好に戻っていたが、2,3人は乗れそうな一輪のアサガオの花だけが残っていた。最後の力を振り絞って『満開』時に残したのだろう。

 

(...俺も...そろそろ...限界...だな...)

 

「友奈ちゃん!冴宮くん!」

 

「東郷さん...私達...勝ったよ?」

 

「うん...!お疲れ様...!...あと、ごめん。最後の力でこれだけは残したけど...持つかどうか分からない...」

 

「...それじゃあ、俺も最後の力を振り絞るかな」

 

「冴宮くん?」

 

春樹の背中に付いていた黒い翼がアサガオを包み込み、黒く染めた。

 

「...もう...限界っす...」

 

「ありがとう、春樹くん。後は神樹様が守ってくれるよ...」

 

「そうね...」

 

「なら...安心だな...」

 

黒いアサガオが蕾になり、3人を覆う。自由落下に身を任せ、疲労で朦朧とする意識の中で東郷は思う。

 

(もし万が一ダメでも、友奈ちゃんと冴宮くんが一緒なら...怖くなんかない)

 

ずっと親友として寄り添ってくれた友奈。1人の仲間として笑ったり慰めたりしてくれた春樹。2人の手を握ると、何も怖くなくなった。

 

「生きて帰ろうな...友奈、東郷...」

 

 

―――朦朧とする意識の中、友奈と東郷の耳には確かにその言葉が届いていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

目の前のバーテックスが砂になった。つまり、3人が御魂の破壊に成功したのだ。

 

「流石アタシの後輩達ね!絶対にやってくれると信じていたわ!!」

 

「...ん?...お姉ちゃん、アレって何かな?」

 

勝利を喜ぶ風に樹が問い掛ける。目線の先には広い空―――では無く、隕石のように燃え盛る何かだ。

 

「なっ!い、樹!ワイヤーで受け止めなさい!!」

 

「か、夏凜さん?」

 

「アレは友奈達よ!」

 

「えっ!?」

 

微かにではあるが、黒いアサガオの蕾が見える。バーテックスを全て倒した今、他に敵襲はない。つまり、空から現在進行形で落下してるのは友奈と東郷、春樹の3人なのだろう。

 

(あのスピードはヤバい!地面になんかぶつかったら重症じゃ済まない!!)

 

「と、止まってぇぇぇ!!」

 

『満開』で格段に増えたワイヤーを全て使い、減速に努める。だが、止まる気配はない。減速はしていても完全停止には至らない。

 

「ダメ...!止まらないっ!?」

 

「―――なら、アタシが止める!!」

 

「風!?」

 

「お姉ちゃん!?」

 

夏凜と樹の声を無視して、風は落下するアサガオの蕾の直線上に風が立つ。

 

「まさかっ!受け止める気なの!?」

 

「アタシの女子力...舐めるなァァァ!!」

 

樹のおかげで減速はしているが、それでも尋常じゃないほどの勢いだ。

 

風は両手でアサガオの蕾に翳し、全力で受け止める。十数メートルの後退の後に、3人を乗せた蕾は止まった。

 

「...部長...なんだし、後輩達を...受け止めるくらい...モーマンタイ...よ...」

 

「お姉...ちゃん...」

 

風と樹が倒れた。

 

「ちょっ!風!樹!!」

 

1人残された夏凜は蕾に視線を向ける。蕾状態だったアサガオは地面に着くと同時に花弁が開き、3人が姿を現す。

 

「友奈!東郷!春樹!!」

 

「......」

 

返事がない。3人共ピクリとも動かずに、目を閉じる。―――犠牲になった。そんな嫌な可能性が夏凜の頭をよぎる。

 

「なんで...そんな...!」

 

「...勝手に...殺すな...」

 

「っ!?春樹!!」

 

「...私も...生きてるよ...」

 

「友奈も!」

 

離れた場所から風と樹の返事も聞こえた。全員の生存に、夏凜は安堵の涙を流す。最初は何も思っていなかった彼女達は、既に夏凜の中では "大切な人達" になっていた。

 

 

―――そして、樹海化が終わる。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

Q . なんで蕾の落下を樹は受け止めきれなかったの?

 

A . 1人多いから。重量オーバーってやつさ。

 

 




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