都合の良い世界   作:茶ダックス

2 / 18
一話目から評価と感想を貰えました!めっちゃ嬉しいです!


一般人は勇者となる

朝のホームルーム前、登校した冴宮春樹は自分の席に座る。

 

「春樹くん!おっはよー!」

 

騒がしい教室の中、前の席から後ろを向いて話しかけてくる少女が居た。元気な性格と赤い髪色がベストマッチする少女、名は結城友奈だ。

 

「おはよ、友奈。今日も無駄に元気だな」

 

「ふふっ、それが友奈ちゃんの良い所でしょう?その元気を躊躇なく振り撒くその姿は...まるで天使みたいだわ!」

 

「東郷...お前どんだけ友奈のこと好きなんだよ」

 

春樹の隣で親友を天使だと称する少女の名は東郷美森。中学入学前に交通事故に遭ったらしく、その後遺症で半身不随で車椅子生活を送っている上、記憶にも曖昧な部分がある。

 

当初は事故の影響でふさぎ込みがちだったが、友奈と出会った事で乗り越える事が出来たと本人は語る。

 

それによって完成したのが友奈第一主義者だ。

 

「東郷さん、春樹くん!昨日の人形劇、大成功だったね!」

 

「...東郷、俺と友奈の間には深すぎる認知と解釈の差があるんだけど。友奈は大成功だって自信満々に言ってるけどさ、俺にはギリギリ形を保てただけにしか思えない」

 

「冴宮くん、時代を動かしたのは何時だって人とは違う考えを持つ人達だったの。つまり、友奈ちゃんは将来有望な大物なのよ」

 

「...あれ、褒められてるのかな?」

 

友奈は首を傾げる。

 

実際、東郷は友奈が人とは違う感性だと遠回しに肯定したのだ。残念ながら、春樹には東郷の友奈に対する悪意皆無な褒め言葉が皮肉にしか聞こえなかった。

 

(友奈は今日もアホだし、東郷は空回ってるな〜)

 

 

 

 

―――それが、冴宮春樹の日常だった。

 

いつまでも続くと思っていた日常。それは、なんの前触れも無く簡単に崩れてしまう。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

―――校内に本日最後の授業終了を告げるチャイムが響く。

 

「起立、礼、神樹様に拝!」

 

(...未だに慣れない)

 

前世の記憶は何故か消えているが、この挨拶だけは無かったと断言出来る。一種の宗教的な挨拶なのか、それともこの世界特有の作法なのか。

 

(...考えても分からない)

 

丁度消えている記憶の中に答えはあるのかもしれないが、思い出す予兆すらない。

 

「春樹くーん!部活に行くよー!」

 

「先に行ってても良いんだぞ?」

 

「冴宮くん...友奈ちゃんの優しさを無下にするのかしら?」

 

「目が怖いんですけど。顔に般若でも宿してるのか?俺の精神年齢があと3つくらい下だったら失禁しながら震えて泣き喚いてるところだぞ?」

 

勿論冗談ではない。今となっては慣れた東郷の脅し顔も、出会った当時は恐怖の対象だった。

 

東郷の後ろで友奈は『またまた冗談を〜』と言いたそうな顔をしているが、東郷の般若似の表情を見たことないのは友奈だけだ。

 

「はぁ...早く部活に行こう」

 

友奈が東郷の車椅子を押し、春樹はその隣をゆっくりと歩く。尚、友奈に車椅子を押して欲しいというのは東郷本人の希望だ。決して春樹が自分よりも力がある友奈に任せているのでは無い......と、春樹は心の中で言い訳をした。

 

 

「こんちゃーす、春樹入りま〜す」

 

「同じく友奈、東郷!入りまーす!!」

 

「こんにちは、風先輩。樹ちゃん」

 

部室に入る。特に入る際には名乗れ等の決まりは無いが、何となくやってる。因みに、最初に始めたのは友奈だ。

 

部室には3年生で部長の犬吠埼風と、1年生で風の妹の犬吠埼樹の2人が居た。これで勇者部はフルメンバーだ。

 

「コラァ!春樹!きちっとした挨拶しなさい!」

 

「風先輩、挨拶に大事なのは言葉じゃなくて心の持ちようです。これは形から全てを決めつける大人の悪しき風習なんです。俺の挨拶はそんな負の連鎖を断ち切るために必要なことなんです!どうか...どうかご了承ください!!」

 

「えっ、そうなの?」

 

「お姉ちゃん、また春樹さんの妄言だよ?多分だけど、お姉ちゃんを揶揄うためにやってるんだと思う」

 

「...は、春樹ぃぃぃー!!」

 

先輩への軽いジョークを後輩から "妄言" と言われた。最近は先輩に対する敬意や遠慮、躊躇が薄くなってきている悲しい現実に耐えながら、春樹はポーカーフェイスを保った。

 

尚、先輩の怒りは頂点に達したらしい。

 

「風先輩と春樹くんって仲良いよね」

 

「友奈ちゃん...多分だけど、風先輩は本気で怒ってるよ?ほら、『日頃の鬱憤を晴らしてやる!』って言いたそうな顔で冴宮くんのこと追いかけてるし」

 

「あ、あはは...」

 

「ほらほら、風先輩。大事な妹にすら苦笑いされてますよ?きっとあの人畜無害な表情の下では『クソっ、姉貴め!人前でアホ面と恥を曝け出しやがって!!』って言ってますよ?」

 

「こ、このヤロウ!樹はアタシを『姉貴』って呼ばないわよ!!」

 

「お姉ちゃん!?他にも訂正する場所あるよね!?」

 

勇者部は今日も平和だった。先輩と同級生のナチュラルコントを満面の笑みで眺める友奈と、その表情を写真に収める東郷。それとなく二次災害の犠牲者となった樹。それと部室内で追いかけっこを始める風と春樹。控えめに言ってカオスだった。

 

 

「捕まえた!今日という今日は許さないわ!!」

 

「うぐっ!い、痛い痛い!千切れるぅぅぅ!!や、止めて!そんなので殴られたら...ぐふぅ、ガァッ...ち、血が出てるから...!ま、待って!そ、そんな!!そんなことされたら死んでしまいますよ!!だ、ダメ!ロードローラーはダメェェェェェー!!」

 

「まだ何もやってないんだけど!?」

 

 

今日も平和でした。

 

 

 

 

散々騒いで苦情が届いた後は真面目に作業を進めた。春樹は勇者部への依頼をまとめ、適材適所で自分を含めた5人に割り振りした。

 

「ふぅ、大体終わりました」

 

「私もホームページの強化、終わりました」

 

「「「はやっ!?」」」

 

普段は不真面目そうに見える春樹は、意外と仕事の出来る人間だ。部内でも『やれば出来るのにやらない男』という評価だった。

 

「友奈と風先輩は犬猫探しの依頼がいくつか来ているので、全部まとめて探してください。探す対象の写真はこちらでまとめておくので。東郷は近くの保育園で紙芝居の読み聞かせ。紙芝居はあっちで用意してくれるってさ。俺は東郷の送り迎えと補助等。あとは紙芝居を読み終わった後の子供達の世話を担当する。樹はオンラインのお悩み相談が来てるから、適当にタロット占いとバーナム効果の乱用でどうにかして。さて、以上が今週の無賃労働です」

 

「は、春樹さん?私だけ雑じゃないですか?」

 

「先輩への敬意を失くした後輩には丁度いい対応だけど?」

 

若干不満気味な樹を適当にあしらい、今日の活動を終えた。今日は何もしてない風や友奈、樹には人一倍仕事を多くしておいたのは内緒だ。

 

 

 

帰りは5人で "かめや" に寄るのが習慣となっていた。 "かめや" とは、安くて美味しいうどん屋のことだ。転生後に香川県民の肉体となり、UDON因子を組み込まれた春樹からしたら、うどんは大好物の一つだった。

 

「「おかわりお願いしまーす」」

 

早くも春樹と風は3杯目だった。その光景に若干引いている少女が3人。

 

「うどんは女子力を上げるのよ!ほら、見てみなさい。アタシと同じくらい食べてる春樹なんか家事万能の女子力お化け一歩手前な有様よ!」

 

「うっ...確かに。お姉ちゃんの女子力方程式は正しかったのかな...?」

 

「そうよ、樹。お姉ちゃんは樹に嘘つかないもの」

 

風は妹の耳元で優しく囁いた。

 

そして、風の根拠なき戯言を樹は信じた。普通なら信じないが、目の前に自分よりも女子力の高い男子生徒が存在し、その男子はうどんを人一倍食べている。それだけで信じるに値した。

 

「友奈、東郷。お前らの後輩が姉から変な洗脳を受けてるぞ。後輩思いな先輩の面を見せてやれよ」

 

「...私もうどんを食べれば...?」

 

「あ、友奈は手遅れだった。うどんは女子力ブースト的なアイテムじゃないんだぞ?...おい東郷、友奈の写真を撮るのは一旦やめろ」

 

 

そんなドタバタもあったが、事を面倒臭くした張本人である部長がみんなを鎮めて真面目な話題を振った。

 

「ところでさ、文化祭の出し物のことなんだけど」

 

「文化祭って...まだ早くないですか?」

 

「準備とか色々あるし、早めに決めておきたいのよ。出来れば夏休みに入る前までにはね」

 

あの先輩にしてはまともな事を言ってる。勇者部で過ごした日々は、春樹がそんな失礼なことを平然と思うように変えていた。

 

「確かに、常に有事に備えることは大切です」

 

「...まあ、去年は準備が間に合わなくて何も出来なかったしな。そう考えると、丁度いい時期なのか...」

 

「なにか一生の思い出に残ることをやりたいですね!」

 

「尚且つ、娯楽性の高い大衆が靡くものでないと」

 

「...何したら良いんだろう?」

 

そんな樹の呟きに対して、各自考えてくるように!と部長が話を終わらせた。これでいて、普通に部長としては優秀なのだ。春樹も普段は揶揄っているが、一応尊敬はしている。

 

「「あ、すみませーん。おかわりー!」」

 

「「4杯目!?」」

 

姉の暴食に慣れてる樹以外は驚きの声を上げた。

 

 

 

―――次の日

 

春樹達の日常が崩れた日でもある。

 

それは呆気なく、それでいて大きな音を立てて崩れてしまった。非日常の始まりだ。

 

 

 

授業中、友奈は悩んでいた。

 

(文化祭の出し物か...一生の思い出に残って、私達以外も楽しめる出し物...)

 

風から昨日言われた文化祭の出し物。先輩の最後の文化祭になるので、適当な案は出せない。それでいて、中学生の自分たちに出来る何か。簡単に浮かぶものでは無かった。

 

「ふむむ...」

 

「友奈、どうしたんだ?」

 

後ろの席から春樹が話しかけてくる。授業中でありながら、前の席で分かりやすく悩んでいる友人に小さく声を掛けた。

 

「えっ、あ...なんでもない!」

 

「ちょっ、バカ!」

 

小声に大声で返す赤髪が一人。この声量に気が付かない教師ではない。

 

「結城さん?」

 

「あっ、はい!」

 

「なんでもなくないですよ?」

 

(あのバカ...)

 

クラス中から笑い声が聞こえる。

 

友奈は教師から教科書を読むように言われ、しょんぼりと立ち上がる友奈に東郷と春樹は苦笑いする。授業に集中してなかった自分が悪いと反省し、教科書を読み始めようとしたその瞬間―――

 

 

教室にアラーム音が鳴り響いた。

 

 

「...えっ!わ、私の!?」

 

「結城さん、授業中は携帯の電源を切っておきなさい」

 

再びクラス中から笑いが溢れる。春樹も笑おうとしたが、あることに気が付く。

 

(っ!?...俺と東郷の携帯もなってる...!)

 

「す、すみません!直ぐに止めます!!」

 

何とか電源を切ろうと四苦八苦する友奈。春樹も急いでバレない内にスマホのアラーム音を消そうとするが、画面には『樹海化警報』と表示されていた。

 

「樹海化...警報...?」

 

初めて聞く言葉だ。...でも、知っている。聞いたことの無いこのアラーム音を聞くだけで、酷く気分が悪くなる。

 

「やっぱり...何かを忘れて...ぐっ!」

 

頭痛がする。頭を抱えて椅子に座り込み、痛みが去るのを待ち続ける。

 

(なんだよ...なんなんだよ...!)

 

「冴宮くん?...さ、冴宮くん!大丈夫なの!?友奈ちゃん!冴宮くんが...!」

 

東郷の声が聞こえる。ダメだ...東郷の声が■■の声と重なる...自分の大事な人の一人に―――

 

(...は?■■って誰だっけ?)

 

脳裏に浮かぶのは長い黒髪を揺らし、弓を武器に戦う少女の姿。

 

「東郷さん!教室のみんなが止まってる!!って、春樹くん!?ど、どうしたの!?」

 

2人の少女が自分を心配する声が聞こえた。だが、春樹の頭痛は強まるばかりだ。床に倒れそうになるのを必死に堪えながら机の縁を両手で掴み、脂汗を流す。

 

 

―――『またな...■■、■、■■』

 

蘇る言葉。虫食い状態の記憶の中で交わした約束。脳に響くその声は、確かに自分の声だった。

 

―――そうだ...『約束』したんだ。

 

頭痛が消えた。

 

「はぁ...はぁ......あれ、ここ何処だ?」

 

目を開けたら異世界風の景色が広がっていた。視界全域が太い木に埋め尽くされており、全部の樹木がカラフルな水彩色ではあるが、メルヘンとは真逆に思えた。

 

「春樹くん!?大丈夫!?」

 

「揺らすな揺らすな。大丈夫なのが大丈夫じゃなくなるから」

 

「...冴宮くん、具合悪いの?」

 

「ああ、具合悪いね。東郷、治したかったら友奈を止めろ。じゃないとお前の大好きな友奈が俺の胃液まみれになるぞ?」

 

落ち着いた友奈は景色を見て夢じゃないかと頬を抓る。勿論夢では無く、痛みだけが頬に残ったらしい。

 

これからどうしようかと悩むが、一瞬でその必要が無くなった。

 

「友奈!東郷!あとついでに春樹も!無事なのね!!」

 

「おいコラ、俺だけついでなのかよ?」

 

「あ、風先輩!樹ちゃんも!!」

 

何の因果関係があるのか、勇者部全員がこの場に集まった。勿論偶然だなんて言わせるつもりは無い。女子しかいないこの部活に男の中で俺だけを違和感ゴリゴリに勧誘をしてきた "彼女" なら知ってるだろう。

 

「風先輩、貴女なら説明できますよね?」

 

「っ...!やっぱり春樹は気付くか。...うん、全部説明するわ。アタシが知りうること全てを―――」

 

風は語った。入部時にインストールさせたアプリは自分たちが勇者となり、敵―――バーテックスと戦うためのものだと。そして、そのバーテックスは世界を殺すための化け物だと。勇者になるための方法も、本来男である自分には勇者の適性は無いハズなのに、何故か適正があるということも―――

 

「そして...戦う意思を示せば、勇者アプリが応えてくれる。つまり、勇者になれるの」

 

遠くには巨大なバーテックスが見える。何故かアレを見ていると、心の底から怒りが湧き出る。

 

「あんた達は下がりなさい。これはアタシの責任でもあるし、バーテックスは私が相手する!!」

 

「で、でも!」

 

「下がりなさい!友奈!!」

 

風の強い言葉に負け、友奈は東郷の乗る車椅子を押して後ろに下がった。

 

「風先輩、お願いがあるんですけど。―――アレと戦いたいです。何故か分からないけど...アレを見ているとストレスが湧いてくるんですよ。まあ、『お願い』って形を取って語ってはいますけど、ダメって言われても戦います」

 

「わ、私も...!お姉ちゃんに着いて行くって、ずっと前から決めてたもん!!」

 

「春樹...樹!後悔しても知らないわよ?」

 

「私は後悔しない!自分の心に従うだけだから!!...あとね、ちょっと言いずらいんだけど...」

 

苦笑いを浮かべながら、樹が言いずらそうに喋る。

 

「お姉ちゃんが春樹さんの名前を呼ぶ前に...春樹さん、先に走って行っちゃったよ?」

 

「なっ!?春樹ぃぃぃー!雰囲気くらい読みなさいよォォォ!!」

 

シリアスなシーンでも我関せずと、春樹は先に向かった。胸の中に渦巻く怒りと興奮。バーテックスを殺すため、春樹は走った。

 

 

 

 

バーテックスの丁度真ん前。ここから奴に攻撃されたら避ける術は無いだろう。

 

「......ふっ」

 

―――笑う。

 

本来は男が勇者になることは無い。だが、何故か冴宮春樹だけは例外だった。その風の言葉に、春樹は思わずして笑みをこぼす。

 

―――ああ、それは何とも『都合が良い』じゃないか。

 

 

さあ、叫べ、宣言しろ。自分が何になるのか、何を成し遂げるのかを―――

 

 

「俺は讃州中学勇者部、冴宮春樹。俺は、勇者になる...!みんなを守るために!!」

 

 

やっと果たせる。この世界に来た理由を―――記憶は無く、するべきことも分からない。でも、魂が叫ぶ。戦えと――彼女達を守れと!!

 

 

携帯の画面をタップすると、光と白い花弁が春樹を包む。服装は変わり、明るい茶髪は黒く染まる。そこに居る少年の上半身には黒のアンダーウェアに白い薄い胸当てが付いており、下半身には白い剣道着に似た袴を纏う。

 

 

 

「男でありながら『都合が良く』勇者の適性があって、『都合が良く』数あるグループの中から俺の所属するグループが新樹様から選ばれ、バーテックスと戦うことになった...か。―――さあ、化け物退治だ」

 

 

 

勇者は手に持つ黒い刀を化け物に向けた。

 




ミスっていた部分は編集して直しました。...多分まだあるけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。