都合の良い世界   作:茶ダックス

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弱音と本音

―――春樹はボーッとしながら、昼間の超常について思い返してた。

 

 

バーテックスを打倒した後、自分を含む5人は光に包まれた。思わず目を閉じ、開けた次の瞬間にはもう讃州中学の屋上に転移されていた。

 

風先輩曰く、これも神樹様の力らしい。

 

屋上から町を見下ろして考える。この平和な光景を、何事も無い日常を自分達は守りきれたんだなと。樹海化中は時が止まってるらしく、自分たち勇者が戦っていたことも一般人は知らない。

 

風から『勇者』や『バーテックス』については明日の部活で話すと言われ、本日は解散となった。正直、一人で考えたいこともあったから助かった。

 

 

 

 

(...はぁ、誰にも知られず...誰にも褒められない。物語の勇者は守るべき対象からの声援を得て戦ってるのにな...俺は兎も角、友奈達は何を思って戦ったんだ?)

 

自室のベッドの上で思考する。

 

見返りも無く傷つく仲間たち。手に入るのは他の人も当然のように得る『平和』。割に合わないだなんて言わない。『平和』は唯一無二なものなのだから。

 

―――でも、それは中学生には早すぎる価値観だ。

 

(みんなは...無償の争いに何を感じるのか―――)

 

自分―――冴宮春樹の戦う目的は友奈や東郷、犬吠埼姉妹を敵から守ることだ。これは転生直前まで望んでいたことであり、今日の初陣で再確認したことだ。

 

(戦う道を選んだこと......後悔はない。『勇者部』のメンバーが1人でも戦うなら、俺は其れを守りたい)

 

本音を言えば、戦って欲しくない。

 

我儘を許されるなら、自分達のような中学生に世界を託さないで欲しい。

 

(多分だけど...戦いはまだ続く。戦う前の勇者アプリのマップに映ってたバーテックスには、 "乙女座" って表示されてた。...この星座は何を表すか...黄道十二星座か、それとも88星座なのか...)

 

―――少なくとも、星座と表すなら1つで終わりではない。

 

詳しくは明日の部活で話される筈だ。今日は肉体的にも精神的にも疲れたし、早めに寝ることにした。

 

 

だが、気がかりなのがもう1つ。

 

(...戦闘が終わった後の東郷...空元気だったな。1人だけ変身出来なかったからか...)

 

明日、東郷と話そう。

 

その決意を胸に、今日はもう寝る。瞼が重くなり、意識はゆっくりと沈んでいった―――

 

 

 

 

 

 

―――それは夢であり、断片的な記憶の欠片。

 

『■■、無理しなくてもいいんだぞ?あんな化け物...怖くない方がおかしいんだ。俺でも怖いし』

 

過去の自分は■■に優しく語りかける。相手の少女は肩を震わせながら、此方を見た。

 

『...でも、私たちは勇者として選ばれたの。戦わないと...戦って守らないと...!』

 

『...■■は強いんだな』

 

『強くないといけないの...使命を全うするためには!』

 

本当は分かってる。自分は弱いし、怖がりだ。それでも、己を鼓舞して戦いに臨む。其れが選ばれた勇者としての―――■■■■としての使命なのだから。それが少女の本音だった。

 

『じゃあさ、■■は俺が守るよ。お前は俺がどれだけ止めても戦い続けるんだろ?だったら、お前達を守るのが俺の戦う理由だ』

 

――そうだ、ここで自分の『望み』が『決意』に変わったんだ。転生してから望み続けた "守る" を、改めて...いや、新しく魂に刻んだ瞬間だった。

 

『...ありがとう』

 

少女の顔はハッキリ見えないが、心做しか微笑んでいるような気がした。少女の肩はもう、震えてなかった―――

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

―――翌日、1時間目が終わった後に東郷は春樹に呼び出された。

 

昨日のこともあり、顔を合わせずらいと感じながらも春樹に車椅子を押されて屋上へと向かう。自分は戦えなかったのだし、罵倒も軽蔑も覚悟は出来ている...つもりなのだが、友人から嫌われたくないと思ってる自分の面が露出しそうだ。

 

―――屋上に着いた。

 

「さて、東郷。ちょっと話をしようか」

 

「......覚悟は出来てるわ」

 

親友のために動けなかった自分を、きっと彼は戒めてくれる。弱くて愚かな自分を罰してくれる。

 

そんな期待が無かったと言えば嘘になる。

 

恐怖に震えて親友に守られてた。その気になれば自分だって勇者になれる筈なのに―――戦う意思依然に、行動にすら移せなかった。きっと、これから自分は勇者部の足を引っ張る。そんな...そんな自分が大嫌いだ。

 

「東郷、怖かったよな?あの化け物を目の前にしてから、震えが止まらなかったよな?」

 

諭すように問いかけてくる。

 

「......」

 

情けなくて、言葉が出ない。所詮、自分の覚悟なんてこんなもんだ。覚悟と称しながら弱気な自分を見せまいと醜く足掻く自分が心に住み着いている。

 

「...それが、普通なんだよ」

 

「えっ...?」

 

「いきなりあんな展開になったら、普通は戦えないんだよ。風先輩は最初から覚悟があった。樹は姉に何処までも着いていくと宣言してた。友奈は人のために無償で頑張れるヤツだ。...でもな、東郷は東郷なんだよ」

 

「...でも、大事な人を戦わせて自分は震えるしか出来ない。私は...そんな自分が嫌なの!友奈ちゃんは最後まで私を守るって言った!樹ちゃんは年下なのに私よりも強く逞しかった!冴宮くんは最初から最後まで身を賭して仲間を守り抜いた!!でも...私は恐怖を抱くしか出来ないの!他のみんなだって恐怖を感じてたと思う...それでも!戦った!最後には勝って帰ってきた!!」

 

―――本音が止まらない。

 

そうか、自分はみっともなく劣等感を抱いていたんだ。自分には出来ない偉業を成し得た彼女たちと自分を比べて、劣っていると思ってたんだ。本当に情けない。

 

「比べるなよ」

 

「......」

 

静かに、それでも確かに怒りが伝わってきた。

 

「自分と他人を比べるな。俺は友奈みたいに全方面に優しさを向けれないし、風先輩のように思い切りも良くない。樹みたいにタロット占いをできる訳でもない。それに...俺は東郷みたいに人を気遣い続けることも、多分できない。なあ、東郷。俺はお前らよりも劣ってるか?」

 

「劣ってなんかない!」

 

咄嗟に声が出た。何故かは分からないけど、彼には自分自身を卑下して欲しくない。自傷気味の弱々しい笑みを浮かべて欲しくないのだ。

 

「そういうことだよ。お前が今思ったように、俺も同じことを思ってるんだよ。自分を低く見るな。劣ってる部分だけに目を当てるな」

 

―――やはり、彼は優しい。

 

「俺の知る東郷美森ってヤツはな、俺よりも長所の多いんだよ。俺は東郷に勉強では及ばないし、ぼた餅も東郷以上に美味しくは作れない」

 

「...冴宮くん、ありがとう。あなたが言いたいこと、ちゃんと伝わったから」

 

不器用にも慰めてくれた。弱い自分を奮い立たせてくれた。それが、彼の優しさだ。

 

 

「最後に...俺は他の奴らみたいに優しくないから、これだけは聞くぞ?東郷、お前は戦うか?本音を言えば戦って欲しくない。危険なのは目に見えてるからな」

 

「...ありがとう、冴宮くん...心配してくれて。でも、答えはさっき決めたばかりなの」

 

「へー、東郷はどうするんだ?」

 

―――有言実行をするために、まずは言葉にしよう。昨日の友奈ちゃんや冴宮くんのように、大声で宣言しよう。

 

「讃州中学勇者部、東郷美森。私は...勇者になります!!」

 

悩みが解決してスッキリした。まだ怖いし、不安だ。それでも、戦う理由は見えてきた。

 

 

 

 

「そんな勇者様に、一つご報告があります」

 

「...冴宮くん...どうしたの?急にかしこまって」

 

片膝を地につき、申し訳なさそうに此方を見つめる。その表情に、東郷は嫌な予感しかしなかった。

 

 

「あと30秒で、授業が始まります」

 

「......えっ」

 

 

東郷は思い出した。自分達は1時間目と2時間目の間を利用して話してたことを―――

 

車椅子の東郷が階段を利用して辿り着く教室に30秒弱で到着する筈もなく、教師のお叱りが確定した瞬間だった。

 

 

―――でも、不思議と彼を憎らしくは思わなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

放課後、勇者部は部室に集まっていた。

 

風は黒板に奇妙な物体を描いており、残るメンバーはその後ろで精霊について話していた。有能でありながら、ぬいぐるみのような可愛さも兼ね備えている謎生物だ。

 

樹は友奈の頭上に乗る生き物を見る。

 

「その子、懐いてるんですね!」

 

「えへへ、名前は『牛鬼』っていうんだよ!」

 

「ゲーセンのUFOキャッチャーの景品みたいな見た目だな。ぬいぐるみに埋もれてても違和感ないぞ?」

 

「ビーフジャーキーが好きなんだよね!」

 

「牛なのに!?」

 

「...俺は、見た目も名前も牛なのにビーフジャーキーを与えた友奈のナチュラルサイコパスな面が怖いよ。あれか?友奈って魚の餌を焼き魚にするタイプか?」

 

何となく、友奈の怖い側面を見つけてしまった気がした。牛鬼が勝手に食べたとしても、牛の目の前で牛を食べてた事になる。...気にしてはダメだと、本能が告げた。

 

「春樹くんの精霊は?」

 

「俺のは...なんか3匹いたんだけど。おいで、『大蛇(オロチ)』、『河童』、『雪女』」

 

空間から3匹の精霊が現れる。白い蛇の『大蛇(オロチ)』、名前で大体想像のつく『河童』、白い着物を着た幼子の『雪女』。何故か友奈や樹、風は1匹だけなのに、春樹には3匹も最初からいた。

 

「...妖怪が盛り沢山!みんな可愛いね!!」

 

友奈が撫でようと近づくが、3匹とも逃げた。空中を浮遊し、春樹の後ろに隠れてる。

 

「東郷、妖怪と精霊って同類なんだっけ?」

 

「色んな説があるけど...妖怪は人の理解を超えた不思議な存在って言われてるの。 悪い影響を及ぼすことが多いわ。精霊は魂や霊のことを指す。 主に自然を対象とし、実体を持たない存在ね。多分、勇者システムの『精霊』は精霊と妖怪の区別が曖昧なんだと思う」

 

「気にしないのが1番ってか?」

 

無駄な雑談を繰り広げてる内に、風の準備が終わったらしい。黒板には良く言って現代アート的、お世辞なしで言うと幼稚な落書きが完成してた。

 

 

先程でとは違い、部室内を真面目な雰囲気が支配する。

 

「さてと、みんな元気で良かった。早速だけど昨日のことを色々説明していくわ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「戦い方はアプリに説明テキストがあるから、今は何故戦うのかを話すわね。これはバーテックス!」

 

風が黒板の落書きを指さす。

 

「あ、それ昨日の敵だったんだ」

 

「あ、あはは...奇抜なデザインを良く現した絵だよね」

 

「まあまあ、これが勇者部トップの女子力(笑)を誇る風先輩の全力なんですって。優しく嗤いながら生暖かく見守るのが一番だよ。そして、そんな風先輩には敢えてこの言葉を贈りましょう。さすがっスね〜!」

 

「煽るな!下手だってことくらい自覚しとるわ!!」

 

閑話休題(それはさておき)

 

風の話をまとめると、昨日の奇妙な化け物、バーテックスは人類の天敵であり、神樹様が作り出している壁の向こうから現れたらしい。全部で12体攻めてくるのが神樹様の御神託で分かったらしい。つまり、黄道十二星座がモチーフとなっているようだ。88星座がモチーフじゃないだけマシと言えるだろう。

 

「目的は神樹様の破壊。以前にも襲ってきてらしいど、その時は頑張って追い返すのが精一杯だったみたい。そこで大赦が作ったのが、神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身するシステム。人知を超えた力に対抗するには、こちらも人知を超えた力でってわけね」

 

風が再び、黒板に描いたかろうじて人型を保ってる "何か" を指す。才能の無さが良くも悪くも窺えた。哀れとは思えど、春樹は面白いからと言って同情はしなかった。

 

「...それ、私たちだったんだ...」

 

「あ、あれだよ!現代アートってやつだよ!!」

 

「...改めて見ても、下手だなぁ...友奈狂の東郷さんがキレかかってますぜ?あーあ、友奈を下手に書くからですよ」

 

「ふふっ、大丈夫よ。風先輩には友奈ちゃんの姿形をちゃんと理解できるように、ゆっっっくりとお話しするだけだから」

 

「ちょっ、春樹!?東郷の目が怖いんですけど!?これって春樹が何も言わなければ何も起きなかったよね!?」

 

焦る風の表情を見ながら、春樹は幸せそうにお茶を啜ってせんべいを頬張る。風の不幸を眺めながら飲むお茶は美味しいと言わんばかりに。

 

尚、その光景に友奈と樹は苦笑いだった模様。

 

「そ、それは置いといて!話を戻すわ。樹海が何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻った時に何らかの災いとなって現れるの」

 

樹海が破壊され過ぎると、樹海化が解けたあとに事故や天災となって影響する。つまり、長期戦になればなるほど樹海にはダメージが溜まり、自分達の日常が今以上に崩れる。それは何としてでも防ぎたい。

 

「そして、それを阻止するために大赦がアタシに指令を出した。勇者部...つまり、友奈と東郷、樹、春樹を意図的に集めること。それがアタシに課せられた命令だったの」

 

「...それで、なんで春樹さんは勇者に選ばれたの?お姉ちゃん、言ってたよね?本来は男の人が勇者になることはないって...」

 

「...分からないわ。春樹についてはアタシも知らされてないの。ただ、冴宮春樹はイレギュラーな勇者としか...ね」

 

バーテックスと戦う直前、風は確かに言ってた。冴宮春樹は勇者としてはイレギュラーだと。勇者は無垢な少女しかなれない。その前提が覆ったのだ。

 

(...多分、俺の『ご都合主義』のせいだよな。男なのに、『都合良く』勇者の適性があって、『都合良く』そんな俺が大赦の目に止まった...まあ、そんなこと知る由もない大赦からしたら、俺はイレギュラーでしか無いんだろうけど)

 

この『ご都合主義』は何処までも通用するか分からない。今のところは全部上手くいってるが、この後に関しては未知数なのだ。転生前、神が言っていた。『ご都合主義』は可能性でしかないと。本来なら断言する事実を、 "かもしれない" に変化する能力。万能とは程遠かった。

 

 

次の戦いは何時になるか分からないと、風は言った。明日かもしれないし、1週間後かもしれない。1つだけ断言出来ることは、そう遠くはないということのみ。

 

「あ、東郷。折角集まってるんだし、今のうちに言っておけよ。お前が今日決意したことを」

 

「...ええ、そうね。友奈ちゃん、風先輩、樹ちゃん。聞いてください」

 

東郷は口を開く。言葉を紡ぎ、意志を伝えるために―――

 

「私は...正直、風先輩に八つ当たりしようと無意識に思ってました。何でもっと早く言わなかったのか。友奈ちゃんや樹ちゃん、冴宮くんが死んでしまったらどうしてたんだと――」

 

「...東郷」

 

「でも、それは八つ当たりでしか無い。私達が選ばれない可能性もあったし、大赦からの指令はそう簡単に公言していいものでもない。それに...もし選ばれなくて、その上で事情を知ってたら、私達は日常を謳歌出来なかったと思います」

 

東郷美森は、他人の犠牲の上で成り立ってる平和を平和だとは思わない。必要犠牲――コラテラル・ダメージだと割り切れもしない。

 

「...ごめん、東郷。直接伝えなくても...遠回しにでも相談は出来たのに...」

 

「―――許します。結果論でしかありませんけど、勇者部は誰も欠けてません。誰も大怪我を負ってはいません。でも、其れは現状でしかない。私はもう、目の前でみんなに傷ついて欲しくない。傍観者になりたくない!」

 

だから、と告げてから東郷は大きく深呼吸する。もう一度宣言するんだと。自分が勇者部の一員であるために!!

 

「―――私も、勇者になります」

 

 

「東郷...!」

 

 

 

その宣言を合図にしたかのように、携帯からアラーム音が鳴り響いた。

 

「...雰囲気読めよ...!バーテックス共が!!」

 

携帯の画面には『樹海化警報』の文字が並ぶ。

 

 

 

―――世界が止まり、勇者部は光に包まれた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

・春樹の精霊

 

『大蛇』

"だいじゃ" じゃなくて、 "おろち" と読む。見た目は白い蛇だが、ぬいぐるみのような外見なので、名前負けで威厳に欠ける。勇者部では可愛いと言われて好評らしい。大好物は意外にもエナジードリンクである。

 

『河童』

見た目通りの河童。こちらも可愛いと好評だ。好物はきゅうりであり、泳ぐのが得意。何処までも見た目と名前を裏切らない河童だ。現在、春樹の精霊の中で唯一白じゃない精霊でもある。

 

『雪女』

真っ白な和服を着た幼女。伊予島杏の雪女郎よりも人間に近いフォルム。体から冷気が漏れており、夏には雪女の名に恥じぬ活躍をする。雪女なのに熱々鍋が好物な変わり者でもある。

 

 

 

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