都合の良い世界 作:茶ダックス
『いくぞ相棒!アタシ達は勝って帰るんだからな!今更ビビるなよ!!』
『上等!■こそ、今更チキるなよ!!俺は負け戦をしに来たつもりは毛頭無いからなァァ!!』
お互いに軽口を言い合い、不安をごまかすために笑う。勝って、明日を笑顔で迎えるために―――
『『来いよ化け物共!俺(アタシ)達が相手だ!!』』
―――それは過去の記憶。時が経ち、代償で奪われ、それでも魂に焼き付いた光景だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「―――春樹くん?ボーッとして、どうしたの?」
「アンタねぇ...緊張感が足りてないわよ?今からバーテックスを相手にするってのに」
「...いや、何でもない」
一瞬だけ、変な光景が頭に浮かんだ。自分と、自分を相棒と呼ぶ少女の2人で化け物に立ち向かう光景。白昼夢のように朧気で、それでいて瞼の裏には鮮明に焼き付いたその場面に、春樹は心臓を締め付けられる感覚を覚えた。
(...これは後にしないと...今はバーテックスが先だ。感情に浸るのは今じゃない)
―――頬を叩き、切り替える。
「そんじゃあ、連日で化け物退治と参りましょうか!!......って、今日は3体も同時に相手かよ!?」
「うそ...でしょ...!?」
風は戦慄する。勇者アプリの画面には射手座、蟹座、蠍座の表示がされてた。勇者になってから2日目で3体同時は中々に鬼畜だ。
(...あれ?)
また、既視感を感じる。初めて見る化け物共を憎いと感じ、それでいて冷静で物事を考えれてる自分がそこには居た。
「風先輩風先輩、俺...運命を感じました」
「...は?女子力お化けなアタシに恋的な運命感じちゃったの?うーん、容姿は悪くは無いけど...もうちょっと身長を伸ばしてから出直してきなさい」
「そうじゃねーですよ。風先輩にじゃなくて、あのバーテックス共に因縁的何かを感じるんです。心做しか、敵意をめっちゃ向けられてるんですけど?......あと、まだ成長期ですから。将来は185cmになる予定ですから」
「春樹さん...意外と身長、気にしてます?」
樹の戯言は放っておき―――
バーテックスには目という感覚器官が無いので、飽くまでも『心做し』程度だが、視線や敵意を感じる。確信には至れないが、気のせいだと捨て置くことも出来ない不思議な感覚だった。
「冴宮くん、早く勇者に変身した方がいいわ。バーテックスはもう肉眼で見える距離にはいるもの」
「東郷、お前はいつの間に変身したんだよ。昨日の樹みたいに小聡明くウィンクとか謎スマイルを晒しながら変身しないのか?俺は絶対にやらないけど。需要無いし」
「み、見てたんですか!?」
―――春樹は優しく微笑む。
しっかりと見てた。斜め後ろで姉が生暖かく見守ってた場面まで目に焼き付いている。丁度手に持っていた携帯電話で動画を撮り、某自称女子力の塊に500円で売ったのが昨日の放課後だ。
羞恥で紅くなった後輩を友奈が励ましてる光景を見ながら、春樹は無言無表情で変身した。
「さてさて、風先輩。部長として何か作戦とかは―――みんな!避けろ!!」
風に問い掛けると共に、視界の端に矢の雨が映った。もしかしてしなくとも、バーテックスの攻撃だ。
5人とも別々に地を蹴って矢の範囲から外れる。東郷は友奈に抱えられ喜んでいる風に見えるのはきっと気の所為だろう。東郷は足が不自由だが、勇者服の一部である4本のリボンを触腕のように使って移動はできる。だが、それでも他の勇者よりは機動性に欠ける。よって、友奈が抱えてたのだ。
「友奈ちゃん!私を後ろに連れてって!この武器なら遠くから狙撃できると思うから!!」
「了解!風先輩!東郷さんを後ろに連れて行くのでちょっとだけ離れます!!」
友奈は東郷を運んで後方に下がった。明らかに隙を見せているが、射手座は矢を春樹にしか放たない。
春樹も当然避けるが、何故か行く先々に矢が落ちてくる。敵方面を見ると、青いバーテックスが下の顔から大量の矢を繰り出していた。
「男を最初に片付けようって!?ハハハッ!モテる男は辛いねぇぇぇ!?」
「お姉ちゃん!春樹さんがお姉ちゃんみたいなこと言ってる!キャラが被ってるよ!!」
「なっ...!アタシのイメージってアレなの!?私はもっと『ふっ、モテる女は辛いわね...』って優雅さと魔性の女的雰囲気が醸し出てるわよ!!」
「樹!俺をあんな女子力(笑)を名乗る間抜けと同列にするな!!てか、余裕なら助けろ!!」
近づけば広範囲の矢の雨が降ってくるし、無駄に硬い蟹座が進路を妨げる。離れれば槍のように太い矢でスナイパーのように撃ってくるし、間の中距離を保てば蠍座が球体を繋げたような尻尾で薙ぎ払ったり、先にある針で突いてきたりする。
そして、蟹座が複数の反射板を駆使して射手座の矢を反射してオールレンジ攻撃をしてくる。
(射手座と蠍座の連携が厄介だな...)
何故か今回のバーテックスは自分を集中的に狙ってくる...が、逆にチャンスでもある。
「風先輩!俺が囮になるので友奈が戻ってきたら俺以外全員で一体ずつ潰してきてください!!」
「ちょっ!後輩を囮にできる訳ないでしょ!?」
「大丈夫です!俺の武器は盾にも出来ますから!それに...現状の最善策はそれしかないんですよ!!」
「っ...!死ぬんじゃないわよ!!」
間も無く友奈が帰って来る。それまでは風が攻める順番を考え、樹が流れ弾を処理する。春樹は主に避けに徹して、場合によっては先を広げて硬化させた黒刀で矢を防ぐ。
「結城友奈!ただいま戻りました!!」
「友奈、樹!春樹が気を引いてる内に蟹座と蠍座を片付けるわよ!!」
「「了解!」」
―――春樹は高速で移動しながら3人を見送った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
3人は蟹座を目指して駆け出した。射手座は今も尚春樹を狙い続けており、蠍座は遠くから東郷が狙撃してる。まだ御魂を出すまではダメージを与えられてないが、体勢を崩すには至ってる。
「アタシの女子力...喰らえぇぇ!!」
蟹座の反射板に向かって風が大剣を振り下ろすし、見事に砕くことに成功する。
「はっ!せいっ!!ぐぬぬ...!本体が硬すぎるよ〜!」
「...私のワイヤーでもダメです!!」
友奈と樹が蟹座に攻撃するが、目に見えたダメージは無い。甲殻類を彷彿とさせる姿をしているだけはあり、生半可な攻撃では傷一つ付かない。
「だったら、アタシが!!」
風が大剣を更に巨大化させ、振り下ろす。派手な攻撃に見合った効果はあり、蟹座の体には所々にヒビが入った。
「樹!今ならワイヤーで縛れるでしょ!!」
「うん、弱ってる今なら!」
ワイヤーで蟹座の動きを封じることに成功した。後は全員で攻撃を与え続けるだけだが―――
「...あれ、お姉ちゃん。友奈さんは...?」
「...消えた!?何処に......は?何あれ?」
周りを見渡し、友奈を探そうとすると―――ボロボロの蠍座のバーテックスが空を飛んできた。否、正確には『投げられてきた』だ。犯人は考えるまでもなく友奈だ。
「ちょっと!友奈!!」
「えへへ...丁度弱ってたので2体をぶつければダメージが入るかな〜って思いまして」
「び、びっくりした...」
東郷が遠くからの狙撃で弱らせた蠍座を友奈が桁外れのパワーで蟹座に向かって投げつけたのだ。友奈の狙い通り、2体ともにダメージが入り、御魂を吐き出した。
「ほら、御魂を破壊するまでがバーテックス退治よ!!」
「お姉ちゃん、帰るまでが遠足みたいに言わないでよ」
「私、いきます!!」
友奈が蟹座のバーテックスの御魂に殴り掛かる。だが、全ての攻撃を紙一重に避ける。単純に硬かった乙女座の時とは違い、攻撃が当たらないので厄介だ。蟹座の御魂は友奈とは相性が悪かった。
「ふっ!はっ!!なんか絶妙に避けるんだけど!?」」
「友奈!代わりなさい!!」
「は、はい!」
大剣を横に構えて風が前に出る。
「 "点" の攻撃をひらりと避けるなら... "面" の攻撃で!!押し潰す!!」
再度巨大化させた大剣の側面で御魂を殴り飛ばし、動きが止まったところを地面に押し潰した。それによって御魂が破壊され、蟹座の体が崩れて砂となった。
「まずは1つ!次いくわよ!!」
続けて蠍座のバーテックスの御魂に目を向ける。黄色い御魂に攻撃しようしとたら、一瞬で複数個に増えた。
「な、なんか増えた!?...でも、数が多いならまとめて!!」
樹がワイヤーを出し、増えた御魂をまとめてワイヤーの網に閉じ込める。
「えーい!!」
数が多い分、それほどの強度は無かったらしく、そのまま細切れとなった。
「ナイス樹!あと1つで!!」
―――3人は残るバーテックスを倒すため、春樹の元に向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
3人を見送った後、春樹はあることに気がついた。
(...蟹座の反射板が射手座の矢を反射してる...てことは、俺の武器でもできるんじゃね?)
自分を褒めたい衝動に駆られる。先程から変形させた黒刀で矢を防御してるので、強度には問題が無いだろう。形は見て覚える。
「...こんな感じだよな?」
刀の先を広げ、硬度は最大にする。黒い蟹座の反射板が完成した。
「よし!ばっちこーい!!」
射手座が下の口から大量の矢を吐く。春樹が矢の雨に対して反射板(仮)を斜めに構えると―――
「おぉー!反射したぞ!!これはもう楽勝と言っても過言じゃない!!」
想像以上に上手くいったことで気分が高揚し、小躍りでもしたい気分になる。勿論比喩的表現だが。―――端的に言えば、春樹は調子に乗ってた。
「いや〜、『ご都合主義』様々だな!確かに、転生してから今に至るまではぜんぜん『俺TUEEEE』の雰囲気すら無かったけど...遂に俺の時代が来たな!!」
今現在も矢を受け続けてるが、全部反射できている。そして、更に気分が高揚した。
―――反射板(仮)に強い衝撃が走る。
「ん...?んん〜?......か、貫通していらっしゃる?」
反射板(仮)には槍のような矢が刺さっていた。それは先程まで調子に乗っていた愚者を嘲笑うように―――
「上の口から出た矢は反射出来ないのかよ!?」
春樹は再び走り出した。穴の空いた反射板(仮)は形状を刀に戻せば元通りになった。便利な武器に感心しつつ、脱兎のように駆ける。
だが、それを逃がすほどバーテックスも優しくは無い。先程の春樹が慌てふためく反応に味をしめたのか、太い矢ばかりを撃ってくる。
「ぐぬぬ...!厄介な!!」
もう一度太い矢が飛んできそうになり、春樹は刀を構えて待つ。正直、走り疲れたので止まりたかった。迎え撃つつもりだが、素直に正面から受けるつもりは無い。
―――矢が放たれた。
「漫画で読んだ!勢いの強い攻撃は―――」
目の前に迫る矢に全神経を集中させる。矢を弾くのでは無く、側面にそっと刀の先を添えてから押すだけ。
「―――横の力に滅法弱いってな!!」
矢が逸れて後方に飛んでいく。後はこれを繰り返しだけだが、残念なことに何度も出来ることでは無い。全神経を集中させてタイミングを合わせているのだ。何十回と続けてたら集中力が持たない。
―――集中力を欠いたら死ぬ。
それが化け物退治であり、無常で残酷なこの世界の理。遠距離の攻撃方法を待たない春樹からしたら現在は守りを固めるのが最善策だった。
(あーあ、東郷は狙撃できるって言ってたし...何とか手伝ってくれないかな?...あ、電話したら出るかな?)
疲労の溜まった脚を無理やり動かし、勇者の脚力を存分に発揮して地を蹴る。電話をしている間、自分は無力になる。なので、走りながらしか電話をする時間を作れないのだ。
勇者アプリに実装された通話機能を使用する
『もしもし、冴宮くん?』
「東郷、今暇?ちょっと手伝って欲しいんだけど」
『ええ、丁度友奈ちゃん達が2体のバーテックスの御魂を破壊してる最中だし...手は空いてるわ』
「東郷って狙撃してるんだよな?だったらさ、奥にいるバーテックスに攻撃してくれない?さっきまで時間を稼いでたんだけど...俺と相性悪すぎた」
春樹の攻撃範囲は近距離から中距離まで。近づく暇もなく遠距離から攻撃されるのが苦手だ。その苦手を体現したような敵が今回の相手だった。
『了解、そのバーテックスの特徴とか教えてくれる?』
「上の口から威力が強くて太い矢を飛ばしてくる。下の口からは矢の雨を飛ばす。矢の雨はなんとか出来るけど、太い矢が厄介」
『...うん、こっちからも攻撃を確認したわ。太い矢については私が対応するわ。引き続き囮役お願いできる?』
「勿論、太い矢がどうにかなるなら後は楽だし」
―――黒刀を再び反射板(仮)に変形させて構える。
バーテックスの上の口から太い矢が放たれるが、春樹は動かない。東郷を信頼してるからだ。
放たれる矢に対して、東郷が正確無比な狙撃を披露した。矢は途中で爆発し、木っ端微塵になる。
「うわっ...東郷さんパネェっす。惚れちゃいそうだ」
『もう、変なこと言わないの。ほら、次は下の口を開いたわ』
「大丈夫大丈夫、ぜんぶ反射できるから」
雑談をしながら東郷が射手座を何度も撃つ。太い矢は東郷に相殺され、矢の雨は春樹が反射する。とてもじゃ無いが、バーテックスに勝ち目なんて無かった。
―――数分後
「終わった〜!」
「お疲れ様、冴宮くん」
「東郷もお疲れ。最後のは東郷がいて助かったよ」
無力なバーテックスは呆気なく御魂を東郷に撃ち抜かれて砂となった。一応御魂の能力は高速移動だったが、我が部のスナイパーには及ばなかったらしい。
―――3体のバーテックスを倒したことで、春樹達は光に包まれて讃州中学の屋上へと転移した。そして、勇者部にとって2度目の樹海化が解ける。
2度目のバーテックス戦はほぼ怪我なしで終わった。
今回のタイトル、『二度目の戦い』には2つの意味を込めました。