都合の良い世界   作:茶ダックス

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赤の勇者との出会い

―――2回目のバーテックス戦から1週間が経過した。

 

未だに3回戦目は起きてない。そもそも、以前の2回連続が異常だったのだろうか?答えの帰ってない問い掛けは置いといて、最近は体を休めつつ無理のない程度で勇者部の無賃労働兼ボランティアに精を出していた。そんな平和と言っても過言では無い日々が続いている。

 

 

そんな平和な日曜日に、勇者部は春樹の家に集まってた。

 

「さて、今回は集まってい頂きありがとうございます」

 

呼び出した本人が一言目を告げる。

 

冴宮家のリビングには自分以外に4人の女子が居る状況。恋愛漫画のハーレムや部活メンバーでも無ければ有り得ない状況だった。

 

「まあ、後輩の頼みだから態々来たけど...学校じゃ駄目だったの?日曜日とはいえ、勇者部のメンバーが集まるなら部室の方がいいと思うんだけど」

 

「あ、それ私も気になってた!春樹くんが家に私達を集めるのって珍しいよね?」

 

「風先輩、友奈...これには深いわけがあるんですよ」

 

春樹は真剣な表情で風と友奈を見据える。雰囲気が一転し、言葉には重みすら感じる。それに釣られて2人もまた、唾を飲み込んで春樹を見た。

 

 

「―――面倒臭かったんです。学校に行くのが」

 

 

「...は?」

 

「...えっ?」

 

友奈は想定外の答えに固まり、風は威圧的な声が漏れ出た。そんな2人を置いて、春樹は話を続けた。

 

「―――てのは冗談で、都合とかいろいろ考えたら俺の家が1番ちょうど良かったんですよ」

 

春樹の住む家は友奈や東郷の家の近くにある。足の不自由な東郷を考えると、部室よりも冴宮家の方が楽だろう。先輩と後輩には我慢して歩いて来てもらえば、メンバーの半分以上は楽できるという算段だ。

 

「そういう事は先に説明しなさいよ。危うくアタシの女子力を喰らわせる所だったわ」

 

「お姉ちゃん、女子力って言えば何しても許されるわけじゃないからね?」

 

どうやらあの先輩は女子力と書いて暴力と読むらしい。バーテックス戦でも『私の女子力...喰らえぇぇ!!』と女子力の誤用をしていたのを思い出し、春樹は先輩への尊敬数値をまた1つ下げた。

 

話が進まないことに痺れを切らしたのか、東郷が問い掛ける。

 

「冴宮くん、結局何でも私達を集めたの?みんなで休日を満喫しようって事じゃ無いんでしょう?」

 

「あ、そうだった。風先輩のせいですっかり忘れてた」

 

「アタシのせいにするな!」

 

「ふ、風先輩!落ち着いてください!!」

 

荒ぶる先輩を友奈が鎮め、やっと話が前進する。

 

「この前の戦いで思ったんですよ。俺には遠距離からの攻撃手段が少ない...て言うか無いんです。友奈はバーテックスを他のバーテックスに投げてぶつけることが出来るし、東郷は二丁拳銃と狙撃で中距離と遠距離をこなせる。風先輩は大剣を更に巨大化させるし、樹はワイヤーで全距離のサポートが可能。......対して俺は遠距離だとほぼ無力になる」

 

一応バーテックスを投げれなくも無いが、友奈程の距離は出せないと思う。

 

「...春樹さんの武器も反則レベルだと思いますけど」

 

「そうだよ!春樹くんだって活躍してるよ?」

 

「武器が強くても、使いこなせなければ意味が無い。現状では器用貧乏の域を出ないんだよ。黒刀を篭手にして友奈みたいに殴ることは出来るけど、徒手格闘による格闘戦を得意とする友奈には及ばない。樹みたいにワイヤーに変化させることも可能だけど、勇者部の中でワイヤーによるサポートは樹以外だと逆に邪魔になる。風先輩みたいに大剣で斬り掛かることもするけど、風先輩みたいなゴリラ的パワーは無いから見た目以上の攻撃力はない」

 

「おいコラ、美少女を捕まえてゴリラとは何のつもりだ?せめて女子力ゴリラって言いなさい」

 

「...お姉ちゃんがそれで良いなら、私は何も言わないよ?」

 

「樹ちゃんが憐れんだ目で風先輩を見てるわ...」

 

「...話を戻すぞ?近距離と中距離からの器用貧乏なら自己訓練だったり黒刀の形状変化による攻め手を増やせば改善ができる。だがら、今俺に足りないのは遠距離からの攻撃方法なんだよ」

 

何処かの女子力ゴリラのせいで話が再度逸れたが、現状の説明を終えることは出来た。

 

遠距離の攻撃方法については色々と考えたが、どれも没案にしかならなかったのだ。

 

「そこで、冴宮くんは私達に案を出して欲しいのね?そのために呼んだのでしょう?」

 

「東郷は話が早くて助かる。つまり、そういう事です。1人で考えはしましたけど...行き詰まりました」

 

いっその事、遠距離は諦めて東郷に任せるのも1つの案なのだが、念には念を。東郷が動けない場合に自分が前回の射手座のようなバーテックスが相手だったら詰む。

 

 

―――数分考えた後、一人一人案を出していった。

 

まずは友奈の案―――

 

「東郷さんみたいに銃を作るのはどうかな?」

 

「却下。銃みたいな複雑な構造は作れないし、黒刀は分裂させたり出来ないから装填する弾もない。一応試したけど不可能だった」

 

「そっかぁ...残念」

 

黒刀は大剣にしたり小太刀にしたり、広げて盾にも変化可能だ。だが、複雑すぎる構造の武器は作れないのだ。応用の効く武器だが、万能では無いらしい。

 

次に樹の案―――

 

「刀の先をびよーんって伸ばして、先で突くのはどうですか?」

 

「良案だけど...相手が限られる。バーテックスって御魂を破壊しない限りは再生し続けるだろ?だから、 "点" での攻撃って牽制程度にしかならないんだよな。黒刀の伸びる速さを考えると、蟹座みたいに硬い相手は貫通しないだろうし」

 

「妥協案ってところですかね...」

 

普通に良い案だと思った。シンプルイズベストだ。使う相手は限られるが、遠距離からの1つの手としては十分カウント出来る。

 

―――東郷の案

 

「樹ちゃんと似た案になるけど、できるだけ大きくしてから振り下ろすのは?」

 

「あ、普通に良いかも。黒刀がどこまで大きくなるのかは知らないけど、試す価値はあると思う。欠点としては、高速移動する相手に対しては当たるか不安だって点だけど...動かない相手になら使える」

 

「ふふっ、それは良かった」

 

今度のバーテックス戦で試そうと春樹は心に決めた。黒刀が無限に大きくなるのは有り得ないが、最大まで巨大化させてからバーテックスに投げつけるのもありだ。勇者の武器は一度消してからもう一度手に戻すことが可能なのだし。

 

―――最後に、風の案

 

「パチンコよ!パチンコ!!」

 

「樹、お前の姉さんがギャンブルにハマってるぞ?そのうち家の金にまで手を出すのが俺の目には見える。今のうちに青春友情物語の如く殴って目を覚まさせた方が良いんじゃないか?何ならメリケンサック貸すか?ノリで買ってから1度も使ってないし」

 

「そ、そんな...!...春樹さん、メリケンサック...借ります!!」

 

「樹!?」

 

勇者部が一斉に風を憐れむ目で見つめた。どの物語でも、ギャンブルにハマった者の末路は悲惨の2文字に尽きる。願わくば、風が更生しますようにと春樹は切に願った。

 

「風先輩!まだやり直せますよ!!」

 

「友奈ちゃんの言う通りです。誰でもない自分自身のために、もう一度考え直してください!」

 

友奈と東郷は先輩を想う。後ろでメリケンサックを握り締める樹を見て、風は―――

 

「そっちのパチンコじゃないわよ!Y字型のアレよ!小石とか鉄球を飛ばすやつ!!」

 

「ああ、やっぱりスリングショットのことですか」

 

「やっぱりって言った!?アンタ最初から分かってたのに樹にメリケンサック渡したの!?」

 

スリングショット。それはY字型の棹をはじめとする枠構造にゴム紐を張ってあり、弾とゴム紐を一緒につまんで引っ張り手を離すと、弾が飛んでいく仕組みの道具だ。攻城兵器などの大型のものはカタパルト、玩具としての簡易なものはパチンコとも呼ばれる。

 

端的に言えば、ギャンブルの『パチンコ』では無い。

 

怒りで暴れそうな風を "かめや" の値引きクーポンで黙らせ、再度風の案を聞いた。

 

「春樹の黒い刀をでっかいパチンコにして、持つ部分を地面に刺す。あとは春樹自身が弾の役割を担えばいいんじゃない?何ならパチンコと春樹をワイヤーで繋いで、飛んだ後直ぐに形状を刀に戻したら空中でも攻撃を防げるし。遠距離の攻撃方法がないなら、近距離まで攻め込めばいいでしょ」

 

「......何か残念です。風先輩は常にアホで在り続けると思ってました。何で1番の良案を出してるんですか!!」

 

「馬鹿にされてるの?それとも褒められてるの...?」

 

春樹は完全に風をネタ枠だと認識してた。想像を良い意味で裏切った風への尊敬数値がほんの少しだけ上昇した。

 

遠距離が苦手なら近距離まで詰めれば問題は無い。風のそんな考えは理にかなっている。空中での避けられない攻撃も黒刀があれば殆どが対処可能だ。

 

 

「よーし、この調子でもっとアイデアをください!!」

 

 

―――不謹慎ではあるが、次の戦いが楽しみだと春樹は思った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―――戦略の幅を広げてから約1ヶ月が経過した。

 

樹海化警報が鳴り響く。春樹が待ちに待った3度目のバーテックス戦だ。今回は一体だけらしい。バーテックスの位置を確認すると、直ぐ様勇者に変身して駆け出す。

 

「先に突っ込んできまーす!!」

 

「あんたは玩具を貰ったばかりの子供か!!...って、聞いてないし」

 

「まあまあ、お姉ちゃん。春樹さんだって危険だって分かったら引くよ...多分」

 

「...私、念の為に援護の準備しておきますね」

 

「あ、あはは...」

 

東郷は狙撃銃を構え、山羊座のバーテックスに向ける。まだ撃ちはしないが、何時でも撃てるようにはしておく。

 

 

―――春樹はバーテックスの正面に立つと、黒刀を巨大なスリングショット型変えて棹部分を地面に刺す。ゴム紐部分に全体重を預け、できる限り後退し―――

 

「行っけえぇぇぇぇ!!」

 

弧を描いてバーテックスに向かう。山羊座は空中にいる春樹へ攻撃してこないので、遠距離から飛び道具を使うタイプでは無いのだろう。

 

直ぐに黒刀を5メートルはある大剣に変形させ、縦に回転しながら突っ込む。

 

「喰らえぇぇぇ!!」

 

僅かな抵抗を最後に、右半身に生えてる足のような部分を二つまとめて刈り取った。この後は無理やり体勢を変えて着地し、バーテックスを見据える。

 

「やっべ、想像以上に威力が強い!これ考えた風先輩に感謝しないと!!」

 

そんな感謝を胸に、バーテックスを再度向かおうとしたら―――

 

「っ!?...爆発した?」

 

バーテックスに小太刀が二本刺さり、爆発した。勇者部にはこんな武器を使う人はいない。つまり、現段階では敵か味方かが分からない状態だ。

 

目の前に赤い勇者服を纏った少女が降ってきた。

 

「ちょっとアンタ!後はこの完成型勇者に任せて下がってなさい!!」

 

「は?誰だよ」

 

「今はどうでもいいでしょ!」

 

自称完成型勇者が再度バーテックスへ向かい、春樹は1人その場に残された。

 

「ちょろいわ!!」

 

少女は脇差を投げては爆発を繰り返す。バーテックスを圧倒してるのが見て分かる。手助けは必要ないだろうが―――

 

「...上等だ。下がってろって言われた程度で俺が下がるわけないだろ...!」

 

春樹もバーテックスに黒刀を伸ばす。樹が出した案だ。貫通することに特化させるために、先を細く鋭くさせたりと工夫を凝らした。

 

黒刀がバーテックスの足のような部分に刺さり、先が抜けないことを確認した。ここから縮ませて元の形状に戻せば―――

 

「こっちが手繰り寄せられるんだよ!!」

 

地から足が離れ、春樹はバーテックスに突撃する。刀を極限まで細くしてから再度縮ませ、手元に元の形状で戻す。

 

ちょうど自称完成型勇者が通常は複数人でしか行えない封印を1人で開始しており、御魂が吐き出させる。

 

「御魂が出たら...破壊あるのみ!!」

 

御魂からドス黒いガスが吹き出るが―――

 

「ここまで近づいたら、見なくとも当たる!!」

 

横に一閃。

 

「ああーー!!私の獲物がぁぁぁ!!」

 

少女の叫び声をBGMに、御魂は破壊されて山羊座のバーテックスは砂となった。

 

「楽勝!!」

 

 

 

―――3回戦目は、赤い勇者の少女との出会いでもあった。

 

 

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