都合の良い世界   作:茶ダックス

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気付く代償

少女が勇者部部室の黒板の前に立ち、描いた図を掌で叩きながら説明する。

 

 

「戦闘経験値を積むことで、勇者としてレベルアップして強くなる。これを『満開』というわ」

 

 

―――勇者システムの一つ、『満開』

 

 

その説明があったのは三好夏凜が転校してきてから2日目の放課後だった。にぼっしーこと夏凛がにぼしは完全食だと主張したり、バーテックスの出現周期が乱れてることの説明をした後で最後に告げたのが『満開』だ。

 

「その『満開』を繰り返すことで、勇者はより強くなる。これが大赦の勇者システムよ」

 

(...『満開』か...繰り返す度に勇者として強くなる。命懸けで戦う俺達からしたら魅力的なシステムなんだけど...)

 

―――使いたくない。

 

何故かは分からないが、そんな考えが春樹の中には存在した。聞いた限りではデメリットは存在しないし、三好夏凜は偽った情報を平然と話すような人でも無い。

 

「なあ、三好はその『満開』を使ったことあるのか?」

 

「うっ...まだよ。先日のが勇者としての初陣だったのよ」

 

「なーんだ。アンタもアタシ達と同じレベル1の勇者なんじゃない」

 

「あ、あんた達とは基礎戦闘力が桁違いなのよ!一緒にしないでちょうだい!」

 

「風先輩、自称完成型勇者様は自称最強らしいですよ。にぼっしー先輩カッケー」

 

「自称を付けるな!あと、にぼっしーって呼ぶな!!」

 

「おぉ〜、キレのあるツッコミだわ」

 

結局、満開については何の情報も得られなかった。残念ながら完成型勇者は知識だけらしい。心に痼を残したまま、夏凛による情報提供が終えた。

 

 

風が『さて!』と呟いてから話題を変える。

 

今からは『勇者』では無く、『勇者部』としての時間だ。世界を守る勇者では無く、お人好しを集めたボランティア活動に没頭する勇者部としての時間。

 

「ここからは次の議題よ。春樹、説明してちょうだい」

 

「へいへい、皆さん注目せよ〜」

 

態々作った紙を全員に渡し、説明を開始する。今週末には子供会のレクリエーションを手伝いをすること。その具体的な説明としては、紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたりすることを読み上げる等。このボランティア活動も勇者部への依頼の一つだった。

 

「―――ということだ。三好は今週末に予定あるか?」

 

「...はぁ?私も参加させる気なの?」

 

「当たり前だろ。貴重な人材なんだから、俺の分まで働かせないと損だっての」

 

「そうね〜、夏凛には暴れ足りない子供たちのドッチボールの的になってもらおうかしら。あと、春樹は自分の仕事を夏凛に押し付けるの禁止」

 

風の中では既に夏凛の参加は決定しているらしく、レクリエーションでの活用法を悪巧みのように考える。本人は参加するつもりが毛頭無いらしいが。

 

「夏凛さん、昨日部活に入部しましたよね?」

 

樹の問いに『形式上は...』と返す。その答えに我らが先輩が悪人のようにニヤリと笑った。

 

「ここに入部した以上、部の方針には従ってもらうからな。...じゃないと、俺が1年生の時にサボれなかったから不平等だ」

 

「あー、そんなこともあったね。春樹くん、去年は『無賃労働だー!』とか『大人に上手く利用されてるんだ!』とか言って逃げようとしてたよね!」

 

「それは今もでしょ」

 

「逃げてから数分で友奈ちゃんに捕まえられてたのはいい思い出ね。今では部活の中で1番働いてるのに」

 

働いてるのではなく、働かされてるのだ。当初はノリで入部したが、日が経つにつれて増えるボランティア活動や、逃げれば同級生と先輩に捕まえられる日々。入部したから半年足らずで後悔してたのは良い思い出だ。

 

ちなみに、今はあまり逃げない。精々1ヶ月に1度程度の脱走だ。

 

「私のスケジュールを勝手に決めないで!」

 

「夏凛ちゃん、日曜日に用事あるの?」

 

「...いや、無いけど...」

 

「じゃあ親睦会も含めてやった方が良いよ!!」

 

春樹は夏凛に感心する。友奈の問いに対して、『用事がある』と嘘をつけばこれ以上の誘いは無かっただろう。だが、夏凛は用事は無いと答えた。

 

高圧的な態度ではあるが、根はいい奴なのだろう。

 

 

この後、友奈の押しに負けて夏凛の参加が決まった。友奈達は喜び、その様子を見て夏凛はまた呆れる。だが、喜ぶ友奈達とは裏腹に春樹の顔が曇っている事には誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

薄暗くなった道を1人で歩き、家に帰った。

 

自室で寝転び、思考する。誰一人欠けてないバーテックス戦、心強い味方としての完成型勇者の参戦。事態は良好なのだが―――

 

―――さて、そろそろ無視するのも限界だ。

 

自分が『勇者』になってからの "違和感" や "既視感" が頭にこびり付いて離れない。今となっては、冴宮春樹が何者かと聞かれても即答できる自信が無い。

 

今までの "違和感" をまとめよう。春樹は自室の机の引き出しからノートを取り出し、この短期間で感じた内容を書きまとめる。

 

 

―――初めての樹海化で感じた既視感―――

 

これが初めての "違和感" だった。その事を考えると、身に覚えの無い記憶には樹海化やバーテックス、もしかしたら勇者も関係してる可能性が捨てきれない。

 

 

―――所々あやふやな、虫食い状態のような過去の記憶―――

 

その事を今この瞬間まで何も感じなかった。ただ漠然と記憶の無い事実を受け止めていた。寧ろ、今は不思議で仕方の無い記憶喪失な事実に "違和感" を全く感じていなかったのだ。

 

 

―――1回目と2回目の樹海化時に頭に浮かんだ謎の言葉と光景。後は "約束" もだ―――

 

誰かと交わした "約束" 。見たことの無い少女と化け物に挑む光景。白昼夢のように朧気なものだが、頭を離れない。

 

 

―――初めてなのに身に染み付いてた『勇者』としての戦い方―――

 

最初から戦う覚悟を決めていた風や、格闘経験のある友奈とは違う。冴宮春樹は転生して『ご都合主義』を得た以外は何も持ってない一般人だったのだ。

 

 

―――『満開』への嫌悪感に似た感情―――

 

分からない。理解できない。そんな『不明』に塗れた感情が自分の中には確かに存在した。自分でも把握できてない心情を敢えて考察する。

 

 

 

(樹海化で感じた既視感...それから考え付くのは、過去にバーテックスに襲われて記憶を無くした可能性。...でも、『満開』についても聞いたことがある。つまり―――)

 

過去の自分には『勇者』の知り合いがいた、又は自分が『勇者』だった可能性。

 

後者の『自分が勇者だった可能性』を考えると、一応全ての辻褄があってしまう。

 

(...まだ決めつけるのは早い...!)

 

もしも過去の自分が勇者だったとして、それでも説明がつかないことが2つだけある。

 

――― "記憶喪失" と『満開』への嫌悪感。

 

最初に事故で頭を打って記憶喪失という定番が浮かんだが、事故で勇者関係の記憶だけを忘れるのは無理がある。つまり、偶然では無いのだろう。

 

「...っ!...ああ、クソッ...有り得ないだろ...!」

 

最悪の仮説が頭に浮かぶ。有り得ないと否定しても可能性を捨てきれない『仮説』。説明はつくが、納得はできないその可能性には吐き気すらした。

 

信じたく無い。意味の無いこじつけだと叫んで否定したい。だが、その『仮説』は真実に限りなく近いと感じてしまった。

 

「...『満開』には...代償があるのか...?」

 

過去に自分が『満開』して記憶を無くした。だから『勇者』やバーテックス、樹海化については何も知らなかった。大事な記憶を代償として失ったのだ。―――そんな妄言がパズルのピースのように当てはまる。

 

勇者システムの説明テキストにはそんなこと書いてない。三好夏凜はそんな説明を口にはしてない。

 

「代償があると仮定して...それは勇者には伝えられて無いのか?」

 

―――直ぐに携帯を手に取り、三好夏凜に電話を掛ける。

 

『...冴宮春樹?いきなり何の用よ?』

 

「三好...今日説明した『満開』について、話してないことは無いか?」

 

『何よ突然。やっと勇者の自覚が芽生えたのかしら?』

 

「いいから答えろ」

 

『...はぁ、全部話したわよ。隠す理由なんて無いでしょ。聴き逃しがあるなら説明テキストを見なさい』

 

「......ああ、分かった。...急に悪かったな」

 

電話を切る。恐らく、彼女も知らない。大赦から派遣されてきた夏凛が満開の代償について知らないということは―――

 

「大赦が意図的に隠した...!」

 

その仮説が有り得るのだ。もしも『満開』に代償があると勇者に知られたら、きっと勇者達は『満開』を拒否するだろう。圧倒的な力を得る代償に何かを失う。自分は記憶を失ったが、代償全てが記憶だとは断言できない。

 

(...俺達は消耗品扱いかよ!!)

 

勇者候補は自分たち以外にも存在する。所謂勇者の適性を持った少女達だ。自分たちが戦えなくなったら‪別の勇者を用意する。

 

それが歴代の勇者システムの在り方なのだろうか―――

 

「平和のためなら...俺達は必要犠牲だってか?...巫山戯んな!」

 

友奈は顔も知らない他人を守るために立ち上がった。

 

東郷は恐怖を乗り越えて国防に励むと宣言した。

 

風は自分一人でも化け物を相手にしようとした。

 

樹は健気にも姉を支え続けると決意した。

 

そんな純粋で無垢な少女達を大赦は利用し続けてきたのだ。そう考えると、尚更潰したくなってくる。犠牲の上で成り立つ平和を大赦が惜しみなく作ろうとしている。

 

「...大赦が国を支えてるのも事実だ。安易に潰して『はい平和』ってなる訳でも無い。...クッソうぜぇ」

 

自分以外の勇者部は全員、大赦を正義だと信じてる。自分達に世界を脅かす相手と戦う力を与えてくれた人達であり、国防に務める組織。それが少し前までの自分が大赦に抱いてた印象だ。

 

―――これは飽くまでも考察であり、本当に『満開』の代償が存在するなんて言いきれない。

 

でも、春樹の勘が告げるのだ。大赦は自分達に何かを隠していると。

 

(...『都合良く』ヒントがそろって、『都合良く』1番最悪で1番有り得てしまう可能性を発見できたってか?...胸糞が悪い)

 

未だに謎が晴れない『満開』。今しがた大嫌いになった大赦が開発したシステムなのだ。使わないのが1番だが―――

 

「...『満開』...たとえ代償があっても、アイツらを守るためなら使ってやるよ」

 

 

 

其れは願いであり、決意。国防なんてどうでもいい。ただ1つ願い望むのは、仲間達の無事と幸せだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

・勇者部員に対する春樹の印象

 

〔結城友奈〕

・元気なアホ。性格も良く、コミュニケーション能力に長ける少女だが、アホだった。勇者部に入部した当時はサボろうとした自分を1番先に捕まえに来る天敵だと思ってた。

 

〔東郷美森〕

・信仰対象。最初は友奈狂の変人だと思ってたが、意図せずに胸に触れた際に春樹を責めずに心配した事がきっかけで東郷を信仰しようとした。尚、本人が止めたので辞めた。

 

〔犬吠埼風〕

・揶揄う対象。リアクションが面白く、1日に何度も煽って怒らせている。樹から似た者同士だと言われた時はお互いに全力で否定した。過去に勇者部で開催したうどんの大食い勝負では引き分けだった。

 

〔犬吠埼樹〕

・生意気な後輩。昔は多少の遠慮を心得ていたが、最近はナチュラルに罵倒してくるのが悩み。だが、遠慮させるよりはマシだとも思ってる。休日はたまに2人でカラオケに行ってる。

 

〔三好夏凛〕

・何故かポンコツな気配を感じる。初対面は3度目のバーテックス戦であり、自信満々なエリートという印象を得た。最近はポンコツなツンデレにぼっしーという事実を知った。

 

 

 

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