そんな貴方にこの物語を薦めましょう。怖くないけど
その蛇は双子の姉妹の片割れでした。
後から連れてきたもう一人の姉妹も友達になりたいと言いました。巫女の娘は同年に女の子の友達が少なかったので、とても喜びました。
けれど村の人はそんな巫女の娘を不気味に思い、子どもたちを娘から引き離しました。
娘は酷く悲しみました。これはおかしいと思った巫女が山から降りて、村人に納得してもらえるよう訴えました。
「私と娘は生まれつき備わった力があるのです。どうか信じて下さい」
しかし彼らの心境には届かず、巫女は無力な自分を恥じました。
寂しそうな彼女たちを想い、蛇は娘のもとを去りました。
しかしもう一匹の蛇は娘とその家族を守るために密かに残り、何世代も見守り続けました。
さて、私は今どんな状況に立たされているか分かるだろうか。
答えは単純明快、絶望しかない状況だ。
何せ、前に肉裁ち鋏の神様と背後には燃える魔獣が控えている。しかも、逃げ場のない一本道で。
チャキチャキと鋏を鳴らしながら唸るコトワリ様。コイツらに関しては本当に得体が知れない。
特に燃える魔獣は此処等で噂にすらなっていないのが不気味でしょうがない。
こんな派手な見た目をしておきながら、目撃情報処か有名な言い伝えすらないとなると、対処法がない。
正に万事休すと言ったところか。
「ハル、お前はコトワリ様の元を何とか掻い潜って安全な所へ逃げろ」
「え……………でもクレイおねえさんは!?」
「それに関して頼みがある。紙飛行機と小石を貸してくれ。それで何とか奴らの気を反らす。その間に逃げてくれ」
「で、でも…………」
「いいから行け!何、私のことは心配するな。直ぐに追い付く!」
私はハルから紙飛行機と小石を借り、直ぐさま後ろの魔獣に投げつけた。コトワリ様には全く効果ない。
まぁ当然の結果であろう。どのみち期待はしていなかった。
しかし、後ろの蜥蜴には効果抜群だった。紙飛行機を投げつけたのだが、高く舞い上がりヒラヒラと漂っていくそれを親の仇のように激怒し、追いかけていったのだ。
これは嬉しい誤算だ。正直、此方にも期待出来なかったため、良い展開が生まれた。
「さぁ!走れ!」
「う、うん!」
チャコを連れてハルは蜥蜴の懐に入り込み、先に逃走することに成功した。私が最初に会ったときより、動きが機敏になったように見えた。凄いな。幼いと適応力が凄まじい。
おっと、感心している状況ではないな。
私もハルに続き、隙が生じた間に駆け抜けようとする。しかし、現実はそう上手くいかない。
コトワリ様がワープによる瞬間移動で私の前に立ち塞がった。我々を逃がすまいとコトワリ様は斬りかかってくる。
「ふっ!」
間一髪、転がり込むことで攻撃を回避した。だがそう何度も続くものでもない。体力というものが存在する限り、いつかは殺されてしまう。
コトワリ様は懲りずに私に攻撃を続けようと再び鋏を大きく開いて、助走をつける。
(今だッ!)
一瞬の隙を付き、私はコトワリ様とすれ違うように横をすり抜けた。そして、そのまま助走を付けて走り出す。ヤツは瞬間移動を駆使して、私の前に回り込もうとするだろう。
そこを突いて、なんとか撒いていきたいものだ。
曲がり角が見えてくる。どちらに進むか。ここは本能に従って右にしよう。
今度はは曲がり道か。ジグザグに動きながら上手く突破。また曲がり角。今度は左。
ヤツが追い掛けてくる気配はない。どうやら無事に撒けたようだ。
「ふぅ、なんとか撒いたか………。しかし困ったな、またハルとはぐれてしまった…………」
見渡してみると、見覚えがある道に立っていた。ここは私がいつも学校からの帰りに使っている帰路だ。
いつの間にかこんな所にまで戻ってきてしまっていた。無意識に馴染みのある方へと向かってしまっていたらしい。
全く、うちの従妹はどうしてこうも私に迷惑をかけてしまうのか…………。
あの蜥蜴の化け物は、おそらく彼女と繋がりがあると見て間違いないだろう。仕掛けてきたのも策略の一つと見て取れる。
…………もう片方の神は何を考えているのか予想もつかないがきっと何かしらの執着があってのことだろう。
一度は廃れてしまった神社の主だ。到底、生まれ変わったなどと甘い発想を抱くべきではない。
奴は使命をまっとうする気力も残っていないのだろう。
すると、ゾクッとする冷たい感覚が全身に走る。誰かに見られている気がする。目線の先からして近くにいる。だが不思議なことに徘徊者や厄介な2体のような殺気は感じられない。
すると近くの住宅にある茂みから、ガサガサ、と草根をかき分ける音が耳に飛び込んできた。
「何者だ!正体を表せ!」
確かにソイツは出てきた。しかし、私が予想していたより大幅に姿が異なっていた。
「なっ、お前は、……………!!!?」
私は一瞬の隙に袋のようなものに捕らわれ、そして、意識を失った。
ガン………………ゴン…………………
聞き覚えのない金属音が辺りに響き渡る。
点滅を繰り返す電灯に錆びた鉄壁。
どこだ、ここは…………。
「はっ!ハル!」
そう言って私は飛び起きた。周りを見渡すと辺り一面苔が生えて変色鉄壁に覆われていた。見覚えがない場所だ。乱雑に寝かせられていたためか、制服が汚れてしまっていた。
全く汚いな。折角の制服が台無しだ。
でもそんなことは今はどうでもよい。あの軟体動物のような生き物は何だったのだろうか。いきなり私をさらい、こんな辺鄙な場所に閉じ込めるとは。
もしかして変態の類いだったのではと疑いの念が晴れないが、私は考えるのを一旦止め、兎に角ここから早くでないことには仕方がないと思った。速く、でも慎重に動くことを心掛け、謎の建築物内を進んでいく。
図書館のときと同じく、夜の町とはより不気味な雰囲気を漂わせている。チカチカと点滅する電灯がそれをさらに増幅させている。
だが不思議と怖さを感じることはない。寧ろ、どこか悲しげになる気持ちにすら思えるのだ。正に黄昏の建物の名にふさわしい。
しばらく進むと壁際に生えていた草むらから、あの軟体動物のような
そして、それは突然
裏返った。
「いっ!!?」
表現するのが難しいが兎に角、袋のような部位が裏返り、肉の塊に変貌したのだ。ふざけているのかと一瞬は思った。
しかしそうでもないらしく、仮面を包み込んでいる部分は巨大な口へと変わっていた。そこには私の顔ほどの大きさをした歯がびっしりと並んでいる
凄まじい殺気だ。さっきの温厚だった形態とはまるで違う。
私を喰らおうと、ソイツは歯をガチガチ鳴らしながら突進してきた。このままでは喰われる。こちらもただでは死んでやれない。
私も対抗すべく、全力疾走で走り出した。自慢じゃないが、これまで幾度の危機を乗りきってきたのだ。簡単に距離を離せるかと思っていたが、意外にもヤツの追ってくるスピードは速い。
何か策はないものか。石ころなんかぶつけたところで焼け石に水だろう。ならば何がある?ハルからもらった紙飛行機か?いかんいかん、それこそ資源の無駄遣いであろう。
一本道を辿っていると、巨大な煙突と金属性の階段が見えてきた。
しめた、あれを登れば多少は時間を稼げるかもしれない。錆び付いていて機能するかは不明だが、希望はまだある。
私はがむしゃらに走り、階段を滑るように駆け上がった。階段は耐久力がないどころか、うんともすんともいわない。鉄とは実に偉大だ。
ガンッ!!
後方から金属に物体がぶつかる騒音が鳴り響いた。振り返ると怪物がすぐそこまできていた。遅れていたら死んでいた。そう考えるとゾッとする。
怪物は階段の隙間に自身の肉がつっかえて登りづらそうだ。乗り越えてくればいいものを何故そうも強行手段で乗りきろうとするのか。やはり、知能はそこまで高くないらしい。
とはいえ、引っ掛かって動けなくなっているのも事実。私は急ぎ足でその場を後にした。
先に進むにつれてベルトコンベアや煙突、それに何かを生産していた名残がある機械を見掛けた。どうやらここは工場らしい。工場…………そんな場所あの町にあっただろうか?
自分が思っているより、遠くに連れ去られてしまったかもしれない。せめて住んでいる町の近くだと願うしかない。他県だったら詰みだ。野垂れ死ぬか徒歩で帰らなければならない。
………………そんな死に方は御免被る。私にはまだ使命が残っているというのに、こんな所で朽ちてなるものか。大事な弟や従妹もいる。
私は皆と共に暮らせる日まで諦めはしないのだ。
宛もなくさ迷い続けること数分。一向に出口が見えてくる気配はない。道中、様々な徘徊者に襲われた。
赤ん坊の霊魂、海胆にも見える毛むくじゃらの異形。転がってきたタイヤに火の玉を乗せて、火車の完成。顔をひっくり返しにして無理矢理胴体に取り付けたような巨人など種類は滅茶苦茶。
あのグロテスクな仮面にも襲撃を受けた。何せ上から降ってきて、廃車を潰しながら襲い掛かってきたからな。
あのときは盛大な音に私も驚かされたものだ。当然、逃げ回るだけの風景だったため、何も語ることはないがな。
そんな中、見渡す限りかなりの広さがある広場へと出た。何もいないと確信するにはまだ早い。
このような巨大な徘徊者は、石を投げて動きを釣るなどの小細工は通用しない。なんとか自力で突破し、奥に見える坂道を進みたい。
暫く彼らの行動を観察してみることにした。すると、巨人の方はじっと同じ場所に留まっているわけではなく一定の距離を行ったり来たりしている。
幸い此方を見詰めても追い掛けてくる様子は伺えないので、なんとか海胆と巨人の合間を縫って私は修羅場を突破した。
鉄板の坂道を登っていくと、何やら人影が見える。徘徊者にしては殺気が毛ほども感じられないし、何よりハルに似た雰囲気を漂わせていた。
不思議と私は警戒することなく、その人影に声を掛けてしまった。
理由は分からない。多分、私が持ついつもの癖だろう。恐怖や緊張感をかき消してでも沸き上がる好奇心に抗えないのだ、私は。
「おい、お前。そこで何をしている?」
すると人影は、はっとした様子で此方に振り返った。
振り向いたその姿は少女だった。年はハルと同じくらいだろうか。ウサギのポシェットに左目には怪我をしているのか眼球をすっぽり覆い隠すほどの大きい眼帯がつけられている。
ハルと同じ雰囲気、とはいったがハルほどの恐怖感は感じられない。同じくらいの年のはずなのに彼女よりも大人びている。
もう少女が一人で出歩いている光景を目にしても、何も感じなくなってしまった私は既に感覚が可笑しくなっているのだろうか。
そして、目の前の少女は冷静な声でこちらに返事をしてくれた。
「こんばんは。こんな場所で人に会うなんて珍しいね。
あ、もしかしてお姉ちゃんも『よまわりさん』にさらわれてきちゃった?」
「『よまわりさん』だと?」
聞いたことがある。確か隣町に住む怪物の名前だ。夜な夜な徘徊する子どもを拐って何処かに閉じ込めるという。
となるとここは隣町なのか。だが『よまわりさん』という名は都市伝説並みに曖昧な話だったはずだ。本当にヤツがそうなのだろうか。
「━━━━私を連れてきたヤツがそいつかどうかは知らないが、私は人を探してここまできた」
「ふぅん、そうなんだ。わたしはちょっと眠れなかったからお散歩にきただけ。
それで探している人はどんな人?お友達?大事な人?」
何気ない目で見詰めながら、質問をしてきたので私は率直に答えた。
ついでにルキアのことも知らないか尋ねてみよう。この辺りに詳しそうだから、見掛けたなら答えてくれるはずだ。
「探しているのは従妹だ。灰色の髪の毛を宿した私と同じくらいの年の女の子だ。どうだろうか?君は見覚えはないか?」
「━━━━っ!……わたし知ってるよ、その人」
「本当か!?い━━━今何処に!?」
「といっても最後に会ったのはもう2年ぐらい前だよ。
だから今どこにいて、何をしてるかはちょっと分からない」
「そ━━━━そうか。分かった、手間を取らせてすまなかったな」
済ました顔をしてこの場を離れようとした瞬間後ろの少女に手を捕まれて引き止められた。
少し力をいれても離してくれる気配はない。何か言いたいことでも残っていたというのか。
「━━━━━あの蜥蜴みたいなお化け」
「ん?」
「あの黒焦げになった蜥蜴みたいなお化けがお姉ちゃんを拐っていったの」
「何故、今私にそれを?」
「━━━━━貴方ならお姉ちゃんを助けられるような気がしたから」
ガーゼをした左目を押えながら、悲しそうだが少し希望に満ちたような声色で私に期待していることを伝えられた。
「………………なるほど理解した。
それで提案なんだが━━━━どうだ、お前も共に行かないか?従妹の数少ない知り合いなんだ。それだけでも
「━━━━━わたしはいけない」
と即答で断られた。やはり少々、強引すぎたか。
同行してもらうことは諦めるしかなさそうだ。
「毎日ね、夜になるとお化けがおうちの中でも見えるの。
また
「…………………家族想いだな。
君は自分が最善だと思ったことを続けるべきだ」
「ありがとう。じゃあね、お姉さん。
またどこかで」
「さらばだ」
私は少女に背を向けて歩きだした。少し、少しだが希望が見えた気がする。
この問題は私達家族のものだ。本来、他人である彼女達に頼るわけにもいかないのだろう。
だが私は頼りない女だ。助けてもらわねば、生きていけない。それが人間というもの。
死者である
帰り際に隠された小さな隙間を見つけた。そこには一輪の花が添えられており、私は好奇心に負け、反射的にその花を手にとってしまった。
激怒したよまわりさんに追い回され続けていたら、いつの間にか正門と思われる大きなゲートが出現した。
奇跡的にその門は開いていたので、なんとか脱出に成功した。
よまわりさんはもう追ってはこなかった。同情まではしなかったが、この大切そうに添えられていた桃色の花を持ってきてしまったことを私は申し訳なく感じていた。
一瞬だけだったが、例の燃える
私に何を求めているのか。今の時点では分からないが、ヤツがルキアを連れ去ったことは確定した。
この夜道に終止符を討つのだ。夜明は必ず訪れる。
飛ばされた場所が偶然にも隣町だということが分かったので、シャッター通りに残っていた地図を確認しながら町へ帰る帰路を辿っていった。
かなり迷ってしまったがな。
帰路の途中に百足の紋章が描かれた神社を見掛けた。これも何かの縁だろう。そう思い私は持っていた十円をお賽銭箱に入れ、祈りを捧げた。
普段ならば、こんなことはしないのだがどうしたというのか。
神社の鳥居付近までハルが迎えにきており、私は無事に隣町から出ることが出来た。そこまで遠い場所でなくてよかったと心から思った。
そして、町へついた直後に気がついた。いつの間にか私は
塩というのは悪霊を追い払う言い伝えがあると聞く。活躍の場があるといいのだが。
まぁ、コトワリ様と怪物呼び寄せたの全部あんたの従妹のせいなんですけどね(ボソッ)