深夜廻 もう一つの物語   作:はるばーど

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随分と久しぶりになってしまったので、時間をまたいで今回は二話投稿します。短めですがご了承を。


なんとかお盆までには完結させたい…………


では本編どうぞ


第十一章 廃屋

ある日のこと

 

 

 

 

天からいきなり光が降ってきました

 

 

 

 

戦火によって生まれた海外の

 

 

 

 

巨大な鉄に覆われた鳥が落としたものでした

 

 

 

 

その光は全てを焼きつくし

 

 

 

 

大地を灰へと変えました

 

 

 

 

巫女の村は跡形もなく消え去り

 

 

 

 

母親と蛇の片割れも死んでしまいました

 

 

 

 

娘の美しき白の髪は灰褐色に染まり

 

 

 

 

もう一匹、同じ炎に焼かれた(カワズ)の化け物と出会いました

 

 

 

 

 


 

 

 

 

私、いや。私達は町中を一旦離れ、廃屋の近くにきていた。

私にとっては関係もないし、大した用事ではない。

 

 

 

用があるのはハルのほうだった。彼女はかつてこの場所に訪れたことがあるというのだ。

話を聴くと彼女の友である『ユイ』がここにいるという直感(・・)だけで乗り込んだ廃屋だと。

 

 

 

直感だけで今にも崩れそうな場所へ足を踏み入れるなど気がしれていると数秒ほど考えてしまったが、私も人のことを言える立場ではないことを思い出した。

 

 

 

私も相当な無茶を繰り返し、ここにいることを忘れてはならない。それにそんなことは今更すぎる。

とうに私は踏み入れるべきでない領域まで片足を突っ込んでいる。いや、片足どころか下半身が浸かっているか。

 

 

 

それはさておき、何故ハルがこの廃屋に再び訪れたのか。本人も理由は分からないとのこと。

けれどここはかつて火災の事故が起こり、屋敷の住人含め、全焼してしまったようである。ハルはその焼けた住人がどうしているか気になるのだという。

 

 

 

既に侵入した痕跡が残っており、屋敷自体にはあっさりと忍び込むことができた。

しかし、全焼したという割には家具や木材の壁などまだしっかりと形を残していた。

 

 

 

普通は全焼などすれば幾ら丈夫な構造とはいえ、粗方炭になっているはずだ。触れてみても炭になって崩れるどころか、逆に湿っている。

 

 

ギシギシと嫌な音を刻む床を歩きながら少し進むと、リビングなのかよく分からないが妙に開けた広間に出た。その中央には極太の大黒柱がこの屋敷全体を支えている。

 

 

 

しかし、いかんせん建物の中は普段より暗いため、柱より奥のほうが全く視認できない。

唯一確認出来たのは、階段のようなものが上へ向けて続いていることだった。

巨大な蝿の姿をしたヤツや赤ん坊の霊などここに留まり続ければ、いつ命を奪われるか分からない。

 

 

 

「長居は無用だな、さっさとすませようハル」

 

 

 

「うん、そうだね………ってクレイさん危ない!」

 

 

 

「ん?、ってうわっ!!?」

 

 

 

後ろに首を向けて歩いていたため、目の前にあった大穴に気付かずに私は進んでいたらしい。転落寸前だった。

ハルの忠告がなければ今頃、穴のなかで死んでいたかもしれん。

 

 

 

「す、すまん、助かった!」

 

 

 

「ううん、良かった。クレイさんが穴のなかに落っこちなくて」

 

 

 

「はは…………恥ずかしいな…………何をやっているのだ私は……………」

 

 

 

穴から二歩ほど後退りし、私は大きくため息をついた。

私がおっちょこちょいな性格でハルに迷惑をかけているな、と思っていたのだがそれ以上にハルは、私の姿を見て暗闇の怖さなぞ忘れ、とても嬉そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

だがそんな彼女の背後に無音で黒焦げの霊魂が忍び寄っているのを察知した。

ハルは気がついていない。チャコを外に置いてきたのは失策だったか。

考えるよりも先に身体が動いており、手を取りハルと一目散にその場を離れた。

 

 

 

ハルは察しがついていたのか、突然の行動をした私に何の疑問も抱かずに黙って私についてきた。

奥の階段へ逃げるしか道はない。しかし床には穴が開いており暗闇が私達を招いている。少し助走をつけ、大きく幅跳びをするとギリギリだったが越えることができた。

ハルもしっかりいる。焦げた霊は諦めたのか姿が見えなかった。

 

 

 

(この屋敷の住人だったヤツなのか………?

何にせよ、徘徊者であることは間違い無い。逃げるしかなかった………ん?)

 

 

 

安心するのはまだ早い。今度は屋敷全体が揺れ始め、瓦礫が頭上から降ってくる。

幸い直撃は避けられたが、上に行く道は閉ざされてしまった。

 

 

 

「クソッ!!大丈夫か、ハル!?」

 

 

 

「う、うん、なんとか大丈夫だよ」

 

 

 

「しかし困ったな…………道が塞がれてしまったぞ…………お前の行きたい先はこの上だろう?」

 

 

 

「……………ううん、もう大丈夫。用があるのはあの柱さん」

 

 

 

広場中央にある大黒柱を指して、ハルはそう言った。先程まで何ともなかった柱が木目から目玉を震わし、異形の存在へと変貌している。

ハルが懐中電灯の光を消し、恐る恐る近づいている。

 

 

 

「なんだあれは…………!?っておい!ハル!そいつには近づくな!危ないぞ!」

 

 

 

ハルは大丈夫、と言わんばかりに私に止まっててと無言で合図を送り、近づくのを止めなかった。

もはや手が届きそうな位置にハルが立つと柱は自身を震わせるのを止め、ただの柱に戻った。

小走りで私の元へ戻ってくると私に何かを渡してきた。

 

 

 

それは木目が刻まれた古びた木材と一枚の紙切れだった。まだ新しい。黒いボールペンで何か書かれているようだ。

木材のほうはハルに渡し、紙切れを受け取った。

 

 

 

「おばけがくれたみたい、何か書いてあるよ?」

 

 

 

 


 

 

燃える怪物は山の奥に根城を築いている

 

 

 

ヤツは塩に弱い

 

 

 

逃げるための時間稼ぎにはなるだろう

 

 


 

 

 

即席で書いたためか紙の文字は汚くみすぼらしかったが、そう書かれていた。

これは重要な手掛かりだ。この持ち主は被害者への警告として記したようだが、私はこれを利用(・・)してヤツと蹴りをつける。

 

 

 

あの子達やハルのためにも、ヤツは絶対に止めねばならん。

 

 

 

「クレイさん」

 

 

「なんだ?」

 

 

 

私の名を呼ぶとハルは近寄って、私の手を取り

 

 

 

「絶対にいなくならないでね」

 

 

 

と言った。その言葉に重みを感じた私はハルを安心させるために、こんな言葉を返した。

 

 

 

「当たり前だ。少なくとも私は友を見捨てはしない」

 

 

 

それだけ残した後、私は少し気恥ずかしくなったが今回ばかりは後悔しなかった。ハルも何も言わず、私達は廃屋を脱した。

 

 

 

彼女の腕に握り締められている奇妙な木材は不思議と動き出しそうな気配を醸し出していたが、私は気にしなかった。

ハルはハル。私は私、クレイ。各々好きな過ごし方をすればいい。これも彼女にとって一つの思い出だ。嫌な記憶を植え付けてしまうかもしれない。

だが耐えてほしい。この世の中には苦もあれば極楽もある。朝があるように夜もある。たとえ、私に何が起きたとしても乗り越えてほしい。それだけが私の願いだ。

 

 

 

心の奥底で謝罪と助言を呟くと私は彼女を連れて、山のほうに歩きだした。

この町で最も不気味な雰囲気を漂わせているのはきっとあそこだろう。となれば目的のヤツが根城を築いているとすればそこだ。

 

 

 

待ってろルキア。今、姉さんが助けにいくからな。


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