かなり最後に近付いてきましたので、一気に書き上げようと思って書いてみました。
物語のラストを思い描くのって大変ですね(笑)
では本編どうぞ
気が付くと私は山の頂上付近にポツリと立っていた。周りには誰もいない。しかし声だけは聞こえてくる。
すすんでください
ただそれだけだった。見上げるとそこには小さな木箱に輪の形状をした丈夫な縄。輪は顔が綺麗に収まる大きさで、本当に人一人くらいならば簡単につれてしまいそうだ。
吊れば簡単に楽になれるのだろうか。
諦めたい、家族を救うなど。今まで私は何をやっていたのだ。
罪悪感に苛まれ、己の身を削りながらも家族のために尽くす。
自分のことなど微塵も考える余裕すらなかった。私は一歩ずつ木箱に向かって足を進める。ハルもチャコも、あの女の子も。そして…………
………クレイさん!待って!
すすんでください
何だろう。誰かが私を呼んでいる。けれど私は木箱に辿り着き、役目を放棄しようとしている。神や徘徊者など、人知を越えた輩に立ち向かおうなど愚か者の諸行だ。
すすんでください
ただ、ひたすら聴こえる『すすんでください』を頼りに私は木箱を昇り、縄を首に掛ける。
ここまで行けば後は単純明快。ここから一歩前へ踏み出せばいいだけ。
すスんデくダさい
そして私は……………
箱から足を踏み出した。
クレイさん、大丈夫………!?
ねえ………起きてよ!
おねえちゃんには助けたい人がいるんじゃなかったの!?
「ハッ……!!!?はぁ、はぁ…………」
目を開くと心配そうにしていたハルが上から覗き込んでいた。チャコも嬉しそうに近寄ってきて、私の顔を舐め始めた。可愛らしいモフモフとした顔を撫でてやるとチャコはさらに喜んだ。
私は大の字になって倒れていたらしい。けれどどういうことなのか説明がつかない。
自殺などするつもりは毛頭ないのに何故あのように信じ込んでしまったのだろうか。それにあの私を招いた謎の声は一体…………。
クソッ、どういうことだ。頭が混乱してきた…………。
「びっくりしたよ。クレイさん急にフラフラと歩きだしてどっかにいっちゃったから。
ここは飛び降りたりとかして死んじゃう人が多いんだって」
「……………」
「私の友達もここでいなくなっちゃったから、クレイさんまで失ったらどうしようかと」
「そうだったのか…………心配させたな。
ところで私の最後の記憶では首吊りをしようとした所で止まっているのだが、もしかしてハルが止めてくれたのか?」
「ううん、クレイさんはそこで倒れてたよ」
なるほど、つまりは私は幻か何かを見せられていたということか?
あの時の心情は本心ではなかった。いや、実際に身体を動かしていたのは私自身だが。ややこしいかもしれないが、感覚を伝えるならばまるで映像を見せられているようだった。しかも何度も。何度も。
「クレイさん、どうしたの?」
「ハル、近いぞ」
「え?」
「私の目的地は恐らくここだ。ルキアはここにいる」
「どうして分かるの?」
「どうしてかは分からない。けど感じるのだ。あの子が助けを求めているのを」
私は手を胸に当て、確信のある発言をする。何しろこの山奥に踏み込んでから様子がガラリと一変したのだ。テレビゲームで言うところのラストステージにふさわしい。
手の形をする奇怪な姿の蜘蛛に無数に張り巡らされた血痕の如く真っ赤に染まった糸。どれもねばねばとしていて粘着性のある物質だ。
それに辺りに充満するこの桃色に近い色彩のガス。私達を絶対に入れたくない様子が伺える。
全くとんだ笑い話だ。こんな貧弱な女一人殺せないとは、神とやらも所詮こんなものか。
(面白い。この私を止められるとでも?)
「クレイさん、すごく怖い顔してる…………」
ハルの指摘は私の耳には入ってこず、どんどん奥へと踏み込んでいく。
行く手を阻む蜘蛛どもが押し寄せてくるが、所詮は使い走り。振り切ればすぐに消えてしまう。余裕すら覚えた私に対して
調子に乗るなよ、クソガキども。こんなところまでしつこく追い掛けてきやがって。そこのチビッ子にとって絶望しかないこの場所に何のようだ?
怖ーい山に躊躇なく入ってくるお前たちに私は警告してやっているのだぞ?
分かったらとっとと帰れ。私は忙しいんだ。
と脳内に直接語り掛けてきた。しかし私は唾を吐き捨て、貴様こそいい加減にしろ、と脳内で返してやった。
どうやら今のはハルにも聴こえていたようで不安そうな手付きで私のシャツを掴んできた。
「ク、クレイさん。今のが…………?」
「おそらく元凶のおでましであろう。私の目的はヤツを何とかして従妹を救うことだ」
「うん」
「……………なぁ、ハル。一つ、友であるお前に聞きたい」
「?」
少しだけ間が空いた時に私は口を開き、こう聞いた。
「私はお前にとって『ユイ』という存在に成り変われただろうか」
「……………なんでそんなこと聞くの」
「大事だと思っていた人にそれをしてやれなくて後悔しているのだ、私は。
………なんだろうな、巧く言えないが私は親しい存在を欲していただけなのかもしれん。それだけだ」
それから二人は一言も会話をせず、山奥へと突き進んでいった。
蜘蛛どももそうだったが、今度はアメンボの姿をした怪異までもがこちらに目を向けている。けれど、襲ってくる様子などもなくじっと此方を伺い、木の枝にぶら下がり続けている。
不気味だが、気をとられている余裕もない。その怪異を後にし、私は足を進める。
しかしそう甘くいく話もなく、私は何かに足を取られその場に勢い良く倒れこんでしまった。
振り返るとあの
(クソッ、足が!?)
過去に対する因果を表すのか。それとも単純な私への恨みか。
少なくともこのまま掴まったままでは、確実に二人とも殺されてしまう━━━━そうとなればとるべき行動は一つだ。
━━━━ハルをこの場から逃がす。それしかあるまい。無駄死にはさせないし、したくない。
私は力を込めてハルの背を押した。想定していなかった彼女は押されると同時にふらつき、よろめいて転びそうになったが無事、奴等の射程外から脱することができた。
ハルが此方に心配そうな顔を向けている。チャコも同様だった。しかし
純粋で勇敢な心を持った『主人公』でなければダメなのだ。
私は幾度と見てきた。
決して立派と言えるべきことはやっていないのだろう。実際、私のほうが救った回数は多い。さまざまな怪異や徘徊者から逃がし続けた。
だがそんなことをしなくても彼女は大丈夫だった。
余計な世話をしていたのは私だった。
自分を正当化しようと、一方的に思い込んで、決めつけて━━━━━━身勝手だった。また悪い癖が出てしまった。ハルの意思を聞こうともしなかった。言い聞かせてしまった。純粋な心に甘えていたのだ。
だから今回はハルに決めさせたい。
本当に私たちを思ってくれているのか。
自身の意思ならば、きっとやってくれるはずだ。やらなくても私は責めやしない。私のせいだ、何もかも。この因果を生んだのも全て。逃げてくれても構わない━━━━━けれどあわよくばでいい。私達の尻拭いをしてくれないだろうか。
この物語の『主人公』は君だ。私じゃない。私は勝手に因果に巻き込んだだけの、ただの一般人だ。全てが『君たち』の選択で決まる。
「ハル!」
「クレイさん!?何してるの!?逃げないと!」
「『
「!?…………」
ハルは考え込んだ。幼い頭で一生懸命考えた。託された事実を受け入れがたかった。なんで自分なんかにそんな期待するのか。自身が無かった。
けどハルは放っておけなかったのだろう。目の前の事実に必死な
性格は全くと言っていいほど異なっているし、人間関係の形式もまるっきり逆。
しかし本質は一緒なのだ。どちらも優しい心を持っていた。どちらも親しい人をどうしても見捨てられない、しつこい性格の持ち主だった。
過去の因果なども気にせず、進んでいく。怖くてたまらないこともある。それも同じ。
実際は違う。彼女はとても怖がりだった。挑戦するのが不得意だった。
内緒だが、クレイが一番苦手なものは実はお化けだ。
大嫌いだった。暗闇も異形も━━━━━━
自分のことなどでくよくよしている場合などではない、と彼女は悟った。家族が苦しんでいるのを放ってはいけない。何故ならば放って置けば死んでしまうから。
動かなければ。大事な人やものが次々に手元から零れ落ちていく。闇夜に消えてしまう。
ここまで大層なことを述べたが、簡単に言えば、彼女は怖がる対象を変えただけである。
そう、
それが強い決意を生んだ。あの強気な性格や体格も全てそれが始まり。
クレイは気づいた。私達は同じだが、それぞれ役割がある、と。
その想いに答えたい。ハルも彼女と同じ思いを抱きつつあった。
ハルは一瞬、不安そうな挙動をとったが、我に返ったように首を振った後、自信に満ちた顔でクレイに呼び掛けた。
「こっちは大丈夫!クレイも気をつけて!」
それを聞いて安心したぞ。任せていいな?
私はニヤリと笑い、山奥へと続くハルを見送った。さて、ここからが本番だ。この状況をどうやって切り抜けるか……………
すると、残光がアメンボの胴体を掠め、その瞬間に怪異は真っ二つに
そして私の前に人影が立ち塞がった。
「お、お前は…………!?」