深夜廻 もう一つの物語   作:はるばーど

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お盆には終わらせたかったが、モチベーションが上がらなかった…………。
ですがもう少しで完結致しますので、無理ないように取り組んでいきます。



それでは本編どうぞ


第十三章 虚空

暗い、暗い山道。どこまでも続く闇の回廊。血を帯びた糸に、おぞましい形状をした蜘蛛のお化け。ハルは一度この場所へと訪れたことがあった。

そう、それはかつて友達と呼んだ大事な人を探しに夜の町へと飛び出したあの時のことだった。

 

 

 

思えば、ユイのことを助けてあげられなくて謝っていた。気づいてあげられなかった。ハルはそんな後ろめたい思いでいっぱいだった。

それにそんな怖い思いを沢山抱き、また恐怖を蘇らせるような阿保のする所業を繰り返そうとしているのだ。

正気では誰もがたかが友人程度(・・)の頼みで訪れたりはしない。

 

 

 

だがハルは今、勇敢な気持ちで心を満たしていた。はっきりとした理由は本人にも分からない。もしかしたら救わなければ自分の良心が痛むだからとか、彼女を憐れむ気持ちから呼び起こされたものなのかもしれない。

けれど 彼女(クレイ)のおかげという点は間違っていない。

 

 

 

彼女(クレイ)はかつての自分と同じ事をしようと試みている。

大事な人が遠くにいってしまわないように、もう何処へも行かせないために。そんな自分勝手な願望にしがみつこうとしている。そんな気持ちがハルは感じていた。

 

 

 

あの時の自分も似たようなことをしていたから

 

 

 

暗闇を突き進んでいくうちに、見覚えのある場所へとついた。ユイとの糸を裁ち切ったあの場所へと。

ハルは躊躇することなく足を踏み出した。友達に頼まれた願い(わがまま)を聞き入れてあげるために。

 

 

 

「気持ち悪いよぉ…………」

 

 

 

そんな自分の気持ちとは裏腹に弱音が口から漏れる。分かってはいる。私はユイみたいに勇気があるわけじゃないし、クレイさんみたいに肝が座っていて強い心を持った人じゃない。

自分を受け入れなきゃ、とハルは自分に言い聞かせた。今まで自分は何をやっていたのだ、と。

 

 

 

怖くて辛くて悲しかったあの体験を友達にあわせたくない。そう念じ続けることによって、なんとか恐怖を圧し殺し、深淵へと一歩、また一歩と足を伸ばす。

 

 

 

洞窟は以前よりさらに不気味になっていた。蜘蛛の糸は減っていて、気味の悪さは無くなっていたが、何もない真っ暗闇に沈んでいる。不自然なほどに何もない。

 

 

 

進んでいくうちにその助けたいお姉さん(ルキアさん)の気持ちに段々と踏み入れている気がした。どう思っているんだろう。お姉さん(ルキアさん)は私とクレイさんが助けに来たことを知っているのだろうか。

 

 

 

視界が霞み、洞窟からどんどん何処かの家の景色に変わっていった。真っ暗で電気も何もついていない。狭い一軒家のなか。あるのは無数の血痕と立ち込める腐敗臭のみ。

あまりの悪臭に吐き気を催し、立ち止まりそうになったが、ハルはハッと我に返ったかのように俯いた頭を再び前方へと向けた。

 

 

 

人影が見えた。震えている。長く灰褐色の髪が鈍く光っているのが見えた。背を向けている。此方を振り向く様子はない。

 

 

 

お姉さん(ルキアさん)だ。やっと会えた。けどなんて声を掛ければいいんだろう。戸惑ったけど一言だけ、帰ろう、と説得してみようと近づいてみた。

けれど、お姉さんはブルブルと体を震わしていて一向にこちらを見ようとすらしない。寒いのだろうか。それともこの場所が怖いのか。

 

 

 

次第に体の動きもまるで糸人形みたいにぎこちなくなって、おかしくなっていった。あの時のユイみたいだ。死んでしまったことで生まれた執念と悲哀。お姉さん(ルキアさん)からも同じ雰囲気を感じ取った。

そして、此方を振り向いた。しかし

 

 

 

「ひっ……………」

 

 

 

振り向き、自分の顔を見詰める虚空の瞳に私は驚いてしまった。瞳には何も映っていない。お化けみたいな目をしていた。何もかもが信じられなくなった瞳。それがどうしようもなく、怖くて仕方なかった。

 

 

 

だけどそれが不味かった。お姉さんのその瞳から真っ黒な涙が頬を伝った。それに連れて、残っていた眼の白いところまで完全に虚空に染まってしまった。

 

 

 

カタカタと奇妙な音を刻むお姉さんは、私の肩を掴みかかった。抵抗しても離そうとはしなかった。

 

 

 

「は、離して…………!」

 

 

あ、貴方も………

 

 

「え、」

 

 

 

 

 

 

 

そんなに怖いですか?…………私が

 

 

 

 

 

 

生が込もっていない声で目の前のお姉さん(怪物)はゆっくりと言った。ここまで変化してしまっているとなると、ハルは逃げずにはいられなくなった。

何故なら純粋に人の闇を覗き見てしまったから。ユイと同じように様々な念が混同し、おぞましいものへと変わってしまった。それがどうしようもなく怖かった。

 

 

 

何も映し出すことのないその顔でぱっくりと裂けた笑みを浮かべ、彼女は消え失せた。

 

 

 

ハルは、これ以上ここに長居すればこの身が危険に晒されることを悟った。足を一歩、また一歩と踏み出す度に世界が歪み、血生臭い悪臭もひどくなる。さらには、壁や床までもが腐敗した血に侵食されていく。

世界が揺らぐようだ。ハルは駆け出した。なんだかここにいるだけで自分も侵食されてしまうのではと感じたからだ。

 

 

 

玄関を飛びだし、外へと出ると、雨が降っていた。雷がゴロゴロとなっている。嵐みたいな雨がザアザアと降り続けている。傘なんて都合の良いものは当然、持ってきていないし、雨宿りなんてとてもじゃないが出来そうにない。

 

 

 

雷が時々脅かすので、ポシェットを気にしつつも、ハルは雨のなかを進んでいった。服もグショグショになっちゃって、気持ち悪いと思いながらも一歩ずつ前へと進むしかなかったのだ。

 

 

 

かつて出会ったあの女の人のお化けを思い出した。彼女はサムイ、サムイと苦しがっていた。

死を目の当たりにしてとても寒い思いをして、死んでしまったのだろうか。そんなことを思いながら、ハルは急ぎ足で雷雨のなかを進む、どんどん進む。

 

 

 

雨風のなかから、車が走り去っていった。停まってくれなかったことに疑問を抱いたけど、一安心と胸を撫で下ろしたかった。が、その車は首が失くなった女の人が運転していた。

 

 

 

 

 

ほらほら、進め進め。おっと、そこ気をつけないとお車に引かれちゃうぞ。

 

 

 

 

 

車が去ったと同時に頭のなかでうっすらと声が聞こえた気がする。でも雨の音による空耳かもしれない。けど私に囁き掛ける声はあのお姉さんのものではない。

もっと別のナニカだ。凄く悪いヤツ。それがお姉さんを苦しめているんだ。

 

 

 

しかし足を滑らし、谷底に落ちてしまった。あっという間だった。今まで散々、死ぬ思いをしてきた。それなのに、何故かこのときだけ。

 

 

 

本当に死ぬ予感がしてしまった。一瞬、笑った顔をしたユイが見えた気がした。

 

 

「あっ」

 

 

 

最後に発したのはたった二文字だった。人は死の縁に立たされると何もいうことはできない。

物語のような大層な台詞を残すことすら許されない。けど、まだ。まだ私は…………

 

 

 

 

クレイさんとの約束を果たせていないのに

 

 

 

そんなときだった。

 

 

 

 

「ハル!!」

 

 

「!?」

 

 

「動くなよ!?そのまま引っ張りあげる!」

 

 

 

誰かが私の名を呼び、落ちていく体を掴んでくれた。私は言われたとおりにじっとしていた。そして、そのまま引き上げてくれて、崖下に落ちることを免れた。

誰かと思い、頭を上げるとそこには見覚えのある顔が伺えた。嬉しくて思わず名前を叫び、飛び付いた。

 

 

 

「クレイさん!」

 

 

「危なかった………もう少し遅れていたらどうなっていたかとヒヤヒヤしたぞ」

 

 

「ごめんね………私」

 

 

「いや、謝ることはない。…………無事で良かった」

 

 

 

ハルの肩を両手で押さえ、クレイは彼女の身柄が無事なことをもう一度確認し、胸を撫で下ろした。チャコもついてきていた。かわいらしい態度を表し、安心する気持ちを高めてくれている。

クレイさんもここまで連れてくることを許してくれたらしい。

 

 

 

 

「ところでクレイさん」

 

 

「ん?なんだハル」

 

 

「その……どうやってここまで?あの状況からどうやって…………」

 

 

「………あ、あぁ!そ、そんなことか!お前も見てきただろう、私のしぶとさを。何、心配に及ばん。フハハハ!」

 

 

 

気のせいか、心なしかクレイの表情に焦りが見えた気がしたハル。しかし、今まで嘘をついたことがない彼女に限って今更隠し事などない。そう思うことにして、ハルはこれ以上追求しなかった。

 

 

 

「そ、そう?………ならいいんだけど」

 

 

「そ、それよりも!ここは何なのだ?私達は確かに洞窟に入ってきたつもりだったのだが………いきなり町に出るとは思わなかったぞ。しかも、こんなどしゃ降りの豪雨の中に」

 

 

「ここは…………多分、お姉さん(ルキア)の心のなかだと思う…………」

 

 

「心の中?どういうことだ?ハル、そんなことが有り得るのか?…………いや、そんなことは今更か。この夜では常識など通用しない」

 

 

「うん、そしてここが本当にお姉さん(ルキア)の心の中だとしたら…………」

 

 

「相当、蝕まれているな…………。これは予想以上に一刻を争う事態になっているのかもしれない」

 

 

「急ごう、クレイさん」

 

 

 

夜は段々と濃く、深くなっていく。闇は救うべき対象を蝕み続けている。ここから救うべきなのか、彼女が望んでいるかなどは関係ない。きっとルキアは私が助けに来ても差し伸べても手をとってくれないかもしれない。

 

 

 

でももういやだ(・・・・・)。家族を失うのは、許して貰えなくても私は貴方を助けたい。たとえ腕や足がもがれようと。

必ず、必ず助ける、そう心に誓った。

 

 

 

歩み始めた彼女達を高所から睨みつける影があった。赤い眼光に静かな怒りを滾らせながら、ヤツ(・・)は不気味に笑っていた。

 

 

 

「決着をつけようか………巫女さん♪」

 

 

 






次回、最終回
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