深夜廻 もう一つの物語   作:はるばーど

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もう、お盆以前に8月が終わってしもうたがな()

確実に後、一話で終わるのでご了承下さい



あなたをさらいによるがくる



第十四章 断ち切り

ここは……………何処だ…………?

 

 

ウグッ……………足が…………酷く痛む…………!

 

 

そうか…………ここが…………属に言う『あの世』というヤツか………

 

 

視界もボヤけてよく見えん…………なんだ、呼吸がままならない………

 

 

い…息が、苦しい。私は………私は果たすことが………出来たのだろうか………

 

 

ハル。ルキア。君らが無事であることを心から願う。それだけが、何よりの願いだ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして彼女は気を失った。暗闇の中で何もない虚無の空間。辺り一面が血塗れになったその闇の中で左足を失った(・・・)クレイは力尽きた。

 

 

 

 

 

~時は数十分前ほど遡る~

 

 

 

一匹の鯢は思考を続けていた。今、私の女達の幻想(楽園)に侵入者が迷い込んでいる。それの撃退法を模索しているのだ。

 

 

 

あの時、私は全身を焼き尽くされ、巫女を死ぬ程恨んだ。 私達が何をしたというのだ。人間であるお前達は少々勝手が過ぎる。

 

 

 

あの場にいた何千という同胞が一瞬にして、消された。たった一つの人間達が落とした流星によって。

 

 

 

そんな中、あの女どもは「森は恵みを与えてくれる楽園です。森は何がなんでも死守しなければならない聖域なのです」などと大層なことをほざいていた癖に、これっぽっちも守れてないじゃないか。

 

 

 

何が巫女。結局は奉られ、意気揚々と調子に乗った木偶の棒どもだ。

末裔もこの通り、私の手中に収めた。今や、あの女どもは私の意のままに動く操り人形。

 

 

 

初代に封じられたのは癪だったが、復活したその後の世代は難なく成功した。この器の男とあのタラバガニみたいな異教(この島)の神。あれらには感謝せねばな。解き放ってくれてありがとさん。

それに比べ、巫女の末裔どもはすっかり恋愛漫画に出演できそうなくらい腑抜けになっちまいやがって。とことん幻滅させられたものだ。まぁ、昔からガキみたいな夢を見る大馬鹿だったがな。

 

 

 

一番、マシだったのは最後に収めたルキアとかいうヤツ。アイツは個人的にお気に入りだ。どことなく、ヤツは私に似ている。

憎しみを抱き、見出だせる目標といえば、復讐くらい。私に刃向かうほど生意気な小娘だが、そこが素晴らしく、美しい。実に自然だ。

 

 

 

奴らをいたぶり、利用し、私はこの世を治める神になるのだ。神社やちっぽけな大地を治めるなど人間より下劣な行為。

 

 

 

フフフ

 

 

 

これからだ、始まるのは。今まで、あの肉の塊(よまわりさん)蜘蛛(山の神)に幾度となく邪魔されたが、私が支配者になる日はすぐそこまで近づいている…………!

 

 

 

裁きを下す準備が整った。後は人間どもに尻尾を振る狛犬どもを消して終わりだ。私が直々に叩き潰してやる。

 

 

 

大丈夫、すぐにすむ。歯医者に行くようなものだ。いや、電子レンジを待つのと対して変わらないか?

 

 

 

邪悪な笑みを浮かべ、彼は全身に炎を滾らせた。今度こそ、かつて受けた長年の屈辱を果たすために。

 

 

 

そういや、あの車とかいう乗り物は本当に乗り心地が良いのだろうか?人間の感覚の理解にはとことん悩まされる。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

一方、クレイたち二人と一匹はこの世界からどう脱するか、難儀していた。

といっても確実性のある解決法などは当然、思い付くはずもない。何せこの世界は人の心。他人である我々にはどうすることもできない個人の世界。

 

 

 

今まで幾度の怪異を退けてきたというこの勇敢なチャコにも駄目元で頼んでみた。が、相変わらず可愛らしい鳴き声と容姿で、こちらを見詰めてくるのみだった。

 

 

 

(流石に駄目か…………分かってはいたが)

 

 

 

だが呼び掛けるという行為をしてみて、一つの案が頭に過った。ここは先程も言ったとおりにあの子(ルキア)の中ならば、呼び掛けて説得を試みれば脱出できるのでは?

 

 

 

幾ら私が嫌われているとはいえ、元々お前は、優しい性格の子だ。私は駄目でも、ハルだけなら逃がしてはくれないだろうか。

しかし無我夢中で怒鳴り散らしても、あの子はますます心を閉じてしまうかもしれない。ならば、気付かれないように心中で祈るしかあるまい。

 

 

 

今まで自分は祈りなど捧げてきたことはなかった。けれど今回ばかりはお前に祈る。神にではない。お前、私が愛す『ルキア』に送る。

 

 

 

(頼む、ルキア……………耳を傾けてくれ………!)

 

 

 

「……………!クレイさん、雨が…!」

 

 

 

すると祈りが通じたのかは分からないが、あれだけ涙のように降り続いていた豪雨が微かに降る霧雨へと変わった。槍のような尖った水滴で遮られていた道も目視できるようになった。

これで、当てずっぽうで進むこともなくなる。チャンスは今しかない。

 

 

 

「行けるか?ハル」

 

 

「う、うん!お姉ちゃんを助けよう!」

 

 

「よし、その意気だ!」

 

 

「アン!」

 

 

 

私はその場から駆け出し、真っ直ぐ彼女の元を目指した。助走をつけ、勢いを増していく。だが今回は、ハルとチャコは置いていかない。

一緒に救ってくれると約束してくれた。必ずともに果たそう。

 

 

 

しかし向こうも簡単には行かせてくれない。歪んだ空間の歪みから、町中の怪異が押し寄せてくるのが見えてしまった。

膨大な数だ。追い付かれでもすれば、彼らのディナーになるだけでは済まないだろう。

 

 

 

だがやることは変わらない。ここからはいつも(・・・)と同じく、鬼ごっこの開始だ。

 

 

 

とは言ったものの、さて、どうするか。今回は敵の縄張りの中。身を隠したところですぐに見つかってしまうのは目に見えている。

ならばどうすべきか…………。迷っている時間はない。ハルにはまた迷惑をかけてしまうが、出たとこ勝負となりそうだ。

 

 

 

足下も視野できないほど、辺りは暗闇に満ちている。けれどよく見れば、ここの場所にも見覚えがあった。

そうだ。前に私達が住んでいたときによく遊んでいた彼処じゃないか。ならば、状況はこちらが有利になる。

 

 

 

「ハル、今からチャコと一緒にお前を担ぐ。ハルには後方のお化けたちを見張っててくれないか」

 

 

「………う……うん、でもどうするの?」

 

 

「……さぁ………正直賭けだが、この場所は見覚えがある場所とそっくりなんだ。もしかしたら安全なところが一つ心当たりがある。そこに逃げ込もうと思う」

 

 

「………わ、分かった」

 

 

 

すまない、ハル。また私の身勝手なわがままに付き合って貰うことになりそうだな。だがこれ(・・)ももう最後になるかもしれないんだ。

 

 

 

救った翌日には、お前の家に遊びに行こう。こんな夜更けじゃなく、ちゃんとした昼間にな。で、いつかルキアも連れてきて……………引っ越しを手伝ってやりたい。それで、盛大に見送ってやろう。

 

 

 

大人になる、というのはそれだけ負荷や責任も大きくのしかかってくる。…………ルキアやハルは大人に成長する度、苦労することになる。心に傷をおった者はもう二度と元に戻ることはない、と父から教わった。

 

 

 

ならば私にできるのは、その心を修復することか。否、それは違うな。なるべくその傷付いた彼女達の側にいてやることこそが最善策。きっとあの子(ルキア)も心の何処かでそう願っていると信じよう。

 

 

 

などと考えていると、いつの間にか目的の場所へと着いていた。後ろを振り返ってみたが、先程まで押し寄せてきた霊魂達が嘘のように静かに

 

 

 

「ねえ、…………本当にここなの?ルキアさんがいるところ」

 

 

「悪趣味な雰囲気以外は何も変わってないな………間違いない。ここだ」

 

 

 

着いた場所は、少し古ぼけた小さな小屋。彼女は辛い思いをしたとき、いつもこの場所で独り寂しく引き込もって泣いていた。何かあれば、ここにいるのが定番だった。慰めによく訪れていたのを思い出す。

 

 

 

彼女はきっとここにいるだろう。いつものように冷静に扉を開け、中に入った…………と言いたいところだが、今回ばかりは違った。

戸をグッと引っ張ろうとしても開くことはなかった。手元を見ると、予想以上に震えていて、ドアノブの鈍い音がガタガタと鳴り止まなかった。

 

 

 

(クソッ、どうしたというのだ。まさか怖じけたとでもいうのか……!?)

 

 

 

そんな時、ハルが何も言わずに震える私の手の甲を、そっと優しく合わせてくれた。何故か、胸が温かくなり、私は冷静さを取り戻した。

 

 

 

「あぁ、ハル。大丈夫だ。もう心配いらないよ。そうだハル、一つ約束してくれないか?」

 

 

 

「?何、クレイさん」

 

 

 

「これが終わったら引っ越すまで、沢山遊ぼうな!ユイに負けないように、立派な友達になってみせるぞ!」

 

 

 

私は全力の笑顔をハルに見せつけ、約束をさせた。嫌だと言われようが、関係ない。私がそうしたいのだ。多少なら許される。

 

 

 

「………うん、約束だよ」

 

 

 

そうして私たちは二人で同時に、扉を押した。ギシギシと軋む音がし、闇へと続く入り口が開かれた。中は何も見えない。だが、ハルの懐中電灯があれば辛うじて足元なら見える。

 

 

 

玄関の後は、確か廊下だったはずだ。その後、少し進むとリビングに出る。その後は上へと続く階段を登る。黒く濁った不快な空間はどんどん重圧を増していき、今にも息が詰まりそうだ。

 

 

 

そして、ここだ。二階の古びた客室。ここをルキアはよく隠れ家にしていた。古びた故か、錆び付いたドアが1部屋だけ閉まっていた。

 

 

 

ドアノブを取り、戸を引く。その先には、予想通り。こちらに背を向け、体育座りをして、隅に踞っているあの子(ルキア)がいた。

 

 

 

「ルキア!良かった、心配したぞ!」

 

 

「………姉さん……?姉さん!」

 

 

 

すると、彼女はまるで赤子かのように、私に寄りすがってきた。よろよろとして体調も優れないようだ。それに普段ならば、こういう甘えた行動は彼女はしない。常に心を閉ざしていた。この私にさえ、も。

 

 

 

けれど彼女が弱気になっている。それは即ち、気持ちをさらけ出すほど、辛い思いをしてしまった、ということだろう。

 

 

 

私はホッとして胸を撫で下ろした。てっきり奥地にて、元凶である(あの男)が待ち構えているとばかり思っていた。

もしかしたら、この場所はヤツにも唯一気付かれない安全地帯だったのかもしれない。

 

 

 

何にせよ、もうこんな傷を抉る(・・・・)ようなところに用はない。私は従妹であるルキアの手をとって、この場を後にしようとした。

…………が、後ろを振り返るととある人物がいなくなっていることに気がついた。

 

 

 

「ハル?」

 

 

 

ハルがいない。チャコも。何が起こった……?先程まで、彼女達はすぐ側にいたのに。急に姿を消すなんてことが有り得るのか。

 

 

 

不穏な空気が辺りに充満する。嫌な予感がした。私は手を繋ぐ家族に警告しようとした。だが、奇しくもそれが叶うことはなかった。いや、遅かった、という方が正しいだろうか。

 

 

 

振り向いた時、私の頬に激痛が走った。そして、私は床にへたり込んでしまった。

 

 

 

「グッ!?…………あっ………」

 

 

 

何がなんだか分からなかった。理解に苦しんだ。

 

 

 

どうして………どうしてルキアが私のことを

 

 

 

殴ったなんて。

 

 

 

「ふう、スッキリしました。あまりの阿保さに反吐が出るかと思いましたよ」

 

 

 

私は赤くなった頬を押さえながら、済ました顔を見せる彼女に尋ねた。

 

 

 

「何故だ、ルキア!?私のことをそんなに嫌っていたとでも言うのか………!?

………いや、それは仕方がない。私はそれだけの罪を犯した。嫌われて当然だ。だが、お前はこの空間を好いてはいないはずだろう!?私を殴ってもお前にとって、メリットはないはずだ!」

 

 

 

「えぇ、まぁ確かに、それもありますけどね………。けど、別に私はそれだけの理由で、貴様を殴った訳ではないんだよ」

 

 

 

口調と声の質に違和感を覚えたとき、ルキアの瞳が血を模したように真っ赤に光った。その時、確信した。確かに容姿はルキアだが、中に(・・)いるのは、全くの別のナニカであると。

 

 

 

「!、お前は………!?あの時、神社であった……?」

 

 

「あーあ、折角忠告してやったのに、こんなところまで来ちまいやがって。とんだシスコン尼だな。

だが、丁度良い。貴様の一族にはうんざりしてたとこでな。溜まった鬱憤を晴らしたいと思っていたところ、だッ!!」

 

 

「グフッ!?」

 

 

今度は振りかぶった拳を突きつけられ、再び頬を殴られた。よろよろと立ち上がるが、立ち上がる度に、一発、もう一発と拳が私を痛め付ける。

 

 

ついに立ち上がることすら、ままならないほど青あざが顔中に浮かんでいた。歯も何本か折れただろうか。

そして、胸ぐらを掴まれ、さらに猛攻が続く。一つ一つの拳に憎悪が詰まっているみたいだ。そして、乱雑に投げ捨てられ、おまけに足による腹蹴りを何度も叩き込まれる。

 

 

 

「可愛いルキアには二度と会えない。そう、二度と、なっ!」

 

 

「グハッ…………!あ、クッ……………カハッ……!」

 

 

「そうだ、最初からお前が目的だった。腑抜けた巫女の一族なんて、どうでも良かったんだ。目障りなのは、お前だ。

この女(・・・)も心の底でお前を恨んでいるぞ。なぁに、嘘じゃない。私はルキアの中にいるんだ。気持ちは充分に見透せる」

 

 

 

憎たらしくソイツは、ルキアの体を使って私を痛め付けている。それがどんなに苦しいか。心の何処かで、この光景を眺めているとしたら。

 

 

 

私が…………力尽きて、死んでしまったとしたら。それは永遠に消えることのない深く暗い傷になって、彼女を蝕むことになるだろう。私にとっては、それが一番辛い。

 

 

 

何としてでもそれだけは見せたくない。今まで、強がっていた家族が無惨にも殺されるような光景を目の当たりにすれば、幾ら病んでいる彼女でも、無事では済まない。

 

 

 

耐えて…………届けなければ。私に燻る、この愛を。理解などしなくても構わない。しかし、伝えなくして死すのは、私のプライドが許さない……!

 

 

 

「ルキア、聞こえているのだろう?頼む、少しでいい。私の言葉に耳を傾けてくれ………!」

 

 

「何度言わせれば分かるのです………!?ルキアと貴様は二度と会うことはない。いい加減、そのふざけた妄想は止めにして、さっさと死ぬのですよ………!」

 

 

 

時々、ルキアの口調である敬語を混ぜて罵る行為が、凄まじく憎たらしい。ヤツは脚蹴りを続けた後に、再び胸ぐらを掴み、顔の目の前に持ってきた。

血のように真っ赤に染め上がっているその瞳の奥。そこには何処か悲しみも含まれていた。

 

 

 

「折れねぇな………。相も変わらず、私を舐め腐った眼で睨みやがって………!!

人間は昔から私を下等生物と侮っていた………!!どれだけの同胞が死んでいったと思うんだ?あぁ!?

人間だけがこの世界にのさばっていると思ったか!!何処まで夢見てやがる!!」

 

 

 

さっきまで、余裕綽々としていた怪物(ルーシー)は頭に血が登り、より感情的になっている。かつて何かあって、こんな強い憎悪の塊になっているか、知るよしもない。が、今はそんな感情的になっているならば、私の言葉が彼女に届くかもしれない。

 

 

 

力を振り絞り、再び立ち上がる。そして、呼び掛ける。大事な家族に。友との約束を果たすために。そうだ、彼女を救うことはハルとの約束とも繋がるのだ。助けるんだ、彼女を…………!

 

 

 

「ルキア、聞いてくれ。私は………」

 

 

「誰に物を聞いている。ルキアはもう出てこないといったばかりですよ」

 

 

「黙れ!!私は貴様と話しているんじゃない!!ルキアと話しているんだ!引っ込んでいろ!」

 

 

「何だと?誰に口を聞いていると思っているん、だっ!!」

 

 

「グハッ!!?…………ハァ…………ハァ。………なぁ?ルキア、迎えに行くのが遅くなってしまったな。悪かった。助けに行けなかったことは後悔してる。でもな……………うぅ」

 

 

 

傷と痣だらけになった顔をいつの間にか、大粒の涙で顔を濡らしていた。いつもは涙など簡単に流してはいかん、と父に言われているが、どうしようもない。何故なら、自然に溢れ出てしまうからだ。

 

 

 

そして、勢いに身を任せ、彼女を抱きしめた。確かに操られて、自我を失っているためか、彼女の身体は一見すると死人のように思えた。これど、それとは裏腹に、冷たい肌の奥に小さく揺らめく、ぬくもりが眠っていた。命の鼓動が微かに聞こえた。それを知ると、涙が止まらなくなった。

まだ、まだ生きているんだ。私はありのままの言葉をルキアに伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………もう、大丈夫だ……。助けにきた…………お前をもう一人にしないっ。ずっと一緒にいるぞ………。ずっと、ずっとだ………。………私のことは好いていないだろう?私との関係を断ち切ってくれても構わない……くっ……でも………でもっ

 

 

 

 

もう一度、お前と家族の糸を結び直すことはできないかなぁ………?帰って来、てくれ、頼む………!私に償いのチャンスをくれっ…………!」

 

 

 

「…………!うぅっ………!」

 

 

 

なぁ、ルキア。お前には、友がもう一人出来たんだろう?

 

 

 

私にも出来たんだ。ハルっていう可愛らしい片腕の少女。昔から堅物で、頑固だった我々には、無縁のことだと思っていたのに。

 

 

 

生きてみるというのも、案外悪くないものだぞ?それに、私はお前とまだまだ遊び足りない。もっと冒険がしたい。一緒に悩みたい。笑いたい。時には泣いたっていい。

 

 

 

「うぅ……………姉さん…………」

 

 

 

彼女の中に宿っていた、憎悪の塊が消えたような気がする。すると、背中から冷たい液体が滴る感触が伝わった。

 

 

 

泣いているのだ。ルキアも。

 

 

 

「…………!っだ、駄目………!押さえられ………ない」

 

 

しかし、自我を取り戻したのは一瞬の出来事であった。再び絶望を臭わせるオーラが彼女を包み込んだ。

ヤツだ。ヤツが再び、彼女の心身を乗っ取ろうとしているのだ。

 

 

 

「………ったく。まだ自我を残していたか。もう、この身体は私のものだ。大人しく、テレビでも見てるんだな」

 

 

「も…………もう……」

 

 

「ん?どうした、金髪ちゃん。腹でも痛いのか?」

 

 

「もう、止めろ!何故、貴様はこんな非道なことを続ける!?

私、私は…………………………彼女を傷つけるのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もういやだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャキン

 

 

 

 

「何ッ!!!?何故、貴様が!!?」

 

 

 

私が最後に見たのは、巨大なハサミだった。そして、私はとても大切なナニカ(・・・)を激痛と共に失ったのだった。


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