長い間迷走しており、投稿できずじまいでしたが、ようやく話を思いついたため、投稿いたします。
もう、読んでくれる人も少ないでしょうが、お付き合いください。
気が付くと、私は深淵にいた。
見渡す限り一寸先すら見えない暗黒。
闇は、暗く、冷たく、そしてどこか優しい
私の意識は朦朧としていた。身体の感覚も失われている。自分がはたして、立っているのか浮いているのかさえ分からなかった。
そして、共にいてくれた友達、ハルの姿もない。
私の胸元には不思議と懐かしさと温もりだけが残されていた。
先程までいた彼女の温もりだ。それは、何処かこの闇に似ているが、私の孤独と恐れを癒してくれる。あるいは、誤魔化している、といったほうが正しいだろうか。
だが、ずっと追い続けた彼女の姿は何処にもない。
しかし、あの時確かに触れた。あの山で彼女を見つけた時、確かにこの身で抱いたのだ。
そう、確信があった私にはこの場で燻っていることなど出来なかった。
私は、気が付けば闇の中を走っていた。先も見えず、彼女がいるとは到底思えないこの暗闇を。
走って、走って、疲れて、でもまた走って。
足が千切れると思うくらいの激痛が走っても、骨が悲鳴を上げても、私は諦めなかった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…」
私の吐息だけがはっきりと聞こえる。けれどただ、それだけ。
そして、漠然とした不安に襲われる。それはまるでこの闇のようだ。大きくて、先もなく、ただただ足踏みをしているだけのように思わせる。
私の中に一つの思考が脳裏をよぎる。
もしかして、彼女は私の元にもう戻ってこないのでは、と。
この闇夜のように、どこにもいないのではないか
嫌だ、嫌だ。
そんなの、認めない。
イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ
目が覚めた。
私はあの暗闇とは対照的な、白い壁に覆われた建物、その寝室で横たわっていた。
「な、何がどうなって――――い、痛ッ…」
身体を起こそうと私は試みたが、激痛と共に動かず、まともに動かすことすらままならなかった。見ると全身に包帯がまかれており、近くの桶には変えた後の血に濡れた包帯が山のように積まれていた。そして、身体につけられた無数のチューブ。心音と共に唸る機械。どことなく漂う薬剤の香り。ここは、病院らしい。
「あ、先生!患者様が目を覚まされました!」
看護師らしき人が大声で医者を呼んだ。すると、ぞろぞろと白衣を着た大人たちがあっという間に私を取り囲んだ。
私は混乱を隠せず、動揺していた。
頭が割れそうだ。わけが分からない。
そして、頭を悩ませていると一人の医者が冷静な声で話しかけてきた。
「良かった、目を覚ましたんだね。気分はどうかな?落ち着いてからでいいから、話してみて」
「え、いや、あの私は」
「君は先週、例の行方不明者が続出している山。そこで瓦礫の下敷きになっているところを救助されたんだ。正直、助かる見込みはないと思っていたけれど、無事でよかったよ」
は?何を言っている?私は、そんな体験をした覚えはないし、第一そうなればルキアも。彼女も見つかっているはずだ。
しかし、嘘を言っているようにも見えないし、頭の中が棒でかき乱されたかのようにぐちゃぐちゃだ。
すると、聞きなれた声が聞こえた。
「姉さん!」
「お、お前⁉どうして⁉」
声の主は弟だった。弟は私の身を包み込むように抱きしめ、頭をそっと撫でてくれた。
けれど、今はそれどころではない。愛する家族の安否が、私は気になるのだ。
「姉さん、貴方はあの夜、あの事に信じられずに家を飛び出していって、それで、事故に巻き込まれたって聞いて…心配で…生きてて良かった…良かったよぉ…!」
あの夜?あの事?何の話だ?
嫌な予感が私の脳裏をよぎった。
私は医者に、震えた声で恐る恐る聞いた。あの晩、何があったのか。もう一人、救助されたはずの家族がいないかと。
しかし、何故だ。心臓が、徒競走を走り終えた後みたいに、今までにないくらいの速度で動くのを感じた。私は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「貴方の従妹さん、ルキアさんは
既に亡くなっています」
その事実を聞き入れた瞬間、亀裂が生じた音が響き渡る。ガラスが砕けたみたいに心がバラバラになったのを感じた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「すまないな、遅くなってしまった。よいしょっと」
私は墓地に来ていた。彼女の墓。その外柵に胡坐をかいて座り込んだ。そして、墓に備えられた既に枯れ、朽ち果てた青い花を退かし、私はそっと新しい赤いバラの花束を供えた。
まるで焚火が薪を失った時のように空が、哀しいくらい燃え尽きていく黄昏時。私は、いつものように石のように冷たくなった彼女に話しかけた。
「お前が、私の元から去ってもう3年か。早いものだな、時が経つのは。色々あると、哀しむ余裕すら奪われてしまうようだ。フフッ」
「…少女から、聞いたぞ」
「お前、その子を救ったんだな。いい、お姉ちゃんだったって。…フッ、なんだよ。お前が一番ヒーローをやってるじゃないか。やっぱりお前は私の誇りだよ」
少しの間、私は黙ったまま墓石を見つめた。そして、すぅっと深呼吸して再び語り始めた。
「聞いてくれるか?ルキア。
私、大学に行くんだ。両親から「そろそろ前を向け」と、言われてしまった」
「大事なものは、踏み越えていけ。お前の存在は、呪いみたいなものなんだ、と。確かに、世間からすれば良い両親だろうが…。それでも…勝手だよな、大人なんてものは。私たちの関係を分かってたはずなのに、そんな理由で無理やり引き裂こうとするんだ」
「それで、もうすぐ、ここから引っ越さなければいけないことになった。まぁ、それも親の決定なんだが。私は…許せなかった。それで、昨日は一晩中、母さんと父さんと喧嘩してしまったよ。それで、家を飛び出してきてしまった。だから、今も」
「…やっぱり私はあの夜から、からっぽだ。まるで自分の半身を失ったみたいに。一時も生を感じない。どうしてかな。まだ、子供…なのかな」
「私、幸せだと感じたことがなかったんだ。いつか、話したか?私は、まるで操り人形さ。親がああしなさい、こうしなさい、ってずうっと口出しばかりされる人生だった。学校でもそうさ。一番になれ、みんなの人気者になりなさい、それこそが私のため、皆のためだからって。どんなに疎まれても、陰口をたたかれても、私はそれにずっと従ってきた。大事だったものを全部捨てて。それこそが真の幸福と信じていたからさ。
…だが、お前は違ったな。お前だけは、ずっと私のことを見てくれた。お前だったから、私は私でいることが出来たんだ」
いつの間にか、黄昏の炎は消え、あの時のような暗く冷たい闇夜が訪れていた。
しかし、いつしか、私はあの怪異たちを感じることはなくなっていた。あの、騒がしかった夏の一夜を、私はふと懐かしんだ。
そして、私は語りを続けた。何も意味を含まないそれは呪詛のようにも聞こえたが、私は構わなかった。
「けど、聞いたよ。お前が、虐待されてる、これっぽっちも知らなかった。救いを求めてたのは、助けを求めていたのはお前のほうだったのに、それどころか私は、お前が死んだあの夜も、今度は何処に行こうか、何を一緒に食べようか、って呑気な事ばかり考えてた。何があったか知らずに。
まさか、お前が…死ぬなんて…。あの時、死ぬべきは私のほうだった。お前じゃない、私なんだ…!」
「何一つ、自分の手で成し遂げてないのに、都合のいい部分だけお前に押し付けてさ…。お前にも、ハルにも、私は我儘ばっかりだった。…自分勝手すぎる。最悪だよな…」
「このまま私が引っ越してしまったら、お前は一人ぼっちだ。一人にさせてしまう…それが、孤独が、どれほど辛いことか、私も知っているはずなのに。お前に…寄り添うことすらできなくなってしまうなんて」
「ルキア、誰もお前のことを忘れてしまっても、覚えていなくとも。私だけは、あの夜に消えてしまったお前を忘れない…。いつか、お前にまた会えるまで、その時まで、私は諦めない。絶対に。毎年、夏を感じる度、夜が忍び寄ってきたこの感覚を、私は忘れない」
彼女はそっと、墓に備えられていた朽ち果てた小さく青い花を、胸に押し当てた。
その花は、もう咲くこともないだろうと、知っていても。
そして、その背後に小さな蜘蛛がカサカサと蠢いていた。
ここまで読んでくださった皆様。ありがとうございました。長い間、多忙だったことやモチベーションの問題など数々の困難が立て続けに重なり、投稿できなかったのですが、ようやく描き切ることが出来ました。
しかし、いくつかの伏線等を用意したものの、結局回収が出来なかった要素なども多分にあり、私としては非常に反省しなければならない部分もありました。
このままでは、終わることが出来ないので、次回作にて全てのオリジナル要素の伏線を回収いたします。また違う作品での二次創作ですが、ひっそりと回収いたします。
改めまして、ここまで読んでくださった皆様。大変ありがとうございました。
お帰りの際は、夜の暗い道にご注意ください。ではまた、何処かで