深夜廻 もう一つの物語   作:はるばーど

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今回、クレイが凹む回です


本編どうぞ。


第七章 黄金の影

グッ……………何とか、あの鋏の化け物から逃げ仰せましたが

 

 

 

…………また見知らぬ地へと出てしまいました。

 

 

 

今、私が佇んでいるところはどうやら丘の上。

 

 

 

この町並みが一目見ただけで一望できます。

 

 

 

私は目を凝らしながら、町を見渡す。

 

 

 

私の住んでいる町は廃工場が存在するので、このような高台ならば本来、見つけるのは容易なはず。

 

 

 

しかし、何処にも廃工場らしき大きな建物は見えない。

 

 

 

弱りました…………一刻も早く帰りたいのにこれでは何もできません。

 

 

 

そう思った矢先、私は妙な生き物を見ました。

 

 

 

それは蛇。小さな蛇。

 

 

 

ですが、そこら辺にいるシマヘビやヤマカガシのような普通のものではありませんでした。

 

 

 

その蛇は角が生えていた。

 

 

 

まるで神話に登場する怪物のような姿をした蛇。

 

 

 

舌をピロピロ出しながら、此方の様子を伺っている。

 

 

 

何が目的なのでしょう。狂暴そうな見た目とは裏腹にやけに慎重な性格をした蛇です。

 

 

 

すると、蛇は私を見詰めた直後ににょろにょろと丘を下り始めた。

 

 

 

不思議と私もその蛇と同時に足を進めた。

 

 

 

正直、怖いという気持ちはあった。

 

 

 

けれど、あの蛇は私に起こったことを何か知っているのかもしれない。

 

 

 

蛇は私を何処かに導くが如く、迷うことなく街中を進んで行く。

 

 

 

そして、見えた。

 

 

 

赤いリボンを身につけた女の子が。

 

 

 

私の探している人かもしれない。

 

 

 

私は夢中で走り出した。

 

 

 

ひたすらその子に追い付こうと。

 

 

 

しかし、その子は近付く処かドンドン遠ざかっていく。

 

 

 

誰でも構わない。

 

 

 

人に会いたい。

 

 

 

私は今まで通ってきた道を振り返った

 

 

 

しかし、そこには先程までずっといた蛇は

 

 

 

 

 

 

もう何処にもいなかった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「何だ、この絵本は……………」

 

 

 

可愛らしい絵柄とは裏腹にとても残酷な内容が綴られている。

一瞬にして森を焼きつくした光…………。それは我々、日本国民が決して忘れてはならない光なのかもと私は悟った。光の正体は長崎(・・)という発行場所と年代で分かった。

 

 

 

背筋がゾッとし、私は静かに元の場所へ絵本を戻した。ハルはそれ以前にこの図書館の雰囲気に怯えきっていて、途中から絵本を読むのを止めていた。それは不幸中の幸いだったかもしれん。

 

 

 

何故なら、ハルみたいなまだ小さな女の子が見るには内容が過激だったからだ。私でさえも胸が張り裂けそうになり、罪の意識が雪崩のように積み重なっていくのを感じる。読むのは大人になってからだろう。いや、大人でさえこれは少し………。

 

 

 

もし、この蜥蜴の物語が実話を元にした話だとしたらこの絵本の彼は我々を恨んでいるのではなかろうか。ルキアも同じ事を思っているのではないだろうか。私を恨んでいるのでは。そう思うと怖くてたまらない。

 

 

 

私が徘徊者を怖がる理由は単純にその存在に恐怖している訳ではない。怖いのはその恨みの矛先だ。無差別なのか、そうでないのか。目的によって対応の仕方は変わってくる。

 

 

 

顔から血の気が引いていくのを感じる。どうしよう、ハルがその怒りの巻き添えとなったら。あの子、ルキアは人を既に殺めてしまった存在だ。次は躊躇なく私達に襲い掛かってくるかもしれん。私だけならばいい。これは我々家族同士の問題だ。

 

 

 

しかし、ハルはただ私の勝手なわがままに付き合ってくれただけだ。巻き込んでしまっては迷惑だろうし、個人の尊重を無視している。タイミングを見計らって別れないと行けないかもしれない。

 

 

 

「ねぇ、クレイお姉さん………。早くここから出よう………。ちょっと怖くなってきたよ………」

 

 

 

とハルが恐怖に耐えきれず、弱音が漏れ始める。その気持ちは分かる。確かにこの場所は外の風景とは一変している。月夜の灯りはなく、ハルが首から下げている懐中電灯がなければ足元もまともに見えないような暗黒だ。

 

 

 

しかしまだ私は帰らない。いや、帰れないのだ。もう頼みの綱がこれしかない。ルキアの情報は何処にも残っていない。

ハルやルキアの足取り探しに手間取り、冷や汗が頬を伝う。

 

 

 

そんな時、一つの本が目の前に転がってきた。本棚から落ちてきたのか…………?気になって手に取ると探していた題名が目に飛び込んできた。

白い髪の巫女が燃える化け物を封印するという物語だ。

 

 

 

「…………あった……!」

 

 

「お姉ちゃん…………も、もう無理だよぉ………」

 

 

 

はっと顔を上げると面に穴が開いた化け物に囲まれていた。あまりに長い時間留まっていたため、痺れを切らした怪物達に睨まれていたのだ。

私はその本とハルを抱え、その場から駆け出した。

 

 

 

がむしゃらに走った。足がもげそうなくらい。怪物も図書館で騒音を立てた私に激怒し、鋭い触手を突き立てながら追いかけてくる。

 

 

 

どう登ったのか、私は窓からいつの間にか外に脱出しており、いつもの冷たい夜風が私達を包み込んだ。月明かりが夜を照らし、萎れた勿忘草が風に揺られている。

 

 

 

ハルを下ろした後、私は不安と焦燥感に襲われ、正常に立っていることが出来なくなった。一気に脱力感が沸いてくる。本を手から落とし、ガクッと膝を着いてへたれこんだ。

 

 

 

これで何回目だ?ハルを危険に晒したのは。この旅は自分だけの問題ではないというのに………。

 

 

 

「ハル……………すまない。これは私のせいだ……。私の…………」

 

 

「どうしたの?………そんな落ち込むことないよ。…………まぁ、ちょっぴり怖かったのは本当だけどね」

 

 

「……………怖いんだ」

 

 

「え?」

 

 

「私は…………自分が知らない所で人を傷付けていないか恐ろしいのだ」

 

 

「………………でも」

 

 

「だってそうだろう!?身勝手な都合で他人であるハルを巻き込んで!危機に晒してばかりいる!ハルも分かっただろう!?今に至るまで君を何度危ない目に会わしたか!?………………無理やり私に付き合うことなんてないんだぞ、ハル。私はこの通り自分勝手な女だ。」

 

 

「………でも、私はね。クレイさん。

 

 

 

 

 

 

貴方のこと、もう友達だと思ってるよ」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

何故、そう言ってくれるのだハル。こんな暴走列車みたいな女を『友』だと…………!?正直、ハルとは釣り合わないとさえ思っていたのに。

 

 

 

学校でも私はそんなヤツだった。一人で突っ走って、周りの状況など気にも止めない。だから、重役を押し付けられることが増えた。率先してやってしまう癖が仇となっている。

 

 

 

実際、私は高校の校風委員長だ。でも、やりたい訳ではなかった。学年の生徒からの立候補によって決められたことだった。忙しくなってしまった。いつしか、ルキアの事を気に掛けることすら出来なくなるほどまでになってしまった。

 

 

 

ハルはそんな私の過去の事は知りもしないだろう。だが、大体察しはつくというもの。私には分かる。ハルはそんな私の性格を見破ることくらい容易であると。

 

 

 

それを知ってなお、私のことを友だと言ってくれるのか、彼女は。

 

 

 

「何故、そこまで…………」

 

 

「言おうとしたんだけどね。私、もうすぐこの街を引っ越すんだ」

 

 

「それなら尚更………」

 

 

「友達がいたって前に言ったよね。その人………もう死んじゃったんだ。とっても悲しかったし、お別れなんて嫌だった」

 

 

「………………」

 

 

「大切な人を失う気持ちがよく分かるんだ。だから、危なっかしいクレイさんを放っておけなかった」

 

 

「フフ……………」

 

 

 

これじゃどっちが守り手か分からないな。まぁ、今更か。よく考えてみれば、ルキアにも同じ様なことされてたっけか。弟と一緒に無茶してその度にルキアが母を連れて迎えに来ていたな。

こうなるとしんみりしているのも馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 

 

 

謝るなんて今に始まったことじゃない。ここまで来たら連れ出してやる。待たせるな、ルキア。お姉ちゃんが迎えに行くぞ。友達も連れていくからな。何度決意したか分からないが、ルキアを救う、そう思うと勇気が沸いてくるのだ。

 

 

 

「よし!」

 

 

 

私は活を入れるために、頬を両手で叩きスックとその場に立ち上がった。ハルは驚いたのかたじろんだ様子で、尻餅を着いた。

 

 

 

「フハハハハハハ!ハル!迎えに行くぞ!お前と私の二人で!ウハハ!」

 

 

 

いつも以上に元気になった彼女を見て、ハルも笑みが漏れた。クレイはこの暗く悲しい夜の雰囲気をも吹き飛ばしてくれる。そんなように思えた。

 

 

 

「あ!クレイさん!」

 

 

「何だハル!そんな所に突っ立っていると置いていくぞ!?」

 

 

「本、忘れてます!」

 

 

「あ……………」

 

 

 

徘徊者《彷徨う者》も変な女がやってきたと囁いているようにざわつき始めた。萎れた勿忘草に元気が戻ったような気がした。





皆さんは気付きましたか?冒頭の文は行方不明の従妹の心情ですね。

え?そんなこと分かってた?あ、そうですか………はい
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