あなたがサキュバスゆかりさんになってマキさんに幸せにしてもらう話 作:Sfon
十二月二十四日(木)
今日はクリスマスイブ。この世界にも同じ名前、同じ内容の物語があり、人々はみなイベントの日として街にご飯に出かけたり、友人同士や恋人同士で仲良く過ごしたりするのです。あなたも今日はマキさんと一緒に晩御飯を食べに街へ繰り出していました。
今ではすっかり化粧にも慣れ、自分でばっちり身だしなみを整えたあなたは、鞄を肩にかけてマキさんとレストラン街を歩いています。今日はベージュのタートルネックのニットと黒のフレアスカートを着て、ちょっと品のいい感じにしました。そして鞄の中には、今日の本命ともいえる大切なアイテムが入っています。
あなたがバイト替わりの魔力代をもらい始めて六カ月経ち、だいぶ貯金も増えてきたのをみて、ついに先日指輪を購入したのです。もちろんペアリングで、それぞれにバイトの三か月分をつぎ込みました。デザインは無難なものを選びましたが、長くつけてもらいたいことを考えるとむしろそれがいいでしょう。
マキさんがあらかじめ予約しておいてくれたレストランは高校生程度の年齢層にはちょうどいいお店でした。店員さんに案内された窓際の席からは表通りのイルミネーションが見え、なかなか雰囲気があります。並木はクリスマスカラーのオーナメントと照明で飾られ、まさにクリスマスムードでした。
あなたの前に座っているマキさんもレースを基調とした赤いワンピースを着ていて、どことなく纏う雰囲気が大人っぽくなっています。あなたたちは今年一年を振り返りながらおいしいディナーに舌鼓を打っていました。
「今年はいろいろあったなぁ……。ゆかりちゃんがうちにやってきてからはほんとにあっという間だったよ」
本当に、あっという間の半年ちょっとでした。新しい環境になれたと思った頃にはいつも何かしら出来事が起きるのが繰り返され、退屈する暇はありませんでした。前期の中間試験を終えてからも一波乱あり、それが原因でマキさんとあなたの関係は若干……いや、かなり変わったでしょう。
何しろ、今までは基本的にあなたが彼女にちょっかいを掛けたり、誘惑したりしてなんでも始まっていましたが、それがだんだん逆転していったのです。夏休みには海水浴に行ったり、秋口には温泉に浸かりに行ったり、行く先々でちょっとしたハプニングが主に某淫魔の長関係で起こったせいで、あなたの能力がどんどんその方面に成長し、それを知ったマキさんがあなたの体に興味を持ち始めたのでした。
そのせいで夜の主導権は完全にマキさんに奪われ、あなたは彼女に言われるがまま、体を好きにされているのです。もっとも、あなたはそうやって自分を求めてくれるようになった彼女の変化をよく思っていて、むしろもっとエスカレートしてもよいとすら思っているのですが、きっとそれは彼女の調教……もとい教育のせいでしょう。
何はともあれ体の面ではすっかり密接になったあなたとマキさんですが、あなたは未だに彼女からはっきりとした返事をもらえずにいました。あなたは素面だろうが、行為中だろうが、何度も彼女へ愛を囁くのですが、いつもキスでごまかされたり、返事を聞けないほどに気持ちよくされたりしてしまうのです。
彼女があなたのことをよく思っているのは普段の態度からもよくわかるのですが、さすがにそろそろはっきりと伝えてもらいたい時期になってきました。その話題を切り出すための指輪がここにあるのです。
いくら彼女とは言え、この雰囲気のなかでごまかせるとは考えにくく、あなたは今日、このレストランで彼女に指輪を渡すつもりでいます。さすがに大っぴらに渡せばちょっと周りの目が気になりますが、ケースに入れたまま渡せば問題ないでしょう。
だんだんと食事も終わりに近づき、あなたはこの後のことが気になってもはや味に集中できなくなってきました。おいしそうに目の前でデザートを食べるマキさんを眺めながら、いつ話を切り出そうと悩んでしまいます。
そしてついに食事も終わり、マキさんはちょっとお手洗いに行ってくると言って席を外しました。あなたは鞄の中からペアリングの箱を取り出し、机の下で手にもって待機します。彼女が帰ってきたらすぐに話しかけ、自分の迷いを無くそうとしたのです。ケースを握っているだけであなたの手は汗がにじみ、呼吸は浅くなっていきました。
やがてマキさんがお手洗いから返ってくると、あなたの後ろで立ち止まりました。
「ゆかりちゃん、ちょっと前向いてくれる?」
髪の毛が乱れているか何かだと思ったあなたは、素直に前を向きました。後ろでマキさんが何かしているのは感じますが、あなたはこの後彼女へ指輪を渡すことで頭がいっぱいいっぱいになっていてそれどころではありません。
そして彼女はあなたの頭の上から顔の横、そしてあなたの頬に垂れる二房の髪の毛の内側に手をやると、首元で何か作業をして手を引き抜きます。落ち着かない気分でいたあなたでもさすがに彼女が自分に何かをしたと気づき、問いかけようとしたその時でした。
「ゆかりちゃん、私のところに来てくれてありがとう。愛してるよ」
彼女は耳元でそう囁き、耳に軽く触れるだけのキスを落としました。あまりに突然の出来事にあなたは全く反応できませんでしたが、彼女に言われて胸元に視線を落とすとシルバーの細かいチェーンの先にリングが通され、その中には大粒のアメジストが吊り下げられていました。彼女はあなたにネックレスを掛けてくれたのです。リングを手に取ってよく見れば、内側にあなたの彼女の名前が掘ってありました。
あなたの反応を見たマキさんはとても満足した様子で正面の席に戻りました。あなたは彼女の顔とネックレスを交互に見ながら、本当に彼女がプレゼントしてくれたのだとゆっくり飲みこみます。そして、彼女があなたに囁いてくれた言葉を何度も思い出しました。それはあなたがこの半年以上望んでいた言葉で、ようやく返事をくれたと思うとだんだんと視界がにじんできてしまいます。メイクが崩れてしまってはいけないとあなたはハンカチを目元にあて、何とか感情が落ち着くのを待ちました。
あなたがゆっくりと息をしながら暴れる胸を落ち着けようとしている間、マキさんは静かに待っていてくれました。今彼女から何か声を掛けられたら、それだけでいろいろなことを思い出して、嬉しさでさらに泣き出してしまいそうです。
そして気持ちが落ち着き、マキさんとようやくしっかり目を合わせることができてから、あなたは彼女にきちんと返事を返しました。
「そっか、良かった。ようやく伝えられたよ。待たせちゃってごめんね」
本当に長かったですが、確かに彼女から返事をもらえたと思うともはや待たされたことは全く気になりません。ただただ、嬉しさと愛情があなたの胸に広がりました。
嬉しさに浸って幸せな時間を過ごすのもいいですが、あなたもマキさんに渡すものがあります。あなたはこのまま、自分のプレゼントを彼女に渡しました。同じケースに入った二つのリング。ケースを机の真ん中に置くと、あなたは片方を手に取って彼女に差し出しました。私の気持ちを受け取ってくれるならつけてもらいたいとお願いすると、しょうがないといった雰囲気で彼女が左手を差し出しました。
「もう、ゆかりちゃんが付けてくれないの? ほら、はやく」
彼女は明らかに、薬指を差し出していました。もともとそこに着けてもらいたくてサイズも選びましたが、彼女から差し出してくれるなんてあなたはこれ以上ない幸福におぼれます。
緊張で震える指先を抑え込みながら、あなたは彼女の左手薬指に指輪をはめました。彼女は指輪をそっと撫でて眺め、お礼を言ってくれます。そして、おもむろにケースに残ったもう片方の指輪を手に取ると、あなたに差し出しました。
「ほら、ゆかりちゃんも手を出して。そのためのペアリングでしょ?」
あなたの胸はもうとっくに破裂寸前です。服で手汗をこっそりぬぐってから左手を差し出すと、片手をあなたの手に沿え、指輪を付けてくれました。左手薬指に輝くその証は彼女とお揃いで、深い深いつながりを感じさせてくれます。
「これから先も、ずっとよろしくね、ゆかりちゃん」
レストランからの帰り道、あなたはいつも通りマキさんと腕を組んで歩いていましたが、いつもよりも彼女との距離がずっと近く感じます。胸元に視線を落とせば彼女がくれたネックレスがイルミネーションの光を受けて輝き、横に視線を向ければ笑いかけてくれるマキさんがいました。今日何度言ったかわからないほど繰り返した言葉ですが、あなたはどうしても我慢できなくて、また彼女に囁きます。
「マキさん、大好きです。ずっと愛しています」
「私も愛してるよ、ゆかりちゃん。死ぬまで絶対に離さないから」