董卓討つべし! 袁紹の檄文によって集まった諸侯の集まり反董卓連合は汜水関へと進軍し、まさに開戦を迎えようとしていた。
そしてそれを待ち受けるのは汜水関の守将の二人、神速の驍将張遼と……?
ほんの少しだけ変わった恋姫の物語が今始ろうとしていた。

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我が名は華雄

ここは洛陽郊外にある周りを絶壁で囲まれた難攻不落砦の汜水関。

汜水関の前には十万を超える軍勢が集まっていた。

この軍勢は洛陽で暴虐の限りを尽くす董卓を討つべしとして集まった反董卓連合軍である。

軍勢は汜水関へと前進してきており、まさに今開戦するかという所だ。

その軍勢を砦の上から見下ろす二人の将がいた。

一人の将が隣で同じく軍勢を見ている人物に話しかけた。

 

「こら絶景やな。あんなふざけた檄文でこんな人が集まるんかい。そう思わんか?」

 

そう話しかける女性は"神速の驍将"張遼文遠。紫色の髪を無造作にまとめ、服は袴のようなものを履き、羽織を肩にかけるように着ている。

手には刃の部分に飛竜の装飾が施された偃月刀を持っている。

話しかけた相手の名は華雄。張遼と同じく汜水関の守将を任された人物だ。

張遼は話しかけた相手から反応がないため思わず顔を覗き込んでみたが、やはり反応がない。

それもそうだろう。この戦には董卓を守るというだけでなく、"華雄"にとって大きな意味を持つ戦となるからだ。

 

そんな中連合軍の先陣を勤める部隊が前へ歩を進めた。旗印は劉。中山靖王の末裔を名乗る劉備率いる部隊である。

その部隊から二人の人物がさらに前へと出てきた。

一人は綺麗な黒髪が特徴の張遼と同じく刃の部分に竜の装飾を施した偃月刀を持っている。

張遼とは違い飛竜ではなく青龍の装飾のようだ。

もう一人は赤い髪を肩口で切ったような髪で小柄で活発そうな印象を受ける少女だ。

小柄な体格に見合わないような大きな蛇矛を持っている。

噂からすると、黒髪が関羽、赤髪のほうが張飛であろうと張遼はあたりをつけた。

 

そしてその二人が大きな声で華雄や張遼に対して罵声を浴びせ始めた。

これはまずいと思った張遼は隣を見て様子を伺ったが、予想に反し、冷めた目でその罵声を聞いているようだ。

ふぅとため息をついた張遼は安心したように声をかけた。

 

「てっきり、あんたのことやから我らの武を愚弄されたとか言うて突撃するかと思……っ!」

 

張遼は華雄の目を見て思わず言葉を止めた。

その目は冷めてなどおらず、むしろ見ただけで相手を殺してしまうかのようなほどの力を持っていた。

考えてみれば当たり前だ。"華雄"の武を馬鹿にされるなどというのは華雄にとってはとても許しがたいことなのだ。

自身の武を馬鹿にされたからではない。あくまで"華雄"の武を馬鹿にされたことが許せないのだ。

 

しばらく関羽と張飛は罵声を浴びせ続けていたが、華雄からの反応がないため少しあせりが見え始めていた。

そこへ先陣部隊にもう一つの部隊が歩を進めてきた。旗印は孫。

それに気づいた華雄隊の兵が思わず声をあげた。

 

「華雄将軍! 連合軍先陣に奴らが出てきました!」

 

唐突に言ってしまったが旗印のことを伝え忘れたことに気づき再度華雄へと報告する。

 

「あっ! 申し訳ありません! 新たな部隊の旗印は孫! あの孫堅の娘が率いる孫策の部隊です!」

 

それを聞いた華雄の表情が一変し、鬼のような形相になった。

そして孫の旗印の部隊をにらめ付けるように見ているとその中から桃色の髪をした女性が前へと出てきた。

孫堅と同じ桃色の髪。だが孫堅はすでに亡くなっているため、孫堅ではなく娘である孫策だろう。

孫策は同じく先陣にいた劉備と軽く何か話していたようだが、その話も終わったのかこちらを見上げ大きく息を吸い込んだ。

 

「汜水関守将、華雄に告げる! 我が母、孫堅に敗れた貴様が、再び我らの前に立ちはだかってくれるとは有難し! その頚をもらうに、いかほどの難儀があろう? ……無いな。稲を刈るぐらいに容易いことだろう!」

 

「どうした華雄。反応は無いのか? それとも江東の虎、孫堅に破れたことがよほど怖かったのか?」

 

「そうか怖かったか。ならば致し方なし。……孫堅の娘、孫策が、貴様に再戦の機会を与えてやろうと思ったのだがな!」

 

「それも怖いと見える。いやはや……それほどの臆病者、戦場に居て何になる? さっさと尻尾を巻いて逃げるが良い。ではさらばだ! 負け犬華雄殿!」

 

と、孫策は華雄に罵声を浴びせたあと部隊の中へと戻っていった。

この罵声はさすがにまずいと思った張遼はすぐに周りの兵に華雄を抑えるように指示を出した。

自分も一緒に華雄を抑えようと隣を見たが、すでに華雄の姿は無く、周りを見渡し見たが、同じく華雄隊の兵全員が姿を消していた。

 

「おい! 華雄はどこいったんや! まさかもう下に降りてもうたんか!?」

 

「くっ、こらアカンな、どうしようもあらへん……! 誰かおるか!」

 

張遼の声に反応し一人の兵士が駆け寄ってきた。

 

「はっ」

 

「虎牢関の賈駆っちに、ついに華雄が出撃した。華雄が冷静さを失ってなければ汜水関も少しは持たせられるが、そう長くは持たん、と伝えてくれ。 おいおい状況は伝令で送るから言うてな」

 

「御意!」

 

伝令を出した張遼は華雄隊の手助けをするため自分の部隊へ出撃するよう伝える。

張遼が出撃の準備を整えている頃、華雄はすでに出撃の準備を終え、門を開くため門の前にいた。

華雄の孫堅への憎しみは孫策が思っているほど甘いものではない。

華雄が"華雄"となった理由が孫堅にあることを孫策は知らない。

孫策は今頃策が成功したとほくそ笑んでるのだろうが、それはとても甘い認識であった。

華雄が"華雄"になった理由、それは孫堅との戦で華雄が深手を追った頃まで遡る。

 

 

 

 

 

孫堅と華雄の戦い、それは華雄の副将胡軫が失態を犯し華雄を孤立させてしまったため華雄が不利な状況での戦いを強いられていた。

孫堅と華雄との戦いはまさに柔と剛。

華雄は決して孫堅の武に劣るものではなかったが、孫堅の策により、すでに疲労しきった状態で戦っていた。

そして数合続いた勝負も最後はあっけないほど簡単に終わってしまった。

華雄の不用意な一撃を孫堅が避け、胴を深く斬りつけられてしまい、そのまま倒れてしまった。

孫堅はそのまま華雄を仕留めるつもりだったのだが、華雄隊が策に気づいたのか戻ってきたため、孫堅無理をせずにその場から退却していった。

 

倒れる華雄に一人の大男が寄ってきた。

この大男が胡軫文才、華雄隊の副将だ。

胡軫は華雄の傷がかなり深いことに気づき、華雄を抱き起こし、すぐに馬に乗せて走り出した。

向かう先は自身らの天幕だ。

 

「姐さん! 姐さん! ちくしょう! 俺があんな策にはまらなければ……っ!」

 

悔やむように叫ぶ胡軫。

その胡軫に華雄が気力を振り絞り、ぼそぼそと話し始めた。

 

「文才……私は負けた……のか?」

 

普段の大きく透き通るような声ではなく、弱弱しい声が胡軫の耳に届いた。

 

「負けてなんかねぇ! 姐さんは負けてなんかいませんよ!」

 

まるで自分に言い聞かせているかのように胡軫は叫ぶ。

胡軫の声は聞こえていないのか、華雄は虚空を見つめたまま話し続けた。

 

「私は……こんなところで終わってしまうのか……まだ、何も……出来てない……じゃないか……」

 

華雄の声はだんだんと小さくなっていく。

その様子に焦り始めた胡軫は馬を潰す勢いで走らせる。

早く! 早く! 早く! 天幕はまだか! 早く! 早く! 早く!

先程まで小さな声でしゃべっていた華雄がついに静かになり、体からも力が抜けおりまったく反応がない。

 

「っ! 姐さん? 姐さん……!」

 

胡軫が声をかけるが反応がない。

そんな馬鹿な! 姐さんは、華将軍はこんな所で終わっていい人じゃない!

それから少し走り天幕が見えてきた。

 

「姐さん! 着きましたぜ! すぐにっ……すぐに医者に手当てしてもらいましょう!」

 

そう言いながら胡軫は華雄を馬から下ろし、華雄を背負って医者のいる天幕へ向かう。

焦っている胡軫は医者のいる天幕がわからずうろうろしていたが、追いついてきた兵の一人が医者の天幕へと案内する。

そして医者のいる天幕に辿り着き、華雄を医者に診てもらった。

 

「先生? 姐さんは大丈夫ですよね?」

 

そう胡軫が問いかけるが医者はうつむいたまま首を横に振る。

胡軫は医者が首を横に振った意味がよくわからなかった。

 

このいしゃはいったいなぜくびをふっているのか。

 

「なあ、早く手当てしてやってくれよ……! 姐さんは眠ってるだけなんだろ……?」

 

胡軫が再度問いかけるが、医者は首を振ってこう答えた。

 

「すでにお亡くなりになっています。もう手の施しようはありません……」

 

そう医者は言い、その場から立ち上がり、天幕の外へと出て行った。

医者が天幕の外へ出てから少しして天幕の中から悲鳴のような泣き声が聞こえてきた。

 

泣き声は夜が明けるまでずっと続いていた。

 

 

 

 

 

胡軫達華雄隊は自分達が仕える董卓が治める涼州へと帰還し、董卓に華雄が戦死したことを伝えていた。

 

「華将軍が戦死!?」

 

「……っ!」

 

声を大きくあげたのは軍師の賈駆文和。

緑の髪をしたきついツリ目の少女だ。

そして声をあげずに手を口に当て、悲しみの表情を浮かべているのが董卓仲穎。

色白で銀色の髪をした儚げな少女、胡軫達の主だ。

 

董卓や賈駆もまだ信じられないのかそのまま黙り続けていた。

そこへ平伏していた胡軫が董卓に声をかける。

 

「恐れながら、このような時に言うべきことではありませんが宜しいでしょうか?」

 

胡軫は平伏したまま淡々と語りかけた。

 

「……何かしら?」

 

まだ答えられそうになり董卓に変わり、賈駆が答えた。

 

「私、文才めを亡き華将軍の後を継ぎ華雄隊の将として頂きたく!」

 

胡軫は平伏したまま顔を上げ、董卓を見つめた。

賈駆は思わず怒鳴りそうになったが胡軫の目を見て何もいえなくなってしまった。

自らの出世などではなく、あくまで華雄の後継ぎたい、そういう類の目であったからだ。

 

「……わかったわ。他に将もいないし、副将であったあなたが亡き華将軍の隊を引き継ぎなさい」

 

少し間を空けてから賈駆はそう告げ、董卓の方をチラリと見た。

これでいいわよね? と、そう告げるように見られた董卓はコクリと頷いた。

今の董卓軍にはあまり将は多くないのだ。

その中でも一番であった華雄が亡くなった今、華雄隊を率いれるものは副将であった胡軫くらいだろう。

 

「これで報告終わりよね? なら、今から引継ぎの……」

 

「お待ちください! まだ報告する事が御座います!」

 

賈駆の話を胡軫がさえぎる。

賈詡と董卓は声をさえぎって声をあげた胡軫に目を向けた。

そして少し間を空けてから胡軫は決意したかのような表情をして宣言した。

 

「これから私は名を改め、性を華、名を雄、字は無くし"華雄"と名乗ることをご報告致します!」

 

胡軫が告げた言葉に董卓と賈駆は驚愕した。

そして賈駆は胡軫が持つ武器に気づいた。

いつもの斧ではなく華雄が持っていた金剛爆斧を持参してきていることに。

最初は報告の時に一緒に盛ってきていたのかと思ったが、どうやらこれを宣言するために持ってきていたのだろう。

自身が"華雄"となるために。

 

「文才さんはそれで本当にいいのですか……?」

 

今まで黙っていた董卓が悲しそうな声で胡軫へ問いかける。

つまり胡軫は"華雄は死んでおらず、死んだのは副将であった胡軫だった"ということにするつもりなのだろう。

 

「文才ではありませぬ。胡軫は先程の戦で戦死致しました」

 

と、胡軫が告げたことでやはりそういうことかと董卓と賈駆は悲しげな顔をした。

対して胡軫は覇気溢れんばかりの表情をしており、もうこれは止められないのだろう。

董卓は悲しげな表情から一国の主としての顔へと切り替えた。

 

「わかりました。"華"将軍にはこれからも私達に力をお貸しください」

 

そう董卓が告げ、胡軫が手を顔の前で合わせ宣言した。

 

「はっ、こらからも一層仲穎様のお力になるよう励ませて頂きます!」

 

「そして私が、この"華雄"こそが最強であると証明してみせましょう!!!」

 

 

 

 

 

華雄は"華雄"になった時のことを思い出しながら門が開くのを待った。

華雄隊の誰もがまだかまだかと待っていた。

"華雄"が最強であることの証明。そして"華雄"が率いる部隊も最強である……と。

この日を彼らは待ち望んでいた。最強の証明をするために。

 

そしてついに汜水関の門が開かれた……!

 

連合軍は開いた門から出てきた部隊を見て思わずぎょっとした。

全員が鬼のような形相をしていたからである。

まだ軍としては若い劉備軍の兵達は思わず後ずさってしまうほどだ。

連合軍は華雄を馬鹿にしたから怒っているのだと思っていた。

だが、怒りだけでは、憎悪だけではこうはなるまい。

そして鬼の軍団の先頭にいる一人の大男が大きな声で名乗りを上げた。

 

「我が名は"華雄"!! 帝にさらかう逆賊共め! 我等が貴様らを討ち倒してくれる!!!」

 

「華雄隊……突撃ぃい!!!」

 

華雄の声により華雄隊による突撃開始された。

 

これは華雄が"華雄"として歴史にその名を残す始まりの戦いである。

 




はじめまして。はぶーという読み専です。
前々からSSというものを書いてみたいと思ってたんですが、文章力うんぬんよりも根本的に文章量書くのって大変ですね。

今回のSSはそもそも華雄を主人公にしたSSが読みたいなぁと思って、ないから自分で考えてみよう、気づいたら胡軫というおっさんが主人公という感じです。
一応主人公は"華雄"なんですが……まあ華雄ファンには本当すみませんw
ちなみに胡軫さんは演義では華雄さんの副将です。正史では華雄さんの上司ですよ上司!なんせ字がちゃんと歴史に残ってるくらいですからねw

今回短編で投稿したのは、単純に1話分書けてしまったというのと、まだプロットが最後まで出来上がっていないので下手に連載してエタりたくなかったので短編と致しました。
エタるくらいなら書くなというのが自身のモットーなので最悪でも連載するとしたらプロットが出来上がってからになると思います。

初めてのSS投稿なのでくそつまんねーとかおっさんの絡み合いはまだなの?とかでもいいので感想もらえると嬉しいです。


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