「行け!そこだ!」
「おう!!」
今日も練習に精が出る。当然といえば当然か。準決勝を控えているのだからな。次の準決勝に勝つことが出来れば、決勝進出・・・つまり、日本一はすぐそこという訳だ。
思いもしなかったな・・・自分と仲間達が日本一に立つ日が来るかもしれないなんて。けれど、今のこの仲間達とならそれも夢ではないと思える。
本当に、俺はいい仲間に会えたもんだ。
そんな思いを抱きながらボールの行く先に目をやる。染岡が放ったドラゴンクラッシュを守が熱血パンチで弾く。ボールはラインの外へと転がっていく。
そのボールの先には・・・見知らぬナイスガイ。誰だあいつ。
「おーい!ボール取ってくれよ!」
入部希望者か?
なんて思ってると、ドリブルしながらこっちにやってきた。なんだ、サッカー経験者か?
しかもやたらと上手いな。立ちはだかった半田と栗松を抜いてみせたぞ。
次第に注目はその男へ向けられる。
守が打ってこい、と言ったら男は地に手をつき、逆立ちの要領で回転し始めた。周りの空気を巻き込みながら回転の勢いは増していき、やがてボールを蹴り込む。
そのシュートに並々ならぬ力を感じたのか、守はゴッドハンドで対応する。
少し後ずさりしつつも止める。うちのGK様はそう簡単にゴールを割らせてはくれないぜ、ナイスガイさん。
いてもたってもいられないと言った様子で守が話しかけに行く。何でも、アメリカでサッカーをやっているそうな。
日本にいる友達に会いにここに来たら、サッカーしていていたから混ざってみたと。
「で、その友達ってのは?」
「いやー、早い便が取れたから早めに来て驚かせてやろうと思ったんだけど・・・すれ違ったみたいだ。あはは・・・」
「・・・その友達、キレないといいな。」
せっかく迎えに行ったのに早い飛行機で来ましたーあははーなんて言ったら、1発殴られてもおかしくは無いからな。
しかし、友人ねえ。確か、秋と土門が練習の最初は抜け出させて欲しいなんて言ってたのも友人と会うため、なんて言ってたけど・・・もしかして?
皆がナイスガイをもみくちゃにしていると、校門から秋と土門が顔を出す。
するとナイスガイは飛び出し、秋に抱き着いた。
情熱的だねえ・・・じゃなかった。ということはやはり・・・?
「一ノ瀬くん!?」
「久しぶり、秋、土門!」
名を一之瀬一哉。俺の推測通り、やはり2人の言ってたやつはこいつらしいな。
思い出話に耽ける3人を横に、俺達は練習再開する。
次の相手はまだ決まってなかったはずだが、確か上がってくる可能性がある学校の片方は修也が前いた木戸川清修だったはず。
前の仲間達が敵として立ちはだかることに、きっと修也なら臆することなく立ち向かうんだろうな。あいつはそういう男だ。
「おーい、俺も混ぜてくれよ!」
「もちろん!」
話を終えたのか一之瀬と土門が練習に混ざってくる。秋一人放ったらかしでいいのか?と思い秋に目線をやると、どこか幸せそうに笑みを浮かべているのできっと大丈夫なのだろうと確信してボールに向かう。
駆け上がる一之瀬に前にたちはだかる。すると一之瀬はヒールリフトを上げてくる。それを読んで飛び上がったが、何とボールの軌道が急に変わり、抜かれてしまう。
俺が出来ないヒールリフトをやって見せた上にヒールで回転を・・・やるな。技巧派って訳だ。鬼道にも引けを取らない。もしかしたら鬼道以上かもな。
今度は守とPK対決を始める。一之瀬はゴールポストギリギリを狙ってシュート。守は追いつけずゴールを許す。
「凄いっス。あんなギリギリに!」
「ああ・・・俺や修也とは違う方向性だな。」
本当に凄いやつだな。テクニックだけならこのチームで勝てるやつはいないだろう。
1時間くらいそうしていただろうか。すると唐突に一之瀬が守に提案をする。
「やりたいことがあるんだ。協力してれないか?円堂、土門!」
「お前まさか・・・トライペガサスをやるつもりか?」
噂のトライペガサスか。千羽山の無限の壁を破る時に出てきた3人連携の必殺技。
それを再現しようと試みるとはな。まあ、もしかしたら今後の役に立つかもしれないし良いか。問題は主軸となる一之瀬はいなくなる事だが。
何時間もその練習をしていたが、全然成功の兆しは見えないようだ。
何でも、トライペガサスは同時に3人が交差した一点にエネルギーが集中し、そのボールを打ち出す技。今の状態は一点に交差出来ておらず、三角形のような形になっているそうな。
なるほど・・・なかなか難しいんだな。
そしてまた3人は一点に向かって走り出す。すると!
「・・・おお。」
一瞬だが、ボールを中心にパワーが集まり、蒼いペガサスのような形を作った。上昇の後霧散してしまったが、凄いパワーがこっちまで伝わってきた・・・確かにこれなら無限の壁ですら破れそうだ。
この失敗でも諦めず、3人は何度も何度も挑戦する。
一之瀬は守と似ているな。諦めが悪くて熱いやつだ。
こんなやつとサッカー出来れば・・・もっと楽しいだろうな。
「一之瀬!今日俺ん家に来いよ!」
「良いのかい?じゃあお邪魔するよ。」
守が一之瀬を家に呼ぶらしい。それにあやかって何人かも守の家に。俺も行こうかと思ったんだが──
「柊弥先輩!今日この後空いてますか?」
「ああ、特にないぞ。」
「そうですか・・・じゃあ、一緒にご飯行きませんか?」
春奈に誘われたのだ。
一之瀬と話をしてみたいが、明日も来るらしいしその時でもいいだろう。
女の子と2人で出掛けることに少し抵抗がないわけではないが・・・まあ、春奈なら悪い気はしないな。
という訳で俺は春奈と一緒に行くことにした。
「・・・ん?どうした鬼道。」
「・・・よろしく頼む。」
「何が?あ、おい待てって・・・」
唐突に肩に手を置かれて鬼道にそう言われる。なんの事かと聞き返したが無視された。・・・なんだあいつ。
「それにしても、一之瀬さんは凄かったですね!皆驚いてましたもん。」
「ああ。俺も驚いたよ・・・急にあんなやつがやってくるなんてなあ。贅沢言えば、俺達と一緒にサッカーしてくれないかなあなんてな。」
「あはは、それは難しいんじゃないですか?ほら、アメリカでもサッカーチームに所属しているって言ってましたし・・・」
やってきたのは学生のお財布にも優しい某ファミレスだ。
春奈と2人でこうして楽しく話すのは初めてだが、案外話が弾むものだ。
学年も1つ違うし、何より性別の壁が・・・なんて思ったが、杞憂だったようだ。
「それにしても、今日はなんで誘ってくれたんだ?」
「え!それは、その・・・」
ふと疑問に思って訊ねる。
いやだって、よく考えたら結構急だったしな。
「その・・・なんとなくです。はい。」
「あ、なんとなくか。なら仕方ないな。」
「はい・・・嫌でしたか?」
なんて不安気に聞き返してくる。
・・・まずい、もし万が一泣かせでもしたら鬼道に合わせる顔がない。よろしく頼むってそういうことかよ!?
「いや、むしろ嬉しいぞ・・・うん。」
「そうですか!なら良かったです!!」
先程までのはどこいった?いや、春奈は笑っている方が似合ってるからこれで良いんだが。
「すごい話は変わるんですけど、柊弥先輩って好きな人とかいないんですか?」
「ほんとにすごい変わったな・・・いないぞ?特には。」
「でもでも、結構学校でモテモテですよね。聞きましたよ?この前も1年生のマドンナって言われてる子に告白されたとか!」
「あの子ね・・・確かに可愛いとは思うけど、初対面だったしなあ・・・」
なんてことを洗いざらい聞かれた。
「じゃあ・・・どんな人が好きとか、ありますか?」
「そうだなあ・・・笑顔が素敵で、一緒にいて楽しい人なんかがいいな。春奈みたいな。」
「私ですか!?」
と言うと、急に顔を真っ赤にして固まってしまう。
数秒後、我に返ったように話し始める。
「わ、私なんか柊弥先輩には勿体ないですよ?」
「そう自分を卑下するなよ。春奈は十分魅力的だぞ。」
「─────ッ、も、もうお会計しましょうか!長居しちゃ悪いですし!!」
「・・・?あ、ああ。それもそうだな。」
唐突にここを出ることを促してくる。
一体、どうしたというのだろうか。
「今日は急に誘ったのにありがとうございました!楽しかったです!」
「いえいえ、俺も楽しかったよ。ありがとう。」
「それじゃ、また明日からも練習頑張りましょうね!あ、あと・・・」
別れ際、春奈が寄ってきて耳元で囁く。
「あんなこと言うから、私本気になっちゃいましたから・・・覚悟しておいてくださいね。」
「・・・あんなことって?」
「ふふっ、おやすみなさい!」
と言って家の中に入ってしまう。
あんなこと言った、本気になった・・・さてなんのことだろうか。後者は全く分からない。
前者は・・・もしかして。
やばい、俺結構恥ずかしいこと言ってた・・・?うわあ最悪だ・・・春奈に引かれてたらどうしよう。
でもって、それを踏まえると本気になったってことは・・・?途中の恋愛事情を洗いざらい炙り出されたのを加味すると、自然とその答えが見えてきてしまう気がする。
・・・やめよう、自意識過剰は良くない。変な気になって空振りしたらもっと恥ずかしいことになる。うん。
翌日、また一之瀬達はトライペガサスの練習に励む。昨日よりはペガサスも鮮明になってきたのだが・・・上手くエネルギーとしての形を保てていないな。途中でエネルギーが発散されてしまっている。
すると、秋が唐突に交差する点の近くに立つと言い出す。
危ない、と止める1年達。
が、一之瀬と土門、それにもう1人がその方法で成功させたということを聞いて実行を決意する。
・・・失敗したら、確かに秋が危ないな。
「皆、万が一に備えておこう。」
と言うと、皆救急箱や担架を持ってくる。準備がいいな。
1年達に至っては秋の盾になろうとしている。健気だねえ・・・
「よし、いくぞ!」
秋が立つ一点に向かって走り出す。
さあ、どうなる・・・?
「いっ、けえええええええ!!」
3人は同じスピードで一点を通り過ぎた。
すると、先程とは比べ物にならないエネルギーが巻き起こりペガサスが顕現する。
その際、1年達が秋の前に立って文字通り盾となった。ナイス。
そして3人は飛び上がり、凄まじいエネルギーを秘めたボールを同時にキック。
ペガサスはゴールへと突き刺さった。
「やったああああ!!成功だああああ!!」
ガッツポーズで喜ぶ守。一之瀬と土門、秋も一緒になって喜ぶ。
1年達、そして俺達が万が一に備え、応援してくれていたことに守が気付き、涙を流しながら感謝を述べてくる。全く、暑苦しいやつだよ・・・それがいい所でもあるんだけどな。
「それじゃあね、皆。」
「おう、またサッカーしような!一之瀬!」
一之瀬は帰りの飛行機に乗るため雷門を去っていってしまった。
もう少し色んな話をしてみたかったな・・・アメリカのサッカーチームの話だとか。
まあ、仕方ないか・・・
「・・・加賀美。」
「ん?なんだ鬼道。」
ものすごく神妙な顔つきで鬼道が話しかけてくる。
どうしたのお前、試合の時みたいな顔してるぞ・・・
「春奈を、妹をよろしく頼む・・・!!」
「・・・は?」
両肩に手を置いて、凄い力を込めてそう言ってくる。
おい、まさか・・・
「もしかして・・・春奈から聞いた?」
「・・・春奈は本気だ。どうかお前も、向き合ってやってくれ・・・!!」
そういって手に更に力を込めてくる。
痛い。とにかく痛い。
「・・・俺は春奈を悪いように思ってはいない。むしろ良く思っている。俺はこんな経験は初めてだから・・・どんな顔すればいいのか分からない。けど、真剣な思いには真剣に答えるよ・・・約束する。」
「ああ・・・もし真剣に向き合わず、春奈を泣かせるようなことがあったら・・・分かっているな。」
・・・お兄様、恐るべし。
けど、本当に春奈が俺に思いを寄せているだなんてな・・・何がきっかけだ?特に何も心当たりはないんだが・・・
考えても分からない。まずは・・・自分の心と向き合わなければ。
「──という訳で、今日からこのチームで皆とサッカーすることになりました、一之瀬一哉です!改めてよろしく!」
「・・・どういう訳だよ。」
えー、あれから数十分後。一之瀬が雷門に加入しました。
何でも、俺達とサッカーがしたくなったらしいです、はい。
じゃねーよおい。お前あっちの仲間はどうすんだよ、両親にはどう説明するんだよ。
「あ、それは大丈夫!ちゃんと電話で話したら分かってくれたから!」
「それでいいのか、お仲間とご両親・・・」
あまりの軽いノリに言葉を失う。
ま、まあ・・・図らずとも一之瀬ともっとサッカーしたいという願いが叶ったわけで、少なくとも俺らにマイナスはないから・・・むしろプラスだ。
「皆さん!次の対戦相手が決まりました!」
春奈が走ってくる。さっき鬼道とあんな話をした手前だから結構顔を直視しにくいんだが。
「本当か!それで、どこなんだ?」
「次の対戦校は・・・木戸川清修です!」
「木戸川清修って・・・」
と言って、目線が修也に集中する。
本当に上がってきたか、木戸川清修。
まあ、修也なら心配ないだろう。きっと。
【原作との相違点】
特になし
今回は一之瀬のくだりと柊弥が音無へ意識を向け始める話でしたね。
この小説のヒロインは音無で決定ですね。恋愛描写は難しいですけど頑張ります。
それともう1つ。皆様のご好意のおかげで評価バーが1段階大きくなりました。これって評価をつけられた数によって変わるんですね・・・
とまあ、今後も頑張らせていただきます。応援よろしくお願い致します!