瞳子が鳴らしたホイッスルと共に、違う色のユニフォームに身を包んだ雷門イレブンがボールへ向かっていく。
新たに吹雪を迎え、来たるジェミニストームとの再戦に備え、連携の確認に励む雷門。
が、そんな中でも一悶着があった。
「お前なあ!鬼道も一之瀬もこっちに回せって声掛けてんだろうが!」
「だって・・・僕いつもこうしてたし。」
「白恋じゃ通用してもうちじゃ通用しないんだよ!お前は雷門イレブンに入ったんだから、雷門のやり方に合わせろ!!」
「そんなこと急に言ったって・・・」
白恋は言ってしまえば吹雪のワンマンチーム。
控えめな性格のメンバーに囲まれていたが故に、吹雪の個人技が光るチームであった。
それが裏目に出てしまい、雷門に加入した今吹雪は"連携"という概念に戸惑いを覚えているのであった。
「やっぱり、こいつに加賀美と豪炎寺の代わりなんて・・・!」
「・・・それはどうかな。」
土門に抑えられながらも怒りを露わにする染岡の言葉を遮ったのは風丸だった。
「俺は吹雪に合わせてみるよ。俺には・・・あのスピードが必要なんだ。エイリア学園からボールを奪うにはな・・・そうでなきゃ、また前の繰り返しだ・・・」
悲痛な表情をでそう語る風丸。
風丸の脳裏に浮かぶのは2度に渡るジェミニストームとの試合。自分のスピードが相手に及ばなかったがために、目の前で大切な仲間が痛ぶられた。その光景に耐え難いものを風丸は感じていた。
「・・・だったら、風になればいいんだよ。」
「風・・・?」
「うん。おいで、見せてあげるから。」
その空気を払拭するように吹雪が口を開く。
そう言って吹雪が一同を案内したのは白恋中裏のゲレンデ。
そして吹雪に指示された白恋イレブンは、その背丈にも並ぶほどの巨大な雪玉を何個も携える。
「スノーボードか!」
「それでどうやって?」
「まあ見ててよ。雪が僕達を風にしてくれるんだ。」
姿を消したと思ったら、吹雪はスノーボードの用意に身を包んで再び姿を現した。
見ていろ、と言って間もなく。吹雪は勢いよく飛び出し、滑り落ち始める。
「皆!よろしく!」
スピードに乗り始めた吹雪は、傾斜の上で待機していた白恋イレブンに声を掛ける。
すると、白恋イレブンは用意しておいたその巨大な雪玉を滑る吹雪目掛けて転がす。
デフォルメ的なダンジョンのトラップのように吹雪に向かって転がる雪玉。円堂達は吹雪に心配の声を掛けるも、その心配とは裏腹に吹雪は迫る雪玉を舞うようにして回避する。
それを見た一同は、吹雪の動きに感嘆の声を漏らす。
「すげぇな、雪玉のメチャクチャな動きを完璧に見切ってるぜ。」
「吹雪君が言うには、速くなればなるほど感覚が研ぎ澄まされて、自分の周りのものがはっきり見えてくるんだって!」
それを聞いて雷門イレブンからは頷きの声が上がる。
やがて自分もやってみたい、という意識を持ち始める。
「ほお、大したものですね・・・」
「目金さん!前!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
傾斜を登ってきた雪玉が目金と栗松を巻き込み、再び転がり始めやがて傾斜に激突する。
その弾みに、木々に降り積もる雪が音を立てて落ちていく。
その音を聞いた吹雪は、昨日屋根から滑り降ちる雪の音を聞いた時のようにその場にうずくまる。
「吹雪!?大丈夫か!?」
「あ、うん・・・ごめんごめん。」
顔を真っ青にしながらも、駆け寄ってきた円堂にそう返す吹雪。
誤魔化すように立ち上がった吹雪は、スノーボードの用具を持ってきて試してみるように促す。
「それにしても、いつからこの特訓を?」
「特訓ってわけじゃないんだ。」
そう言って、吹雪は幼い頃を思い出す。
1人感傷に耽ける吹雪に向けてか、染岡が否定的な言葉を口にする。
「なんだ、結局遊びの延長じゃねぇか。俺達雷門イレブンの特訓は遊びとは違う!苦しい特訓を乗り越えて強くなることに意味があるんだ!」
「やっぱり、そういうの疲れるなあ。」
「何ィ!?」
「同じ特訓なら、楽しく力をつけたいな。」
吹雪のその言葉に一之瀬も後ろから同調する。
一之瀬が指さした先には、やる気に満ちた円堂がいた。
「俺、スノボ初めてなんだ!教えてくれ──ん?あ?うわあああ!?止めてくれえええ!」
勢いよく立ち上がり、吹雪に近づこうとしたその弾みにバランスを崩しそのまま滑り落ちてしまう。
その姿を見て他のメンバーも後に続く。
鬼道や塔子、一之瀬辺りは器用に乗りこなしてみせるが、円堂や壁山、栗松辺りはボードに遊ばれているようにも見える。
(見えない。スピードに慣れていないせいなのか・・・?)
1人滑る風丸。
風丸が思った通り、自分自身でそのスピードに対応出来ておらず、迫る雪玉と正面から衝突してしまう。
「くっそぉ!絶対に風になってやる!」
「キャプテン!楽しむんだよ。楽しめば、身体の方が着いてくるから!」
吹雪に倣ってスノーボードによりスピードを強化しようと試みる一同を、染岡は1人腑に落ちない表情で眺めていた。
「今日は助かったよ。吹雪と染岡がぶつかった時、お前吹雪に合わせるって言ってくれたろ?」
「ん?ああ、そうだな。」
凛々と煌めく星の元、キャラバンの上で円堂と風丸は2人並んで空を見上げていた。
「それで俺気付いたんだ。誰かに変われって言う前に、まず自分から変わらなきゃ強くなんかなれないってさ。」
「そうだな・・・なあ、円堂。」
「ん?」
「俺、力が欲しいんだ・・・神のアクアがあれば、すぐにパワーアップできるだろう?世界を救うためなら、使っても許されるんじゃないか?」
「何言ってるんだ!神のアクアなんかに頼っちゃダメだ!それじゃ影山と同じじゃないか!」
予想だにしなかった風丸の呟きに、思わず声を荒らげて否定する円堂。
「エイリア学園はサッカーで人を傷つける!だからこそ俺達は正々堂々戦って、絶対に勝たなきゃいけないんだ!!」
血迷ったのであろう友人の発言を、思いつく限りの言葉で取り消させようとする円堂。
それを聞くと、風丸はフッと笑みを浮かべて再び口を開く。
「・・・悪かった。何焦ってるのかなあ俺。忘れてくれ。」
「特訓特訓!なろうぜ、風に!」
立ち上がり、月を見上げる風丸。その背中を叩いて円堂は、後ろ向きな風丸の気持ちを少しでも押してやろうとする。
が、心の内にヒビが入り始めたのを、本人もその隣にいる者も気付けてはいなかった。
翌日、早朝から円堂と風丸はボード片手にゲレンデへ向かう。
その途中、雪の上を何かが滑る音を聞いた。誰だろうかと思い先を急ぐと、そこに居たのは昨日は取り組もうとしなかった染岡だった。
「染岡!」
「ん?おお。」
勢いのまま倒れ込んだ染岡の腕を引っ張りあげて立たせる円堂と風丸。
「あんなに吹雪に文句言ってたのに、どういう風の吹き回しだ?」
「身体の方から着いてくるって、あいつ言ってただろ?だからとにかくスピードに慣れようと思ってな。」
円堂達に背を向け、コースに目を向ける染岡。
「あいつには・・・吹雪には、絶対に負けられねえからな。」
染岡の目には、吹雪に対する嫌悪感と言うよりも闘争心が強く浮き出ていた。
それを感じ取って円堂、風丸は何も語らず染岡と共に位置に着く。
3人同時に滑り出す。冷たい風が頬を撫で、次第にそのスピードは増していく。
「うわっ!?」
迫る雪玉を避ける円堂。それを避けたらまた次の雪玉が迫ってくる。
それに対する回避は間に合わないと判断した円堂は、掌を雪玉に突きつける。
すると、ゴッドハンドに似たエネルギーが掌から放出され、襲い来る雪玉を粉々に砕いて見せた。
「円堂!どうした!?」
「今のは・・・初めての感触だ。今の腰のひねり、身体中にビシッと力が伝わった気がしたんだ!鬼道が全身のバランスが大切だって言ってたけど、この特訓は気を溜める特訓に役立ちそうだ!」
そう言ってまた滑り出す。時折、衝突されてはその仕返しに雪玉を投げあって。
その光景を、吹雪は誰にも気付かれずに眺めていた。
目の前の光景に、自身の記憶を照らし合わせて。
それからも特訓は続く。
吹雪の方法でスピードを磨き、実際にグラウンドで成果を確認し、その後はマネージャー陣の徹底した管理の元で食事をし、休息を摂る。
そのサイクルが徐々に雷門イレブンの力を伸ばして行った。
「皆、様になってきたんじゃない?」
「うん。想像以上だよ!」
休憩がてら瞳子とマネージャー達がいる場所へ滑り昇ってきた吹雪にそう声をかけた夏未。吹雪もそれに頷く。
「私も、彼らを率いてまだ日が浅いけど・・・彼らは打てば響く選手達よ。それも、こちらの予測を遥に上回ってね。」
そう横から言葉を零した瞳子。
最初は疑問を持っていた雷門イレブンの実力も、段々と認めつつあった。
そこに染岡がやってくる。
「吹雪、俺と勝負しようぜ。」
「勝負?」
「ああ。俺の特訓の成果を、お前相手に試そうと思ってな!」
その染岡の提案に、少し黙った後に口を開く。
「それは・・・どっちが雷門のエースストライカーか決める。ってことでいいのかな?」
「そう思ってくれていいぜ。」
そう言って染岡は戻っていく。
一通りの特訓を終えた後、グラウンドにて2人は向き合う。
「ルールは簡単。センターからボールを蹴りあって、先にゴールを決めた方の勝ちだ!それじゃ始めるぞ?」
他のメンバーが見守る中、円堂の合図で2人は動き出す。
先にボールを取ったのは吹雪。流石とも言えるそのスピードですぐさま奪った。
だが染岡も負けていない。必死に食らいつき、どれだけ避けられようとも諦めずに立ち向かう。自分の中の意地にかけて。
激しいボールの奪い合い。
それを制して染岡がボールを奪い、ゴールへ向かっていく。
「やるじゃねぇか!ちょっと嘗めてたぜ・・・こうじゃなきゃ面白くねェ!」
目をギラつかせた吹雪が猛スピードで染岡の背後に着く。
吹雪の激しいチャージを耐え忍びながら、染岡はゴール目掛けてシュート。が、捉えたのはゴールポスト。
弾かれたボールを吹雪が奪う。そのままシュートの構えを摂るが──
「──ッ!?」
──そのボールが蹴られることは無かった。
吹雪の目に映ったのは、染岡の背後にいた小さなリス。
このまま撃ち込めば、そのリスが危険な目に合うことは目に見えていた。
それを瞬時に判断し、シュートを躊躇う。その隙に染岡がボールを奪う。
「もらったッ!!」
撃ち出されたシュート。
染岡の想いに呼応してか、そのボールには蒼く輝くエネルギーが点っていた。
それを染岡本人も、ギャラリーも見逃していなかった。
吹雪に追いつけたこと、さっきのシュートのパワー。特訓の成果を自覚できないわけがなかった。
「今日は僕の負けだね。」
そう吹雪は、リスと目を合わせながら呟く。
確かな成長に打ち震える雷門イレブン。今ならば戦える・・・そんな自信が根付き始めた。
その翌日、雷門イレブンはいつものようにグラウンドで練習に励んでいた。
その時だった。
グラウンドは突如暗雲に包まれ、不穏な空気が漂い始めた。
「・・・来たか。」
雷門イレブンは確信とともに視線を移す。
そこに居たのはエイリア学園、ジェミニストーム。
3度目の対決が今始まろうとしていた。
「さて、どうかな?」
そう呟いて、隠し扉のロックを外し中に入る。
目の前に広がるのは何やらメルヘンチックな落書き。
・・・明らかに誰かの所有物だって分かるのに、こんな改装するものなんだね。
まあいい、さて。彼はどこに・・・
「あ、いたいた。」
「・・・グラン。」
彼は、水溜まりが作れるほどの汗を撒き散らしながら鎮座していた。
彼を迎え入れて約1週間。エイリア学園としての実力には到達していなかった彼にこの修練場にて特訓を積ませ、時折俺が相手することで実力向上を図った。
はっきり言って、期待以上だった。
驚異的な成長スピードでその実力を伸ばし、今やジェミニストームのメンバーよりも仕上がっているだろう。
・・・しかもエイリア石なしで、ね。
そう、彼にはエイリア石を使わせずに特訓させ、俺達マスターランクと同じ次元まで登ってきてもらうつもりだ。
お膳立てはもうしてある。後は彼がどこまで成長するかだね。
「さ、見てあげるよ・・・おいで。」
ボールを彼に向かって蹴り渡す。
普通のサッカーボールではなく、俺達エイリア学園が使う黒いサッカーボールを。
彼はそれを簡単に胸で受け止める。
最初は持ち上げることすらままならなかったのにね。
そしてそのボールを蹴り返してくる。
シュートの威力も申し分無しだ。
「よっ、と。」
「行くぞ。」
そう言って彼は雷鳴の如くこちらに向かってくる。
パワー、スピード、テクニック。全てが見違えるほどに向上している。
ある程度加減して対応していると、簡単にボールを奪われてしまった。
そしてそのまま俺を追い抜き、ゴールへ向かっていく。
ボールに回転を掛けると、その回転の勢いがどんどん強くなっていくと同時に、ボールが雷を纏い始める。
凄まじいエネルギーを感じさせるそのボールに蹴り込むと、轟音と共にゴールネットが揺らされる。
流石、と言うべきか。
「いい仕上がりだね。じゃあそろそろ・・・実戦といこうか。」
そう言って空間に映像を映し出す。
そこに映っているのは、
「レーゼに話は通してあるよ。存分に試しておいで。」
「了解。」
「ああそうそう。必殺技は新しいやつだけ使ってね。」
バレたら何かと困るかもしれないからね。
少なくとも、今はバレていい時期じゃない。
黒のサッカーボールを手に取り、光に包まれていく。
「行ってらっしゃい───ネビュラ。」
ネビュラは、目元の黒い機械の中心に埋まる紅を煌めかせながら光に包まれ、姿を消した。
さて、どうなるかな・・・?
【原作との相違点】
特になし
吹雪との特訓を終え、ジェミニストームと3度目の対決に臨む雷門イレブン。
そしてその影で蠢く怪しい影・・・
ちょっと強くしすぎなのでは、と思われるかもしれないですが、誘拐されてからジェミニとの3戦目までマスターランクキャプテンの元みっちり特訓したらこの位が妥当なのかなあ・・・と。
次回、ジェミニストーム前半戦です。